一つのかけ声のあと、色んな音が私を包んだ。
一斉に、イスを引く音。
開けっ放しのドアを閉める音。
クラスメイトへ、『また明日』の挨拶の声・・・。
たくさんの音が私を包んでた。
でも、私だけが、その音の世界になじめなかった。
私だけが・・・静かだった。
「結衣(ユイ)!!」
後ろからそんな声がした。
聞き覚えのある声に、私はユックリと首を動かした。
そこには、いつもの女友達3人が居た。
手には、カバンを持ち、いかにも「帰るぞ!!」オーラをかもし出していた。
まだ、先生が、「今日はここまで。」と言ってから、1分も経ってないのに・・・。
なんて、行動力してんの??
と私は、半ば呆れながら見とれちゃう。
そんな私の姿に、1人は私のカバンを手に取り、もう1人は、私の体操着入れの袋を手にした。
そして、最後の1人である、川島 未湖(カワシマ ミコ)が、私の視線に合わす様にしゃがみこんできた。
私は、呆然と彼女たちを見上げていた視線を、ユックリと未湖(ミコ)に合わせた。
「ん?」
と聞く私に、未湖(ミコ)は少し心配そうな瞳で私を見つつこう言ってきた。
「今、何考えてた?」
たわいもない言葉。
別にドキドキする事もないよね。
だけど、私は、「えっ!!」と言いながら、飛び上がってしまって、かなりのオーバーリアクション。
それには、さすがに、荷物を持っていた2人は驚く。
でも、彼女は・・・未湖(ミコ)だけは、驚くどころか、代わりに深くて大きなタメ息をついた。
「未湖(ミコ)、どうしちゃったの?
急にタメ息なんかついて・・・。」
「そうだよ。結衣(ユイ)のおっとりは、いつもの事じゃん!!」
と個々に言われるけど、未湖(ミコ)は苦笑いをしながら、私を見てた。
そんな、何もかもお見通しみたいな瞳で私を見ないでよ。
心の中を見透かされているみたいで、私は未湖(ミコ)の目を見れなかった。
たまらず、私は未湖(ミコ)の目から瞳をそらした。
だけど、体で感じるの。
未湖(ミコ)の私を見る視線が、たまらなく痛かった。
思わず、両手で、両ひじをかかえてしまう。
でも、そのひじを押さえている両手のひらが、なぜか震えてしまい私を困らせた。
胸が苦しくなる。
この場から逃げ出したい衝動にかられた。
その時だった。
私の気持ちがわかる未湖(ミコ)が私を救ってくれた。
「結衣(ユイ)さ、今日体調悪いみたいだから、部活休むって顧問に言っといて。」
「そりゃいっとくけど・・・。」
「未湖(ミコ)はどうすんの?」
2人の問いかけに、未湖(ミコ)は、両手でバツをする。
「結衣(ユイ)を送っていくから、私も今日はパス。」
それには、2人も納得したようで、
「結衣(ユイ)と家、近いもんね。」
「じゃ、未湖(ミコ)、結衣(ユイ)を頼んだよ。」
そして、2人は未湖(ミコ)の“嘘”を全く疑わずに、教室を出て行った。
いつの間にか、教室には、数人の生徒しかいなくなっていた。
2人から私の荷物を受け取った未湖(ミコ)は、それを私の向かいの席の机にドサと置くと、イスを引いて、背もたれを両手でつかみながら、私の方に向かい合わせに座った。
相変わらず、未湖(ミコ)から目をそらしたままの私に、未湖(ミコ)は、「ねぇー。」と声をかけてくると、ストレートに言ってくる。
「また、“カレ”の事、考えてたの?」
未湖(ミコ)の言葉に、肩をビクつかせた私に、未湖(ミコ)はまたタメ息をつく。
その態度が、少しムカっと来た。
なんで、タメ息つくの?
それって、カレの事を考えるな?って事?
私の中でホンの少しだけ芽生えた未湖(ミコ)への不満が、心で思えば思うほど、どんどん渦を巻き、そして・・・大きくなっていった。
それを押さえ込む事ができず、私の心から解き放たれるまで、そう長くはかからなかった。
「未湖(ミコ)に何がわかるのよ!」
ボソっと言った私。
でも、生徒が数人しかいない、この教室では充分に聞き取れる声だった。
なのに、未湖(ミコ)は私にこう言ってきたの。
「えっ?何?」
って。まるで、私の怒りを買うみたいに・・・。
それが、さらに私の怒りに拍車をかけた。
未湖(ミコ)に怒りをぶつけるなんて、見当違いもいい所なんだけど、でもなぜか、この時の私は未湖(ミコ)に怒りを・・・いや。
自分の心にある闇を彼女に、ぶちまけていた。
「未湖(ミコ)には、わかんない!って言ったの。
私の気持ちなんて、未湖(ミコ)なんかに、わかりっこないんだから!」
なんてひどい事を言ったんだろうって思う。
でも、その時の私には、そんな気持ちみじんもなかったの。
自分の心の中で溢れてるカレへの想いで手が一杯で、何も考えられなかった。
未湖(ミコ)の気持ちも・・・。
いや、きっと、それだけじゃない。
アイツの気持ちも・・・。
私はきっと、誰の気持ちもわかってなかった。
わかろうとしてなかったの・・・。
そして、今もそう。
だって、私、気が付けば、未湖(ミコ)に向かって、大声で叫んでたんだもん。
その声に、教室に残っていた数人がこっちを見ていたようだけど、怒鳴られている未湖(ミコ)が、落ち着き払った様子で私を見ていたから、『いつもの』だと思ったようで、みんなの視線はすぐに消えた。
『いつもの』っていうのは、部活ね。
私たちは演劇部に入ってる。
舞台が近付くと、昼休みとかに、さっきのメンバーで練習してたりしてるから。
私がどうして、演劇に入ったのか。
それは、演劇が好きだったからでも、演じたかったからでもない。
ただ、“現実から逃げたかった”から。
だって、私は、この世にいる事が何よりも苦痛でしかたないんだもん。
心から愛してるカレが居ない世界になんて未練はないし、用はない。
だから、私はただ、死を待つの。
カレが迎えに来てくれるその日を、ただ時間を過ごして待つ。
でも、菅野 結衣(カンノ ユイ)としては、生きていたくない。
だから、私は演じる。
誰かを愛す物語に生きる主人公になって、私は残された時間を過ごすしかないの。
だから、私は演劇部に入った。
ただ、それだけ・・・だった。
気持ちが高ぶって思わず立ち上がった私の腕を、座ったままの状態で、未湖(ミコ)は力強く引っ張った。
私は強引に椅子に座らされた。
その乱暴さに文句を言ってやろうと、未湖(ミコ)を見た瞬間、冷たい未湖(ミコ)の声が私に直撃した。
「結衣(ユイ)の気持ちなんて、わかりたくもない!」
未湖(ミコ)はそういうと、私の腕をつかんでる手に力を込めた。
「い・・・痛い!!」
だって、ギューって握り締めてくるから。
バタバタして、未湖(ミコ)の手を振り払おうとするけど、未湖(ミコ)は絶対に離してくれなかった。
「いい加減にしてよ!」
「それは、こっちのセリフ!!」
私の叫び声を、瞬時に飲み込んだ未湖(ミコ)の強くて大きな怒鳴り声に、私は次の言葉を失った。
何もいえずただ、止まる私に未湖(ミコ)はつかんでいた手を乱暴に離すと、少し悲しい声を出す。
「お願いだから、いい加減、尋人(ヒロト)の事は忘れてよ。」
未湖(ミコ)はそう言ったあと、私を真っ直ぐ見つめた。
私を見てる未湖(ミコ)の目はさっきの強い瞳でも、私を罵ってる瞳でもなかった。
ただ純粋に願ってる、綺麗な瞳だった。
そんな目で見られたら、何も言い返せないよ。
だって、未湖(ミコ)の目はまるで、私の氷を解かしそうなんだもん。
人の気持ちを気づかう余裕なんて無かった私の凍りついた心に、一瞬ヒビを入れたと錯覚を起すくらい、真っ直ぐな瞳だったの。
「ねぇー、結衣(ユイ)。」
未湖(ミコ)はそういうと、私の両手をつかむ。
さっきとは違う、優しくまるで包み込むように私の手をにぎりしめた未湖(ミコ)は、願い事を口にするように、こう言った。
「尋人(ヒロト)が亡くなってもう、3年だよ。
辛いのはわかるけど、そろそろ一緒に前を向いて生きていこうよ。
もともとの結衣(ユイ)は、こんなんじゃないでしょ?
おっとりなんて言葉、結衣(ユイ)らしくないよ。
いつも、私たち3人を引っ張っていってくれてたでしょ?
結衣(ユイ)のそういう所に、尋人(ヒロト)だって惹かれたんだから。
今の結衣(ユイ)を見て、尋人(ヒロト)はどう思うかな?
それに、結衣(ユイ)。
一番辛いのは、きっとアイツだよ。
だって、アイツは結衣(ユイ)の事が・・・」
「もうって、何?」
まだ、未湖(ミコ)の話は終わってないのに、私は机を見つめながらそう言って、未湖(ミコ)の話を折った。
いきなり言葉をかぶせられた未湖(ミコ)は、「えっ?」と言って口を止めた。
その瞬間、私は未湖(ミコ)に目を向けると、未湖(ミコ)に不満をぶつけた。
「今、“もう”って言ったよね?」
「結衣(ユイ)?」
私のこだわっている場所がわからない未湖(ミコ)の瞳が、ゆらゆらと揺らめく。
わからないの?
何を言ったのか。
私が、何に怒ってるのか?
未湖(ミコ)・・・わかんないんだ。
その未湖(ミコ)の態度が、私の怒りをさらにかきたてた。
未湖(ミコ)にとっては、本当に些細な事なんだね。
言った言葉じゃない。
尋人(ヒロト)の死その物が、未湖(ミコ)にとっては、些細な事なんだね。
そんなあんたに、私の気持ちがわかるわけがない。
わかって・・・たまるか!!
私は、握られている手を力任せに、払いのけると、未湖(ミコ)を冷めた目で見る。
それはまるで、最低なものを見るような瞳。
私は、完全に未湖(ミコ)を見下してた。
「尋人(ヒロト)が死んで、“もう3年”じゃない。
“まだ”3年だよ!!
