2             〃      後編
2008.01.01 Tue. 
その日から、大和(ヤマト)は3日間家には戻ってこなかった。
家を出る前、
 
「週末までにやらなきゃいけない仕事があるから、2,3日帰ってこれないと思うけど、ちゃんと戸締りしてろよ。
週末には、2人で、どこか行こう。
その時、ミカにいいもんやるよ。」
 
大和(ヤマト)はそう言って出て行った。
3日帰ってこないのは、私を避けているわけじゃなくて、仕事なんだってわかってる。
でも、この間の事があっての次の日じゃない?
気になっちゃって・・・。
私は、差し入れという理由を強引に作って、大和(ヤマト)に逢いに会社に行く事にしたの。
夜の10時。
わずかな、あかりだけが見える会社を訪れた私。
 
「君・・・誰?」
 
20歳前後の男性が出てきた。
 
「私は、真鍋大和(ヤマト)さんにお世話になってる者で、ミカといいます。
大和(ヤマト)さん、いますか?」
 
そう言って頭を下げたんだけど、「えっ?」とその人は言うと、
 
「誰って?」
 
と、聞き返された。
「ん?」と思いながら、
 
「真鍋大和さんです。
3日前に、仕事で会社にいるといって出て行ってから、帰ってきてなくて。」
 
と付け加えた私だけど、「いや、彼は・・・。」と言いにくそうに口にした、その人は信じられない言葉を言った。
 
「真鍋先輩なら、3日前から有休で、休んでますよ。」
 
「えっ?」
 
心臓がつかまれたかと思った。
どういうこと?
大和(ヤマト)が・・・いない??
会社を休んで一体どこに?
思わず手に持っていたお弁当を、落としてしまうくらいのショックを受けた私。
 
「君・・・大丈夫?」
 
目の前の彼は、落ちて散らかっているお弁当を見て、
 
「うわぁー。もったいない。」
 
と言っていた。
その時だった。
 
「今の、何の音?」
 
その声に、彼は振り返る。
そこに立っていた人を見て、急に背筋を伸ばす彼。
どうやら、彼の先輩みたいだった。
 
「八城(ヤシロ)先輩。」
 
そう言った彼の言葉に、固まっていた私の頭はユックリと動き出す。
今、確かヤシロって言ったよね。
私は、伏せていた顔を上げる。
そんな彼を見て、私は指をさして叫んでた。
 
「八城(ヤシロ)先輩も、ここだったんですか!!」
 
八城先輩っていうのは、同じ高校の先輩。
つまり、大和(ヤマト)と同じ年で、しかもバスケ部のキャプテンだった人。
そして、彼は、バスケ部の親衛隊でもダントツの人気を誇っていたいわば、アイドル的存在の人。
確か八城先輩は、進学してたはず。
大和(ヤマト)が行くはずだった大学に。
そのあとに、ここに就職したって事??
まさか、こんな所で逢えると思ってなかったから、大興奮の私なんだけど、八城先輩はわけわかんないよね?
 
「君、俺の事知ってるの?」
 
そう言われて、気付いた。
そうだ!私は今蜜華(ミツカ)じゃないだった。
ごまかさなきゃ!
って事で、かなり苦しい嘘をつく。
 
「大和(ヤマト)さんが、言ってたから。」
 
って、そんなわけないってね。
大和(ヤマト)は会社の事も、バスケ部の事もなにも言わない。
私といる時は、自分自身の事とか、私の事とか、そういう事しか話さない人で、あまり友達の事とかも話さなかった。
だから、5年も一緒にいて、八城先輩の名前なんて出てきた事ないっていうくらいなんだけど・・・。
だけど、なんとかごまかせたみたいで、
 
「ところで、君誰?」
 
と言った八城先輩だけど、
 
「あー!もしかして、君が、今大和(ヤマト)が見てるミカちゃんか!」
 
と即切り替えされた。
どういうこと?
私の事を、八城先輩が知ってるって事は、大和(ヤマト)が話してたって事?
どうして?
それを、八城先輩に聞こうとしたとき、後輩の彼が口を開いた。
 
「大和(ヤマト)先輩、仕事だと嘘をついて、家を空けちゃってるらしいんです。
先輩、どこいっちゃったんでしょうね?
八城先輩知ってますか?」
 
すると、「あー、悪い悪い。」と答えた八城先輩は、いきなり私に話しかけてきた。
 
「アイツには、俺の仕事を頼んで、地方に飛んでもらってる。
週末には戻ってくるから。」
 
「なんだ。そうだったんですか。
最近、先輩、残業しないで、さっさと帰っちゃうから、退職を考えたりしてるのかと、心配しちゃいましたよ。」
 
と後輩はいうと、「あー、ビックリした。」と言って、自分のデスクへと戻っていった。
だけど、私は・・・納得できなかった。
 
「最近サッサと帰るって・・・本当ですか?」
 
いつのまにか、八城先輩の腕をつかんでいた私。
私の姿に、「ん?」と優しく聞いてきてくれた八城先輩に、私は続けた。
 
「彼は・・・大和(ヤマト)さんは、ずっと2時、3時の帰宅で、仕事仕事って・・・。」
 
そう言いながら、八城先輩の腕をさらに握る私に、
 
「ちょっと、こっちで話そうか。」
 
と笑った八城先輩は、私の手を取ると、休憩室へと連れて行ってくれた。
 
「何か飲む?」
 
黙って首を振る私に、「まー、そうしょげないで。」と笑った八城先輩は、自販機で、ココアを買うと、私の前にあるテーブルに置いた。
そして、自分は私の向かいに座ると、コーヒーを口にした。
 
