2007/11/24


18    おまけ Part1 麗美の闇、冬真の祈り
午後の診療も終わり、私は、『ある科』へ訪れていたの。
そこで、最高の答えをもらった私は、ものすごい速さで、廊下を走っていた。
夕方5時を回っているのに、チラホラまだ、患者さんがいる廊下。
 
「あっ、麗美(レミ)先生。さようなら。」
 
そんな声を何回か聞いた。
 
「あー、お大事にぃー!!」
 
なんて声だけ出して、私は患者さんとすれ違った。
悪いけど、顔なんて見てる余裕はないです。
今はそれどころじゃないのよ!
この胸の中で込み上げている思いを早く・・・。
早く、『彼』に言いたいんだから!!
という事で、全速力で突っ走った私の元に、やっとゴールが見えてきた。
 
「やっと・・・ついた。」
 
意外と距離があって、少し息が上がってる私は、扉の前に立つと、少し前かがみになりながら、呼吸を整えた。
 
「ふぅー・・・ちょっと、落ち着いたかな・・・。」
 
とひとり言をいいながら、ウキウキと踊る胸を落ち着かせ、私は扉をノックした。
 
「はい。」
 
その声を聞いただけで、扉を勢いよく開けて、彼に飛びつきたくなるくらいの、私の胸の高鳴り。
だけど、ここは、冬真(トウマ)さんの医局じゃなくて、冬真(トウマ)さんの診察室だもん。
患者さんや、看護士さんがいるのが当たり前なんだから。
ということで・・・。
 
「落ち着け私。耐えるんだ私。」
 
とブツブツ言いながら自分に言い聞かせて。
私は、また、「フゥー・・・。」と息を吐いて、気持ちを落ち着かせると、扉をユックリと開けた。
まず、目の前に広がっている光景を見て私は、こう思った。
「よかったー。我慢して。」って。
だって、冬真(トウマ)さんは、看護士さんとお話をしてるんだもん。
 
「では、ご家族の方への手術の説明は、明日の10時からと、お伝えしておいてよろしいですか?」
 
「ああ、よろしく頼むよ。
それから、悪いけど、今日中に、そのクランケのカルテと資料を、右京に持ってくるように、連絡しておいてくれないかな?」
 
いつになく優しい物言いの冬真(トウマ)さんの言葉に、「わかりました。」と答えた看護士さんは、扉の横に立っている私の姿に気付いた。
私の姿を見るなり、「お疲れ様です。」と笑顔で礼をくれる彼女。
私も、彼女の笑顔につられて、
 
「お疲れ様です。」
 
と笑顔で返した。
 
「それでは、私はこれで。」
 
看護士はそういうと、私にすれ違いざまにまた、軽く会釈すると、部屋を出て行った。
彼女が手を離したドアを、私がしっかりと最後まで閉める。
そんな私に、冬真(トウマ)さんは、開いているカルテに書き込みながら、話しかけてきた。
 
「それで?どうかしたのか?」
 
って、なんて、ノンキな声に言葉?
私の心はこんなにも、荒波だというのに!!
だけど、まだよ!
まだ、気持ちを開放するわけにはいかない!!
って事で、溢れ出す思いを必死で抑える私。
 