未湖(ミコ)にとっては、あっという間に過ぎ去った3年かもしれない。
でも、私にとっては、気が変になる程、長かったのよ。
私が死んで尋人(ヒロト)に逢えるまで、私はまだまだ、生きないといけない。
3年で味わった孤独を、私はあと、何十回と繰り返さないといけないの。
そんな苦しみの一方で、私の記憶が尋人(ヒロト)を鮮明に覚えているの。
体温も声も仕草も何もかも。
3年経ったと思えないくらい、鮮明にね・・・。
3年くらいじゃ、尋人(ヒロト)を忘れる事なんて出来っこない!!」
私はそう言って叫ぶと、立ち上がる。
そして、未湖(ミコ)の座っている席まで回りこむと、私の荷物を乱暴につかんだ。
荷物をつかんだ私が次に起す行動がわかった未湖(ミコ)は、慌てて立ち上がると私の腕をつかんだ。
「待ってよ、結衣(ユイ)!」
必死で私を止めた未湖(ミコ)は、私に自分の想いをぶつけてくる。
「私だって、尋人(ヒロト)の死を安易に思ってるわけじゃない。
ずっと一緒にいた人だよ。
この3年、結衣(ユイ)がいうように、短いようで長かったりで、よくわかんない感覚だったりしてる。
でも、私は尋人(ヒロト)の死を嘆くより、結衣(ユイ)と生きていきたいの。
尋人(ヒロト)が愛した結衣(ユイ)と一緒に、これから生きていきたいから、だから私は・・・。」
それ以上、聞きたくなかった。
本当はわかってたから。
今の私の生き方は間違ってる。
未湖(ミコ)が言ってる事が正しいって。
わかってるよ。
わかってるんだけど・・・。
でもね、未湖(ミコ)・・・ごめん。
私はね、思っちゃうんだよ。
『尋人(ヒロト)が愛した私で生きても、尋人(ヒロト)はもう愛してくれないじゃない。』って。
何をやっても、尋人(ヒロト)の声も笑顔も見れないなら、何も意味を持たない。
そう、思ってしまうの。
私には、初めての恋で、初めて愛した人だから。
尋人(ヒロト)なしではもう・・・私の魂は光を宿さない。
私は、ユックリと自分の腕から、未湖(ミコ)の手を離す。
私に涙ながらに訴える未湖(ミコ)に、私はただ、この言葉しか言えなかった。
「ごめん・・・。」
未湖(ミコ)だって、私の大切な大切な友達だよ。
私と未湖(ミコ)と、尋人(ヒロト)とそして・・・アイツ。
私たち4人は、家が近所のせいもあって、生まれた時からずーっと一緒だった。
幼稚園はもちろん、小学校も中学校も。
そして、私は、尋人(ヒロト)を好きになった。
中3の時、尋人(ヒロト)から告白してくれて、私たちはつきあいだした。
初キスは、尋人(ヒロト)から。
初エッチも、尋人(ヒロト)から誘ってきてくれて・・・。
何もかも、恐いくらい上手くいってて、幸せだったのに・・・。
でもその年の冬・・・。
中学の卒業間際に、あの事故が起きた・・・。
私は、尋人(ヒロト)との将来を夢見て、何も疑わなかった。
なのに、私は今、幸せとは間逆の地獄を這いずり回ってる。
大切な親友を傷付け、ホント最低な私。
こんな私に愛想つかせて、尋人(ヒロト)が亡くなってから、私たちに近寄りもしなくなったアイツは、正解かもしれない。
私はとんでもなく、最低なやつだもん。
これじゃいけないってわかってる。
でも、無理なの。
私の頭にはこれしかないから。
尋人(ヒロト)が巻き込まれた事故の前に戻って、尋人(ヒロト)を救えたら。
ただ、それしか・・・私の頭にはなかったから。
誰も、思いやってあげる事が今の私にはできなかった。
「結衣(ユイ)!!」
私は呼び止める未湖(ミコ)の言葉に、止まる事無く、教室のドアへと向かう。
そして、ドアを開けようとドアに手を添えた瞬間、ドアは勢いよく開けられた。
まるでそれは、自動ドア。
開くはずも無いドアが開いたら、そりゃ・・・驚くよね?
手は、差し出したまま。
ただ、呆然と目の前の人物を見入る私。
ドアを開けて、私の目の前に居る人が、ただの人なら、こんなに驚かなかったと思う。
その人物の横をすりぬけて、とっくに、この場を出てるよ。
でも、私の足は、まだ動かなかった。
だって、そこに居たのは、アイツだったんだもん。
尋人(ヒロト)が死んでから、私と未湖(ミコ)に一切近付かなくなったアイツが、ここにいる。
ありえない事過ぎて、言葉がでない。
何も言えない私の代わりに、未湖(ミコ)が、こちらに近づいてきながら、アイツにこう言った。
「朋哉(トモヤ)!!どうしたの?」
“アイツ”の名前は桐谷 朋哉(キリタニ トモヤ)。
尋人(ヒロト)とは、小学校の時からサッカーをやっていて、名コンビだった。
でも、尋人(ヒロト)が亡くなってから、サッカーはやめたと、確か未湖(ミコ)が言っていた。
尋人(ヒロト)が亡くなってから、なぜか、朋哉(トモヤ)は、私たちに近付いてこなくなった。
その朋哉(トモヤ)が、なんでここに?
しかも・・・。
私は目の前の朋哉(トモヤ)を、注意深くみる。
額からはすごい汗が流れてるし、息だってあがってる。
だって、ハァーハァー荒い呼吸をしてんだもん。
どれだけ走って来たの?って思うくらい、乱れてる。
私は、たまらず、朋哉(トモヤ)に言っちゃった。
「すっごい・・・汗。」
そう言いながら、カバンからハンドタオルを出そうと手を突っ込むけど、朋哉(トモヤ)はカッターの袖で、ゴシゴシと額をこすり、汗を豪快に拭った。
「そんなに息乱して、朋哉(トモヤ)どうしたの?」
私が、カバンからハンドタオルを取り出すのと、未湖(ミコ)が朋哉(トモヤ)にそう言ったのは同時だった。
だけど、朋哉(トモヤ)は未湖(ミコ)を見ないで私を真剣な瞳で見ると、いきなり私の腕をガシっとつかんだ。
その勢いのすごさに、私の手からハンドタオルが落ちた。
「うわっ!ちょ・・・何??」
3年ぶりに逢いに来たかと思ったら、汗だくで。
しかも、いきなり腕をつかまれた??
さっぱり意味がわからないんだけど。
「一体、何なの?って・・・うわぁー!!」
最後は叫び声。
だって、朋哉(トモヤ)ったら、私の腕を強引に引っ張ると、今度は未湖(ミコ)に向かって早口でさ、
「結衣(ユイ)は借りていく。」
と言ったかと思ったら、今度は私を見て、ただ一言、
「お前の願い叶えられるかもしれねぇー。」
なんて、意味深な言葉を言ったの。
「はぁ?」
とマヌケな声を出した私は、「何をわけわかんない事言ってんのよ!」と怒り出したんだけどね。
でも、暴れる私の腕をさらに強くつかんだ朋哉(トモヤ)は、それ以上何も言わず、ただひたすら、私の腕をつかんで、歩き続けたの。
朋哉(トモヤ)に引っ張られる事、15分。
目的地に着いた朋哉(トモヤ)は私の手を離し、足を止めた。
到着した私は・・・もちろん、朋哉(トモヤ)にこう言った。
「どういうつもり?」
ハッキリ言って、呆れた。
3年ぶりに声をかけてきたかと思ったら、私を強引に連れまわして。
それで、辿り着いた先がココなわけ?
私が、今、一番来たくないココに、連れて来るって、一体どういう神経してんの??
ここは、どこか。って?
ここは、私の愛する人の命を奪った場所だよ。
「私・・・帰る。」
そう言って、私は朋哉(トモヤ)に背を向け、歩き出そうとしたの。
だけど、次の瞬間、朋哉(トモヤ)の方から、とてつもない眩しい光が差し込んできて、私はきになって、朋哉(トモヤ)のほうに振り返った。
その信じられないくらいの眩しい光に、私はたまらず目を閉じる。
「まぶし!っていうか・・・何、この光!!」
目を閉じながらそう言った私の声が聞こえたのか、数秒後その光は消えた。
「目・・・開けていいぞ。」
朋哉(トモヤ)の声に、私は少しビビリながら、目を開けた。
さっきの光が夢みたいに、今は何もなかった。
「さっきの・・・一体なんだったの?」
と聞いた私に朋哉(トモヤ)は自分の両手に目を移した。
「何よ!」
と文句を言いつつ私もつられて、朋哉(トモヤ)の手を見ると、両手を握り締めている朋哉(トモヤ)の指の間から、青い光が、無数の光の筋となって現れていた。
「何、握ってるのよ!!」
私の声が少し大きくなる。
でもね・・・大きくもなるよ。
だって、この光、尋常じゃないんだもん!!
普通に考えてみてよ。
これだけの強い光を放つものって・・・何?
想像つかないって!
「ねぇー、朋哉(トモヤ)!!」
たまらず、朋哉(トモヤ)に迫る私に、朋哉(トモヤ)は私に一歩近付いた。
その行動は、私を自分の方に向けさせるためだったの。
手が使えない朋哉(トモヤ)の頭脳的行動力ってところかな?
そして、私は朋哉(トモヤ)の狙い通り、近付いてきた朋哉(トモヤ)を、「何よ!」と言いながら、見上げたの。
私をみつめる朋哉(トモヤ)の瞳。
何か少し、胸がキュンと痛くなった。
「言っただろ?
お前の願いを叶えてやれるかもしれないって。」
願い?・・・そういえば、さっきも、そんな事言ってたっけ?
だけど、私の願いって・・・自分でもわかんない。
何?って事で、朋哉(トモヤ)に聞いて見る事に・・・。
「願いって?私、そんなの、朋哉(トモヤ)に語った覚えないけど。」
と言って見るけど、
「よく言うよ。」
とため息をつきながらそういわれた私。
そして、朋哉(トモヤ)は、少し笑うと、「忘れたのか?」と言ったかと思ったら、昔を思い出してるような遠い瞳をする。
「3年前・・・尋人(ヒロト)が亡くなった時、お前言っただろ?
