2008/4/14


9     8章  PROFESSION〜告白〜
更新日時:
H18年2月5日(日)
3人の話し声が聞こえた。
でも、ただ聞こえるだけ。
何を話しているのか、誰がいるのか・・・。
何も認識できなければ、何も考えられなかった。
ただ、今私が感じているのは、私を抱きしめてくれているこの腕が、とても温かい事。
触れている私の耳から、彼の鼓動が聞こえると、一人じゃないんだと、安心できた事。
今の私には、それしか、わからなかった。
というよりは・・・それしか、わかりたくなかった。
 
「それでは、わたくしはこれで。
もし何かありましたら、いつでも先ほどの、王座にいらしてください。
あそこからしか、藍瑠(アイル)さまのお部屋に入る事ができないため、私はいつも王座で、藍瑠(アイル)さまを守るべく、警護をしておりますので・・・。」
 
「ああ、わかった。」
 
サンガがそう言葉を発すると、彼の胸とくっついている私の顔も少し動いた。
それに、気付いたサンガは、「悪い。」と私の髪を優しくなでる。
 
「サンガ・・・ごめんね。」
 
私は、とても弱々しい声でそう口にした。
私はいつもいつも、サンガを利用してる。
蒼輝との事で、気持ちがめいってしまった時、いつもサンガが私をなぐさめてくれて、私を復活させてくれる。
彼のその優しさに、頼りすぎている自分が・・・今は、許せなかった。
でも、私にはどうしたらいいのか・・・。
止まっていた涙が、また溢れそうになった。
 
「俺は、全然、迷惑なんて思ってないから。」
 
サンガはそういうと、少し流れ出した私の涙を、ユックリと指でぬぐう。
 
「むしろ俺は、ホッとしてるんだよ。」
 
それには、「ん?」と聞き返す私。
 
「俺、あのまま翠が、元の世界に戻っちまうんじゃないかと思ったんだ。
だけど、翠は戻らなかった。
それは、たぶん翠が心の奥で、絶対に戻らないって強く思ってるから。
そして、なんとかここに踏みとどまっていられるのは、俺が役に立ってる。
俺は、そう思ってるんだ。
今、翠がここに居る為には、俺が要る。
翠に必要とされてる。
それが、俺にとって、どれだけうれしい事か!
だから、何も、気にしなくていいよ。」
 
そして、サンガは、私をまた強く抱きしめる。
 
「考えたくなかったら、何も考えなくていい。
青鳥国(セイチョウコク)でやらなきゃいけないことは、俺がちゃんとやるから。
翠は、何も心配しなくていいからな。
こうやって、俺の側にいたらいい。」
 
サンガのその底知れない優しさが・・・今の私には強いエネルギーとなっていた。
サンガの言った通り、今、私がこの世界に居れるのは、きっとサンガがいてくれるから。
いっそう、サンガの事を好きになれたら・・・。
私は、きっと幸せになれるだろう。
そう・・・幸せになるために・・・サンガの事を好きになろう!
私は、そう自分に言い聞かせてみる。
言い聞かせてみるけど・・・やっぱりダメだと知る。
私が、チナリさんの身代わりだったと知った今でも、私の心は蒼輝を求めてる。
真相を聞くのが恐いけど、私の胸を支配して、私を苦しめているこのモヤモヤを、蒼輝に早く否定してほしい。
すべて嘘なんだと、蒼輝が言ってくれたら、私は素直に聞ける。
だけど・・・。
自分から、彼に聞き出す勇気はない。
だって、そうだと、認められたら・・・って思ったら、そんな勇気、出るわけがないじゃない!
頭も心も蒼輝の事ばっかり考えているのに、今の私ときたら・・・サンガに抱きしめてもらってるんだもんね。
サンガが、私を想ってくれてるって知ってて・・・私は彼に頼ってる。
そんな自分を、やっぱり最低と思ってしまって、私の気持ちは、色んな思いで、がんじがらめになった。
 
私は一体・・・どうしたらいいの?
 
何度、そんな言葉を自分に問いかけたらしれない。
でも、答えなんて出るわけがない。
この答えを出してくれるのは・・・唯一、『あの人』だけだもん。
そして、その答えをいつも、私の心に語りかけてくれていた『あの人』だけど・・・今は、その声は聞こえない。
どれだけ心の中で強く問いかけてみても、『あの人』の声も答えも返ってはこなかった。
私の心が、どんどん冷たくなっていくのがわかった。
 
このままだと、私・・・そのうち、ここに居る事も嫌になっちゃう。
そしたら、向こうの世界に帰っちゃうよ。
でも、それだけは、絶対に避けなければいけない。
今回は、ちゃんと残された時間を全(マット)うしなきゃ!
 
