5             〃    後編
2008.01.01 Tue. 
少し穏やかな時間が流れた。
私たちは、完全に忘れていたの。
自分たちが、何しにきたのか。
そして、今、何時なのか・・・。
逃げまくっていたせいで、時間感覚が麻痺してた。
 
「そういえば、今何時?」
 
と朋哉(トモヤ)に聞いた私。
だって、朋哉(トモヤ)は、腕時計をしてたから。
だけど、朋哉(トモヤ)は、腕時計も見ずに、即答する。
 
「さーな。わかんねぇー。」
 
って。わかんねぇーって、時計見てよ!と、反論しようとした時、その思いが通じたのか、朋哉(トモヤ)が、自分の腕を私の目の前に出してきた。
 
「時計、止まってんだよ。」
 
「えっ?」
 
驚いて、私は朋哉(トモヤ)の腕時計を見る。
確かに、朋哉(トモヤ)の言う通り、私たちがここに到着したくらいの時間で、止まってた。
 
「コレ・・・どういう事?」
 
単なる偶然とは思えなくて、朋哉(トモヤ)に聞いてしまう。
すると、朋哉(トモヤ)は、「実はな・・・。」とすこしいいにくそうに口を開いた。
 
「結衣(ユイ)が不安がると思って言わなかったんだけど・・・。」
 
と言ったかと思ったら、今私たちに降りかかっている事を説明し始めた。
 
「携帯も電源をいくら押しても、はいらないし、持ってきた金も、札は紙切れになってるし、硬貨もメダルになってる。」
 
「えっ?」
 
「つまり、この時代でつかえるものは、俺たちの体のみって事。
だから、お前を暖めるものを買ってやる事もできねぇーし、雨をしのぐ傘も買う事ができねぇー。」
 
それで、納得がいった。
私は、気が回る方じゃないから、今まで気付かなかったけど・・・。
言われたらそうだよね?
多少なりともお金を持ってるわけだから。
服だって安いものなら何か買えたし、あとカイロとかだって買えたはずだもん。
そういうこと、朋哉(トモヤ)ならすぐに気付いたはず。
でも、そうしなかったのは、出来なかったからなんだよね・・・。
でも、どうして、そんな事が??
 
「ねぇー、どうしてなの?
なんで、つかえないの?」
 
「さぁーな。」
 
と軽く答えた朋哉(トモヤ)だけど、一応その先に続く言葉も言ってくれた。
 
「けど、1つ言えるのは、やっぱり、やみくもに未来を変えちゃいけないって事じゃないのか?
尋人(ヒロト)を救う。
それだけをやり遂げるしか認められないって事だろ。」
 
と言った朋哉(トモヤ)は、狭い路地から一足先に出て、時刻を確認しようとした。
その時・・・。
 
「キキー・・・・ドカン!!」
 
鼓膜が破れるくらいのタイヤがこすれる音。
大きな建物と何かがぶつかった音。
それを聞いた瞬間、私は体の力が抜けそうになる。
だって、今の音って・・・。
私と朋哉(トモヤ)の目が重なり合う。
私は、朋哉(トモヤ)にそんなセリフを目で言ってみた。
そして、朋哉(トモヤ)の瞳は、みるみるうちに、後悔の色に変わる。
 
「ふざけんな!!
ここまで来たっていうのに!!」
 
と唇を噛みしめながら、この路地から出て行った。
私は、壁を伝って必死で路地の先まで出る。
私が目にした光景は・・・3年前に見たものと同じだった。
寒さと雨が重なり、道路が少し凍り始めた所に、スピードを出した大型トラックが走ってきた。
カーブを曲がりきれずに、ビルに激突したトラックは大破。
運転手は即死。
そして、そのビルにいた客を含む50人以上の人が怪我をし、そして、10人もの人が命を落とした。
とんでもない惨劇だった。
そして、その死者の中に、尋人(ヒロト)が含まれてた。
そして、今も・・・。
中から救いだされた人の中に、尋人(ヒロト)の姿が見えた。
この事故から救うはずだった尋人(ヒロト)は、あの時と同じ、息絶えた姿で、私たちの前に姿を現した。
 
「なんで・・・どうして!!」
 
あまりの悔しさに、壁を強くなぐる朋哉(トモヤ)。
でも、私はなんでだろう?
尋人(ヒロト)を救えなかった悔しさよりも、朋哉(トモヤ)の悲しそうな顔を見てるほうが辛かった。
朋哉(トモヤ)を抱きしめたくなるくらい・・・胸がキュンと痛んだ。
 
「朋哉(トモヤ)・・・。」
 
私は朋哉(トモヤ)の側によると彼の腕に触れた。
その時、私が持っていたブルーストーンが、まばゆい光を放った。
 
「なっ!何??」
 
次の瞬間、目をつぶるくらいの眩しい光が私たちを包んだ・・・。
 
「・・・い・・・結衣(ユイ)!!」
 
遠くでそんな声がして、私はゆっくりと瞳を開けた。
目の前には、心配顔の朋哉(トモヤ)の顔。
 
「朋哉(トモヤ)・・・。」
 
そう言って、朋哉(トモヤ)の腕の中で横になっていた体を起した私。
 
「今の光なんだったの?」
 
すると、朋哉(トモヤ)は、私に自分の携帯を見せた。
液晶にはちゃんと文字が映ってる。
でも、どうして?
さっきは、電源が入らないといっていたのに・・・。
 
「ん?」
 
と首を傾げる私に、朋哉(トモヤ)は悲しい顔をする。
 
「元の時代に戻ってきちまった。」
 
「えっ?」
 
驚く私に、朋哉(トモヤ)は私から手をゆっくりと離すと、私の側に腰をおろした。
 
「財布の中の金もちゃんと戻ってる。
時計もちゃんと動くし、俺たちが向こうに行く直前の時間になってる。」
 
そう言われたら・・・。
私は周りを見た。
周りを歩いている人は、6月らしい格好をしてるし、この場所は、尋人(ヒロト)が事故に遭った場所。
つまり、私たちが最初に出発した場所だ。
って事は・・・。
 
「尋人(ヒロト)を救えなかったから、戻ってきちゃったって事?」
 
「ああ。」と答えた朋哉(トモヤ)は、ブルーストーンを握っている私の手を強く握った。
 
「結衣(ユイ)!もう一度、過去に行こう。
今度は、絶対に失敗しない!」
 
「待ってよ。もう一度なんて、いけるわけないじゃない・・・。」
 
だけど、私の手の中にあるブルーストーンはさっきよりも劣る力だけど、まだ、向こうに連れて行ってくれるくらい、光っていた。
 
「ホンキ・・・なの?」
 
戸惑う私に、「ああ。」と真剣に朋哉(トモヤ)はいうじゃない。
もういいって・・・いえなかった。
私は、朋哉(トモヤ)が望むまま、またブルーストーンに頼んだ。
過去へいかせて!って・・・。
そして、ブルーストーンはまた・・・私と朋哉(トモヤ)を連れて行ってくれたの。
私たちはまた、さっきと全く同じ時間に同じ場所に辿り着いた。
てっきり私は、このあと未湖(ミコ)に逢ってしまうことを計算に入れて、避けるのかと思ったの。
だから、未湖(ミコ)が現れる公園ではなく、まっすぐにさっき隠れていたあの汚い路地に向かい、身を隠すのかと思った。
なのに彼は、路地とは逆方向を向いて、普通に、「いくぞ!」と私に声をかけると先を歩き出した。
 
「えっ?!ちょ・・・ちょっと待ってよ!!」
 
驚きのあまりそんな声しかでないって!
だって、朋哉(トモヤ)が向かった方角は、公園がある方なんだよ。
そっちに行けば、さっきみたいに未湖(ミコ)に逢うのはわかってるじゃない!
なのになんでわざわざ、そっちに行くのよぉー!!
ホント・・・わけわかんない人っ!!
半分怒りながらも、
 
「待ってってば、朋哉(トモヤ)!!」
 
と叫びながら、私は先を歩いてる朋哉(トモヤ)を必死でおっかけた。
 
「ねぇー、待ってよ!!」
 
やっと追いついた私は、朋哉(トモヤ)の腕をつかもうと右手を伸ばした。
だけど、もうちょっとの所で、なぜか朋哉(トモヤ)はその腕をスッと私の手の範囲から遠のけた。
今の・・・何?
やっと追いついた朋哉(トモヤ)が、私が止まってしまったことによってまた・・・遠くになっていく。
でも、そんな朋哉(トモヤ)に止まってよと訴える事も、まして、私がまた追っかける事も・・・できなかった。
だって、さっきの朋哉(トモヤ)の行動が、私の心を凍りつかせたから。
明らかに今の・・・私が触れるのを嫌がったよね?
スッと手を、引っ込めたんだもん。
なんで?さっきまで、あんなに優しく触れてくれたのに・・・。
どうして、急に・・・。
だけど、そんなの、言えないよ。
だって、おかしいでしょ?
私が、朋哉(トモヤ)に触れられる事を望んでるなんて。
私だって、正直わかんないもん。
どうして、朋哉(トモヤ)から安心をもらいたいのか。
どうして、朋哉(トモヤ)の些細な事にこんなに翻弄されるのか・・・。
一緒にいればいるほど、混乱していく自分がわかるくらい、私はどんどん変になってる気がした。
私の前を歩いていた朋哉(トモヤ)が、しばらくして、立ち止まる。
そして、私の方にユックリと振り返った。
それも、軽くタメ息をつきながら・・・。
立ち止まって、ただ朋哉(トモヤ)を呆然と見ている私の姿に、朋哉(トモヤ)は呆れ顔。
 
「突っ立ってないで、とっとと来いよ!
また、間に合わなかったらどうすんだ!」
 
いつもの朋哉(トモヤ)だった。
それを見て、ちょっと安心した。
朋哉(トモヤ)が嫌がっているように思えたさっきの行動は、もしかしたら偶然かもって。
深い意味はないのかもしれない。
そうよ!私の思い過ごしだ!
私は、そう自分に言い聞かせ、疑った自分の心に安心を与えた。
 