「ねぇー、ロックしてよ。」
 
扉をキッチリ閉めた上で、振り返り彼にそう頼んだ私。
もちろん、「えっ?」と言った彼は、手を止めると私を見る。
私が言った、『ロック』ってのは、その名の通り、鍵。
つまり、この診療室自体に鍵を閉めて、入って来れないようにするって事。
この部屋は、患者が入ってくる、さっき私や看護士が使った扉と、もう一つ、入り口がある。
丁度、冬真(トウマ)さんがいる場所の少し奥にあるの。
冬真(トウマ)さんが配属している第三外科は、主に心臓を扱う所で、診察室は6室ある。
その6室を廊下でつなげているのが、冬真(トウマ)さんの側にある扉。
つまり、そこから出ると、ちょっとした通路があって、そこを通れば、6つの部屋を簡単に行き来できるってわけ。
普段は、そこから看護士や他の医師が入ってこれるように、もちろん鍵はかかっていない。
でも、誰にも聞かれたくない話をする場合があって。
とくに、この病院は、著名人もくるから、患者情報は絶対秘密で。
だから、そういう特別な人の為に、医師の持っているリモコンで簡単にロックをかける事が出来て、完璧な密室にする事ができるの。
さらに、すごいのが、ロックをかけると、自動的に、防音装置が働き、声が全く外に漏れなくなる。
どれだけ、情報を守る体制を整えてるの?って感じだけど。
でも、この徹底ぶりが、好評だったりする。
もちろん、私は今から、すごい情報を冬真(トウマ)さんに言う・・・ってわけじゃないのよ。
ある意味、すごい情報ではあるけど、でも、聞かれてもかまわない情報。
っていうか、聞かせたい情報?
だって、自慢したいから!!
じゃあ、なんで、ロックをかけるか。って?
そんなの決まってるでしょ?
誰も入ってきてほしくないから。
 
「ねぇー、早くロックしてよ。」
 
我慢の限界に来た私は、たまらず、駄々っ子みたいな口調で彼にそう言った。
その姿に、
 
「なんか、よくわかんねぇーけど、はいはい。」
 
と面倒くさそうに言った彼は、ポケットからリモコンを出すと、ロックをかけた。
カシャという音が、2回聞こえた。
 
「ほら、かけたぞ。って、いったい、なんなんだって・・・うわっ!」
 
冬真(トウマ)さんの叫び声のあと、彼の手から落ちたボールペンが、床に転がる音が聞こえた。
そしてあと、冬真(トウマ)さんが座っているイスが、ギギィーとすごいきしみ音を立てた。
 
「いきなり・・・なんだよ。」
 
突然彼に抱きついて、強くしがみつく私に、わけがわからない彼はちょっと怒ってる?
でも、そんな事もどうでもよくなっちゃうくらい、私の気持ちは上がる上がる。
抑えていた留め金が宇宙の果てまで飛んでっちゃったので、私の気持ちは溢れ出す。
 
「聞いて、冬真(トウマ)さん!やったのぉー!すごいのぉー!!」
 
冬真(トウマ)さんの耳元で大声でそう叫んで、彼の上に乗っかりながら暴れる私に、
 
「わかった、わかったから、ちょっと落ち着けよ。」
 
とすっごい迷惑な顔で言われた。
確かにテンション高すぎなのはわかる。
でもね、ハイテンションにもなるって。
だって、すっごい事なんだもん!
って事で、鎮まるどころかさらに、私は冬真(トウマ)さんに飛びつくと、
 
「聞いてぇー!!」
 
と叫びまくる。
よっぱらいみたいに、はしゃぐ私に、冬真(トウマ)さんもいい加減諦めたのか、
 
「はいはい、なんでも聞くから。
さっさと言えよ。
そのハイテンションの理由は何?」
 
しかめっ面で、面倒くさそうに、そしてさらに、いい加減に軽くそう言った冬真(トウマ)さんに、私はとうとう爆弾発言をしちゃったの!
 
「できたのぉー!!」
 
そう言って喜ぶ私だけど、「へっ?」と気の抜けた声を上げた冬真(トウマ)さん。
そして、さらに、
 
「何が・・・できたんだ?」
 
と不思議そう。
ホント、こういう時だけ鈍感なんだから!
っていうより、頭の回転が止まったのかもしれないね。
ビックリし過ぎて!!
まー、いつもの私なら、仕返しよ!って事で、じらして、なかなか教えてあげないんだけど、今日はそうは言ってられません!
だってだってぇー、早く言いたいんだもん。
もう、これ以上、我慢でっきませぇーん!!
って事で、早々に、告白しちゃいまぁーす!!
抱きついていた体を少し離して、冬真(トウマ)さんを見下ろした私に、冬真(トウマ)さんも私の口から出る言葉を待つ。
その目は、「もしかして?」ってオーラを、私に送ってた。
 
