1週間ぶりに、日和のいい日曜日。
そして、待ちに待った彼氏とのデートの日。
延期、延期で、今日約1ケ月ぶりのデート。
1週間も前から、ドキドキが止まらなくて、夜もあまり眠れなくて。
親友の麻美(アサミ)に、
「ちょっと、落ち着いたら?
っていうより、今更、ドキドキする間でもないっしょ。
つきあって何年よ!
もう5年になるんじゃない?」
と呆れられるくらい、私は落ち着きがない日々を送っていた。
だってねぇー、しかたないのよ!
なぜなら、好きなのは“私だけ”なんだもん!
私、工藤 蜜華(クドウ ミツカ)の彼氏は、私より1歳年上の真鍋 大和(マナベ ヤマト)。
高校の先輩で、バスケ部のエースだった。
私は、陸上部で、運動場と体育館だから、逢う事はほとんどなかったけど、雨の日は筋トレをする為、体育館の隅を拝借するのね。
その時に、私は初めてバスケ部の練習を見たの。
見た瞬間、ビビって来たよ。
この人だー!!って。
あまり人と話さないし、そんなに人気があるわけでもない。
もっと目立つ先輩とか同年の子もいたから。
現に、うちのバスケ部には、親衛隊が付くほど人気のある人が結構いて。
その中で、先輩は誰もつかない、いたって普通の生徒だった。
だけど、私は一目で先輩に惚れちゃって、1ケ月もしないうちに、大好きになっちゃったの。
でも、年上だから、もちろん告白なんてできないし、話した事もなくて。
だけど、先輩が卒業する時、玉砕するつもりで、告白したの。
ついでに、記念に第二ボタンもほしい!ってせがもうと思って。
だけど、すでに、先輩の制服には第二ボタンがなくてね。
誰かにあげちゃったんだー。と思って言えないでいたの。
そしたら、先輩から、
「お別れになってから、告白って、俺はどうしたらいいの?
もしかして、第二ボタンほしいとか・・・そういうのが、狙い?」
と言われて。
後ろで聞いていた親友の麻美(アサミ)は、
「何様?ぶっ殺したかったよ!!」
って、あとですごい剣幕で怒ってたけど・・・。
言われた張本人の私は別に、なんとも。
彼はこういう人だから。
だから・・・人が寄ってこないんだよ。
背は高いし、バスケも1年の時からレギュラーをもらえるくらいうまいのに、おかしいでしょ?
親衛隊がいないなんて・・・。
つまり、性格に難あり!なんだよ。
だけど、これくらいの切り返しは覚悟していたので、私は反対に笑っちゃったの。
「お前・・・何、笑ってんの?
気でもふれたか?」
と呆れられたけど、
「だって、あまりにも予想通り過ぎて・・・おっかしぃー。」
と涙目で言いながらも、さらに声を上げて笑っちゃった私。
「お前・・・おもしろいやつだな。」
そう言って、口元に手をあてて、「ククク。」と笑った先輩の笑顔。
今でも鮮明に、目に焼きついてる。
忘れるわけないよ。
だって、この時が、初めて私に笑ってくれた先輩の笑顔だったから。
「ありがとうございました。」
いきなりそう言って頭を下げた私に、「えっ?」と不思議そうな声を上げた先輩。
私は頭をあげると、先輩に最高の笑顔を送る。
「最後に、先輩とこうしてお話ができてうれしかったです。
先輩の笑顔も見れたし。
大学行っても、バスケ続けるんですよね?
頑張って下さいね。」
ちゃんと言えた。
泣かなかった。
偉いぞ、私。
そう心でエールを送った私は、その場を去ろうと振り返り歩きかけたの。
だけど、動きかけた私の体を止めた声があった。
それは、もちろん、先輩の声。
「待てよ!これ・・・やる。」
「えっ?」
振り返った私の目の前には、先輩が立ってた。
少し距離があったのに、今はすごく近くにいた。
時折、吹く風が先輩の優しい香りを、私に届けてくれて、私はそれだけで、ポーっとゆでタコみたいに赤くなったりした。
そんな私の手を左手で取った先輩は、私の手のひらに閉じている右手をトンと置くと、ユックリと開けた。
先輩の手のぬくもり。
先輩の手の感触。
すべてが初めてだった。
その中で、少し冷たいものが、私の手のひらの上に落ちた。
この大きさ。この感触・・・まさか!!
そんな驚きの顔で私はきっと、先輩を見ていたのかな?
勢いよく先輩を見た私に、先輩は口元だけを緩ませた。
「本命にやる為に置いてたけど、俺からあげる事ができなくてね。
だから、勇気を出した君に、プレゼント。」
そう言った先輩は私から手を離すと、「じゃーな。」と優しく微笑んでくれた。
そんな優しい笑顔しないで。
先輩が誰かに振られたって聞いて、じゃあ私にチャンスがある?って一瞬思った。
だけど、すぐにそんなひどい事を思った自分に、自己嫌悪しちゃって。
ひどい事を思ったおわびじゃないけど、でも・・・ほっておけなかった。
振られた辛さを一人でかかえてほしくなかった。
だから、私は・・・とんでもない事を先輩に言ってた。
「待って!」
私はそう叫ぶと、立ち止まった先輩の前に周り込み、先輩の正面に立つ。
「まだ、何かあんの?」
少し面倒くさそうに言った先輩。
その態度に、ひるんでしまう。
私が今から言おうとしてることは、きっと先輩の重荷になる。
というより、絶対に嫌がられて断られると思ったから。
「ん?何?」
少し苛立ちを見せた先輩のその声に、私は覚悟を決めた。
気合いを入れた顔で、先輩をみて、大きく深呼吸をして・・・よしっ!
自分に気合を入れて、私は口を開いた。
「先輩!私と付き合って下さい。」
「はぁ?」
先輩の正直な反応だった。
だって、いくら何でも、先輩が振られたと知ってすぐに普通はつきあってはないよね。
でも、恥ずかしいより、常識よりも・・・。
私は、先輩の側にいたかったから。
その気持ちの方が、断然上だったから。
私は、キョトンとしてる先輩に、さらに続ける。
「わかってます。先輩には好きな人がいたって。
でも、私は先輩が好きなんです。
先輩の側に・・・好きな人の側にいたいんです。
好きになってほしいなんて欲張りいいませんから。
ただ、側に・・・誰よりも先輩の側にいさせてください。」
嫌がられるってわかってる。
そんなの受け入れてくれるわけないって、言う前からわかってたよ。
だけど、言わずにはいられなかった。
先輩。こういう人がいる事を知って下さい。
先輩は、一人じゃないって事・・・実感して下さい。
あなたを好きになった、後輩がいた事を覚えておいて下さい。
私はそんな気持ちを心の中で先輩に送ってた。
先輩は黙ったまま私を見てた。
私は、その沈黙が恐くて、下を向いて目をつぶってた。
先輩の断られる返事を、ビクビクしながら、今か今かと待ってて。
いい加減、早く言ってよ!と、心が痺れを切らした時、私たちの中で止まっていた時間が流れたの。
先輩は言葉よりも先に、私の体に触れてきた。
下げていた私の髪に、重さと暖かさとやわらかな感触が触れた。
私は顔をユックリと上げた。
そこには、私をみつめてる先輩の姿。
その瞳は、呆れてるでもバカにしてるでも、嫌がってるでもない。
しいていうなら、参った・・・って瞳?