私は、どうするべきか必死で考えた。
考えて考えて・・・出た答えは・・・。
 
「サンガ・・・。」
 
ボソっとつぶやいた私の声に、サンガはすぐに反応する。
 
「どうかしたか?」
 
「私・・・帰りたい。」
 
その言葉にサンガは、「おいっ、待てよ!!」と急にあせりだし、私の両肩をつかむ。
そして、私の顔をしっかりとみつめる。
 
「翠!待て。ここに居てくれ。元の世界に戻ろうなんて、思わないでくれ!!」
 
真剣にいうサンガに、私はたまらず・・・。
 
「そうじゃないよ。」
 
と笑って言っちゃう。
 
「へっ?」
 
と気の抜けた返事をするサンガに、
 
「元の世界に帰りたいんじゃないの。
緑豹国に帰りたいの。」
 
それには、「な・・・ん・・・で?」と、さっぱり意味がわからない。といった口調でサンガは聞いてくる。
 
「これから、どうしたらいいのか・・・ヒビキさんに聞きたいから。」
 
「どういう事?蒼輝に逢いたいじゃなくて・・・・ヒビキ?」
 
私はうなずくと、自分の心の中にある、ヒビキさんへの思いを語った。
 
「私がね、初めてこの世界に来た時って、すごく取り乱したの。
目が開けれなくて、真っ暗闇で、大パニックだったんだー。
その時に、ヒビキさんが私に言ってくれたの。
『落ち着いて。』って・・・。
それから私は落ち着いて、『先』に進めるようになった。
そして、蒼輝に逢えて、この世界の事を知った。
私は、他にもたくさんヒビキさんの心の声や、助言に助けられてきた。
ヒビキさんの導きがあったから、私は今までここに居れた気がするの。
今、ヒビキさんの声が聞こえなくて・・・心が空っぽで・・・耐えられない。
あれだけ、心の中覗かれるのが嫌だったのに・・・。
今になって気づいた。
全然違う世界で、蒼輝がいなくても、私が生きてこれたのは、ヒビキさんが居たから。
いつも、私をひっぱってくれたり、どんな私の些細な声でも聞き逃さずに、答えて受け止めてくれていたから・・・。
だから、ヒビキさんに、これから私はどうしたらいいのか、聞きたいの。
今すぐにでも、緑豹国に戻りたい。」
 
私の思いが通じたのか、サンガは、「わかった。」と笑顔で答える。
そのあと、「でも・・・。」というと、私の頭をなでながら、まるで言い聞かすように言う。
 
「今は、もう外は真っ暗だ。
俺たちが来た、地下水路の通路も真っ暗だろう。
なれない所だけに、危険だ。
明日の朝、ここを出よう。
それまでは、俺で我慢してくれ。」
 
サンガはそういうと、また私を抱きしめる。
 
「サンガ・・・ありがとね。」
 
私はそういって、彼の胸に自分の顔を、うずめた。
 
 
 
「翠っ!どこにいる!翠っ!!」
 
部屋の扉を勢いよく開けて、部屋に飛び込んできた蒼輝。
そして、入るなり大声で、そう何度も叫びまくる。
私の名前を何度も何度も呼ぶ。
蒼輝が、ここにいる。
そう思ったら、急に恐くなった。
私は、耐え切れなくなって、両手で両耳をふさいだ。
 
「翠・・・大丈夫だから。」
 
サンガがそういって、私を抱いている腕に、さらに力を入れた時だった。
 
「す・・・い?」
 
サンガの腕の中にスッポリ入って、縮こまって耳を塞いでいる私をみて、蒼輝はまずそういった。
私は、恐くて蒼輝から目を離した。
姿も声も、今は見たくもなければ、聞きたくもなかったから。
私が、完全に蒼輝を拒絶していると、すぐにわかった蒼輝は、
 
「一体・・・・何があったんだ?」
 
とサンガに聞く。
だけど、サンガは答えずに、いきなり本題に入った。
 
「俺と翠は、夜が明けたら、ここを出る。」
 
「えっ?」
 
と聞き返す蒼輝に、サンガは淡々とした口調で続けた。
 
「先に、緑豹国に戻るよ。
ここで、やらなきゃいけないことは、緑の豹である蒼輝。
お前だけ居れば、充分だろ?
トーワは、ここに置いて行くから。」
 
どんどん話を進めるサンガにもちろん蒼輝は、「おいっ!ちょっと、待て!」と話を止める。
 
「お前の言ってる意味が、サッパリわからねぇー。」
 
さすがの蒼輝もかなり動揺している様子で、彼には珍しく、アタフタしていた。
その様子は、見なくてもわかった。
閉じている耳から、わずかに聞こえる蒼輝の声質で、それがわかった。
というか・・・わずかな声でそれがわかる、自分が嫌になったりした。
 
「そもそも、なんで翠がお前に、抱きしめられてるんだ!
翠が、倒れたって、あの雅って奴に聞いて俺は、急いでここへ来たんだ。
てっきりベッドに寝てるのかと思えば、サンガが抱きしめてて。
それだけでも、わけわかんねぇーのに、今度は、緑豹国に二人で戻るだぁ?
頼むから、順を追って、話してくれ!」
 
すると、サンガは私が抑えている両手を離すと、私に声をかけてきた。
 
「翠、ちょっと蒼輝と外で話してくる。
ここには、トーワにいてもらうから、安心しろ。」
 
サンガはそういって、トーワくんを呼びつけると、私の側に座って、私を見ているように命令した。
トーワくんは、素直に、「はぁーい。」と言って、私の足元に腰をおろして、座った。
トーワくんの背中をなでていると、なんか心がなごんだ。
落ち着いている私の様子を見て、ホッとしたサンガは、立ち上がると、蒼輝がいるところへ向かって歩いていった。
 
 
 
 
サンガが、一歩一歩俺に近付いてくる。
俺の目の前で止まるのかと思ったけど、すれ違いざまに、俺の腕をつかむと、「外で、話そう。」というと、俺を部屋の外へと連れ出した。
バタンと扉が閉まる音が、廊下中に響き渡った。
 
「それで?一体、何があったんだ。」
 
さっさと訳が知りたい俺は、半ばイライラしながら、サンガにそう切り出した。
すると、サンガが話し出した事とは・・・。
 
「お前と、チナリって女豹との関係を、翠が知っちまった。」
 
「へっ?」
 
としか、言いようがない。
俺とチナリの関係って?
 
「翠は、知ってるよ。
俺と、チナリが兄妹だって事。」
 
「まだ、そんな嘘、言ってるのかよ!」
 
とサンガはうんざりした顔で、そう俺に怒り出す。
なんか・・・腹が立ってきた。
完全に、イライラした俺は、「あー!!もう!!」と叫ぶと、機関銃のように、サンガに一気に言葉を発射した。
 
「俺は、ヒビキみたいに頭がよくねぇーんだよ。
そんなグダグダ言われても、わかんねぇー。
ハッキリ、言ってくれ。」
 
俺は、余裕がなかった。
だって、さっき翠は・・・俺を、ただの一度も見なかった。
俺の声を聞きたくなかったのか、耳を塞ぎ、そして、俺を見ずに、サンガに抱かれてた。
そんな翠の姿を見せられて、冷静でいられるわけないだろ!
早く、何があったのか、理由が聞きたい。
チンタラ推理なんて、やってられるかっ!!
 