「ねぇー、朋哉(トモヤ)!
なんで、公園行くの?
未湖(ミコ)に逢っちゃうのに。」
 
朋哉(トモヤ)の側に辿り着いた私は、早々に彼に聞いた。
すると、彼は私に歩く事を視線で訴えると、自分が先に止めていた足を動かした。
それを見た私も、彼に寄り添うように歩き出す。
さっきと違って、私の歩幅に合わせてくれてるのか、無理なく朋哉(トモヤ)の横を歩けた。
 
「未湖(ミコ)に逢わない方がいいんじゃない?」
 
側にいる朋哉(トモヤ)の顔を見上げながらそう言った私だったんだけど・・・。
 
「とも・・・や?」
 
今度は不思議な声をあげてしまった。
だって、何か朋哉(トモヤ)・・・おかしくない?
私がこれだけ話かけてるのに、全然頭に入ってない!って感じだし、何より・・・。
私は、朋哉(トモヤ)の額に注目した。
額に光ってる水滴って・・・汗?
だけど、それって、おかしいでしょ。
だって、今は2月。
それも、さっきと変わらず激寒だし、朋哉(トモヤ)が着てるカッターだって、まだ、全然乾いてないんだよ。
こんな姿の朋哉(トモヤ)が汗をかくなんて、ありえないって!
一体、どういう事?
私は、たまらず、朋哉(トモヤ)の額に向かって手を伸ばす。
 
「朋哉(トモヤ)なんで、汗かいてるの?」
 
そう言い終わった頃、私の手がもう少しで朋哉(トモヤ)の額に触れそうになったその時・・・。
 
「な・・・んで?」
 
行き場をなくなった手のひらで、私は拳を作り、その手を力なく下に下ろした。
額に触れる直前に朋哉(トモヤ)は、あからさまに体を私の側から移動させて、私の手から逃げたの。
まるで、嫌なものが近寄ってくるみたいに・・・逃げた。
今のは、気のせいとかじゃないよね?
って事は、さっきのも、朋哉(トモヤ)の意志で手を引っ込めたって事だったの?
薄れたはずの不安がまた、復活する。
私の心を黒く塗りつぶしていきそうになる。
何も言えず固まっている私の姿に、朋哉(トモヤ)は私が何を思い何に心を奪われているかわかったんだと思う。
 
「勘違いするなよ。」
 
私の側に戻って来た朋哉(トモヤ)は私の顔を優しい眼差しで見ると、さらに優しく微笑みかけてきた。
 
「さっき走り回ったり、雨に濡れたせいで、俺の髪も体も汚ねぇーんだよ。
だから、結衣(ユイ)に触らせたくなかったんだ。
それに、さっき、お前濡れてる俺でもかまわないって抱きついて来ただろ?
けど、あんな事したら、お前まで冷えちゃうからさ。
なるべく、俺には触れるな。いいな!」
 
そして、朋哉(トモヤ)は、私の髪を軽くポンポンとなでると、私が着ている朋哉(トモヤ)のブレザーの上から、私の肩に触れた。
朋哉(トモヤ)に押し出されるように私は、朋哉(トモヤ)と共にまた、歩き出す。
 
「さっきの結衣(ユイ)の質問だけど。」
 
朋哉(トモヤ)はそういうと、さっきの優しい笑顔ではなくて、少し真剣な顔つきになる。
 
「俺たちが来た事によって、この時代が変わってしまった事・・・、お前気付いたか?」
 
「えっ?」
 
ビックリした瞳で朋哉(トモヤ)を見た私に、「思い出してみろよ。」と言った彼は、さらに言葉を続けた。
 
「元々のこの時代で、あのCD屋に行ったのは、尋人(ヒロト)だけだっただろ?
だけど、俺たちが消えた事によって、未湖(ミコ)もあのCD屋に向かおうとしていた。」
 
そう言われたら・・・そうだった。
私と朋哉(トモヤ)を探して、CD屋に向かう途中だって言ってたっけ?
そう思って・・・私はハッとした。
だって、CD屋に行ったら事故に遭う。
もし、そこで、未湖(ミコ)が死んでしまったら?
朋哉(トモヤ)言ってたよね?
この時代で起った事は、私たちが元々生きてる時代に引き継がれるって・・・。
っていう事は・・・。
 
「未湖(ミコ)が、死んじゃう?」
 
言ってる側から涙目の私に、朋哉(トモヤ)はまた、私の髪を軽くなでる。
 
「可能性はある。
でも、さっき、未湖(ミコ)は俺たちと出逢った事によって、CD屋には行かなかった。
だから、大丈夫だったんだけど、もし、今俺たちが未湖(ミコ)を避けて、公園を通らなかったら、アイツに逢わないだろう。
そしたら、アイツはどうなると思う?」
 
「CD屋に向かう・・・よね?」
 
「ああ。尋人(ヒロト)と一緒に事故に遭う可能性が出てくる。
だから、俺たちは、公園を避けるわけには行かない。
未湖(ミコ)に逢って、アイツがCD屋に行かないようにしないとな。
尋人(ヒロト)が生き返っても、未湖(ミコ)が死んじまったらお前、もっと生きていけねぇーだろ?
お前の気持ち、未湖(ミコ)はよくわかってるからな。」
 
ホントにその通りだった。
未湖(ミコ)は、私にとって出来過ぎの親友。
私は未湖(ミコ)に何もしてあげれてないけど、私にとって未湖(ミコ)は、いなくてはいけない人だから。
未湖(ミコ)が死ぬなんて、そんなの絶対に絶対にイヤ!!
私は、朋哉(トモヤ)の意見に深くうなずく。
 
「未湖(ミコ)は死なせない!」
 
私の言葉に、「ああ。」と答えてくれた朋哉(トモヤ)は、私には触れなかったけど、笑顔をくれたの。
とっても安心する笑顔を・・・。
 
「尋人(ヒロト)が来たぞ!」
 
朋哉(トモヤ)の言葉に私は、敏感に反応して、すぐに朋哉(トモヤ)が指さす先を見た。
 
「尋人(ヒロト)・・・だ・・・。」
 
感動のあまり、口に両手を当てたままで、動けなかった。
だって、いくら過去に来たと言われても、どこかで疑いはあるもので・・・。
普通に歩いて、CD屋に入ろうとしている尋人(ヒロト)を見ると、夢じゃないんだと思えた。
口を抑えている手が、小刻みに震えてる。
覚悟はしてたけど、実際亡くなった人が生きているのを見ると、平常心ではいられない。
動揺しまくっていた私。
どうしよう。尋人(ヒロト)とどうやって話そう。
そんな事で頭が一杯になった。
完全にパニックになった私の頭にまた、優しい手がソッと触れる。
尋人(ヒロト)を見ていた私の眼が、自然と手の主に目を向けた。
頭は完全に動きを止めているというのに、心が・・・。
魂が動いて、朋哉(トモヤ)の方を見た。
そんな感じがした・・・。
動揺した眼差しで朋哉(トモヤ)を見る私に、朋哉(トモヤ)の瞳は、「安心しろ。」と言ってくれてるようだった。
 
「俺が、アイツをここに連れてくるから。
いいか。結衣(ユイ)は絶対にここから動くなよ。」
 
朋哉(トモヤ)は私にそう念を押すと、私の髪から手を離し、青になった信号を渡っていった。
 
「尋人(ヒロト)!!」
 
今にもビルに入りそうになった尋人(ヒロト)に声をかけた朋哉(トモヤ)。
朋哉(トモヤ)の声に、尋人(ヒロト)は反応し、朋哉(トモヤ)の方を見る。
 
「お前っ!なんで、ここにいんだよ!
探したんだぞ!!
そういえば、お前、結衣(ユイ)と一緒なのか?
あいつもいきなりいなくなって。
家いっても居ないっていうから、あちこち探しててさ。
もしかして、CD屋に来てんじゃないかと思って来てみたんだけど、居たのはお前かよ!」
 
尋人(ヒロト)のそんな言葉に、「死人の癖によくしゃべる。」とボソっとひとり言を言った朋哉(トモヤ)。
 
「ん?なんだよ。」
 
と聞いて来る尋人(ヒロト)に、「あー、いや。こっちの話。」とごまかした朋哉(トモヤ)は、尋人(ヒロト)の腕をつかんだ。
 
「とりあえず、ここから出よう。
あっちに、結衣(ユイ)もいるから。
ほら、急げ!!」
 
朋哉(トモヤ)は戸惑う尋人(ヒロト)の腕を強引に引っ張ると、信号を渡って、こちらに来た。
 
「結衣(ユイ)!」
 
目の前には尋人(ヒロト)。
尋人(ヒロト)にもう一度逢えたら、言いたい事がいっぱいあった。
でも、何よりも触れて、抱き合って・・・。
願いはいっぱいあったのに、いざとなったら、どうしてか、頭は真っ白になるのよ。
何も考えられてなくて、ただ尋人(ヒロト)を見ていた私。
すると、尋人(ヒロト)はいつもの尋人(ヒロト)で私に接してくる。
 
「急にいなくなったから、探したんだぞ。」
 
そういった尋人(ヒロト)は、私に近付いてくると、当たり前のように私を抱きしめた。
私の腰に手が触れる。
私の顔が、尋人(ヒロト)の胸に押し付けられる。
耳元で、尋人(ヒロト)の息を感じる。
心臓の音だって聴こえる。
だけど・・・なんで?
私の胸は、ときめかない。
朋哉(トモヤ)に抱きしめられた時は、あんなに心臓の音がうるさかったのに。
今は、ときめきというか、動揺してるというか・・・。
ちっとも嬉しくない。
喜んでいいの?本当に尋人(ヒロト)なの?
そんな疑問や不安がいっぱいで、全然喜べなかった。
そんな時だった。
いろんな思いのせいで、集中できていない私の耳に入ってきた聞き覚えのある人の声。
 
「あれ、朋哉(トモヤ)!
あんた、こんな所で何してんの?」
 
「えっ?」
 
側に居た朋哉(トモヤ)は、突然呼ばれたその声に振り返り、驚きの声をあげた。
 
「姉貴っ!!なんで、姉貴がこんな所いんだよ!!」
 
メチャクチャ驚いている朋哉(トモヤ)と違って、お姉さんは平然として答える。
 
「家族で水族館に行った帰りなのよ。
旦那がどうしても、NATSUKIのCDが今日ほしいっていうから、急遽、寄ったの!
今、正汰(セイタ)と2人で、買いに行ってるわ。」
 
その言葉に、私は驚いて、尋人(ヒロト)の胸から飛び出した。
だって、そうでしょ。
あのビルにいるって・・・。
私は、近くの時計を見る。
事故が起きるまでもう、5分もない。
間違いなく、朋哉(トモヤ)のお姉さんの旦那さんと正汰(セイタ)くんは、巻き込まれる。
元の世界では、2人は巻き添えにならなかったはずなのに!!
 