「せん・・・ぱい?」
しどろもどろになりながらそう言った私に、先輩は髪をくしゃくしゃと乱しながら、笑う。
「あんたには、ホント、参った。
いいよ。付き合おう。」
「えっ!」
そう来ると思っていなかった私は、もちろん、いっきに体の力が抜けた。
さっきまで、気合いを入れて精一杯虚勢張っていたのに・・・ヘナヘナと力が抜けた。
「おいっ!大丈夫か?」
そんな先輩の叫び声にも、ゆっくりとしか反応できない。
地べたにペタンとしりもちを付いた私は、あさってを見ながらうわ言のように、
「大丈夫・・・です。」
と言ってた。
「さっきまでの、強さはどこへいったんだよ。」
呆れた声を出しながら、先輩も私の前にしゃがむと、力がなくなった私の手からコロンと落ちていた先輩の第二ボタンを拾うと、また私の手ににぎらせてくれて、手をギュッと握ってくれた。
「ちゃんと、持ってろよ。」
先輩はそう言ったあと、私の手に触れていない方の手を制服のポケットに突っ込むと、小さな紙を取り出した。
そして、それを私の制服のポケットに入れた。
「俺の携帯番号とアドレスが書いてる。
連絡、待ってるよ。」
先輩はそう言って優しく笑うと、「じゃーな。」と言ってこの場を去って行った。
家に戻ってから、私は先輩が入れた紙を見たの。
そこには、本当に先輩の携帯番号とアドレスが書いてあった。
麻美(アサミ)は、「なんで、こんなもの持ってるの?先輩おかしいんじゃないの?」と言っていたけど、私にはピンと来た。
第二ボタンをあげたかった本命に、ボタンと一緒に渡すつもりだったんだよね。
第二ボタンと一緒に行き場を失ったメモと、先輩の想い。
こんな紙を渡すつもりだったという事は、相手は先輩の事を知らない可能性が大きいって事だよね?
始まる前に終わってしまった先輩の恋。
だから、先輩は同情してくれたのかもしれない。
私の恋を始まる前に終わらせるのはかわいそうだって・・・。
それでも、よかった。
この恋が、どんなに苦しくても、報われなくても。
私は本当に先輩が好きだったから。
そのあと、私は勇気をふりしぼって先輩に連絡をした。
先輩はちゃんと出てくれて、それからお互いの事を話して、少しずつわかりあった。
初めてのデートは、その電話の3日後だった。
映画を見て、ご飯を食べた。
その時に、私は先輩に、こういわれた。
「つきあうと言ったけど、その前に言っておく事がある。」
何かと思ったら、先輩の進路の事だった。
先輩はバスケで有名な体育大学に推薦で決まっていたけど、家の事情で進学は諦め、就職していた。
そこの会社もバスケチームがあって、社会人チームでは結構実績があるらしく、先輩はそこで働きながらバスケをすると言っていた。
「そんな俺でもいいのか。」
少し悲しそうに言った先輩に、胸がキュンとした。
好きでもない女と付き合ってくれるだけでもすごいのに、こんな優しさもくれるなんて。
私はますます先輩が好きになった。
それから、1年後、私は卒業して、短大に通った。
そして、22歳になった私は、現在しがないOL。
先輩は、頭もいいからか、23歳にして、大手コンピューター会社の主任をまかせられてる。
大学卒業の人や、専門学校卒業の人たちにも、引けをとらないくらいの腕で、先輩は上司に認められ、今は、先輩なしではその部署が動かないくらいの貢献をしてる。
かっこいいでしょ?って・・・そうじゃなくて、だから・・・困るのよ!!
そんなんだから、全然デートが出来ない!!
私は、OLだから、5時にはフリーなのに、先輩は全然時間なくて、いつもポツン。
あまりにもほったらかしだから、麻美(アサミ)が気を使ってくれて、週1回は食事に誘ってくれるけど、彼女は仕事が雑誌の編集だから、残業はつきもので。
なのに、時間をさいて、私に付き合ってくれる。
親友が出来て、なんで彼氏ができないのよ!!って思うけど・・・。
それは、しかたのない事だよね。
だって、私が想ってるほど、先輩は私を想ってない。
私の方が、断然気持ちは大きいから。
初めから、わかってた事なんだけど・・・。
今まで、別れられなかっただけでも、すごい事なんだけど・・・。
だけど、人間って欲張りじゃない?
自分も同じくらい愛されたいって、どうしても欲が出てきちゃって。
思っちゃいけないと言い聞かせてるけど、最近特に思ってしまう。
私を、もっと、愛してほしいって・・・。
その時だった。
「蜜華(ミツカ)!!」
後ろから聞こえた声。
1ケ月ぶりに聞く、ナマの声だった。
私は、うれしくて、緩んだ顔のまま振り返った。
だけど、振り返って、その声の主の姿を見た途端、見る見るうちに、顔が引きつっていく自分が・・・わかった。
「なんで・・・、なんでスーツなの?」
今から、デートでしょ?
なんで??
胸がズキーンと痛んだ。
この鈍い痛みが、本物になる前にお願い。
否定して!!
そう必死で願ったのに・・・それは、無残にも本物になってしまった。
「悪い蜜華(ミツカ)。
後輩に頼んでいたソフトに、問題が出てさ。
俺じゃなきゃ、対処できないんだ。
ホント、悪い。今度、埋め合わせするから。」
そう言って、おがまれても・・・。
ここで、好かれてる人なら、余裕で、「いいわよ。頑張ってね。」って言えるんだと思う。
だけど、私には無理だよ。
だって、先輩に愛されてないから。
私よりも会社を選んだら、余計に愛の薄さを見せられた感じで、もう耐えられなかったの。
私は、ずっと我慢してた思いを、先輩にぶつけてしまった。
「何よ!いつも、仕事仕事って!
そんなに私が嫌いなら、そういえばいいじゃない。
別れたいなら、はっきりそう言えばいいでしょ!!」
頭に血が上って、冷静になんてなれなかった。
自分が何を言ってるか、言ってて訳が分からないくらい、私は気持ちが高ぶっていた。
こんなに感情的になったのは、初めてだったかもしれない。
そんな私に、先輩は引くかと思ったけど、以外に冷静に私に答えてきた。
「何、そんなに怒ってんだよ。
仕事なんだから仕方ねぇーだろ?
それに、仕事が急に入るのは、いつもの事だろ?
何をいまさら、そんなに怒ってんだよ。」
「今更じゃないよ。
ずっとずっと我慢してたんだよ・・・。
でも、そんな事・・・大和(ヤマト)には、絶対にわからないよね。」
「それ・・・どういう意味?」
「私ばっかりが、大和(ヤマト)を好きで。
大和(ヤマト)は私の事、好きじゃないでしょ?
もう、疲れた。
私ばっかり好きで・・・。」
「おいっ!ちょっと、待て。
蜜華(ミツカ)。俺は・・・。」
彼のその先の声は、彼の胸で鳴っている携帯が、さえぎった。
私の腕をつかんでいた彼の手が、力なく離れた。
「たく・・・なんだよ、こんな時に。」
面倒くさそうに携帯を取った彼は、「はい。」と出る。
会社からだったみたいで、催促電話だった。
「わかった。すぐ戻るから。
それまで、触るな。
そのままにしててくれ。
ああ。データーを作り直すから、資料を集めておいてくれないか。」
彼はそう言ったあと、電話を切って、また私の腕に手を伸ばしてきた。
その手を私は払った。
「いけば?」
「蜜華(ミツカ)・・・。」
「私よりも大好きな仕事の所へ行けばいいでしょ。
もういいよ。大和(ヤマト)とは別れる。
さようなら。」
「俺の話も聞けよ。」
「聞きたくない!!」
だって、先輩から別れの言葉なんて聞きたくなかったんだもん。
だけど、私の思いなんて、やっぱり、先輩には届かなかった。
私をつかみ損ねた手を、ぎゅっと握り締めた先輩。
「もとはといえば、お前から言ってきて、つきあったんだ。
お前が別れたいなら、そうしたらいい。
お前のしたいようにしろよ。」
一瞬耳を疑った。
今の先輩の言葉・・・何?