過去に戻れたらって。
そしたら、尋人(ヒロト)を守れるのに・・・って。
お前、俺の胸で泣きながら、そう言ったの・・・覚えてねぇーの?」
「あ・・・。」
私は、少し焦り顔になる。
そうだそうだ・・・。
私、尋人(ヒロト)のお葬式で、朋哉(トモヤ)にそう言ったんだった。
朋哉(トモヤ)の胸で大泣きした私は、そう言って、朋哉(トモヤ)を困らせた。
でも、確か、その後、朋哉(トモヤ)はこう言ったんじゃなかった?
「俺が、絶対叶えてやるから。」
って。そんな不可能な事、私はホンキで望んではなかった。
もちろん、そうなればいいと思った。
いや、今も、思ってる。
願わない日はなかった。
でも、そんな夢みたいな事できないのが、現実だと18歳にもなってわかってるわよ。
だから、人は苦しいのよね。
それも、わかってる。
もちろん、朋哉(トモヤ)もわかってると思ってた。
悲しい私の気持ちに、つきあってくれただけなんだと、思ってたし気にも止めてなかった。
だけど、その日から、朋哉(トモヤ)は私と未湖(ミコ)に近付かなくなった。
もしかして、あの日からずっと、考えてたの?
ありえない非現実的な私の望みを叶える為に、朋哉(トモヤ)はずっと生きてたって・・・そういう事?
そう思ったら、なんか、朋哉(トモヤ)に悪い気がしてきた。
自分の気持ちで手が一杯で、未湖(ミコ)の気持ちにも対応するゆとりがなかったこの私が・・・なぜか、この時、朋哉(トモヤ)の気持ちを想像してしまってたの。
ううん。想像できたのよね・・・。
「ごめん、朋哉(トモヤ)・・・。
あれは、ホンキじゃなくて・・・。
っていうか、ホンキなんだけど、ホンキじゃないっていうか・・・。
いや、そうじゃなくて、ありえない事だから、望んでないというか・・・。
でも、望んでるというか・・・えっと・・・何言ってんの私??」
完全にパニック。
言っててわけがわかんなくなってきた。
もぉー!!どういったらいいのぉー!!
パニックになりつつ、でも、朋哉(トモヤ)に何とか言わないと。
アレは気にしないで!って言わないと。
と思った私は、「だから・・・。」と言葉がまとまっていないのに、とりあえず口を開く。
でも、そのとりあえずの言葉は本当に弱くて、朋哉(トモヤ)の力強い言葉にかきけされた。
「やっと、手に入れたんだ。
恋が成就するブルーストーンを。」
「ブルー・・・ストーン??」
さっぱり意味がわからない私は、首をかしげながら、朋哉(トモヤ)を見る。
すると、朋哉(トモヤ)は、ニッコリ微笑むと、握り合っている両手を私の目の前にかかげた。
「3年前から俺、色々考えてたんだ。
過去へ戻る方法を。
こんな時代だ。
不可能を可能にする方法なんていくらでもある気がしてな。
タイムマシーンを作る方法だって真剣に考えたりした。
そんな時、ネットで見つけたんだ。
不思議な話を語るHPをね。」
「ホームページ?」
「ああ。」と言った朋哉(トモヤ)は、そこでみた話を私にしたの。
「そこでの話はこうだった。
不安定になっている恋を、不思議な出来事を起すことで、本物にしてくれるって。
それが、ブルーストーンっと呼ばれる石だって。
その石は、道のアクセサリー売り場に売っていたり、道端に落ちていたり、さまざまでさ。
どこで手に入れられるか、それは、わからなかったんだ。
その石には意志があって、持ち主を選ぶと言われてる。
俺は選んでもらえるのか。
その石に、過去を変える力があるのか。
そもそも、そんな石が現実にあるのか。
俺の疑いはキリがなかった。
だけど、俺はひたすらそれを信じた。
結衣(ユイ)の想いが叶う事。
尋人(ヒロト)が居る未来を過ごす事が出来る事。
そして、その石が俺か結衣(ユイ)を持ち主として選んでくれる事を・・・。
俺は、かけたんだ。
場所はきっと、尋人(ヒロト)が亡くなったここだろうって。
確証はなかった。
でも、ココのような気がして。」
朋哉(トモヤ)はそこまでいうと、一歩私の方にまた近付き、私の手に自分の手を乗せた。
「ココで、その石を見つけた。
だけど、俺がいくら望んでも、その石は何も力を出さなかった。
でも、結衣(ユイ)を連れてココにきたら、急にこんなに光ったんだ。
きっと、持ち主は俺じゃなくて、結衣(ユイ)なんだと思う。
だから、結衣(ユイ)、お前が、望むんだ。
尋人(ヒロト)が事故に遭う前の過去に、戻してくれって。」
夢の中にいるみたいだった。
だって、そうでしょ?
こんな信じられない話を聞いて、「そうなんだ。わかった、やってみる!」ってすぐに答えられるわけないでしょ。
そんな人がいるなら、見てみたいよ。
誰だって、戸惑うよね?
まさか。ありえない。
そう思うでしょ。
でも、その疑いは、すぐに終わっちゃったの。
それは、尋人(ヒロト)を取り戻したいって、そう思ったから・・・ではない。
たぶん私は、尋人(ヒロト)への愛よりも、朋哉(トモヤ)から向けられた愛で動いてしまった・・・気がする。
朋哉(トモヤ)の熱心さと、朋哉(トモヤ)の私の苦しみを救ってやりたいと思う真の優しさに・・・私は動かされたの。
「わかった・・・やってみる。」
私はそう言って朋哉(トモヤ)に笑うと、朋哉(トモヤ)の手からそのブルーストーンを受け取った。
ブルーストーンは、相変わらず輝きを放ってた。
「結衣(ユイ)・・・願ってみて。」
「う・・・ん・・・。」
頷いて返事をするものの、私は願う事ができなかった。
心にある不安で、戸惑ってしまう私に、気付いた朋哉(トモヤ)は、「どうした?」と言いながら、私をのぞいてくる。
私はただ、ブルーストーンから、朋哉(トモヤ)に目を移した。
不安で揺れている私の目を見た朋哉(トモヤ)は、「ん?」と優しい声を出して、私を暖かい瞳で見つめてくれて・・・。
その声と瞳が、私を素直にさせてくれた。
心の不安が、何一つ漏れる事無く、言葉となる。
「朋哉(トモヤ)も来て・・・。」
だって、1人じゃ、不安なの。
ちゃんと、尋人(ヒロト)を守れるの?
そういう不安ももちろんある。
だけど、何より恐かったのはきっと、3年ぶりに逢う事。
ずっとずっと、逢いたかった尋人(ヒロト)に逢える事は嬉しい。
本当に嬉しいの。
でも、どんな顔しろっていうの?
もう、死んでしまって、逢いたくても逢えない尋人(ヒロト)に、逢ってどんな顔しろって・・・。
思えば思うほど恐くなった。
私は、たまらず、朋哉(トモヤ)の服の裾をギューっと引っ張ってしまう。
昔から朋哉(トモヤ)は、私を守ってくれた。
尋人(ヒロト)を好きな気持ちも、一番に気付いたのは朋哉(トモヤ)だった。
尋人(ヒロト)は最初、私の事なんて眼中になかったはず。
ただの幼なじみとしか、思ってなかったと思うの。
でも、朋哉(トモヤ)が、少しずつ少しずつ私の事を尋人(ヒロト)に植えつけていってくれて、尋人(ヒロト)の中に私は、すーっと入っていって、尋人(ヒロト)の中で気になる存在になる事が出来た。
尋人(ヒロト)とのキスもエッチも、たぶん朋哉(トモヤ)のおしがあっての事なんじゃないかと・・・なんとなく気付いてた。
尋人(ヒロト)は、意外と消極的で、あまり自分から行動を起さない人だったから。
それに引き換え、朋哉(トモヤ)は、いつだって、自分からさっさと行動を起す派で、しかもマイペースで・・・。
そんな朋哉(トモヤ)を、頼もしいと思った時期もあった。
でも、いつからか、朋哉(トモヤ)は色んな女性と付き合うようになって。
それで、私の中で、朋哉(トモヤ)は遊び人という印象がついちゃって、友達以上には思えなくなってしまった。
未湖(ミコ)もよく言ってた。
「中学で、セフレがあれだけいる男は、この世に朋哉(トモヤ)しかいないよ。」
って。朋哉(トモヤ)は、私たちから見ても、モテるだろうなーって思うほどの人。
女性が黙ってないのはわかるけど、でも、だからって女遊びをしていいって事にはならないと思うの。
友達だから、幼なじみだから、真剣な恋をしてほしいと願っていたんだけど・・・。
でも、そんな朋哉(トモヤ)だけど、心から嫌いになれなかったのは、さっきもいったみたいに、いつでも、私の味方でいてくれたから。
だから、私は朋哉(トモヤ)を心から軽蔑することも、嫌う事もできなかった。
そして、私のために、ここまでしてくれた朋哉(トモヤ)が、私の頼みを断るなんて・・・。
そんな事は、やっぱり・・・ありえなかった。
私の髪を優しくなでると、朋哉(トモヤ)は私を優しく抱きしめた。
3年ぶりに感じる、朋哉(トモヤ)の頼れる腕に、心からホッとした。
安心できる熱い胸を、懐かしいと思った。
そして、風が運んでくれる彼の髪にしみついてるシャンプーの甘い香りが、私に安らぎを与えた。
朋哉(トモヤ)の腕の中が、こんなに居心地がよかったなんて。
朋哉(トモヤ)と出逢って、18年にもなるのに、私は今初めて実感した。
「もちろん。一緒に行ってやる。」
朋哉(トモヤ)の答えは、私の想像した答えだった。
期待を裏切らない朋哉(トモヤ)の優しさに、嬉しい気持ちはあった。
でも、それ以上に私は、すごくホッとしたんだよね。
3年というブランクがあったにも関わらず、朋哉(トモヤ)は私をまるで包み込むように、大切にしてくれる。
朋哉(トモヤ)との関係が何一つ変わっていない事実に私は、ものすごく嬉しかったんだ・・・。
そのあと、私は朋哉(トモヤ)の胸の中で、そのブルーストーンに向かって、願った。
『尋人(ヒロト)が、事故に遭う直前に行かせて。』
って・・・。
朋哉(トモヤ)が、このブルーストーンが叶えてくれると信じたように、私も心から信じた。
このブルーストーンが、過去に連れて行ってくれる。
みじんも疑わず、真っ直ぐな心で、ひらすら願った。
すると急に目の前が青白く光、私たちはアッと言う間に、その光に包まれた・・・。
「今の強い光は一体、なんだったんだ?」
驚いた口調でそう言った朋哉(トモヤ)の声で、私は閉じていた瞳をゆっくりと開ける。
あまりにも強く眩しい光に、とっさに瞳を閉じてしまった私。
瞳を開けてまずは、もちろん、顔を上げて目の前にいる朋哉(トモヤ)の顔を見た。
そこには、私を少し心配そうな眼差しで見ていた朋哉(トモヤ)の顔があった。
「結衣(ユイ)・・・どこも怪我ないか?」
両腕でしっかりと抱きしめていてくれた朋哉(トモヤ)は、右手を私の体から離すと、私の前髪をソッと優しくかきあげる。
そして、私の顔色をチェックし、今度は私の体に目を移し、ざっと見渡す。
光を浴びる前と何も代わらない私の姿に、
「大丈夫みたいだな。」
と安堵のため息をつきながら、ボソと言った朋哉(トモヤ)の姿に、私の胸はドキンと高鳴った。
どうして、胸が高鳴ったのか、理由はわからない。
でも、もっとわからないのは・・・朋哉(トモヤ)って、こんなに優しかったっけ?
