目の前は真っ暗。
両手にある感触は、冷たいシーツ。
耳に聞こえるのは、私の声と彼の声。
そして、体に感じるのは、6ケ月前に感じた感触はもちろん、衝動も同じもの。
感じれば感じるほど、体が熱くなる。
体の芯が、どんどんほてってきて、私をこの上ない快楽へといざなう。
気持ちいいのと、安心するのとで、私は最高の気分になる。
激しく乱れた彼の体の動きが、徐々にゆるくなる。
気持ちが最高潮に達していた私も、彼の動きで、ほんの少し気持ちにゆとりがでてくる。
快感でいっぱいだった体にも頭にも、隙間があいてくる感じ。
しばらくして、私の体から彼のぬくもりが抜けた。
抜けた瞬間は、「あっ。」って思う。
でも、まだ彼の感触が残っているというか・・・まだ、そこに居る感じで、私はしばらく余韻に浸ってしまうの。
満たされた気持ちと、言葉では言い表せないくらいの安心をくれた彼に・・・。
そうさせてくれた時間に、私は浸ってしまう。
自然と、私はお腹に両手をあてて、そこにある命に心の中でいうの。
「今日も、幸せを感じれたね。」って。
そう思って、いつも、ハッとするのよ。
で、我に返った私は、お腹から手を離すと、両手で急いで『ある物』を取る。
それは、私の視界を奪っていた物。
目を隠す為に、まいていたタオルを、素早く取って、私は自分の瞳を開放する。
気分的には起き上がりたい所だけど、今は瞬時に行動が起こせないから、仕方なく、体は仰向けになったままなんだけど、頑張って頭を動かして、私は部屋中をくまなく見渡す。
だけど・・・。
「はぁ・・・・。」
私の求めていた物がない事を知ると、ため息をついてしまった。
またしても、逃した事にショックのあまり、私は手に握っていたタオルを、力なくベッドに置く。
そして、またお腹に手をあてる。
「今日も、間に合わなかったよ・・・。
あーあ・・・。」
とお腹の子供に向かって、愚痴を言ったりした。
ここは、冬真(トウマ)さんのマンション。
もともとは、お父さんである雪先生が独身の時に住んでいたマンションらしいんだけど、病院が10分足らずでいける距離という事もあって、冬真(トウマ)さんは実家には住まずに、ここに一人暮らしをしている。
そして、今、この部屋には誰もいない。
冬真(トウマ)さんは、どうしたかって?
もうじき、聞こえるはず・・・。
耳を澄ました私の元に、「ガタン。」と扉が閉まる音が聞こえた。
この部屋を出て、奥に行ったら、お風呂場がある。
冬真(トウマ)さんは、そこに入っていったの。
冬真(トウマ)さんは、私を抱いたあと、必ずすぐにリビングに行ってしまう。
そして、そこで、タバコを1本吸って、それからすぐにシャワーを浴びに行っちゃう。
それの早いこと。
シャワーがじゃなくて、私を抱き終えてから、リビングに行ってタバコを吸うまでが早いの。
さっきみたいに私が、ちょっと余韻に浸ってたりすると、もう冬真(トウマ)さんの姿を見ることはできないんだー。
私は、冬真(トウマ)さんに抱かれている時、彼がどんな顔で私を抱いているのか、もちろん見たことがない。
そして、私を抱いたあとの冬真(トウマ)さんの顔も・・・見たことがないの。
陸(リク)を失ってから、早いものでもう半年が過ぎた。
あの時は2月だったのに、今はもう8月になっていた。
世間は夏休みのせいか、朝11時のこの時間でも関係なく、外からは子供たちの声が聞こえていた。
気候も少し暖かくなり始めたせいもあって、締め切ってこういう事をしていると、いつも以上に体は汗でベトベトになる。
私は、さっき放置したタオルをつかむと、汗をふく。
そして、今度は腰に手をあてて、「よいしょ。」といいながらベッドに座った。
下に落としてあった大きなクッションに、手を伸ばしてそれを取ると、ベッドの壁と自分の背中との間に挟んで、私は体をもたれさせる。
お腹にいる赤ちゃんも順調で、今8ケ月に入ったところ。
とはいえ、意外と小さいお腹なんだよね。
でも、子供の体重は予想では、平均なみみたいだから、安心はしてるんだけど・・・。
楽な体勢になった私は、少し乱れた呼吸を整える為、意識した呼吸をする。
そうしながら、私は開いている扉の向こうに続くリビングを見てた。
すると、シャワーをあびて出てきた冬真(トウマ)さんが、ちょうどそこに現れた。
濡れた髪を乱暴に拭く。
そして、下はジーパンをはいて、上半身は裸で、その上に白のシャツを羽織って、ボタンは全開。
冬真(トウマ)さんは、私には背中を向けて、完全に私が見ている事に、気付かないフリをしてた。
立ったまま、またタバコを加えて、火をつける。
そして、窓の方に行くと、小窓を開けて、外に向かって煙を吐いた。
私に向けられている冬真(トウマ)さんの背中を見ていると、私はいつもみたいに、心が冷たくなるのを感じた。
陸(リク)の代わりにと、私にキスをくれたあの日。
あのあと、私は冬真(トウマ)さんに抱かれた。
それも、キスの時と全く一緒で、初めは私が彼にせまった。
陸(リク)とのセックスを彼に伝えた。
そしたら、キスと同じように彼はなぜか、完璧に陸(リク)になった。
模写といってもいいすぎじゃないくらい、彼は本当に陸(リク)そのものだった。
そんな彼に私は甘えて、寂しければ、陸(リク)が恋しくなれば、抱いてくれとせがんだ。
そして、陸(リク)を思い出し、生きる力を与えてもらってた。
だけど、私はいつの頃からか、陸(リク)として冬真(トウマ)さんに抱かれる事が、辛くなっている自分に気付いたの。
それは、冬真(トウマ)さんに申し訳ないとか、そういう事じゃなくて・・・。
自分でもよくわからないんだけど・・・。
私は、冬真(トウマ)さんに、触れてほしいと思うようになってた。
抱きしめてもらうのも、キスをされるのも・・・。
陸(リク)としてじゃなくて、冬真(トウマ)さんとして、してほしいって・・・。
冬真(トウマ)さんがするキスは、どんなんだろう?
冬真(トウマ)さんが抱くと、どんな気分になるんだろう?
いつの頃からか、私はそんな事を、彼に抱かれながら思うようになっていた。
だから、本当は、陸(リク)としての冬真(トウマ)さんにはもう・・・抱かれたくないの。
だけど、それは言えなくて・・・。
言えば、この関係は終わってしまう。
そう思うと・・・怖くて言えないの。
言えないから私は、自然と冬真(トウマ)さんに抱かれながら、陸(リク)じゃない冬真(トウマ)さんを探すようになってた。
そして、一つだけ、冬真(トウマ)さんが陸(リク)の真似ができない所がわかって。
私は、冬真(トウマ)さんに抱かれるたびに、それを必死で感じて、いつも幸せを感じてるの。
陸(リク)を思い出させてもらって、幸せを感じてるんじゃなくて、わずかに感じる冬真(トウマ)さんの『ぬくもり』を感じて、私はいつも幸せを感じてた。
そこまで、冬真(トウマ)さんを求めるのは、愛なのか、それとも心がわかりあっている人物だからなのか・・・。
私には、わからない。
わからないけど、言い出せないのは、冬真(トウマ)さんは私の事をそういう目で見ていないとわかっているから、言い出せないでいるの。
だって、冬真(トウマ)さんは、『普通』では、絶対に私には触れない。
私に触れるのは、陸(リク)の香水を付けている時だけ。
そして、私を抱いてくれるのは、香水をつけて、さらに目隠しをしなければ抱いてくれない。
それが、冬真(トウマ)さんに対して、私が一歩、踏み込めない原因の一つなの。
陸(リク)の身代わりとしてしか、私と接したくない・・・。
そう思われて気がして・・・。
それに、冬真(トウマ)さんは、私に自分を見せてくれない。
というより、今の彼は、絶対に無理してるはずなの。
今日も、当直明けで8時過ぎに帰って来たと思うんだけど、すぐに私に連絡をくれて、「来てもいいよ。」と言ってくれた。
私は、冬真(トウマ)さんに逢いたくて、逢いにきたの。
そして、冬真(トウマ)さんは私をいつもみたいに、陸(リク)になって抱いてくれた。
でも、それが、私には無理をしているように思えてしかたなかった。
冬真(トウマ)さんは、陸(リク)を失ってから、仕事以外は、ずっと私にかまってくれてる。
抱くだけじゃなくて、外に連れて行ってくれて、買い物や食事とかにも連れて行ってくれるし、赤ちゃんの検診にも必ず一緒に行ってくれる。
私は冬真(トウマ)さんに相談して、4月になった時に、学校に事情を話し、1年休学届けを出した。
だから、私は、ずーっと家にいるの。
なので、余計に冬真(トウマ)さんは、私に気を使ってくれて、相手をしてくれているのかもしれないけど・・・。
本当に、いつもいつも側にいてくれるの。
それで、思うのよ。
一体、いつ、休んでるの?って。
仕事の方も、外科医としても働くようになり、よく呼び出しがかかってるし、睡眠もほとんど取れていないように思える。
最近、顔色も悪いし、それにね・・・。
私は、リビングの中央にあるテーブルを見た。
その上にある『ある物』に、注目する。
それは、今さっき冬真(トウマ)さんが置いた灰皿。
タバコの吸殻が、山のよう。
吸うペースがすごいの。
今も、シャワーから戻ってきて、そんなに時間は経ってないのに、5本は吸ってるのよ。
ストレスがたまっているせいなのか、疲れがたまっているせいなのか、わからないけど、私は冬真(トウマ)さんの体が心配でしかたなかった。
だって、異常でしょ?