私が言ったから、つきあった。
それはわかるよ。
だけど、言い出したのはお前なんだから、終わるのもお前が決めろって事?
つまり、先輩は、いつ終わってもかまわないって・・・そういう事?
頭に流れている何かの線が、プツンと音を立てて、切れた気がした。
気が付けば、勝手に口から、感情が滝のように飛び出してた。
「何よ、その言い方!
じゃあ、私がすぐに別れるって言ったら別れたっていうの?
私が言わなかったから、今まで付き合ってくれてたって事?」
「そうは、言ってないだろ。」
「言ったじゃない!
どうして・・・、なんで、大和(ヤマト)は私を好きになってくれないの。
好きでもない女と、なんで5年も一緒にいたのよ
ひどいよ・・・残酷だよ。」
「そんな事言ってないだろ。
いい加減にしろよ。」
「もう、いい。もう・・・何も考えたくない。」
私はそう叫んで、その場を去った。
「勝手にしろ!!」
背中越しに、先輩のそんな声が聞こえたような気がした。
先輩と別れてから、私はどこをどう歩いたか全く覚えていない。
ただ、泣きじゃくりながら、歩いていた気がする。
「そこの泣いてるお姉さん!よかったら、見ていかない?」
突然そんな声がして、私は涙をぬぐいながら、声がした方を見た。
道の片隅で、アクセサリーを売っている20歳前後の女性が立っていた。
「わた・・・し?」
鼻水をすすりながらそう言った私に、「そうそう。」と彼女は笑顔でそういうと、私にチョイチョイと手招きをした。
無視していけばいいのに私は、その手招きに引っ張られるかのように、スーと彼女の元へと行ってしまった。
彼女の足元には、かわいいピアスやネックレスやブレスレットといった装飾品が、所狭しと並べてあった。
普段の私なら、絶対に見入っていただろうけど、今はそういう気分にはなれない。
「ごめんなさい。また、今度。」
私はそう言ってその場を去ろうとした時だった。
私の目に、ある物が止まった。
それは、並んでいる装飾品の片隅にひそかに置かれていた、一つの石だった。
それに、見入っている私に気付いた彼女は、それを手に取ると、私の目の前に持ってきた。
「これは、ブルーストーンと言って、その名の通り青い石なんです。
でも、別名をなんと言うか、わかりますか?」
「わかん・・・ない。」
と首を振る私に彼女は、優しく微笑むとこう言った。
「Blue Jewel。」
「ブルージュエル??」
「そう。青い宝石です。」
「あおい・・・宝石。」
彼女の言葉を首をかしげながら口にした私に、彼女は手に持っていたそのBlue Jewelを太陽の光の方に持ち上げると、光にあてた。
「きれい・・・。」
思わずそう口にした私に彼女は、「クス。」と上品に笑うと、「これはね。」と解説を始めた。
「何百年も先の未来に住むある王の、瞳だそうです。」
「未来の?」
なんとも嘘くさい話。
だけど、私はなぜか、その話に聞き入ってしまっていた。
「なんでも、その王は、実らない恋の相手と知りながら、その女性を心から愛してしまった。
その人を想い続け、生涯を終えた王の念が、彼の瞳に宿ったといわれているの。
“愛する者への想いを、成就させたい”ってね。
この石を手にした者は、真実の愛を手に入れる事が出来るといわれているの。
そして、成就した人は、その石を、自分たちの宝物と称し、“Blue Jewel”と名付ける。
2人の宝物にして、大事にしたい。
そう想うんだけど、それはできないの。」
「できないって・・・どうして?」
「不思議な事に、このブルーストーンは、持った人の恋が成就すれば、石自らそこを去っていってしまって、二度と手にする事はできないの。
そして、ブルーストーンは、また新しい主を探す。
だから、意志を持つ石とも、言われているのよ。」
そう言った彼女は、急に私の手を握ると、私の右手にそれを乗せた。
「ここにこの石を置いて1年以上は経つの。
常連ですらも気付かない石を、あなたは気付いた。
それは、ブルーストーンがあなたを選んだと思うの。
元々、このブルーストーンは私も偶然譲り受けたもので、私自身にはようなしでね。
きっと、ブルーストーンが今必要なのは、あなたなのよ。
だから、これはあなたにあげるわ。
この石が、あなたに、真実の愛を与えてくれる事を・・・。
あなたにとって、この石が、Blue Jewelになる事を祈ってるわ。」
そして、私の手を強く握ってくれた。
私は、なんでだろう?
そんな嘘くさい話を、心のどこかで信じていたのかな?
「ありがとう。」
そう言って頭を下げてた。
どうして、それを貰って帰ってきてしまったのか・・・自分でもわからなかった。
だけど、後から思えば、こう思う。
彼女の言った通り、これは運命だったんだって。
ブルーストーンが私を選んだと・・・そう思わざるおえない現実が、よく朝目覚めた私に襲いかかってきたのよね・・・。
目覚ましが鳴る。
私は、眠い目を右手でこするけど・・・。
「ん??」
思わずそう言っちゃった。
だって、いつもとあたる場所が違う。
いつもは手のひらだけど、今日は・・・服??
私は、眠たい目を必死で開けて、自分の右手を見る。
一瞬、何が起こったのかわからなくて、じっと見ていたんだけど・・・。
「なっ・・・何これぇー!!」
と次の瞬間・・・絶叫してた。
部屋の鏡をみようと、ベッドからいつもの感覚で降りたら、身長が足りないのと、ズボンに足がひっかかって、鼻からドベンとベッドから落ちた。
「いったぁー!!」
と鼻をこするけど、それどころじゃないって!!
私は、ハイハイして、大きな鏡の前に一目散。
そして、自分の姿を見て、
「きゃっ!!」
と叫んで両手で口を抑えた。
気絶しそうなのを必死で耐えた。
だって、だって、だってぇー!!
私・・・小さくなってる。
それも、これって・・・いくつ??
その時だった。
テーブルに置いていたブルーストーンが、まばゆい光を放った。
私は、ビックリしつつも、ズボンをズリズリしながら、テーブルに向かいブルーストーンを見る。
光っている石に、何かが刻まれてる?
「昨日は何もなかったのに。」
私は戸惑いながらも、ブルーストーンを手に取る。
そして、その文字をジッと見ると、声に出して読んだ。
「工藤蜜華(ミツカ)、10歳。」
私がそう読んだ時、文字はスッと消えた。
「10歳・・・。」
そう口にしてから、我に返った。
「はぁ?10歳?なっ・・・なにぃー!!」
もちろん、家中、私の絶叫が響き渡っていた。
「それで?親には何て言って、出てきたのよ。」
そう言って、目の前で平気な顔で、コーヒーを飲んでる麻美(アサミ)。
「お布団かぶって、声だけで答えた。
風邪で仕事いけないから、休むって。
それで、お母さんがベランダで洗濯物を干してるすきに、脱出してきた。」
と答えたのに、
「よくもまー、補導されなかったよね。
こんなデッカイ服着た小学生が歩いてるのに。
世の中の人は、関心なさすぎだね。」
なんて、すごく客観的に見てない?
