ある日曜日。
2月にしては珍しく、晴天でいて、気温も春を思わせるほど、心地よい暖かさ。
正午に、盛大な花火が3発鳴った。
それから、時間が経つにつれて、ココは興奮に満ち溢れていた。
ここは、どこかというと・・・国立競技場。
そして今ここで、行われているのが、小学生サッカーの全国大会決勝!
参加資格は、6歳〜12歳までの子供である事。
ただ、それだけ。
大会に、出たければ、チームを作って登録さえすれば、それでいいの。
とはいえ、参加するチームは、どこもちゃんとしてるけどね。
地域でサッカーチームっていうのが、ちゃんと作られているとか、学校主催のチームとか・・・。
指導者がついて練習を行っている子供たちが、出場してる。
だから、今年も、強豪でね。
今日の試合も、どっちに転ぶかわかんないと思ってヒヤヒヤしていたんだけど・・・。
試合が始まって10分したら、そのヒヤヒヤもどこかへ行ってしまった。
いや・・・ヒヤヒヤはあるのよね。
でも、試合に勝てるかのヒヤヒヤじゃなくて、『バレないか』でヒヤヒヤしてるの。
だって、さっきから、見学者のギャラリーが、ざわつきだしてるし、さらに、数社、来ていたカメラマンやテレビ局の人間も、落ち着きがなくなってきたんだもん。
「おい!あの9番と11番。
何者だ?」
「上手いってもんじゃないでしょ。
あれ、プロ並じゃない!!」
「あれ?ほら、あの名前見てみろよ!
2人とも名前の後に“K”って書いてある。
ってことは・・・2人は兄弟なのか?」
「これって、小学生大会だろ?
あの2人、中学生じゃないのか?」
「えぇー!!8歳と・・・9歳??
小2と小3??
う・・・うそだろ??」
とまー・・・こんな感じで、周りは大混乱。
そして、私は・・・小さくなる。
ヤバイよー。バレちゃったら、どうすんのよ!!
とりあえず・・・私だけでも、目立たないようにしなきゃ!!
そんな事を思った私は、みんなが立っている中で、1人だけしゃがむ。
でも、ここって、関係者が観覧する場所だから、プレイしてる小学生の親しい知り合いとか、家族とか。
そういう人たちが、居座る場所なんだよね。
私が、ここに居る事自体が、マズイ・・・かも。
身の危険を感じた私は、「すみません。」と周りに謝りながら、ベビーカーを押して、観覧場所から抜け出した。
グランドから少し離れているけど、でも、ここは人もそんなにいないし、何より人目を気にしないで良いから・・・ホッ。
緊張していた糸が切れた私は、ベビーカーを固定させると、その横の芝生に腰をおろした。
ここからでも、十分見える2人の勇姿。
それを、見ながら思わずひとり言。
「もっと、手加減しなさいよ!!」
そして、ベビーカーに乗りながら、ジーと遠い2人を見ている子に、
「ねぇー?」
と同意を求めたりした。
とはいえ、あの2人のプレイ・・・。
私はまた、グランドへと目を戻した。
たくさん居る子供たちの中で、一際目立つ2人。
絶妙のコンビネーションと、信じられないくらいの技術で、迫ってくる敵を、次から次へとクリアーしていく。
その2人の姿はまるで・・・、朋哉(トモヤ)と尋人(ヒロト)みたいだった。
そう感じた時、私はある人の顔が浮かんだ。
そして、浮かんだ彼に向かって、こう囁いた。
「喜んでくれるかな?」
って・・・。
かつての自分と尋人(ヒロト)みたいなプレイをする2人に逢う事。
それが、私と生きる事を決めた“彼”の新しい夢だったから・・・。
遠くで、音が聞こえた。
優しい男の人の声?
話してる・・・感じではない。
どちらかといえば・・・歌ってる??
私は、閉じていた瞼(マブタ)をユックリと開いた。
ボーっとしていた景色が、数秒後にハッキリした物に変わる。
目を開けた私の視界にあったのは、男の人の背中だった。
真っ白いシャツを着た、いえば、なんの変哲(ヘンテツ)もない、ただの背中。
でも、なんでかな?
その背中は、私の心に安心を与えた。
ホッとするような、安心。
例えば、ここが、どんなに危険な場所でも、彼がいてくれるというだけで、幸せだと思えてしまうくらいの威力を持つ背中。
そんな人は、この世で、一人しかいない。
そして、二度と私は彼を失いたくないと・・・また、強く思ったの。
「朋哉(トモヤ)・・・。」
ベッドに横になったまま、私は朋哉(トモヤ)を呼んだ。
急に言葉を発したせいで、少し声がかすれた。
頭の中の言葉が、うまく出なかったりしたけど、言葉というより、私の声に反応した朋哉(トモヤ)は、さっきまで、ベッドに背中をもたらせながら、歌詞カードを見入っていたのに、パッと私の方に振り返る。
その行動の早い事・・・。
ちょっと・・・・。
「フフフ・・・。」
って笑っちゃった。
だって、いつも冷静な朋哉(トモヤ)が、こんなに慌しいなんて、初めてなんだもん!
ほら、よくあるじゃない!
何かを隠してると、それがバレないように、変にシャキシャキとした怪しい動きをしてしまう。って・・・。
朋哉(トモヤ)の行動は、まさに、それだったの!
だから、なんだろ?って思っちゃって。
今、見ていた歌詞カードが隠さなきゃいけない物だったのかな?
気になった私は、朋哉(トモヤ)の手にしている物を見ようと、彼に近付こうとしたの。
だけど、横になっている体を、起そうとした瞬間、
「ギシシ・・・・ピキキ・・・。」
という音が聞こえた・・・ような気がした。
どういう事かと言うと、体全体が引きつってる感じで、体中筋肉痛になってた。
腕を動かすと、「うっ!」と悲痛な声が出て、起き上がろうと腹筋を使うと、「あいたたた・・・。」と情けない声が出る。
なんで?どうして、こんな事になってんの?
サッパリわからない私は、
「なんなのよ・・・コレ・・・。」
と泣き声でつぶやきながらも、なんとかベッドに座った。
腹筋も使ったせいで、お腹あたりも痛い。
腕を動かすのも痛いけど、そうも言ってられず、私は腕の痛みは我慢して、お腹をさすりさすりなでた。
この痛みって、まさか、何回もブルージュエルを使って、過去に戻ったりしたから、それで?と思ったの。
それ以外、思いあたる事がなかったから。
だったら、仕方ないかなって・・・ちょっと思ったの。
ブルージュエルのおかげで、私は朋哉(トモヤ)への気持ちがわかったわけだし、これくらいの後遺症は、仕方ないって。
でも、私を見ていた朋哉(トモヤ)は、心配そうに私に声をかける。
「大丈夫か?」
って。そして、さっきまで、ベッドの下に座っていたのに立ち上がると、私のすぐ側に座り、私を優しく自分の胸に倒して抱きしめてくれる。
こうされてると、癒されてくるようで、きしむ痛みがやわらいだような気になった。
「これくらい平気よ。
ブルージュエルに逢えた代償だと思ったら、安いくらい。」
と言いながら、私は彼に抱きつく。
こうして、朋哉(トモヤ)を取り返せたんだもん。
こんな筋肉痛、どぉーってことないわ!
って、思ってたんだけど・・・。
「ブルージュエルの・・・代償??」
突然聞こえた、朋哉(トモヤ)の突拍子も無い声。
そのとんでもなく、ぶっ飛んだ声に、私も思わず朋哉(トモヤ)を見上げたんだけど・・・。
「ちょ・・・・ちょっと!!なんで、そんなに大笑いしてるのよ!!」
って大声上げちゃった。
だって、朋哉(トモヤ)ったら、変な声出したかと思ったら、今度は、
「マジ・・・腹いてぇー。」
と言いながら、大笑いしてるんだもん!
ひどいと思わない??
朋哉(トモヤ)には、さっき、ちゃんとしたんだよ。
ブルージュエルの話。
朋哉(トモヤ)が私に見せようと持ってきてくれたブルージュエルも、私が朋哉(トモヤ)からもらって、ずーっと持っていたブルージュエルも消えていたじゃない?
それは、私と朋哉(トモヤ)の恋が成就したからなんだと教えてあげて、私が何回もやり直した過去の話もしたのに!!
信じてくれてたのに・・・・。
ひどいよ、こんなに大笑いして!!
結局、何1つ信じてくれてなかったって事でしょ!!
信じらんない!!
今度は怒りが、フツフツと湧いてきた。
だから、私は朋哉(トモヤ)の胸を、両手で、グイと強く押すと、朋哉(トモヤ)をベッドの下に落とした。
ドタ!!と大きな音が立ち、「いってぇー・・・。」とうめく朋哉(トモヤ)の声が、ベッドの下から聞こえたけど、
「知らない!!」
とすねた私は、そのまま、またベッドに横になると、朋哉(トモヤ)に背を向けて、お布団を頭からバサっとかぶった。
ブルージュエルが、起した奇跡・・・。
確かに、信じろって言う方が無理なのかもしれないけど、でも、朋哉(トモヤ)には信じてもらいたかった。
私たちの思いが、1つになれたキッカケを作ってくれた、大事な大事な私の宝石だったから・・・。
わかってもらえない悔しさと、上手く伝える事ができなかった自分の無力さに、私は思わず涙を流してしまう。
声を押し殺して泣く私に、朋哉(トモヤ)も気付いたようで、
「結衣(ユイ)・・・泣くなって!」
と少しおちゃらけた口調で言いながら、朋哉(トモヤ)は私の横に入ってくると、私を後ろから優しく抱きしめた。
そして、朋哉(トモヤ)は私の右耳辺りに、頬をすり寄せてくると、私が落ち着けるような優しい声で話し始めた。
「お前、早とちりし過ぎ。」
朋哉(トモヤ)の予想外の言葉に、本気で驚いた私は、「えっ?」と言ったと同時に、涙を止めてた。
少し朋哉(トモヤ)の方に顔を傾けた私に、朋哉(トモヤ)は、「泣き虫・・・。」といいながら、頬に流れている涙をペロッと舐めた。
舌に付着した水滴が、唾液と交じり合った頃、朋哉(トモヤ)は私に教えてくれたの。
私の早とちりをね・・・。
「お前が言ったブルージュエルの話は、信じてるよ。
だって、俺も・・・・。」
朋哉(トモヤ)はそう言いかけて、急に言葉を止めた。
もちろん、気になったよ。
変な止め方だったから。
そのまま、黙り込んだりしたら、私はすぐに朋哉(トモヤ)に聞いてた。
でも、朋哉(トモヤ)はすぐに、話を続けたの。
だから、私もタイミングを逃してしまって、その先は聞けなかった・・・。
「だから、さっき笑ったのは、『信じてない』って事じゃないんだよ。」
「じゃぁ・・・どうして、笑ったの?」
そう思うよね?