「結衣(ユイ)?どうした?」
 
抱きしめられている尋人(ヒロト)の腕から、力任せに出た私に、尋人(ヒロト)は驚いた声をあげたけど、今は・・・それどころじゃなかった。
私は、尋人(ヒロト)の質問にも答えず、真っ直ぐに、朋哉(トモヤ)の元へと向かった。
私のこの行動に、深い意味はなかった。
でも、なんとも思わずに取ったこの軽はずみな行動は、結果的に、尋人(ヒロト)よりも朋哉(トモヤ)を選んだ。・・・という事になってしまったの。
それが、さらなる悲劇を生むなんて・・・。
その時の私は、夢にも思わなかった。
ただ、今現在、予想もつかなかった事が起っている事に、手がいっぱいだったの。
 
「まさか、これって今回私たちが来たせい?
未湖(ミコ)の時みたいに、また時代が変わってしまったの?」
 
だけど、私の言葉は朋哉(トモヤ)には届かなかった。
もう、朋哉(トモヤ)の頭の中には、これしかなかったんだと思う。
この時代で死なせてしまったら、元の時代の2人も消えてしまうって。
お姉さんの人生を不幸にしてしまう。
なんとかしなきゃ。
彼の頭の中にはそれしかなかったのかもしれない・・・。
 
「そんなこと、させてたまるか!!」
 
朋哉(トモヤ)はまるで、吐き捨てるようにそういうと、この場から猛ダッシュで、迷わずビルへと向かう。
 
「ダメ・・・待って、朋哉(トモヤ)!!」
 
「おい、結衣(ユイ)!どうしたんだ!!」
 
尋人(ヒロト)の声なんて耳に入ってなかった。
私はただ、ガムシャラに走った。
朋哉(トモヤ)を行かせたくない。
その何よりも強い想いが、私の足を信じられないくらい速くしてくれた。
それは、まるで、奇跡だった。
私の手が、朋哉(トモヤ)の腕をつかんだ。
ビルに入る直前の彼を捕まえる事ができたの。
まさか、私が追いつけると思っていなかった朋哉(トモヤ)は、腕をつかまれた事に驚いて一瞬足を止めた。
そのすきに、私は朋哉(トモヤ)を必死で、ひっぱって、ビルから離れた。
 
「何考えてるのよ!」
 
頭ごなしに怒鳴る私に、朋哉(トモヤ)も負けていなかった。
 
「離せ!正汰(セイタ)を救う。」
 
そう言って、力任せに私の腕を振り払おうとする朋哉(トモヤ)の腕を、私は両手でシッカリとつかんだ。
 
「もう、間に合わない。
今、行ったら朋哉(トモヤ)が死んじゃう。」
 
だけど、朋哉(トモヤ)は諦めなかった。
 
「それでも、俺は行く。
正汰(セイタ)はまだ、2歳なんだ。
アイツを死なせるなんて俺にはできない。」
 
真剣な瞳で私に言ってくる朋哉(トモヤ)だけ、どんなに言われても行かせるわけにはいかない。
だって・・・。
私は、この手を離したら、起ってしまう事を、素直に口にした。
 
「今行ったら、朋哉(トモヤ)も、巻き込まれる。」
 
でも、その真実を言っても、朋哉(トモヤ)の瞳はゆるがなかった。
ただ、冷たくこう切り替えしてきた。
 
「お前には、関係ない!」
 
と・・・。
その言葉が、私の心を熱くした。
抑えていた思いが、爆発するキッカケとなった。
 
「関係ないって・・・なんで、そんな事・・・。」
 
でも、朋哉(トモヤ)も負けてない。
私に、自分の想いをぶつけてきた。
 
「お前は、尋人(ヒロト)が戻って来たんだ。
それで、満足だろ?
俺は、ただ、大切な人を失いたくない。
それだけだ。
自分の命なんて、どうでもいい。
俺のすることに、口をはさまないでくれ。」
 
「イヤよ!絶対に行かせない!」
 
朋哉(トモヤ)の言葉に、間髪をいれずに答えた私に、少し戸惑った声で、朋哉(トモヤ)は、「結衣(ユイ)・・・。」と口にする。
そのすきに、私は、朋哉(トモヤ)に続けた。
 
「関係あるよ。
私にとって、朋哉(トモヤ)も大切な人だもん。」
 
でも・・・朋哉(トモヤ)はわかってくれなかった。
 
「正汰(セイタ)も俺にとって、大切な甥っ子だ。」
 
朋哉(トモヤ)と私の気持ちはいくらぶつけあっても、分かち合う事はなかった。
これでは、時間が過ぎるだけだと感じた朋哉(トモヤ)は、強引に私から離れようとした。
だけど、私も、諦め切れなかった。
私の側から離れそうになる朋哉(トモヤ)の背中に抱きついた。
抱きついて・・・気付いた。
 
「なんで・・・。
どうして、朋哉(トモヤ)、こんなに熱いの?」
 
濡れているはずのカッターが、熱く感じる。
どうして??
まさか・・・熱?
私は、彼に問いただす。
 
「すごい熱!いつから!!」
 
だけど、朋哉(トモヤ)は答えずに、私を自分の体から乱暴にひっぺがした。
 
「いいから、離れろ。」
 
「待ってよ、答えて!
いつから、こんな熱・・・。
もしかして、さっき私の手から逃げたのも、これを隠す為なの?
ねぇー、答えて!!!」
 
朋哉(トモヤ)の腕をつかんで、必死で問いただした私。
その時だった。
あの、とてつもない音が、辺りに響き渡ったのは。
朋哉(トモヤ)の顔が一気に青ざめていくのがわかった。
 
「正汰・・・。」
 
燃え盛るビルを見つめながら、朋哉(トモヤ)はフラつく足取りで、数歩進んだ。
でも、すぐに、その場に倒れこむように、しりもちをついた。
それは、ショックだけのせいじゃなかった。
私は座り込んだ彼の側へと向かい、しゃがみこむ。
彼の腕に触れて、さらに実感した。
濡れたカッターからも伝わる、じんわりとした熱さの彼の腕。
苦しそうに息をしている、彼の乱れた呼吸。
そして、異常なほどの汗をかき、顔色が明らかに悪くなってる彼の姿・・・。
私は、彼の額に手を当てる。
それは、今まで感じた事がないくらいの熱さだった。
よく、こんな高熱で立ってられたと思う。
でも、彼は、自分の体調を見返ることは無かった。
熱のせいで、感覚が麻痺しているのか、関節が痛くなっているのかわからないけど、立つことさえも難しいのに、彼は、それでも私の手を押しのけて必死で立ち上がろうとした。
そして、彼が見つめる先は、目の前に居る私ではなく、黒煙を放ってるビルだった。
 
「どけ!・・・行かせてくれ!」
 
だけど、私は首をふって、無理に立ち上がろうとする朋哉(トモヤ)を抱きしめた。
強く抱きしめて、彼をいかせないようにした。
私の力なんて、普段の彼からしたら、非力なもの。
振り払うなんて簡単なはずなのに・・・。
だけど、彼にはもう、そんな力はなかったみたい。
だって、ただ、私の背中越しで、何度も何度もさっきと同じセリフを泣き叫でたから。
よくよく考えたら、わかるのにね。
朋哉(トモヤ)を追っかけた時、私、朋哉(トモヤ)に追いついたでしょ。
そんなこと、あるわけないのに。
全速力の朋哉(トモヤ)に、私が追いつくわけないって。
その時から、すでに朋哉(トモヤ)の命の歯車がずれていたのに。
私は、何も、気付かなかった・・・・。
私は、ただ、朋哉(トモヤ)の叫びを、彼の背中越しに聞いてた。
彼の悲痛な叫びが伝わってきた。
彼の声を聞いていると自然と涙が頬を伝った。
朋哉(トモヤ)がどれだけ、今あの中へ行きたがってるかわかるよ。
2人を救いたがってるのかも、痛いほどわかる。
でも、行かせるわけにはいかないの。
だって、あの爆発は何回かあったんだから。
今、朋哉(トモヤ)が行ったら、間違いなく巻き込まれる。
だから、絶対に絶対に、行かせるわけにはいかない。
私は必死になって彼に訴えた。
 
「行かないで朋哉(トモヤ)・・・私の側にいて。」
 
その時だった。
私の思いに答えてくれたのは、朋哉(トモヤ)ではなかった。
 
「お前ら・・・どういう事?」
 
背後でそんな声がして、私はその声のした方に目をやった。
そこには、信じられないといった様子の尋人(ヒロト)の姿があった。
 
「尋人(ヒロト)?」
 
戸惑う私に、尋人(ヒロト)の言葉は襲ってくる。
 
「俺に隠れて付き合ってたのか?」
 
「何、言ってんのよ!!」
 
と反論する私に、尋人(ヒロト)はかまわず、真っ直ぐに朋哉(トモヤ)の元へと向かう。
そして、朋哉(トモヤ)の胸ぐらをつかんだ。
 
「答えろよ!俺を裏切ってたのか、朋哉(トモヤ)!」
 
だけど、朋哉(トモヤ)は答えなかった。
放心状態の朋哉(トモヤ)。
彼に、今、そんな事答えられるわけないじゃない。
私は、つかんでいる尋人(ヒロト)の腕を、払いのけた。
 
「何考えてるのよ!
今は、それどころじゃないでしょ。
朋哉(トモヤ)の気持ちも考えてあげて!」
 
正汰くんを失い、朋哉(トモヤ)の体調も悪い。
私の気持ちもそれだけを考えるので、精一杯だった。
だけど、尋人(ヒロト)からしたら、怒りをかきたてる題材となってしまった。
 