「おいっ!サンガ!!」
 
さらに、催促する俺に、サンガは、「わかった。」とため息交じりにそういうと、降参する。
 
「お前が、あの藍瑠(アイル)っていう姫さんを見て様子がおかしくなっただろう。
それで、何だったんだろう。と話してて、トーワが言ったんだ。
あの藍瑠(アイル)って姫さんが、チナリにうりふたつだって事。
それから・・・。」
 
そういって、言うのを止めたサンガに、「なんだよ!!」と突っかかる俺。
いいにくそうに、サンガは口にした。
 
「蒼輝と、チナリが、緑豹国のみんなが認める中だったって事。」
 
それって・・・・。
 
「まさか・・・。」
 
と口にした俺に、「その、まさかだよ。」とサンガは言うと、俺が一番恐れていた事を言った。
 
「お前とチナリが、婚約していた事を、翠が知った。
自分は、チナリの身代わりに過ぎない。
蒼輝が愛してくれているのは、自分が最後の女豹だからなんだって・・・。
翠は、泣きながら何度もそう言ってた。
そして、俺に言ったよ。
『助けて。』ってな。」
 
それは、俺が一番恐れていた事だった。
チナリとの『本当』の関係を、翠に言わなかったのは、翠が「自分はチナリの身代わりだ」と思ってしまうって思ったから。
チナリの身代わりなんて・・・あるはずがない。
俺は、本気で翠を・・・。
けど、翠は、そう思ってしまったんだよな・・・。
さすがに、ショックを受けた俺は、体の力が少し抜けてしまって、たまらず後ろにあった壁にドンと背中をぶつけて、もたれる。
真実を知った時の翠のショックと、今、翠がどんな気持ちでいるかを考えれば考えるほど・・・俺の頭は、混乱して、サンガにも何もいえなくなってしまった。
そんな俺に、サンガは口を開く。
 
「翠の中で、たぶん、元の世界に戻らない。って、強い思いがあるんだろうな。
例え、緑の力が、お前の中に入っていたとしても、彼女の強く念じる力は、多少は彼女の中に残っているのかもしれない。
彼女のその思いが、彼女のズダボロになった心を、なんとかこの世界に踏みとどまらせているんだと思う。
ギリギリの所でな。
彼女が戻らなくて、ホントによかったと、思ってる。」
 
確かに・・・・。
いつもの翠なら、こんなに強いショックを受けたら、間違えなく、元の世界に戻っていただろう。
今、ここにいるだけでも・・・奇跡。
その奇跡に、満足していていいのか・・・?
 
そんな事を考えながら・・・俺は、一つの疑問を感じた。
 
そうだ。
今の翠は、どうしようもなく、不安でいっぱいのはずだ。
何より、俺に真実を聞きたいだろうし、自分の気持ちもぶつけたいはず。
いつもの翠なら、そうするはずだ。
なのに、アイツは・・・。
 
「なー、サンガ?」
 
俺の呼びかけに、「あぁ?」とサンガは返事をする。
 
「なんで、翠は、緑豹国に戻りたがってるんだ?」
 
それには、サンガは即答する。
 
「ヒビキに逢いたいんだって。
アイツに、これからどうしたらいいか、聞きたいって言ってた。」
 
「そっか・・・・。」
 
俺は、それを聞いて納得した。
翠が、どうして緑豹国に戻りたがっていたのか。
今の翠は・・・俺に真実を聞くのが恐いんだ。
俺に、決定的な言葉を告げられて、それで心が修復できないくらいに、傷ついて、元の世界に帰ってしまったら!って・・・翠は、思い悩んでるんだ。
だから、俺じゃなくて、ヒビキに真実を聞き、そしてどうすべきかを聞こうとしてる。
それを、理解した時、俺は、翠にひどい傷をつけてしまった事を知った。
翠を、もう泣かさない。って決めたのに、俺は翠をまた傷つけてしまった。
今の俺が、翠に出来る事は、翠がしたいように、してやることなのかもしれない。
ヒビキに逢いたいというのなら、ヒビキに逢わしてやって、翠がこれ以上傷つかなくて済む方法を、とってやる方がいいに決まってる。
そんな事・・・頭ではわかってるんだ。
でも・・・俺の心が、そうはいわない。
そんな利口な心では、ないんだ。
 
「俺・・・部屋、戻るわ。」
 
俺は、『ある事』を胸に抱きながら、サンガにそう言うと、自分の部屋に向かって歩きかけた。
もちろん、「ち、ちょっと待てよ!!」とサンガは、止める。
さらに、少し歩き出した俺の肩をグイと引っ張り、
 
「お前、正気か?」
 
とまで、言ってくる。
 
「何がっ!」
 
と言いながら、サンガをにらむ俺に、「何がじゃねぇーだろ!」と今度は、サンガににらまれた・・・というより、怒鳴られた。
 
「明日、俺たちは帰るんだぞ。
その前に、翠に、ちゃんと、お前とチナリの本当の関係を、説明してやれよ!
翠だって、抵抗はしてるけど、本当は聞きたくて、知りたくてたまらないんだよ。
翠を、不安なまま、緑豹国へ帰らすなよ。
これは、お前と翠の問題だろ?
ヒビキに真実を告げてもらっても、ヒビキに心が和む言葉を言ってもらっても、本当の意味で、翠は救われない。
どんな残酷な言葉でも、お前が言った言葉だったら、翠は救われるんだよ。
わかるだろ?」
 
