2007/11/24


19    続編 〜本編より6年後のストーリー〜
夕方の4時。
人の出入りといえば、入院患者のお見舞いや親族となれば、この広い建物も、ひんやりと冷たく感じる。
患者が集うだんらんの場所以外のフロアーや廊下では、騒々しい音も声も聞こえない。
だから余計、私の音が大きく感じた。
私は、寄り道をしないで、真っ直ぐにナースステーションへと向かった。
そこには、事務的な仕事をしながら、ひたすらしゃべっている2人の看護士の姿があったかと思えば、一人黙々と仕事をこなしているマジメな看護士。
慣れないパソコンを前にして、うなりながらも必死で格闘中の看護士。
そんな彼女たちの空間に、私はお邪魔する。
カウンター越しに彼女たちに目を向け、右手のこぶしで、カウンターを軽く「コンコン。」とノックした。
その音で、みんながこちらを向く。
これは、ここでの看護士の呼び方。
それぞれ仕事に没頭してるため、急に声をかけたりはよくないという事らしく、こういう『合図』をするようになってる。
私の存在に気付いたみんなは、その場で軽く礼をする。
そして、私の元に来たのは一人だけ。
黙々と仕事をこなしていたマジメな彼女だった。
 
「麗美(レミ)先生!お疲れ様です。どうかされましたか?」
 
彼女は笑顔でそういいながら、私の元へとやってくる。
 
「今日、午前中にオペした、570号室の矢崎比呂(ヤザキ ヒロ)くんの経過はどう?」
 
「順調ですよ。あっ、カルテ持ってきますね。
今までの経過を記録してますから。」
 
彼女はそういうと、カルテが保存されている棚に移動し、そして一枚のカルテを手にしてすぐに戻ってきた。
渡された私は、それをカウンターに乗せると、少し行儀が悪いスタイルだけど、それをパラパラとめくった。
 
「それにしても、麗美(レミ)先生って、すごいですよね!」
 
しゃべっていた二人組みの看護士が、こちらに近付いてくると、近くのイスに腰をおろした。
そして、私に話してくる。
 
「すごいって・・・何が??」
 
そういいながら笑う私に、彼女たちは目を輝かせながら口々に言う。
 
「もちろん!腕ですよ!!」
 
「ちょっと、その言い方は、麗美(レミ)先生に失礼じゃない?」
 
「だって、麗美(レミ)先生は、まだ研修医だよ。
卒業して半年ちょっとですよね?」
 
と今度は私に確認をしてくる彼女。
 
「そうね。今11月だから、まだ7ケ月って所かしら?」
 
私の答えに、「そうですよねぇー。」と彼女はいうと、なぜかちょっと興奮気味になってる。
 
「なのに、今日、執刀してたし。
比呂くんの手術って、かなり難しかったんでしょ?
ホントに、すごいですよぉー!!」
 
とベタ褒めされた私。
 
「執刀といっても、外科部長と一緒の手術だったから、指示もあおいだりで、まだまだよ。」
 
私は、笑いながら、読んでいたカルテをさらにジックリと読んだ。
 
6年前・・・。
陸(リク)が通えなかった大学に、受かったあの年。
私は、4月から冬真(トウマ)さんのマンションで、1歳半の天(タカシ)と2人暮らしを始めた。
子育ても大変だったけど、みんなの力を借りてなんとか乗り切った。
天(タカシ)も年々大きくなるから、楽にもなったし、冬真(トウマ)さんのお母さんの桜さんもすごく力になってくれた。
それに何より、一番ありがたかったのは、やっぱり由梨華(ユリカ)かな?
由梨華(ユリカ)は、高校を卒業後、匠(タクミ)さんを追いかけて、同じ北海道の大学に行った。
もともと由梨華(ユリカ)もそこそこ頭はよかったから、いけたみたいで・・・。
それで、一年早く卒業する匠(タクミ)さんは、大学に残って研究をしてて、由梨華(ユリカ)が卒業したあと、一緒にこっちに戻ってきた。
それから、2年がたって、匠(タクミ)さんの仕事も軌道に乗り出したからという事で、二人はめでたく結婚したの。
それが、由梨華(ユリカ)が25歳になる年で、匠(タクミ)さんが26歳になる年。
で、丁度、その年は、私が6回生になった時だったの。
あと1年必死で頑張んなきゃ!って時に、二人は結婚してくれて、由梨華(ユリカ)も専業主婦になったから、母親みたいに天(タカシ)に接してくれてさ。
もちろん、匠(タクミ)さんも、協力してくれて、ほとんど毎日、夫婦二人で、天(タカシ)を見てくれてね。
天(タカシ)も1年生になった年だったから、色々変わり目でかまってあげないといけない事が多くて・・・。
でも、由梨華(ユリカ)が母親代わりで、匠(タクミ)さんが父親代わりで、ホントに助かったんだ。
そのおかげで、私は何とか無事卒業できて、さらには国家試験にも受かったの!!
約束通り、冬真(トウマ)さんは、私が医者になった『時』に戻って来た。
そう、なった『時』!
つまり、合格発表の日に帰ってきてくれた。
そして、冬真(トウマ)さんは、心臓外科医として病院に勤務する事になり、私は小児外科医として勤務する事になった。
私は、手先が器用じゃないから、冬真(トウマ)さんに、「大丈夫か?」と言われちゃって・・・。
でも、大学で授業を受けていて、なぜか外科系が得意で、しかも好成績だったから、思い切って外科医を専攻したの。
 
 
「ねぇ!ちょっと・・・。」
 
遠くからそんな声がした。
私も見ていたカルテから、目をそちらに向ける。
もちろん、側にいた看護士もそちらに注目した。
 
「何?どうしたの?」
 
看護士がそういうと、向こうから来た看護士は、看護士にじゃなくて、私の目の前で止まった。
 
「あの、麗美(レミ)先生。
お願いがあるんですけど・・・。」
 
「お願いって・・・私?」
 
そう聞く私に、彼女は少し言いにくそうに言った。
 
「510号室の裕樹(ユウキ)くんが、2時くらいからずっとお腹が痛いと言ってるんですけど・・・。」
 
「お腹が?」
 
そう聞く私だけど、
 
「だけど、確か、鎮痛剤の注射をしたんじゃなかった?
それに、裕樹くんの担当の内科の先生も、たいした事ないって言ってたんでしょ?」
 
と、今までパソコンをいじっていた看護士が、こちらに来ながらそう言った。
 
「そうなんですけど、でも、全然効いてなくて、今も痛がってるんです。
ただの炎症からの痛みの様な気がしなくて・・・。
でも、今担当の先生は、学会出席の為、飛行機で移動中で連絡とれないし、他の内科の先生もなんか頼れなくて・・・。
お願いです!麗美(レミ)先生、診てくれませんか?」
 
彼女はそう言って、頭を下げた。
 
「でも、麗美(レミ)先生は、外科医でしょ。
診断は、基本的には、内科の先生にまかせてあるんだから、無理だよ。」
 
「そうだよ。もし、麗美(レミ)先生がして、何かあったら、問題になるよ。」
 
確かに・・・問題になると思う。
誤診とかそういう事もあるけど、まずは、院内でのトラブルかな?
内科医の診断を無視して、外科医が診たって。
確かに、人波乱は起こりそうね。
そういうの、ここは、本当に厳しいから。
でも、私に助けを求めてきた看護士は、ずっと裕樹くんの担当してるんだよね。
その彼女が、違うと思ってるなら・・・違うんじゃないのかな?って思ったの。
それに何より、鎮痛剤が2時間経っても効いていない。っていうのが・・・やっぱり気になった。
 
「いいわ。診てみましょう。病室に案内してくれる?」
 
私の答えに、彼女は満面の笑みを浮かべて、「ありがとうございます。」と頭を深々と下げた。
 
「大丈夫ですか?麗美(レミ)先生!
それでなくても、麗美(レミ)先生は腕が立つと、外科の先生内でも、良く思ってない先生がいらっしゃると聞くのに、この上内科の先生も敵に回すのは・・・。」
 
とマジメな看護士が助言をしてくれるけど・・・。
 
「そうね。確かに、持ち場は持ち場と言う言葉があるように、入り込むのはよくないわ。
でも、これは別よ。
現に患者が、苦しんでいるんだもの。
私は医者として、やれるべきことをしてあげたい。
医者の醜い言い争いは、その後で聞くわ。」
 
私の言葉に、マジメな看護士は、クスと笑うと、
 
「麗美(レミ)先生らしいですね。」
 
と口にした。
そして、こちら側に回ってきた。
 
「私も、麗美(レミ)先生の考えに同感です。
先生のアシスタント、私にやらせてもらえますか?」
 
私はもちろん、「助かるわ。」と彼女に笑顔で答えた。
 
 
裕樹くんの病室は、相部屋で6人部屋だった。
彼は、小学校2年生で、天(タカシ)と同じ年。
私は、あまり面識はなかったけど、向こうはよく知っていたみたい。
仲の良い友達が、私の担当患者らしくて、噂は聞いてたみたいで、私を見るなり苦しい顔で、ニッコリ笑ってくれた。
 