「大和(ヤマト)さんが、八城先輩の頼まれごとで有休を使ってるなんて、嘘ですよね?
彼は一体、何をしてるんですか?
残業もしないで、一体何を!!」
 
そう言った私に、「ホント・・・大和(ヤマト)の言った通りだ。」と口にした八城先輩は、持っていたカップをテーブルに置くと、私をとても優しい目で見た。
 
「言った通りって・・・?」
 
首をかしげた私に、「それはね。」と口にした八城先輩は、こう言ったの。
 
「君が、いなくなった大和(ヤマト)の恋人の蜜華(ミツカ)ちゃんに、ソックリだって事。」
 
一瞬・・・心臓が止まるかと思った。
今の・・・どういう意味?
大和(ヤマト)が八城先輩にそんな事を?
それって、私を蜜華(ミツカ)だと疑っているって事?
完全にパニックになった私は、ごまかす言葉もみつからなかった。
ただ、黙って、下を向く私に、八城先輩は続ける。
 
「俺も、高校時代、蜜華(ミツカ)ちゃんを見た事があって。
って、いうより、アイツに見せられたっていった方が正しいかな?」
 
そう言って、クスと笑う。
 
「見せ・・・られた?」
 
私の言葉に、「うん。」と答えた先輩は、「少し昔話を聞いてくれる?」と言いながら笑うと、語りだした。
 
「高校時代、俺も大和(ヤマト)も好きな子が居てね。
俺は、女子バスケ部の同じ学年の子だった。
そして、アイツは誰だと思う?」
 
何も答えずに首を振った私に、先輩は、
 
「陸上部の1コ下の後輩だったんだ。」
 
と口にする。
陸上部で、1コ下?
それって、私と同じ年の子?
一体・・・誰?
胸は高鳴った。
一体大和(ヤマト)は、誰が好きだったの?
私は、誰の身代わりに、第二ボタンとメモをもらったの?
聞くのは恐かった。
だけど・・・なによりも、聞きたかった。
 
「その人は・・・誰だったんですか?」
 
震える口で、必死でそう言った私に、八城先輩は、「それはね。」というと、その名前を言った。
 
「工藤蜜華(クドウ ミツカ)。」
 
息が・・・できなかった。
私の全機能が停止した。
ただ、時が止まったみたいに、八城先輩を見ていた私に、八城先輩は、「実はね。」と言うと、5年前の真実を語った。
 
「大和(ヤマト)のやつさ、その子に一目ぼれしたんだと。
雨が降ると、陸上部は、体育館に来てストレッチをするんだけど、その時に、その蜜華(ミツカ)って子が、友達に接してる姿を見てさ、気に入ったらしい。
優しい話し方だし、一見大人しそうに見えるけど、芯が強くて、しっかりして、時折強さを見せる彼女に惚れたって。
けど、学年も違うし、滅多に逢わないし、話す機会なんてなくてさ。
それで、俺とアイツと、卒業式に告白して、どっちが成功するか競争しようって俺言ったんだよ。
俺は、告白して、見事本命を手に入れてさ。
だけど、アイツは、俺の読み通り、彼女に告白できなかったんだ。」
 
「なんで?」
 
「アイツ、勇気がでなかった。って俺には言ってた。
断られるのもわかってるし、何より、彼女に男を振ってしまったていう傷を背負わせたくないって。
だけど、本当は言いたくても言い出せなかったんだと思う。」
 
「それ・・・どういう意味ですか?」
 
「アイツ、体育大学に進学が決まってた。
2人でまたバスケしような。って言ってたんだけど。
2月に、両親が急に離婚してさ。
下にまだ、弟と妹がいるから、せめて高校はいかせてやりたいからって、自分は大学を諦めて働くと言ってさ。
19歳で社会人って、何かと大変だろ?
万に一つの確率で、その蜜華(ミツカ)ちゃんと付き合う事になったら、蜜華(ミツカ)ちゃんが傷つくからって。
きっと、仕事で手がいっぱいになる自分と付き合ったら、蜜華(ミツカ)ちゃんは重荷になるから、言えないって。
そう思ったんじゃないかな?
だから、アイツは、蜜華(ミツカ)ちゃんに第二ボタンを渡して、自分の連絡先の書いた紙を渡すつもりだったけど、土壇場でやめた。」
 
八城先輩はそこまでいうと、急に笑い出した。
 
「あ・・・の?」
 
と恐る恐る聞いた私に、八城先輩は、「悪い。」と私に一言謝ると、笑った理由を語った。
 
「勝負は俺の勝ちかと思ったんだ。
だけど、逆転満塁ホームランを打たれた。
まさか、蜜華(ミツカ)ちゃんも大和(ヤマト)を好きで、彼女から告白してくるなんてさ。」
 
そう言って笑った八城先輩は、ひとしきり笑うと、「あー、腹いてぇー。」と言いながら、私の顔を見た。
 
「アイツ、すっごい蜜華(ミツカ)ちゃんに惚れてるのにさ、ストレートに想いが言えないみたいで。
不器用というか、要領が悪いというか・・・。
だから、3週間くらい前に別れきりだされちゃってさ。
ホント笑っちゃうだろ?
だから、ちゃんと、理由を言って仕事にのめり込め!って助言してやったのに、驚かしてやりたいから。とかバカな事言ってるから、別れ切り出されんだよ。
ホント、空回りというから・・・見てて、かわいそうだったよ。」
 