っていうより・・・こんなに、私を大切にしてくれてたっけ?
久しぶりに逢ったせいで、今まで普通だった事が、たいそうに思えてしまってるだけなのか・・・。
それとも、朋哉(トモヤ)の昔からのこの態度に、私が気付いていなかっただけなのか。
もしくは、朋哉(トモヤ)のこの優しさは、尋人(ヒロト)を失った私をかわいそうに思ってくれて、尋人(ヒロト)の代わりに守ってやろうと思ってくれているだけなのか・・・。
いろんな考えが、一気に私の頭をいっぱいにした。
でも、それは、答えのみつからない事だから・・・。
私の頭は、オーバーヒートしちゃった。
頭の中にある思いで、ただただ手が一杯の私は、朋哉(トモヤ)の腕に抱かれたままピクリとも動かない上に、一言も言葉を話さなかった。
そのせいで、朋哉(トモヤ)は、またもや心配する。
「結衣(ユイ)・・・大丈夫か?」
心配になった朋哉(トモヤ)は、自分の体から私を少し離すと、私の顔を覗いてくる。
まっすぐに私を見つめる朋哉(トモヤ)の瞳。
それを見た瞬間、私の体はまた、おかしな反応を起した。
そして、その姿に、もちろん、朋哉(トモヤ)も気付く。
私の髪に触れていた手を、今度は私のオデコにピタと当てた。
「顔真っ赤だけど、お前、熱でもあるんじゃないか?」
そうなの!自分でもわかるくらい、顔が・・・めちゃくちゃ熱い!!
なんでそうなったのか、自分でもわかんないけど・・・。
朋哉(トモヤ)の瞳を見た途端、体のありとあらゆる血液が顔に一気に集結しちゃったみたいで、私の顔は見事に赤面しちゃった。
さっきから起る不可解な事。
一体、私の体はどうなっちゃったの??
戸惑う気持ちとあとは、この茹でタコみたいに真っ赤な顔を見られたくなくて、私は朋哉(トモヤ)の腕を払いのけると、自分の顔を両手で隠した。
そして、朋哉(トモヤ)の腕の中から、勢いよく出る。
彼に背中を向けたままで、私は彼に向かって慌ててごまかしを入れる。
焦りを隠す為に少し大きめの声で、
「熱なんて、あるわけないじゃん!
これは、朋哉(トモヤ)が・・・。」
って言ったんだけど、セリフの途中で朋哉(トモヤ)に、鋭く突っ込まれちゃったの。
「俺が、何だよ。」
「それは・・・。」
ともちろん、言葉が詰まった私。
だって、本当の事言えるわけないじゃない。
朋哉(トモヤ)に触れられた瞬間、意識し過ぎて赤面しただなんて・・・。
言えるわけないでしょ。
何も言い返せず、朋哉(トモヤ)に背中を向けたまま下を向く私の頭に、優しい感触がした。
「わかってるって。
お前、尋人(ヒロト)が死んでから、男と触れる事なんてなかったから、驚いたんだろ?
俺こそ、ごめんな。
お前の気持ち、ちゃんとわかってやれなくて。」
私のすぐ後ろから聞こえた朋哉(トモヤ)の声で、今の朋哉(トモヤ)の気持ちが伝わってきた。
私に、申し訳ない気持ちで一杯の、力のない声。
そして、私の頭のてっぺんに、優しく置かれた朋哉(トモヤ)の手のひらから、感じる彼の優しさとじれったさ。
私を抱きしめて、なぐさめてやりたい。
でも、それをして、私がまた動揺してしまったらかわいそうだからと、自分の思いを抑えてる彼の想いが、伝わってきた。
私は、自分の頭の上に置かれている朋哉(トモヤ)の手を取ると、その手を下に下ろしながら強く握る。
「ごめんね・・・。」
今の私の心は不安定。
自分でも何が何だかわけわかんなくて、朋哉(トモヤ)の事を考える事なんてできないから・・・。
いつも、私は自己中。
未湖(ミコ)に対しても朋哉(トモヤ)に対しても、私はわがままばっかり。
それでも、2人は私を見捨てず、受け入れてくれたんだよね。
未湖(ミコ)は、尋人(ヒロト)が亡くなってからの3年間。
そして、朋哉(トモヤ)は今・・・。
「朋哉(トモヤ)・・・ありがと。」
そう言って、彼の手を強く握った私だけど・・・。
・・・。
・・・。
私は、戸惑ってしまう。
だって、朋哉(トモヤ)の反応がないから。
言葉もくれないし、手だって握り返してくれるわけじゃない。
どうしたんだろう??
変に思った私は、「朋哉(トモヤ)?」といいながら、彼の居る私の背後に振り返る。
てっきり、私の方を見てくれていたと思っていた朋哉(トモヤ)は・・・。
こっちを見ているどころか、彼の視線は、私とは違う逆方向を見ていた。
それも、とても真剣な瞳で・・・。
その恐いとも言えるくらいの朋哉(トモヤ)の瞳に私は、心が冷たくなるような錯覚を感じた。
不安に思った私は、たまらず握っている朋哉(トモヤ)の手を強く握ってしまった。
「どうかしたの?」
強く握られたせいで、我に返った朋哉(トモヤ)は、「えっ!」と言いながら、私の方に顔を向ける。
驚き顔のままの朋哉(トモヤ)に私は、もう一度言ったの。
「どうかした?」
って。すると、朋哉(トモヤ)は、「あれ・・・見てみろよ。」と言い出したかと思ったら、私とつないでいない方の手を、スッと水平にあげると、私たちの立っている位置から少し左側にある建物を指さした。
彼がさしたのは、ビジョンのあるビルだった。
そのビジョンは、こんなに離れている場所からでも、映し出されている字がシッカリ読めるくらい、大きなビジョンだった。
でも、それが・・・何?
いつもと、変わらないと思うけど・・・。
って事で、首をかしげながら、彼に問いかける。
「あれが・・・何?」
だけど、彼が言ったのは、“ビジョン”じゃなくて、“ビジョンの画像”だったんだよね。
彼は、指をさしたまま、見るべき場所を的確に指摘してきた。
「今流れてるNATSUKI(ナツキ)のCD、いつ発売になってる?」
「CD?」
何を言ってるの?
だってね、確かに画像は見える。
でも、周りの音がザワザワしてて、音までは聴こえないから。
だから、私はここにビジョンがある事をよく忘れてる。
通っても、見る習慣がない。
なので、今も全然見てもなかったから、なんの画像かなんて、興味もなかったよ。
だけど、言われたら、見るしかないじゃない?
仕方ないから、私はじーっとビジョンを見たのよ。
何をお知らせしてるのか・・・。
ここのビジョンは主に、CDやDVDの発売を知らせる為に使われてるのね。
そして、今は、NATSUKI(ナツキ)という人のアルバムの予告をしてる。
NATSUKI(ナツキ)っていうのは、今結構若い子に人気のあるシンガーなの。
名前は女の子っぽいけど、れっきとした男。
元は、バンドをしてたみたいだけど、今は1人で歌ってる。
自分で歌ってもいるけど、歌を提供してる方が多いかもね。
自分であまり歌わないのは、何か理由があるみたいだけど、それはシークレットみたいで・・・。
そういえば、尋人(ヒロト)って、NATSUKI(ナツキ)好きだったよね。
でも、待って!
アルバムのCMって事は・・・。
「NATSUKI(ナツキ)、アルバム出すんだー。」
と素直に驚いた私。
だって、彼ってここ数年CDを出してなかったはずだもん。
そうだよ!今思い出したけど、確か最後に出したのって、尋人(ヒロト)が事故に遭った日だったような・・・。
って事は・・・。
「3年ぶりに出すんだね。」
とノンキに答えたんだけど、「バカ!よく、あの文字を見ろ!!」と呆れた口調で朋哉(トモヤ)に言われた私。
「バカって・・・いきなり何よ!!」
って思わず怒っちゃったけど、
「いいから、あれ、見ろって!!」
なんてさらに朋哉(トモヤ)がせかすから、怒りも一時滞(トドコオ)らせて、
「もう、何よ!!」
と言いながら、またビジョンを見る。
そして、その朋哉(トモヤ)が言う文字を声を出して、朗読する。
「『NATSUKI(ナツキ) New Album 32歳のラブソング 2/20 本日発売』」
そう読み上げた後、私は朋哉(トモヤ)を見た。
「で?これが、どうかしたの?」
「どうかじゃねぇーだろ?
尋人(ヒロト)が好きだったんだから、普通気付くだろ?」
「へっ?」
オマヌケな私に対して、朋哉(トモヤ)は・・・。
「ぷっ!!」
と噴出したかと思ったら・・・、
「あははははー。」
と豪快に笑い出しちゃった。
「えっ?なんで?どうして、笑うのよ!!」
さっぱり意図がつかめない私は、今度はアタフタ。
ホント、わけわかんないんだけど・・・。
完全に戸惑いの目で朋哉(トモヤ)を見ていた私を、朋哉(トモヤ)ったら、涙で潤んだ瞳で見てきたの。
その瞳が、なぜか・・・少し色っぽく感じてしまった私は、またしても・・・。
「わっ!」
思わず体を飛び上がらせてしまった。
まただ・・・。
また、胸がドキってした。
なんで?どうして、さっきから、朋哉(トモヤ)の行動で、こんなにドキドキ心臓が高鳴っちゃうわけ?