陸(リク)が生きていた頃の冬真(トウマ)さんを、詳しく知っているわけじゃないけど、タバコなんて吸ってたかな?って。
見たことなかったし、陸(リク)からも聞いた事がなかったから。
それに、もし吸っていたんだとしても、こんなにヘビースモーカーではなかったと思うのよね。
こんなになったのは、陸(リク)を失ってから?
冬真(トウマ)さんは、何を抱えて苦しんでるの?
それをね、ずっとずっと聞きたかったの。
でも、なかなか言うタイミングがみあたらなくて、抱かれたあとに言おう!って、いつもいつも思ってて・・・。
でも、私がうっとりしちゃっている間に、冬真(トウマ)さんは逃げちゃって、今日にいたるのよね・・・。
でも、もし、言えたとしても、言われる言葉はわかってるの。
冬真(トウマ)さんは、100%こう答えるはず。
「俺の事はいいから。」って・・・。
実は、陸(リク)が亡くなってから、冬真(トウマ)さんと会話らしい会話をしたことがない。といっても言いすぎじゃないくらい、私たちは会話をしてない。
というか、歩み寄っていないの。
陸(リク)がいた時は、いろいろ話したけど、今はなんでかわからないけど、冬真(トウマ)さんはあまり話さなくなった。
「赤ちゃんはどう?」とか、「匠(タクミ)くんどうしてるの?」とか、あとは、「由梨華(ユリカ)ちゃんは?」とか・・・。
話題は振ってくれるんだけど、話すのは私だけ。
ずーっと私がしゃべってて、冬真(トウマ)さんはそれを笑って聞いてる。
それで、私は私で、冬真(トウマ)さんのことを聞きたいから、聞くじゃない?
仕事の事とか、色々。
でも、冬真(トウマ)さんの話題になったら、いつもいうの。
「俺の事はいいから。」って、笑って答えられちゃうの。
そして、本当に自分の事は何も、語ってくれない。
まるで、入って来るなと言われているようで、私は胸が苦しくなるの。
どうして、そんなに苦しくなるかは・・・わからないんだけど。
最後のタバコを吸い終えた冬真(トウマ)さんは、またリビングからいなくなる。
だけど、今度はすぐに戻ってきて、私の元へと向かってくる。
手には、いつもの物を持っていた。
「いつも、先に使ってごめんね。
体、落ち着いたら、シャワー使っていいから。」
そう言って優しく笑いながら、私にいつものようにバスタオルをくれる。
「う・・・ん。」
と言いながら受け取った時、冬真(トウマ)さんの携帯電話が鳴った。
早々にタオルから手を離した冬真(トウマ)さんは、ベッドの横付けのテーブルに置いてある携帯の元へと駆けつけた。
「もしもし・・・。」
そう口にした冬真(トウマ)さんの顔を見れば、病院からだとわかった。
「わかった。軽い発作とは思うけど、充分注意しといて。
俺もすぐに戻るから。」
冬真(トウマ)さんはそう答えると、耳から携帯を離す。
そして、私の方を見て、「ごめん・・・俺、行かないと。」と言って、目を携帯に戻し電源を切った。
私は、側にあったバスローブを身にまとい、ゆっくりとベッドから降りる。
そして、冬真(トウマ)さんの側に近付いた。
「ねぇー、冬真(トウマ)さん。」
私の声に、ベッドに座りながら、上着のボタンをはめていた冬真(トウマ)さんは、手をうごかしつつ、顔だけをこちらに向けた。
「体、大丈夫なの?」
だって、昨日の朝からずっと寝てないんだよ。
それも、また今から仕事って・・・。
本気で心配したのに、冬真(トウマ)さんは笑いながら、「平気だよ。」と口にする。
「でも・・・。」
とくいさがるけど、やっぱり言われてしまった。
「俺の事は、気にしなくていいから。」
って。そして、服装を整えた冬真(トウマ)さんは座ったままで、立っている私のお腹に優しく触る。
「それより、麗美(レミ)ちゃんこそ、大丈夫なの?
もう少し、横になっていた方がいいんじゃない?
さっき、そうとうビックリしたのか、この子メチャクチャ動いてたみたいだから。」
そういって、私のお腹に向かって、「激しすぎてビックリしたか?」なんて言って笑ってる。
でも、それが・・・私をまた、悲しくさせる。
どうして、そらすの?
なんで、冬真(トウマ)さんを見せてくれないの?って・・・。
「冬真(トウマ)さん・・・。」
私は目で訴えたの。
真剣に答えてよって。
でも、冬真(トウマ)さんは気付かないフリをする。
「じゃ、俺行くよ・・・。」
そう言って立ち上がった冬真(トウマ)さんだったけど、一歩歩きかけて急に、その場でよろけた。
冬真(トウマ)さんの体が、壁に打ち付けられる音がした。
壁に抱きつくように、冬真(トウマ)さんは体の全部を壁にもたれさせた。
「冬真(トウマ)さん!」
私は驚いて、冬真(トウマ)さんの側に駆け寄った。
心配で彼の体に触れたの。
でも、すぐに冬真(トウマ)さんは、私の腕をつかんで、自分の体から離した。
「今・・・陸(リク)の香水つけてないから・・・。
俺に触れても、アイツを・・・感じられないから・・・。」
苦しいくせに、そんな事をいう冬真(トウマ)さんに、私は思わず叫んでしまった。
「何言ってるのよ、こんな時に!
私は、冬真(トウマ)さんが、心配なのよ!
陸(リク)としてのあなたじゃなくて、あなた自身を私は、心配してるの。
だから、あなたに触れてるんじゃない!」
必死で訴えた。
だけど、冬真(トウマ)さんは、私の手を強く押しやり、拒絶した。
「俺の事は、心配しなくていいから。
麗美(レミ)ちゃんは・・・俺を通して、陸(リク)を見てたらいいんだ。」
そう言ったあと、冬真(トウマ)さんは、つかんでいた私の手を完全に離した。
「どうして?
どうして、そんなに私を、遠ざけようとするの?
陸(リク)の身代わりに、冬真(トウマ)さんに抱かれてるから?