って、言いながら、またしても、大笑いしてる八城さん。
全然かわいそうと思ってないでしょ。と突っ込みたいけど・・・それどころじゃない。
今の、意味深な言葉は何?
もちろん、八城先輩を問い詰めちゃった。
 
「空回りって・・・どういう意味ですか?」
 
そう聞いた私に、いきなり、八城先輩は、問題を出してきた。
 
「週末の8月18日。何の日が知ってる?」
 
「何の日って・・・。」
 
私の誕生日!って言いかけて、思わず言葉を飲み込んだよ。
危ない危ないって。
何も言えなくて黙っている私に、八城先輩は、「わかんないかー。」と明るい声でいうと、
 
「大和(ヤマト)の彼女の蜜華(ミツカ)ちゃんの誕生日なんだよ。」
 
と言った。
やっぱり・・・と思っている私に、八城先輩は、ドンドン話を続けた。
 
「アイツ、その誕生日に蜜華(ミツカ)ちゃんにプロポーズしようと思ってんだよ。」
 
「プロ・・・ポーズ?」
 
すっとんきょうな声を出した私に、「すごい反応・・・。」とボソと言った八城先輩は、「そう、プロポーズ。」と念を押すと、言葉を続ける。
 
「だけど、アイツは、結婚したら、絶対に残業も休日出勤もしたくないと言ってね。
それで、今のうちに、後輩にノウハウを教え込みたいって言って、毎晩毎晩残業して、後輩に教え込んでた。
俺も、教え込まれた1人なんだけどね。
ねぇー、アイツがさ、一人暮らしなのに、なんで、あんなに大きなマンションに住んでるか知ってる?」
 
「それは、会社から近いのが、あそこしかなかったからって。
それに、家賃も安いからって・・・そう言ってましたよ。」
 
と答えた私に、「安いも何も・・・。」と言った八城先輩は、ニッコリ笑う。
その笑いが・・・怪しい。
 
「一体・・・なんなんですか?」
 
そう言った私に、「特別、ミカちゃんには、教えてあげよう!」とまたしてもニッコリ笑う。
 
「あのマンションは、賃貸じゃなくて、分譲なんだよ。」
 
「ぶん・・・じょう??」
 
それって、買取?
えっ?どういうこと?
なんで、就職して早々の大和(ヤマト)があのマンションを買うの?
意味が・・・わからない。
完全にパニックになっている私の姿に、またもや、大笑いの八城先輩だけど、笑いながら話を続ける、少し冷たい人だった。
 
「アイツが、あのマンションを買った理由は、二つ。」
 
「ふたつ?」
 
「そう。一つは、仕事場から近い事。
近ければ、定時に帰られなくて少し残業しても、そんなに遅くにはならないだろ?
アイツは、結婚したら、何よりも蜜華(ミツカ)ちゃんと家族を大切にしたいと言ってた。
自分の両親が仲が悪いのを、幼い頃から見てたからだろうな。
そして、もう一つは、お金だよ。」
 
「お金?」
 
「そう。自分が19歳でマンションを買う。
蜜華(ミツカ)ちゃんは、進学希望だったから、短大に進学したとして、そのあと働いてってして、結婚するのは、4,5年後だと思ったんだろうな。
早くにマンションを買って、一人暮らしなら、自分が使わないようにすれば、マンションの支払いにたくさん回せる。
そうしたら、結婚した時、蜜華(ミツカ)ちゃんに苦労をかけなくてすむと思ったんだろう。
だから、アイツは、家族が増えてもいいように、あの広いマンションを買った。
残業がメチャクチャ増えて、頑張っていたのも、全部蜜華(ミツカ)ちゃんとの未来の為だったんだ。
なのに、アイツ、何も言わないからさ、それ伝わらなくて、逃げられちゃって・・・。
ホントマヌケだろ?」
 
そして、また、八城先輩は笑う。
頭がついていかなかった。
だって、何?
この予想も付かないくらいの、急展開は!!
大和(ヤマト)が残業してたのは、私の為?
あのマンションも私の為?
全部全部、私と一緒に歩む為の未来の為だった??
そんなの、頭がぐっちゃぐっちゃになるに決まってるじゃない。
うまく、気持ちと現実がかみ合わないよ。
でも、それよりも、1つ気になった事が・・・。
それは、やっぱり、あのマンションの事だった。
現実問題、19歳の未成年でさらに、就職したての貯金もない男が、マンションなんて買える?
そんなの、無理でしょ?
もしかして、八城先輩は、私が蜜華(ミツカ)だと疑って、それでわざと、大和(ヤマト)の事、いいように言ってない?
そんな疑いを持った私は、八城先輩から真実を聞くため、またもや、尋問を開始した。
 
「でも、働いてまもない19歳の子供が、マンションなんて買えるのかな?」
 
子供口調で聞いた私に、「それは、大丈夫。」と笑顔で答えた八城先輩は、種明かしをした。
 
「あれは、契約上、俺のオヤジが買った事になってるから。」
 
「八城先輩のお父さんが?」
 
そう叫んで・・・思い出した。
八城先輩のお父さんは、大手の機械メーカーの社長をしてたはず。
でも、八城先輩の家は、確か男3人兄弟で、先輩が一番下で、先輩はあと継がなくていいから、好きな事をしてるんだって、クラスの女子が騒いでたっけ?
確かに、あんな金持ちの社長なら、マンションの1つや2つ、簡単に買えるよ・・・。
 