ある意味、あんたの方が、関心ないんじゃないの?と突っ込みたくなるけど、でも麻美(アサミ)には、ホントに感謝だよ。
いきなり電話で、
「小学生になっちゃった。」
って言って、「はぁ?」とは言われたけど、写メール送ったら、
「すぐに、うちにおいで。」
と言ってくれて。
私は、家族で住んでるけど、麻美(アサミ)は仕事が不規則だから、親が夜中に出入りされると眠れないし心配するから、一人暮らししてよ。っと言ったらしく、一人暮らしだから。
そして、今日は昨日日曜出勤したとかで、休みでさ。
ホント、ラッキーだったよ。
ソファーで、ちっちゃく座っている私の目の前に、麻美(アサミ)はトーストとゆで卵を置いた。
「とりあえず、食べといた方がいいよ。」
と言いながら、自分はむしゃむしゃパンをほおばってるし。
「だけど、麻美(アサミ)、よく私だって信じたね。」
ずっとずっと聞きたかった事を、私はとうとう口にした。
だって、いくら昔からの親友とはいえ、いきなり小学生になった私を見て、これだけ普通に対応できるなんて。
私が逆なら、絶対にできないよ。
だけど、麻美(アサミ)は、「信じるも何も・・・。」と口にすると、優しく笑った。
「10歳の蜜華(ミツカ)そのものなんだもん。
顔も体系も。
だから、信じるに決まってるじゃない。」
「そっかー。」
と納得したんだけど、「でもね。」と言った麻美(アサミ)は、私をとても暖かい瞳でみつめた。
「今目の前にいるのが、蜜華(ミツカ)だ!って思えるのは、それだけじゃないよ。」
「それだけじゃないって?」
「すべてが、蜜華(ミツカ)だもん。」
「えっ?」
マヌケな顔で言った私に、麻美(アサミ)は、急に私の目の前のマグカップを指差した。
「コーヒーにミルクは入れないのに、スティックシュガーを3本入れるとか。
ゆでたまごの殻を取るのに、テーブルとかでコツンとヒビ入れるじゃなくて、両手の親指で思いっきり押してヒビ入れるとか。
あと、食パンの耳は苦手で、取って、はいじゃう所とか・・・。
蜜華(ミツカ)そのものなんだもん。」
確かに・・・今、目の前にあるのは、その通りの残骸。
スティックシュガーの空袋が3本に、指でこじあけた所のゆでたまご。
そして、最後は、耳を取り除かれた中身だけの食パン。
私が私だと、立証してた。
でも、そんな私の癖を知ってくれている麻美(アサミ)が、私はとても嬉しかった。
「麻美(アサミ)だけだよ。
私の癖をこんなにわかってるの。」
心からそう言ったのに、「何言ってるのよ。もう一人いるでしょ。」と言われちゃって。
「もう一人?あー、親?」
というけど、「バカ!先輩だよ!」と突っ込まれた。
だけど、私は両手で、「ないない。」と全否定。
「そうかな?」
と納得がいかない口調で麻美(アサミ)は言うけど、私は自信満々。
「大和(ヤマト)は、絶対にわかんないよ。
きっと、私を見ても、私だとわからない。
だって、大和(ヤマト)は私を、好きじゃないから。
私がつきあって。って言ったから付き合ったんだって。
だから、私が別れる。って言ったから、別れるって言われた。
そんな、私に愛のかけらもない人が、わかるわけないよ。」
昨日、先輩と喧嘩して別れちゃったぽい事を、電話で散々麻美(アサミ)に話した。
仕事してるのにね。
だけど、麻美(アサミ)は面倒くさがらずに、聞いてくれて。
「だからさ、昨日も言ったけど、それって、蜜華(ミツカ)の理解が間違ってると思うよ。」
「間違ってるって、どう間違ってるのよ!」
「それは、わかんない。」
「わかんないって・・・。」
「先輩にしかわかんないでしょ。
だけど、普通の解釈じゃなくて、もっとこう深い意味があると思うなー。」
「なんで、そう思うの?」
「だってさ、いくら最初は、蜜華(ミツカ)が言ったっていうのと、自分も本命に振られたからっていうのでね、付き合ったにしてもよ。
いくらなんでも、勢いで付き合ったような人と、5年もつきあわないでしょ。
蜜華(ミツカ)が、先輩は自分を好きじゃない。って思いすぎてない?
もう少し先輩を色眼鏡じゃなくて、真っ白な状態で見てみたら?
そしたら、先輩が蜜華(ミツカ)をどう思ってるか、見えるんじゃないかな?」
「そう言われても、もう別れ話出ちゃった後だし。
それに、私こんな姿だし、もう終わりだよ。
第一、大和(ヤマト)だって、昨日電話もメールもなしだよ?
大和(ヤマト)も、きっと清々してるんだと思う。」
そういいながら、体育すわりをして、両足を抱える私に、「はぁー。」と麻美(アサミ)はため息を付くと、しばらく何かを考えていた。
名案が浮かんだのか急に、
「よぉーし!試してみようよ!」
と叫んだ。
「試すって・・・何を?」
なんか、嫌な予感がする。
ビクつきなら聞いた私の不安は、的中した。
麻美(アサミ)は、私の真横に移動してくると、私の腕をつかんだ。
「先輩が、蜜華(ミツカ)だと気付くか試すの。
気付いたら、先輩が蜜華(ミツカ)をどれだけ思ってるか、立証できるじゃない。」
って目を輝かせていうけど、絶対に無理だよ。
10歳の私の姿も知らない大和(ヤマト)にわかるはずもない。
わからないとわかっているけど、でもやっぱり思うでしょ?
好きならわかってくれるかもしれないって。
そんなささやかな期待をして、みごとに玉砕しちゃうのは、辛すぎるから。
今の私にはダメージが大きすぎる。
だから、どうしても、うんとは言えなかった。
「嫌だ。」
とかたくなに嫌がる私に、「うーん。」とうなった麻美(アサミ)。
諦めてくれるのかと思いきや、彼女はまたもや、すごい提案をした。
「よし。先輩に蜜華(ミツカ)の面倒を見てもらおう!」
「はぁ?」
と大声で叫んでみたけど、全く効果なし。
麻美(アサミ)ったら、さっさと私のカバンから携帯を抜き取ると、先輩に向かって発信した。
「ちょっ・・・何やってるのよ、麻美(アサミ)。
やだ。返してよ!麻美(アサミ)っ!!」
ひったくろうとしたのに、もうちょっとの所で、麻美(アサミ)は立ち上がる。
麻美(アサミ)は170センチと大柄。
そんな彼女に、10歳の私がジャンプしても、かなわないって。
「麻美(アサミ)ぃー!!」
と大声で叫ぶ私。
「もー、うるさい!静かに・・・あっ。」
麻美(アサミ)はそういうと、いきなり、よそ行きの声をした。
「すいません、先輩。私蜜華(ミツカ)じゃなくて、麻美(アサミ)です。」
私からの発信だったから、大和(ヤマト)は私からだと思ったみたいで、いきなり話し始めたみたいで。
麻美(アサミ)は、そう切り出すと、いきなりすごい事をスラスラと言い出した。
「蜜華(ミツカ)とは、今連絡取れないんです。
先輩と昨日喧嘩して、別れる別れないって話になったんですよね?
それで、蜜華(ミツカ)ショックを受けて、ここには居たくないからと、今、短大の時の先輩の家にいるんです。
その先輩、九州から来てて、卒業後あっちに戻ったんで、今蜜華(ミツカ)九州にいるんですよ。
ええ。そうです。それで、携帯も私に預けて行っちゃって。
九州の連絡先ですか?
それは、教えられません。
蜜華(ミツカ)の親にも、先輩との事が原因とは言ってないんです。
遊びに行ったとしか、言ってませんから。
いつ戻って来るか?