ホント・・・サンガはすごい。
コイツは、いつも俺が、不安になっている時、『その答え』をくれる。
森で、翠を手放そうとした時も、コイツがそれは間違っていると教えてくれた。
そして、今も・・・。
俺は、『ある事』をしようと、心に決めていた。
でも、心のどこかで不安だったんだ。
これをして、今の翠の気持ちを悪化させてしまったら、どうしようって・・・。
でも、サンガの言葉をもらって、間違ってない!って思ったよ。
俺にとっても、翠にとっても、今から俺がやろうとしている『ある事』は、プラスになるって。
そう思えた。
だから、今の俺には、ここにはもう用はないんだ。
 
気持ちが決まった俺は、早くこの場から離れたくて、サンガに言われた言葉の答えを、悪いと思いながらも、簡単に答えた。
 
「いや・・・。
今は、逢わない方がいいだろう。」
 
「蒼輝っ!」
 
まだ、わからないのか!と言いたげなサンガに、俺は続ける。
 
「トーワの言った事に、間違いはないんだよ。
それが、真実だ。
その真実を、また俺がわざわざ翠にいうのか?
今ここで、俺がさらに色々言ったら、翠が消えてしまうかもしれない。
サンガが言ったように、今の翠の心はギリギリで、保ってる感じなんだ。
俺の言った一言で、翠のその糸が切れちまうかもしれない。
今、なんとか保っているなら、変に触れないほうがいい。
翠の事は、ヒビキにまかせよう。
とにかく、俺は姫さんと話をしてて、疲れたんだ。
今日は、休むよ。
今夜は、お前が翠を見ててやってくれ。
あっ、だけど、部屋では一緒に寝るなよ!
お前が寝たら、トーワも一緒に寝たがる。
今の翠に、トーワの事にまで、気を使わせたくないからな。
お前は、ここで寝ろよ!」
 
俺はそう言って、人差し指を下に向け、廊下を指差す。
 
「・・・わかった。」
 
俺の冷たい態度に、半ばうんざりして答えたサンガ。
 
「俺の部屋は、向こうの塔だから。
何かあったら、トーワを走らせてくれ。
じゃーな。おやすみ。」
 
俺は、そういって手を振ると、自分の部屋へと歩いた。
しばらくして、サンガが翠の部屋に入る、扉の音が聞こえた。
俺は、足を止めて振り返った。
廊下には、サンガも含め、誰もいなかった。
俺は、それを確認した上で、自分の部屋がある塔とをつなぐ、階段ではなくて、この建物から外へ出る階段へと足を向けた。
なんで、外に出るか。って?
そんなの決まってるだろ?
『ある事』をするからだよ。
俺が、なんのために、廊下で見張るように、サンガに言ったと思う?
サンガを翠の部屋から、出す為だよ。
俺は、目の前に続く長い長い階段を、ゆっくりと降りた。
しばらくは、サンガは翠の部屋にいるだろう。
急いだ所で、まだ、『ある事』はできないからな。
今は、体力を温存しておこう。
長い長い階段を降りながら、俺がずっと考えていた事。
それは・・・。
絶対に、このまま、翠を緑豹国には、返さねぇー。って事と、翠は絶対に誰にも、渡さねぇー。って事だけだった。
 
 
 
 
しばらくして、サンガが部屋に戻ってきた。
 
「蒼輝・・・何か言ってた?」
 
と、恐る恐る聞く私に、サンガは、私をまた抱きしめると、
 
「トーワの言った事に、間違いないって。
否定しなかったよ。
今、翠に逢って、色々話して、翠が元の世界に戻ってしまったら、困るから今はこのまま、部屋に戻るっていって、自分の部屋に戻ったよ。
アイツは、別の塔らしい。」
 
予想はしてた。
所詮は、身代わりの私なんだもん。
蒼輝が優しく接してくれるわけない。って・・・わかってた。
わかってたはずだけど・・・やっぱり、胸が苦しくて、辛さが込み上げてくる。
自然と涙が溢れてきた。
 
どうして・・・私を抱きしめてくれないの?
どうして、本当であっても、自分の口から真実を告げてくれないの?
 
その思いが、私の胸をいっぱいにする。
この世界にいなきゃっ!って、必死で思っているのに・・・。
その思いもくじけそうだよ。
 
「翠・・・大丈夫か?」
 
と心配してくれるサンガだけど・・・。
 
「ごめん、サンガ。
私・・・もう、やすむよ。」
 
それには、「そうだな。あまり、考えるなよ。」と言って私の頭をなでると、私をベッドに寝かしつけてくれる。
 
「側にいてやりたいけど・・・俺、廊下にいるから。
何かあったら、すぐ呼べよ。」
 
それには、「なんで、廊下?一緒にいてよ!」って言っちゃうけど、「約束したから。」と言う。
 
「やく・・そく?」
 
サンガは、私のお布団をかけてくれていたけど、私の質問に手をとめる。
 
「蒼輝に言われたんだ。
俺が、部屋にいると、トーワも一緒にいたがる。
無邪気なトーワに、翠が気を使うのはかわいそうだから、お前は廊下から、翠の側にいれやってくれって。」
 
「そう。」としか、答えられなかった。
だって、そこまで、私の気持ちがわかるなら・・・自分がここにいてよ!
私が、一人になりたくないって思ってて、誰よりも蒼輝に側にいてほしいって思ってるって、どうしてわからないのよ!!
 