すると、朋哉(トモヤ)は、私をユックリと自分の方に反転させると、私を自分の胸に向かって抱き寄せた。
シャツの上からだったけど、朋哉(トモヤ)の暖かい胸が頬に触れて、すごく気持ちよかった。
「結衣(ユイ)が、誤解してたから、笑ったの。」
「ご・・・かい?」
何よ、誤解って。
何をどう誤解した??
全く覚えがなくて、首をかしげてしまう私に、朋哉(トモヤ)は笑いながら、教えてくれたんだー。
すっごい・・・真実を・・・。
「その筋肉痛だけどな、ブルージュエルの後遺症じゃない。
俺の後遺症。」
「俺って・・・朋哉(トモヤ)??・・・へっ?」
サッパリ意味がわからない。
何を言ってるの?
朋哉(トモヤ)の後遺症?
完璧意味不明。
だいたいねぇー、私の筋肉痛と朋哉(トモヤ)とが、どう結びつくのよ。
からかうのもいい加減にしてよ!って思ったんだけど、朋哉(トモヤ)の言葉は止まらなかった。
「結衣(ユイ)って、感じやすい体質なのか、“初めて”のくせに、何度もイってさ。
その度に、体全体、跳ねまくって・・・。
あれだけ、全筋肉使ってたら、そりゃ、筋肉痛にもなるよ。
あっ、あと、プラスアルファーで、俺の激しさも、原因の1つだとは、思うけどな。
つまり、こうなるのは、無理もねぇーって事。」
と言って笑ってるけど・・・笑えない。
内容もすごくて言葉が出ないけど、それよりも・・・私はひっかかった。
だって、朋哉(トモヤ)・・・間違ってるから。
私は、“朋哉(トモヤ)”に抱かれたのは、今日が初めて。
でも、“男の人”に抱かれたのは、初めてじゃないの・・・。
こんな事、いう事じゃないってわかってるけど、でも・・・朋哉(トモヤ)には、誤解してほしくないから・・・。
私は、言おうか言うまいか迷ったけど、これから朋哉(トモヤ)とは長い付き合いになるから、なーなーではいたくないと思って、ちゃんと“真実”をいう事にしたの。
「朋哉(トモヤ)・・・ごめん・・・。」
たまらず、最初に私は謝ってしまった。
「何が?」
そりゃ、意味わかんないよね?
冒頭で謝られてもね。
不思議顔で私を見てる朋哉(トモヤ)を見るのは耐えられなくて、私は朋哉(トモヤ)に抱きついて朋哉(トモヤ)の胸に顔を隠した。
そして、そのまま・・・言ったの。
彼の胸に抱かれながらいう言葉じゃないとわかっていたけど・・・。
非常識だとは思ったけど・・・私は言った。
「私は・・・初めてじゃないの・・・。」
そう・・・。
私は、尋人(ヒロト)に1度抱かれた事がある。
緊張と恐さと痛さで、途中で気絶しちゃったんだけど・・・でも、私は間違いなく、尋人(ヒロト)に抱かれた。
そんな事、尋人(ヒロト)から聞いて、朋哉(トモヤ)は知ってるものとばかり思っていたけど・・・。
知らなかったって事?
尋人(ヒロト)は、言ってなかったの?
自分の口から言うよりは・・・聞いていてほしかったと、ずるい事を思ったりした。
きっと、朋哉(トモヤ)はおもしろくないよね?
親友に知らないうちに抱かれていたなんて、今更聞かされて・・・。
私は、尋人(ヒロト)が、本当に好きだった。
15歳で、そういう関係になった事も後悔してない。
でも、どうしてかな・・・。
今、申し訳ない気持ちでいっぱいなの。
後悔とかじゃなくて、申し訳ない気持ち。
こんなに朋哉(トモヤ)が好きなのに、朋哉(トモヤ)に“初めて”を、あげられなかった罪悪感が、私を襲った。
初めてなんて、1度しかないものだけど、2度あればいいのに・・・。
そんな矛盾な事を考えたりした・・・。
「本当に・・・ごめんなさい。」
胸が張り裂けそうになった。
苦しくて、辛くて、朋哉(トモヤ)の腕の中にいちゃ、ダメなんじゃないかと自分を責めてしまうくらい不安になった。
でも、色んなネガティブな事を考えてパニックになっていた私の頭は、朋哉(トモヤ)の手が触れた事で、留まった。
朋哉(トモヤ)は、ユックリ手を動かし、優しく私の髪をなでると、そのままで私にこう聞いた。
「じゃ、初めての相手は誰?」
「それは・・・。」
で止まってしまった私。
さすがに、尋人(ヒロト)とは・・・言えない。
私は、こんなにも困り果ててるというのに、朋哉(トモヤ)はなぜか、ちっとも機嫌をそこねてなくて、それどころか、声なんてすごく普通で、普段の彼とどこも変わらないくらい、落ち着いていた。
「じゃ、質問変える。
俺は、何度目のセックス?」
「えっ?」
息が一瞬・・・止まった。
今・・・何言った?
なんで、そんな事聞くの?
回数を聞いて、どうしたいの?
平気な顔を装ってるけど、やっぱり私を責めてる・・・の?
朋哉(トモヤ)の考えている事が、わからなかった。
顔色変えずに、済ました顔で聞いて来る朋哉(トモヤ)の態度が、私が朋哉(トモヤ)を愛しているほど、朋哉(トモヤ)は私を愛してないのかもしれないと、思わせるのには十分過ぎた。
恐過ぎて、私は朋哉(トモヤ)にしがみつきながら、何も答えられなかった。
「結衣(ユイ)?」
何も言わずに、突然しがみつかれ、さらに、私は震えてる。
それに、一瞬驚いた朋哉(トモヤ)だったけど、私たちは生まれた時から、ずっと一緒なんだもん。
朋哉(トモヤ)は私のわずかな変化で、私の考えている事がわかる。
だから、今も、ちゃんと伝わったみたい。
だって、私を片腕で抱きしめると、もう一方の手で、彼の上着を握り締めている私の手に触れる。
そして、指をからませるように、手を握ってくれた。
私はまだ脅えた瞳だったけど、彼のその暖かさのおかげで、彼の目を見る勇気が持てた。
少し涙で潤み、そして、脅えている私の瞳に向かって、彼は優しい瞳で答えてくれた。
「結衣(ユイ)を、責めてるわけじゃない。
ただ、結衣(ユイ)に真実を知らせておきたくてな。
ちゃんと、説明しながら聞けばよかったな。
悪い悪い。」
と笑いながら言った朋哉(トモヤ)は、私の頬に軽いキスをすると、少し近付いた状態で、もう一度私に聞いて来た。
「初めての相手は、尋人(ヒロト)だろ?
1回目はアイツと。
そして、今日、俺としたのが2回目・・・だよな?」
「う・・・ん。」
私はそう言って認めた後、戸惑いながら、首を1回縦に動かした。
それにしても・・・気になる。
さっき、朋哉(トモヤ)が言った言葉・・・。
『真実を知らせる』って、言ってたでしょ?
あれ、どういう意味だったんだろう?って・・・ちょっと、気になって。
だから、私は、朋哉(トモヤ)に聞いたの。
「“真実”って・・・何?」
それに対して、朋哉(トモヤ)は、「それはな・・・。」と口を開くと、私から離れ、ベッドから立ち上がる。
それには、私もつられて、起き上がる。
もちろん、裸なんで、お布団を肩まであてて隠し、背中は壁に、もたれさせた。
そして、朋哉(トモヤ)はというと、窓際に行くと、窓を少しだけ開け、とっぷりと暮れた夜空を目にする。
少しだけ冷たい風が、ソヨソヨと部屋の中に入って来る。
風を体や顔で受けながら、朋哉(トモヤ)は顔を上に向け、軽く目をつぶった状態で口を開いた。
「結衣(ユイ)と尋人(ヒロト)は、やってないんだ。」
「えっ?・・・えぇー!!」
って・・・そりゃ、大絶叫だよ。
それにしても、一体・・・どういう事なの?
だって、確かに私は、尋人(ヒロト)と・・・。
尋人(ヒロト)も、やったって言ってたのに・・・。
やってないって・・・・えぇー!!