「冬真(トウマ)さんの赤ちゃん!」
 
そう口にしたら、ダメだ。
我慢できなぁーい!!
って事で、そのまま彼の唇を襲っちゃった。
襲って襲って襲いまくって。
そしたら、3回目で、今度は冬真(トウマ)さんが襲ってきてくれた!
舌が絡む音。
唾液が混じりあう音。
2人の呼吸が乱れてるのがわかる、激しい吐息。
全てが、私の心をつかみ、しびれるような感覚をくれた。
呼吸もあまり出来ないせいか、自然と私の体から力が抜けた。
それを感じた冬真(トウマ)さんは、私から唇を離す。
離した瞬間、後ろに体がのけぞる私の背中を抑えて、自分の胸へと私を倒してくれた。
私の目の前に、白衣に包まれた冬真(トウマ)さんの胸があった。
呼吸を乱しながら、この胸に触れられて、少しホッとした私は、ぶらんと下がっていた両腕を彼の背中に回して、さらに彼にくっついた。
そんな私の髪に彼は触れると、自分の左頬を私の左頬にくっつけてきた。
彼の温度も上昇してるけど、私よりは断然熱くないから、のぼせ上がった私には、適度に気持ちよかった。
たまらず、うっとりしちゃう私の耳に、彼のこんな言葉が届く。
 
「そっか・・・やったな。」
 
言葉はいたって冷静。
だけど、声質でわかる。
今まで、色んな感情の冬真(トウマ)さんを見てきたんだもん。
些細な声の変化にだって、冬真(トウマ)さんが考えている事がわかるくらいにまで、私は成長したんだから!
だから、わかる。
今、冬真(トウマ)さんの体の中に、嬉しいって感情が、どれだけあるか。
イヤってくらいわかったよ。
だから、彼の言葉に対して、文句も不満も言わないの。
もっともっと、嬉しさを分かち合いたいから。
私は、彼にもっともっと嬉しさを話した。
 
「うん。やったよぉー。すごいでしょー。ビックリでしょぉー。」
 
すっごい笑顔でそう言った私に、固かった彼の顔にも笑顔が出てきた。
 
「お前・・・喜びすぎだって。」
 
って言ってる冬真(トウマ)さんも、顔から喜びがにじみ出てるよ。
といいたいけど、言わないわよぉー。
だって、まだまだ分かち合いたいから。
だから、私はもっと、自分の思いを冬真(トウマ)さんにぶつけたの。
 
「だって、すっごくすっごく嬉しいんだもん!
でも、嬉しいけど・・・。」
 
そう口にした途端、私は急に次の言葉が言えなくなった。
と同時に、さっきまでの、テンションも、しぼんじゃうように、シューっと低下していった。
その様子に、冬真(トウマ)さんも、「どうかしたか?」と聞いてきてくれた。
だから、私は、続きを冬真(トウマ)さんに言ったの。
 
「それと同じくらい、信じられないの。
これは夢なんじゃないか?って・・・。
すごく不安なの・・・。」
 
そう言った私は、冬真(トウマ)さんの胸に触れていた顔を上げると、彼の顔に自分の顔を近付けた。
そして、ここに来た本当の理由を口にしたの。
 
「冬真(トウマ)さんが私にわからせて。
これは、夢じゃないよって。
現実だと・・・。
体で教えてほしいの。お願い・・・。」
 
そう言って彼に軽いキスをした私。
そう。私が来たのは、これが理由。
彼が家に帰ってくるまで、夢か現実か、不安な気持ちのままいるなんてできなかった。
いつも私は、冬真(トウマ)さんに抱かれながら、『この瞬間、私は生きてる。』と実感させられてるから。
夢であんなに満たされたり気持ちよくなることはないもん。
私が現実を生きてる証。
だから、今、この瞬間に、冬真(トウマ)さんに抱かれたかったの。
抱かれて、いつもみたいな気持ちになったら、これは夢じゃない。
現実なんだと実感できる。
そんな気がしたから。
だから、冬真(トウマ)さん・・・お願い。
そう強く思ったせいかな。
彼の背中に回している腕に、自然と力が入った。
それを感じた彼は、「わかった。」といつになく、優しい声で言ってくれたかと思ったら・・・やっぱり、ちょっと意地悪なエロ冬真(トウマ)になっちゃった。
 