それは、わかりません。
蜜華(ミツカ)が戻りたいと思えば戻って来ると思いますが。
仕事は、去年の有休が30日丸々残っているから、ユックリ癒してきたら。って言ってるんで、その間は戻って来ないかもしれません。
それでですね。先輩にお願いがあるんです。
その蜜華(ミツカ)がお世話になっている人には、10歳の女の子がいて。
その子がいたら、蜜華(ミツカ)がユックリ出来ないから、私に預かってほしいと今日、ここにくる予定なんですけど、私勤務がバラバラなんで、見れないんですよ。
それで、先輩が見てくれませんか?
えっ?無理って。
そんな、無責任な事言わないで下さいよ。
そもそも、先輩が蜜華(ミツカ)を悲しませるから、こういう事になったんですよ。
私だって、蜜華(ミツカ)の親や、いろんな人に嘘をついて、蜜華(ミツカ)を守ってるんです。
先輩も、蜜華(ミツカ)が好きなら、蜜華(ミツカ)を守ってあげてくださいよ。
協力してくれてもいいでしょ?
それとも、先輩は、蜜華(ミツカ)が好きじゃないんですか?
やっぱり、蜜華(ミツカ)が言っていた通り、別れられて清々してるんですか?」
そこまで言わなくても・・・。
清々してるよって言われたら・・・恐い。
耳を塞いで、目をつぶっていた私。
だって、聞きたくないんだもん。
ぎゅーって耳を塞いでいると、本当に何も聞こえない。
どうか、先輩が私を少しでも好きでいてくれますように。
そんな事を祈りながら、私は耳を塞いでた。
しばらくて、私の頭がポンポンと2回軽く叩かれた。
私は目をあけて、顔を上げる。
麻美(アサミ)が私の側で笑ってる。
耳から手を離した私は、「大和(ヤマト)なんて?」と聞いてた。
すると、麻美(アサミ)は、「気になってるなら、聞いてたらよかったのに。」と笑うと、
「子供預かるって。
蜜華(ミツカ)に逢って話がしたいけど、逢えないなら今出来ることをしようと思うって。」
というわけで、いきなり22歳から10歳に若返った私は、破局寸前状態になっている彼氏の元へ、居候に行く事になったの。
それも、お世話される側として・・・。
一体、そこで、何が待ってるの??
恐い現実をつきつけられるのか?
それとも、大和(ヤマト)の本当の気持ちが見れるのか?
どっちにしても、かなり、ドキドキです。
「先に言っておくけど、俺も仕事が不規則だから、ずっとかまってやる事はできないと思うから。
俺、料理できないから、飯はコンビニで買うか、喰いに行くかしてくれ。」
大和(ヤマト)はいきなり私にそう言った。
自己紹介もしなければ、私の名前も聞こうとしない。
大和(ヤマト)らしいといえば、大和(ヤマト)らしいけど、やっぱりちょっとガッカリかな?
私を見て、本当に何も思わないんだもん。
興味すらも持たれてないのは、辛いよね。
せめて、名前を聞いてよと思うけど・・・。
きてそうそう、カウンターをくらった私は、玄関で立ち尽くしてた。
そんな私の肩を、ポンと軽く叩いた麻美(アサミ)は、「ねぇー、先輩。」と大和(ヤマト)に声をかけた。
「この子の名前なんですけど、“ミカ”って言うんです。
10歳で小学校4年生ですけど、今夏休みなんで、学校の事は心配しなくていいですから。
よろしくお願いします。」
そして、私用に用意してくれたお泊りグッズの入ったカバンを、麻美(アサミ)は廊下に置いた。
「じゃ、ミカ!何かあったら、蜜華(ミツカ)の携帯使って私に連絡頂戴。
くれぐれも、“礼儀正しく”ね。」
そう言って笑った麻美(アサミ)は、私の横をすり抜けていく。
その間際に耳音で囁いた。
「蜜華(ミツカ)だと、自分からバラしちゃだめよ。」
そして、彼女は出て行った。
「おい。」
大和(ヤマト)のその声に、私はユックリと振り返った。
「彼女に聞いてるかもしれないけど、俺は真鍋大和(ヤマト)。
いつまで同居になるかわからないけど、よろしくな。」
そう言って右手を出した大和(ヤマト)の手を私は握り返した。
大和(ヤマト)の手、こんなに大きかったっけ?
そんな事を思いながら、「クス。」と笑ってしまった私。
笑って、はっとする。
さっき、麻美(アサミ)に言われた言葉を思い出した。
自分でバラさないように。
これじゃあ、怪しまれるよね。
現に、握り合っている大和(ヤマト)の手の力が、強くなってる。
やばーい!!
私は、慌てて、大和(ヤマト)から手を離して、大和(ヤマト)を見た。
私を見ていた大和(ヤマト)の目を見て、私はドキってした。
なんで?どうして、そんな熱い目をするの?
さっきまで、冷静な目だったのに。
私の態度に、おかしいと思ったのかな?
「どうか・・・したんですか?」
一応、初対面って事になってるから、敬語&丁寧語を使わなきゃ。と気にして使ったんだけど、大和(ヤマト)の目は変わらない。
「あのぉー。」
とさらに聞いた時、「えっ?あっ・・・ごめん。」と口にした大和(ヤマト)は、さっきの少し冷静な瞳に変わった。
「いや・・・ちょっと、驚いてしまってね。」
「驚くって・・・何を?」
私、何かしちゃった??
ドキドキしながら聞く私に、少しテレを見せた大和(ヤマト)。
「ミカちゃんの体温が、“ある人”と同じだったから。
こんな事もあるのかと、ビックリしてさ。
そんな事、あるはずないのにな。
ホント・・・ごめん。」
大和(ヤマト)はそう言って軽く頭を下げると、私の荷物を手に取る。
「会社から近いところを探してたら、3LDKのデッカイマンションしかなくてね。
家賃が思ったより安いからここにしたけど、1人じゃ、使いきれてなくてね。
1つ全然使ってない部屋があるから、そこをミカちゃんに使ってもらうから。
あと、書斎には、仕事の物もあるから、入らないでほしい。
それから、俺の部屋も。
リビングは好きな時に出てきていいし、テレビもそこのを使ってかまわないから。」
大和(ヤマト)は、私の顔を見ずに、正面を向いて歩きながら淡々と話した。
大和(ヤマト)が言っているつかってない部屋は、実は使ってる。
大和(ヤマト)の仕事着を、置いている部屋だったのに。
だけど、中を開けると、ガランとしていた。
あの衣装の数々はどこに?
まさか・・・書斎とかにぶちこんだの?
あの量、半端じゃないけど・・・。
だから、見るなと言った?
私には、入るなとは言った事なかったから。
家に来て、大和(ヤマト)がまだなら、全ての部屋の掃除をして、ご飯を作って待ってて。
でも、大和(ヤマト)が帰ってこない日の方が多くて、朝になって、私は寂しくここから、出勤する事もあった。
悲しい事なのに、何でかな?
今は、すごく、懐かしい。
それに、さっきの事。
大和(ヤマト)が私の手に触れただけで、私と22歳の蜜華(ミツカ)とをダブらせた事。
まさか、温度でわかるなんて・・・。
少しでも、私の事好きでいてくれたのかな?って・・・。
そんなささやかな期待をしちゃうくらい、私は嬉しかった。
大和(ヤマト)との生活を始めて、10日が過ぎた。
大和(ヤマト)は、毎日帰りは遅く、私は寝たふりをしてるけど、2時3時に戻って来るのは当たり前。
そして、7時には家を出て行く。
会社はここから、近いし、確か勤務は9時のはず。
なんで、そんなに早く出て行くの?
私がいた時、ギリギリまでいたよね。
そんなにガキの私と一緒にいたくないのかな?