ビックリし過ぎて、何も言えない。
頭がグルグルと回転する。
困惑して私はただ、側にあったクッションを握り締めると、考え込んでしまった。
黙りこくる私を、朋哉(トモヤ)は目を開いて見ると、窓の手前にあるスペースに、私の方に向きながら腰かけた。
「結衣(ユイ)、なんで、気絶したか覚えてるか?」
「えっ?」
何を言われたか聞き取れなかった私は、クッションから顔を上げて朋哉(トモヤ)を見る。
ホント・・・今、朋哉(トモヤ)が何を言ったか、わかんない。
そこで、私は、朋哉(トモヤ)に、「何?」と目で訴えて聞いてみた。
すると、朋哉(トモヤ)は、再度質問する・・・事はなく、さっさと回答を始めちゃった。
私に聞いた所で、自分が回答しなきゃならないのは、一緒だから、言う手間を省いた・・・のかもしれない。
「お前、相当痛がったらしいな。
気絶したのは痛さの為。
尋人(ヒロト)いわく、コレ入れた途端、速攻、気絶したらしいぞ。」
と言って彼が見せたコレとは、もちろんアレではなくて・・・。
「ゆ・・・び??」
ボソっとつぶやいて、そして、考えて・・・。
次の瞬間、
「うっそー!!」
と絶叫した。
まさか、そんな情けない事になってたなんて・・・。
っていうか、私・・・どれだけ根性なしなの?
信じられない・・・。
ショックのあまり、顔をバフとクッショに沈めて、落ち込む私を見て、朋哉(トモヤ)は笑ってた。
私のヘコみ具合に笑ってるというよりは、たぶん、私の絶叫ぶりが、ツボにハマったみたい。
クッションを口に当ててるにも関わらず、信じられないくらいのビックボイスを出した私に、ウケちゃったの。
だけど、私はその笑いに突っ込む余裕はなくて、
「ホント・・・信じらんない・・・。」
と私はぼやきながら、そのまままた、ベッドにコテンと横向きに倒れた。
そんな私を見た朋哉(トモヤ)は、大笑いを落ち着かせると、また、いつもの優しい声で、続きを話し始めた。
「尋人(ヒロト)に抱かれたと、酔いしれてるお前に、本当の事が言えない後ろめたさ。
そして、もう一度お前を抱こうにも、あの痛さをまた感じさせたらどうしよう。という不安。
アイツは、相当苦しんでた。」
「そう・・・だったんだ・・・。」
知らなかった。
尋人(ヒロト)が、そんなに苦しんでたなんて・・・。
けど、まー、確かに・・・ホント、痛かったのよね。
あまりの痛さに、信じられないくらい大きなものが、入ろうとしてるんだと、思ったんだもん。
指だなんて、思いもしないって!!
ほら、初めては痛いっていうじゃない。
でも、私思ったもん。
『こんなの死ぬ〜。』って・・・。
それくらい、痛かったの。
って思って・・・ん?
私は、ある矛盾に気付いた。
つまり、さっき、朋哉(トモヤ)に抱かれる前って、私って、処女だったわけだよね・・・。
なら、尋人(ヒロト)の時みたいに、激痛が走ってもおかしくなかったわけだよね・・・。
でも・・・あれ?
私は、首をかしげる。
だって、尋人(ヒロト)の時みたいな痛さ、全くなかったんだもん。
確かに、多少の痛さはあった。
でも、それは、どちらかといえば、気持ちいいって思える感情に近かったから、全然苦痛じゃなかったの。
これって・・・どういう事?
ダメだ・・・。
私には、わからない。
ここは、聞きづらいけど、朋哉(トモヤ)に聞くしかないよね。
これだけ、踏み込んだ内容を、口にし合ってるんだもん!
今更、遠慮なんて、意味ないし・・・。
よし!聞いてみよう!!
って事で、私は聞いたの。
そしたら、朋哉(トモヤ)は、答えてはくれたんだけど、ちょっと・・・デリカシーの無い説明だったんだよね・・・。
だって、いきなりこんな事を言い出したのよ。
「結衣(ユイ)の体は、指だろうがアレだろうが関係なく、“ソコ”に入るものは、“異物”と判断され、とんでもなく敏感に反応するんだ。」
って言って、私の下半身を指さすんだよ。
それだけでも、「キャ!!」なのに、朋哉(トモヤ)ったら、“ソコ”の次は、もう1つの物まで説明してさ・・・。
「あっ!わかってると思うけど、“アレ”ってコレな。」
って、自分のアレを指さしてるし・・・。
ズボン履いてるからいいけど・・・勘弁してよ・・・。
と心で嘆きながら、私はただ、
「・・・話・・・続けて・・・。」
とクッションの影から、彼を横目で見ながら言った。
なんで、こんな事言ってて、恥ずかしくないのかと思ったけど、朋哉(トモヤ)は平気みたい。
だって、「そっ?」と軽く言うと、普通に話を続けたんだもん。
さっきと、同じくらい、すごい内容の話なのに、朋哉(トモヤ)は恥ずかしげもなく淡々とした口調で話した。
「その体質のせいで、些細な痛さでも、大きく反応してしまう。
でも、反対に、大きな痛みを認識する前に、気持ち良さを少しでも感じさせたら、それは、大きく反応し、快感になる。
そうなれば、痛みが少々出ても、快感が飲み込んでくれる。
だから、俺は、結衣(ユイ)の中にある“痛み”を出さないように、気をつけた。
“痛み”を封じさえすれば、問題はない。」
と偉そうに言っちゃってたけど、私は恥ずかし過ぎて、言葉がでなかった。
でも、朋哉(トモヤ)が、私の事を考えてくれているんだと感じれて、嬉しかったんだけど、朋哉(トモヤ)からの愛はこれだけじゃなかったの。
もっともっと、深かった。
それがわかったのは、この先。
この後に続く言葉に、私への朋哉(トモヤ)の愛が、たくさん詰まってたんだ・・。
未湖(ミコ)とも話してたんだけど、朋哉(トモヤ)は、中学時代、急に女関係が淫らになった時期があったの。
朋哉(トモヤ)は、サッカー部のエースで、さらに顔が綺麗くて、スタイルもよくて、一言でいうなら、女が恋する理想の男だったの。
女に不自由する事はないくらい、いつも彼の周りには女がいた。
そして、いつしか、彼を取り巻く女の姿が、セフレで固められてたの。
彼が、どうして、好きでもない人を抱き続けるのか。
私も未湖(ミコ)も、理解できなかった。
でも、1度だけ、尋人(ヒロト)は、私にこう言ったの。
「俺のせいなんだ。」
って。
その意味はもちろん、わからなかった。
でも、ブルージュエルのおかげで、朋哉(トモヤ)がずっと、私を想っていてくれた事を知った時、朋哉(トモヤ)がセフレを作ったのは、私にあると気付いた。
朋哉(トモヤ)が性に対して淫らになった頃、丁度、私と尋人(ヒロト)が、そういう関係になった時だったから。
ま・・・未遂だったんだけどね・・・。
好きだった人が、親友とそういう仲になって、自暴自棄(ジボウジキ)になったんだと思ってた。
でも、そうじゃなかった。
朋哉(トモヤ)は、私の為に、たくさんの女性を抱いたんだって・・・。
尋人(ヒロト)も、初めてで、私の事、どうする事もできない。
手が出せない。
かといって、1度してると思っているのに、2度目がなければ、私が不安を抱く。
そう考えた朋哉(トモヤ)は、自分が体験して、尋人(ヒロト)にアドバイスをしようと、考えたんだそう。
街でナンパされた行きずりの女と、体を交じり合わせたり・・・。
色んな体質の女性と経験する事でしか、勉強できないからと思って、してたって言ってた。
私を救うには、それしかないと自分に言い聞かせて・・・。
「ホント・・・バカだろ?」
って最後は噴出して、笑っていたけど、私もちゃんとわかってるから。
朋哉(トモヤ)が私の心がわかるように、私も朋哉(トモヤ)の心、わかるよ。
この話してから、ずっと顔を窓の方に向けて、空を見てるよね。
目を一度も、私に合わさない。
本当は朋哉(トモヤ)、この話、したくなかったよね?
私が、軽蔑するとでも、思ってた?
確かに、たくさんの女性を抱いてたっていうのは、未湖(ミコ)に聞いて知ってたけど、信じてない部分もあったから、「ホントだったんだ。」と、ショックも受けた。
でも、あなたを嫌いになるような物ではないのよ。
反対に、私はあなたに言いたい。
だから、私は、きしむ体を、一生懸命動かして、ベッドから降りると、側にあったタオルケットを体に巻きつけ、ズルズルとタオルケットを引きずりなら、朋哉(トモヤ)に近付いた。
気配で私が近付いている事に気付いた朋哉(トモヤ)は、戸惑いながらも、私の方に顔を向けてくれた。
その顔に私は、両手で触れると、心から笑顔になって、朋哉(トモヤ)に言ったの。
「ごめんね・・・朋哉(トモヤ)。」
まさか、そんな事言われるなんて思っていなかった朋哉(トモヤ)は、眉をピクと動かす。
私を見る彼の両目が、戸惑ってるのがわかった。
だから、私は、彼の頬から手を離すと、その手を、彼の首に絡ませて、彼に抱きついた。
「私の為に、いっぱい、辛い思いして・・・ごめんね。」
そう言った後、私は、彼の唇に軽くキスをして、彼への感謝の気持ちを言った。
「私を、愛してくれて、ありがとう。」
って。いつも、どんな時も、朋哉(トモヤ)は私を一番に考えてくれてたんだね。
その想いが知れて、私は幸せだった。
幸せだったから、もう1言、素直に言えたの。
私は、体を少し離すと、朋哉(トモヤ)の顔をシッカリ見て言った。
「初めてが・・・あなたでよかった。」
尋人(ヒロト)・・・ごめんね。
やっぱり、私は、私を信じられないくらいの深い愛で愛してくれていた彼に、初めては捧げたいと思うから。
捧げられて本当によかったと、思ってる。
「朋哉(トモヤ)と交わってた時間・・・本当に幸せだったよ。」
恥ずかしげもなく、そんな事まで言っちゃった私だけど、朋哉(トモヤ)の嬉しそうな笑顔を見たら、そんな恥ずかしさなんて、どこかに消えて行った。
そして、朋哉(トモヤ)も、私の背中に手を回すと、包み込むように抱きしめてくれた。
「俺も、初めて知った。
交わるって、こんなに気持ちいいんだって事をさ・・・。」
それには、さすがに、「やだぁー・・・。」とテレながら、朋哉(トモヤ)の肩をパシっと叩くけど、朋哉(トモヤ)は嬉しそうに高笑いをしてた。
このたくましい腕に抱かれて。
強い強い愛に守られて。
私は、幸せ者だけど、朋哉(トモヤ)は?