だから、私を軽蔑してるの?」
でも、冬真(トウマ)さんは何も答えなかった。
「ねぇー、答えてよ!」
冬真(トウマ)さんの腕をつかんで聞いた。
でも、冬真(トウマ)さんは下を向いたまま、何も言わなければ、顔も動かさない。
私は、少し変に思って、冬真(トウマ)さんの顔をのぞき込んだ。
顔色が真っ青。
額からは少し汗もかいてる。
「冬真(トウマ)さん?」
心配する私に、「平気・・・だって・・・。」と無理に笑う。
でも、そのまま下にしゃがみこんだ。
私も、冬真(トウマ)さんの側に座った。
心配そうに彼を見る私に、さらに彼は、「大丈夫だから。」とまた無理に笑う。
「ちょっと・・・立ちくらみしただけ。
タバコの吸いすぎかな?・・・反省しなきゃ。」
なんて言ってる。
私は、手に持っていたバスタオルで、冬真(トウマ)さんの額の汗をぬぐった。
こうやって、近くで冬真(トウマ)さんの顔を見るのは・・・半年ぶり。
冬真(トウマ)さんの肌に触れるのも・・・半年ぶり。
何もかもが久しぶりで、私の手も緊張で震えてしまう。
「触るな!」と拒否されるかも・・・。
と、思いながら不安をかくしつつ、私は冬真(トウマ)さんに触れていた。
一方冬真(トウマ)さんは、そんな私の手をつかむ。
あっ・・・。やっぱり、拒否される。
私はそう思って、少し悲しくなった時だった。
「麗美(レミ)ちゃんを、嫌いになるわけないだろ?」
冬真(トウマ)さんの突然の言葉に、私は「えっ?」と冬真(トウマ)さんを見た。
「陸(リク)の代わりを望んだのは、俺なんだから。
麗美(レミ)ちゃんが、後ろめたく思う事なんてないんだ。
まして、その事が原因で、俺が麗美(レミ)ちゃんを嫌うわけないだろ?」
「だったら、どうして、私を拒絶するの?
どうして、冬真(トウマ)さんを見せてくれないの?」
明らかに具合が悪い冬真(トウマ)さんに、今言う事じゃない。ってわかってた。
頭ではわかってたけど・・・気持ちにブレーキがきかなかったの。
どうしても、私は冬真(トウマ)さんの心が知りたかったから。
熱くなる私とは違って、冬真(トウマ)さんは、苦しいせいなのか、それとも気持ちが冷めているのかはわからないけど、すごく落ち着いた口調で答えをくれた。
「それは・・・必要ないからだよ。」
って。
「必要・・・ない?」
私は、冬真(トウマ)さんが言った言葉を復唱した。
でもね、全く自信はなかったの。
きっと、聞き間違いだって。
だって、そうでしょ?
必要ないなんて・・・そんなの、意味がわからないよ。
どうして、冬真(トウマ)さんを知る事が必要ないの?
だから、私は、「聞き間違いだよね?」って思いをこめて、冬真(トウマ)さんに目で訴えたの。
だけど、それに対して冬真(トウマ)さんがくれた答えは、私に現実を突きつけた。
「そう。必要ないんだ。」
最後の方まで、冷静に聞けなかった。
『そう。』って言葉を聞いた時点で、私はすぐさま冬真(トウマ)さんに言い返してた。
「なんで?なんでそんな事言うのよ!
必要ないわけないじゃない!
冬真(トウマ)さんを知る事が、必要ないなんて、そんなこと・・・。」
気持ちが高ぶっているのと、大声で叫んだせいで、私の心臓はかなり早く鼓動を打った。
ちょっと、呼吸が苦しくなった私は、胸をおさえながら、ユックリ呼吸をする。
途中で言葉を止めた私に、冬真(トウマ)さんは心配そうな顔で一瞬みたけど、私が冬真(トウマ)さんに教えてもらった呼吸をして、気持ちを落ち着かせ、うまく自分をコントロールしているのを感じて、少しホッとしたのか、深く息を吐いて、今度は自分自身を落ち着かせてた。
そして、私を、とても優しい瞳でみつめると、耳を疑うような言葉を言ったの。
「麗美(レミ)ちゃんは、俺を愛さなくていいから。」
その笑顔に、この言葉は、ハッキリ言ってミスマッチ。
ううん。ありえないって!!
もちろん、「えっ?」って拍子抜けの顔で、言っちゃった私。
だけど、冬真(トウマ)さんは、顔色一つ変えないで、そのまま。
とても優しい表情で、さらに告げたの。
「麗美(レミ)ちゃんは、陸(リク)を愛してたらいいだよ。
今までがそうだったように、これからも。
陸(リク)を愛して、その愛した陸(リク)の子を産んで育てる。
それでいいんだ。
俺を、愛す必要なんてない。
だから、俺を知る必要も、俺を心配する必要もないんだよ。
それは、麗美(レミ)ちゃんの人生において、無駄な事だから。」
何も言えなかった。
それは、冬真(トウマ)さんの言葉に納得したからでも、理解できなかったからでもない。
ビックリしたの・・・。
いや・・・ショックだった。といったほうが合ってるかもしれない。
そう・・・私は、ショックを受けた。
まるで、空高くから雷が直撃してきたような・・・そんなショックだった。
『無理に愛さなくていい』とかじゃなくて、初めから『愛さなくていい』と言われてる。
そのうえ、『自分を知る事は、無駄な事』だと言ってるんだよ・・・。
無駄って・・・。
そんなわけないじゃない。
私をこんなにも支えてくれている冬真(トウマ)さんを、知りたいって思って何が悪いの?
それが、無駄な事?
そんなわけない。
でも、冬真(トウマ)さんは、初めから無駄だと決め付けてる。
必要ない。そんなことしなくていいと・・・決め付けてる。
どうして、そんな事いうのよ。
いつも私の気持ちを最優先にしてくれていた冬真(トウマ)さんが、どうして決め付けるの?
なんで、私の意見を聞いてくれないのよ。
そんな思いはあった。
胸がいっぱいいっぱいになっちゃうくらい、あったの。
でもね、それよりも、私の胸を苦しくするくらい、のしかかっているものがあって・・・。
それは、『冬真(トウマ)さんは、それで平気だ』っていう事実だった。
私に自分を知ってほしい。
私に愛してほしい。
冬真(トウマ)さんが、そんな事、ほんの少しも望んでいないという事実。
それを突きつけられて、私はショックだった・・・のかもしれない。
何も言えないまま、私はその場で立ちつくした。
ただ、動いたのは、私の瞳から流れた涙だけだった。
だけど、冬真(トウマ)さんは、私の涙をぬぐってはくれなかった。
私には触れないように、私が握っていたバスタオルを、抜き取ると、それを広げて、私の頭から、バサっとかけた。
まるで、それで、拭いてくれといわんばかりに・・・。
仕方なく私は、素直にそのタオルの四隅を握って、涙を拭く。
私の姿に冬真(トウマ)さんは、「さてと・・・。」と口にすると、床につけていたお尻を上げた。
「じゃ、そろそろいくよ。
大介が待ってるから・・・。」
そういいながら、冬真(トウマ)さんは立ち上がる途中で体をとめると、前かがみの状態で、私のお腹にふれた。
香水をつけてなくても、冬真(トウマ)さんは私のお腹にはふれてくれる。
私に触れるよりも、赤ちゃんに触れたいのかな?