「ふざけんな!そんなに朋哉(トモヤ)が好きなら、一緒にいたらいいだろ!」
 
いきなりそう叫んだ尋人(ヒロト)は、私たちの側から走り去る。
 
「ちょ、ちょっと待って、尋人(ヒロト)!!」
 
その時だった。
私が、目で追った尋人(ヒロト)の姿が、信じられない状況に置かれたのは。
道路に飛び出した尋人(ヒロト)は、勢いよく来た乗用車と接触した。
尋人(ヒロト)は宙に舞い、そして、聞こえたのは、尋人(ヒロト)の体が強くコンクリートに打ちつけられる音だった。
そのすさまじい音に、放心状態だった朋哉(トモヤ)も、目を向ける。
そして、目にした光景を見て、一言・・・。
 
「なんだ・・・これ・・・。」
 
ホント・・・なんなのコレ・・・。
それしか言えない。
尋人(ヒロト)を救う為に来た。
そして、やっと救った。
なのに、代わりに朋哉(トモヤ)の大事な人を犠牲にした。
だけど、そこまでして救った尋人(ヒロト)も失った。
これは・・・悪夢?
次の瞬間、また私たちは強い光に包まれた。
光が消えた瞬間、私はすぐ朋哉(トモヤ)に聞いた。
 
「正汰くんは?正汰くんは、無事?」
 
だけど、朋哉(トモヤ)は、覇気のない声でこう言った。
 
「2人は犠牲になったよ。」
 
「えっ?」
 
すると、朋哉(トモヤ)は私に携帯を見せた。
 
「事故のあった日以降に撮った画像が、全て消えてる。
つまり、正汰も、旦那もあの事故で巻き添えをくったって事だ。」
 
「嘘・・・。」
 
「なんなんだよ・・・一体!!
ただ、尋人(ヒロト)を生き返らせたいだけなのに。
どうして、他人を犠牲にしなきゃなんないんだ。」
 
「朋哉(トモヤ)・・・。」
 
「結衣(ユイ)。もう1度行こう。」
 
「えっ?」
 
耳を疑った。
今・・・朋哉(トモヤ)、何を言った?
だけど、朋哉(トモヤ)の野望は止まらない。
 
「俺は、正汰と義兄貴を救う。
お前は、尋人(ヒロト)を救うんだ。」
 
「何言って・・・。」
 
「お前と俺との事を、尋人(ヒロト)が疑うまでは、上手くいってたんだ。
そして、俺は、お前が止めなければ、2人を救えた。
もう1度行けば、全てうまくいく。」
 
「イヤよ。」
 
私は、首を振って否定した。
 
「結衣(ユイ)。」
 
と悲しい声をあげる朋哉(トモヤ)に、私は続けた。
 
「もう・・・やめよう。」
 
そして、ずっと、感じてた事を言葉にした。
 
「あった事を変えるなんてできないんだよ。
いや・・・やっちゃいけないんだよ。」
 
「何言って。」
 
「だって、そうでしょ?
変えようとすればするほど、色んな歯車が狂っていく。
もう1回行ったら、もっと別の歯車が狂うよ。
もっともっと、取り返しのつかない事になる。
もう・・・やめよう。」
 
だけど、朋哉(トモヤ)はわかってくれなかった。
 
「ふざけんな!!」
 
そう叫んだ朋哉(トモヤ)は、唇を噛み締めながら、吐き捨てるようにいった。
 
「正汰を取り戻す・・・。」
 
って。朋哉(トモヤ)の苦しみが、イヤって程伝わってきた。
正直、こんな体調の朋哉(トモヤ)を、また過去に連れて行くのは、不安があったし、また、何かよくない事が起きそうで、恐かった。
でも、正汰くんが亡くなったままでいることは、朋哉(トモヤ)が辛いだけ。
朋哉(トモヤ)には笑顔でいてほしいから・・・。
正汰くんと、お義兄さんを、救いたいという朋哉(トモヤ)の願いを、叶えてあげたいと思った。
やっちゃいけない。
したら、とんでもない事になる。
私の中にある第六感がそう教えてくれたのに、私は従わなかった。
 
「わかった。」
 
私は、力なくそういうと、朋哉(トモヤ)の手を握った。
 
「だけど、1つだけ、聞いていい?
朋哉(トモヤ)、体、本当に大丈夫なの?」
 
呼吸だってすごく苦しそうだし、座るのも辛そう。
壁にもたれて、やっと座ってるって感じだし。
だけど、朋哉(トモヤ)は、
 
「ただの風邪だ。
これが済めば、帰って薬飲んで寝るから。
したら、明日には元気になるよ。」
 
辛いのに、朋哉(トモヤ)はそう言ったあと、無理に私に笑顔を向けた。
私は、今まで、何度、朋哉(トモヤ)のこの笑顔に騙されていたんだろう。
朋哉(トモヤ)は、いつも、私の前では、弱いところを見せないように、心配かけないようにしていたんだよね。
だから、私は、何一つ本当の朋哉(トモヤ)を知らなかった。
朋哉(トモヤ)にとって、“ただの風邪”が、どういうことになるかなんて・・・。
あれだけ、一緒に生きてきたのに、何もわかってなかった。
 
 
私は、朋哉(トモヤ)が望むまま、またブルーストーンに祈った。
ブルーストーンは、最後の力を振り絞るように輝きだし、そして、私たちを再び過去へといざなった。
 
「あれ?・・・ここ・・・。」
 
私は、キョロキョロあたりを見た。
1度目と、2度目の時と少し、状況が違った。
だって、ここって・・・。
私は、側に居る朋哉(トモヤ)を見た。
だけど、私は疑問よりも、朋哉(トモヤ)の異変に驚いた。
たまらず、朋哉(トモヤ)の腕をつかむ。
 
「朋哉(トモヤ)っ!」
 
ぐったりとして、目をつぶっている朋哉(トモヤ)を見た瞬間、私は体の血が逆流する気がした。
もしかして、朋哉(トモヤ)・・・。
そう頭によぎった時、閉じていた朋哉(トモヤ)の目が、ゆっくりと開いた。
そして、瞳が私の方に動いてきて、私を見つめた。
 
「どうした?・・・そんな顔して・・・。」
 
荒い息でそう口にした朋哉(トモヤ)の姿に、私は安心して、ヘナヘナとその場に座り込んだ。
 
「お願いだから、驚かさないでよ。」
 
半泣きで朋哉(トモヤ)にいいながらも、私は自分が着ていた朋哉(トモヤ)のブレザーを脱ぐと、彼にかぶせた。
 
「いいって・・・お前が着てろよ。」
 
腕を上げるのも辛いのか、顔をしかめながら朋哉(トモヤ)は腕を上げると、上着に手を乗せる。
でも、私は、その手を強引に下ろさせた。
 
「いっとくけど、私はここへ来る事は反対したんだからね。
朋哉(トモヤ)の体が心配だから。
でも、朋哉(トモヤ)が、どうしてもきかないから、きたんだから、私のいう事は聞いてよ!
これは、朋哉(トモヤ)が着てて。」
 
私は、そう言って、壁にもたれている朋哉(トモヤ)に、まるで、おふとんをかけるように、彼の体にブレザーをかけた。
 
「それと、もう1つお願いがあるの。」
 
私は、そう言ったあと、朋哉(トモヤ)の熱い手を取ると、彼の手を握る。
 
「朋哉(トモヤ)はここにいて。
私が、正汰くんと、お義兄さんを連れ戻してくるから。」
 
だけど、そんな申し出、朋哉(トモヤ)が簡単に聞き入れてくれるわけがない。
 
「ダメだ。あいつらは俺が何とかする。」
 
「朋哉(トモヤ)!!」
 
「お前には、することがあるだろ?
お前は、尋人(ヒロト)を救わなきゃ。」
 
朋哉(トモヤ)はそう言ったあと、周りに目を向けた。
そして、私たちの置かれている場所に、彼も気付いた。
 
「どうやら、“途中から”のやり直しみたいだな。」
 
そう言った朋哉(トモヤ)は、私の手を離すと、かけていた上着を剥ぎ取り、コンクリートの上に無造作に置いた。
朋哉(トモヤ)が言った、“途中から”っていうのは、どういう事かと言うとね。
私たちが、来た過去は、朋哉(トモヤ)のお姉さんと出逢った場所からだったの。
そして、近くにある電気屋さんの時計を見ると、時間もお姉さんに逢う30分前になってる。
つまり、お姉さんに声をかけられてからだったら、事故まで5分もなかったから救えなかったけど、今ならまだ救えるよね?
きっと、もうちょっとしたら、この辺を車で通るんじゃないかな?
あのビルに行く前に捕まえたら、2人を守れる。
望みが出てきた。
自然と笑顔になる私の顔と違って、朋哉(トモヤ)は深刻な顔のまま、ふらつく足で必死で立ち上がる。
だけど、立つ事もできるわけがない。
すぐさま、朋哉(トモヤ)は、コンクリートに座り込んだ。
 
「無理だよ。こんな体で、できないって。
私がするから。
だから、お願い。
朋哉(トモヤ)はここにいてよ。」
 
必死で訴えた。
彼が自分の体をこれ以上酷使する姿を見ているのが、辛かった。
だけど、彼の腕をつかんで、必死で頼む私を、朋哉(トモヤ)は乱暴に手で押しのけた。
私の体が、朋哉(トモヤ)の体から離れた。
 
「言っただろ。一緒にいちゃいけないって。」
 
「朋哉(トモヤ)?」
 
彼の言ってる意味がわからない私は、離れた体を朋哉(トモヤ)の方にまた、近寄らせた。
だけど、少し近付いた時、朋哉(トモヤ)は私を少し冷たい瞳で見た。
 
「忘れたのか?
尋人(ヒロト)は、俺たちの中を疑ったせいで、死んだんだ。
また、こうやって、俺たちが寄り添っていたら、尋人(ヒロト)が誤解するだろ?
そして、アイツはまた、死ぬんだ。
これじゃ、堂々巡りだろ!
結衣(ユイ)は、尋人(ヒロト)を救いたいんだろ?
アイツを取り戻したいんだろ?
だったら、アイツの事を、第一に考えろよ。
今までがそうだったようにさ・・・。
俺の体の事も、俺が正汰と義兄貴を救いたいと思っている事も、お前が考える事じゃない。
俺は、2人を救う。
そして、お前は尋人(ヒロト)を取り戻せ。
それまで、離れ離れになるけど・・・
向こうに戻る時は、一緒だ。」
 