よく考えてみると、私は朋哉(トモヤ)に何も、してあげれてないんじゃない?
私も朋哉(トモヤ)に、愛をあげたい。
せめて、私が朋哉(トモヤ)にもらってるくらいの愛はあげたいし、私が感じてるくらいの幸せを感じさせてあげたい。
だから、教えてほしい。
朋哉(トモヤ)は、何を求めてる?
私が、あなたに出来ることは何?
「そうだな・・・。」
私の言葉に、朋哉(トモヤ)は困るどころか、すごく嬉しそうにそういうと、ちょっとだけ考えて、
「結衣(ユイ)にしか、出来ない事があるよ。」
と言いながら、私を膝の上に乗せると、私を抱きしめ、私の額と彼の額とを、ゴッツンコとぶつけあうと、そのまま接近した状態で、囁き始めた。
「俺の夢・・・叶えてくれないか?」
「ゆ・・・め?」
そう聞いた私に朋哉(トモヤ)は、幼なじみである私や未湖(ミコ)すらも知らなかった、尋人(ヒロト)との2人だけの夢を、初めて教えてくれた。
朋哉(トモヤ)と尋人(ヒロト)には、2つの夢があった。
1つは、サッカー選手になる事。
そして、もう1つは、尋人(ヒロト)と朋哉(トモヤ)で、最強コンビだと恐れられるくらい、素晴らしいプレーをする事。
お互い一緒にいると、自分の持ってる力が、2倍にも3倍にもなる。
その強さを、世間に見せつけてやりたかったんだ!って・・・言ってた。
だけど、尋人(ヒロト)が死んで、朋哉(トモヤ)の夢は親友を失ったと同時に、泡のように消えてしまった。
ううん。消えたというより、正確には、尋人(ヒロト)が亡くなった時に、朋哉(トモヤ)の時間までもが、止まってしまったんだと思う。
現に、尋人(ヒロト)が亡くなったあと、朋哉(トモヤ)はサッカーを止め、そして、尋人(ヒロト)が好きだったNATSUKIの曲も聴かなくなった。
でも、さっき・・・。
私が目を覚ました時、朋哉(トモヤ)がベッドに、もたれながら見ていた歌詞カード。
そして、今もこの部屋にBGMで流れている曲。
これは、NATSUKIの曲。
尋人(ヒロト)が、亡くなった時に発売された物。
きっと、朋哉(トモヤ)は、今まで、封を切ることができなかったんだよね。
あの時の事を、思い出してしまいそうで、聴けなかった。
その朋哉(トモヤ)が、封を開けたのは、尋人(ヒロト)の死を完全に受け入れ、前を向いて歩ける状態になったら・・・ではないと思う。
だって、さっき。
私が声をかけた時、戸惑ってたでしょ。
朋哉(トモヤ)の中で、まだ、どっちつかずになってるんじゃないかな?
前に進まなきゃいけない。
でも、尋人(ヒロト)を失った現実をこれ以上突きつけられるのは、恐いという感情。
それがわかったから、私は朋哉(トモヤ)の力になりたいと思った。
朋哉(トモヤ)が、止まってた時間を、動かそうとしたのは、私と一緒に生きていくなら、立ち止まってちゃいけない。
歩き出さなきゃ!って、思ったからでしょ?
なら、私も一緒に歩きたい。
朋哉(トモヤ)と一緒に・・・。
だから、朋哉(トモヤ)の力になるなら。
朋哉(トモヤ)が望むなら、夢を叶えてあげたいと思う。
だけど・・・。
私はさっき、言われた事を思い出してた。
朋哉(トモヤ)の夢って、尋人(ヒロト)がいないと叶わないんじゃないの?
私にしか出来ない。って言ってたけど、尋人(ヒロト)にしか出来ない。の間違いなんじゃないの?
と、思いながらも、私は朋哉(トモヤ)に聞いたの。
「朋哉(トモヤ)の夢・・・私が叶えられるの?」
躊躇しながら聞いたけど、朋哉(トモヤ)ったら、「ああ。」と、さっさと認めちゃって。
そんな風に言われたら、こっちも素で言っちゃったよ。
「どういう事よ!」
って・・・しかも、ちょっと、怒り口調でね。
だけど、朋哉(トモヤ)って、人の態度にあまり左右されないから。
私が怒ってようが、焦ってようが、ホント・・・マイペースというか、動じないというか・・・。
だから、私が1人熱くなっていても、朋哉(トモヤ)は平常心!!
そして、朋哉(トモヤ)は、落ち着き払った様子と口調で、とんでもない夢を言ったの!
なんて、言ったと思う?
それはね・・・。
「尋人(ヒロト)との夢を、自分の子供に叶えてもらいたい。
そして、俺に見せてほしいんだ。
2人が、俺と尋人(ヒロト)以上の、最強コンビになって、世間を騒がせるのをさ。」
と・・・ここまでは、まー、普通じゃない。
自分が叶えられなかった事を、分身である子供に託すって・・・。
ねっ!よくある話でしょ。
だけど、ここで、終わらないのが、朋哉(トモヤ)のすごさなのよ。
ネジが1本、緩んでるんじゃないかと疑っちゃうような、ぶっ飛んだ事を、朋哉(トモヤ)は言い出した。
「でもって、最強のコンビとなる2人と同じフィールドに立って、闘いたいな。
あっ!もちろん、日本代表として、力を合わせて、3人で世界を相手に一緒に戦うってのも、したいよ。
けど、やっぱ・・・戦いたいかな?
そして、2人を負かしたい・・・なんてな。」
ニッコニコで、すっごく嬉しそうに語っちゃってくれてるけど・・・ごめん。
私は、何も言えなかった。
呆れた・・・違うな。
プレッシャー・・・これも違う。
バカバカしい・・・う〜ん、もうひとこえかな・・・。
冗談でしょ!・・・うん!これだ!!
と言葉が決定した所で、キッパリと発表!!
「冗談、言わないでよ!!」
って。だけど・・・朋哉(トモヤ)は、「いや。」と平然として、首をブンブン振ると、私にニッコリ笑う。
その笑いが・・・恐い。
だって、本気の本気だって・・・その笑顔から、にじみ出てるんだもん。
笑い飛ばす事も、ごまかす事も、出来るわけがない。
これは、真剣に受け止めるしかないと、思い知らされた感じがした。
だから、私は覚悟を決めた。
朋哉(トモヤ)の想いをちゃんと、聞きたいと思ったの。
だから、聞いたんだー。
「ねぇー、本気なら・・・これから、どうするの?」
「ん?」
ん?って・・・。
どうするか、具体的に言ってもらわないと、わかるわけないでしょ。
ホント・・・こんなとんでもない夢を、叶える気があるの?って、疑っちゃうよ。
シラーと疑いの眼差しで見ると、朋哉(トモヤ)ったら、笑いながら私から顔を離すと、机の上にある目覚まし時計に目をやった。
「なー、結衣(ユイ)?」
時計を見ながら、朋哉(トモヤ)は気の抜けた声でいうと、今度は私を見て、続きを言った。
「オヤジさん、もう、帰ってる?」
「へっ?」
何??って、戸惑う私だったんだけど・・・。
「オ・ヤ・ジ・さ・ん!!」
って、大きな声で、ハッキリ言わなくても聞こえてるわよ!
幼稚園児に言うみたいに、言わないでくれる?
と腹を立てつつ私も、さっき朋哉(トモヤ)が見ていた時計に目を向けた。
8時半前・・・。
さすがに、この時間なら、余裕で帰ってるわよ!
っていうか・・・もう、こんな時間だったんだー。
どうりで、お腹が空いてると思ったんだー。
なんて、一瞬頭によぎったけど、それは必死で消して・・・。
私は、朋哉(トモヤ)に、視線を戻した。
「帰ってると思うけど・・・。
それが、どうかした?って・・・。
ちょっと、待ってよ!!
最後まで、私の話、聞いて・・・ブフッ!!」
と最後は、顔面に当たった服に言葉は吸収され、ブサイクな音を立てて終わった。
だって、私が話してる最中なのに、朋哉(トモヤ)ったら、私を膝からおろすと、制服投げつけてくるんだよ。
それも、さっさと着ろ!!と、言わんばかりに。
さっきまで、ラブラブのいい感じだったのにさ、急にコロっと態度変えられちゃって、ついていけるわけないじゃない。
状況がつかめず、制服を握り締めながら、
「な・・・なに??」
と、ただ、何度もぼやいていた私。
それに対して、朋哉(トモヤ)は、音楽を消し、窓も閉めると、机の上に置いていた携帯を、ズボンのポケットに入れながら、私の方に体を向けた。
「お前を送りがてら、申し込むよ。」
「何を?」
「何って、結婚に決まってるだろ?」
「あー、結婚ね。」
わかった、わかった。
じゃ、早く着替えなきゃ。
そう思って、私は制服に右手をつっこんで・・・。
「えっ?」
私の手が止まる。
今・・・何言った??