そして、今もなぜか触れる。
「じゃ、気をつけて帰るんだぞ。」
少し笑いながら冬真(トウマ)さんはそういうと、手を離し、かがんでいた腰を真っ直ぐにした。
完全に立ち上がった冬真(トウマ)さんは、今度は私を見る。
「送っていけなくてごめんね。
気をつけて帰って。あと・・・。」
というと、リビングへと向かう。
そして、テーブルの上から財布を取ると、中から一万円札を抜き取った。
「一人で歩いてて何かあったら困るから、おとなしくタクシーで帰るんだよ。」
といいながら、私にそれを差し出す。
「そんなにかかんないって。
それに、タクシーのお金ぐらいは、持ってるから気にしないで。」
と両手で拒否してみるけど、いつもの事ながら受け入れてはもらえず、強引にお金をにぎらされた。
「じゃーね。」
冬真(トウマ)さんは笑いながらそういうと、部屋から出て行こうとする。
その彼の腕を、私は素早く立ち上がって、つかんだ。
驚いた彼は、私の方に振り返る。
「一つ、聞きたいんだけど!!」
私の言葉に、ちょっと戸惑った冬真(トウマ)さんだけど、「ん・・・何?」としぶしぶ答えてくれた。
だから、私は、さっきから聞きたかった事を言ったの。
「そういえば、大介くん元気なの?」
って。実は、陸(リク)が亡くなってから、ずっとずっと気になってたの。
陸(リク)とあんな約束を交わした大介くんだけに、陸(リク)の死を聞かされて平気だったのかな?って。
でも、いえば、個人の病状を勝手に部外者に言うわけだから、いけないことじゃない。
絶対に、冬真(トウマ)さんは、聞いても言わないだろうな。って思っていたから、なかなか聞き出せなくて・・・。
でも、今ちょうど、大介くんの話になったから、「今だ!」って思ってね。
それで、聞いてみたんだけど・・・。
案の定、カッチリ型にはまった冬真(トウマ)さんの頭は、簡単には答えてくれなくて、
「なんで?」
と反対に聞かれた。
なので、仕方なく、こちらから話す事に。
私の話を黙って聞いていた冬真(トウマ)さんは、話し終えた私にまず、「なるほどね。」と言った。
そして、私の顔をみて、
「やっと、謎が解けたよ。」
と苦笑いをしたの。
もちろん、「謎って?」と聞く私に、冬真(トウマ)さんは、
「本当は、身内以外に大介の病状を言うのはいけないことなんだけど、今回は特別に・・・。」
と前置きをすると、大介くんの今の状況を教えてくれた。
「大介のやつさ、陸(リク)が死んでから、めっきり元気がなくてね。
食事もあまりとらないし、友達とも遊ばなくなった。
今は、エンジョイルームにも全く行ってないし、それより外にも屋上にも行かなくなって、ずっと、病室にこもってるんだ。
そのうえ、大介の病気は、やっぱり気の問題ってのもあって、生きる気力があるのと、ないとでは、全く進行性も違ってくる。
今は、アイツは後者なんだ。
だから、免疫力も低下してて、今までは弾き飛ばしていたものでも、発作として出てきてしまう。
それくらい、病状はあまりよくないんだ。」
「あんなに元気だったのに・・・。」
とつぶやいた私に、「だからさ。」と冬真(トウマ)さんは口にすると、少しだけ笑った。
「俺たちは、不思議だったんだよ。
確かに、大介は陸(リク)を慕っていたし、一番陸(リク)とも仲がよかった。
だから、意気消沈するのもわかる。
でも、異常すぎるから、一体なんなんだろうって不思議だったんだ。
大介の両親も、看護師も、もちろん俺も心当たりないしさ。
だけど、陸(リク)とそういう約束をしていたなら、生きる気力がなくなっても納得だな。」
冬真(トウマ)さんは、そういったあとで、「ありがとう。」と私に言った。
「何が?」
と聞く私に、冬真(トウマ)さんは優しく笑う。
「麗美(レミ)ちゃんのおかげで、大介を苦しみから救ってやれる。
本当に、ありがとうな。」
でもね、私は笑えなかったの。
確かに、これで、大介くんは、今の状態から精神的に救われて、そして体調もよくなってって、なるかもしれない。
でも、そうするのは、誰?
大介くんの精神的ケアーをするのは?
将来的に、大介くんの手術を行って、彼を救うのは誰なの?
そんなの・・・この世で一人しかいないよね。
そう思ったら、私はいたたまれなくなったの。
すでにリビングにまで歩いている冬真(トウマ)さんを追いかけた私は、彼の腕をつかまえる。
「麗美(レミ)・・・ちゃん?」
驚く冬真(トウマ)さんに、私は自分の思いをぶつけた。
「もう、止めて!」
って。だけど、冬真(トウマ)さんは、「何言ってるの?」と、おかしそうに笑うと私の手を自分の腕から離した。
「一体、どうしたの?
急に走ったりしたら、赤ちゃんによくないだろう?」
また、話をそらすの?
どうして、私の心を見てくれないの!
違う!本当は見えてるんでしょ。
見えてて、見ないようにしてる!
どうして!!!
そんな思いが一気に溢れてきて、私は言葉に詰まる。
悲鳴みたいな声を上げて泣いてしまった私に、冬真(トウマ)さんはやっぱり触れてはくれないけど、私をすごく心配の顔で見ていた。
「どうしたの?」
そんな優しい言葉をかけられたら、言えなかった言葉が一歩彼の元へと走り出てくれた。
「あなたが苦しむ姿を・・・もうみたいくないの。」
だけど、冬真(トウマ)さんは、「フッ。」と声を出して笑うと、
「苦しんでなんかいないよ。」
と明るい口調で答える。
でも、私は首を振って抵抗した。
「陸(リク)の代わり、代わりって・・・。
冬真(トウマ)さんは、冬真(トウマ)さんじゃない。
どうして、陸(リク)の全てを受け入れようとするの?
どうして、陸(リク)の意思を全て、引き継ごうとするの?
今の冬真(トウマ)さんは、自分を捨ててる。
冬真(トウマ)さんが・・・いないじゃない!」
私は・・・冬真(トウマ)さんに逢いたいのに!
本当は、この最後の言葉が言いたかった。
でも・・・言えなかった。
だって、冬真(トウマ)さんは、これだけ言っても、落ち着いた顔で聞いていて、眉すらもピクリとも動かさない。
全く動じないの。
まるで、「それがどうかした?」と言われているみたい。
「俺が、陸(リク)で何が悪い!」って・・・言われてるような・・・。
何も言わずに、体全体でそういう返事をする冬真(トウマ)さんに、私はたまらず聞いたの。
「冬真(トウマ)さんは、それでいいの?
これから先の長い人生を、陸(リク)として生きていく。
それで、いいの?」
だけど、冬真(トウマ)さんは、「もちろん。」と笑顔で答えた。
「俺の人生は、あの時に終わったんだ。
これからは、陸(リク)の人生を、俺が生きる。
だから、これでいいだ。
陸(リク)の代わりに、俺が大介の心のよりどころになってやって、それでいてアイツを絶対に治してやる。
そして、麗美(レミ)ちゃんもそう。
俺が、陸(リク)の代わりに、一生愛を注いであげるから。
お腹の子にも、陸(リク)が注げなかった愛をいっぱい注いであげる。
陸(リク)の代わりに、俺がみんなを幸せにするから。」
そして、冬真(トウマ)さんは歩き出し、玄関へと向かう。
だけど、私は、たまらず、冬真(トウマ)さんの背中に向かって叫んでた。
「嘘つき!!」
って。その言葉に、冬真(トウマ)さんは足を止める。
振り返りはしなかったけど、そのままで、私の声を聞いてた。
私は、冬真(トウマ)さんの背中に向かって言ったの。
「冬真(トウマ)さん、陸(リク)が死ぬ時言ったよね?
『俺がお前の分も生きてやる』って。
『お前として生きる』じゃなくて、『お前の分も』って言ったでしょ?。
それは、自分の人生と、陸(リク)の人生を生きるって事でしょ?
でも、今のあなたは、陸(リク)の人生しか生きてない。
陸(リク)の意思を尊重して、陸(リク)との約束を守る。っていうなら、ちゃんと守ってよ!
梅澤冬真としての人生も、ちゃんと生きて。」
黙って聞いていた冬真(トウマ)さんは、一瞬何も言わなかった。
でも、しばらくして、「じゃ。」とだけ言って、足を動かして、さらに玄関へと目指した。
それで、やめておけばよかったんだけど、私はもう止まらなくて、また彼の元に走って迫ろうとしたの。
「待ってよ!」
と口にして、冬真(トウマ)さんの腕をつかもうとした私の手が、冬真(トウマ)さんの腕に触れるものの、つかむどころか、スカっとなってしまって。
えっ?って思った瞬間、私の体は少し宙に浮いた。
走っていた私は勢い余って、足を滑らしてしまった。
「うわぁー。」
と叫びながら、私はとっさに思ったの。
このままフロアーにこけちゃって、それでいてお腹を打ったらどうなるの?って。
今、8ケ月に入ったところだから、早産になる?
でも、未熟児だし、助かるかはわからないよね。
って事は、この子は死んじゃうの?