というより、大和(ヤマト)にとって、ガキの私はもう迷惑なのかもしれないな。
ガキの私を預かっているのは、九州にいる蜜華(ミツカ)の為って事になってる。
だけど、大和(ヤマト)は、私が九州にいってる事になってる日から、一度も麻美(アサミ)にも連絡しないし、私にも九州の家の場所を聞いてこない。
いえば、ガキの私の家に、蜜華(ミツカ)はいるって話なんだから、普通なら聞いてくるでしょ?
でも、何も聞いてこないって事は、もういらないって事だよね。
蜜華(ミツカ)は、もう・・・いらない。
そんな事を考えていたら、私はここにいる意味もないんじゃないかと思ったの。
これ以上、大和(ヤマト)に迷惑はかけたくないし、これ以上、大和(ヤマト)が私を好きじゃない現実をみたくないと思った。
私は、麻美(アサミ)に連絡を取り、麻美(アサミ)のうちに戻りたいといった。
「何、弱音吐いてるのよ。頑張れ!」
って言われたけど、私は泣いて「これ以上は無理。」とすがっちゃった。
電話口で泣きじゃくる私に、「わかった。帰っておいで。」と麻美(アサミ)は言ってくれて、私は置き手紙をして、大和(ヤマト)の家を出た。
「それで?先輩の手紙には、なんて書いたの?」
「何て書いたの?って、麻美(アサミ)が言った通りだよ。
今までありがとう。って書いただけ。
だって、麻美(アサミ)が言ったじゃん。
先輩には連絡して、私が預かる事にしたから。って言っておくって。」
「まー・・・そうだけど。」
と苦笑い。
何?そのリアクション。
まさか・・・。
「麻美(アサミ)っ!あんた、ちゃんと電話してくれたんでしょうね。」
と怒ってみせるけど、「バレたら仕方ない。」と舌打ちした麻美(アサミ)は、
「連絡してないどころか、先輩から昨日の夜に電話あったよ。
知らないかって。
で、私知らないって言った。
実家にも帰ってないみたいって、言ったら携帯切られちゃった。」
「ちょ・・・切られちゃったじゃないでしょ!
私が家出たの、昨日だよ。
今日なんて、1日大雨だし・・・。
もし、大和(ヤマト)が探してたらどうすんのよ!」
と怒ってみせるけど、
「探してないんでしょ?」
と言われた。なぜ、私に聞く?
意図がわからない私は、「なに?」と麻美(アサミ)に聞いた。
すると、麻美(アサミ)は、少し真剣な瞳をした。
「蜜華(ミツカ)が言ったんじゃない。
自分はもう、愛されてないって。
だから、ガキの自分も、重荷になってるって。
だったら、出てきたら、先輩清々してるんじゃない?
探したりはしないでしょ?」
だけど、私は即否定した。
「そんなわけないでしょ。
大和(ヤマト)は、そんないい加減な男じゃないのよ。
一度預かると決めたんなら、その子がいなくなったら、自分を責めて、探すに決まってるじゃない。
ひどいよ・・・麻美(アサミ)。」
と思わず涙ぐんだ私に、麻美(アサミ)は、「ひどいのは、あんたでしょ。」と言いながら、優しい笑いをする。
「どういう・・・意味?」
流れそうになっていた涙が止まる。
「あんたの手のぬくもりで、最初にガキのあんたと、蜜華(ミツカ)を重ねた先輩。
その先輩の想い、本当はわかってたんじゃないの?
そんな些細な事でわかる相手を好きじゃないわけないでしょ。
それだけ想ってるって事でしょ?
先輩は、蜜華(ミツカ)を本当に心配してるんじゃないかな?
逢いたくて仕方ないと思うよ。
その思いを必死で、抑えているのに、蜜華(ミツカ)と同じぬくもりを持つガキのあんたに触れたいと思うわけないでしょ。
だから、必要以上に関わってこない。
そういうの、蜜華(ミツカ)本当はわかってたでしょ?
だけど、あんたは、わからないように、考えないようにした。
自分がいなくなれば、先輩が探すということまで、ちゃんとわかっていたのに、こっちに戻るなんていうし。
たとえ、私の所にいると知っても、先輩は連れ戻しにきたと思うよ。
それは、正義感とか、そういうものじゃなくて、蜜華(ミツカ)とつながってるからじゃないかな?」
「私・・・と?」
「そう。あんたが今、先輩の事で悲しみにくれて、乗り越えようとしてる。
なら、自分に出来ることをして、蜜華(ミツカ)を応援するしかないって。
だから、先輩はガキのあんたが、どこに逃げようと、何度でも連れ戻しにくるだろうし、探しまくると思うよ。
それは、誰の為でもない。
蜜華(ミツカ)のためだよ。」
いつのまにか、私は麻美(アサミ)に抱きついて泣いてた。
私は、麻美(アサミ)のいうとおり、目をつぶってた。
大和(ヤマト)の心を見る為に、側にいる事にしたのに、見る勇気も持てなかった。
私は反省したの。
大和(ヤマト)を見てみようって。
そして、私も自分の心を見てみようって。
私はちゃんと大和(ヤマト)をわかっていたのかな?って。
そんな思いが胸いっぱいにあふれていた。
大和(ヤマト)の家に戻った。
真っ暗な部屋のあかりをつけた。
夜中の2時。
大和(ヤマト)はまだ、帰っていない。
「探し回っているなんて、自意識過剰だったかな?」
と笑いながら、私は荷物をまた、自分の部屋に持って行った。
大和(ヤマト)が探してない事は、確かにガッカリだったけど、でも、ある意味よかったかも。
だって、あの雨の中探してたら、風邪間違いないもん。
さてと、仕事をしてる大和(ヤマト)はほっておいて、私も寝るかな。
そう思って、キッチンから水を取ろうと冷蔵庫の前に立った時だった。
「バタン。」
と乱暴に扉が閉まる音。
大和(ヤマト)?
そんな事を思いながら、私は廊下に向かって顔をのぞかす。
それを見て、私は驚愕した。
そして、次の瞬間、叫ぶ。
「ちょ・・・何やってんのよ!!」
ガキであることも忘れて、私は素の自分で大和(ヤマト)に向かって叫んでた。
猛スピードで大和(ヤマト)の元へ向かう私。
全身ずぶぬれで立っていた大和(ヤマト)。
私は、側にあったタオルを持つと、座り込んでいる大和(ヤマト)の髪を拭く。
すごく冷たく冷えた髪。
「いつから、こんな姿・・・。
風邪でもひいたら、大変でしょ。
とりあえず、お風呂にはいって・・・うわっ!!」
ってそりゃ、叫ぶよ。
だって、大和(ヤマト)ったら、いきなり私を抱きしめるんだもん。
「ちょっと・・・・。」
と大和(ヤマト)の腕でもがく私に、大和(ヤマト)は消えそうな声で言った。
「よかった・・・無事でいてくれて・・・。」
大和(ヤマト)はそう言ったあと、私の背中越しでぐったりとする。
「大和(ヤマト)?」
不思議に思った私は、大和(ヤマト)のひたいを自分のひたいにくっつける。
信じられないくらい熱い。
嘘でしょ?一体、いくつあるのよ!