「あー・・・麗美(レミ)先生・・・だ・・・・。」
 
裕樹くんはそういうと、丸くうずくまって、痛みに耐えていた。
 
「あの先生、ずっと苦しんでるんです。
本当に大丈夫なんでしょうか?」
 
不安そうな顔をしたお母さんが、私の姿を見るなりすごい剣幕で聞いてきた。
 
「今から診断をさせてもらっていいですか?
ただ、私は担当医でもないし、さらに外科医なんです。」
 
そういうと私は、自分の胸元についているバッチをお母さんに見せた。
 
「それでも、裕樹くんを診断させてもらえますか?」
 
嫌がられるかと思ったの。
やっぱり、内科の先生の方が安心するんじゃないかな?って思ったから。
でも、お母さんは、「かまいません。お願いします。」と即答して、さらには頭を下げた。
きっと、子供の危険が母親だけに、わかったのかもしれない。
ただの、炎症からの痛みじゃないって。
私は、お母さんの返事を聞いたあとで、裕樹くんの元に近付いた。
 
「裕樹くん!初めまして。」
 
私の挨拶に裕樹くんも、「うん・・・。」とうなずいてくれた。
 
「どこが痛いの?診せてくれる?」
 
そして、裕樹くんが痛がっている腹部を触ったり押したりして調べてみる。
確かにこれは、炎症ではなさそう。
私は、裕樹くんから手を離すと、私のアシスタントをしてくれると言ってくれたマジメな看護士、棗(ナツメ)さんを見た。
 
「採血するから準備して。
そのあと、個室に移動させるから、部屋の手配を。
それから、腹部のエコーを撮るから、準備もしておいて。」
 
私の言葉に、棗(ナツメ)さんは「わかりました。」とテキパキとした返事をくれた。
裕樹くんが、個室に移動し、エコーの準備が出来た頃、採血の結果も出てきた。
 
「麗美(レミ)先生。これです。」
 
それをみて、私は自分の中で疑っていたものが、『そうだ。』と確信した。
だけど・・・。
私は、結果表を棗(ナツメ)さんに渡すと、エコーを裕樹くんの腹部にあてる。
怪しいと思う所をさぐってみる。
でも、機械自体をうまく使いこなせない私には、『見たい物』をうまく映す事ができなかった。
『だろう。』という予想で、手術をするわけにはいかないし、それに何より私が執刀するわけにはいかない。
研修医が、たった一人で行う初めての手術は、いえば、簡単な物だとだいたい決まってる。
それに、自分の指導者であるドクターの許しがないと、勝手には執刀できない。
特にこの病院では、有名人も来る関係で、そういう事にはホント厳しいの。
 
一体、どうすればいいのよ!!
 
そう自分自身に怒る。
そして、それに対して、もう一人の私がこう答えた。
 
「内科の先生なら、エコーをうまく使いこなせるんじゃないの?」
 
って。
それを思って、ピンと来た。
私は、手に持っていた器具を元に戻すと、棗(ナツメ)さんを見た。
 
「今すぐ、冬真(トウマ)先生を呼んでくれないかな?」
 
「冬真(トウマ)・・・先生ですか?」
 
棗さんは、キョトンとする。
その理由を、もう一人の裕樹くんの担当看護士が口にする。
 
「どうして、冬真(トウマ)先生なんですか?
冬真(トウマ)先生は、心臓外科専門ですよね?
この状況なら内科の先生で、春(シュン)先生がいいんじゃないですか?
とはいえ、今日はお休みですけど・・・。」
 
「そっかー。2人とも、ここに来てまだ、4、5年なのよね?」
 
私の答えに、二人はうなずく。
 
「なら、知らなくて当然ね。
冬真(トウマ)先生は元々、内科医で、さらに研究専門だったのよ。
つまり、隠れた病気を見抜くスペシャリストって所かな?
だから、きっと彼なら、すぐにわかると思うわ。
今ね、たぶん、会議室で、3日後にする大介くんの手術のミーティングをしてるはずだから。」
 
私の答えに、棗(ナツメ)さんは、「わかりました。」と答えると、病室を出て行った。
それから、5分も経たないうちに、廊下から足音が2つ聞こえた。
それは、どんどん近くなり、やがてドアが開いた。
 
「ミーティング中にごめんなさい。」
 
と謝る私に、「いや。」と冬真(トウマ)さんは口にすると、すぐに血液検査の結果表を手に取る。
 
「数値が高いな・・・。」
 
彼はそういいながら、私に紙を差し出すと、そのまま裕樹くんの側に歩む。
 
「裕樹くん、お腹見せてな!」
 
そして、3ケ所くらい触るとすぐに手を離した。
 
「準備は出来てるか?」
 
「ええ。使えるわ。」
 
私はそう答えながら、エコーの機械を彼の手に渡す。
そして、彼はモニターを見ながら、裕樹くんの体を見始めた。
 
「裕樹くんの体を少し左に向けてくれ。」
 
彼がいうまま、私は裕樹くんの体を左に向けた。
 
「ストップ!」
 
彼はそういうと、「麗美(レミ)先生。こっちに来て。」と手招きをする。
来てと言われても、裕樹くんを支えてるわけだからいけないじゃない。
どうしよう。と困っていると、棗さんが「代わります。」と来てくれて、私は解放された。
そして、すぐに、冬真(トウマ)さんの側に行くと・・・・。
 
「これだろ?麗美(レミ)先生が、見たかったものって。」
 
そういって、モニターに向かって指をさした。
そこには、確かに私が求めていた物があった。
 
「すごい・・・。こんなにハッキリ映るなんて・・・。」
 
本当にすごいと思ったの。
人の体の構造をよく知っていないと出来ないと、本当に思った。
 
「裕樹くんのお母さんも、こちらに来てもらえますか?」
 
冬真(トウマ)さんはそういうと、裕樹くんのお母さんに裕樹くんの今の状況を説明した。
疲れた時とかにたまに炎症を起こしている所が、今は腹膜炎を起こしていて、このままだとよくない。
すぐに手術をしないといけないという説明だった。
 
「それでですね。
執刀ですが、彼女は研修医といえど、技術的には問題ないです。
この病状に気付いたのも彼女ですから、僕は彼女に執刀させたいのですが、お母さんはどうですか?」
 
「ちょっと、待ってよ!!」
 
私は、慌てて冬真(トウマ)さんを止めた。
 
「何言ってんのよ!執刀は、冬真(トウマ)さんが・・・。
いや・・・えっと、冬真(トウマ)先生がして下さいよ!
私には、まだ早いです。」
 
そういって、めいいっぱいの抵抗をしてみるけど、それは無駄になった。
だって・・・。
 
「僕、麗美(レミ)先生にしてもらいたい!!」
 
って、裕樹くんが言うんだもん!
 
「あ・・でもね、裕樹くん、私は・・・。」
 
と彼を説得しようとしたのに、
 
「是非、麗美(レミ)先生で。」
 
と裕樹くんのお母さんまでもが、そういうのよ。
 
「ちょっと・・・。」
 
とアタフタする私に、お母さんはとても穏やかに笑った。
 
「この子が、今危険な状態だとわかったのは、麗美(レミ)先生が診てくれたおかげなんです。
だから、この子の手術をする事で、麗美(レミ)先生が医者として一歩を踏み出せるなら、いい恩返しになると思います。
それに、冬真(トウマ)先生が麗美(レミ)先生を執刀に。と勧められているという事は、麗美(レミ)先生でも問題はないという事なんだと思いますし・・・。」
 
「もちろんですよ。彼女の腕なら、問題ないでしょう。」
 
と自信満々の答えの冬真(トウマ)さん。
私は、たまらず、冬真(トウマ)さんの腕をつかむ。
 
「ちょっと、こっち来てよ!!」
 
周りに聞こえないように、後ろから耳元に向かって小声で叫ぶと、窓際に彼をつれこむ。
 
「なんだよ。」
 
といつもの彼。
 
「なんだよじゃないでしょ!
なんで、私の事なのに、そんなに自信満々でいってのけちゃうのよ!」
 
「もしかして、お前、自信ないのか?
昼間、すっげぇー、オペしたんだろ?
こっちの方が簡単なんだから、大丈夫だって!!」
 
「そういう問題じゃなくて・・・。」
 
私はそう言ったあと、何も言えなくてただ冬真(トウマ)さんの腕をつかんだ。
そんな私の腕を彼はつかみ、優しく笑った。
 
「俺も一緒に、中に入ってやるから。」
 
「ホントっ!!」
 
と飛びつく私に、彼は声を出して笑う。
 
「いくら腕のいい医者だと言っても、研修医は研修医。
このオペを、たった一人で、させるわけにはいかねぇーからな。
指導者としてなら、ついててやるよ。
でも、言っとくけど、助手程度しか俺は働かねぇーからな!」
 
冬真(トウマ)さんは、そういうと私の髪をクシャっとすると、通り過ぎていき、裕樹くんの側へと辿り着く。
 
「麗美(レミ)先生が、してくれるってさ。
今から、頑張ろうな!!」
 
そういって、冬真(トウマ)さんは裕樹くんの頭を優しくなでた。
裕樹くんは、ニッコリ笑うと、「頑張る。」と元気な声で答えてくれた。
 
 
 