陸(リク)の子供が・・・。
その時。この子が助からないかもしれないと思った時、私はとっさにこう思ったの。
『冬真(トウマ)さんの夢を叶えてあげられなくなっちゃう』って。
『そんなの、絶対嫌よ!!』って・・・。
陸(リク)の忘れ形見であるこの子をどうしても産みたいのに!って思いよりも、私は冬真(トウマ)さんの夢を選んでしまったの。
冬真(トウマ)さんはあの時、私に言ったように、この子を本当に愛情いっぱいに、ここまで守ってそして、大きくしてくれた。
だから、私は奇跡を起こさなきゃって。
冬真(トウマ)さんの愛で、生まれる軌跡を。
そして、冬真(トウマ)さんの夢を叶えてあげなきゃって。
でも・・・それも、叶わなくなる・・・。
そんな事を考えながら、あと数秒後に訪れる衝撃に私は覚悟した。
でも、次の瞬間、衝撃ではなくて、暖かい感触を私の体が感じた。
顔にくっついた暖かな物からは、半年前にかいだ香りがした。
とても懐かしくて、それでいて・・・とてもホッとする香りだった。
とっさに、私は、目をつぶってしまっていたから、目の前の物が、なんなのか見えてなかった。
でも、それは、見なくてもわかった。
目の前の暖かい物がなんなのか、その香りと感触でわかった私は、その物に両手を回して抱きついた。
「冬真(トウマ)さん・・・。」
そう口にしながら、私はゆっくりと瞳を開けた。
そして、私を抱きとめてくれたその腕は、私を強く抱きしめる。
「どこも、打ってない?」
私はただうなずいた。
私の体が、床に叩きつけられる前に、冬真(トウマ)さんが受け止めてくれたの。
あれだけ、私に触れるのを嫌がっていた冬真(トウマ)さんが、こうして守ってくれた事がうれしかったの。
それが、たとえ『私』じゃなくて、『赤ちゃん』を守ったんだとしても・・・。
それでも、嬉しかった。
「麗美(レミ)ちゃん・・・。」
冬真(トウマ)さんはそういうと、私をゆっくりと自分の胸から離す。
私の腕も、冬真(トウマ)さんの体から、離れてしまった。
「もう少し、気をつけないとダメだよ。」
そう言われて、また悲しくなった。
やっぱり、私の勘があたってたって・・・。
でも、私って、すぐに反発しちゃう性格でしょ?
陸(リク)に対してもそうだったけど・・・。
なぜか、冬真(トウマ)さんに対してもそうなっちゃって・・・。
私はまた、言っちゃったんだよね。
「わかってます!
私、一人の体じゃないって事でしょ!」
ツンケンしていう私に、冬真(トウマ)さんは、「そうじゃないよ。」と少し呆れた笑いをする。
「そうじゃ・・・ないって?」
それ以外ないでしょ?って思いながら、冬真(トウマ)さんを見る私。
すると、冬真(トウマ)さんは、今度は自分から私に触れてくれた。
肩まである私の髪に、ソッと触れた。
「赤ちゃんが早産として生まれたにしても、もしそれも無理で、死産になってしまったにしても、どちらにしても麗美(レミ)ちゃんの体に負担がかかってしまう。
それも、もちろん、心配なんだ。
でも、もし、赤ちゃんが、後者になってしまったら?
そうなれば、麗美(レミ)ちゃんが、精神的に受けるダメージが大き過ぎる。
陸(リク)を失った時よりも、さらに深い悲しみが麗美(レミ)ちゃんを襲う・・・。
そうなった時の麗美(レミ)ちゃんを、想像するだけで、俺は恐ろしくなるんだよ。」
「冬真(トウマ)・・・さん。」
ただ、彼を見つめる私に、冬真(トウマ)さんは髪に触れていた手を、今度は私の顔に移す。
冬真(トウマ)さんのぬくもりが、頬に感じる。
たまらず、私は冬真(トウマ)さんが触れている手に、自分の手を重ねる。
お互いの手が・・・ううん、体温が交じり合った。
陸(リク)じゃない冬真(トウマ)さんのぬくもりと、私のぬくもりが、久しぶりに重なった瞬間だった。
「もう、麗美(レミ)ちゃんの涙は、見たくないんだ。
あんな悲しい顔・・・あんな辛い思いを、二度とさせたくない。
麗美(レミ)ちゃんには、ずっと笑っていてほしいから・・・。」
そう言ったあと、冬真(トウマ)さんは、触れている私の手に反対の手を伸ばしてきた。
そして、そのまま、私を自分の胸に抱き寄せようとした。
だけど、急に、ピタっと冬真(トウマ)さんの体の動きが止まった。
かと思ったら、突然私から両手を離すと、
「だから・・・充分注意してね。」
とニッコリ笑うと、また立ち上がった。
「冬真(トウマ)さん!」
たまらず彼を呼び止める。
でも、冬真(トウマ)さんは何も言わずに、玄関へと向かう。
「今、何でやめたの?
どうして?なんで?」
もちろん、彼は答えてくれなかった。
黙って、靴を履く彼に、私は思ったの。
さっき、止めたのは、陸(リク)を気にしたから?
冬真(トウマ)として生きる事をやっぱり、したくないという事?
陸(リク)の香水をつけていない自分が、私を抱きしめるのには・・・抵抗があるという事?
そう思った私は、また彼に言っちゃったの。
「今の冬真(トウマ)さんを、陸(リク)は喜んでると思う?」
靴紐を結んでいた冬真(トウマ)さんの手が、一瞬止まったように見えた。
私は、続けた。
「きっと、陸(リク)は悲しんでると思・・・。」
そこまで言った時、
「麗美(レミ)ちゃんに、何がわかるんだよ!」
って声が飛んできた。
振り返って、私にそう叫んだのは冬真(トウマ)さん。
私は、聞きなれない冬真(トウマ)さんの言葉に、ただ見入るだけ。
そんな私に、冬真(トウマ)さんはさらなる言葉を投げてくる。
「梅澤冬真は、もういない。
俺の事は、葛城陸として見るんだ。」
「そんな事・・・できるわけないでしょ・・・。」
といいながら首を振るけど、「いいからそうするんだ!」と冬真(トウマ)さんは、少し大きな声で怒鳴った。
そして、私に背を向けると、冷たい声でこう言った。
「でないと、俺は、麗美(レミ)ちゃんの側に、いられなくなる。
俺が、必要なら。
俺と一緒にいたいと思うなら、俺を『陸(リク)』と思ってくれ。」
冬真(トウマ)さんはそういうと、立ち上がりこちらに振り向く。
「それじゃ・・・いってくるから。」
いつもの口調に戻った冬真(トウマ)さんは、そう言って出て行った。
私は、すぐにこう言った。
「怖かった・・・・。」
って。
さっきの冬真(トウマ)さんは・・・今まで見たことがない冬真(トウマ)さんだった。
いや・・・見たことはあった。
陸(リク)を失って、赤ちゃんを産もうかどうしようか、途方にくれていた時、冬真(トウマ)さんはさっきみたいな冷たい口調をしてたっけ。
でも、あの時とはまた・・・違う気がした。
今の言葉は、確かに乱暴で、冷ややかだったけど、冷たいとは違う。
どちらかといえば、飾らない言葉のような気がしたの。
そう思って、私は気付いた。
陸(リク)に対して、冬真(トウマ)さんが話していた口調に似てるな!って。
冬真(トウマ)さんは、陸(リク)以外の人には、私も含めてとても優しい物言いをする。
だけど、陸(リク)には、感情的な表現というか、思いをズケズケいうというか、ストレートな表現が多かった。
そして、さっきの冬真(トウマ)さんは、そうだった。
つまり、さっきの荒っぽい口調で言った言葉が、冬真(トウマ)さんの真意って事だと思う。
もしあれが、本当に冬真(トウマ)さんの心だったとしたら・・・。
あれは、どういう意味だったの?
冬真(トウマ)さんを陸(リク)と思わなきゃ、側にいられないなんて・・・。
それは、陸(リク)が、冬真(トウマ)さんに私の側に居るように望んだのは、陸(リク)の代わりとしていてやってくれと望んだから、陸(リク)と思わないならいる意味がないと言ってるの?
それとも、そうじゃなくて、もっと別の問題があるの?
たとえば、私が冬真(トウマ)さんを望み、そして一緒にいたらいけない何かが・・・。
わけがわからなかった。
頭がグッチャグチャになった。
でも、「もうわかんない」とか、「まー、いいや。」では、すませられなかった。
済ませちゃいけない気がしたの。
だって、この答えが、冬真(トウマ)さんの心を知る事になる。
そんな気がして、ならなかったから・・・。
私は、答えがみつからないとわかっていながらも、必死で考えてた。
いつもの喫茶店で、いつものミックスジュースを飲む。
でも、いつもと違うのは、私のこの重い気分と、あとは・・・目線??