それくらい、大和(ヤマト)の体は熱かった。
ベッドに運ぼうにも、大の大人の男を、10歳の少女がかつげるわけもなく、深夜にも関わらず、私は麻美(アサミ)を呼んだ。
ベッドに一緒に運んでくれた、麻美(アサミ)は、「健闘を祈る。」とだけ言ってすぐに帰った。
私は、寝ないで、大和(ヤマト)の看病をしたの。
夜中、オデコのタオルを変えているとき、大和(ヤマト)はうっとりした目で私を見てこう言った。
「蜜華(ミツカ)・・・。」
って。私は、たまらず大和(ヤマト)の耳元に口を当ててこう言っちゃった。
「私は側にいるから。
ゆっくり、休んで。」
声質は、子供のままだから、蜜華(ミツカ)とは違うのに。
でも、熱のせいだったのかはわからないけど、大和(ヤマト)には私の声とわかったみたい。
「やっと、蜜華(ミツカ)に逢えた・・・。」
そんな事を口にしたかと思ったら、私の手を握ったまま瞳を閉じた。
「大和(ヤマト)・・・あなたも、少しは私を愛してくれてたんだね。」
そういいながら、熱い大和(ヤマト)の胸に、頬を重ねた。
「私、欲張りだったのかな?
好きでもなかった大和(ヤマト)が、私を好きになってくれた。
その進歩だけで、満足しなきゃいけなかったのかな。
私と同じくらい好きになっては・・・欲張り過ぎだった・・・かな。」
そんな事を言った私の声は、大和(ヤマト)に聞こえていたかはわからない。
でも、まるで、私の言葉に答えるように、大和(ヤマト)の右手が私の髪に触れ、驚いた私は顔を上げて、大和(ヤマト)を見た。
でも、大和(ヤマト)はスヤスヤと寝息を立てて眠っていた。
時折、「蜜・・・華・・・。」と口にする事はあったけど、比較的よく眠っていた。
その日を境に、大和(ヤマト)は仕事が休みの日は私を、外に連れだしてくれた。
遊園地に行ったり、ショッピングしたり。
今日は、よく二人で行ったお店でのランチとなった。
「ミカ。お前、決まった?」
「うん。このパスタにする。」
と言った時、大和(ヤマト)の携帯がなった。
「悪い。すぐ戻るから。」
大和(ヤマト)はそういうと、外に出て話し始めた。
会社からだとすぐにわかった。
こりゃ、長くなるぞ。
と思った私。
その時、注文を聞きにウエイトレスが来た。
大和(ヤマト)はここにくると、絶対に冒険はしない。
同じものしか食べないから、あれでいいか。
ということで、いつものあれと、私は食べたかったパスタを注文した。
案の定、大和(ヤマト)の電話は長くて、私のパスタが来たとき、戻って来た。
「悪い。遅くなった。」
そう言った大和(ヤマト)の元に、大和(ヤマト)のパスタが届いた。
「ご注文は以上でよろしかったですか?」
と聞かれた大和(ヤマト)は、「えっ・・・・あ・・・はい。」と答えつつ、自分の目の前に置かれたパスタをマジマジと見た。
もしかして・・・これ、食べたくなかったのかな?
「それ・・・嫌だった?」
と聞いた私に、「えっ?いや・・・。」と言った大和(ヤマト)だけど、すごく態度が変。
たまらず、「どうかした?」と聞いた私に、
「あのさ、なんで、ミカ、これを知って・・・。」
とまで、口にした時、また携帯が鳴る。
「しつこいな。」
と怒り出した大和(ヤマト)に、「いいよ。私は、食べてるから。」と言って手を振る。
そのしぐさに、また、大和(ヤマト)は止まる。
「ん?」
とパスタを食べながら聞いた私に、大和(ヤマト)は、「不思議だな。」と口にして、私をとても優しい目でみた。
その時、なっていた携帯がとまり、すごく静かだと感じた。
「不思議って?」
鈍感な私は、そう言いながら、バクバク、パスタを食べてた。
「今の『いいよ。私は、食べてるから。』って言って手を振って俺を送り出すのは、蜜華(ミツカ)の癖だったんだ。
アイツはいつも、俺にそういって、一度も嫌な顔をしなかった。
あの日。蜜華(ミツカ)が、怒り出すまで、俺は蜜華(ミツカ)の辛さに全く気付いてなかった。
蜜華(ミツカ)の優しさに、甘えてたんだ。」
「大和(ヤマト)・・・さん・・・。」
そんな事、思ってくれたの?
本当はそういいたかった。
それに、こうもいいたかったの。
辛いばっかりじゃなかったよ。
一生懸命仕事をしてる大和(ヤマト)を見れた事も、嬉しかった。
だから、そんなに責めないでって、言いたかった。
でも、言えない・・・ごめんね。
思わず、下を向いてしょげてしまう私の髪に、大和(ヤマト)は優しくふれた。
「それにさ、このパスタもそう。
ここにきたら、俺はこれしか頼まない。
だけど、俺、香草がどうも苦手でさ。
だから、いつも、パクチを取ってもらってるんだ。
じゃなきゃ、食べれないから。
ここにあるパスタは、ちゃんと、パクチが除かれてる。
俺の好き嫌いも、このパスタの事も、蜜華(ミツカ)しか知らない。
それを、なんで、ミカが知ってんのか・・・。
すっごい、不思議だな。」
そう言われたら・・・そうだ。
これは、まずいぞ!!
何とかして、ごまかさないと。
「あ・・・えーっと・・・それは・・・。」
かなり怪しい反応。
だって、私、麻美(アサミ)みたいに、スラスラ嘘つけないから。
だけど、私を助けてくれたのは、意外にも、この人だった。
「あー、わかってる。
蜜華(ミツカ)に聞いたんだろ?」
その助け舟に私は即乗っかった。
「うん。そう。」
とうなずいた私の態度に、疑う風もなく、「やっぱりな。」と笑った大和(ヤマト)。
はぁー、よかった・・・。
心からため息をついて、安心した私。
その時、さっき切れた携帯がまた鳴った。
結局、大和(ヤマト)がいないと、仕事にならないという事で、お昼を食べた大和(ヤマト)は、その足で、会社に戻ってしまった。
私は、あれだけ大和(ヤマト)が、会社に行く事が嫌だったのに、なんでかな?
とても穏やかな気持ちで、送り出せれてた。
それは、なんとなくだけど、気持ちがわかってきたからかな?って思う。
大和(ヤマト)が私以上に、私を想っていてくれたかは、さておき、それなりに私を必要として、私を好きでいたくれた事はわかってきた気がしたから。
大和(ヤマト)といた、この2週間で、私はそれを少しだけ感じれたから。
それから、2日経ったある夜。
玄関の扉が開いた。
今日は、ちゃんと夕食時に帰るから、一緒にご飯食べよう。と言ってくれたから、私は腕によりをかけて、大和(ヤマト)の帰りを待ってた。
台に乗って作るのはさすがに、不安定で恐かったけど、頑張ったよ。
だけど、急な仕事で帰って来れないかも?って気持ちもあったの。
でも、それだったら、それで仕方ないな。って諦めていたから。
なんだけど・・・大和(ヤマト)は帰って来た。
私はキッチンから廊下に出る。
背広姿の大和(ヤマト)が、スリッパをこすりながら、歩いてきてた。
「おかえりなさい。」
と言った私に、「ただいま。」と答えた大和(ヤマト)は、すぐにキッチンを見る。
テーブルにスタンバイされている食事を見て、「やるなー。」と笑うと、
「着替えてくる。」
と言って、自分の部屋に入っていった。
それから、すぐに大和(ヤマト)はキッチンに来てくれて、二人で「いただきます。」と手を合わせた。
箸に手をかけた大和(ヤマト)は、テーブルに置かれた食事を見て、
「ホント・・・料理うまいんだな。」
と褒めてくれた。
私のときは、そんな事、一言も言ってくれなかったのに。
まー、22歳が作るのと、10歳児が作るのとでは感動が違うんだろうけど、ちょっとおもしろくないかもー。
黙っている私に、「何?なんで、黙ってるの?」と不思議そうに聞いてきた大和(ヤマト)。
あっ!いっけなぁーい。
こんな事で膨れてたら、私が蜜華(ミツカ)だって、バレちゃうよ!