「大和(ヤマト)と俺は、ガキの頃から仲良くてね。
オヤジは、大和(ヤマト)の事を自分の息子のようにかわいがっていたから、大和(ヤマト)の力になるなら、たやすい事だと、自分名義でマンションを買った。
そして、大和(ヤマト)がハタチになった時に、名義を大和(ヤマト)に変えたんだ。
今は、大和(ヤマト)は、俺のオヤジに金を返してる形になってる。
だけど、俺も、オヤジも、思ってるよ。
オヤジが買ったんじゃない。
大和(ヤマト)の保証人になっただけだってな。
アイツの男気には、ホント脱帽だよ。
昔も、そして・・・今も。」
 
そう言った八城先輩は、急に私を見つめると、「アイツ、今どこにいるか、教えてあげようか。」と口にすると、私の返事を聞かずに言い出した。
 
「九州の長崎。」
 
「えっ?」
 
私はそうしかいえなかった。
だって、長崎って・・・まさか。
 
「それって・・・。」
 
「そう。蜜華(ミツカ)ちゃんがお世話になっている“はず”の短大の先輩の実家がある場所。
あっ、つまり、君!
ミカちゃんのおうちがある場所だよね。」
 
「なんで?どうして、居場所が!!」
 
絶対にわかるはずもない場所を、なぜ、大和(ヤマト)が??
どうして??
驚きとそして、焦りが一気に私に襲ってきた。
あまりの出来事に言葉がでない私と違って、八城先輩は落ち着いた口調で続けた。
 
「アイツが、自分で調べたんだよ。
毎晩、俺の自宅の書斎に入り浸ってね。
ずっと、パソコンとにらめっこ。
あっ、あと、電話も掛けまくってたかな。
夜遅くに迷惑だからやめろ!って言ったんだけど、蜜華(ミツカ)ちゃんと親しかった先輩を突き止める為に、アイツは必死だったよ。
朝も、仕事前に来て、この3週間必死で、蜜華(ミツカ)ちゃんの居場所を突き止めようとしてた。
それで、あいつ、自分の目で確かめてくるって。
その先輩の家に、蜜華(ミツカ)ちゃんがいないことは、電話で確認済みだっていうのにね。」
 
八城先輩はそう言ったあと、テーブルに両ひじをついて、私の顔に自分の顔を近づけてきた。
 
「キミが、大和(ヤマト)のマンションに来た次の日だったか。
俺、大和(ヤマト)に言われたんだ。
ミカちゃんが、蜜華(ミツカ)ちゃんじゃないかな?って。
俺は、まさか!って笑い飛ばしてやったけど、でも、アイツは自分でいろんな事を解明していったよ。」
 
「解明?」
 
「そう。まず、蜜華(ミツカ)ちゃんの一個先輩である人の子供が、10歳のはずがないという矛盾から、始まり、あとは・・・。
まー、色々ね。」
 
「色々って、何ですか?」
 
その奥歯に物が挟まったような言い方が気になる!
私は、八城先輩の腕をつかんで、いつのまにか、必死で聞いていた。
私の熱心な姿に、八城先輩は、「クス。」と優しく笑うと、
 
「その辺は、大和(ヤマト)と話した方がいい。
君の誕生日にアイツは戻って来るよ。
“真実の愛”を持ってね。」
 
そういうと、私の手を自分の腕から離した。
今、八城先輩おかしなこと言わなかった?
真実の愛って・・・。
それって、まさか!!
 
「今の・・・。」
 
と言いかけた私に、先輩は言葉をかぶせてきた。
 
「ミカちゃんが持ってるBlue Jewelだっけ?
それの言い伝えなんだろ?
その石に選ばれたものは、真実の愛を手に入れるって。」
 
「なんで、それを・・・。
もしかして、あの石、八城先輩のものだったんですか?」
 
「まさか。」
 
と言って首を振った八城先輩は、
 
「言っただろ?
大和(ヤマト)が、全て解明していったって。」
 
と笑った八城先輩。
 
「それって、どういう・・・。」
 
「意味かって?
大和(ヤマト)が、必死になって探したんだよ。」
 
「何を?」
 
「ミカちゃん・・・いや、蜜華(ミツカ)ちゃんの時にだから、蜜華(ミツカ)ちゃんがかな?
譲ってもらった人を必死でね。
アイツは、探したんだ。」
 
「嘘。」
 
「ホント!
きっと、自分と別れ話をした時の帰りだろうって、大和(ヤマト)のやつヤマはってさ。
それで、その人を探し出して、あのBlue Jewelの言い伝えを聞いたんだそうだ。
アイツは、ピント来たんだろうな。
その石が、蜜華(ミツカ)ちゃんをこんな姿にした事。
そして、元に戻す方法は、自分が変わらなくちゃいけないってこと。
アイツは、何かを見つけて戻ってくるから。
だから、アイツを信じて待っててやって。」
 
八城先輩はそういうと、私の髪を優しくなでた。
大和(ヤマト)とは、違った手の大きさだった。
 
「家まで送る。帰ろうか。」
 
私は素直に、頷いていた。
2日後・・・大和(ヤマト)が何を見つけて、私の元に戻ってくるのか。
すごく恐かった。でも、何となく、感じてた。
これで、何もかもが終わるって。
大和(ヤマト)との恋が終わるのか、それとも、ミカとしての生活が終わるのか・・・。
どっちにしても、2日後に、全ては決まる。
そんな思いがしてた。
 
 
 
 
時計の針の音が、やけに大きく聞こえた。
まるで、カウントダウンみたいで、1秒1秒の音が、胸にズキンズキンと刺さるようだった。
私は、壁の時計を見て、思わずこう言った。
 