私は、ある物をボーっと見ながら、ミックスジュースを引き上げてくれるストローを、力なく吸う。
二口ほど飲んで、口を離すと、「はぁー。」とため息までつく始末。
ずっと、黙って私の様子を見ていた由梨華(ユリカ)も、さすがにこれには突っ込みを入れる。
「一体、どうしたの?
さっきから、ボーっとしてるし、さらには、ため息まで、付いちゃってるし・・・。
っていうか・・・ため息つきたいのはこっちよ!!」
なんていいながら由梨華(ユリカ)は、さっきまでいじっていた携帯電話をテーブルに乱暴に置くと、コーヒーを飲む。
確か、由梨華(ユリカ)は、匠(タクミ)さんにメールしてたんじゃなかったっけ??
「ねぇー、なんで由梨華(ユリカ)がため息つきたいの?
匠(タクミ)さん、明日帰ってくるんじゃなかったの?」
とたまらず聞く私。
匠(タクミ)さんは、受験していた北海道の大学が受かり、この4月から北海道での生活がスタートした。
なんだけど、それと同じ時期に、もう一つスタートした物があってね。
それは、由梨華(ユリカ)との交際なの!
ちょっと・・・ビックリでしょ。
由梨華(ユリカ)は、雪先生はもちろんだけど、冬真(トウマ)さんにも惚れてたのにね。
陸(リク)が亡くなってから、由梨華(ユリカ)は私の家に、来る機会が増えたの。
心配してきてくれたり、大事な時期だからと、あまり外に出られない私のストレスがたまらないようにと、家の中で相手してくれたりね。
それで、ついつい帰りが遅くなると、匠(タクミ)さんが送ってくれたりとか・・・。
そういうのがきっかけで、つきあうようになったみたい。
でも、速攻遠距離だからね・・・ちょっと、かわいそうなんだけど。
だけど、匠(タクミ)さんは、1ケ月に1度は戻ってくるのよ。
由梨華(ユリカ)に逢いにね。
で、確か2日くらい前から夏休みに入ったから、明日戻ってくるって言っててね。
1ケ月くらいはこっちにいるような事言ってて、由梨華(ユリカ)は超ご機嫌だったんだけど・・・。
私は目の前の彼女を、改めて見る。
どうみても・・・ご機嫌では・・・ない。
見るからに、怒ってる感じ。
そして、その怒りは、まるで私に向けられている!と思ってしまうくらい・・・迫力があった。
「学校のレポートを、グループで作らないといけないから、それを仕上げてから戻るって!
1週間、帰るの遅らすから。っていうのよ!
もうー!!許せなぁーい!!」
完全に怒っている由梨華(ユリカ)。
これは・・・手に負えないと感じた私は、「それは、ひどいよね。」と、当たり障りのない答えをして、ジュースを飲む。
そして、また、私は、ある物を見るの。
私の視線を追った由梨華(ユリカ)は、「そういえばさー。」と口にすると、今度は私を責める。
「麗美(レミ)、さっきから、何を悩んでるの?
それに・・・。」
由梨華(ユリカ)はそういうと、指で私の見ている先の物体を指さした。
「その携帯って・・・冬真(トウマ)さんのじゃないの?」
私は、普通に「うん。」と答えた。
私が、さっきから熱い視線を送っている物とは・・・冬真(トウマ)さんの携帯電話なんだ。
冬真(トウマ)さんが部屋を出て行ったあと、私はずっとずっと考えていたの。
冬真(トウマ)さんの言った意味をね。
考えて考えて・・・さらに、もぉーっと考えてみたけど、答えはみつからなかった。
謎のままで、私は一時休戦しようとしてね、シャワーを浴びにいこうとして立ち上がったの。
そしたら、聞き覚えのある曲が流れてさ。
でも、よくよく考えたら、今ここでなるはずがない曲で、私はびっくりしちゃって!
その曲が流れている物を必死で探したら、フロアーの端っこの方に落ちていた。
なんで、こんな所に冬真(トウマ)さんの携帯が?って思ったの。
冬真(トウマ)さんは、ポケットに入れていたはずなのに!って。
でも、落ちていた場所を見て、謎が解けた。
携帯が落ちていた場所は、私が冬真(トウマ)さんに抱きとめられた場所に、すごく近かったの。
つまり、こけそうになった私を、とっさに受け止めた冬真(トウマ)さんが、そのままフロアーにしりもちをついちゃって、その時にポケットから落ちたみたい。
事のいきさつを、かいつまんで由梨華(ユリカ)に説明した私。
ざっと聞いた由梨華(ユリカ)は、コーヒーを飲むと、カップから口を離してすぐにこういう。
「で?その携帯にかかってきた電話っていうのは、冬真(トウマ)さんからだったんでしょ?」
私は、「うん。」と答える。
「なんて、言ってきたの?」
「家においていたならよかった。
病院にいて、電話もつかわないから、そのまま家に置いておいてくれたらいいから。
って、そういわれたの。」
私の答えに由梨華(ユリカ)ったら、「はぁ?」とすごい声をあげる。
そして、さらに、マヌケな顔をする。
「置いておけ!って言われたのに、なんで持ち歩いてんの?」
確かに・・・そうなんだよね・・・。
私は、ちょっとバツが悪くなる。
自分でも、よくわかんないのよ。
なんで、冬真(トウマ)さんの携帯を持ってきちゃったのか・・・。
家を出るときの冬真(トウマ)さんは、確かにいつもの冬真(トウマ)さんじゃなかった。
でもね、電話があったときの冬真(トウマ)さんは、いつもの冬真(トウマ)さんだったの。
だから、逢いづらいとか、気まずいとかはないんだけど・・・。
だけど、私は、明日じゃなくて、今日、冬真(トウマ)さんに逢いたかったの。
あの話題はできないかもしれないけど、それでもいい。
冬真(トウマ)さんに、無性に逢いたくてたまらないの。
そして・・・抱かれたい。
たとえ、陸(リク)としてでも・・・。
それでも、いいの。
冬真(トウマ)さんの気持ちが入ってなくても、それでも彼の体を感じたい・・・・。
わずかに感じる彼のぬくもりを、この肌で感じたい・・・。
そう思ってる自分がいた。
それで、仕事を終えた冬真(トウマ)さんが、携帯が家にない事を知れば、私に連絡をくれて、逢いにきてくれるんじゃないか?って・・・。
そんな安易な考えで、私は携帯を持ち出してきたの。
来たんだけど・・・連絡がないのよね。
もう、夕方の4時だよ。
冬真(トウマ)さんは、呼び出しがかかっただけなんだから、用事がすめば、すぐに返してもらえるはずなのに・・・。
昨日は一睡もしてないのに、まだ、病院で働いているの?
彼の体も心配で・・・私は、気が気じゃなかったの。
だから、由梨華(ユリカ)が言ってきた言葉にも、答えなかった。
由梨華(ユリカ)は、私の深刻な顔でなんとなく状況がわかったのかもしれない。
笑いをやめると、「ねぇー。」と急に真剣な声をだす。
それには、私も、「えっ?」といいながら、携帯から目を離して、由梨華(ユリカ)を見た。
「ずっと、麗美(レミ)に聞きたかったんだけど・・・。」
「何?」
改めてそういわれると・・・ちょっと、怖いんだけど・・・。
でもね、本当に由梨華(ユリカ)は、とてもいいにくそうに、ためらいながら口を開いた。
「いつまで、冬真(トウマ)さんと、今の関係を続けるの?」
私は、答えにつまった。
由梨華(ユリカ)と匠(タクミ)さんは、私と冬真(トウマ)さんの関係を知ってる。
知ってて、今まで、何も言わなかった。
お互いがそれを、生きる手段とするなら、何もいわない。と前に匠(タクミ)さんに言われたことがあった。
確かに。陸(リク)を失った時の私にとっては、冬真(トウマ)さんに抱かれる事で、生きる事が出来た。
だけど、今は・・・。
「わからないよ・・・。」
本当にわからないの。
このままでいいのかも、わからない。
そして、何より、自分がどうしたいのかも・・・わからない。
たまらず、下を向く私に、「ねぇー、麗美(レミ)。」と由梨華(ユリカ)は私の手をにぎってきた。
「わからない。って事は、麗美(レミ)の中で、冬真(トウマ)さんは陸(リク)先輩の代わりってだけじゃない。って事なんじゃないのかな?」
私は、由梨華(ユリカ)の言葉に何も言い返せなかった。
ただ、彼女の言葉を聞いていた。
「さっき、麗美(レミ)言ってたけど、冬真(トウマ)さんに逢いたい。
冬真(トウマ)さんを知りたい。って思うんだよね。
それって、立派な恋愛なんじゃないの?」
「れん・・・あい?」
「そう。」と彼女はうなずく。
「麗美(レミ)も自分の思いを、中途半端にぶつけたりしてないで、ハッキリさせなさいよ。」
「ハッキリって・・・どうやって。」
すると由梨華(ユリカ)は、自分の胸に手をあてた。
「外見で、目で見える冬真(トウマ)さんじゃなくて、ここにある冬真(トウマ)さんを見るの!