それから、2時間弱で手術は無事終わり、私はまたナースステーションのカウンターで、カルテに報告を記載したり、今後のケアーや投薬内容を書いていた。
 
「ホント、今日はお疲れ様でしたね、麗美(レミ)先生!!」
 
棗さんはそういうと、私の前に温かい缶コーヒーを置いてくれた。
 
「あら、くれるの?」
 
と笑う私に、「残業手当が、それだったらどうします?」と冗談を言う。
 
「残業手当なんて出るのかしら?」
 
とさらに冗談で返す私。
その時、控え室から、他の看護士が3人入ってきた。
 
「もう、そんな時間?!」
 
私はそういうと、壁の時計に目をやった。
さっきまでは、4時過ぎだったのに、もう7時回ってる・・・。
そういえば、家に連絡してなかったよ・・・。
私がここで医者として働くようになってから、私と天(タカシ)と冬真(トウマ)さんは、あのマンションじゃなくて、別の家に住むようになった。
それは、雪先生の家がある大豪邸の、さらに横に同じくらいの敷地を買い取り、そこにこれまた、雪先生宅にも負けず劣らずの大豪邸を建てた。
えっ?誰が??って・・・。
そんなの決まってるじゃない!
冬真(トウマ)さんだよ。
そんな莫大な金額、私が持ってるわけないでしょ。
なんで、雪先生宅・・・つまり、冬真(トウマ)さんの実家の真横に建てたかというと、子供を見てもらわないといけないじゃない。
桜さんは、未だに果帆さんの子供や、あと院長の秋先生の娘さんの実桜(ミオ)ちゃんを預かったりしてるのね。
秋先生の奥さんは、今でも現役バリバリの看護士さんだから。
それで、我が家の天(タカシ)も、見てあげるといってくれたんだけど、さすがに、他の家よりも見てもらう時間が多いから、なら近くがいいよね。って事になって。
雪先生や桜さんは、「家が広いから、一緒に住めばいいじゃない。」と言ってくれたんだけど、冬真(トウマ)さんが嫌がった。
 
「なんで?」
 
と聞いたら、
 
「未だにオヤジは、オフクロをどこでも関係なく襲うんだよ。
そんなの天(タカシ)が、見たら困るだろ?」
 
って・・・。
 
「それは、さすがに大丈夫でしょう・・・。」
 
って言ったんだけど、「嫌といったら、嫌なんだ!」と断固として首をふられちゃって、まー、冬真(トウマ)さんのお金だしいいかー。って事で、家を建てることになったのね。
だから、今も、実家の方に天(タカシ)は居て、心配はいらないんだろうけど、今日5時過ぎには帰ると言ってきたからなー。
約束破ると、怒るんだよねぇー。
絶対、天(タカシ)、カンカンだよぉ〜。
私は、早く帰ろうと急いで、カルテを書いていた。
 
「ねぇーねぇー、さっき、廊下ですれ違ったんだけど、冬真(トウマ)先生がまだ居たんだけど、何かあったのかな?」
 
「あー、それ、ここだよ!
裕樹くんが緊急オペになって、麗美(レミ)先生が執刀で、冬真(トウマ)先生が指導医で今までやってたから。」
 
「えぇー!!じゃあ、さっきまでここにいたんだよねぇー。
がっかりぃー。」
 
とその看護士は、力なくイスに座る。
それって、冬真(トウマ)さん狙いって事?
私は、カルテを書きつつ、耳はダンボになる。
 
「でもさー、私、前にみたんだけど・・・。」
 
他の看護士がそういうと、そのショックを受けている看護士は、「何?」と急に身を乗り出して聞いた。
 
「夜中に急変してさ、冬真(トウマ)先生を呼んだ時あったんだけど。
その時に・・・。」
 
「その時に何よ!!」
 
すると、彼女は、左手を出し、薬指をさした。
 
「ここに、指輪してたよ。」
 
彼女のその言葉に、ここに居たナース全員が一斉に叫んだ。
 
「えぇー!!!!」
 
って。その悲鳴とも言える声に、私は思わずボールペンを落とした。
 
「ホントなのそれっ!!」
 
とみんなが、その言い出した彼女にせまる。
 
「ホントだよ。普段は取ってるけど、あの時はしてたもん。
それにね、内科の看護士の友達が言ってたけど、冬真(トウマ)先生が小学生くらいの男の子を連れて、買い物に来てるところを見たって言ってたよ。
見るからに親子っぽかった。って。
だからさ、冬真(トウマ)先生は、絶対既婚者だって!!
諦めた方がいいよ。」
 
「えぇー!!!!」
 
とそれにも、ブーイング。
私は、ボールペンをしゃがんで取ったものの、立ち上がれなかった。
なんか、みんなの視線が恐いし、反対にオドオドしててバレそうだし・・・。
別に隠してるわけじゃないのよ。
言うタイミングを逃したというか・・・。
最初ここに来た時は、私は結婚してなかったから、『柚川』だったのね。
でも、言いにくいからって、いつのまにか『麗美(レミ)先生』という名で呼ばれるようになって。
それなら、姓は関係ないから、改めて『梅澤』と言わなくてもいっかー・・・みたいな流れになっちゃって。
そういえば・・・。
私は、胸に付けている名札を見た。
『柚川』のままだよ。
でも、看護士の仲でも、結構多いんだよね。
そのまま旧姓を名乗るって・・・。
だけど、言うにしても、今このタイミングはまずいよね・・・。
とにかく今は・・・逃げよう!!
早く、この場をさらなきゃって思ったの。
私は、そっと立ち上がると、カルテをささっと書く。
 
「じゃ、棗さん、これ、お願いね。」
 
私はそう言って、早々にその場を去ろうとした。
その時、冬真(トウマ)さんにすごく気がある看護士が、「でもさー。」と口を開いた。
 
「冬真(トウマ)先生って、6年間アメリカに行ってたんでしょ?
だったら、その子供って、あやしくない?
連れ子なんじゃないの?
冬真(トウマ)先生って、ほら、すっごい優しいじゃない。
困ってる人を、無視できなかっただけだって!
きっと、ボランティア気分で、接してるだけよ。
そんな子連れ女に負けないわよ!!」
 
「でも、指輪してたんだって!!」
 
「結婚してても、関係ないよ!
奪ってやる。
冬真(トウマ)先生って、困ってる人は、ほっておけない優しい人じゃない。
それを利用させてもらうじゃないけど、恋愛の相談に乗ってもらって、そのまま迫るとか・・・。
冬真(トウマ)先生なら、優しく抱きしめてくれそうじゃない?」
 
「確かに、冬真(トウマ)先生のエッチって、すっごく優しくて穏やかそうよねぇー。」
 
それには、もちろん、
 
「子持ちで悪かったわね!
ボランティアって何よ!!
だいたいねぇー、冬真(トウマ)さんを優しいって思ってるようじゃ、冬真(トウマ)さんを知らないのと同じなんだからねっ!
って、これは・・・雪先生のうけうりだけど・・・。
それにねぇー、そもそも、冬真(トウマ)さんのエッチが、優しくて穏やか??
冗談じゃないわよ!
自分の気持ちをおかまいなしに与えてきて、自分勝手で激しく情熱的なエッチをする男が、優しい?
バカじゃないの!!」
 
って言いたかったよ。
言いたかったけど・・・言えないよぉー。
私は、言いたい言葉を、寸前で必死に飲み込んだ。
そして、自分の部屋へとひたすら歩いた。
 
 
 
 
自分の医局に入るや否や、私は扉を閉めるとすぐに叫んだ。
 
「何よ!冬真(トウマ)さんを奪うですって!!
あんな女、冬真(トウマ)さんが相手するわけないじゃない!!」
 
とキレまくる。
文句を言えば、少しはおさまった・・・って。
おさまるわけないじゃない。
今度は、不安が押し寄せてきた。
だって、あんなに冬真(トウマ)さんを狙っている看護士がいたなんて・・・。
しかも、『小児科病棟』だけで、あの人気だよ。
冬真(トウマ)さんは、今は心臓を扱う『第三外科病棟』にいるわけで、そっちでもちろん人気はあるだろうし・・・。
 
「浮気されたらどうしよう・・・。」
 
とへこむ私。
思わず、力なくソファーに腰をおろした。
その時だった。
メールを受信する音楽が流れた。
私は、体を伸ばして、カバンから携帯を取った。
 
「うっそー!!」
 
送信者を見て、ウキウキになりながら携帯を見る。
 
「『さっきは、お疲れ。俺はもう帰れるから、麗美(レミ)が帰れる準備したら、俺の所に来て。
一緒に帰ろう。』
って・・・。キャー!!」
 
なんていいながら、ソファーに転げて、大はしゃぎの私。
冬真(トウマ)さんは、やっぱり優しい!!
って、盛り上がっていたんだけど、無性に逢いたくなった。
私は、白衣をさっさと脱いで、上着を着ると、カバンを取って、明かりを急いで消す。
そして、冬真(トウマ)さんの医局へと走って向かった。
 
 
 
 
ノックをして、扉を開けた。
冬真(トウマ)さんも、私服に着替えていて、足を組んでソファーで、雑誌を読んでた。
 
「おっ!来たか。よし、天(タカシ)も待ってるだろうから、帰ろう・・・。」
 
そこで、冬真(トウマ)さんは言葉を止めた。
そして、次に言った言葉は、
 
「麗美(レミ)、どうかしたのか?」
 
とちょっと、心配そう。
だって、私は、ソファーにいる冬真(トウマ)さんに向かってダイブして、今冬真(トウマ)さんに抱きついてる。
我慢ができなかったの。
冬真(トウマ)さんが、誰かに取られそうで。
恐くて恐くて・・・。
私は、強引に冬真(トウマ)さんにキスをした。
激しく、強く、そしていきなりからめて、彼を体全体でほしがった。
冬真(トウマ)さんは、強引に私を離す事はなかった。
ただ、抵抗もしないで、私にされるがまま。
でも、そうさせてくれたのは、ほんの少しだけ。
しばらくして、冬真(トウマ)さんは、私から唇を離し、さらに私の体を離すと、自分の横に座らせた。
 