「その代わり、このままやるぞ。」
 
そう言って私の腰に手を回した冬真(トウマ)さんは、「よっ。」と言いながら、私を完全に自分の膝の上に、向かい合わせで座らせた。
 
「力抜けよ。」
 
半分笑いながらそう言った冬真(トウマ)さんは、優しい手つきで私をどんどん熱くさせた。
そして、あっという間に、私の中に入ってきた。
もちろん、普通にベッドで抱かれるよりも、感じすぎて声もいっぱい出ちゃった。
でも、防音がついてるから外に漏れないし。
それに、彼に教えられて、今は座位も実はへっちゃらになった。
というより・・・結構好きになった。
確かに、未だに抵抗はあるのよ。
やる前はね。
でも、しかけちゃえば、快適というか・・・最高??
だけど、たぶん、私が思うに、冬真(トウマ)さんがうまいんだと思う。
だって、私、ホント彼の言う通りにできない悪い生徒なの。
力入れるな。って言われても恐さと緊張から、力入っちゃうし。
でも、それでも、苦痛を苦痛のまま終わらせずに、快感に変えて、最後は快楽にまでしちゃう冬真(トウマ)さん。
さすがというか、アッパレでしょ?
ホントに、彼のエッチは・・・最高に幸せになる。
そして、今も、私は、とぉーっても、最高の気分になってた。
少し、はだけた彼の上着を強く握りながら、私は彼の胸にしがみつき、顔は彼の肩辺りに押し当てる。
 
「やっ・・・もう、動かさないで・・・いっちゃう・・・。」
 
信じられない快感に体は、ビクンビクン反応して、冬真(トウマ)さんが居る場所は、まるで息づいてるみたいに、脈打ってた。
いつになく感じる声を上げる私に、冬真(トウマ)さんはちょっと楽しそう。
 
「何、我慢してんだよ。
俺を感じたいんだろ?
現実だと、身を持って知りたいんだろ?
だったら、イケよ。
俺の愛で、思いっきり、イケ・・・。」
 
そう言って笑った冬真(トウマ)さんは、伏せていた私の顔を強引に自分の方に起き上がらせると、いやらしくて、ねっとりとしたキスをしてきた。
そんな、気が変になるようなキスしないでよ。
こんなのもらっちゃったら・・・。
って、思った矢先にやっぱり。
体がどうしようもなくなっちゃった。
もう、暴走始めちゃったよ。
って事で、私の体も自然と彼を求めちゃった。
彼が突き上げてくる動きに私も合わす。
舌がからみ、止まらなくなるくらいのやらしいキスを貰っていた私自身も、もう止まらなくなった。
ガムシャラに彼とキスをこなす。
そんな感じだった。
だけど、その激しい交わりも、どれくらいだったかな?
5分も続かないうちに、終わりを告げた。
冬真(トウマ)さんは、いつもの事ながら、全然余裕。
楽しそうに笑顔まで、私に向けてくれたくらいだから。
でも、私は、もう、完全燃焼って感じ。
最後は気絶する寸前まで、いっちゃった。
っていうか、正直気絶するって思ったの。
だけど、その直前に冬真(トウマ)さんが、抜いた。
さすがに、妊婦を気絶させるわけにはいかないと思ったのかもしれない。
いえば、最高にいいところで、おわずけをくらった感じだけど、とんでもない。
全然、おわずけなんてことないんだけどね。
充分すぎるほど、感じさせてもらったから、大満足の私。
グッタリしながら、彼の胸に寄りかかる私を、冬真(トウマ)さんは優しく抱きしめてくれた。
 