本当の冬真(トウマ)さんをね。」
「本当の・・・冬真(トウマ)さん?」
「そう。彼の心の中に入って、彼と本気で向き合うの。
そうしないと、いつまでたっても、このままだよ。
このまま進んだら、麗美(レミ)は間違いなく、苦しむ。
どんどん、冬真(トウマ)さんを求めてしまって。
でも、冬真(トウマ)さんの心がわからなくて・・・苦しんでしまう。
そんな気がするから・・・。
ねっ!勇気を出して、頑張って、トライしてみたら?」
確かに・・・由梨華(ユリカ)のいう通りかもしれない。
今でも、私はこんなに冬真(トウマ)さんの全てが、気になってしかたないのに、これ以上自分の中で、思いがふくらんできたら、きっと私は行き場を失ってしまう。
ここで、勇気を出して、当たってみるべきだと思った。
思ったんだけど、それをして、冬真(トウマ)さんを失ってしまう怖さもあったの。
だから、私は、「う・・・ん。」と、少し気が乗らない返事をしてしまった。
「もうっ!情けない声を出さないの!!」
と由梨華(ユリカ)は呆れながらそういうと、私の手をペシっと叩く。
「しっかり、しなさいよ!
そんなんじゃ、冬真(トウマ)さんだって、心見せてくれないよ!」
って叱られて、「う・・・ん。」とうなずく。
納得したけど、また気のない返事の私に、由梨華(ユリカ)も「しかたないなー。」と笑いながらため息を吐いた。
それから、しばらくして、由梨華(ユリカ)とお店を出た。
「家まで、送っていくよ!」と言ってくれた由梨華(ユリカ)に、
「少し風に当たって帰るよ。」
と答えて、私は今一人で歩いていた。
6時前だけど、夏だから、日は高くてまだ、そうとう明るかった。
人通りもそれなりであって、私は飛び出してくる子供とかに注意しながら歩いていたの。
その時、「麗美(レミ)っ!」と後ろから声がした。
私は、声のした方に振り返る。
そこには、さっき別れた由梨華(ユリカ)の姿が。
「何?どうしたの?」
と、こっちに走って向かってくる由梨華(ユリカ)に、私は声をかけた。
私の元に辿り着いた由梨華(ユリカ)は、息を切らせながら、カバンから封筒を出すと、それを差し出してきた。
「あさって、匠(タクミ)さんと映画に行くつもりで、取ったチケットなんだけど、匠(タクミ)さん来週まで帰ってこないから。
これ、冬真(トウマ)さんと行って来なよ!」
「いいよ、そんな・・・。」
とチケットを返す私に、「いいから!」と由梨華(ユリカ)は強引に私のカバンに入れた。
だけど・・・悪いしなー。と考えた私の頭に名案が。
「だったら、由梨華(ユリカ)と私で行こうよ!ねっ!」
でも、由梨華(ユリカ)は、「勘弁してよ!」と苦笑い。
「えー、なんでぇー!!」
と少しすねていうと・・・。
「だって、これ、思いっきり恋愛話の映画だよ。
二人で見て、愛を育ててどうするのよ!」
「別にいいじゃない!
二人で、うっとりしようよぉー!」
だけど、「いいから、冬真(トウマ)さんと行きなさい!!」と強引に言われて・・・私はしぶしぶ、「う・・・ん。」と答えた。
「また、そんな返事してぇー。」
と由梨華(ユリカ)は笑う。
私も、由梨華(ユリカ)の笑いにつられて、笑っちゃった。
その時、私の側をすごい勢いで走りさった子供の肩が、私のカバンとぶつかった。
私はそのせいで、少し後ろによろけてしまった。
「麗美(レミ)っ!」
由梨華(ユリカ)は私の腕をつかもうと、一歩踏み込んでくれたけど、届かなくて、私の体がバランスを崩す。
その時、偶然通りかかった中年の男の人が、私の体を支えてくれた。
「大丈夫ですか?」
でも、私は・・・。
「どうか、しましたか!!」
助けてくれたその人は、私の異常な状態に驚きの顔を見せた。
男の人の腕が、私の体に触れた途端、私の体にゾゾーっとものすごい冷気が走ったの。
そして、信じられないくらいの恐怖が私を襲い、何も考えられなくなった。
体の感覚は失い、ガタガタと震える。
そして何より、呼吸も苦しくなるし・・・怖い。
助けてくれた人の腕から飛び出した私は、その場でしゃがんで、ガタガタと震えた。
「どうしたんですか!!」
そして、彼がまた私に触れようと手を伸ばしてきた。
その時、「すみません。」と由梨華(ユリカ)が、その人と私の間に入ってくれた。
「怖い思いをして、取り乱しただけです。
本当にすみません。
それと、助けてくれて、ありがとうございました。」
彼女の配慮のおかげで、その人も「そうでしたか。」と答えると、「では。」と言って、気分を害することなく、その場を去っていった。
その人を見送った由梨華(ユリカ)は、私の肩に優しく触れ、私を抱きしめてくれた。
「もう、大丈夫だから・・・。気持ち、落ち着いた?」
私は、ただ首を縦に1回振った。
でも、まだ、手の震えが止まらない私は、由梨華(ユリカ)の手を探す。
それに気付いた彼女は、私の手を取ると、強く握ってくれた。
「ねぇー、麗美(レミ)・・・。」
由梨華(ユリカ)はそういうと、ゆっくりと口を開いた。
「これって・・・あの時のトラウマ?」
私は何も言えなかった。
だって、自分でも忘れていたんだもん。
男の人に触られたら、恐怖で震えちゃうなんて。
黒川に襲われたあの日、私は匠(タクミ)さんに触れられて、そのトラウマに気付いた。
でも、陸(リク)に触れられても全然平気で、そんな事、すっかり忘れてて。
っていうか、もう治ったと思ってた。
一時的なものだと思っていたから。
でも、今のことを考えると・・・治ってないって事?
「前に、匠(タクミ)さんから聞いた事はあったのよ。
麗美(レミ)に触れようとして、さっきみたいになったって。
それは、『あの事』があった直後だったからかな?って思ってたんだけど・・・。
今までも、何度かこういう事あったの?」
私は首を振った。
「わかんない・・・陸(リク)以外に触れられた事、なかったから。」
途切れながらそう答えた私に、由梨華(ユリカ)は「そっか。」と答えた。
でも、しばらくして、「ねぇー。」と言うと、私の顔を見る。
「今までも何度かあったと思うんだけど、冬真(トウマ)さんに触れられた事はあったでしょ?
その時は、どうだったの?」
だけど、私は即答する。
「だって、彼は陸(リク)の香水をつけてるでしょ。
それに、いつも目隠しだから・・・関係ないかも。」
でも、由梨華(ユリカ)は、「だから、そうじゃなくて!!」となぜかご立腹の様子。
「じゃー、なによ!」
と私も元気なったから・・・由梨華(ユリカ)に反論。
「香水をつけてない冬真(トウマ)さんに、抱きしめられたりした事あるんでしょ?
っていうか、今日、確かフロアーでこけそうになったのを、抱きとめてもらった。って言ってなかった?
確か、香水つけてないから、どうのこうのって言ってたよね?」
「あっ!!」
そこまで言われて気付いたよ。
そういえば、あの時の冬真(トウマ)さんは、香水をつけてなかった。
って事は、いえばさっきの人とか、匠(タクミ)さんと同じって事・・・。
じゃあ、どうして、平気だったの?
なんで??
私が、そう思っているって、顔つきでわかったのかな?