「あと・・・30分。」
 
私の誕生日が終わるまで、あと30分しかない。
8月18日。
予定では、お昼には帰って来てくれるはずだった大和(ヤマト)が、11時半を過ぎた今でもまだ帰ってこない。
新幹線が事故で止まってしまって、予定時刻に戻ってこれなくなったと、八城先輩から連絡があった。
それを受けたとき、「うそっ!」って思った。
だけど、もう、ここまできたら、こう思えるようになった。
もし、間に合わなかったら、それはそれでしかたないと・・・。
私の誕生日が本当に、私が元の姿に戻るキッカケを作ってくれる日かはわからない。
大和(ヤマト)が、戻って来た所で、私が元の姿に戻れるかも・・・本当の所わからない。
だけど、なぜかわからないけど、そんな気がしてならない。
私の誕生日が終わるまでに、大和(ヤマト)とわかりあえたら、私は元に戻れるんじゃないかって・・・。
そんな気がしてならないから。
だから、大和(ヤマト)が間に合わなければ、私は一生このままか、命が尽きてしまうのか・・・。
それはわからないけど、それも、運命だと受け入れたい。
私が愛した大和(ヤマト)が間に合わなかったのなら、諦めもつく・・・。
そんな思いが私の心の中で、芽生え始めていた。
 
「蜜華(ミツカ)!!」
 
聞こえるはずもない玄関からそんな声が聞こえた。
私は、座っていたリビングのソファーから立ち上がると、廊下へと出る。
でも、出た瞬間、私は抱きしめられた。
私を抱きしめたその人は、勢いよく走ってきたせいで、私を抱いたまま、フロアーへとしゃがみこんだ。
私を、ギューっと抱きしめる大和(ヤマト)の心臓が、ものすごく速く動いているのに、驚いた。
 
「急いで・・・くれたの?」
 
彼の胸でそう囁いた私に、「当たり前だろ。」と息を切らせながら言った大和(ヤマト)は、私を抱きしめたまま私の背中越しで口を開いた。
 
「新(シン)に、全て聞いたんだろ?
俺が、どこに行ってたか・・・。」
 
新(シン)っていうのは、八城先輩の事だと察知した私は、「うん。」と頷いて答えた。
それを聞いた大和(ヤマト)は、私の髪を優しくなでた。
 
「長崎に行って、蜜華(ミツカ)が仲良くしていた先輩にも逢って来た。
その先輩が言ってたよ。
来年結婚する事が決まったから、結婚式にはお前に来てほしいって。」
 
それを聞いてちょっと、笑っちゃった私。
私の態度に、「ん?」と不思議な声を上げた大和(ヤマト)は、少し腕を緩めると私を覗いてきた。
3日ぶりに大和(ヤマト)の顔を見た私は、心が潤ってくるのがわかるくらい、ほっとしてた。
 
「結婚もしてない先輩に10歳の子がいるは・・・失礼すぎるよね。」
 
そう言って笑う私に、「確かにな。」と言って笑った大和(ヤマト)は、
 
「今回の案を出したのは、麻美(アサミ)ちゃんだろ?
彼女、とっさの回転の速さはあるけど、メチャクチャだよ。」
 
なんて言ってる。
それには、私も大笑いしちゃって、
 
「確かにね・・・。」
 
と認めた。
おかしくてずっと笑っている私の頬に、急に大和(ヤマト)の手が触れた。
驚いて笑いが止まる私に、大和(ヤマト)はポケットから出してきたものを私の左手の薬指に付けた。
 
「これ・・・・。」
 
そこには、高そうな指輪が光ってた。
もちろん、大きさはブカブカ。
そのアンバランスな姿に、「当たり前の事だけど・・・笑える。」と言って少し声を出して笑った大和(ヤマト)は、私の首にプラチナのネックレスをかけた。
 
「蜜華(ミツカ)が元に戻るまで、ここにかけてろ。」
 
そして、私の指から指輪をとると、首の後ろにあるフックから、器用に指輪をくぐらせた。
その指輪は私の鎖骨をスルスルと通って、私の胸で止まった。
指輪を触って、見つめる私を、また優しく自分の胸に抱き寄せた大和(ヤマト)は、私の髪をまたなでた。
 
「もし、お前がこのまま元に戻らなかったとしても、俺は待つから。」
 
その言葉に、「えっ?」と言った私。
意味がわからなかった私は、大和(ヤマト)を見上げる。
私の視線を感じた大和(ヤマト)は顔を下に向けると、私をみつめた。
 
「蜜華(ミツカ)が結婚できる16。
いや・・・高校はいかせてやりたいから、18だな。
8年後に、俺と結婚してほしい。
それまで、ここから学校に通えばいい。
学費も全て俺が出すから。
俺の側で、俺だけの為に、生きてくれ。」
 
「大和(ヤマト)・・・本気なの?」
 
小さくなった私。
どこにも行き場のない私を、大和(ヤマト)が一生面倒みてくれるって。
そんなの、重荷になるに決まってるじゃない。
なのに、私を育ててそして、結婚してくれるなんて・・・。
知らず知らずのうちに私の瞳からは、熱い物が流れてた。
 