そう思ったら、今度は悔しくて涙が出てきた。
私は、慌てて寝返りを打つと、サンガに背中を向ける。
 
「じゃ、明日朝になったら、起こして。
サンガ・・・風邪ひかないでね・・・。」
 
「ありがと。」
 
サンガはそう言って、私の頭をまた、優しくなでると、
 
「おやすみ。」
 
と言って、私の頬に軽いキスをした。
それから、数秒後、部屋の電気は薄くなり、扉が閉まる音が聞こえた。
私は、勢いよく寝返りを打って、少し涙でにじんだ瞳で、あたりを見た。
誰も・・・居なかった。
 
「一人・・・かぁ・・・。」
 
私は、そう言って、 ベッドに座ると、足を立てて、丸くなる。
一応、2部屋あるこの部屋だけど、長方形みたいな形をしてるから、ドアを開けておけば、1つの部屋みたいなのね。
今は、ベッドの部屋と、部屋の扉につながる部屋との間のしきりのドアは開いてるから、この部屋の全てが一望できた。
緑豹国には、明日帰るってわかっているけど・・・今すぐに帰りたいって思いは、一向に薄れなかった。
 
今日は・・・眠れそうにないな。
 
私がそう思ったとき、ベッドの後ろにある窓に小石が当たったような音が聞こえた。
カーテンがしまっているので、ドアの向こうで何が起こっているのかは、サッパリわからない。
でも、確か、ドアの向こうは、人が一人立てるくらいの、小さな小さなバルコニーがあったはず。
そこに・・・誰かいる?
ちょっと、不安に思うけど、冷静に考えて、無理無理と私は、手を振る。
だって、ここは、建物の最上階で、すごく高いの。
マンションで例えるなら、20階くらいはあるんじゃないかな?
ここは、階段しかなくて、必死で上がってきたんだもん・・・って、私は倒れてグッタリしてたから、トーワくんの背中だったけど・・・。
それに、ここは、風がきつい。
だから、きっとバルコニーに落ちてあった、小さな石が、風で窓に当たったんだ。と思った。
だけど、次の瞬間、
 
「カツカツ。」
 
と不思議な音がした。
窓を叩く音じゃない。
鋭い刃物で、窓を叩いたような・・・音?
私は、ベッドから降りると、窓にユックリと近付く。
その時、真っ暗な夜空を覆っていた雲が動き、今まで隠していた月を出した。
その月明かりが、不思議なシルエットを、カーテンに映し出す。
緑豹国には、今は月がないはずなのに、どうしてここにあるのか!
それも、気になった。
だけど、それよりももっと気になったのが・・・。
 
「嘘っ!!」
 
私は、そのシルエットを見て思わず、勢いよくカーテンを開けた。
窓ガラスを隔てた向こうには、眩しいくらいの緑のボディーに黒の斑点。
そして、真っ直ぐに私を見ているブルーの瞳。
私は、無意識のうちに、鍵を解除して、窓を開けていた。
その訪問者は、何も言わずに、わずかに開いた窓から、中に入ってきた。
私は、また無意識に窓を閉めて、鍵を閉めて・・・カーテンも閉めた。
そして、振り返った。
でも、そこには、さっきの姿の彼は、もういなかった。
首をコキコキと回して、両肩を回し、「あー、痛ぇー。」と言ってる。
 
「なんで・・・。」
 
そうつぶやいた私の声に、「えっ?」とその訪問者はいいながら、振り返る。
 
「今、何て言った?」
 
とさらに聞いてくるから、私はたまらず叫んじゃった。
 
「なんで、豹に変身なんてしたのよ!!」
 
その声に、「でけぇーよ!」と蒼輝は、叫ぶと私の口を両手でふさぐ。
「んんー!!」とうなる私に、蒼輝は手を離さないまま、
 
「サンガに聞こえるだろ!
なんで、俺が、はるばる、こんな所から来たと思ってんだよ!」
 
と小声でそう怒鳴ると、
 
「いいか・・・でかい声は出すなよ!」
 
と念を押す。
私は、「んーんー。」と言いながら・・・うなずいた。
蒼輝の手が口から離れた。
すると、すぐに蒼輝はベッドまで行くと、その場に座り込み、ベッドに上半身をもたれさせ、さらに両腕をベッドに伸ばすと、うつぶせにグテーと倒れこむ。
その姿をみると、ちょっと、心配になる。
 
「ねぇー、体しんどいんじゃないの?」
 
だって、短い時間とはいえ、豹に変身したんだもん。
さらには、この高い建物を登ってきて、強風にも当たってたわけだし・・・。
そういわれたら、さっきふれた手も、すっごい冷たかったよね。
 
「ちょっと、ごめん。」
 
と言って、蒼輝の上半身をどかすと、私はベッドから毛布をひっこぬく。
そして、それを蒼輝の体にかけて、しっかりと体をくるんだ。
 
「外・・・寒かったでしょ?」
 
それには、蒼輝はただ笑うだけ。
そうとうしんどいみたいで、かなりグッタリしてる。
 
何か、元気になるものないのかな。
飲み物とか・・・。
 
って、考えて思い出した。
 
「そうだっ!!」
 
私は、着てきた上着を、手に取ると、ポケットから雫の玉を取る。
それを、蒼輝に与えた。
 
「いいよ・・・ちょっと、休めば元に戻る。
もったいないから。」
 
と蒼輝は拒否し続けて、なかなか飲んでくれなかったけど、
 
「じゃあ、大声で叫ぶよ!」
 
というと、すんなり飲んだ。
よっぽど、サンガを呼ばれたくないみたいで・・・ちょっと、笑えた。
サンガには、私とは話さない。って言っていたくせに、こうやって、わざわざ来てくれた事が、私はうれしかったの。
どんな事を言われても、こうやって、来てくれた事がうれしかったから。
雫を飲んだ蒼輝は、私に玉を返してきた。
私はそれを、自分の着てきた服のポケットに直しながら口を開く。
 
「でも、あれだけ、ヒビキさんに変身をするな。って言われていたのに、よりによって、私の事で、変身したなんて・・・。
ヒビキさんが、知ったら、激怒だね。」
 
すると、蒼輝は、「すでに、怒られたよ。」と苦笑い。
「うそー!!」って、叫びそうになって、慌てて両手で口を覆う私。
その姿を見ていた蒼輝は、「バカ。」と笑いながら口にする。
とても、優しく笑う蒼輝の笑顔をみていると・・・チナリさんの事を知る前の、幸せな二人に戻れたような気がした。
 
「変身したら、ヒビキと会話が出来るだろ?
それで、翠がどういう風に、チナリの事を知ったのかを、ヒビキに聞いたんだ。
アイツは、翠の側にずっといた、トーワを通して、玉で状況を見ていたはずだからな。
それを、聞きながら、この高い塀をよじ登ってた。
最後に、『変身して、ごめんな』って言ったら、『今更いうな、バカ!』って、怒られた。」
 