「なんでか、教えてあげよっか?」
と由梨華(ユリカ)は口を開く。
もちろん、その言葉に私は、「何で?教えて!」と食いついた。
その様子に、少し由梨華(ユリカ)は笑うと、私をみつめる。
「麗美(レミ)の中で、冬真(トウマ)さんが陸(リク)先輩と、同じ位置にいるからだよ。」
「同じ・・・位置?」
「そう。身代わりとかじゃなくてね。
冬真(トウマ)さんを一人の男として、麗美(レミ)が陸(リク)先輩に抱いてた思いと一緒の思いを彼に向けているから。
だから、冬真(トウマ)さんに触れられても、平気だったんだよ。
陸(リク)先輩に触れられて平気で、そして先輩を求めていたように、冬真(トウマ)さんに触れられても平気で、彼を求めてしまう。
そう・・・思わない?」
そういわれたら・・・そうなのかも?って思えた。
でも、それって・・・。
「私が・・・冬真(トウマ)さんを好きって・・・事?」
「違う?」
「・・・わかんない。」
私は由梨華(ユリカ)から、目をそらした。
本当に・・・わからないの。
好きなのかもしれない。
でも・・・。
「なんで、わかんないの?
何が、わかんない?」
由梨華(ユリカ)はとても優しい口調で、私にそういった。
だから、余計私は素直に彼女に言えたの。
「私は、陸(リク)としての冬真(トウマ)さんしか知らない気がするの。
冬真(トウマ)さんが、私をどう思ってるか。
それも気になるけど、それよりも・・・。
私は、冬真(トウマ)さんという人物の事を。
本当の彼を知らない気がして・・・。」
「だったら、見てきたら?
その目で、本当の冬真(トウマ)さんを見てきたらいいのよ。
彼に逢って、自分の思いをちゃんとぶつけて。
そしたら、彼も自分を見せてくれるんじゃないかな?」
由梨華(ユリカ)に言われたせいもあったと思う。
でも、今、私の体の全てが、訴えてたの。
冬真(トウマ)さんに、逢いたいって。
逢ってどうするのか。
彼に、なんていうのか。
そんな事は、わからなかった。
でも、今は、とにかく逢いたかったから。
だから、その気持ちに、正直になろうと思った。
「私・・・今から、冬真(トウマ)さんに逢いに行ってくる。
もしかしたら、家に帰ってるかもしれないから。」
私の言葉に由梨華(ユリカ)は、ニッコリ笑うと、「頑張れっ!」と言って私にエールを送ってくれた。
私は、すぐに冬真(トウマ)さんに逢いたくて、彼にもらったお金を使って、タクシーを走らせた。
彼が、マンションにいてくれると信じて走らせた。
顔を上げる。
冬真(トウマ)さんの部屋の窓を見る。
「まだ・・・帰ってないのかな?」
明かりはついてなかった。
でも、もしかしたら、眠っているのかもしれないし。
私は、そのまま建物の中に入ると、エレベーターに乗った。
11階へとそのエレベーターは、私を運ぶ。
冬真(トウマ)さんの部屋の前まで来て、私はドアノブに手をかけた。
ひっぱるけど、重い音をたてるだけ。
冬真(トウマ)さんは家にいるときは、無用心だけど、鍵をあけてる。
何も言わないけど、いつでも私が入れるようにしてくれているんだと思う。
とはいえ・・・。
私は、自分のカバンから、鍵を出した。
そう。冬真(トウマ)さんのマンションの鍵。
ここに来て、冬真(トウマ)さんがいなくても、困らないようにと、私に合鍵をくれた。
それに、今日みたいに急に呼び出しがかかると、先に冬真(トウマ)さんが家を出たりするっていうのもあってね。
鍵をもらってるの。
私は、それを使って鍵を開けて中に入った。
扉を開けて、玄関に入るけど、中は真っ暗。
私は、玄関の明かりをつける。
そして、靴を脱ぐ時に、周りをみた。
冬真(トウマ)さんが履いていった靴は、なかった。
「まだ、帰ってないのかー。」
そういいながらも、私はリビングへと進む。
壁にかけてある時計を見た。
もう、7時前。
だけど、このまま帰りたくない。
どうしても、冬真(トウマ)さんに逢いたい。
せめて声が聞けたらいいけど、携帯はここにあるわけだし・・・。
病院の冬真(トウマ)さんの部屋に、直接つながる電話番号も、一応教えてはもらっているけど、そこまでするほど、急用でもないから。
もうちょっとしたら、戻ってくるかもしれないから、待ってよう。
私は、そう思い、カバンを肩からおろす。
そして、リビングに明かりをつけて、とりあえず、ソファーに座ることにした。
部屋を出るときは気付かなかったんだけど、ソファーに冬真(トウマ)さんが、使っていたタオルがかけてあった。
シャワーを浴びて上がってきたとき、髪を拭いていたタオル。
ここにかけてたんだ。
私は、それを洗濯機に入れようとつかんだ。
その時、そのタオルから、冬真(トウマ)さんの香りが漂ってきた。
私は、立ち上がった体を、そのままソファーに座らせた。
そして、私は、無意識のうちに、そのタオルを自分の顔に押し当ててたの。
こうしていると、まるで、冬真(トウマ)さんに抱きしめてもらっているような感覚に陥った。
陸(リク)の香水の中、抱かれるよりも、こうして冬真(トウマ)さんを感じている方が、私に安らぎを与えてくれて、何より私を幸せにしてくれている事に気付いた。
そして、私は、その冬真(トウマ)さんの香りに、安心してしまって、知らないうちに、そのまま眠ってた。
夏とはいえ、何も着ないまま眠っていたせいで、もちろん、「くしゅん。」という声で目覚めた。
「あ・・・。私、眠ってたんだー。」
と言いながら、あたりを見るけど、もちろん冬真(トウマ)さんの姿はなかった。
「今・・・何時?」
目をこすりながら、時計に目をやって・・・。
「えっ?」
私の目は一気に大きくなった。
だって、信じられない時間なんだもん!
「うそでしょー!!」
だって、10時だよ。
いくら冬真(トウマ)さんの香りに安心したからって、寝すぎでしょう!
それに、これって・・・まずいよぉー!!
私は、恐々、カバンから携帯電話を取り出した。
音を消してたから、気付かなかったけど・・・着信4回ってなってる。
絶対これ、お母さんからだよぉー。
朝に出て行って、この時間まで連絡ナシは・・・ヤバイよね。
怖いけど、とりあえず、きっと留守電が入ってるはずだから、それを聞いて、怒っている感じを先にリサーチしておくか。
それで、自宅に電話をして、平謝りするしかないよね・・・。
なんて、思いながら私は、携帯をいじる。
案の定、メッセージが1件あった。
音がなり、メッセージが再生された。
「麗美(レミ)?お母さんだけど、どこにいるの?
連絡しても出ないから心配するじゃない。
心配で、由梨華(ユリカ)ちゃんに電話したのよ。
そしたら、冬真(トウマ)さんの所に行った。っていうから、安心はしてるけど・・・。
とりあえず、一度、連絡ちょうだいね。じゃーね。」
「はぁー。・・・よかった。」
これが、第一声。
由梨華(ユリカ)のおかげで、大噴火はしてなかったみたいで、助かったよ。
そして、私は、すぐにお母さんに連絡をした。
冬真(トウマ)さんはいないけど、どうしても今日話したいことがあるから、待ってる。って言ったの。
「明日にしなさい。」といわれるかと思ったけど、
「帰りが遅くなるようなら、そっちに泊めてもらうか、連絡してきなさい。
お母さんが、迎えにいくから。」
と言ってくれた。
私は、素直に、「ありがとう。」と答えて、電話を切ったの。
もちろん、由梨華(ユリカ)にも御礼のメールをした。
全てを終えて、私はまた壁時計を見る。
10時半になってる。
冬真(トウマ)さん・・・まだ、帰ってこないのかな?
逢いたいのと、彼の体が心配で私は、自分で自分の気持ちがコントロールできなくなってきた。
「ダメだっ!我慢できない!!」
私は、立ち上がると、部屋の電気を消して、マンションを出た。
そして、大道路に出て、タクシーをつかまえて、私は向かったの。
冬真(トウマ)さんがいる『場所』に・・・。
☆☆☆9章 END☆☆☆
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