朋哉(トモヤ)が言っている事は、何も間違ってない。
普通なら、賛成できるはずなのに・・・。
なのに、私にはそれが出来なかった。
わかったという代わりに、私の瞳からは涙が溢れた。
それは、次から次へと流れ出た。
 
「なんで・・・なんで、泣くんだよ・・・。」
 
少し困ったような声をあげた朋哉(トモヤ)は、這うようにして私の側に寄ってくる。
そして、必死で上げた手で、私の涙に触れた。
頬に触れた朋哉(トモヤ)の手の熱さで、私の涙は蒸発してしまうと思えたくらい朋哉(トモヤ)の手は熱かった。
私は、頬にある朋哉(トモヤ)の手に、自分の手を重ねた。
 
「尋人(ヒロト)の事は、もういい・・・。
朋哉(トモヤ)の願いを叶えよう。」
 
「お前、何言って・・・。」
 
戸惑う朋哉(トモヤ)を見て、私は気付いた。
今、誰を想い、誰を愛してるのか。
そして、その気持ちを、朋哉(トモヤ)に言いたいっていう、自分の強い気持ちにも・・・私は気付いてしまった。
私は、そのまま、朋哉(トモヤ)の胸に自分の顔を押し当てた。
朋哉(トモヤ)の熱い体が、少し気になった。
 
「朋哉(トモヤ)、私ね・・・。」
 
私が意を決してそう、口を開いた時だった。
 
「プップー!!」
 
そんなクラクションの音が聞こえた後、私の耳元で朋哉(トモヤ)のこんな言葉が聞こえた。
 
「姉・・・貴?」
 
「えっ?」
 
私は、伏せていた顔を起す。
目の前の朋哉(トモヤ)は驚き顔で、先を見てた。
朋哉(トモヤ)が見ている先が気になって、慌てて朋哉(トモヤ)から体を離し、振り向いた。
そこには、朋哉(トモヤ)のお姉さんがいた。
 
「どうして、ここにいるんですか?」
 
私はそう言いながらも、電気屋さんの時計を見た。
お姉さんがここに、現れるのは、まだ、かなり先だ。
それが、どうして、こんなに早くに?
それに・・・。
私は、お姉さんの後ろにスタンバイしてる車に目をやった。
その車の後部座席からは、チャイルドシートに乗せられた正汰くんが、わずかに開いた窓から、
 
「とーもぉー!!」
 
と叫んで、手に持っているオモチャをフリまくってるし、運転席には、お姉さんのご主人さんが居た。
 
「2人は、CDを買いに行ったんじゃなかったんですか?」
 
久しぶりにあったお姉さんに挨拶もなしに、こんなぶしつけな事を言った私。
 
「へっ?」
 
と驚くお姉さんだけど、
 
「結衣(ユイ)の質問に答えろ・・・。
なんで、ここにいる・・・。」
 
苦しそうに咳をしながら、そう言った朋哉(トモヤ)に、お姉さんは首に巻いていたマフラーを取ると、それを朋哉(トモヤ)の首にかけた。
 
「確かに、今からあのビルにあるCDショップに行く予定だったけど・・・。
だけど、偶然そこの信号で止まった時に、正汰がアンタを見つけてさ。
それで、見てみたら、こんな真冬に何を考えてんだか、2人して薄着でこんな路地の汚いところで抱きあってるでしょ。
驚いてきちゃったわよ。」
 
そして、今度は、私の方に向いたお姉さんは、
 
「結衣(ユイ)ちゃんも、風邪引くわよ。」
 
というと、着ていたコートを脱いで私の肩にかけた。
 
「お姉さんが寒くなっちゃう・・・。」
 
慌てて上着を返そうとした私に、「平気よ。」と笑ったお姉さんは、私にはそれ以上は言わずに、自分の足元でうずくまっている朋哉(トモヤ)を見た。
 
「それより、アンタ・・・大丈夫?」
 
さっきとは違う深刻な声でそう言ったお姉さんは、しゃがむと、朋哉(トモヤ)の首に両手を当てた。
まるで、首を絞めるようなスタイル。
そして、今度は、朋哉(トモヤ)の脈を測りだした。
 
「今すぐ病院行くよ。
この道混んでるから、車だと、一番近い梅澤病院でも、1時間はかかる。
救急車呼ぼう。」
 
「救急車!!」
 
思わず私は叫んでしまった。
だって、救急車って・・・。
そんなに、朋哉(トモヤ)の状態悪いの?
 
「そんなに朋哉(トモヤ)悪いんですか?」
 
朋哉(トモヤ)のお姉さんは、百合丘(ユリガオカ)病院の看護師さんなの。
だから、彼女の診断は、ほぼあってるはず。
その彼女が、救急車を勧めるなんて、尋常ではないって事でしょ?
私は、恐怖と驚きのあまり、お姉さんの腕をつかんでた。
必死で訴える私に、答えたのは朋哉(トモヤ)だった。
 
「姉貴は昔から大げさなんだよ。」
 
朋哉(トモヤ)はそういうと、コンクリートに置いていたブレザーをつかむと、袖を通して着た。
そして、ユックリと立ち上がった。
 
「こんな風邪、どって事ない。
病院なんて行く必要ねぇーよ。」
 
今の朋哉(トモヤ)が、立てるわけないって、私はわかってた。
でも、朋哉(トモヤ)が立ったという事は、彼の言う通り、本当にたいした事ないんだと、信じたかった。
願いたかった。
だけど、その自己満足の願いを、お姉さんが聞き入れてくれるわけなかった。
 
「強がるのも、いい加減にしなさい!」
 
そう言ったお姉さんは、そのあと、立っている朋哉(トモヤ)の肩を軽くトーンと押した。
その軽い押しで、朋哉(トモヤ)はバランスを崩し、そのまままたコンクリートに砕け、しりもちをついた。
 
「確かに、ただの風邪。
だけど、アンタにとって、“ただの風邪”が、とんでもない大病になる事ぐらい、アンタだってわかってるでしょ!
命失いたくなかったら、言う事ききな!!」
 
お姉さんはそういうと、携帯を取り出し救急車の手配をした。
 
「参ったな・・・。」
 
と苦笑いをした朋哉(トモヤ)は、心配そうに見ていた私に手招きをした。
私は、お姉さんが話しこんでいる側を、そーっとすり抜けると、朋哉(トモヤ)の側に辿り着いた。
 
「姉貴たち家族は、これで、俺に付きっきりになるから、もう大丈夫だ。
あとは、尋人(ヒロト)だ。
俺が付いててやれないけど、でも、その方が、さっきみたいに誤解されなくて、済むしな、丁度よかったのかもしれない。
結衣(ユイ)!おまえになら出来る。
尋人(ヒロト)を、救い出せ。」
 
だけど、私は、首を振った。
 
「結衣(ユイ)?」
 
そう私の名を呼んで聞いて来る朋哉(トモヤ)に、私は抱きついて、言ったの。
 
「私も一緒に病院にいく。
朋哉(トモヤ)と離れたくないから。」
 
離れられるわけないじゃない。
だって、朋哉(トモヤ)危ないかもしれないんでしょ?
もし、ここで、朋哉(トモヤ)が死んじゃったら、元の世界に戻っても、朋哉(トモヤ)はいないんだよ。
そんなの、絶対に絶対にイヤなの!!
朋哉(トモヤ)を失いたくない。
私は、絶対に離れまいとして、朋哉(トモヤ)に必死でしがみついた。
そんな私の背中に、朋哉(トモヤ)の両腕がからみ、私を強く抱きしめてくれた。
私の想い、わかってくれたんだ・・・。
そう思って、私はさらに、ギューっと朋哉(トモヤ)にしがみついた。
 
「朋哉(トモヤ)!10分足らずで救急車来るから。
アンタは、結衣(ユイ)ちゃんとここにいなさいよ。
私は、旦那にこの事、伝えてくるから!
いい?絶対に動くんじゃないよ!!」
 
お姉さんは朋哉(トモヤ)にそう念を押すと、走ってハザードがついてる車の元へと真っ直ぐに向かった。
 
「いつ見ても、お姉さんって、ワイルドだね。」
 
「だな・・・。」
 
そう言った朋哉(トモヤ)は、「なー、結衣(ユイ)。」と言ってきた。
 
「ん?」
 
と言いながら、朋哉(トモヤ)の顔を見上げた私に、朋哉(トモヤ)は少しグッタリした瞳で私を見てた。
 
「お前に、1つ言っておきたいことがある。」
 
朋哉(トモヤ)はそういうと、私の顔に触れてきた。
その手はとても優しかった。
 
「俺、1回目、ここに来た時、言ったよな?
結衣(ユイ)を尋人(ヒロト)に譲るんじゃなかったって。」
 
「あー、あの冗談ね。」
 
「あれは、冗談じゃねぇーよ。
俺の人生の中での唯一、やり直したい事だ。」
 
「朋哉(トモヤ)・・・。」
 
「結衣(ユイ)。
俺は、ずっと、お前だけを愛してた。
だけど、お前は俺じゃなくて尋人(ヒロト)を愛してた。
だから、俺はお前の笑顔を見続ける為に、尋人(ヒロト)への恋を応援した。
後悔はなかった。
尋人(ヒロト)が死んでからも、後悔はなかったよ。
でも、お前とこの数時間一緒にいて、俺は間違ってたと思った。
俺さ・・・自分でも驚いてるくらいなんだけど・・・お前の事ホンキで好きだった。
だから、尋人(ヒロト)が戻って来る前に、お前にちゃんと想い、言っておきたくて・・・。」
 
朋哉(トモヤ)はそういうと、私の方に顔を近づけてきた。
そして、お互いの唇との距離が、数センチになった所で、朋哉(トモヤ)はこう囁いた。
 
「結衣(ユイ)・・・愛してるよ・・・。」
 
「朋哉(トモヤ)、私・・・。」
 
私も朋哉(トモヤ)に気持ちを伝えようとしたの。
私も同じ気持ちだって。
だけど、私が気持ちを言葉にする前に、朋哉(トモヤ)の唇が私の口に触れた。
でも、それは、ホンの一瞬で、正直触れたの?と思ってしまうくらい、軽い感触だった。
 
「風邪、移ったらごめんな。」
 
そう言って軽く笑った朋哉(トモヤ)は、私を自分の胸から離すと、私からも手を離した。
 
「お前には、側で支えてくれる人間が必要だから・・・。
尋人(ヒロト)を取り戻してこい。」
 
朋哉(トモヤ)のこの言葉を聞いて、ハッキリした。
朋哉(トモヤ)、私の気持ち、わかってないって。
だから、私は、必死で言おうとしたの。
私は、尋人(ヒロト)よりも、朋哉(トモヤ)に側に居てほしいんだって!!
 