「一体、何があった?」
 
すごく優しい声で、そう聞く冬真(トウマ)さん。
私は、また彼に抱きついた。
 
「私以外を、愛さないでね。お願い・・・。」
 
束縛もいい所だってわかってる。
でも、嫌なの。
冬真(トウマ)さんは、私のものでいて!!
そう願いながら私は、彼にしがみついた。
 
「何があったか知らないけど、俺たちは永遠の愛を誓っただろ?」
 
彼はそういうと、私の首につけているネックレスをはずした。
そして、ネックレスを引き上げると、その先にある指輪をとり、本来あるべき場所にそれをはめてくれた。
いつの間にか、自分はもうその場所につけていて、自分の左手と私の左手をくっつけた。
 
「半年前、教会で誓ったのに、もう忘れたのか?」
 
そういって、軽く笑うと、私に軽く口づけをした。
 
「俺は、麗美(レミ)を愛してるよ。
今もそうだし、これからも。
きっと、麗美(レミ)以外の女性は愛せない。
だから、安心しろ。」
 
冬真(トウマ)さんはそう言ってくれるけど、さっきの看護士の話を聞いていて、やっぱり不安になったの。
だって、天(タカシ)は冬真(トウマ)さんの子供じゃないし、冬真(トウマ)さんは天(タカシ)の父親の大親友で・・・。
本当に私を愛してくれているのかなとか・・・そういう疑いが出ちゃうの。
冬真(トウマ)さんを好きになればなるほど、不安になる。
何もなくて、あんな風に純粋に、冬真(トウマ)さんが好きだとか、奪ってやるとか言える看護士が、うらやましくて、そして、恐いの。
私は、さらに冬真(トウマ)さんの腕をつかんで、すがる。
少し手が震える私を、冬真(トウマ)さんは優しく抱きしめてくれた。
 
「オフクロにさ、言われた事があるんだ。」
 
冬真(トウマ)さんは、そういうと私の顔に自分の顔をくっつけて、私に接近した。
 
「オヤジってさ、金も持ってて、見た目もあんな風貌だからさ、女にも人気があったらしくてね。
それで、オフクロはよく悩んだんだって。
自分よりももっと、似合う人がいるんじゃないか。とか、自分でいいのか。って。
オフクロの父親。
つまり、俺のじいちゃんって事になるけど、その人をオヤジが救えなかった事が、二人が出会う前にあったみたいで、オフクロは、救えなかった父親への後ろめたさから、自分と一緒にいるんじゃないか。とか、すっごい不安に思って、よく泣いたって。
でも、その時に、オヤジが言ったんだって。」
 
私は、冬真(トウマ)さんをただ見上げてた。
だって、どうして、冬真(トウマ)さんがいきなり、こんな話を始めたのか、私にはサッパリだったから。
少し不思議そうな顔で見てる私の瞳を、冬真(トウマ)さんはすごく優しい瞳で見返してくれる。
そして、そのまま私を見つめて・・・続けたの。
 
「『自分は愛されているのか。側にいていいのか。
そんな不安が出てきたら、俺を愛する事にも臆病になっちまう。
そうなったら、一人で抱え込まなくていい。我慢しなくていい。
俺にちゃんと言え。』ってさ。」
 
冬真(トウマ)さんは、そう言ったあと、また私を自分の胸におさめると、強く抱きしめて、私の耳元に自分の口を当てた。
 
「『不安を消すのに、一番効果的なのは、『記憶』や『言葉』よりも『俺自身』。
俺の愛のささやきを耳で感じて、俺の愛撫を体で感じて、俺の想いを心で感じる。
俺が募らせている深い愛で、不安を消してやるよ。
そしたら、また俺を愛せるようになる。』」
 
冬真(トウマ)さんはそういって、私の頬に軽くキスをすると、私の顔を見た。
 
「この歯が浮くようなセリフは、オヤジがオフクロに言ったセリフ。」
 
それを聞いて思った。
 
「やっぱりぃー。」
 
って。
 
「でも、どうして、そんな話を桜さんは、したのかな〜?」
 
たまらず聞いちゃった私に、冬真(トウマ)さんは即答。
 
「麗美(レミ)がオフクロと一緒だから。
きっと、麗美(レミ)も苦しむと、オフクロは思ったんだろうな。」
 
「え?」
 
「オフクロとオヤジの時とは違うにしても、俺が麗美(レミ)の大事な人を救えなかったのも一緒だし、麗美(レミ)は俺とは血のつながらない子供を産んで、そういう自分と結婚して、よかったのか。
冬真(トウマ)さんには、もっと似合う人がいたんじゃないか。とか。
そう思うと思ったんだろうな。
っていうか、現に今、そう思ったんじゃないのか?」
 
「それは・・・。」
 
「でも、俺を手放したくないんだろ?」
 
私はうなずいた。
それを見て、冬真(トウマ)さんは少し笑った。
 
「じゃあ、手放すなよ。」
 
彼はそう強気な言葉をくれたのに・・・。
そのあと、急に、今度は、少し顔をしぶらせる。
 
「冬真(トウマ)さん?」
 
不安になった私は、彼に聞いた。
すると、彼は少し元気がない声で、こう言った。
 
「俺は、オヤジじゃないから。
情けないけど・・・自信がないんだ。
麗美(レミ)が俺をいらないといえば、それが無理をしてる言葉でも、俺はうのみにしてしまう。
冷静な判断ができなくなるし、『それは、嘘に決まってる』という確証というか、麗美(レミ)が愛しているのは、俺以外いない!という自信が俺にはないんだ。」
 
「冬真(トウマ)・・・・さん。」
 
「だから、麗美(レミ)。
俺を、愛している限りは、何があっても、俺を手放すな。
俺を、誰にもやるなよ。
俺も、絶対に麗美(レミ)を、手放さないから。
絶対にな・・・・。」
 
私は、冬真(トウマ)さんのこういう所が、一番好きなの。
雪先生みたいに、うっとりしてしまったり、赤面してしまうような、エロチックでロマンティックな言葉を言ってくれるわけでもなければ、心温まるような優しい言葉をかけてくれるわけでもない。
さっきみたいに、すごくストレートで、何もごまかさずに、自分の気持ちというか、思いだけを切実に言葉にする。
そのままの自分をぶつけてくる冬真(トウマ)さんが、私は一番好きだった。
そして、そんな彼だからこそ、私も自分の思いをストレートにぶつけられる。
そんな自分が、すごく好きだったりする。
 
「誰にも渡さない。絶対に・・・。」
 
私は彼にそういって、自分から彼にふれる。
だけど、いつものように、すぐに体勢は彼のしやすいように代わっちゃって、いつのまにか私は、ソファーに押し倒されてた。
お互いが求め合うキスをして、暗黙の了解で、そのまま進んでいく。
彼の唇と舌が、私の体を支配する。
心も体も彼でいっぱいになる。
その時、彼の携帯が鳴った。
私は、ハッとしたの。
看護士さんからかも?って。
でも、冬真(トウマ)さんは止まる事無く、そのまま続ける。
まるで、何もなかったように。
 
「ねぇー・・・いいの?出なくて・・・。」
 
一応気になって聞いた私。
そんな私に、冬真(トウマ)さんは右手でポケットから携帯を取ると、私の手ににぎらせた。
 
「えっ?」
 
と戸惑う私に、
 
「麗美(レミ)が・・・出ろ・・・。」
 
なんて色っぽい声でいうんだもん!
それに、ポーっとなっちゃって、思わず通話ボタンを押しちゃったのよ!
そこから聞こえた声は、ポーとなってる私の頭を一気に正常に戻らせたの。
だって・・・。
 
「パパー!!僕、天(タカシ)ぃー!!
ねぇーねぇー、まだ、帰ってこないのぉー?
早く帰ってきてよぉー!!」
 
「天(タカシ)っ!!」
 
思わずデッカイ声で、言っちゃった私。
慌てて口を閉じたけど・・・遅かった。
 
「あれ?ママ?なんでー?どうして、パパの携帯に出るの?
ねぇーねぇー、どこにいるの?」
 
って言われても、この状況で・・・話せないって!
電話を遠くにやった状態で、私は冬真(トウマ)さんに小声で話す。
 
「ちょっと、どうするんのよ。
っていうか、ストップしてよ!
このままじゃ、天(タカシ)に話できないよ。」
 
っていうけど、冬真(トウマ)さんはおかまいなしで、私を襲う。
彼のいつもの癖で、舌で下をせめて、私を感じさせる。
だけど、今、そんな事やってる場合じゃないって!!
子供に中継してどうすんのよ!
っていうかさ、絶対に、冬真(トウマ)さんって、この電話天(タカシ)からって、知ってたよね?
だったら、何で出させたのよ。
止めないなら、無視したらよかったのに・・・。
 
「ダメって・・・・ちょっと・・・・。」
 
って抵抗するけど、ダメだ。
体は正直で、抵抗どころか、止めないで!って叫んでる。
だけど、今は天(タカシ)と電話が・・・。
考えられなくなった私は、ダメもとで、冬真(トウマ)さんに携帯を返した。
それに気付いた彼は、「たく、しかたねぇーな。」と言うと、自分の後ろ側にあるクッションを、私の顔に向かってポンと投げた。
 
「な・・・に?」
 
何か、すっごい嫌な予感がするんだけど・・・。
 
「まさか・・・・違うよね?」
 
と恐る恐る聞いてみると・・・。
うわぁー、笑ってるよ。
絶対これって・・・合ってるよね。
なんて、思ってゾゾーってした。
 
「俺も麗美(レミ)も、このままじゃおさまんねぇーだろ?
そして、天(タカシ)も、用件だけ言って、切れる状況じゃねぇー。
なら、方法は一つしかねぇーじゃん!」
 
冬真(トウマ)さんは、そういうと私の中に一気に入ってきた。
私は、声を出しそうになった。
その時、別の声が聞こえた。
 
「天(タカシ)?お前・・・今、何してんの?」
 
それを聞いた瞬間、私は思わずつむっていた目を開けたよ。
開けて、違う叫びをした。
 
「うそぉー!!」
 
って。
だって、やりながら、息子と話する?
 