「どう?これで、実感できたか?」
 
私は彼の胸に寄り添ったまま、「うん。」と言ってうなずいた。
確かに、実感できたよ。
夢じゃない。
現実だったんだって。
冬真(トウマ)さんと私の奇跡がまた1つ出来たって。
わかったよ。
すごく嬉しいよ。
でもね・・・なんでかな?
嬉しいだけでいっぱいになると思っていたのに・・・今度は、信じられないくらいの恐怖が私を襲うの。
嬉しさを・・・。
幸せいっぱいの満たされた心を・・・。
ドンドン黒い液が浸透していって、それは、あっという間に、真っ黒に染め直しちゃうくらい・・・。
それくらいの黒い闇が私を襲った。
たまらず、私は、彼にギュッとしがみついた。
私の様子に、「麗美(レミ)?」と彼は心配する。
でもね・・・言えないよ。
私を襲っている不安と恐怖なんて・・・。
口が裂けても言えない。
 
「なんでも・・・ない。」
 
私はそう言ってごまかした。
しがみついてる手も、何とか緩めた。
でも、体は正直なんだよね。
ガタガタと手が震えてる。
 
「ごめん・・・本当に・・・何でもないから・・・。」
 
必死でそう言って、作り笑いをした私の髪を冬真(トウマ)さんは優しくなでると、「我慢しなくていい。」と優しい声で囁いてくれた。
その言葉に私は、ユックリと彼を見る。
私と目が合った彼は、すぐに優しいキスをくれた。
 
「もう少し、交わってよっか。」
 
冬真(トウマ)さんはそう言うと、私がとても安心する笑顔をくれた。
そして、私が答えるよりも先にまた、自分を私の中に入れてくれる。
激しくは動かさない。
ただ、交わってるだけ。
その状態で、私を抱きしめてくれる。
私も、彼の顎辺りに顔をくっつける。
冬真(トウマ)さんのにおい。
冬真(トウマ)さんの温度。
冬真(トウマ)さんの鼓動。
そして、冬真(トウマ)さんの感触と存在感。
それは、私の暗闇をドンドン消し去ってくれた。
どれくらいそうしてたかな。
心がいつもの安心に変わった私に、急に今度は別の苦しみが私を襲ってきた。
 
「うっ・・・。」
 
手を口に当てて、少し前かがみになりながら、彼の胸の中で苦しむ私に、冬真(トウマ)さんも覗き込んでくる。
 
「つわりか?」
 
冬真(トウマ)さんの言葉に私は、何も答えなかった。
だって、今は苦しいのを耐えるのに、精一杯だったから。
実は、2日前くらいからこういった、まだ軽いえずき程度なんだけど、出てくるようになった。
主に、食事中とか、においとかで、くるだけに、今はちょっと、いひょうをつかれたかな?
でも、よくよく考えたら、えずきもくるか。
あんなに激しいエッチをして、さらに、また入ってるんだもんね。
さすがに、冬真(トウマ)さんも、それは思ったみたいで。
私の腰に手をあてる。
もちろん、抜こうとしたの。
だけど、私は、慌てて彼にしがみついた。
 
「いい・・・このままにしてて。」
 
苦しみながらそう言った私に、
 
「けど、苦しいだろ?
圧迫してるせいかもしれないだろ。」
 
って言われるけど、私はかたくなに首を振って拒否した。
だって、抜いたら、私はまた、苦しくなるもん。
また、あの恐怖が私を襲う。
それだけはイヤなの。
ずっととは、言わないから。
もう少し・・・もう少しだけでいいから、このままでいさせて。
冬真(トウマ)さんと、つながっていたいの・・・。
そんな思いをこめて、私は彼にしがみついた。
彼の鼓動を聞いていると、呼吸も整い、何となく気持ち悪いのも、まぎれてきた気がした。
そんな私の髪を、冬真(トウマ)さんはまた、優しい手つきで触れてくれる。
そして、さっき、私が脱がしてしまった白衣を私の背中にフワッとかけてくれた。
 
「冬真(トウマ)・・・さん?」
 
顔を上げて彼を見上げた私に、彼は優しく微笑む。
 
「ずっとこうしててやるから。
少し、休めよ・・・な?」
 
冬真(トウマ)さんのこの優しさは、私をまた幸せにしてくれた。
素直に、「うん。」と答えた私は、彼の存在を、かぶせられている白衣と目の前の胸と、両方から感じて、この上ない幸せを感じていた。
その中で、私は、安らぎの時間を過ごした。
 
 
 
 
 