蒼輝はそういうと、私の頬に触れてくる。
一瞬、ビクとしてしまって、蒼輝を恐がってしまった。
 
「あっ・・・・。」
 
ごめんといいかけたけど、それもいいにくくて、私は言葉をつまらす。
でも、蒼輝は、「気にするな。」と笑顔。
 
「なんで・・・笑うの?」
 
すると、蒼輝は、
 
「俺の気持ちは考えなくていいから。
俺を拒否したかったら、拒否したらいい。
体が勝手に、嫌がったら、それはそれでいい。
俺は、今のかざらない翠が知りたくて、来たんだから。
翠の心に思ってる事。
俺に言いたい事。
一晩かけてジックリ聞くから。
ユックリでいいから、思いを全部吐き出せ。
どんな事でも、俺は真実を答えてやる。
翠に嘘はつかないから。」
 
そんな優しい言葉・・・言わないでよ。
蒼輝の心を疑って、そのうえ、恐がって何も言えなくて、蒼輝から逃げてた私が、醜くなっちゃうじゃない。
 
「ごめんなさい・・・。」
 
涙ながらに謝る私に、「翠が謝ってどうすんだよ。」と笑いながら、蒼輝は、少し涙で濡れた私の頬に指で触れる。
蒼輝のぬくもりを感じていると、私の中にずっとずっと蒼輝に聞きたかった事が、膨らんできた。
でも、それをいう勇気がなくて、私はその思いを鎮めようと、私の頬に触れている蒼輝の手を取って、私の体から離した。
だけど・・・握っている彼の手を、離す事はできなかった。
離さなきゃ!って思う。
もう、何も聞かないでおこう!偽りでも、今が幸せならそれでいい。と思う。
でも、本当に身代わりだったのか・・・真実が聞きたいと叫んでる自分もいる。
私は、いろんな思いが、グチャグチャになっちゃって、気付けば声を上げて泣いてた。
そんな私に、蒼輝は初めは何も言わなかったけど、途中から、何も言わないままで、ただ握っている手を握り返してきた。
それに、驚いて私は泣きながら、蒼輝に目を向けた。
蒼輝は、とても優しい穏やかな瞳で、私を見てた。
そして、一言・・・。
 
「今、思ってる事を、恐がらずに言えばいい。」
 
って、言った。
少し緩やかになっていた私の涙が、またいっきにスピードを上げる。
でも、私は、蒼輝のその言葉で、勇気を出してみようと思った。
だから、泣きながらだったけど、自分の中にある思いを蒼輝に話した。
 
「チナリさんと・・・どういう関係だったの?
兄妹じゃ・・・なかった・・・の?」
 
泣きすぎて、所々シャックリが出た。
それでも、頑張って口にした。
それに対して蒼輝は何も言わずに、普通に黙って私の思いを聞いてくれた。
だけど、その答えを言う前に、蒼輝は、「悪い。」とまず謝ると、握り合っていた私の手を思いっきり自分の方に引っ張ると、私を自分の胸へと引き寄せた。
私は蒼輝に強く抱きしめられた。
 
「本当は・・・こんな事しないで、翠の話を聞こうとしてたんだ。
だけど・・・やっぱ無理。」
 
蒼輝はそういうと、私の頬に顔を当てて、くっついてくる。
蒼輝の吐息が耳にかかる。
 
「翠の悲しい顔を見てると、抱きしめずにはいられなかった。
このまま・・・。
このままで、話していいか?」
 
そんなの、いいに決まってるじゃない。
私だって、蒼輝のぬくもりと、蒼輝の鼓動を感じてる方が、落ちつくんだから。
でも、それはさすがに恥ずかしくていえなくて、ただ「うん。」とだけ答えた。
それを、聞いた蒼輝は、私を乱暴に抱き寄せたせいで、包まっていた毛布が完全に床に落ちてしまっていたので、それを手に取り自分でそれを上からかぶった。
蒼輝に抱きしめられていて、おまけにその上から、毛布がかかってるから、すごく暖かかった。
 
「翠が、さっき言ってた事だけど・・・。」
 
蒼輝はそう言い出すと、チナリさんとの事を話しだした。
 
「俺とチナリは、血はつながってないんだ。
俺の母さんと、チナリのおふくろさんが親友同士で、お互いの子供が異性だったら、結婚させよう!って言い合ってたぐらい、仲がよかったらしい。
でも、チナリを産んですぐに、チナリのおふくろさんは、亡くなってしまった。
元々、体が弱くてさ、チナリを抱く事無く、逝っちまったらしい。
それから、チナリは、オヤジさんが、男手で一つで頑張って育ててたんだけど、チナリが7歳の時に、ハンターに殺された。
両親を亡くして、たった一人になったチナリを、俺の両親が引き取った。
それで、チナリは、俺の妹となった。」
 
そういう事だったんだー。
だから、チナリさんは、ずっとずっと一緒に育った蒼輝を、好きになった。
わかる気がする。
だって、蒼輝は、誰よりも強い。
そして、きっとチナリさんには、とても優しくて、いつも守ってあげてたんだろうから・・・。
蒼輝を好きになってもおかしくないよ。
って事は、その逆もありえるって・・・事だよね?
 