「何、考えてんのよ!!」
 
って、言いながら上半身を起こそうとした私の中に、さらに激しく彼は入ってくる。
私の体は、その勢いに、またソファーへとノックアウトされた。
いつもと変わらない彼の激しさと熱さを感じていると、私の感覚も麻痺してきた。
天(タカシ)と話す、冬真(トウマ)さんの穏やかでいて、そしてすごく色っぽい声が、BGMに思えて来た。
 
「へぇー・・・。じいちゃんと、ゲームしてんだ。
宿題は・・・したのか?」
 
「そうだな・・・。あと、30分くらいしたら、病院・・・・出るから。
うん・・・ママも一緒だよ。
っていうか・・・一つになってると言った方が・・・正しいかな?」
 
そういって、笑う冬真(トウマ)さんに、私もたまらず笑っちゃった。
 
「えっ?一つって何か?って・・・。
それは・・・じいちゃんに聞け。」
 
と冬真(トウマ)さんは、答えて笑ってる。
 
「ああわかった。こっち出る時、ママに電話してもらうから。
もう少し・・・いい子にしてろよ。
じゃーな。」
 
そして、携帯を切ると、冬真(トウマ)さんは、携帯を後ろに投げた。
 
「よく、声・・・我慢してたな。」
 
冬真(トウマ)さんは笑いながらそういうと、私の顔に自分の顔も近づけてきて、軽いキスをたくさん私の顔にしてくれた。
 
「それより・・・冬真(トウマ)さんには、呆れちゃう。」
 
なんていいながらも、私も冬真(トウマ)さんにキスを沢山する。
 
「エッチのうまさに?」
 
と答える彼に、「なわけないでしょ。」と言いながら私は笑っちゃう。
 
「よく、あんなに普通に、天(タカシ)としゃべれるわよね。
そんなに・・・気持ちよくないの?」
 
って・・・思っちゃうよね?
あまり感じないから、普通に話せたのかな?って。
でも、冬真(トウマ)さんは、「そんなわけないだろ。」とちょっと苦笑い。
 
「メチャクチャ頑張ったよ。
でも、かなり息が上がってたというか、話してる途中で、俺も声あげそうになって・・・。
やっぱ、無謀な事するもんじゃねぇーな。」
 
彼はそう言ったあと、私の体にキスをしながらこう言った。
 
「もう、二度とやらねぇー。」
 
って。
そのあと、彼の動きがさらに激しくなる。
いつもの、自分を送り込んでくる冬真(トウマ)さん独特の抱き方。
 
私が、初めて冬真(トウマ)さんに抱かれたのは、天(タカシ)を産んで2ケ月が経ったときだった。
彼の仕事の関係とかで、バタバタしてて、そこまで伸びた。
やっぱり、彼とのセックスは、陸(リク)の時と、全く違った。
陸(リク)は、激しくて私を気持ちよくさせるような抱き方だった。
自分が気持ちよくなるよりも、相手みたいな・・・。
だから、いつも陸(リク)が、私よりも余裕があったの。
でも、冬真(トウマ)さんは、そうじゃない。
自分の想いを全て、相手の体に注ぎこんで、自分がスッキリするというか、それで満たされる。
そして、それを受けた相手も、もちろんながら、いってしまうというか・・・。
実は、私、気絶してしまう時があるのよね〜。
情けない事に・・・。
それがまた・・・癖になっちゃうというか。
すっごい危険なんだけど、それだけ愛されているというか、冬真(トウマ)さんの愛で満たせれているのが、幸せで気持ちよくなっちゃって、それもいいかなー。とか思ってる自分がいるのよね。
 
だけどね。冬真(トウマ)さんに、もう何度も何度も抱かれてるんだけど、それでもやっぱりわからないのよね。
なんで、あんなに陸(リク)と、うり二つだったのか・・・。
ちょっとでも、同じところを探そうとするけど・・・探せないまま終わっちゃって。
最初は意識してるんだけど、途中からそれどころじゃなくなって、いつも終わってから、『しまったぁー。』ってなるの。
でも、今日こそは、聞いてみたいなー。
 
私の体から抜けた彼は、起き上がると冷蔵庫に向かい、水を2本取る。
フタを開けて、軽く口を閉めると、それを私に差し出す。
 
「水分、とっておけよ。」
 
「えっ?」
 
と聞くと、
 
「いつもより、汗が出てねぇーからさ。
オペ終わってから、水分とってねぇーだろ?
ちゃんと、補充しておけ。」
 
「ホント、なんでもお見通しなのね。」
 
と笑う私に、「まーね。」と彼も笑い、そして、自分も水を口にする。
私は、ゆっくりと体を起こして、差し出された水を一気に半分くらい飲むと、そのまま、側にいる彼に抱きついた。
 
「なんだよ。今日はやけに、甘えるな。」
 
なんていいながら、「ま・・・いいけどな。」と優しい声で言ってくれて、頭をゴツンとくっつける。
これだけ、密着していると、聞きやすいかも!と思った私は、勇気を出して聞いてみたの。
 
「ねぇー・・・ずっと聞きたかったんだけど・・・・。」
 
「ん?」と冬真(トウマ)さんは言いながら、私を見つめた。
 
「どうして、陸(リク)と同じセックスが出来たの?」
 
私がそう口にした時、冬真(トウマ)さんは丁度、水を口に含んだ時だったので・・・思いっきりむせた。
 
「ちょっと!大丈夫??」
 
と心配しながら、冬真(トウマ)さんの背中を叩く私。
だけど、冬真(トウマ)さんは、かなり苦しそうにむせてた。
しばらくしておさまった冬真(トウマ)さんは、手に持っていた水をテーブルに置くと、ソファーに深く座った。
 
「そんなに、陸(リク)に似てた?」
 
と笑う彼に私は、「うん。陸(リク)そのものだったよ。」とすっごいうなずいて、答えちゃった。
それには、「へぇー。」といいながら、彼はちょっと意味深な笑いをする。
そして、タバコを吸いだした。
 
「ねぇー。教えてよ!
なんで、キスも、それ以上もあんなにそっくりに真似できたの?
全然冬真(トウマ)さんと違うじゃない!ねぇー、どうして?」
 
彼の体に向かって乗り出しながら迫る私に、冬真(トウマ)さんはタバコの煙を、フゥーっと私の顔に浴びせる。
 
「ゴホゴホゴホ。」
 
とむせた私を、冬真(トウマ)さんは「近付くからだろ?」といじわるをいう。
 
「もうっ!」
 
と怒ってお腹にパンチした私の手を冬真(トウマ)さんはつかむと、急に真剣な顔になる。
 
「きっと、それを知ったら、俺を見る目が変わるかもしれない。
いや・・・絶対変わるだろうな。
それがちょっと・・・恐い。」
 
そういって、さらに私を強引に抱きしめる冬真(トウマ)さん。
そんな言葉を聞いたら、もちろん余計に知りたくなったよ。
一体なんなの?って。
でも、冬真(トウマ)さんが言いたくない事なんだと思うと、聞いちゃいけない気がして、私は諦める事にした。
 
「わかった・・・。もう、聞かないから。」
 
そういって彼の髪を、優しくなでた私。
本当に諦めようとしたの。
でも、次の瞬間、冬真(トウマ)さんの顔がズルズルと下がってきて、私の胸元で止まる。
そして、そのまま、また私をソファーに倒すと、彼は動かないまま、その場でジッとする。
そんな彼を、体で感じていてわかったの。
だから、私は何度も彼の髪にふれて、優しい口調で言った。
 
「大丈夫。何も変わらないから。」
 
って。冬真(トウマ)さんは言いたくないような言葉を言ったけど、本当は言いたいんだと思う。
というか、自分を私に知ってもらいたいと、本当は思ってる。
でも、いってしまっていいのか、自分の中で葛藤しているのだとわかったから。
だから、私は、彼にそう言ったの。
すると、しばらくして、彼は顔を伏せたまま口を開いた。
 
「俺が、いとこの春(シュン)とアメリカに渡ったのは、10歳になる年だった。
それから、必死で勉強をして、15歳の時だったかな。
スクールのサークルに入ったんだ。」
 
「サークル??」
 
話が見えなかった。
どうして、陸(リク)のセックス話から、冬真(トウマ)さんの最初の留学話になっているのか?
でも、とりあえず、話を聞くことにした私は、彼の話を聞き、そして疑問に思ったから聞いたの。
そして、冬真(トウマ)さんは、それに答えてくれた。
 
「そう。それは、一応必須科目だったから、どれでもいいからサークルに入らなきゃいけなかったんだ。
もちろん、どれも医療関係の内容でさ。
それで、俺と春(シュン)が選んだのは、『カウンセリング&セラピー』だった。」
 