朋哉(トモヤ)に反応してしまったと実感したら、今の状態に気付き・・・。
「ひやっ!」
と半ば叫びながら、私は握り締めていた朋哉(トモヤ)の手をパッ!と勢いよく離してしまった。
まるで、めっちゃ嫌がって手を離すように・・・。
「あっ・・・ごめん。えっと・・・。」
さすがにこれは、気を悪くしただろうと、私は慌てて朋哉(トモヤ)にホローを入れようとしたけど、朋哉(トモヤ)は私の行動を気にしていないのか、私のいいわけよりも平気な顔をして、ビジョンに目を移しながら、本題へと入った。
「あのアルバムは、尋人(ヒロト)が事故に遭った日に発売されたものだ。
そして、今日発売となってる。
つまり、俺たちがいる今は・・・。」
そこまで言った朋哉(トモヤ)は、一旦口を閉じて、私に目線を変えると、少し戸惑った私の瞳を見つめてこう言った。
私の中で、まさか?って思っている事を・・・。
「尋人(ヒロト)が死んだ、3年前の2/20って事だ。」
「!!」
何も・・・言えなかった。
だって、信じられる?
朋哉(トモヤ)が見つけてきた得体のしれない石がさ・・・。
見るからにただの綺麗な石が、過去に連れてきてくれたなんて・・・。
こんな事・・・誰が信じられるっていうのよ!!
夢としか、思えなかった。
騒々しい街中から、少し離れると、大きな公園がある。
そこのベンチにとりあえず座った私たちなんだけど・・・。
「はっ・・・くしょん!!」
それを見ていた朋哉(トモヤ)が、
「きったねぇーな・・・。」
と言っちゃうくらい、超下品なくしゃみを豪快にしちゃった私。
豪快しすぎて、鼻水も思わず出ちゃった。
未来から持って来てたカバンをゴソゴソしてハンカチを出すと、鼻をテンテンと押さえて鼻水を拭った。
でもでも・・・。
たまらず、私は両腕をコシコシさすりながら言っちゃったー。
「うぅ・・・・寒ぅーい!!」
さらには、ブルっと身震いつきでね。
だって、よく考えてみてよ。
2/20なんて、真冬もいいところでしょ?
それに、尋人(ヒロト)が亡くなった時は、一番の寒さでさ。
翌日のお通夜なんて、雪がちらついてたんだから。
その前日となる今日なんて、とんでもなく冷え込んでるに決まってるでしょ!
なのに、私たちの格好ときたら・・・制服のみ!!
コートもマフラーもパンストだって履いてないのよ!
この寒さに、素足はきつぅーい!!
それに私は、超寒がりなんだってぇー!!
「ガタガタガタ・・・。」
挙句の果てには、歯軋りまで始めちゃう私。
だってだって、ホンキで寒いんだもん!!
このままだと凍死しちゃうー!!
そう思った時だった。
私の頭からフワッと、少し重い物がかぶさってきた。
そしてそれは、少し暖かい?
「な・・・に?」
私は、そっとかぶさったものに手を伸ばしてそれが落ちないように手でおさえつつ、頭を少し動かす。
そして、かぶさってる物体を見るとそれは・・・。
「えっ?」
私は驚きのあまりそれを、自分の体からズルっと引っ張って握り締めた。
そして、自分の視界へと持ってきて、正面からこの物体を見たよ!
しっかりと、両目でね。
どっからどうみてもそれは、朋哉(トモヤ)のブレザーだった。
「ちょっと、朋哉(トモヤ)!!」
少しあせりながら、横にいる朋哉(トモヤ)を見るとやっぱり・・・。
案の定、朋哉(トモヤ)はこの寒空の中、カッター一枚の姿で私の横に座ってて。
でも、それだけじゃなくて、焦ってる私とはうって変わって、「ん?」とキョトンとした顔で私を見てた。
なんで、そんなに落ち着いてるのかが不思議に思うくらい、本人は自分のしてる行動と格好の重大さに気付いていないようだった。
なので、私が教えてあげる!
っていうより・・・自然と熱弁してたよ。
いつになくデッカイ声で叫んでた気がするもん!
「ん?じゃないでしょ!
何考えてんのよ!
そんな格好でいたら、朋哉(トモヤ)が死んじゃうでしょ!
バカな事やってないで、ほらっ!さっさと、コレ着てよ!!」
そして、彼の胸に向かってつかんでいたブレザーを勢いよく押し当てた私だったんだけど、
「バカはお前だ!」
と笑いながら朋哉(トモヤ)は言うと、私が押し付けたブレザーをすんなりつかむと受け取った。
でも、それをバサっと両手で広げると、今度は私の耳の上あたりに襟口が合うようにかけてきた。
そして、両襟を私の口元付近で合わせる。
「お前、昔から気管支が弱かっただろ?
すぐにノドがやられて、ノドが痛い痛いと騒いだ次の日は必ず高熱出てダウンだったもんな。
ノド、冷やさないようにちゃんとかぶっとけ!
それと、冷たい空気はあまり吸わないように、口に制服あてとけよ!」
そして、私の頭を軽くポンポンと叩く。
「朋哉(トモヤ)・・・すごいね。」
そんな言葉しか出てこなかったよ。
だって、私の事、よく知ってるんだもん。
幼なじみだから、当たり前といえば当たり前かもしれないけど、でもどうしてかな?
朋哉(トモヤ)が知っていてくれた事が、こんなにも嬉しいだなんて・・・。
なんか、不思議な感覚だった。
「俺が生まれたときから、お前は俺の側にいるんだ。
お前の事は、何だって知ってるよ。」
そう言って優しく笑った朋哉(トモヤ)は、私から目を離すと、少し遠くにある公園の中央の大きな時計に目をやった。
私は朋哉(トモヤ)より誕生日が1ケ月早い。
だから、朋哉(トモヤ)が生まれた時には、私はすでにこの世に誕生してて、生まれたばかりの朋哉(トモヤ)の側に私はいつも一緒に眠っていた・・・らしい。
朋哉(トモヤ)の母親と私の母親は、高校時代からの親友って事もあって、特に仲がいいから。
そして、近所に住んでいた未湖(ミコ)と尋人(ヒロト)の母親も混ざって、4家族が親しくしてたんだけど・・・。
だから、さっき朋哉(トモヤ)が言った言葉はあってるのよね。
私たちは、ずっとずっと・・・尋人(ヒロト)が亡くなってからの3年間離れるまでは、1日だって逢わない日はなかったぐらい、いつも一緒だった。
朋哉(トモヤ)の存在が当たり前になっていた・・・のかもしれないね。
だから、さっきから、私は朋哉(トモヤ)の人格というか、朋哉(トモヤ)っていう人物を知るごとに、ドキドキが止まらないのかもしれない。
朋哉(トモヤ)の存在の大きさを、今、思い知らされているのかもしれないと・・・朋哉(トモヤ)を見てて思った。
「今夕方の5時だろ?
確か、尋人(ヒロト)が事故に遭ったのって、お前と別れてからCDを買いに行った帰りだったよな?
正確な時間、何時か覚えてるか?」
「えっ?」
完全に朋哉(トモヤ)に見とれていた私は、いきなりそう言ってこっちを見て振られて・・・答えられるわけがないって!
見るからに、話を聞いてません!!って顔をしている私の姿に、「お前なー。」と呆れた声をあげた朋哉(トモヤ)は、前かがみになっていた体をベンチのせもたれにゆだねると、今度は空を見上げた。
冬の5時。それも、今にも雨が降りそうな雲行きの為、あたりは少し暗くなっていた。
「やっぱ、不安なのか?」
突然そんな事言われて、「へっ?」とさらに朋哉(トモヤ)をくいいるようにみつめる私。
一体、何の事を言ってるの??
ぜぇーんぜん、意味がわからない私は、ただただ隣に居る朋哉(トモヤ)を見るだけ。
すると、朋哉(トモヤ)は、オマヌケな私の方にゆっくりと顔を向ける。
「お前、この時代に来てから、おかしいだろ?
気がそぞろっていうか、違う事に気がいってないか?
元の時代の時は、あんなに尋人(ヒロト)尋人(ヒロト)って言ってたのに・・・。
尋人(ヒロト)を生かすことしか考えてなかったお前が、この時代に来てから、気持ちが散乱してる気がする。
尋人(ヒロト)を生かすって事よりも、お前の中で何か違う感情が大きく存在してるんじゃないのか?」
「ゴクン・・・。」
たまらず、音を立てて唾を飲み込んでしまった!!
だって、だってぇー!!
またなんだもん!!
心臓がドッキンドッキンって、激しく動いてるの!
まるで、今朋哉(トモヤ)が言った事に対して、体がそうよ!って言ってるみたいに・・・。
でも、現にそうだよね。
朋哉(トモヤ)の言ってる通り・・・。
私、ここに来てすごく変なんだもん!
アレだけ望んだ尋人(ヒロト)を生かすことができるかもしれないって時に、さっきから考えるのは、朋哉(トモヤ)の事ばっかり。
驚かされたり、嬉しくなったり、ドキドキしたり・・・全部、朋哉(トモヤ)に対してだけ。
尋人(ヒロト)の事・・・ココに来て考えてない気がする。
それが、どういう事なのか、わからない。
でも、自分でもハッキリしてないんだけど、私言いたくなったの。
朋哉(トモヤ)に今、抱いてる気持ちを。
朋哉(トモヤ)の仕草や行動に、驚かされてるって。
戸惑ってるんだって。
心の中をちゃんと、朋哉(トモヤ)に言おうと思って口を開いた。
「朋哉(トモヤ)、あのね、私・・・。」
だけど、私の言葉を途中で朋哉(トモヤ)が奪っちゃったのー。
「ちゃんとわかってるから・・・。」
って。それには、もちろん、驚きすぎて言葉が止まった。
変わりに出た言葉は、
「なに・・・が?」
って言葉。だって、何がどうわかったの?
私の心がわかったの?
少し期待した。
何でもわかってくれてた朋哉(トモヤ)だもん。
私の戸惑いもわかってくれたの?って期待したんだけど・・・そう上手くはいかなかった。
「恐いんだろ?」
「こ・・・わい?」
「そう。死んだはずの尋人(ヒロト)にどんな顔していいか戸惑ってるんじゃないのか?
尋人(ヒロト)に逢うのが恐い。
だから、落ち着きがないし、気もそぞろなんだろ?