 
俺は、机に広げてあるカルテに、必要事項を記入する。
そして、メモしておく内容も書く。
あっ・・・この欄は、どうするんだっけ?
先週、同じケースのオペの患者がいたよな?
どっちに丸するんだっけな?
と悩んだ俺は、前回の患者のカルテを出そうと持っていたペンを置く。
置いて・・・気付いた。
 
「そうだった。今は、動けないんだった。」
 
そして、俺は俺の胸に密着している姫に目をやった。
そう。今俺の膝の上には、麗美(レミ)がいるんだ。
スヤスヤと寝息を立ててる麗美(レミ)。
目の前の時計を見る。
 
「もう、6時過ぎか・・・。」
 
麗美(レミ)が眠って40分って所か。
でも、体力の回復を図っているのか、一向に目覚める様子はない。
ま、俺は、仕事があるから、別にいいんだけど。
だけど、いい加減、体が・・・キツイかな?
俺がそう思った時だった。
扉がノックされた。
こんな時間に誰だ?
看護士だったら・・・ちょっと、やばいな。
と思いつつ、「はい。」と答えた俺の返事に返ってきたのは、ホッとする声だった。
 
「俺。」
 
なんだ。春(シュン)か。
って事で、俺はリモコンで、ロックを解除した。
その音を聞いた春(シュン)は、扉を開けるなり、
 
「お前、ロックかけて、何やってんだよ。」
 
と言うけど、俺の胸に抱かれている麗美(レミ)を見て、
 
「おっと、悪い悪い。」
 
とすぐに謝った。
だけど、俺は、「いや。いいよ。」と笑顔。
けど、春(シュン)が扉を閉めたら、すぐにロックする。
こんな姿、身内以外に見られると、何かと厄介だからな。
扉を閉めた春(シュン)は、俺に大きな封筒を差し出した。
 
「ん?」
 
と言った俺に、
 
「明日のクランケの資料だ。
右京に、お前頼んだらしいけど、看護士が、右京をどうも苦手らしくて、俺が頼まれた。」
 
そう言いながら、春(シュン)は、側にあるベッドに腰をおろした。
 
「そっか。サンキュ。」
 
と言いつつ、早速レントゲンを取り出してみていた俺に、「なー。」と言った春(シュン)。
「ん?」と言いながら俺は、レントゲンに見入ってた。
 
「なんで、麗美(レミ)ちゃん、そんな所で寝てんの?
っていうか、こっちに寝かせてやればいいじゃん。」
 
確かに、それは、あってる。
だけど、できねぇーんだよ。
他人なら、こんな姿も見せられねぇーし、麗美(レミ)にかけてる俺の白衣の下に隠されている真実も言えねぇーけど、相手は春(シュン)だから、よしとするか。
って事で、俺は、正直に理由を言ったんだ。
 
「離れられないんだよ。
なぜなら、くっついてるから。」
 
そう言って笑った俺に、「くっつくって・・・。」と口にした春(シュン)は、次の瞬間、「えっ?」と驚きの顔をした。
そして、麗美(レミ)を見る。
俺たちの状態を想像した春(シュン)は、少し情けない笑いをして一言、「マジかよ。」と言った。
その言葉に、「そっ、マジ。」と俺は軽く返事をすると、レントゲンを机の上に置き、今度はカルテを封筒から出した。
 
「けどさ・・・なんで?
家で、やればいいだろ?
なんで、ここなんだ?
そんなに彼女、たまってるのか?」
 
って、それは、失礼だろ?
ったく、そんな事言ってるから、お前は自分の妻以外は、人とは思わないアイティーだなんて言われるんだよ。
と言いたいが、今、コイツと喧嘩なんかしたら、麗美(レミ)が起きるかもしれないから、それはグッと我慢した大人な俺。
 