「カウンセリング・・・セラピー。」
 
「言葉だけだと、話を聞いて、そして救ってやるセラピーって感じがするだろ?」
 
私はうなずいた。
だけど、冬真(トウマ)さんは首をふる。
 
「でも、違うんだ。
相手の話を聞いて、相手の闇を知る。」
 
そう言ったあと、冬真(トウマ)さんは顔を上げた。
私と冬真(トウマ)さんの顔が、触れ合うくらい近くになった。
 
「そして、ここから違うのが、話を聞いて、救ってあげるじゃなくて、そのあと、体感させてあげる事。」
 
「体感・・・。それって・・・。」
 
「そう。『セラピー』イコール『セックス』。
つまり、来た患者の闇が、別れた彼氏が忘れられなくて苦しんでるっていうのなら、彼の特徴を聞いてあげて、俺がその彼が与えた快楽をその人に与えてあげる。
そうする事で、患者のストレスを解決してあげる。
俺は、そういうサークルに入ったんだ。」
 
私は、何も答えられなかった。
だって、まさにそれって、私が冬真(トウマ)さんにしてもらっていた事だから。
ただ、呆然と彼を見ている私から目をそらすと、彼はまた私の胸に顔をくっつけた。
 
「それから、色んな患者にセラピーをしたよ。
でも、見る見るうちに患者が増えたのは、俺だけだった。」
 
「冬真(トウマ)さん・・・だけ?」
 
彼は、顔を伏せたまま少し笑った。
 
「そこは、オヤジの血を濃く受け継いだんだろうな。
そんなに女の経験なんてなかったし、女の抱き方なんて、知らないに等しかった。
でも、だからこそ、相手が望んだままのセックスが、出来たのかもしれない。
俺を指定してくる患者が増えたよ。
1ケ月もしないうちに、俺の生活は、180度変わった。」
 
「変わったって・・・・何が?」
 
「患者を抱く時間の方が、講義を受けてる時間よりも長くなった。」
 
それを、聞いて私ったら、すごい事聞いちゃったのよね・・・。
 
「ねぇー、1日何人くらい抱いてたの?」
 
って。
普通、そういう事は聞かないと思うけど・・・ちょっと、知りたくなっちゃったの。
少しビックリして、顔を上げた冬真(トウマ)さんだったけど、興味津々の私の顔を見て、クスと笑った。
 
「やっぱ、麗美(レミ)は、ちょっと変わってるよ。」
 
と言いながら、私の頬に軽いキスをくれた。
 
「多い時では、20人は抱いてたかな?」
 
「にじゅうにん??」
 
とデッカイ声をあげる私に、彼はおかしそうに笑ってた。
 
「でも、全然みたされなかった。
そりゃ、当たり前だよな。
好きでもない女を抱いてるわけだし、それになんていっても自分を出しちゃいけないんだからさ。」
 
冬真(トウマ)さんは、そう言ったあと、私の唇に熱いキスをする。
 
「本来の俺の抱き方を知ってる麗美(レミ)になら、わかるだろ?
俺に、どれだけのストレスを与えてたかって事が・・・。」
 
「うん。」
 
と即答。それには、彼もちょっと・・・いや、大笑い。
 
「そんなに笑わなくてもいいじゃない!」
 
と突っ込むけど、彼はただ笑っているだけ。
だから、私が話を勧めたの。
 
「それで?そのセラピーって、どれくらいの期間してたの?」
 
すると彼は笑いながらだったけど、答えてくれた。
 
「半年は続けなきゃ単位もらえないから、春(シュン)は半年だけしてた。
アイツは結局何回目かセラピーしてるうちに、自分を出しちゃうみたいで、患者のみんなが最後にはアイツに惚れちゃってさ。」
 
「それもまた・・・すごいわね。」
 
と感心しちゃう私。
春(シュン)さんは、さっきも出てた、雪先生の双子のお兄さんである院長の秋先生の息子さん。
初めて彼に逢ったのは、天(タカシ)が生まれるちょっと前に、私が冬真(トウマ)さんのマンションに押しかけた時。
春(シュン)さんは冬真(トウマ)さんのマンションの1階下に住んでて、何かあれば力を貸し貰う事も出てくるだろうからと、冬真(トウマ)さんが紹介してくれた。
逢う前に、冬真(トウマ)さんに、「驚くなよ。」とは言われていたんだけど、春(シュン)さんに逢って、やっぱり言っちゃったのよね。
 
「うそぉー!!」
 
って。
だって、冬真(トウマ)さんと、うりふたつの顔してんだもん。
父親同士が双子だから、わからなくもないけど、ホントにそっくりなんだよ。
だから、正直働くのも不安だったんだよねぇー。
間違えないかな?って。
でも、冬真(トウマ)さんって、表向きは『優しいいい人』じゃない。
で、春(シュン)さんは、『冷たい人』なわけよ。
だから、今のところ間違えてないんだけど、話すときは気を使ってるなー。
だけど、見た目は、冬真(トウマ)さんとそっくりな春(シュン)さんでも、性的感覚は当たり前の事ながら違ったって事か・・・。
 
「それじゃあ、春(シュン)さんは半年でやめちゃったんだよね。
なら、冬真(トウマ)さんは?どれくらい続けてたの?」
 
「2年かな。」
 
「そんなに?」
 
と驚く私に、「患者が離してくれなくてね。」と笑ってごまかす。
 
「もしかして、好きな患者とか・・・いたんじゃないの?」
 
と疑いの眼差しを送るけど、
 
「自分を出せない相手を、好きになるわけないだろ?」
 
と突っ込まれた。
もちろん、かわいくない私は、さらに冬真(トウマ)さんに意地悪をいう。
 
「私だって、初め患者だったじゃない!」
 
って。だけど、冬真(トウマ)さんは、「それは違うよ。」と笑うと、体を起こして座る。
そして、私の腕をひっぱって、強引に起こすと自分の胸に向かってひっぱる。
 
「俺は、セラピーをする前から、麗美(レミ)が好きだったんだから。
そこは、間違えるなよ。」
 
彼はそういって、キスをして、すぐに離した。
いつもの彼とは違うキスに、「ん?」と私は聞いた。
 
「セラピーと言っても、結局は、女遊びと同じだもんな。
こんなに遊んでいた俺と結婚して、後悔した?」
 
彼の言葉に、もちろん・・・鼻で笑って答えちゃった私。
 
「なんだよ。」
 
とすねる彼に、私は笑って答えた。
 
「そんなわけないじゃない。
反対に感謝してるわよ。」
 
それには、「えっ?」と彼は驚く。
 
「冬真(トウマ)さんが、セラピーをしていたから、『あの技』ができたって事でしょ?
あれには、本当に救われたから。
それに、あれがあったから、私・・・冬真(トウマ)さんの大切さというか、必要性がわかったのかもしれないもん。
たくさんの女性に感謝しなきゃ。」
 
私はそういって、自分から彼に抱きついた。
 
「でも・・・この話・・・陸(リク)知らなかったんじゃないの?」
 
と耳元でいうと、
 
「ああ。話してなかったと思うけど・・・。でも、何で?」
 
とキョトンとして彼は言う。
だから、教えてあげたの。
 
「前に、冬真(トウマ)さんが由梨華(ユリカ)をふった事、あったじゃない?
あの時の話を陸(リク)にしたら、『俺の方が冬真(トウマ)より女を知ってる』って言ってたの。」
 
「へぇー、アイツがねぇー。」
 
「でも、それって・・・反対よね?」
 
「えっ?」
 
なんていいながら彼は笑ってた。
 
「冬真(トウマ)さんの方が、色んな女性知ってるじゃない。
陸(リク)、絶対にあの世で、驚いてるよ。」
 
と笑うけど、冬真(トウマ)さんは、「アイツの言ってる事はあってるよ。」と笑って、私の頬に両手で触れた。
 
「アイツは、心から愛した女性を抱く喜びを、知ってる。
前に話した教師と、そして、麗美(レミ)。
いえば、2人経験があるという事。
でも、その時の俺には、1人もなかったんだ。
俺は、陸(リク)より、女を知らないよ。」
 
そういって、冬真(トウマ)さんは私に軽いキスをして、また口を開いた。
 
「だけど、俺は、一生、陸(リク)に負けたままでいいんだ。」
 
「それ・・・どういう事?」
 
「俺の人生の中で、心から愛する女性は、たった一人でいいって事。
麗美(レミ)だけで、充分だ。」
 
彼はそういって、いつもの彼流のキスをくれた。
すごく嬉しかったの。
知らなかった彼の一部が見れたこと。
そして、彼を知れば知るほど、私は彼からたくさんの愛をもらう。
それが、幸せで、私はまた冬真(トウマ)さんを好きになってた。
 
 
 
 
「なー、オヤジー。なんで、いつもバラなんだよ。
そもそも、こういう場所にバラは、やばくねぇーか?」
 
天(タカシ)はそう言いながら、とげに気をつけてバラを、左右に1本ずつ挿した。
 
「いいんだよ。こいつが好きだった花だから。」
 
と笑う冬真(トウマ)さんに、
 
「だからって、場所をわきまえろよ!!」
 
なんて、ぶつくさ言いながらも、言われた通り花をセットすると、次はバラの香りがする線香に火をつけ、中央に置いた。
そして、みんなで、手をあわせてお祈りした。
 
「天(タカシ)、報告したか?」
 
冬真(トウマ)さんの言葉に、「まだ。」と言うと、
 
「ちゃんと、口に出して言おうと思って、心では何も言わなかったんだー。」
 
というと、改めて、『彼』の前に、しゃがみなおした。
 
「陸(リク)パパ。俺、明日、アメリカに行くよ。
ニューヨークで、陸(リク)パパがなれなかった医者になってくるから。
18までに、何としても戻ってきて、高校3年は、陸(リク)パパが通った高校で過ごして、俺はそこを卒業するから。
陸(リク)パパが果たせなかった事は、俺がする。
オヤジや、母さんができなかった事は、俺がするから・・・。」
 