お前の気持ちはわかる。
俺も、正直、ちょっとプレッシャーかかってるからな。」
そう言って、少し苦笑いした朋哉(トモヤ)は、私から顔をそらすと、また空を見上げた。
「ちゃんとアイツを守る事ができるか、正直こえーよ。」
確かに。
起った事を事前に阻止するなんて、そんな事ホントにできるの?って疑問にも思う。
でも、朋哉(トモヤ)がかかえているプレッシャーは・・・誰でもない私が与えているんだよね。
私の為に、何としても尋人(ヒロト)を生かしたいから。
失敗は許されないから・・・。
私は、朋哉(トモヤ)に申し訳な気持ちでいっぱいになった。
こうやって、寒いのを我慢してくれたり、必死になってブルーストーンを探してくれたり・・・。
私は、どれだけ朋哉(トモヤ)に迷惑をかけたら気が済むのだろう。
そんな事を考えたら、胸が痛んだ。
「ごめんね、朋哉(トモヤ)・・・。」
朋哉(トモヤ)が貸してくれたブレザーを握り締めながら、少し涙声になりながらそう謝った私。
私の声の変化に、朋哉(トモヤ)はすぐに気付いた。
私が言葉を発した途端、顔を勢いよく私の方に向けると、私の顔をのぞきこんで来た。
そして、私が言い終わったあと、ソッと私を抱きしめてくれたの。
「お前、ココに来て、俺に謝ってばっかり。
謝んなよ。言っただろ?
俺たちは、生まれた時から一緒。
お前の笑顔を守るのも、お前の涙を拭うのも、尋人(ヒロト)じゃない。
俺の役目だ。
だから、お前は気にしなくていいから。
俺が勝手にしてる事だからさ。
頼むから、自分を責めないでくれ。」
耳元で聴こえた朋哉(トモヤ)の声。
本当に、心からホッとした。
ホッとしすぎて私、否定するのを忘れてたの。
ココに来て、気がそぞろだったのは、尋人(ヒロト)に逢うのが恐かったからじゃない。
朋哉(トモヤ)への自分の気持ちに、戸惑っていたって・・・。
そう伝えるのを、スッカリ忘れちゃってたの・・・。
「ポツン・・・ポツン・・・。」
アスファルトに、大きな水滴がユックリの感覚で落ちてくる。
それは、やがて水滴の量を増やしていった。
「とうとう、降って来たな。
このあと、確か本降りになったよな?」
私を抱きしめていた腕を少し緩めた朋哉(トモヤ)を見上げながら、私は「うん。」とうなずきながら答えた。
「雨がすごく降ってきたから、尋人(ヒロト)にCD屋は明日にしなよって言ったの。
でも、聞かなくて・・・。
確か、私の家を出たのは6時前だった。」
私の答えに、「なら・・・。」と言った朋哉(トモヤ)は時計を見て少し考えると、
「目撃者の通り、事故は6時半前だな。
6時には、あの交差点に行こう。」
と言ったかと思ったら、急に立ち上がる。
そして、私の腕をつかむと、グイとひっぱり、私を強引にベンチから立たせた。
「どう・・・したの?」
驚いて戸惑う私に、朋哉(トモヤ)は中央の時計台の側にある、小さな屋根のある休憩所を指差した。
「雨に濡れる。
あそこで雨宿りしよう。」
それには、私も納得。
というわけで、2人で雨宿りをしようと、移動しかけた。
その時・・・。
「結衣(ユイ)?」
突然、すれ違った中学生にそういわれた私は、「えっ?」と言いながら振り返る。
そこには、見覚えのある人物がいた。
「未(ミ)・・・湖(コ)?」
そう。その子は、3年前の未湖(ミコ)だった。
でも、どうして、こんな所に未湖(ミコ)が?
家と、全然方角が違うじゃない。
っていうか、どうすんの?
こんなところ見られて。
この時代にいる私と合わせたら、私は2人いることになっちゃうじゃない!!
どうすんのよ!!
もちろん、私は側にいる朋哉(トモヤ)に助けを求める。
朋哉(トモヤ)の腕を強くつかんでしまう私に、朋哉(トモヤ)は私の肩を優しく抱きしめてくれた。
そのしぐさに、私は思わず朋哉(トモヤ)を見る。
すると、朋哉(トモヤ)は、優しく私に笑顔を送ってくれてた。
その笑顔はまるで、「まかせろ。」と言ってくれてるようだった。
だけど、朋哉(トモヤ)が未湖(ミコ)に話しかける前に、未湖(ミコ)から言葉が発射された。
「あなた・・・朋哉(トモヤ)よね?
なんか、大人っぽくなってる気がするけど・・・気のせい?」
なんて言って少し首をかしげた未湖(ミコ)は、「あっ!そうだ!」と急に何かを思い出したのか、今度は私と朋哉(トモヤ)にすごい剣幕で迫ってきた。
「そんな事より2人共、一体どういうつもりよ!
急に黙っていなくなっちゃって!!
尋人(ヒロト)だって心配してたんだから!」
「へっ?」
もちろん、マヌケな顔アーンド、マヌケな声で答えちゃった私と朋哉(トモヤ)。
その態度が、未湖(ミコ)の怒りに拍車をかけちゃったようで、「あのねぇー。」と呪いをかけるような声で言った未湖(ミコ)は、さらに私と朋哉(トモヤ)に不満を容赦なくぶつけてきた。
「今日、尋人(ヒロト)も朋哉(トモヤ)も部活がないから、久しぶりに4人で帰ろう!って事になったじゃない。
なのに、2人ともいなくなっちゃって・・・。」
とまだまだ未湖(ミコ)は話を続けたそうなのに、またしてもカレが、未湖(ミコ)の言葉を奪い取る。
「おい、ちょっと待てよ!
俺も結衣(ユイ)もいなくなったって・・・。
それ、どういう意味だよ!」
確かに・・・それ、どういう意味?って私も思った。
だって、意味がわかんないから。
でも、未湖(ミコ)からしたら不思議だよね?
だって、消えた張本人から、「消えたって、どういう意味だ?」って聞かれてもねぇー。
「何・・・言ってんの?」
ともちろん戸惑う未湖(ミコ)だったけど、
「いいから、答えろ!」
と切羽詰ったような声で朋哉(トモヤ)にいわれたら・・・答えずにはいられなくなった未湖(ミコ)。
「もー、なんなのよ。
わけわかんない。」
と文句をブツブツ言いながら、未湖(ミコ)は朋哉(トモヤ)をジロと見る。
「だから、4人で構内を歩いてたの。
だけど、急に、2人がいなくなったのよ。
振り向いたら、急に。」
「振り向いたら?」
驚いて未湖(ミコ)に思わず再確認しちゃう私に、朋哉(トモヤ)は、「なー。」と未湖(ミコ)に問いかける。
「それ、何時の話?」
「なんで、そんな事聞くのよ!」
と言ったのは私。
だって、別に時間なんてどうでもよくない?
今、それどころじゃないって!
って思うけど・・・。
未湖(ミコ)も朋哉(トモヤ)も私の気持ちなんてちっともわかってくれなくて、2人で会話を始めちゃったの。
「確か4時を過ぎたあたりだったと思う。
帰りどこ行く?とか言って、普通に話してて気付いたら2人いなくて。
初め隠れてるのかな?と思って、尋人(ヒロト)と探したんだけどいないから、尋人(ヒロト)は先に結衣(ユイ)の家に向かうって言って帰っていったの。
私は、この向こうにあるCD屋に行こうと思って。」
「CD屋?なんで、また。」
朋哉(トモヤ)のその質問に未湖(ミコ)は、「私の推理。」と言って笑うと、こんな推理を言った。
「今日尋人(ヒロト)が好きなNATSUKIのアルバムの発売でしょ?
2人して買って、尋人(ヒロト)をビックリさせようとしてるのかな?って思ってね。
ほら、昔から朋哉(トモヤ)と結衣(ユイ)って、考えてる事一緒だったじゃない?
“弱い所”も一緒だったしー。」
と少し意味ありげな笑いをした未湖(ミコ)。
その笑いが気になった私はもちろん未湖(ミコ)に聞いたの。
「“弱い所”って何よ!」
「それはー・・・。」
と教えてくれようとした未湖(ミコ)だったけど、ナイスなタイミングで朋哉(トモヤ)がブロックした。
「余計な話はいいんだよ。」
と迷惑そうに言った朋哉(トモヤ)は、「えぇー、いいじゃない。」とブーたれる私を無視して、未湖(ミコ)に続きをせまる。
「それで?」
朋哉(トモヤ)の言葉に、「ん?」と聞いた未湖(ミコ)に朋哉(トモヤ)は言葉を付け足して言った。
「俺たちがいなくなった。
それ以外で、他に変わったこととかは無かったのか?」
だけど、未湖(ミコ)は、「特には・・・。」と首を振って答えた。
私にはサッパリだった。
でも、朋哉(トモヤ)にはわかったみたいで、「なるほどな・・・。」と険しい顔でつぶやいてた。
「ねぇー、朋哉(トモヤ)。
一体、どういう事なの。」
朋哉(トモヤ)の腕をつかんでそう聞いた私に、朋哉(トモヤ)が口を開こうとした。
その時・・・未湖(ミコ)の言葉が朋哉(トモヤ)の行動を止めた。
「ねぇー、私も聞きたいんだけど・・・。」
そう言った未湖(ミコ)は、朋哉(トモヤ)が「何?」と言ってる言葉にまるで重ねるように言ってきた。
「どうして、二人は、高校の制服きてるの?
まだ、中3なのに。」
って。それには・・・。
「えーっと・・・。」
と返事に困る私。
そこで、私は期待したの。
朋哉(トモヤ)が上手くごまかしてくれるだろうって。
だけど・・・。
「まっ、気にするな。」
って言うのよ!
たまらず、私は朋哉(トモヤ)の腕をグイとつかんだ。
「ちょっと、ごまかせてないよぉー!!」
と責めるけど、
「バカ!こんなのどうやってごまかすんだよ!」
と反対に叱られて。
そんなこと言われても、朋哉(トモヤ)にわからない事、私がわかるわけないじゃん!
心の中で、そう答えてた私だったの・・・。
「とりあえず・・・逃げるぞ!」
ボソと私に言った朋哉(トモヤ)。
一瞬聞き取れなくて、「えっ?何?」ともう一度聞いたけど、時すでに遅し・・・。
「う・・・わぁー!!」
急に走り出した朋哉(トモヤ)に思いっきり引っ張られた私は、絶叫!