本当は、一番聞きたくなかった事。
でも・・・その一方で、一番聞きたかった事。
勇気を出して口にしたけど、恐すぎて・・・すっごい小さな声になってしまった。
 
「蒼輝は・・・チナリさんをどう思ってたの?」
 
たぶん、蒼輝にも聞き取りにくかったかもしれない。
それくらい私の声は小さかったから。
でも、たぶん、次に私がいう言葉が、なんとなくわかっていたのかもしれない。
蒼輝は、普通に答えた。
 
「俺は、チナリの事を、『妹』としか見れなかったよ。
蒼さまの制約で、俺の命が尽きる前に、ちゃんと新たな緑の王が誕生するとは、思っていた。
思っていたけど、こんなに豹が生まれる確率が減ってきてるんだ。
『もしかして・・・』って誰もが思ったんだ。
それで、理屈上、豹同士の間に生まれた子供が、緑の王になる確率が高くなると考えた民もジジイも、俺とチナリとの結婚を勧めた。」
 
蒼輝は、そういうと、くっつけあっていた顔を私から離して、今度は私の目をみつめる。
蒼輝の青い瞳を見ていると、その中に吸い込まれそうになった。
それくらい、彼の瞳は優しくて、穏やかで、それでいて・・・綺麗だった。
 
「だけど、俺は、チナリと一緒になるつもりはなかった。
だって、妹としか見れない相手なんだから。
結婚しても、子供を作る事なんて・・・できない。
それは、チナリにも言ってあったんだ。
その証拠に俺は、チナリを救えなかったんだから。」
 
最後の言葉・・・ちょっと、気になったけど・・・。
少し考えて・・・何となくわかった。
 
「それって・・・前から言ってる、蒼輝の『王であるもう一つの力』の事?」
 
そうなんだよね。
緑豹国を治める緑の王には、3つの能力の他に、もう一つ。
つまり、4つ目の能力があるらしい。
初代王で、今はWONDER LANDに捕まっている蒼さまには、自分の魂はもちろん、人の魂をも、移動させる力を持ってる。
そして、現在の緑豹国の王は、3人いて、蒼輝をはずした、2人の王。
ヒビキさんには、愛する者に与える紫紺の玉が作れる事。
そして、トーワくんには、緑豹国の民になる事ができる、サンガが飲んだ黄色の玉が作れる事。
そして、私自身にも、緑の王としての4つ目の力がある。
強く念じれば、どんな事でも叶うという、人よりも念じる力にたけているという事。
もちろん、緑の豹である蒼輝にも、こう言った特別な力があるはずなんだけど・・・。
 
「でも、それは、私は聞けないんだよね・・・。」
 
今は言えない。って、前に言われたから。
それには、蒼輝も「ああ。」と答える。
やっぱり・・・。
わかってはいたけど、ちょっとがっかり。
だって・・・やっぱり、気になるもん!
 
すると、蒼輝は、また私に顔をくっつけてくると、私を抱きしめる。
蒼輝の顔に触れていない反対側の頬が、また蒼輝の胸にくっついた。
 
「詳しくは言えないけど・・・。
俺の能力は、瀕死のチナリを治す事が出来るくらいの、力を持っていたんだ。
でも、俺はそれを使わなかった。
いや、というよりは、『使えなかった』って言った方が正しいな。
それが、使えなかった・・・出来なかったって事は、俺がチナリを妹としか、思ってないっていう事の立証だったんだ。
チナリは俺を好きだと言った。
意識がなくなりかけた時、俺の事を初めて「蒼輝」って呼んだ。
いつも、「お兄ちゃん。」って、言ってたくせにさ。
それで、アイツは言ったんだ。」
 
胸が、ザワザワ騒ぎ出す。
そのあとの言葉はなんとなく、予測はついた。
でも、聞きたかった。
チナリさんが、蒼輝になんて言ったのか。
ううん。何て、『告白』したのか。
 
「チナリさん・・・何て、言ったの?」
 
そう口にした私に、蒼輝は言った。
 
「『蒼輝をずっとずっと好きだった』って。」
 
私は、ショックよりも、泣けるよりも・・・蒼輝に抱きついた。
両腕を彼の背中に回して、力強く彼を抱きしめた。
チナリさんに、蒼輝を渡したくなかったから。
無意識のうちに、そうしてた。
そんな私に蒼輝は何も言わずに、「俺さ・・・。」と続けた。
 
「チナリに、そういわれた時、チナリを救えなかった事が、申し訳なくてさ。
それで、禁じられていた、豹の命を、チナリに移行してしまった。
チナリを救えなかった俺の、せめてもの償いのつもりだった。
結果的に、チナリを苦しめて、死なせてしまったけどな・・・。」
 
蒼輝は、そういうと今度は、「翠・・・。」と私の名前を呼んで、私の瞳を見る。
 
「俺にとっての『女』は、翠だけだよ。
こんなに心を開いたのだって、チナリでもなかった。
翠は、誰の身代わりでもない。
俺は、翠だから、好きになったんだ。
初めて森であった、あの時から。
俺は、翠に一目惚れしたんだから。」
 
甘い告白の後、彼は私の髪に触れる。
そして、その手が、私の頬に触れる。
彼の唇が、少しずつ私に近付いてくる。
いつもの、5センチくらいまで近付いた時、蒼輝は言った。
 
「俺は、翠を愛してる。」
 
その言葉は、全てを綺麗に浄化してくれた。
心が、蒼輝からもらう愛と、私が蒼輝を思う愛で、いっぱいになる。
私は、彼の思いに答える。
でも、その前に・・・。
 
「チナリさん・・・ごめんね。」
 
私は小声でそうつぶやいた。
きっと、蒼輝にも聞こえてたはず。
でも、彼の体は、5センチの距離から動かなかった。
私は、今度は蒼輝の瞳をみつめる。
 
「確かに、チナリさんが蒼輝を思う気持ちは、本物だったと思う。
ハンターに、一人で立ち向かうくらいだったんだから。
でも・・・私も、彼女に負けないくらい、蒼輝が好きだよ。
彼女みたいに、強くないし、勇気もないけど・・・。
誰よりも、蒼輝を愛してる。
それは、誰にも、負けないから。」
 
私の言葉に、蒼輝の口元が少し緩む。
 
なんで、笑うのよ!
真剣に告白してるのに!!
 