「バカ・・・何泣いてんだよ。」
 
そう言いながら、大和(ヤマト)の手が私の頬に触れる。
優しく涙をぬぐってくれる大和(ヤマト)の手が、この上なく暖かくて、私の胸を熱くした。
 
「だけどもし、このまま、何年経っても成長しなかったら?
2年経っても、8年経っても、10歳のままだったら?」
 
結婚できないよ・・・。
一生、大和(ヤマト)に近づけないよ・・・。
そんな思いが溢れてきて、私の涙は一向に止まらなかった。
だけど、その涙を止めたのは、大和(ヤマト)の信じられない言葉だった。
 
「いいよ。それでも。」
 
「えっ?」
 
大和(ヤマト)の言葉に私は、大和(ヤマト)にみとれてた。
そんな私に、大和(ヤマト)は、「変な顔。」と言いながら優しく笑う。
 
「例え蜜華(ミツカ)がこのままで、俺との差が、12歳から15歳になっても。
一生、縮まらなくても・・・。
蜜華(ミツカ)と法律上、結婚できないにしても、それでもいい。
俺にとって、俺の奥さんになる人は、蜜華(ミツカ)だけだから。
俺の側にいていいのも蜜華(ミツカ)だけだし、お前以外俺、いらないからさ。」
 
そう言った大和(ヤマト)は、私の頬についている水滴を、キスでぬぐう。
大和(ヤマト)が触れた頬が、息づいているみたいに、熱くなるのを感じた。
大和(ヤマト)の想いが痛かった。
小さくなった私を遠ざける所か、受け入れようとしてくれた。
その大和(ヤマト)の深い愛を肌と心と言葉で感じた私は、嬉しくて知らない間に、大和(ヤマト)に抱きついてた。
 
「ごめんね、大和(ヤマト)・・・ごめんね。」
 
そもそも、私がこんな姿になったのは、きっと私が大和(ヤマト)の思いを疑ったからだ。
大和(ヤマト)にこんなに愛されていたのに。
なのに、私が大和(ヤマト)の愛を疑い、そして、大和(ヤマト)に愛されたいと高望みしたから。
こんなに愛してくれていた大和(ヤマト)の気持ちを、全然わかっていないくせに・・・。
ううん。分かろうとしなかったくせに、私は大和(ヤマト)の愛をほしいと贅沢を言った。
きっと、バチが当たったんだ。
人の心を知ろうとしないで、自分の想いだけを相手に求めて押し付けたから・・・。
だから、バチが当たったのよ。
 
「なんで?どうして、蜜華(ミツカ)が謝るんだ?」
 
耳元で聞こえる大和(ヤマト)の優しい声。
久しぶりに向けられた蜜華(ミツカ)に見せていた大和(ヤマト)の姿。
本当に心が、『安心』って言葉で満たされた。
 
「大和(ヤマト)を疑ったから。
いっぱいいっぱい、大和(ヤマト)を傷つけたから。
だから、私、バツを受けたんだよ。
なのに、またそのバツは、大和(ヤマト)を傷つけてる。
大和(ヤマト)の負担になってる。
ごめんね・・・ごめんね・・・。」
 
そう言って何度も何度も謝った私に、大和(ヤマト)は、「バカな事、言ってんなよ。」とタメ息交じりに言うと、私の頬に自分の頬をくっつけてきて、お互いの温度を交じりあわせた。
 
「もとはといえば、俺が悪いんだよ。
蜜華(ミツカ)に何も言わずに、暴走した俺が・・・。
だから、蜜華(ミツカ)が自分を責める事はない。
俺の方こそごめんな。
お前をこんな姿にしてしまった。
ホントに・・・ごめん。」
 
私は、大和(ヤマト)とくっついているにも関わらずブンブンと首を振る。
私の頬が、大和(ヤマト)の頬に当たって、
 
「痛いから、振るなよ・・・。」
 
と否定されて、私は首振りをやめて、また大和(ヤマト)と触れ合いながら静かになる。
 
「ねぇー・・・大和(ヤマト)・・・。」
 
ユックリ口を開いた私に、「ん?」と優しい声で聞いてきてくれた大和(ヤマト)に、私は聞いたんだ。
ずっとずっと、聞きたかった事を。
 
「一つ・・・聞いていいかな?」
 
「何?」
 
「私が大和(ヤマト)に最後にあった時に、大和(ヤマト)言ったよね?
『もとはといえば、お前から言ってきて、つきあったんだ。
お前が別れたいなら、そうしたらいい。
お前のしたいようにしろよ。』って・・・。
私は、大和(ヤマト)が、私に対して執着がないのかと思ったの。
私の事、好きでもなければ嫌いでもない。
どっちでもいいみたいな・・・そういう感情かな?って。
だけど、こんなにも私を想ってくれてて、そして、私との将来も考えてくれてた。
だから、余計にわからないの。
じゃあ、どうして、あんな事言ったの?
私が、別れるって言ったら、それで、納得するつもりだったの?」
 
私が大和(ヤマト)に、ずっと聞きたかったのは、これだったの。
前に、麻美(アサミ)に言われたから。
私の解釈は、間違ってるんじゃないか?って。
大和(ヤマト)にしか、わからない意図があるんじゃないか?って。
確かに、今の大和(ヤマト)の気持ちを知れば、麻美(アサミ)の言っている事が正しいとわかった。
私の解釈は、間違っていのかもしれないって。
でも、だったら、余計にわからない。
一体、あの言葉にどんな大和(ヤマト)の想いが、隠されていたんだろうって。
そう思うと同時に、知りたくなった。
大和(ヤマト)の本当の心が、もっともっと知りたくなったの。
 