「待ってよ。違うの。私は・・・。」
 
その時、また・・・邪魔が入った。
 
「結衣(ユイ)ちゃん!偶然、そこでカレ見つけたの!」
 
「えっ?」
 
お姉さんのその声に、私は振り返って・・・。
 
「!!!」
 
声が出なかった。
だって、そこには、尋人(ヒロト)が居たから。
なんで?どうして?
呆然とカレに見とれている私の代わりに、朋哉(トモヤ)が尋人(ヒロト)に質問する。
 
「お前、何でここに?
CD買いにいくはずだろ?」
 
「えっ?」
 
と言った尋人(ヒロト)だったけど、朋哉(トモヤ)の真剣な顔に意外と素直に答えた。
 
「ああ、いくつもりだったよ。
だけど、向かいの道路で、お前のねぇーちゃんが、ただならぬ感じで騒いでたから気になってさ。
したら、お前が重症で、しかも、結衣(ユイ)も一緒に居るっていうだろ?
お前ら、急にいなくなって、心配したんだぞ。
どこいってたんだよ!」
 
尋人(ヒロト)の言い分に朋哉(トモヤ)は・・・。
 
「プッ・・・アハハハ。」
 
と大笑い。
 
「なっ・・・なんだよ、お前!!」
 
と怒り出す尋人(ヒロト)に、朋哉(トモヤ)はすごく幸せそうな笑顔をした。
 
「お前も、姉貴家族もみんな無事でよかった。
あと、3分だ・・・。
これでみんな・・・助かったな・・・。」
 
「お前、何言って・・・。
おいっ、朋哉(トモヤ)!!」
 
急に尋人(ヒロト)が大声で叫んだ。
その叫び声に、私は朋哉(トモヤ)に目を向けた。
さっきまで、壁にもたれて座っていた朋哉(トモヤ)の体は、今はコンクリートに体を横たわらせて目をつぶっていた。
 
「おい、しっかりしろ!!」
 
必死で尋人(ヒロト)が声をかけたその時、聞き覚えのある音がした。
離れているここですら、少し地響きがした。
たくさんの悲鳴と、人々の声が辺りに響き渡った。
 
「何?何が起こったの?」
 
お姉さんがそう言った時、お姉さんの携帯が鳴った。
「はい。」と穏やかに出たお姉さんの態度が一変したのは、その数秒後だった。
 
「冗談じゃないわよ!
今の事故で、救急車がこっちに渡ってこれなくなったって!!
ふざけんじゃないわよ。
脈だって弱くなってるし、今、意識だって失って・・・。
お願いよ。早く来て。
弟を救ってよ・・・。」
 
お姉さんはそう言って、携帯を握り締めたままその場に座り込んでしまった。
 
「朋哉(トモヤ)・・・。」
 
私は、ユックリと横たわる朋哉(トモヤ)を見た。
だけど、そこにいる朋哉(トモヤ)は、尋人(ヒロト)の必死の叫びに答えることはなかった。
 
「嘘でしょ・・・朋哉(トモヤ)。
“向こうに戻る時は一緒だ”って言ったじゃない。
嘘つき・・・朋哉(トモヤ)の嘘つき!!」
 
私は、横たわる朋哉(トモヤ)の胸にしがみついた。
そう叫んで必死で朋哉(トモヤ)の生きてる証を聞こうとするけど・・・。
朋哉(トモヤ)の心臓の鼓動を聞くことは・・・できなかった。
その時、私と朋哉(トモヤ)を青い強い光が包み込んだ。
その光は、しばらくして、なくなった。
 
 
「さっきの光・・・。
もしかして、元の世界に戻ってきたの??」
 
私はそう言いながら、横たわっていた体を起した。
そして、いつも隣に居た人に向かってこう言った。
 
「ねぇー、朋哉(トモヤ)、聞いてる?」
 
だけど、そこには、誰もいなかった。
 
「朋哉(トモヤ)・・・。」
 
私は、あたりを見回した。
確かに、私が元々過ごしていた高校3年生の私がいる世界に戻って来た事はあってる。
でも、いないの。
今、もっとも側に居てほしい彼が・・・いない。
過去の世界で、朋哉(トモヤ)は死んでしまった。
だから、未来になるこの世界に、彼は存在しないって・・・事?
そんなわけない。
冗談じゃないわよ!!
そんなの信じないわよ。
きっと、朋哉(トモヤ)の意地悪なんだ。
私を脅かそうとして・・・。
私は、自分の携帯を手に取る。
そして、メモリーしている朋哉(トモヤ)の携帯に発信した。
だけど、「お客さまのおかけになった電話番号は・・・。」というアナウンスが流れた。
 
「嘘でしょ。」
 
力なくそうつぶやきながら、何度も何度も私は、朋哉(トモヤ)に向けて発信し続けた。
 
「・・・い。結衣(ユイ)っ!!」
 
遠くで私を呼ぶ声がして、私は勢いよく振り向いた。
そこには、未湖(ミコ)と、そして、信じられない人物が居た。
2人は、私の元に全速力で走ってきた。
 
「探したんだぞ!
携帯鳴らしても、圏外で全然通じねぇーし、未湖(ミコ)は泣くし。」
 
そういう人の一方で、未湖(ミコ)は、私の手を握った。
 
「結衣(ユイ)、さっきはごめん。
私が言いすぎた。
結衣(ユイ)の言う通りだよね。
朋哉(トモヤ)が死んで、まだ3年だもんね。
結衣(ユイ)と朋哉(トモヤ)は、兄妹みたいに仲が良かったんだもん!
そう簡単に忘れられるわけないよね。」
 
最後の方は、耳に届いてなかった。
だって、今、未湖(ミコ)・・・何て言った?
今、確か・・・。
私は、つかまれていた手を今度は私がつかみ返し、未湖(ミコ)の手を強く握った。
 
「結衣(ユイ)?どうしたの?」
 
と不思議そうに聞いて来る未湖(ミコ)に、私はすごい剣幕で聞いた。
 
「朋哉(トモヤ)が死んだって・・・どういうこと?
3年前って・・・。
嘘でしょ。
朋哉(トモヤ)、生きてたじゃない。
私、さっき、朋哉(トモヤ)に連れられて、教室出たでしょ?」
 
必死で訴えるけど、未湖(ミコ)は戸惑った目で私を見てた。
そして、ここにいるはずもない彼が、私をなだめる。
 
「結衣(ユイ)、困惑するのはわかる。
けどな、朋哉(トモヤ)は3年前に死んだんだ。
アイツ、体弱いのに、お前にはそれを、ずっと隠しててさ。
好きな女の前では、無敵でいたいって・・・アイツの口癖だった。
アイツらしい最後だったよな。」
 
「今の・・・どういう事?」
 
「ん?」
 
聞き返した私に驚いたのか、尋人(ヒロト)は私に軽く首をかしげる。
そんな彼におかまいなしに、私はさらに聞いた。
 
「朋哉(トモヤ)、体が弱かったの?」
 
そんなの知らなかった。
いつだって、朋哉(トモヤ)は私を守ってくれて・・・。
そういえば、さっき、お姉さんが言ってたっけ。
ただの風邪も朋哉(トモヤ)にとっては、大病になるって・・・。
アレ、どういう意味なの?
私は、お姉さんが言った言葉を尋人(ヒロト)と未湖(ミコ)に言ったの。
すると、尋人(ヒロト)は、少しいいにくそうに言った。
 
「朋哉(トモヤ)は、生まれつき、気管支が弱かったんだ。
だから、風邪の菌をもらうと、すぐに扁桃腺が腫れて高熱がでるし、そのまま悪化すると呼吸困難に陥る。
それと、肺もあまりよくなくてな。
肺炎になることもざらで、それも悪化すると命に関わることになる。
アイツにとって、風邪の菌が一番避けなきゃいけないものだったんだ。
だから、アイツ、少しおかしくても、薬を早めに飲んだり、薄着をしないとか、自分の体の事は、誰よりも気にかけてた。
そんなアイツが、寒い真冬に、薄着の姿で、雨に降られてずぶぬれだなんてさ。
自殺行為にも程があったんだ。
でも、アイツは、わかってた気がする。」
 
「わかってた?」
 
「ああ。アイツが、何をほしかったのかはわからないけど、アイツ、自分の命を差し出してでも、何かを手に入れたかったんだと思う。
そして、それは、きっと、結衣(ユイ)に関係してると思う。」
 
「私?」
 
「そう。」とうなずいた、尋人(ヒロト)は、私に優しい口調で話し出した。
 
「アイツは、ホントに、結衣(ユイ)に惚れてた。
俺とお前が付き合う事になった時、アイツ俺に言ったんだ。
“結衣(ユイ)の笑顔がずっとみられるなら、俺は喜んで祝福する”って。
だから、俺、思うんだけど・・・。
アイツは、きっと、お前の笑顔を守ったんじゃないか?
自分の命を引き換えにして、お前の笑顔を守った。」
 
尋人(ヒロト)はそういうと、私の体に触れて、私を優しく自分の胸へと抱き寄せた。
私を抱きしめる尋人(ヒロト)の腕。
あれだけ、求めていた尋人(ヒロト)の腕の中にいるのに・・・。
このむなしさは何?
満たされない空洞感は何?
違う・・・この胸も腕も、私が求めていた物じゃない・・・。
私の頭も体も、そう答えてた。
 