「なわけないだろ?
ちょっと、いい報告があってな。」
 
「いい報告?」
 
「ああ。」と答えた俺は、俺の口から報告する第一号は、春(シュン)かー。と思いながら言ったんだ。
 
「麗美(レミ)が妊娠した。」
 
って。それには、「嘘!マジでー!!」と言いながら春(シュン)は少し壁にもたれさせていた背中を起こした。
 
「よかったなー。」
 
とまで付け加えてくれる春(シュン)に、「ああ。」と答えた俺。
だけど、それだけ言ってもやっぱり、春(シュン)には理解できなかったみたいで、
 
「で?それと、今の状況と・・・どう関係があんだよ。
さっぱり、わからん。」
 
そして、首をかしげる始末。
それで、仕方なく、持っていたカルテを、机に置くと、イスをユックリと回転させ、春(シュン)の方に体を向けた。
 
「妊娠して幸せの麗美(レミ)に、今、一番恐い事って、何かわかるか?」
 
「恐い事?」
 
といいながら、春(シュン)は真剣に考えるが、首をふる。
そりゃ、わかんねぇーよな。
って事で、俺は深く追求するのはやめて、答えを言った。
 
「それは、俺を失う事だ。」
 
「はぁ?」
 
そう言ってバカ面になる春(シュン)に俺は、麗美(レミ)の心の中の闇を春(シュン)に話した。
 
「天(タカシ)を妊娠した時、麗美(レミ)は幸せの絶頂にいたんだ。
きっと、この上なく幸せな気持ちだっただろう。
だけど、次の瞬間、ならくの底に落とされた。
まさに、青天の霹靂ってやつだ。」
 
俺の言葉に春(シュン)は、黙って聞いていた。
 
「そして今、麗美(レミ)のお腹の中には俺の子どもがいる。
この上なく幸せに感じた麗美(レミ)の心に、あの時の事が甦ったはずだ。
もしかしたら、あの時と同じにならないか?
俺が、死なないだろうか?
恐くてたまらなくなったのかもな。
コイツ、震えだしたんだよ。
見てるのが、かわいそうなくらいにさ。」
 
俺はそういいながら、麗美(レミ)の髪にふれ、優しくなでる。
その様子を見ていた春(シュン)は、「だからか?」と言ってきた。
 
「ん?」
 
と聞いた俺に、春(シュン)はもう一度言葉を言ってきた。
 
「だから、お前、ずっと交じり合っているのか?」
 
俺はうなずくと、また麗美(レミ)を見た。
 
「言い出したのは、俺。
でも、麗美(レミ)の体も、これを望んでた。
俺と交じり合っていたいと。
たぶん、こうしていたら、俺が死ぬ事はないと、本能的に思ったのかもしれないな。
確かに。
俺の体が、内面的にどうにかなれば、話は別だけど、こうしてつながっていたら、陸(リク)みたいに事故に合う事はないよな。
ナイスな提案だと正直感心したけどな。」
 
と笑う俺に、「何をノンキな事を言ってんだよ。」と春(シュン)は呆れる。
 
「子供生まれるまで、ずっとこうやって、つながっているつもりか?
そんな事できねぇーんだぞ?
それに、彼女だって、そんな不安な思いを抱えたまま、出産なんてできんのか?
大丈夫なのかよ。」
 
と熱くなってる春(シュン)だけど、「平気だよ。」と俺はいたって冷静。
俺の冷静さが、春(シュン)にしてはムカついたのかもしれない。
 
「お前、何落ち着いてんだよ。」
 
と喧嘩口調で言われた。
「まー、落ち着けよ。」と笑った俺は、テーブルにあった、ペットボトルを取るとお茶を飲む。
 
「俺にもくれ。」
 
という春(シュン)の言葉に俺は、フタを閉じると、春(シュン)に向かってそれを投げた。
 
「麗美(レミ)が俺を求めるのは、今日だけだと思う。
麗美(レミ)の恐怖は、陸(リク)を失ったトラウマじゃなくて、『妊娠を知った時に愛する人を失った』って事がトラウマになってるはずだから。
だから、今日を無事に過ぎれば、麗美(レミ)の恐怖はなくなる。
今だけだから。心配はいらないだろう。」
 