その姿に、もちろん、未湖(ミコ)も大焦り!
「えっ!ちょっと、待ってよ!!
結衣(ユイ)、朋哉(トモヤ)!!」
その未湖(ミコ)の叫び声に、朋哉(トモヤ)は少し離れた場所から振り返った。
「悪いけど、俺たち急ぐから。
また、明日な!」
と爽やかに手を振って答えて・・・またもや逃走開始!
「結衣(ユイ)ってばー!!」
と叫ばれたけど・・・ごめん未湖(ミコ)。
今の私たちは、ここに生きる私たちじゃない。
いなくなるとか、過去にいるとか・・・。
わけわかんない状況で、理解出来ない事尽くしだから・・・。
今は、朋哉(トモヤ)の判断に頼るしかない。
彼が逃げるのが得策だと判断したのなら、私はそれに従うまで。
ごめん・・・理子(リコ)。
私は、そんな事を思いながら、心の中で理子(リコ)に必死で謝ってた。
「やっと、まけたか・・・。」
息を少し乱しながらそう言った朋哉(トモヤ)は、強く握っていた手をユックリと緩めた。
私はというと、もうグッタリ・・・。
だって、私よりもメチャクチャ背が高い朋哉(トモヤ)が、ほぼ全速力で走ってるんだよ。
ついていけるわけがないじゃない!
サッカー部のエースと、運動音痴の私とじゃ、まず速さが違うでしょ。
それにあと、コンパスの長さの違いに、体力の違いにそれから・・・。
って、言い出したらキリが無いくらい、差はありすぎる訳でさ。
私は、ほぼ、朋哉(トモヤ)にひっぱられるというか、連れ去られた感じだった。
自分の足で走った気がしなかったもん!
それくらい、朋哉(トモヤ)の逃げ足はすさまじかった。
なら、どうして、未湖(ミコ)をまくのに、こんなにクタクタになってるのか!って?
それは、しょうがないよ!
だって、追っかけられたの、未湖(ミコ)だけじゃなかったんだから。
実は、未湖(ミコ)はすぐにまけたんだけど、そのあと、中学のクラスメイトに逢うは逢うは・・・。
朋哉(トモヤ)のサッカー部のメンバーにも逢ったりで、私たちは息つく暇も無かったの。
「なんで、こんなに知り合いが、ここにうじゃうじゃ集結してんだよ!
ここ、校区外(コウクガイ)だろが!」
って、逃げながら朋哉(トモヤ)が怒ってたくらいだったんだから。
でもホント、不思議なくらい知り合いが多くて、私たちが身を隠せる場所は、“こんな”ところしかないのだろうとわかってる。
わかってるけどでも・・・。
・・・。
・・・。
やっぱり、言葉は詰まる。
だって、ここ、どこだと思う?
とんでもない所なんだから!!
ここは、尋人(ヒロト)が事故に遭う、交差点の真ん前の建物の間の狭い路地。
聞くだけでは想像つかないだろうけど・・・とんでもない路地なんだから!
人がすれ違う事が出来ないくらいの幅に、さらに蜘蛛の巣は張ってるし、すぐ側が排水とつながる川がある為、においはキツイ。
あと・・・ねずみとかも出そう・・・。
建物と建物が重なり合ってる感じだから、丁度雨はしのげるけど。
でも、だからって、この場所を安息の地とは、思えなかった。
というより・・・思いたくなかった。
「こんなところ、やーだ。」
とダダをこねるけど、
「贅沢言うなよ!」
と冷たく言いながら、濡れた髪を手でバサバサとかき乱し、水滴を飛ばす朋哉(トモヤ)。
確かに、さっきみたいな状態がずーっと続いたら、スタミナ切れでぶっ倒れてたのは想像つくけど・・・。
でも、だからって、ここにいる事を喜ぶなんてできないし、納得だってできない。
だって、そうでしょ?
そもそも、なんで、私たちが逃げなきゃなんないわけ?
別に、いいんじゃないの?
中学生の結衣(ユイ)と朋哉(トモヤ)を演じてたら。
そう思った私は、その考えを朋哉(トモヤ)に言ってみたの。
だけど、朋哉(トモヤ)は、
「高校生の俺たちを見られると困るから、逃げてたわけじゃない!」
って・・・そういうのよ。
「何よ・・・それ!どういう事?」
サッパリわからない。
だって、そうでしょ?
高校生であるいえば未来の私たちが、過去の人たちと関わるのがいけないから、避けてたんじゃないの?
そうじゃないっていうなら、避ける理由は、一体なんだっていうのよ!
私は、思わず、朋哉(トモヤ)の腕をつかんだ。
「じゃ、どうして。なんで、逃げなきゃいけなかったの?」
いつになく真剣に聞く私。
でも、その真剣な瞳が、恐怖に脅えているのは、きっと朋哉(トモヤ)には伝わったよね?
だって、本当に恐いんだもん!
朋哉(トモヤ)が恐れている物に対して恐い。
だけど、それよりも何よりも恐いのが、それに全く気付かなかった私の鈍感さ・・・かもしれない。
たまらず、つかんでいる朋哉(トモヤ)の腕を、もっとキツくつかんでしまう。
私の不安を察知した朋哉(トモヤ)は、つかんでいる腕をとると、私の手を握ってくれた。
冷たくひえた私の手に感じた暖かい温度は、そのまま手を通って私の心を暖かくしてくれた。
「あいつらから逃げたのは、俺たちの身を守る為だ。」
「身を守る?」
そんな風に私は、朋哉(トモヤ)の言葉を繰り返した。
それに対して朋哉(トモヤ)は、「ああ。」とうなずくと、朋哉(トモヤ)の中で出てる答えを教えてくれたの。
「さっき、未湖(ミコ)の話を聞いて、わかった事があってな。
それは、俺たちは、『過去に戻って来た』わけじゃなくて、俺たちは『過去をもう一度生きてる』って事だ。」
「もう一度生きてるって・・・。
それ、どういう意味?」
わかりそうで、ちょっとわからない。
だから、私は朋哉(トモヤ)にすぐに降参したの。
どういう事かを、きちんと説明してもらおうと思って。
すると、朋哉(トモヤ)は、私の手を離すと、着ていたカッターを脱ぎながら話し始めた。
「普通過去に戻ってきたのなら、“過去の生活の中に俺たちが入り込む”ってなるだろ?
だったら普通、ここには、中3の俺とお前がいるはずなんだ。
だけど、ここには、いない。
ちょうど、俺たちがこの時代に来たと同時くらいに、中3の俺たちが消えた。
それがどういう事かというと・・・今ここにいる高3の俺たちが、この時代に生きている中3の俺たちって事。
わかりやすく言うと、俺たちは生き直してるって事だ!
だから、もしかすれば、尋人(ヒロト)を救うだけでなく、他にも色々過去を変えられるかもしれないな。」
そして、苦笑いをした朋哉(トモヤ)。
ちょっと、気になったの。
朋哉(トモヤ)が言った、最後の言葉が。
『色々過去を変える』って・・・。
朋哉(トモヤ)は一体、どんな過去を変えたいの?
どうしてだろう?どうでもいいことなのかもしれないけど、なぜか無性に知りたくなった。
朋哉(トモヤ)にとっての、やり直したい過去を知りたいと思ったの。
「朋哉(トモヤ)が変えたい過去って、何なの?」
心のどこかで思ってた。
どうせ、しょうもない事でしょ?って。
壊した何かを元に戻したいとか。
負けたサッカーの試合を勝ちにしたいとか・・・。
そういう自己中な願望だと思ってた。
だけど、朋哉(トモヤ)は信じられない事を言い出したの。
それは・・・。
「色々あるよ。
でも、一番後悔してて、変えたいと思ってることは、ただ1つ。」
そう言った朋哉(トモヤ)は、私の方に一歩近付いてくると、私の冷たくひえた頬にそっと右手を添えた。
氷のように冷えきっている頬から、ここちよい暖かさが伝わってきた。
私をいつになく真っ直ぐに綺麗な瞳で見る朋哉(トモヤ)の目を見たら、私は冗談もいえなくなってた。
ただ、催眠術にかかったみたいに、私は朋哉(トモヤ)の瞳から目が離せなかった。
瞬(マバタ)きも忘れちゃうくらい・・・。
そして、朋哉(トモヤ)は真剣な瞳のまま、私に変えたい過去を言ったの。
「結衣(ユイ)を、尋人(ヒロト)に譲るんじゃなかった。」
「えっ?」
と言ったと同時に、私の胸はまた、ドキーンと跳ね上がった。
って、そりゃ、跳ね上がるよ!
だって、今の・・・どういう意味?
尋人(ヒロト)に譲るんじゃなかったって・・・。
それって、朋哉(トモヤ)が私を好きでいてくれたって・・・そういう事?
まさかね・・・。
でも、どうしてだろう。
朋哉(トモヤ)がそういう気持ちでいてくれたのかもしれないと思っただけで、こんなにも胸が熱くなる。
ドキドキが止まらないどころか、ドンドン鼓動は速くて大きくなる。
まるで、朋哉(トモヤ)の感情が嬉しいみたいにって・・・。
えっ?私、嬉しいの?
朋哉(トモヤ)に好かれて、私嬉しがってる?
そんな自分に、焦ったの。
決して、朋哉(トモヤ)の気持ちに焦ったわけじゃないのに。
だけど、朋哉(トモヤ)はそう受け取ってしまったのか・・・。
それとも、慌てふためく私の姿に、満足したのか・・・。
真実はわからないけど、朋哉(トモヤ)ったら、急にさっきとは180度違う態度に出て来た。
引き続き甘い告白を期待していた私はもちろん、ホンキで驚いたし、正直ついていけなかった。
こんな、信じられない展開に・・・。
「なーんてな。
俺が、そんな事いうわけないだろ?」
「へっ?」
耳を疑うような言葉が聞こえたかと思ったら、今度は目の前にあった朋哉(トモヤ)の真剣な顔が、一変して意地悪な顔に変身した。
そして、さらに、私の頬に触れていた手で頬をキュッとつまむと、びよーんと横に伸ばした。
「なっ!!いた・・・いたーい!!」
思いっきり騒ぐ私の姿に、朋哉(トモヤ)は声を出して大笑いを始めて。
さらには、
「結衣(ユイ)って、すぐ騙されるんだから。」
とまで言う始末。
「騙されるって・・・。」
それって、つまり・・・。
私の中で答えがみつかった。
でも、それは、信じたくない答えで・・・。
だけど、私は朋哉(トモヤ)に言ったの。
きっと、心のどこかで否定してくれる事を祈っていたのかもしれないけど・・・。
私は、彼に言った。
「つまり、嘘って事?