「結衣(ユイ)。アイツが守ったお前の笑顔、俺が守っていくから。
だから、俺と一緒に生きて行こう。」
 
だけど、私は・・・。
 
「結衣(ユイ)・・・。」
 
尋人(ヒロト)が呆れた声を出すのもわかる。
だって、私、泣きじゃくって、首をブンブン振ってたから。
 
「ダメなの・・・。
朋哉(トモヤ)じゃなきゃ、私・・・。」
 
力いっぱい両手で、尋人(ヒロト)の胸を押しのけた。
よく考えたら、ひどい話だよね。
恋人に、こんな態度とってるんだもん。
だけど、私、知ってしまったから・・・。
朋哉(トモヤ)の側に居る安心感や、朋哉(トモヤ)の強くて優しい腕の居心地のよさを、知ってしまったから。
もう、戻れない。
私は、出てくる涙を両手で拭いながら、尋人(ヒロト)に必死で謝ったの。
 
「ごめんなさい・・・。」
 
って。そして、思った。
どうして、もっと早く気付かなかったんだろうって。
人は失って、その大きさを知るというけど、本当にそうだよね。
私が元々生きていた時代には、朋哉(トモヤ)はちゃんといたのに。
わざわざ過去をいじって、そして、朋哉(トモヤ)を死なせて、それで、彼の大きさを知るなんて・・・。
情けなくって、悔しくて、悔やんでも悔やみきれないよ。
次々に押し寄せてくる自分のおろかさに、私の心は耐え切れず、私の瞳からはとめどなく熱い水滴が流れた。
泣きじゃくる私の姿を見ていた尋人(ヒロト)は、少し悲しい声で一言、言ったの。
 
「過去に戻って、アイツを連れ戻してきてやりたい・・・。」
 
それを、耳にした時、私の涙は一瞬止まった。
今、尋人(ヒロト)言ったよね?
過去って・・・。
そうだよ!尋人(ヒロト)を救ったように、過去にもう一度戻ればいいんだ!
私の中で、とんでもない考えが思いついた。
私は、手に持っていたブルーストーンを見た。
さっきまで、あれだけ強く輝いていたのが嘘みたいに、私の手の中にあるブルーストーンは、ただの青い石になってた。
 
「お願い、ブルーストーン。
あと、1度だけでいいの。
1度だけでいいから、過去に戻らせて。
私に、朋哉(トモヤ)を返して!!」
 
私は、必死でブルーストーンに問いかけた。
側に居る未湖(ミコ)や尋人(ヒロト)の事なんて、気にならないくらい必死で頼んだ。
だけど、ブルーストーンは願いを叶えてくれるどころか、輝きすらも起きてくれない。
 
「なんで・・・どうして・・・。」
 
私は、その石を呆然と見てた。
私の願いは叶えられないって事?
このまま、朋哉(トモヤ)がいない世界で生きろって・・・。
お願い朋哉(トモヤ)。
私、まだ、朋哉(トモヤ)に愛してるって言ってないんだよ。
せめて、それだけでも言わせて。
朋哉(トモヤ)・・・。
私の涙が、ブルーストーンに1滴ポタリと落ちた。
その時、急に朋哉(トモヤ)の言葉が脳裏に浮かんだ。
 
『尋人(ヒロト)が死んだ場所・・・』
 
そして、また、ポタリとブルーストーンに1滴落ちた。
 
『尋人(ヒロト)が事故に逢う前の過去に戻してくれ・・・。』
 
私の脳裏に浮かんだそれ。
きっと何かある。
私は、涙をぬぐいながら、必死で考えた。
朋哉(トモヤ)を救いたいなら、朋哉(トモヤ)が息を引き取ったあの路地裏に行って、願えばいいのかもしれない。
そうすれば、私は、きっとお姉さんと出会った、あの時間帯に戻れるはず。
そこで、朋哉(トモヤ)を、お姉さんの車で、病院に連れて行ってもらえたら、事故のせいでの渋滞に巻き込まれずに済む。
だけど・・・。
私は、嫌な予感がした。
だって、こうすることは、言えば、元々の尋人(ヒロト)の生きてない世界を、いじってる事になるよね?
尋人(ヒロト)を生かそうとしたら、いろんな歯車がズレて行った。
正汰くんと義理のお兄さんが亡くなった。
そして、今度は、朋哉(トモヤ)が亡くなった。
もしかしたら、今度は、未湖(ミコ)が犠牲になるかもしれない。
ううん。1人とは限らない。
朋哉(トモヤ)だって、救えずまた死なせてしまうかもしれない。
何が起こるかわからない・・・。
とても危険だとわかってて、私は、あの過去に戻るの?
恐かった。
これ以上、状況をひどくしたくないから。
私、どうしたらいいの?
朋哉(トモヤ)を、取り戻したい。
でも、あの過去には戻りたくない。
どうしたら・・・。
もしかして・・・。
私は、もう1つの方法を思いついた。
アレなら、きっと、朋哉(トモヤ)は死なない。
アレにしよう。
私は、決めた。
この決断をするということは、朋哉(トモヤ)の代わりにある人の死を意味する事になるとわかっていたけど、でも・・・。
私は、その人物を見てこう言った。
 
「ごめんね・・・尋人(ヒロト)。」
 
「結衣(ユイ)、なんだよ、急に。」
 
いきなり謝られて、驚く尋人(ヒロト)に私は、さらに頭を下げた。
 
「私、尋人(ヒロト)の事、ホントに好きだった。
あなたを失って、3年、苦しかった。
でも、朋哉(トモヤ)を失ってわかったの。
今の私にとって、誰が必要で、誰に側にいてほしいのか。
だから、本当にごめんなさい。
尋人(ヒロト)の未来を奪う私を、許して。」
 
「何言ってるの、結衣(ユイ)!!」
 
とんでもない事を言ってるってわかってる。
未湖(ミコ)が怒るのもわかってる。
意味不明な言葉を並べてる事も・・・。
わかってもらえるなんて思ってない。
でも、これが、私の気持ちなの。
尋人(ヒロト)に逢えてる今のうちに、私の気持ちを伝えておきたかったから。
もちろん、尋人(ヒロト)は私の言葉を100%理解なんてしてなかったと思う。
でも、私が、自分ではなく、朋哉(トモヤ)を選んだ事は、わかったみたい。
私の髪を優しくなでた尋人(ヒロト)を、私は申し訳ない気持ちが詰まった瞳で見つめた。
 
「そんな目で見るなよ。」
 
と少し笑った尋人(ヒロト)は、私に触れていた手を、今度は軽くポンポンと跳ねさせた。
 
「結衣(ユイ)の気持ちは、わかった。
結衣(ユイ)のしたいようにしろ。
俺も、朋哉(トモヤ)と一緒だから。
お前の笑顔が見れないなら俺が一緒にいてもしかたない。
側に朋哉(トモヤ)がいて、お前が笑えるなら、それを選んでくれ。
その時、俺がお前の側にいなくても、俺はどこででも、絶対に見てるから。
結衣(ユイ)が心から笑顔で笑ってる姿・・・ずっと見てるから。」
 
ありがたかった。
私の気持ちをわかってくれた尋人(ヒロト)の優しさと、私を愛してくれていた尋人(ヒロト)の深い愛に・・・感謝した。
 
「ありがとう・・・尋人(ヒロト)。」
 
私が、尋人(ヒロト)に向けて言った最後の言葉だった。
私は、深く尋人(ヒロト)に向かって頭を下げると、その場から一気に走り去った。
 
「ちょ・・・結衣(ユイ)、どこいくの!!」
 
と叫んでる未湖(ミコ)に、
 
「結衣(ユイ)にとっての、一番大事なものを、取り戻しに行ったんじゃねぇーの?」
 
と答えてた尋人(ヒロト)の言葉なんて・・・当然私は、知らなかった。
 
 
「あれ、菅野(カンノ)!お前、まだいたのか?」
 
すれ違った担任にそういわれる私だけど、
 
「忘れ物―!!」
 
と叫びながら、私は全速力でそこを通過し、ある場所へと急いだ。
きっと、あそこへいけば、このブルーストーンの輝きも戻るはず。
私は、手の中にあるブルーストーンを強く強く握り締めながら、“ある場所”に向かった。
勢いよく扉を開けた。
もう、教室は、誰もいなかった。
沈みかけた夕日が、私の机の周辺を照らしてた。
私は、乱れた息を整えながら、自分の席に近付いた。
そして、手に持っていた荷物を机の上に置くと、私はイスを引いて、座る。
手に持っていた、ブルーストーンを見つめて、まずは1つ深呼吸をした。
過去に戻りたい。
でも、重要なのは“どこから”って事。
尋人(ヒロト)を救った後から。
尋人(ヒロト)を救う前から。
朋哉(トモヤ)が風邪をこじらす前から。
選択は色々あった。
その中で私が選んだ過去は、コレだった・・・。
私は、ブルーストーンを見つめてこう言った。
 
「朋哉(トモヤ)が、私にブルーストーンを見つけたと言って来る時間に戻して。
過去をいじる前のあの時に戻して・・・お願い。」
 
そう。過去を変える前に戻してほしい。
私が選んだ舞台はコレだったの。
その時、輝きを失っていたブルーストーンが、この上なく強く輝いた。
私は、たまらず目をつぶる。
その光は、今までと同じように、一瞬の光で終わった。
私は、ユックリと目を開ける。
さっきまで、誰も居なかった夕暮れの教室。
だけど、今は、周りに数名の生徒。
そして、椅子に座っていたはずの私は、カバンをつかんで立ち上がっていた。
そして、その私の腕を、血相変えた未湖(ミコ)がつかんでた。
 
「待ってよ、結衣(ユイ)!」
 
そういって、必死で私を止めた未湖(ミコ)は、さらにこう言ってくる。
 
「私だって、尋人(ヒロト)の死を安易に思ってるわけじゃない。」
 
って。そして、どんどん未湖(ミコ)の口から聞き覚えのある言葉が出てくる。
これって、前にも聞いた。
私は、未湖(ミコ)の話なんて聞いてられなくて、目を動かして教室の時計を見る。
時刻が、あの時と同じだ。
間違いない!
私、あの時の時間に戻れたんだ!!
って事は・・・。
私は、期待を胸に教室のドアをみつめる。
もう少し・・・。
もう少ししたら、あのドアが開いて、ブルーストーンをみつけた朋哉(トモヤ)が入ってくる。
入ってくる・・・よね?
私の心臓が、ドンドン高鳴る。
嬉しさと期待がある反面、現れなかったらどうしようという恐怖も乗っかってくる。
朋哉(トモヤ)が入ってくるまでの数秒の時間が、とても長く感じた。
ドアを見つめて棒立ちしている私に、未湖(ミコ)が少し心配する。
 