私は冷静に、記憶を辿る。
朋哉(トモヤ)の言葉が、ドンドン頭の中に甦(ヨミガエ)ってきて・・・。
「けっ・・・こん?!」
と大絶叫した私。
「な・・・なに、考えてんのよ!
まだ、私17だよ。高校生だよ。
無理に決まってんじゃん!!」
朋哉(トモヤ)を、落ち着かせるつもりだった。
だけど、朋哉(トモヤ)よりも、私の方が、パニくってる。
朋哉(トモヤ)のとんでもない発言に、完全にオロオロしてる私をよそに、朋哉(トモヤ)はいたって普通。
っていうか、普通すぎて恐いくらいだった。
だって、「大丈夫だって。」というと、
「俺らの両親、メチャクチャ仲がいいだろ?
俺らの結婚は、生まれた時から望まれてたわけだし、反対なんてするわけねぇーよ。
だから、心配はいらねぇーって。」
と完全に、焦点がズレてる回答をしてくるんだもん。
私は、そういう事を言ってんじゃないのよ。
年を言ってるの!
学生だ。って言ってるの!!
そう言いたかったよ。
だけど・・・無理。
朋哉(トモヤ)にこんな言葉、届くわけないんだもん。
そんな事、全部承知で、朋哉(トモヤ)は結婚するといってるんだから、今更私が正論述べた所で、何も変わらない。
それなら、諦めて、朋哉(トモヤ)の声をトコトン聞こうと思いなおしたの。
私自身も、朋哉(トモヤ)と結婚したいと思ってるし・・・もう、どうにでもなれ。っていう考えも少し芽生えていた気がする・・・。
「ねぇー、全部聞かせて。」
「えっ?」
「朋哉(トモヤ)は、どこまで、考えてるの?
私と朋哉(トモヤ)が結婚するのは、いつ?
私は、あと・・・どうすればいいの?」
夢物語かもしれない。
でもね、それでもいいの。
私と朋哉(トモヤ)の夢。
この2人でしか叶えられない夢を、叶えようと思える事が幸せな気がしたから。
だから、この夢を叶える行為を、存分に楽しみたいと思った。
素直な気持ちで、楽しもうと・・・思ったの。
そんな私の気持ちが伝わったのか、朋哉(トモヤ)の顔に笑顔がこぼれ、ベッドに腰をおろして座った。
私を見る彼の瞳が、「こっちこいよ。」と言っているようで・・・。
私も、彼の隣に腰掛けた。
「子供たちと同じフィールドに立つには、俺の選手年齢に、影響してくるからな。
1年でも早く、子供は生まれてほしい。
だから、今すぐ結婚して、子供を受け入れられる環境を作りたい。
その上で、子供を作りたいと思ってる。」
今すぐ結婚・・・か。
高校側がどういうかはさておき、法律上は可能な話。
今、6月で、朋哉(トモヤ)は4月生まれだから、もう18歳で、問題はない。
未成年の結婚は、親の承諾がいるけど、さっき、朋哉(トモヤ)が言ったように、私たちの両親は、たぶん両手を叩いて喜ぶと思う。
ずっとずっと、夢だったみたいだからね。
私と朋哉(トモヤ)が結婚すること。
だって、私が尋人(ヒロト)とつきあった時、お母さんたら、ショックのあまり寝込んだんだから。
そして、私と朋哉(トモヤ)の気持ちも固まってる。
だったら、何も問題はないよね。
あとは・・・。
私は、結婚後の事。
つまり、高校卒業後の事を彼に聞いた。
もちろん、朋哉(トモヤ)はその事もちゃんと考えていた。
それを、聞いた上で、私は朋哉(トモヤ)との未来を決め、そのあと、朋哉(トモヤ)は私の両親に挨拶をした。
予想通り、お互いの両親は大喜びで、その日は、大宴会が開催された。
それから、あれよあれよと言う間に、事は進んでいった・・・。
「ピピー!!!」
突然聞こえた長い笛のコールで、私は我に返った。
やだ、私、あの2人のプレイ見てたら、朋哉(トモヤ)の夢思い出しちゃって、スッカリ、10年前にタイムスリップしちゃってた!!
あー、ヤバイヤバイ。
と焦りながら、私は、両頬をペチペチ叩く。
笛が鳴ったって事は、前半終了?
いつの間にか、そんなに時間経ってたんだ。
と気付き・・・。
あれ?そういえば、“静か”だなー。
と不思議に思いながら、隣においてあったベビーカーを、ソッと覗いた。
スヤスヤと寝息を立てて、眠っている7ケ月の娘を見て、ホッとするのと、心が和むのとが同時だった。
この子は、皐石(サツキ)っていうの。
女の子だから、さすがにサッカーはやらせるつもりはなかったんだけど、やっぱり、朋哉(トモヤ)の子供!
サッカーに興味があるみたいで、テレビも絵本もサッカー関係だよ。
「今は、女性のチームもあるんだから、いいんじゃねぇーの?」
と嬉しそうに言ってたけど、私が運動音痴なのに、あとの4人がサッカー選手って・・・考えただけでも、ゾゾゾー!!!
お願いだから、皐石(サツキ)は私に似て、運動音痴でいて。
一緒に文学に励もうよ!!と、今から勧誘してるんだけどね。
どうやら・・・無理っぽそう。
って、考えてたら、思わず、「はぁー。」とタメ息が出ちゃって。
で、また、ナイスタイミングで、私のタメ息と同時くらいに、グランドで笛が長く鳴り響いた。
気になって見てみると・・・後半の開始だったみたいで、子供たちがまた一斉に走り出した。
後半になると、子供たちのスタミナは、ぐんと減る。
ペース配分も考えなきゃいけないんだけど、いっても、これ、小学生大会だからね。
たくさんベンチには子供たちがいるから、スタミナ切れたら、即交代!って感じなの。
だけど、あの2人のスタミナは、無限だね。
だって、今、試合が始まったみたいな軽やかさとパワフルさで、バンバン相手ゴールに向かって駆けてるんだもん。
ホント、信じらんない。
と思うだけではおさまらず、私は、首を振りながら、思わず口にした。
「タフだなー。」
そうそう。私も、そう思ったのよ!!
で、今、そう言おうとしたのよねー。
・・・・。
・・・・。
「えっ?」
私は、驚いて声がした方に、勢いよく振り返った。
そうだよ!私、まだ、何も言ってないよ!
心で思った事が、口にする前に、言葉になってた。
誰なの??
そう思って見たんだけど・・・。
「・・・。」
またしても、何も言えなくなってしまった。
今度は、そこにいる人物の存在に驚いちゃって。
目を見開いて、さらには、指をさして口をパクパクしてる私の姿。
おもしろかったんだろうーな・・・。
彼ったら、「変な顔すんなよ。」と言いつつも、プププと吹き出し笑いをして、近付いてきた。
皐石(サツキ)のベビーカーの真横に辿り着いた彼は、顔を覗かせて、中にいる皐石(サツキ)を見るものの、眠っている事を確認すると、優しく前髪をかきあげて、起きない程度に皐石(サツキ)に触れた。
その時の彼の顔は、自然と優しい微笑になってた。
でも、眠っている皐石(サツキ)よりも、やっぱり、カレラが気になる様子。
「ピッピ、ピー!!」
と笛が鳴ると、自然と彼の視線は、グランドへと注がれた。
そして、彼の目に、“カレラ”が映る。
その瞬間、彼は、フッと笑うと、
「あいつら、最強じゃん!」
と嬉しそうに言った。
それを聞いた瞬間、私は、嬉しくて、胸が熱くなった。
朋哉(トモヤ)が逢いたかった、最強の2人が誕生した瞬間だったから。
でも・・・。
私は、再び現実に戻る。
感動に浸ってる、場合じゃなかった。
1つ・・・おかしな事がある!!
って事で、私は彼の方に体ごと向いて、ズバリ言ったの。
「なんで、朋哉(トモヤ)がいるの??」
って。
だって、今、朋哉(トモヤ)は、“イタリア”にいるはずなんだから!!
朋哉(トモヤ)は、高校卒業後、大手の会社に就職し、そこの実業団に入り、サッカーをした。
それと同時に、文学も大学卒業並みの能力を付けたいという本人の意志で、通信教育と夜間学校に通ってた。
そして、23歳の時、プロのサッカー選手になったの。
今、イタリアにいるのは、春にある世界大会の為。
彼は日本代表選手に選ばれ、今は、イタリアで2ケ月の強化合宿を行っている最中。
もちろん、彼もそれに、参加する為に、1ケ月前に、日本を出発した・・・はずなんだけど・・・。
今日帰ってくるなんて、聞いてないよ?
なんでいるの??
サッパリわからない私は、さらに首まで傾けて、朋哉(トモヤ)を見てた。
その姿に、朋哉(トモヤ)も試合を見たいのを我慢して、ある物をポケットから出してきた。
「コレ、撮りに来たんだよ。」
そして、言い終わると、今度はそれをグランドに向けて構えると、ファインダーを覗く。
コレって・・・デジカメ??
つまり、写真を撮る為に、合宿抜け出して、戻って来たの?
何それ!単なる親バカじゃない!!
呆れて、物が言えないよ!!
って思いつつ、私は言ったけどね。
いや・・・言うよりも、叫んでた。
「子供の写真撮る為に、合宿抜け出してイタリアから帰ってくるバカが、どこにいんのよ!!
写真なんて、私が撮るわよ!!」
ホント、朋哉(トモヤ)って、信じられない!!