って、思っちゃった私だけど、次の瞬間、
 
「翠は、充分強いよ。
いつも、翠の度胸と無鉄砲さには、俺は振り回されてる。」
 
それには、もちろん、「えぇー!!」と叫んじゃう。
すっかり、サンガの事も忘れて!!
 
「でっかい声出すな!って言ってんのに・・・。」
 
と蒼輝に愚痴られて気付いた。
「あっ!」と思い出した私に蒼輝は、イタズラっ子みたいな笑みを浮かべると、
 
「まー、いいや!さっさと、塞ぐから・・・。」
 
なんていって・・・5センチ先にあった蒼輝の唇が、私の元へと辿り着く。
やっと・・・彼と触れ合う事ができた。
とは言っても、初めてのキスで、どうしていいかわからない私は、されるがまま。
それに対して、蒼輝は何も言わずに、自分がしたいように好き勝手に私にキスをする。
軽いキスをしてみたり、長くじっくりと唇を合わせて深いキスをしたり、左右に唇を動かしながらのキスをしたり・・・。
でも、最後は、
 
「翠・・・ちょっと、力抜いて。」
 
と注文を出す。
「えっ?」といいながらも、私は、緊張で肩に力が入っていたみたいで、肩を回してリラックスしてみる。
それを、見ていた蒼輝は、「そうそう・・・そんな感じ。」っていいながら、私の唇を指で開けると、唇を合わせてくる。
もちろん、彼の『一部』が口に入って来る。
正直、「うわっ!!」って思ったよ!
 
たんまー!!
 
って心は、叫びまくってたもん。
でも、舌から蒼輝の熱い熱を感じる。
さっきのキスとは違って、私を感じて、呼吸を乱す蒼輝。
そして、何より、すごく気持ちよさそうに、舌をからめてのキスをする蒼輝の顔を見ていると・・・私も、もっと彼とのキスを楽しみたくなった。
終わりかけたキスを、今度は私から求める。
 
「私にも・・・教えて。」
 
だけど、「教えない。」と蒼輝は、意地悪をいって、私の顔を自分の胸にギューっと押し込む。
もっと、もっとキスをしてほしかったのに・・・チェッ!
そして、聞いちゃう。
 
「どうして、教えてくれないのよ!」
 
って。
すると、「いいの!俺が、翠にするんだから。」って言って・・・ちょっと、照れてた。
そんな蒼輝が・・・すごく愛おしく思えた。
 
「ねぇー、蒼輝。
今夜は、ずっと一緒にいれくれる?」
 
それには、「もちろん。」と蒼輝は即答してくれる。
でも、そのあとに、「あっ、けど・・・。」というと、私の顔をのぞきこむ。
「な・・・に?」と聞く私に蒼輝は少し笑いながら、
 
「一緒にベッドで寝てもいいけど、抱かないからな。」
 
って。
それには、「どうして?」といっちゃう。
言って・・・。
 
し・・・しまった!!
 
と気付いた。
 
「えっと・・・今のは・・・う〜んと・・・。」
 
必死で、ごまかそうとするけど、こういう時って、何も浮かばないんだよねぇー。
一人で焦っている私を蒼輝は、おかしそうに笑いながら見てた。
 
「もうー!」
 
と怒って蒼輝の腕を軽く叩くけど、蒼輝はその腕をつかんで、私の手の甲にキスをする。
その仕草が、何かをいいたそうで、少し気になった私は、「そう・・・き?」と彼の名を呼ぶ。
私の声に、蒼輝は手の甲に向けていた目を、私に向けた。
 
「俺的には・・・正直、抱きたいんだけど・・・。
ヒビキに止められてる。」
 
それには、「へっ?」って、マヌケ顔で言っちゃう。
だって・・・止められてるって・・・なんで??
思いっきり首をかしげてる私の姿を見て、蒼輝ったら、本当におかしそうに笑う。
 
「ちょっと・・・笑いすぎ!」
 
なんか、いつも、私って、蒼輝に突っ込んでない?って思うけど、蒼輝ったら、
 
「だって、俺が、ヒビキに言われた時の反応と、翠ったら、同じ反応するからさー、おかしくって。」
 
と言ってる。
って事は・・・私も蒼輝も、同じレベルって事?
それって、喜んで・・・いいの?
 
なんて、考えて余計首を傾けていると・・・。
 
「ヒビキが言うには、翠の中のどんな力が、この先必要になるか、わからない。
その時に、もし出されてしまったら困るからって。」
 
「何を・・・出されるの?」
 
「『緑の豹、翠が処女である事。』 とかって、注文出されたら・・・困るだろ?」
 
「はあ??」
 
って・・・これは、もちろん絶叫でした!!
蒼輝も、うるさいと突っ込むのを諦めたほど・・・ホントにでっかい声で叫んじゃった。
 
「な・・・なにを言ってんのよ!
ヒビキさんらしくない!!」
 
って、さらに顔を真っ赤にしてブツブツ文句をいう私だけど、
 
「まっ、念には念をって事だろ?
最後の最後で、全てが水の泡になったら、バカらしいからな。」
 
蒼輝はそう言って笑うと、私の唇に軽いキスをした。
 
「な・・・に?」
 
と聞く私に、
 
「全てが終わったら、やっていい。って言われてる。
それまで・・・待っててな。」
 
もちろん・・・素直に言えない。
 
「バカ・・・。」
 
って答えて・・・私は自分から蒼輝にキスをする。
さっき交わしたどんなキスよりも、蒼輝の全てが感じれる、深くて濃いキス。
私は、彼を感じながら思った。
彼に抱かれる時は、全てが終わった時。
つまり・・・別れの時だ。
彼に抱かれる日が、楽しみなのは事実。
でも・・・その喜びの向こうには、永遠の別れがくっついてる。
だったら、私はこのまま・・・。
蒼輝とキスだけでもいいかもと、思ってしまう。
彼と、こうしてずっと、抱き合って彼を感じていられるなら・・・。
その先は、もういらないと・・・そう願う自分がいた。
 
  ☆☆☆8章 END☆☆☆
 



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