「納得なんて、できないよ。
別れるつもりなんてなかった。
だけど、仕方ないって・・・そう思ったんだ。」
 
「仕方・・・ない?」
 
くっついていた大和(ヤマト)の頬を離して彼を見つめる私の瞳に、大和(ヤマト)も合わせる。
 
「新(シン)に聞いたかもしれないけど、俺はずっと蜜華(ミツカ)が好きだった。
俺の告白が出来なかった本命は、お前だったんだよ。」
 
「うん。」と頷いた私に、大和(ヤマト)は優しく笑うと、私の顔をまた、自分の胸へとくっつけた。
 
「理由はどうあれ、俺は、蜜華(ミツカ)に告白する勇気も持てなかった。
だけど、蜜華(ミツカ)は俺に告白をし、さらに、俺が本命に振られたと思っていたにもかかわらず、俺につきあおうと言ってきたよな?
俺を助ける為に、自分は玉砕覚悟で・・・。
俺は、お前に寂しい思いをさせると思って告白を諦めた。
だから、蜜華(ミツカ)に告白されても、断るべきだったんだ。
だけど、俺にはできなかった。
好きな女のあの真っ直ぐで強い瞳に、答えたいって・・・そう思った。
だけど、その一方で思ったんだ。
蜜華(ミツカ)が言ってくれなければ、俺たちは絶対に始まっていなかった。
蜜華(ミツカ)の強さと想いがあったから、俺はこんな幸せを手に入れられたんだって。
だから、蜜華(ミツカ)がこれを終わらしたいと言ったら、俺は身を引こうって。
蜜華(ミツカ)に告白ができなかった弱い俺から出来る、せめてもの事だからって。
俺は、ずっとずっと自分自身にそう言い聞かせてきた。
蜜華(ミツカ)が俺を一生愛してくれる事を、ずっとずっと祈っていたような気がする。
だから、あの時・・・。
蜜華(ミツカ)に別れたいと言われた時、俺は強がって、あー言ったんだ。
だけど、1日経って、やっぱりイヤだと気付いた。
蜜華(ミツカ)に、余計嫌われるかもしれない。
蜜華(ミツカ)の迷惑に、なるかもしれない。
それでも俺は、蜜華(ミツカ)を手放したくないって。
悪あがきでもいい。醜くてもいい。
ダダをこねてやろうって・・・そう思ってさ。
蜜華(ミツカ)に、電話をしようとしたんだ。
そしたら、麻美(アサミ)ちゃんから電話があって。
ミカを預かってほしいって・・・。」
 
それって・・・最初に麻美(アサミ)がした電話だ・・・。
大和(ヤマト)が言ったあの言葉の意味は、そういう意味だったんだ。
麻美(アサミ)の言った通り、深い意味があったよ。
大和(ヤマト)の優しい想いが詰まった・・・深い深い言葉だったよ。
 
「大和(ヤマト)・・・どこで、気付いたの?」
 
突然そう言った私に、「えっ?」と聞き返してきた大和(ヤマト)。
だから、私はもう一度言ったの。
 
「私が蜜華(ミツカ)だって、いつ気付いた?
まさか、こんなガキになってるなんて・・・信じられなかったでしょ?」
 
そう言って笑う私に、「確かに・・・驚いた。」と笑った大和(ヤマト)は、「そうだな。」というと、少し考えた。
 
「一番最初に、ミカと握手した時に、『あれ?』って思ったけど、『まさか』って思いの方が強くて。
あまり、気にも留めなかったな。
でも、高熱出して寝込んだ時。
俺は、ずっと蜜華(ミツカ)が側いると思ってた。
俺のひたいに触れる感触とか、俺に話しかける言葉遣いとか・・・。
そういうのが、全て蜜華(ミツカ)だったから。
でも、目を開けたら、側で看病してくれていたのは、ミカだった。
それで、お前に疑いを思った。
もしかして?って。」
 
それを聞いて、納得したよ。
 
「だから?」
 
「ん?」
 
「だから、あの日から、大和(ヤマト)、ミカと一緒に過ごす時間を増やしたの?
ミカを見るために・・・。」
 
「ああ。」と笑って答えた大和(ヤマト)は、私から手を離すと、暑くなったのか、着ていたスーツの上を脱いだ。
 
「ミカと過ごせば過ごすほど。
ミカを見れば見るほど、お前が蜜華(ミツカ)とダブルんだ。
あの時のパスタにしても、お前が作ってくれた料理にしても、俺の好みにしても。
全部が、蜜華(ミツカ)にしかわからない事だったし、タイミングも一緒なんだよな。」
 
「たい・・・みんぐ?」
 
そう言って首をかしげた私に、「そう。」と答えた大和(ヤマト)は、また私を抱きしめる。
 
「出すタイミング。言うタイミング。
全てが蜜華(ミツカ)と一緒。
ミカといても、蜜華(ミツカ)といるんだと錯覚してしまうくらい、お前は蜜華(ミツカ)だった。
だけど、お前が蜜華(ミツカ)だと確信したのは、やっぱ、『あれ』かな?」
 
っていいながら、笑っている大和(ヤマト)の顔が・・・ちょっと意地悪?
気になった私は、もちろん、即質問する。
 
「あれって・・・何?」
 
すると、大和(ヤマト)は、私がとるのを忘れてつけたままにしていたエプロンのポケットに手を突っ込むと、そこから小さな袋を出した。
 
「俺にバレそうになって以来、肌身離さず持ち歩いてるだろ?
料理する時は、ここに入れて。」
 
そして、その袋を開けて、自分の手のひらの上に、中の物を出した。
1つは、ブルージュエル。
そして、もう一つは・・・。
 
「知ってた・・・の?」
 
だって、大和(ヤマト)はあの時、見なかったと言ったのに・・・。
 
「ああ。あの時・・・。
入れる時に見えたんだ。」
 
と言ったあと、自分の手のひらにある物に目をやる。
 
「蜜華(ミツカ)にやったはずの俺の第二ボタンを、ミカが持ってるなんて、ありえないだろ?
それで、俺はミカに疑いを持った。
あと、このブルージュエルの存在にも・・・。」
 