腹が立つのと、呆れるのとが入り混じった感情って、こういう事をいうのね。
と思いながら、私は立ち上がると、朋哉(トモヤ)からデジカメをひったくろうとする。
でも、朋哉(トモヤ)は、私の殺気を感じて、素早くファインダーから顔を離すと、一歩下がって、デジカメを守る。
「貸してよ!!」
と怒り出す私に、朋哉(トモヤ)は・・・。
「何、そんなに怒ってんだよ。
っていうか、お前、何か、勘違いしてねぇーか?」
と言いながら、大笑い。
その朋哉(トモヤ)の大笑いに、眠っていた皐石(サツキ)が目を覚ます。
いないはずの大好きなパパが目の前にいたものだから、無理に起されたにも関わらず、皐石(サツキ)は超ご機嫌さんだった。
「パァーパァー!!」
と言って両手を上げて、足をバタバタする皐石(サツキ)に、朋哉(トモヤ)は、「しまった!!」って顔をして、私に手を合わす。
「悪い。俺、コレ撮んなきゃなんないなら、しばらく皐石(サツキ)、あやしててくんない?」
あのねぇー。
こうなった、皐石(サツキ)をあやすなんて、出来るわけないでしょ。
だだこねるに、決まってるじゃない!!
こうなったら、仕方ない・・・。
私は、ダメもとで、皐石(サツキ)の足をトントンと優しく同じリズムで叩くと、皐石(サツキ)が睡魔に襲われやすい曲を口づさんだ。
さすがに、あれだけ、興奮して起きたら、これは無理かと思ったんだけど、私は歌を歌う。
そして、目の前で、自分に背中を向けて、大好きなパパが写真を撮ってる。
その写真の相手は、遠くのグランドで、自分の大好きなサッカーをして走り回っているお兄ちゃんたち。
その状況が、皐石(サツキ)の心を穏やかにし、安心させたのか・・・。
奇跡的に皐石(サツキ)はまた、目を閉じ、スーッと眠りについた。
もう、平気だと感じた私は、歌をやめると、皐石(サツキ)の足を叩いていたリズムも止めた。
声が止まった事で、皐石(サツキ)の状況が予想できた朋哉(トモヤ)は、構えていたカメラを下におろし、こちらを見る。
「寝たのか?」
小声で言ってきたのが、ちょっと面白かったけど、ここで笑っちゃったら、また起きちゃいそうなんで、私はグッと堪えた。
皐石(サツキ)の側で話すのは危険と感じた私は、皐石(サツキ)から離れると、少し離れた位置に立っている朋哉(トモヤ)の側に歩み寄った。
この距離なら、小声で話す必要も無いしね。
という事で、私は普通の声で、朋哉(トモヤ)に声をかけた。
「あの状況で再び眠るなんて、軌跡よ。」
そう言って笑った私に、
「さすがは、結衣(ユイ)だな。」
と言ってくれるけど、
「おだてても、何も出ないわよ。」
なんて、かわいくない言葉を言っちゃう。
それには、朋哉(トモヤ)はクスっと笑うと、持っていたカメラをポケットにしまうと、私の腰に右腕を回してきて、私を自分の方に寄せる。
体から伝わる、朋哉(トモヤ)の温度。
1ケ月ぶりに、朋哉(トモヤ)の存在を感じて、私は、どんどん心が潤されていった。
私は嬉しくて、自然と朋哉(トモヤ)の背中と、お腹に手を回すと、まるで、抱っこちゃんみたいに、朋哉(トモヤ)に抱きついた。
私の顔が朋哉(トモヤ)の心臓辺りに埋もれてしまうくらい、私は彼にギューっと抱きついた。
そんな私の髪を、朋哉(トモヤ)は優しくなでてくれる。
こんな朋哉(トモヤ)の何気ない優しさが、私は大好きだった。
その心地よさに酔いしれて、ウットリしそうになるだけど・・・。
そうだ!真実を聞いておかないと!!
私は、ウットリとろけちゃってる自分の脳に、カツを入れて・・・。
体勢はこのままで、朋哉(トモヤ)に聞いた。
「勘違いって・・・どういう事?
ただ、写真を撮りに戻ってきたわけじゃないって・・・事だよね?
じゃ、何しに戻ってきたの?」
すると、朋哉(トモヤ)は、「実はさ・・・。」と口にして・・・笑った。
何、そのすっごい幸せそうな笑いは・・・。
気のせい・・だよね?
と思おうとしたんだけど、どうやら、そうではなかったみたい。
彼が口にする言葉を聞けば・・・彼の笑顔も納得がいったよ。
「監督に言われたんだよ。
2人のプレイの写真を撮って来いってな。」
「監督に??」
「そう。」と言った彼は、状況を詳しく語った。
「先日、ニュースでやってたから、耳にしたかもしれないけど・・・。
今度、日本代表選手を育成する為の、『育成施設』ができる。
そして、その『育成施設』は、スカウトされた者しか入れない。
スカウトされた者のみが、精進していく為に、入るところなんだ。
第一期生となるそいつらを、どうやって、スカウトするか。
そう悩んだお偉い方は、毎年行われている、この大会に目を付けた。
今回は、レベルが高いと評価されただけあって、昨日までの試合で、かなりいい人材が手に入ったと報告を受けてる。
だけど、監督は、大会が始まる前から、2人の選手にマトを当ててた。
それが・・・。」
「あの子たち・・・って事?」
朋哉(トモヤ)の答えを待ってられずに、言っちゃった。
少し、鼻息を荒くしながらね。
その態度に、朋哉(トモヤ)は口元を少し緩ませて笑いながら、「ああ。」と答えた。
「とはいえ、あいつらは、まだ、8歳と9歳のガキ。
技術面でもまだまだだし、なんせ、日本代表に登録する年に、達してないしな。
フィールドに立つには、あと7〜8年かかる。
それまでに、物になるか、ならないかは一種の賭けだけど、いえば、施設事態が、賭けみたいなもんだしな。
スポンサーも監督も、自分の目を信じて、スカウトしてるって所だろうな。」
話はわかった。
確かに、あの2人なら、声がかかってもおかしくないかも。
でも、なんで、朋哉(トモヤ)が写真を撮りにきてるの?
今、そんな事してる場合じゃないでしょ?
だって、朋哉(トモヤ)・・・。
「なんで、“日本代表のキャプテン”自ら来てんの?」
そうなの・・・。
朋哉(トモヤ)は、腕を認められて、キャプテンに抜擢された。
そんな人が、写真撮りって・・・。
しかも、息子だし・・・。
不思議でたまらない私は、
「ねぇー。まだ、何か、隠してるでしょ。
全部吐いちゃってよ。ラクになるよー。」
と朋哉(トモヤ)を半ば脅迫。
それには、朋哉(トモヤ)もウケちゃって、左手で口を抑えて、プププと笑ってた。
さすがに、皐石(サツキ)を起すわけには行かないと思ったみたいで、耐えてるみたいだけど・・・そんなに笑わなくてもいいじゃない!!と、ちょっと、すねる私。
口をとがらす私を見た彼は、
「わかった、わかった。
全部話すから。」
と慌ててなだめ、そして、私の髪をなでて機嫌を取ると話し出した。
「あいつらが、日の丸を背負う頃に、今の現役のメンバーが、チームにどれだけ残ってると思う?
想像してもわかるように、ごくわずかだ。
そこで、監督は、残る可能性が高い俺を選んだ。
俺に、未来の仲間を見極めてこい!ってな。」
「息子なのに?」
「フィールドでは、息子の前に、仲間だろ?」
「そりゃそうだけど・・・。」
正論だけど、でも、なんか納得いかない。
まだ、何か隠してるだろ?
と疑いの目で、シラーっと朋哉(トモヤ)を見る私。
私の目に、ちょっと、ギクっとした朋哉(トモヤ)は、
「お前には、敵(カナ)わないな・・・。」
とタメ息を付くと、彼が送り込まれた最大の理由を、やっと言ってくれた。
「写真は、口実で、監督は、俺にアイツラの本気のプレイを見て来いって言ったんだ。」
「本気のプレイって・・・どういうこと?」
「アイツラは、俺の前だと、今の力の半分も出せないからだ。」
「えっ?」
私はただ、驚く。
そして、彼は、私を自分の体にくっつけたまま、芝生に腰をおろした。
足を伸ばして、リラックスしながら、視線はグランドを見てた。
「遊びでサッカーをしてるうちは、俺に対して何も思わなかった。
でも、アイツラ自身が、ちゃんとチームに入って、サッカーをやり始め、試合をしたり、強い人たちと出会って、アイツラなりにサッカー界での俺のデカさを知ったはずだ。
そして、一選手として、俺のプレーも見るようになっただろう。
そこで、アイツラは、自然と俺を見る目が変わってしまった。」
「変わったって・・・どんな風に?」
「憧れ・・・かな?」
「・・・なるほど・・・。」
確かに、それはわかるかも。
朋哉(トモヤ)がいうように、最近お小遣いためて、朋哉(トモヤ)が載ってるスポーツ雑誌とか隠れて買ってるみたいだし、試合も録画して、ビデオじゃなくて、DVDに入れて、休みの日とか2人で見て、何かしら相談してるからね。
朋哉(トモヤ)の言う通り、ファンっぽくなっているのかもしれない。と納得した私。
「その、憧れというか、自分たちが目指してる選手にさ、例え父親でも、『見られてる!』って思ってみろよ!