と笑顔で言った天(タカシ)の頭に、ポンと冬真(トウマ)さんが、右手を置く。
 
「よく言うよ!たった5年で、心臓外科医になって、戻って来れるわけねぇーだろ!」
 
と言われちゃうけど、気が強いのは私譲りかもしれない。
冬真(トウマ)さんを見上げると、「ふん。」と天(タカシ)は言って、アッカンベーをした。
 
「いいだろー。夢ぐらい持ってもー!!」
 
と、はむかう天(タカシ)に、冬真(トウマ)さんは優しく笑った。
 
「あんまり気負いするな!
5年で無理なら、こっちに戻ってきて、高校を卒業してから、また向こうへいけばいい。
丁度、お前が、高校を卒業する年、大介も陸(リク)が受かった大学を卒業する年だろ?
アイツの頭の良さなら、間違いなくストレートで卒業して、国家試験も通るだろうし。
卒業後は、スクールに留学させるつもりだから、お前も大介と一緒に、心臓外科医としての資格を取りに、向こうに戻ればいいんだからさ。
お前も、兄貴的存在の大介が一緒の方が、燃えるだろ??
とりあえず、18歳という時は、1度しかこないからな。
『今やるべき事。今、最優先にする事。』を間違えるなよ。」
 
冬真(トウマ)さんはそう言ったあと、天(タカシ)の頭をクシャーと乱した。
 
「セットが乱れるだろぉー!!」
 
と嫌がって逃げた天(タカシ)を、ケラケラと笑う冬真(トウマ)さん。
 
「高校の編入手続きをして、待ってるからな。
5年後には、必ず帰ってこいよ!」
 
彼の言葉に、天(タカシ)は乱れた髪を直しながら、「うん。」とぶっきらぼうに答えた。
 
 
陸(リク)が亡くなって10年が経って、天(タカシ)が9歳になった時。
冬真(トウマ)さんは、天(タカシ)に本当の事を話した。
自分は天(タカシ)とは、血がつながっていない事。
そして、父親の名前は陸(リク)で、もうこの世にいない事。
それを聞いた天(タカシ)は、意外な反応を見せた。
ショックを受けると思っていたのに・・・。
それどころか、その日から、天(タカシ)は、陸(リク)と冬真(トウマ)さんの話を毎晩せがんだ。
冬真(トウマ)さんが居る日は、いつも二人で寝てた。
眠るまで、まるでおとぎ話を聞く子供のように、天(タカシ)は冬真(トウマ)さんと陸(リク)との友情の話を楽しそうに聞いていた。
それで、天(タカシ)の中で、自分の進む道というか、自分のしたい事が見えてきたのかもしれない。
小学6年生になり、中学をどこにするかを決める時になった時、天(タカシ)は冬真(トウマ)さんが通ったスクールに行きたいと自分から言った。
私も知らなかったんだけど、向こうに入学するためには、テストがあって、その年齢に応じた知能をテストされる。
それに受かれば行っていいぞ。と言われた天(タカシ)は、それから必死で勉強して、見事受かった。
私は、天(タカシ)には、陸(リク)の子供だといわないつもりでいた。
それは、別に必要ないと思ったのもあったけど、やっぱり、冬真(トウマ)さんと天(タカシ)の関係が、ギクシャクするのが恐かったのかもしれない。
でも、事実を知った今でも、全く二人の関係は変わらない。
何かにつけて、私よりも、冬真(トウマ)さんに相談するし、普通の子供に比べて父親っ子かもしれない。
だってね・・・。
私は、冬真(トウマ)さんと天(タカシ)に目をやった。
 
「なぁー、オヤジ。
オヤジもさー、ニューヨークに行かねぇ?」
 
それには、「はぁ?」と冬真(トウマ)さんは、マヌケ顔で答えた。
 
「行くわけねぇーだろ。
俺はトータル16年も向こうにいたんだからな。
もう、あっこで学ぶ物はねぇーよ。」
 
だけど、「学ぶじゃなくてぇー。」と天(タカシ)は首を振る。
 
「講師になってほしい。って依頼があったんだろ?
なぁー、一緒に行こうぜー。
母さんも、『コイツ』もいいじゃん!
なぁー、俺と一緒にいこうよ!!」
 
と冬真(トウマ)さんの腕をつかんで、かわいくフリフリしたりしてる。
 
「向こうには、霙(ヨウ)だって、紅葉(モミジ)だっているんだからさ。
寂しくないって。」
 
と言いながら困った顔をする冬真(トウマ)さんだけど、私は『違うって!』と心の中で否定した。
天(タカシ)が、冬真(トウマ)さんを誘っているのは、一人で向こうに行くのが、心細いからじゃないのよ!
ホントに、わかってないんだから!!
天(タカシ)が誘っている理由を教えてあげようと、二人に近付いた時、天(タカシ)が行動を起こした。
冬真(トウマ)さんの腕に抱かれている『コイツ』呼ばわりした物体に近付くと、ジーっと見た。
 
「コイツに、オヤジが取られるじゃんかー。
嫌なんだよ!俺なんか、コイツよりも、もぉーっと小さい頃から、小2まで、離れてたっていうのに、ずーっとずーっとコイツだけ、オヤジと一緒でさー。
ずるいよぉー!!」
 
「あのなー・・・。」
 
と呆れる冬真(トウマ)さんだけど、彼の腕に抱かれているコイツは、笑い事じゃなかった。
言葉がわかる『コイツ』は、なんと天(タカシ)に向かってアッカンベーをして、逆襲開始!!
 
「天(タカシ)なんて、どっかいけぇー!!」
 
そういって、冬真(トウマ)さんの体に、ギューっと抱きつく『コイツ』に天(タカシ)はキレた。
 
「コイツー!!!」
 
と手を上げそうになった天(タカシ)。
 
「待ちなさい、天(タカシ)!!」
 
私は、とっさに天(タカシ)を止めてしまった。
天(タカシ)は悪くないのに。
でも、暴力はいけないと思ったから。
相手は小さいわけだし。
だけど、ここが私と冬真(トウマ)さんの違う所。
それでいて、天(タカシ)が冬真(トウマ)さんを、好きな理由だと思ったの。
だって、冬真(トウマ)さんは、天(タカシ)を怒らなかったんだもん。
手を上げそうになった天(タカシ)よりも数秒早く、冬真(トウマ)さんが『コイツ』に手を上げた。
頭を軽く、ペチと叩いた。
 
「翔空(ショウア)!お兄ちゃんに向かって、言う言葉じゃないだろ!」
 
それには、『コイツ』も涙ぐむ。
叩かれたから、すねてんじゃないのよ。
冬真(トウマ)さんが、天(タカシ)の肩を持ったからすねちゃって。
でも、天(タカシ)からしたら、冬真(トウマ)さんが肩を持ってくれて、超ご機嫌!!
 
「お兄ちゃんは、全然怒ってないからねぇー!!
翔空(ショウア)、おいでぇー!!」
 
なんて、さっきとは180度違った顔を見せて、冬真(トウマ)さんから翔空(ショウア)を抱き取る天(タカシ)。
そして、下の広場まで、二人で仲良く手をつないで降りて行った。
 
「あの二人、仲がいいんだか、悪いんだか・・・。」
 
と苦笑いの冬真(トウマ)さんに、
 
「翔空(ショウア)は、性格が荒いからね。
女性には、愛想いいけど・・・。」
 
なんて答えた私の答えに、冬真(トウマ)さんは噴出し笑い。
 
「えっ?何?」
 
と驚く私に、冬真(トウマ)さんは目を向ける。
 
「前から思ってたんだけどさー、翔空(ショウア)の性格って・・・。」
 
と言った彼の言葉の続きを、私が言っちゃった。
 
「陸(リク)に似てない?」
 
それには、冬真(トウマ)さんも首を振って納得。
 
「やっぱ、麗美(レミ)も思ってた?
ホント、似てるよな。
自己中というか、言い出したら聞かない所とか・・・。」
 
「あと、自信過剰な所とか、一途な所とか?」
 
とお互い言い合って・・・、「アハハハ。」と大笑い。
そんな事あるはずないのにね。
翔空(ショウア)は、正真正銘、冬真(トウマ)さんの子供。
大介くんの手術が無事成功して、しばらくして私は妊娠した。
今年、翔空(ショウア)は、4歳になる。
 
すっかり2人の姿が見えなくなった私は、改めて陸(リク)の前に立った。
冬真(トウマ)さんも、振り返って、陸(リク)の前に立った。
 
「陸(リク)が居なくなって、もう13年が経ったか・・・。」
 
冬真(トウマ)さんの言葉に、「ホント・・・早かったね。」と私は笑う。
そして、消えてなくなった線香を補充する。
 
「冬真(トウマ)さんは?この13年どうだった?」
 
と立っている彼に向かって、見上げて聞くと、冬真(トウマ)さんも私の側に座って、線香に火を灯した。
 
「そうだな・・・。」
 
彼はそういいながら、線香を容器に入れると、陸(リク)を見つめた。
 
「幸せだったな。」
 
意外な答えに、「えっ?」と聞く私。
冬真(トウマ)さんは笑いながら、陸(リク)を見たまま口を開いた。
 
「親友の陸(リク)を失って、地獄の底を這いずり回った事も。
親友の愛する人を好きになってしまって、言えない辛さも。
親友に託された夢を果たす為に、自分の持ってる力以上の事にも取り組んだ苦しみも。
そして、親友の子供と、親友の愛する人。
さらに、自分が愛する女性との間に出来た子供。
この3人が自分のものになった喜びも・・・。
全ての経験が出来た事が、俺にとっては幸せだったと思うから・・・。
だから、この13年は、俺にとって幸せな年だったかな?」
 