「ブルージュエルにも?なんで?」
 
「だって、こんなものお前持っていなかっただろ?
人の思いだけで、小さくなったりするかな?って。
もっともっと強い何かが、関わってる気がしたんだ。
だから、こいつが疑わしいかな?って。
とにかく、必死だった。
ミカが本当に蜜華(ミツカ)なのかを、とにかく早く俺は知りたかったから。」
 
大和(ヤマト)はそう言ったあと、私の頬に触れると、私に顔を近づけてきた。
 
「蜜華(ミツカ)・・・誕生日おめでとう。」
 
そう言ったあと、唇を近づけてきた大和(ヤマト)は、甘く優しい声でこう言った。
 
「愛してるよ、蜜華(ミツカ)・・・。」
 
って。その言葉は素直に心の中に入ってきた。
この瞬間、私は感じたの。
大和(ヤマト)は、私が大和(ヤマト)を想っている以上に、愛してくれていたって。
そして、これからも、私を無量の愛で、愛(イツク)しんでくれるんだって。
触れ合った唇から。
触れ合った腕から。
そして、触れ合った温度から。
全ての物からそれを、感じる事ができたの。
 
 
 
 
 
 
「ねぇー、マーマー!!
これ、綺麗だよぉー。」
 
透き通るように綺麗な海。
波が海岸に迫る音。
子供たちのはしゃぐ声。
モーターの音。
そんな音の中で、私はその声に振り向かされた。
 
「何?何があったの?」
 
そう言いながら私は、砂浜を歩きながら、その子の元へと向かった。
側についた私に、その子は持っていたある物を私に差し出した。
 
「これ、ママとパパがいつも言ってる、ブルゥージューエールでしょ。」
 
胸を張って、えらそうに渡されたその石を、「どれどれ?」と言いながら私は、手にとって見る。
確かに、少しブルーがかった石だけど・・・。
 
「これは・・・。」
 
と口にした時、私の腰に手がふれ、気が付けば私の右手をつかんでいる彼。
そして、私の手の中にあるその石を、自分の目線にまで持ち上げた。
 
「未華(ミカ)、ざんねぇーん。全然違う!」
 
と言った彼は、ひどい事に、それを、ポイと海に向かって投げた。
 
「ひどぉーい!!パパのおたんこなすぅー!!」
 
と涙ぐむ娘に、
 
「未華(ミカ)。ブルージュエルはいいからさ、貝殻探して来いよ。
麻美(アサミ)ちゃんに、お土産だろ?」
 
と優しくなだめる。
その言葉に、「う・・・ん。」と言って、しぶしぶ未華(ミカ)は、また海へと向かって行った。
 
「投げる事は、なかったんじゃないの?」
 
と言いながら、真横にある大和(ヤマト)の顔を見上げるけど、
 
「だって、俺、ブルージュエル嫌いだもん。」
 
とすねたような顔で言われちゃって。
それには、「へっ?」とマヌケな顔をしていった私。
 
「何で?どうして?」
 
と付け加える私に、「だってさ。」としぶしぶ口を開いた大和(ヤマト)。
 
「あれがまた、俺たちの前に現れるって事は、俺と蜜華(ミツカ)の愛に亀裂が入ってるって事だろ?
だから、嫌いなんだ。
もう、一生あれはみたくない。
俺と蜜華(ミツカ)の愛に亀裂なんて、入ってほしくないからな。」
 
そう言って、私に優しいキスをした大和(ヤマト)。
ホント・・・そうだね。
今の私たちには、もうブルージュエルは必要ない。
あの時・・・私が大和(ヤマト)の愛を心から感じたあの日。
翌朝目覚めた私は、元の姿に戻っていた。
そして、いくら探しても、ブルージュエルは・・・なかった。
元の姿に戻った私は、すぐに大和(ヤマト)と結婚した。
それから、1年が経った時。
ホント、不思議なんだけど、私の誕生日の翌日。
つまり、私が元の姿に戻った日と同じ日に、娘が生まれた。
その子に、大和(ヤマト)は未華(ミカ)と名付けた。
それから、3年が経ち、娘は3歳になった。
ブルージュエルを譲ってくれた人が言っていたように、ただのブルーストーンは、私たちにとって、大切な青い宝石。
Blue Jewelとなった。
 
「ねぇー、大和(ヤマト)!」
 
唇を離した大和(ヤマト)に私は、すぐにそういう。
 
「ん?」
 
と聞いてきた大和(ヤマト)に、私はこう言ったんだ。
 
「今頃、私たちのBlue Jewelは、どこをさまよっているのかな?」
 
「さぁーな。また、新しい恋に出会ってんじゃないか?」
 
そしてまた・・・唇を重ねる私たち。
Blue Jewelで本物になった私の恋は、今も尚、進行中。
そして、私に幸せを与えてくれた、私のBlue Jewelは、私に愛する人と、愛する人の子供をくれた。
彼らたちが、私にとって、輝く宝石。
言うなればそう・・・私のたった一つのStar Jewel。
生涯消える事のない、私の・・・永遠の宝石。
 

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