って事で、怒りを隠して、私は笑顔になる。
「あまりにうれしくて、言葉がでなかった。」
と言って、「テヘ。」とガキスマイルでごまかした私。
そんな私に、「ならいいけど。」とさらっと答えた大和(ヤマト)は、サラダを食べようとして、何かを探す。
その姿を見て、ピンと来た。
「あっ、ごめん。今、出すから。」
私はそう言って、イスから飛び降りると、冷蔵庫からポン酢を取り出した。
えっ?って思ったでしょ。
そう。ポン酢って、お鍋の時に使うポン酢ね。
大和(ヤマト)はなぜか、サラダにはポン酢をかける。
マヨネーズでも、ドレッシングでもない。
ポン酢なんだー。
それを、大和(ヤマト)の目の前にポンと置いた私。
「ああ。サンキュ。」
と言った大和(ヤマト)は、それを受け取ると、いつもみたいに、適当にかけると、私に返してきた。
大和(ヤマト)しか使わないから、私は何も思わないまま、それを受け取って冷蔵庫にしまった。
「この肉じゃが、すっげぇーうまい。」
そういって、パクパク食べる大和(ヤマト)。
「そう?口にあってよかったです。」
と言った私だけど、心の中ではアッカンベーをする私。
おいしいの当たり前じゃないって。
だって、大和(ヤマト)が好きな味付けにしてるんだから。
少し甘めで、それでいてジャガイモにしっかり味を染み込ませる。
そうじゃないと、大和(ヤマト)は、「薄い。」と言って食べないから。
私たちが付き合った頃に、大和(ヤマト)はここで、一人暮らしを始めたから、それから私はここで大和(ヤマト)の食事を時間がある限り作るようになった。
最初は、料理なんて出来なかったし、好みもわからなかったからもう、最悪で。
「こなくていいよ。」
とまで言われた・・・苦い過去がある。
だけど、諦めずに少しずつ大和(ヤマト)の味の好みを知って、私は大和(ヤマト)が好む味を出せるようになった。
この肉じゃがも、大和(ヤマト)がやっと絶賛してくれた物なんだから。
褒められて当たり前。
小さくなっても、腕と味覚は衰えてなかった事に、実はホッとしたりしてた。
「ミカ。風呂先にごめんな。
上がったから、お前もすぐに入れよ。」
そう言って濡れた髪を拭きながら、リビングに来た大和(ヤマト)。
洗い物があるから、先に風呂に入ってきて。と私が言ったから、大和(ヤマト)はあまり気乗りしなかったけど、先に入った。
「うん。これ、もうちょっとで終わるから、終わったら入るよー。」
と答えた私は、蛇口から流れているお湯を、一旦止めると、台からジャンプして降りる。
そして、リビングのソファーに座って、ノートパソコンに電源を入れた大和(ヤマト)は、テーブルに出しっぱなしの透明なファイルを開ける。
大和(ヤマト)は、お風呂から上がってくると、気分がリフレッシュするとかで、しばらく仕事をするの。
だいたい30分くらいなんだけど。
それが終われば、パソコンを閉じて寝るとかニュースを見るとかするんだけど。
ガキの私がここに来てからは、一度もしなかったのに。
いつも、お風呂上りはさっさと部屋に戻ってた。
今日は、夕食も一緒に食べようっていうし、どうしたのかな?
なんて、思いながらも、タバコを片手にパソコンをいじる姿を見ると、いつもの癖で私は、彼にある物を渡した。
「これがないと、いい案浮かばないんじゃない?」
そう言って彼に渡したのは、缶ビール。
それを見た彼は、
「おっ!気がきくねー。」
と言うと、笑顔で受け取り普通に飲んだ。
ホントはね、ちょっと、私の事蜜華(ミツカ)かな?って疑ってくれるかも?って・・・期待はあったの。
だけど、やっぱり、思わないよね。
いくらなんでも、こんなガキになってるなんて、誰も思わないもん。
私は苦笑いをしながら、またキッチンに戻って後片付けの続きを始めた。
そんな私に、仕事をしていた大和(ヤマト)が急に、声をかけた。
「なー、ミカ!」
その声に、「何?」と振り返った私。
てっきり、パソコンとにらめっこしてると思っていたのに、彼が見ていたのは、別の物。
それを、部屋のあかりに照らしながらマジマジと見ていた。
「これ・・・何?」
そう言って目を輝かせていた彼の姿が、ちょっと子供っぽくてかわいく見えた。
「それね、Blue Jewelって言うんだって。」
と答えた私に、「青い・・・宝石?」と訳した大和(ヤマト)。
さすが、頭がきれるだけある。と、心の中で拍手をした私。
「これ、どうしたの?」
やたらと聞いて来る大和(ヤマト)だったけど、私はただ珍しいからなのかな?と思って何とも思わずに、
「道端でアクセサリーを売っているお姉さんにもらったの。」
「アクセサリーを売ってる人?」
「そう。綺麗でしょ。」
と言った私は、「ごめん、私そこに出しっぱなしにしてたね。」と大和(ヤマト)に謝った。
大和(ヤマト)が帰ってくるまで、リビングで日記を書きながら、料理してたから。
その時に、Blue Jewleも一緒に持ってきてたから、出してみてたの。
そのままにしてた。
「ごめん。それ、袋に入れておいて。」
と頼んだ私に、「ああ。」と答えた大和(ヤマト)。
私は、大和(ヤマト)に背を向けると、残っていたお皿を洗う。
しばらく洗っていて・・・あぁー!!
大変な事に気付いた。
や・・・ばい!!
私は、お湯を出しっぱなしで、大和(ヤマト)の方に振り返った。
「待って!!開けないで!!」
と叫んだ私に、「ん?」とビックリした顔で振り返った大和(ヤマト)。
「中・・・見た?」
と恐る恐る聞いた私に、「いや。」と首を振った大和(ヤマト)。
「中に何か入ってたの?
俺、さっきの青い石だけ入れただけだから、中見てないけど。
何か重要なものが入ってたの?」
重要も重要。
大変なものが入ってたよ。
それは、この世に二つとない、大和(ヤマト)の第二ボタン。
私は、あのボタンをいつも持ち歩いてるの。
なんか、持っていると、大和(ヤマト)が側にいるみたいで、安心するの。
スッカリ忘れてたよ。
第二ボタンと、ブルーストーンを一緒に入れてたの。
見てないって言ってたけど・・・・。
私は、一応、再度念を押して見た。
「本当に見てない?」
大和(ヤマト)の側に駆け寄った私。
そして、大和(ヤマト)の側にある袋を素早く奪い取ると、自分のエプロンのポケットに入れた。
疑いの眼差しで見る私に、
「そんなに大事なものなら、置いておくなよ。」
と笑いながら答えた大和(ヤマト)は、私の髪をくしゃと優しくなでた。
「髪、乾かしてくる。」
そう言って、洗面所へと消えた大和(ヤマト)。
「なによ。いつもは、ドライヤーなんて使わないくせに・・・。」
とちょっとすねる私。
私の態度に機嫌をそこねた?
だって、しかたないでしょ?
私が蜜華(ミツカ)だって、ばらすわけにはいかないんだから。
ていうか、知られちゃいけない気がするの。
知られたら、ここにいられなくなっちゃうような・・・。
そんな気がするから・・・。
私は、胸に押し寄せてくるいいようもない不安に押しつぶされそうになった。
自然と、涙が溢れてた。
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