そう言って笑った俺に、「けどさー。お前、何分こうしてるんだ?」と聞かれたものだから、俺は時計に目をやって、答えた。
 
「かれこれ、1時間かな?」
 
って。それには、「いちじかん??」と絶叫の春(シュン)。
 
「ん・・・・。」
 
と眉間にしわをよせた麗美(レミ)に、
 
「大丈夫だ。麗美(レミ)。」
 
と麗美(レミ)の耳元でささやいて、麗美(レミ)をまた眠らせてやった。
落ち着いた麗美(レミ)にほっとした俺は、口を両手で抑えている春(シュン)をにらんだ。
 
「テメェー!ぶっ殺すぞ!」
 
それには、「ホント悪い。」と両手を合わせてるけど、目は笑ってんだよ。
悪いと思ってねぇーだろ?
っていうか、この状況楽しんでないか?
こっちは、必死だっていうのによ。
 
「もー、お前邪魔だ。帰れよ!」
 
そういって、シッシッと右手でする俺に、「つれないなー。」と笑う春(シュン)は、「けどよぉー。」と言ったあと、余計な事をいいやがった。
 
「お前、そんな長い時間入れたまんまだったら、ふやけるぞ。」
 
その言葉に、今度は俺が叫んでた。
 
「うっせぇーよ!とっとと、帰れっ!!」
 
俺の大声に、大笑いをしやがった春(シュン)。
もちろん、こんな騒々しい状況で、麗美(レミ)が起きないはずがない。
 
「冬真(トウマ)・・・さん?」
 
そう言って目を覚ました麗美(レミ)。
やっべー。
って事で、俺はとっさに、麗美(レミ)の視界に、春(シュン)が入らないように、座っているイスを動かした。
 
「起きたか?」
 
そう言いながら、俺は麗美(レミ)にばれないように、部屋のロックを解除する。
それを悟った春(シュン)も、麗美(レミ)に気付かれないように部屋を出て行った。
かすかに聞こえた扉の閉まる音で、麗美(レミ)は少し顔を上げた。
 
「誰か、来た?」
 
その声に、「なんで?ロックしてるから、誰も入ってこないよ。」と言った俺に、
 
「そっか・・・よかったぁー。」
 
と安心した声を上げた麗美(レミ)は、俺の体にまたしがみついてきた。
俺はそんな麗美(レミ)を抱きしめながら、思ったんだ。
麗美(レミ)を守っていきたいって。
さっきの。
子供が出来た時の、さっきの麗美(レミ)のあの笑顔を、俺は一生忘れないだろう。
あの顔・・・きっと、陸(リク)も見たかっただろうな。
本来なら、天(タカシ)が出来た時。
麗美(レミ)は、あんな笑顔と声を上げて、陸(リク)に報告したかったはずだ。
だけど、それはできなかった。
だから、俺は、麗美(レミ)の中に宿った子供を通して、体験させてやりたいんだ。
妊娠したら、当たり前に体験する事。
夫婦同士で、わかちあう喜びや不安。
天(タカシ)の時は、確かに俺は側にいたけど、今とは状況が違うし。
だから、今回、麗美(レミ)は二人目の出産になるけど、初産と変わらないなって。
すべてがはじめての体験。
だけど・・・だからこそ、麗美(レミ)には、幸せだけを与えてやりたい。
過去にしばられるトラウマや、不安は俺が消してやる。
俺が守ってやるから。
俺はそう思いながら、麗美(レミ)を抱きしめてこう言ってた。
 
「俺の愛を信じろ。」
 
その言葉に対して、麗美(レミ)は一瞬止まった。
だけど、しばらくして、俺の顔を見上げると、かわいい笑顔をした。
 
「信じるよ。冬真(トウマ)さんの愛も。
冬真(トウマ)さんの生命力も。
全部・・・信じるから。」
 
麗美(レミ)はそう言って俺にキスをしたあと、自分から俺の体を抜いた。
そのあとで、俺にキスをせがんできた。
それから、麗美(レミ)はあの時のような不安な顔も、震えも起こさなくなった。
俺が麗美(レミ)を想う思いが奇跡を起こしてくれたのか?
そう思ったら、こう思ったんだよなー。
神様も、まんざら、悪いやつじゃないかもな・・・って。
 
 
 
 
 
 
 
 
 



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