誰だって、知らないうちに肩に力が入って、100%持ってる力なんて、出せないだろ?」
「確かに・・・。」
そりゃそうだ。と、頷く私に、朋哉(トモヤ)も続ける。
「実際、俺が見に行ったゲームの方が、負けが多い。
相手が強いとか、色々理由はあるにしても、それだけじゃないと思うんだ。
実際、今、アイツラのプレイ見て、俺は驚いてるからな。」
「そんなに、すごいの?」
「とんでもないね。
あれほどまでとは、正直思ってなかった。
この1ケ月で、アイツラまた、成長したな・・・。」
そして、嬉しそうに笑ってた。
朋哉(トモヤ)の心からの笑顔を見ていると、私もつられて笑顔になっちゃう。
「ねぇー。」
真剣な顔でプレイを見ている彼に、声をかけた私。
「ん?」
と目は離さないで、返事だけしてきた朋哉(トモヤ)に、私は聞いたんだー。
「それで、どうするの?
スカウトするの?」
その言葉に、朋哉(トモヤ)はやっと、私を見てくれた。
そして、ニッコリ笑うと、「ああ。」とハッキリと答えた。
「アイツラ2人が、そろって代表に選ばれる年齢に到達する年、丁度オリンピックがある。
8年後に開催されるオリンピック、大荒れになるぞ・・・。
今から、楽しみだよ。」
そう言って、目を輝かせている彼を見て、私も楽しみになってきちゃった。
8年後に3人が、同じフィールドに立つ事が・・・。
「夢・・・叶うといいね。」
彼にくっついて、そう囁いた私に、
「ああ。」
と答えた彼。
でも、そのあと、私の耳に口を近づけてきてね。
言ってくれたの。
「俺が、夢を抱き続けられるのは、結衣(ユイ)のおかげ。
アイツラを産んでくれて、ありがとな。」
「朋哉(トモヤ)・・・。」
そんな言葉、言われるなんて、思ってなかったから、嬉しくて朋哉(トモヤ)の顔を見ようと、顔を上げかけたんだけど、朋哉(トモヤ)がギューって抱きしめるから、身動き取れなくて。
あれ?って思ったんだけど、この締め付け方・・・わざとだ!と気付いた。
きっと、今は、恥ずかしくて、顔を見られたくない。と思っているのかもね。
だから、私の動きを封じてるのかもしれない。
それに気付いた私は、『仕方ない。大人しくしておこう。』と思いなおして、動くのをやめて、静かに朋哉(トモヤ)に抱きしめられてた。
でも、意外とそれからすぐに、朋哉(トモヤ)の腕は緩んだ。
なぜなら・・・。
「ピピピー!!!」
長い長い笛が鳴り響き、次の瞬間、グランドには、チームのベンチにいた子供たちや、あと、子供の親たちが、フィールドにドドドドドー!!と押し寄せてきた。
「優勝したな。」
朋哉(トモヤ)はそう言いながら、私を解放すると、前かがみになって、両ひじを両膝にそれぞれ置き、組んだ手に顎をのせる。
人が押し寄せて、ゴッチャゴチャで、誰か誰だかわからない状況なのに、横からこうやって朋哉(トモヤ)の目の動きを見ていると・・・一点から動かないのよね。
これって、まさか・・・。
「子供たちの場所、わかってるの?」
まさかね。
ここ、どれだけ離れてると思ってるの?
ありえないわよ。
って心で、全否定してたんだけど、
「ああ。わかるよ。」
とアッサリ肯定されてさ。
もちろん、「嘘だー!!」と否定したんだけど、
「嘘じゃねぇーよ。
ほら、あっこ!あそこにいんだろ?」
と指までさされた。
「えぇー。どこよ。」
「あっこ。」
「あっこって、どこ?」
「だから、あの黄色い帽子の女性の横の横。」
「黄色い帽子って・・・どれよ。」
そんな帽子すらも、見えない。
ちっとも、会話が成立しないもんだから、朋哉(トモヤ)がキレた。
「お前、わざと、ボケてんだろ!」
って怒られるけど、それはこっちのセリフ。
「ボケてないわよ!大真面目!!
大体、この距離で、そんなの見えてる朋哉(トモヤ)がおかしいのよ!
誰も、見えないわよ。
一体、どんな視力してんのよ!!」
って大声で言い切ったのに・・・。
「そうでも、ないぞ!」
と反対に切り替えされて。
「えっ?」
と私が驚いた時、朋哉(トモヤ)は、また前方を指さした。
「見てみろよ!“アイツラ”も、見えてんぞ。」
と言ったかと思ったら、スクっと立ち上がる。
私は、彼の手を追って、さした前方を見た。
彼がさしたのは、子供たち。
表彰式もほったらかして、荷物を抱えて、真っ直ぐにこっちに向かって走ってきてる2人。
「何、考えてんのよ!
あの子達は!!」
とビックリして、私も思わず立ち上がる。
でも、当の2人は、脱走してきた事なんて、何とも思ってないみたいで、片手をブンブン振りながら、全速力で走ってくる。
あれだけ走り回っていたのに、まだ、そんな力が残ってるの?
化け物だ・・・。と私は思ったりした。
で、朋哉(トモヤ)はというと、2人が走ってきてるのが、本当に嬉しかったみたいで、朋哉(トモヤ)にしては珍しく、両手を振ると、叫んだ。
「青(アオ)!宝(タカラ)!」
って。その叫び声で、2人も答えるように何かを叫んでたんだけど、さすがに走りながらのせいか、声がぶれて、聞き取りにくかった。
「聞こえねぇーよ!」
と叫ぶ朋哉(トモヤ)の言葉で私・・・1つ思い出したの。
10年前のあの時・・・。
私が最後にブルージュエルを使って、過去に戻った時。
朋哉(トモヤ)を無事生き返らせた時・・・。
あの時、過去から現在に戻る時、私、朋哉(トモヤ)に何かを言われたのよね。
でも、聞き取れなくて、何を言ったかわからなかったの。
ずっと、忘れてたけど・・・。
そういえば、あの時、朋哉(トモヤ)、なんて言ったの?
今の今まで忘れていたのに、気になりだすと、今すぐ答えって知りたくなっちゃうものなんだよね。
私もそうなっちゃって・・・。
朋哉(トモヤ)に今、聞いてみる事にしたの。
「ねぇー、朋哉(トモヤ)!
聞きたい事があるんだけど・・・。」
子供たちに、両手をフリフリしてる朋哉(トモヤ)に突然、そう切り出した私。
「ん?何?聞きたい事って?
なんだよ、そんな真剣な顔して・・・。
どうした?」
さっきまでと違って、ちょっと、真剣な顔で言ってきた私の態度に、朋哉(トモヤ)もちょっと、心配する。
そして、子供たちに振っていた手も止めると、私の方に体を向ける。
完全に聞く体勢になってくれた朋哉(トモヤ)に、私は素直に口を開いてた。
「10年前の事だけど・・・。
教室で、私が朋哉(トモヤ)にすがって、愛してるって言ったじゃない?」
「ああ。」
「あの時、朋哉(トモヤ)、何言ったの?」
「えっ?」
「強い光に包まれる時、朋哉(トモヤ)の声が聞こえなくなって・・・。
『生きて、私の所に戻ってきてね』って、私は言ったの。
それに対して朋哉(トモヤ)は、私になんて答えをくれたの?
覚えてる?」
期待半分、諦め半分だった。
だって、10年前の事だしね・・・・。
でも、朋哉(トモヤ)は、ちょっとだけ考えると、「そろそろ、話してもいいかな?」と言うと、私を見つめて言ったの。
「俺は、こう言ったんだ。
『俺は結衣(ユイ)の愛のおかげで、ちゃんと生き返るから安心しろ。』って。」
「えっ?」
と声を上げたあと、私はすぐに聞いた。
「それ・・・どういう事?」
確かに私は、朋哉(トモヤ)に『生きてかえってきてね。』と言った。
でも、あの世界の朋哉(トモヤ)は、自分が死んだなんて、知らなかったはず。
まして、私が生き返らせようとしてたなんて知るはずがないのに・・・。
なのに、この返事・・・。
まるで、自分が死ぬのがわかってるような・・・。
そんな風に思えてならない。
どういう事なの?
それに、これを話す前に、朋哉(トモヤ)言ったよね?
『そろそろ、話してもいいかな?』って・・・。
あれは、どういう意味なの?
頭は疑問でいっぱい。
そして、心は、答えが早く聞きたくて、私をせかせる。
心と頭のバランスが上手くとれなくなってしまった私は、変わりに行動を起してしまった。
左手を、朋哉(トモヤ)の腕にからませた。
どういうこと?わかるように教えて?
そんな思いが詰まった行動だった。
その行動に対して、朋哉(トモヤ)は、
「落ち着いて聞いてくれな。」
と言いながら、腕にからませていた私の手を取ると、手を握ってくれた。
「俺は、知ってたんだ。
ブルージュエルを使って、結衣(ユイ)と過去をいじり、尋人(ヒロト)を救えば、『俺が死ぬ』って事をね。」
「えっ?」
あまりの驚きに、私はつながっている手をビクンと動かした。
私の動揺が凄いと感じた朋哉(トモヤ)は、そのまま、腕をひっぱると、私をいつものように、両腕で包むように抱きしめてくれる。
これから、明かされる真実に、まだ私が動揺することがあるって事なんだよね。
だから、朋哉(トモヤ)は、私の気持ちが落ち着く、朋哉(トモヤ)の体温を感じさせようと、私を抱きしめてくれてるんだよね。
それを感じた私は、自分なりに落ち着こうと、大きく深呼吸をした。
そして・・・朋哉(トモヤ)に、「続けて・・・。」と先をお願いした。
私の申し出に、朋哉(トモヤ)は返事をせず、代わりに話を始めてくれた。
「結衣(ユイ)が話してくれた、ブルージュエルを使った世界だけど。
そこで、俺、結衣(ユイ)にこう言ったんだよな?