「結衣(ユイ)・・・どうしたの?」
 
その時だった。
ドアが勢いよく開いた。
あの時と同じ。
そこに立っている人物を見て、未湖(ミコ)は驚いた・・・はず。
でも、きっと、カレが現れた事よりも、私の行動にもっと驚いたのかもしれない。
あの時は、現れたカレの名前を呼んでいた未湖(ミコ)なのに今は、驚きのあまり、声にならないようだったから。
 
「結・・・衣??」
 
教室に入ってきて、予想外の事が舞い降りてきた彼も、もちろん戸惑う。
だけど、私はかまわなかった。
だって、うれしくて、たまらなかったから。
私は、抱きついている彼にさらに、強くしがみつくと、涙ながらに言ったの。
 
「朋哉(トモヤ)・・・逢いたかった。」
 
って。そう口にした瞬間、私の思いはあふれ出した。
いきなり抱きつかれて、戸惑っている朋哉(トモヤ)に私はドンドン想いをぶつけてしまう。
 
「もう、どこにもいかないで。
私の側に居て。
朋哉(トモヤ)がいなきゃ、私笑えないよ・・・。
お願いだから、私を置いていかないで・・・。」
 
最後は声にならなかった。
朋哉(トモヤ)が死んでしまった時の、空虚感を思い出すと、胸が張り裂けそうになった。
息が苦しくなる。
今、ここにいる朋哉(トモヤ)は夢かもしれない。
ブルーストーンの力が消えたら、また、朋哉(トモヤ)のいない世界に引き戻されるかもしれない。
それが、恐かった。
このぬくもりを、2度失う事になったら、私はどうなるの?
その恐怖から、朋哉(トモヤ)にしがみついている手が震えるのがわかった。
恐くて恐くてたまらなかった。
やがて、その震えは、私の体全体を支配しそうになった。
だけど、その時、その震えを消してくれた魔法の手があった。
今まで、私に触れて無かった朋哉(トモヤ)の強くて優しい腕が、私を包み込むように抱きしめてくれた。
そして、彼の胸にうずめている私の顔の側に自分の顔を近づけてくると、私の耳元で答えをくれる。
 
「俺はどこにもいかないよ。」
 
その言葉に私は、伏せていた顔をあげる。
涙で濡れた瞳で朋哉(トモヤ)をみつめる。
 
「お前・・・なんで、こんなに泣いてんの?」
 
クスと笑いながら、朋哉(トモヤ)は私の涙を優しく指でぬぐってくれる。
朋哉(トモヤ)の優しい笑顔。
暖かい温度・・・。
全てが愛おしかった。
私の心も体も、全てが叫んでた。
何を?って・・・それは・・・。
 
「朋哉(トモヤ)・・・。」
 
朋哉(トモヤ)を見つめたまま、そう言った私に、涙を拭いながら、彼は軽く、「ん?」と聞いて来る。
そんな彼に私は、心の叫びを言葉にした。
 
「愛してる。」
 
って。朋哉(トモヤ)の動いていた指が止まった。
そして、私を驚いた目で見てた。
だけど、その驚きの瞳は、すぐにとっておきの優しい笑顔に変わって、彼は少し照れたようにこう言った。
 
「俺も、お前だけを愛してるよ。」
 
ここが教室だなんて、忘れちゃうくらいの甘い告白。
さすがにキスとまではいかないけど、だけど、強く強く抱きしめられた朋哉(トモヤ)のぬくもりで、私はこの上ない幸せを感じてた。
 
「何か・・・夢みてぇー。」
 
朋哉(トモヤ)はそういうと、私を見つめて、さらにこう言ったの。
 
「ずっと、言いたかった言葉が言えた時ってさ、嬉しいっていうよりも、夢か?って思うんだな・・・。
初めて知ったよ。」
 
そして、苦笑いをしてた。
その顔がすごくかわいくて、私はちょっと意地悪をしちゃう。
 
「そう?私は、夢だなんて思わないよ。
だって、朋哉(トモヤ)に愛してるって言われたの、“2度目”だもん!」
 
そして、ニッコリ笑顔。
だけど、相手は、笑顔でいられない。
 
「えっ?2度目?」
 
驚き顔で私を見てた彼。
 
「それ、どういう意味?」
 
彼がそう言って、私に聞いてきた時だった。
私の手の中にあるブルーストーンが、強く輝きだした。
 
「えっ?・・・何でっ!!」
 
私は、輝くブルーストーンを見る。
私は、てっきりこのまま、この時代で生きれるんだと思ってた。
だけど、このままだと、私、戻っちゃうって事だよね?
大丈夫なの?
朋哉(トモヤ)の死が、取り消されてなかったら、どうしよう。
本当に、これで、朋哉(トモヤ)は、生き返ったの?
私は、とっさに、戻るまいとして目の前にいる朋哉(トモヤ)にしがみついた。
 
「朋哉(トモヤ)、お願いよ・・・。
生き返ってね。
私の所に戻ってきて!!」
 
必死でそう頼んだ私に、朋哉(トモヤ)は何かを言った。
その声は、強い光に包まれた私の耳に届く事は・・・無かった。
 
 
 
「ん・・・。」
 
私は、目を開けた。
今までの展開なら、私はあの夕暮れの教室にいるはず。
だけど・・・。
私は、横たわっていた体をユックリと起した。
私の手に触れたのは、肌触りのいいシーツ。
つまり、ここは、ベッド。
私は、自分の着てる服を見る。
ダブダブのT−シャツに、半パン。
今度は、部屋を見渡す。
見覚えはないけど、でも見るからに男の部屋って感じ。
ここ・・・どこなの?
その時、階段を登ってくる音が聞こえた。
やがて、その足音は、扉の前で止まり、「カチャ。」と音を立てて、扉が開いた。
ベッドに座って扉を見ていた私と、目があった彼は、優しく微笑む。
 
「目が、覚めたか?」
 
そして、持っていたペットボトルを、机に置くと、ベッドに座った。
 
「朋哉(トモヤ)・・・ここ、どこ?」
 
目の前に居るのは朋哉(トモヤ)。
だけど、ここは、どこなの?
私、ちゃんと戻ってこれたの?
少しパニックの私だったけど、私に優しくふれて、自分の胸に抱き寄せてくれた朋哉(トモヤ)のおかげで、気持ちが穏やかになった。
どんな世界でも、朋哉(トモヤ)が居ればいいや。と・・・思えた。
朋哉(トモヤ)の鼓動が、聞けるだけ、幸せだと感じた。
朋哉(トモヤ)の胸の中で安心しきっている私の姿に、朋哉(トモヤ)も安心したのか、優しく私の髪をなでながら、ゆっくりと口を開く。
 
「ここは、俺の部屋。
結衣(ユイ)と教室で想いをぶつけあったあと、俺担任に呼ばれて、別々に帰っただろ?
気になって、携帯鳴らしたけど、お前出なくて、教室で待ってるのかと思ったら、お前倒れてるし。
あの時は、マジで焦ったよ。」
 
倒れてたって・・・つまり、学校からここまで、朋哉(トモヤ)が運んでくれたって事?
 
「ごめん・・・重かったでしょ?」
 
申し訳なさそうに謝る私に、「いや。」と軽く笑った朋哉(トモヤ)は、とても優しい口調で話す。
 
「本当は、結衣(ユイ)の家に送ったほうがよかったのかもしれないけど、俺がもう少しお前と一緒にいたかったから。
やっと、両思いになれたんだしな。」
 
そう言った彼は、恥ずかしそうに笑った。
その笑顔が、いつもかっこつけてた朋哉(トモヤ)と違ってなんか新鮮で嬉しかった。
朋哉(トモヤ)を取り戻したんだと、実感した瞬間だった。
 
「朋哉(トモヤ)・・・ありがと。」
 
私はありったけの想いを込めて、朋哉(トモヤ)に言った。
彼が、あのブルーストーンをみつけてくれなければ、私は本当の幸せを見落としてた。
朋哉(トモヤ)を一生、見落としてたんだから・・・。
私を幸せにしてくれるのも、してくれたのも、朋哉(トモヤ)のおかげ。
 
「本当にありがとう。」
 
彼に抱きついて、精一杯のありがとうを伝えた。
 
「おかしなやつ・・・。」
 
朋哉(トモヤ)は、おおらかな笑いをした。
でも、私に触れる手は、とても繊細で優しさが溢れてた。
 
「そういえば、結衣(ユイ)。
俺さ、お前に見せたかった物があったんだ。」
 
朋哉(トモヤ)はそういうと、私を自分からゆっくりと離すと、ベッドから降りる。
そして、制服の上着のポケットをあさりだす。
 
「どうしたの?」
 
だけど、一生懸命何かを探す朋哉(トモヤ)。
私の声が耳に入ってないみたい。
 
「あれ?アレ、どこいった?」
 
そう言いながら、必死で探してる朋哉(トモヤ)。
その姿で、ピント来ちゃった!!
もしかして、朋哉(トモヤ)が探してるアレって・・・“アレ”の事??
でも・・・。
そう思って私も気付いた。
私が握ってた、ブルーストーンもなくなってる。
その時、思い出したの!
朋哉(トモヤ)が言った言葉を。
確か、あの石は、恋を成就したら、ブルージュエルとなって、姿を消す。
また、新たな恋を探してさまよう意志のある石だって、彼言ってなかった?
つまり、私が持っていたブルーストーンも、朋哉(トモヤ)が見つけてきたブルーストーンも、もうここにはいない。
だって、恋を成就させたんだもん!
私は、まだ、必死で探してる朋哉(トモヤ)の側に歩み寄ると、朋哉(トモヤ)の背中に抱きついた。
彼を後ろから抱きしめる。
必死で探していた朋哉(トモヤ)も、突然の後ろからの衝撃に驚いて手を止めて、私の方に顔