さっきの尋人(ヒロト)に譲らないって・・・。」
まるですがるような目で聞いた私に、朋哉(トモヤ)は平然とした顔で私に答えた。
「当たり前だろ?
尋人(ヒロト)とお前のキューピットは誰でもない、この俺だ。
お前に特別な感情があったのなら、そんな事するわけないだろ?」
そう言われたら・・・そうだよね。
私と尋人(ヒロト)がつきあえたのも、全部朋哉(トモヤ)のおかげだもん。
その朋哉(トモヤ)が私を好きだなんて・・・。
ホント、あるわけないって!!
それに、私は、尋人(ヒロト)が好きなんだよ。
朋哉(トモヤ)なんて今まで、一度も恋愛の対象として見た事なんてなかったんだから!
こっちだって、願い下げよ!!って思ってる。
思ってるんだけど、それは、思い込んでるって思ってしまう・・・。
自分に必死で私・・・そう言い聞かせてない?
だって、さっきから、おかしいんだもん。
朋哉(トモヤ)に好きかも?って言われた時は、心が満たされてドキドキしてたのに、嘘だって言われた途端、心に冷たい風か入り込んでスースーするの。
自分でも信じられないくらい、私は朋哉(トモヤ)の言葉にガッカリしてる・・・。
不安定になっている自分の感情を支えるのに手が一杯の私は、朋哉(トモヤ)の顔を見る事もできなかった。
必死で気持ちを切り換えようとしてる私の姿に、朋哉(トモヤ)はまた意地悪を言ってくる。
「もしかして、結衣(ユイ)。
お前、ガッカリしたのか?
俺が、お前を好きじゃなかったって知って。」
そうよ、悪い?
本当はそう言いたかった。
だけど、私は悟られたくなかった。
だって、私がガッカリした事を朋哉(トモヤ)が知って、喜ぶと思う?
絶対に朋哉(トモヤ)なら、私を軽蔑する。
親友を愛していた人が、自分に興味を持ち始めたなんて・・・。
そんな事、朋哉(トモヤ)が受け入れるはずないじゃない。
朋哉(トモヤ)は、尋人(ヒロト)を生き返らせるのは、私の為と言ってるけど、少しは自分の願望もあると思うの。
だって、朋哉(トモヤ)と尋人(ヒロト)はずっとずっと何をするにも一緒だった。
いつも朋哉(トモヤ)がなんでも先を走ってた。
それを、尋人(ヒロト)が追いかけて。
でも、1つだけ朋哉(トモヤ)に勝てたのが、サッカーだった。
朋哉(トモヤ)も上手いけど、尋人(ヒロト)はその上をいった。
朋哉(トモヤ)は、唯一、尋人(ヒロト)に引っ張られる側に立てるサッカーがたまらなく好きになった。
そして、尋人(ヒロト)は、反対に、唯一朋哉(トモヤ)よりも優位に立てるサッカーを心から愛した。
そんないつもお互いを尊重し合い、認め合ってた2人だもん。
朋哉(トモヤ)にとって、尋人(ヒロト)は大切な人だったはず。
それを側で見てきたから・・・だから、わかるの。
朋哉(トモヤ)が、私の今のぐらついてる気持ちを知って、どう思うか。
私は、今朋哉(トモヤ)しか頼れる人がいない。
そして、気付いてしまったから。
朋哉(トモヤ)の頼れる腕も、安心する胸も、言葉も声も・・・。
手放したくないの。
だから、手放さない為に私は、平気で嘘をつける。
朋哉(トモヤ)の側にもう少しいたいから。
今までのへんな感情がなんなのか。
モヤモヤがハッキリするまで、私は、朋哉(トモヤ)の側を離れない。
だから、離れないようにするね。
私は、めいいっぱい、嘘をつくよ!
そう決めた私は、演劇部の実力を発揮した。
「そんなわけないでしょ。
変な事言わないでよ!」
そして、笑ってごまかす。
でも、それにしても・・・ちょっと、ひっかかる。
私の気持ちがどうこうとか、そういうのじゃなくて・・・。
朋哉(トモヤ)のイタズラよ!
だって、よくよく考えたら、やっぱり、腹立たない?
せっかく真剣に聞いてたっていうのに。
全部いたずらだったなんて!!
許せないっていうか・・・バカ!!
真剣に聞いてた私があほらしい。
私は、頬をつままれている手をはじくと、朋哉(トモヤ)を呆れた目で見る。
「朋哉(トモヤ)のいう事信じてたのにー。
おちゃらけるのもいい加減にしてよ!!
逃げたのは身を守る為だとか・・・。
過去を生き直してるだとか・・・。
ホンキで驚いたんだから!!
でも、安心したぁー。」
そして、ホッと息を吐いて安心した私だったんだけど・・・。
「それは、嘘じゃねぇーよ。」
その凛とした声に、私の安心の笑いは、ピタリと固まり、そして、ユックリと消えていった。
完全に消えた頃、私は朋哉(トモヤ)を見る。
「じゃ、教えてよ!
身を守る為って、どういう意味?
ここで中3として生きているクラスメイトや友達に、私たちは何かされるって事?」
「いや、そうじゃなくて・・・。」
「じゃあ、何よ!」
「さっきも言っただろ?
俺たち自身がこの時代を生きてるんだ。」
「でも、それと、身を守る事と、どういう関係があるのよ!」
「俺たちがこの時代で生きてるという事は、この時代で俺たちに何かあれば、この先の未来にも影響を与えるという事。
例えば、ここで、俺が腕を怪我して再起不能になったとする。
すると、たぶん、元の俺たちの未来の世界に戻った俺は、そのまま腕を負傷してるはずだ。」
「それってつまり・・・?」
「つまり、俺たちがここで過ごした過去が、そのまま未来の俺たちの人生に引き継がれるって事。
だから、ここで、尋人(ヒロト)を救えば、そのまま未来に引き継がれるから、尋人(ヒロト)は生きてるって事になるんだ。」
「す、すごい!!
感動して両手を叩いて目を輝かせる私に対して、朋哉(トモヤ)は少しあきれぎみ。
「だから、そう手放しで喜んでる場合じゃねぇーってーの!」
そう言った彼は、すぐ側にある壁を軽く蹴った。
まるで、気が緩んで舞い上がっている私の気持ちを、ピシっとするかのようだった・・・。
緩んでいた気持ちが引き締まった頃、朋哉(トモヤ)は私に話を続けたの。
「さっきも言ったように、この時代で俺たちに何かあれば、俺たちの未来にも大きく影響する。
だから、なるべくなら、誰とも関わらない方がいい。
尋人(ヒロト)を救う事が目的だったんだ。
それだけをこなしたら、過去はむやみに変えず触れず、元の世界に戻った方がいいと思う。」
「そう・・・だね。わかった。」
私は素直に納得すると、また、朋哉(トモヤ)の腕にそっと触れた。
だけど、すぐに朋哉(トモヤ)は私から手を離した。
それは、なんでかというと・・・。
「ちょっと!!なんで脱ぐのよ!」
そう・・・彼は、手を離したかと思ったらいきなり今度は、下に着ていたTシャツを脱ぎ始めた。
さっきは、カッターを脱いでたでしょ。
でも、あれはわかるのよ!
寒いけど、脱いじゃう理由はね。
走って逃げてるうちに、雨が本降りになって、ずぶぬれになっちゃったから、気持ち悪くてきっと脱いだんだと思う。
だから、納得だし理由がわかるだけに、何もいわなかった。
だけど、こればっかりは・・・わかんないよ。
だって、普通脱がないでしょ!
どうして、下に着ていたあまり濡れていないTシャツまで脱ぐの?
不思議でたまらない私は、我慢しきれず、つい朋哉(トモヤ)に聞いてしまう。
「どうして、それまで、脱いじゃうのよ!」
って本当は言いたかったんだけど、実際言えたのは、
「どうして、それ・・・ブッ!!」
で、終わってしまった。
最後のブッは、顔に朋哉(トモヤ)のさっき脱いだTシャツがぶつけられたから。
つぶれたような声をあげちゃったの。
「何よぉー!!」
と怒る私に朋哉(トモヤ)は平然と答える。
「ブレザーかぶっていたにしても、多少は濡れただろ?
風邪引いたら大変だから、タオル代わりに拭いておけ。
それがすんだら、それを首に巻いとけ。
かなり冷えてきたからな。
マフラー代わりとまではいかねぇーかもしれねぇーけど、ないよりはマシだろ?」
そして、朋哉(トモヤ)はビチョビチョに濡れたカッターを硬く絞ると、水分をジャーと音を立ててカットし、しわしわになったカッターを、勢いよくバンバンと広げるとそれに腕を通して着る。
見てるだけで・・・身震いがした。
この寒さにアレは、罰ゲームだよ。
っていうか、朋哉(トモヤ)が風邪引いちゃう。
私は、急いで朋哉(トモヤ)に返そうとTシャツを差し出すけど、それを手に取った朋哉(トモヤ)は、私の濡れた髪をそれで、乱暴に拭いた。
「俺は男だから強いんだよ。
それより、俺のいう事を聞け!」
朋哉(トモヤ)はそういうと、今度は私の首に、服を巻きつけると、私の瞳を優しい眼差しでみる。
「俺が絶対に、尋人(ヒロト)を守ってみせるから。
尋人(ヒロト)を救って、アイツのいる未来に早く一緒に帰ろうな。」
朋哉(トモヤ)のその優しい声。
優しい眼差し。
また、胸が熱くなった。
私は、自然と自分の体を彼の体にゆだねてた。
「ゆ・・・い?」
まさか、私が彼に抱きつくと思っていなかった朋哉(トモヤ)は、珍しく驚いたというか、戸惑った声をあげた。
だけど、私はやめなかった。
だって、朋哉(トモヤ)にくっつきたかったから。
彼の体から伝わる安心を味わいたかったから。
私は、彼の背中に両腕を回すと、彼に抱きついた。
強く抱きつく私の背中に、ゆっくりと朋哉(トモヤ)の手が添えられた。
「そんなにくっついたら、お前濡れるぞ。」
確かに、べちょべちょの朋哉(トモヤ)のカッターにくっついてると、私も寒くなってきた。
でも |