『自分では、ブルージュエルは光らなかった』って。」
私は、コクンと首を動かして返事をした。
その後で、朋哉(トモヤ)も続きをいう。
「あれ、嘘なんだ。」
「嘘?」
「そう。」と答えた朋哉(トモヤ)は、教室にいる私にブルージュエルを見せにくる前に、朋哉(トモヤ)に起っていた事を、初めて語った。
「ブルージュエルは、1度だけ輝いた。
俺は、その輝きで、あの石を見つけることができたんだ。
そして、その時、ブルージュエルには、文字が浮かんでた。」
「文字??」
「ああ。」
「なんて、書かれてたの?」
「それは・・・。」と口にした朋哉(トモヤ)は一旦、言葉を濁したけど、私にもう隠さないと決めた以上、言おうと思ったのかな?
いっぱく置いた後で、私を見つめて・・・口にした。
「『結衣(ユイ)に、愛されなければ、朋哉(トモヤ)は死ぬ』」
「えっ!」
私は・・・本気で驚いた!!
だって、そうでしょ。
今のどう考えたって、死の宣告じゃない!!
私は尋人(ヒロト)が、好きだったんだよ。
その私が、朋哉(トモヤ)を愛すなんて、普通ならありえない。
でも、今、朋哉(トモヤ)が言った話が本当で、ブルージュエルを使う代償が、本当にそれだったんだとしたら?
私は、ユックリと朋哉(トモヤ)に目をやった。
真っ直ぐに、私を見る朋哉(トモヤ)の瞳。
その純粋な瞳は、あの頃の瞳と何も変わってない気がした。
誰よりも、強い意志が宿るその瞳の中に、私は朋哉(トモヤ)の覚悟を見た気がした。
朋哉(トモヤ)は、何もかも承知の上で、ブルージュエルを使おうとした。
そして、初めから、尋人(ヒロト)を生きかえらせ、自分が変わりに死ぬ事を、受け入れていたんだ・・・。
その事実を知った時、私は・・・震える唇で彼に言っていた。
「なんで・・・。」
声がかすれて、上手く言葉にならなかった。
胸の中で、色んな思いがうずまいて、私は何をどう話して言いかさえ、わからなくなっていた。
動揺を隠しきれない私と違って、朋哉(トモヤ)は今の事実を話したあとでも、何も変わらなかった。
うわ言みたいに囁いた私に、「ん?」と優しく聞き返す余裕さえあった。
でも、頭の上から聞こえる、その朋哉(トモヤ)の落ち着いた声を聞いたら、私は冷静じゃいられなくなり、知らないうちに、朋哉(トモヤ)に向かって、渦巻いてた気持ちをぶつけてた。
「なんでよ!!」
「結衣(ユイ)?」
「どうして、自分の命を捨ててまで、尋人(ヒロト)を生き返らせようとしたの!
なんで、朋哉(トモヤ)は・・・。」
込み上げてくる感情で、一瞬言葉につまってしまった。
でも、私は、唾を飲み込んで、のどの調子を整えると、続きを口にした。
「なんで・・・すんなり私の犠牲になるの?
どうして、そんなに、尽くしてくれるの?」
私の為に、好きな気持ちを隠して身を引いた。
私の為に、好きでもない女性を抱き続けた。
そして、今度は、私の為に、死のうとした??
私は、どれだけ、朋哉(トモヤ)の人生を狂わせれば気が済むの?
私の存在は、朋哉(トモヤ)を苦しませるだけしかないの?
苦しくて、申し訳なくて、私は泣きそうになる。
でも・・・。
「そんなの決まってんだろ!」
という、朋哉(トモヤ)の声に、熱くなり始めていた私の目頭が沸騰を一時停止する。
私は、自然と朋哉(トモヤ)に目をやった。
そして、朋哉(トモヤ)は、いつもと変わらない様子で私を見ていて、いつもと変わらないトーンで口を開いた。
「結衣(ユイ)を愛してるから。
俺にとって、結衣(ユイ)以外、大事な物なんてないんだ。
だから、結衣(ユイ)が、笑顔を取り戻すなら、命なんていらないって思った。
俺は愛されなくていい。
でも、結衣(ユイ)は、愛されて、その愛で幸せになってほしいって。
そう思ったから、俺は、ブルージュエルを使う事にした。」
「朋哉(トモヤ)・・・。」
私は、我慢しきれずに泣いてしまった。
朋哉(トモヤ)が、私を想う気持ちがこんなに強かったなんて・・・。
私は、知らないうちに、朋哉(トモヤ)に、こんなに愛されていたなんて・・・。
切ないのと嬉しいのとが入り混じって、思わず泣いちゃった。
そして、朋哉(トモヤ)は、頬を濡らす水滴を指で、丁寧に拭ってくれた。
「だから、お前に、話したくなかったんだよ。」
朋哉(トモヤ)はそう言ったあと、私の顔をのぞき込み、優しく微笑んだ。
「結衣(ユイ)の事だから、自分を責めるだろ?
ごめんね。って、俺に謝るだろ?
悪いなんて、思わなくていいんだ。
尋人(ヒロト)を愛してるお前に、俺は、自分の気持ちを言う勇気がなかったんだ。
強引に奪う度胸もなければ、諦める事もできなかった。
そんな、中途半端な俺に与えられた選択が、たまたま、それだったって事なんだ。
俺に、勇気があれば、選択は違っていたはずだ。
命を代償にしなくていい選択も、あったかもしれない。
あの選択になったのは、俺のせいなんだ。
だから、結衣(ユイ)が気にすることは、何もない。」
「でも・・・。」
と言い返しそうになった私を、朋哉(トモヤ)は強引に抱きしめると、強く強く私を抱きしめた。
「俺は、結衣(ユイ)に感謝してるんだ。
結衣(ユイ)が、恐れずに、俺への気持ちを言ってくれたから。
だから、俺たちは過去に行く事もなかったし、俺は死なずに、こうして生きていられる。」
「朋哉(トモヤ)・・・。」
そして、私は朋哉(トモヤ)に抱きつきながら、言ったんだ。
「今の私は、朋哉(トモヤ)のためなら、命を代償にできるよ。」
って。10年経っちゃったけど、私も朋哉(トモヤ)と同じくらいの気持ちで、私は朋哉(トモヤ)を愛してるって、わかってほしかったから。
そして、それは、朋哉(トモヤ)に上手く伝わったみたいで、朋哉(トモヤ)は私をさらに抱きしめると、少し笑いながら言った。
「ありがと。俺を愛してくれて。」
そして、お互い見つめ合って、ここで、1ケ月ぶりのキス!!って、期待したのに・・・。
「とぉーちゃーん!!」
と近くでデッカイ声が聞こえたかと思ったら、
「ドカ!ドカ!」
と朋哉(トモヤ)はタックルされた。
私から強引にひっぺがされた朋哉(トモヤ)は、芝生に倒れこみ、そこには2人の戦士が乗っていた。
「ねぇーねぇー。
かぁーちゃんとの、ラブラブはいいからさー。
さっきの試合の俺、どうだった?
ねぇー、ねぇー!!」
「おい、宝(タカラ)!
弟のくせに厚かましいぞ!!
お前は、俺の後だ!!」
「ずりぃーよ!いつもいつも、青(アオ)は、兄ちゃん風、吹かしてさ!!
ズルズル!!」
と、こんな感じで喧嘩をおっぱじめた2人。
しかも、朋哉(トモヤ)のお腹の上で。
「ちょ・・・待て!!
お前ら、そっからどけよ!・・・って・・・うっ!!」
と苦しんでいた朋哉(トモヤ)だったんだけど、グランドから騒々しい音が聞こえて、顔をそちらに向けて・・・。
「おい・・・今、そんな争いしてる場合じゃねぇーぞ!!」
と言ったかと思ったら、子供たちを強引に体からおろし、立ち上がると、ベビーカーの固定を解除した。
「何?どうしたの?」
と聞く私に朋哉(トモヤ)は、顎を使って説明。
「追っ手だ!!」
「はい?」
何を言ってるの?と思って、彼がさしさグランドを見ると・・・。
「やっぱり、あれ、日本代表の桐谷朋哉(キリタニ トモヤ)だ!!」
「あの2人と、どういう関係?」
「っていうか、あの桐谷が、どうして、こんな所にいるんだ?」
「彼、今、イタリアじゃなかったか?」
「どっちにしても、大スクープだ!!
追えー!!」
という、すごい会話が聞こえ、そして、たくさんの人がこちらに向かって、猛ダッシュしてきてた。
「ここは、やっぱ・・・。」
と口にした私に、朋哉(トモヤ)はベビーカーをクルッと反対方向に向けると、サクっと1言。
「逃げるしかねぇー!!」
そして、子供たちにも逃げる事をうながし、一斉にダッシュを始めた。
「“あの”桐谷が、ベビーカーおして、逃げてるなんて・・・。
やだ・・・お腹痛ぁーい!!」
と走りながら大笑いの私に、家族みんなも大笑い。
私たちは、追われているにも関わらず、ニッコニコ。
それは、たぶん、愛に満ち溢れているから!
朋哉(トモヤ)の一途な愛が、今はこんなに強い愛になってる。
朋哉(トモヤ)の愛の深さもそうだけど、やっぱり、全ては、ブルージュエルの存在。
あの石は、私と朋哉(トモヤ)に革命を起した。
だから、私も朋哉(トモヤ)も願ってる。
私たちの最愛の子供たちが、成就する素敵な恋に出会えますように。
そんな願いを込めて、私たちは、子供たちに、それぞれ『青』『宝』『石』の字を刻んだ・・・。
ブルージュエルに逢えなくても、それぞれの心にある、自分だけのブルージュエルで幸せが訪れますように!と願いを込めて・・・。
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