そして、冬真(トウマ)さんは、陸(リク)の入っている場所にそっと右手をつけた。
 
「陸(リク)。確かに、『カリ』は返してもらったよ・・・。」
 
冬真(トウマ)さんの言葉に私は、彼の腕に触れる。
 
「『カリ』って?」
 
すると、冬真(トウマ)さんは、右手を離すと、新しいろうそくに火を灯し、それをまた所定の位置に補充した。
 
「陸(リク)が手術を終えた後、俺に一番に言った言葉覚えてる?」
 
「もちろん!『感謝してる。』って言ったよね。」
 
冬真(トウマ)さんはうなずいた。
 
「それで、俺言ったんだよ。
『このカリは返してもらうからな。』って。
俺は、あの時、陸(リク)の命が短い事はわかってた。
そして、陸(リク)もわかってると思ってた。
だから、あー、言えば、返せないとわかっているアイツは、こういうと思ったんだ。
『ケチくさい事言うなよ。』って。
アイツらしい言葉で、返してもらえる事を待ってた。
最後ぐらい、いつもの俺たちで終わりたかった。
さよならなんて、したくなかったから。」
 
彼はそういって、ろうそくを2本ともつけ終えると、私を見た。
 
「だけど、アイツはそうは答えなかった。
ただ笑って、うなずいただけ。
あれは、どういう意味だったんだろう?って俺はずっと思ってたんだ。
アイツのあの目は、『カリは返すから』って言ってるようだったから。
でもさ、最近、わかったんだ。」
 
「わかったって?」
 
「俺が陸(リク)に、愛する人との時間を与えてやっただろ?
だから、陸(リク)は俺に、俺が愛する人を『与えてくれた』んじゃないか?って。」
 
冬真(トウマ)さんはそういうと、「よっ。」と言って立ち上がった。
 
「最近、よく陸(リク)の声が聞こえる気がするんだ。
『麗美(レミ)がお前を愛すように、俺が奇跡を起こしてやったんだ。
これで、カリは返したからな!』
って。」
 
冬真(トウマ)さんは、そう言ってすごく穏やかに笑った。
私も、立ち上がると陸(リク)を見る。
 
「そうだね。確かに・・・・そうかもしれないね。」
 
そう言って、私は少し悲しくなったの。
 
「じゃーさ、これで、私だけ、奇跡起こしてないよね?」
 
それには、「ん?」と聞いてくる冬真(トウマ)さん。
 
「私だけ、陸(リク)にもそして、冬真(トウマ)さんにも愛から生まれる奇跡を起こしてないよ。
2人をこんなに愛してるのに・・・なんで、奇跡起きないのかな?」
 
と悲しい声を出す私を、冬真(トウマ)さんは抱きしめてくれた。
 
「何言ってんだよ。
もう、奇跡、起こしてるじゃないか!!」
 
って。「えっ?」と冬真(トウマ)さんを見上げると、すごく優しい笑顔をくれた。
 
「陸(リク)には、二人の愛の結晶である天(タカシ)を、この世に誕生させてくれただろ?
そして、俺にも。
二人の愛の結晶である翔空(ショウア)を、この世に誕生させてくれた。
それこそが、麗美(レミ)が俺と陸(リク)に対してくれた、『愛の奇跡』だよ。」
 
私はそれを聞いて、笑いながら・・・泣いちゃった。
 
「すぐ泣くくせ、なんとかしろよ。
翔空(ショウア)にみつかったら、俺、蹴られるだろ?」
 
と言われるけど、
 
「泣かせる冬真(トウマ)さんが悪い。」
 
と彼を責める私。
そんな私を、彼はおかしそうに笑うと、私の髪をなでながら、私の体から抱きしめていた腕を離した。
 
「天(タカシ)も翔空(ショウア)も、すぐ飽きるからな。
どうせ、もう下で喧嘩してるだろう。
大喧嘩になる前に、俺たちも降りるか。」
 
冬真(トウマ)さんの提案に私も、涙をぬぐいながら、「そうだね。」と答えた。
 
「けどさー、なんであんなに仲が悪いんだ?
兄弟なのにさー。」
 
と言うから、私は思わずつっこんだよ。
 
「自分だって、人の事言えないでしょ!
聖(アキラ)くんと、仲悪いじゃない!」
 
そうなんだよねぇー。
いとこの春(シュン)さんとは、ホント仲がいいんだけど、実の弟の聖(アキラ)くんとは、ホント仲が悪い・・・らしい。
『らしい』というのは、今は仲がいいからね。
昔を知らないから私は、ピンと来ないんだけど、聖(アキラ)くんがニューヨークに留学して2年後に、冬真(トウマ)さんが心臓外科医になる為に渡米したのね。
向こうで、2年間一緒に過ごしたらしいの。
そこで、わだかまりがなくなったみたいでね。
聖(アキラ)くんは、たった4年で医者になって、こっちに戻ってきたの。
そして、冬真(トウマ)さんはそこから2年後に戻ってきて、一緒に働いてるんだけど、とぉーっても仲良し。
お互いの得意とする分野をうまく利用しつつ、ホントに名コンビって感じで。
でも、昔を知っている、桜さんや、果帆さんは、
 
「信じられない。」
 
とか、
 
「もう・・・世界も終わりよ!」
 
とか言ってるくらい・・・信じられない光景らしい。
 
「仲が悪かったのは、昔の事だろ?
今は、仲良しだって。」
 
「でも、何で急にわかりあえたの?」
 
って、マジメに聞いたのに、
 
「お互いガキだったってことかな?」
 
とうまく、はぐらかされた。
どうやら、向こうで過ごした2年は、秘密みたい。
 
「けどさー、って事は、天(タカシ)も翔空(ショウア)も、大人になれば、仲良くなるという事か。」
 
なんて、嬉しそうにいうけど・・・。
 
「そうはいかないと思うけど・・・。」
 
と私。
 
「えっ?何で?」
 
と不思議そうに言われた。
っていうかさー、気付いてないの?といいたい。
というより・・・言っちゃった。
 
「なんで、二人が仲悪いか、わかってないの?」
 
って。
 
「えっ?何?」
 
ともちろん答えられてしまった。
私はため息を付くと、冬真(トウマ)さんを見る。
 
「冬真(トウマ)さんの取り合いをしてるのよ。
どっちが、冬真(トウマ)さんを取るかで競争してるんだから。
そんなの、分かり合うわけないじゃない!」
 
といいつつも、私は、「けど・・・。」と加える。
 
「ん?」
 
と聞いた彼の腕に私は自分の腕をからませると、冬真(トウマ)さんにくっついた。
 
「あの子たちも、抜けてるわよねぇー。」
 
「抜けてる?」
 
「そう。」と言って、思わず笑っちゃった。
 
「なんだよ。」
 
なんていいながらも、彼も笑ってる。
あまりに私がおかしそうに笑ってるから、つられて笑っちゃったみたい。
 
「だって、二人がライバルと思って戦ってるけど、ここに強力なライバルが居る事忘れてるじゃない。」
 
って、自分を指す私。
だって、冬真(トウマ)さんを誰にも渡したくないのは、私だって、一緒なんだから!!
子供たちが、彼を独り占めしていると、やっぱり、ムカーってくるのよ。
そして、子供たちが寝た後、たぁーっぷり愛してもらうんだけどね。
 
「ホントだな。」
 
冬真(トウマ)さんは、笑うと、私の荷物を持ってくれて、陸(リク)に手を振ると、ユックリと歩き出した。
私も、陸(リク)に挨拶をして、冬真(トウマ)さんの横を歩く。
 
「子供たちが俺を独占したあとって、麗美(レミ)、すっげぇー、激しいもんな。
俺をほしがるお前が、時々恐かったりするもん。」
 
と笑う冬真(トウマ)さんに、「うそぉー。恐いの?」と絶叫。
でも、冬真(トウマ)さんはケラケラと笑うだけ。
 
「ねぇー。これからさ、天(タカシ)や翔空(ショウア)が、どんな奇跡をみせてくれるか、楽しみじゃない?」
 
と笑っている彼に話してみると・・・。
 
「そうだな。」
 
と軽く答えられた。
 
「ねぇー、もっと、ワクワクとかしてよ!」
 
って言うけど、冬真(トウマ)さんは何も言わないで、私に歩きながら軽いキスをした。
 
「な・・・に?」
 
不意をつかれた私は、もちろん、驚いた。
だけど、冬真(トウマ)さんはなんか・・・楽しそう。
 
「ねぇー、なんで、そんなに笑ってるの?」
 
というと・・・。
 
「子供たちは、置いといて、俺たちでもっと奇跡起こそうよ。」
 
冬真(トウマ)さんはそう言ったあと、足を止めると、今度はいつものいやらしくて、熱く麻痺してしまうようなしびれるキスをしてくる。
訳がわからないんだけど・・・ダメだ。
このキス、すっごい感じちゃうんだよ。
気持ちよくて、彼の唇を離せない私は、抵抗も出来ず、彼からの愛を受け取った。
 
「なー、麗美(レミ)。」
 
冬真(トウマ)さんは唇を離すなりそういうと、私を見つめた。
 
「俺さ、もっともっと色んな奇跡を起こしてみせる。
だから、麗美(レミ)も、俺に愛の奇跡をくれよ。」
 
「奇跡・・・・って?」
 
するとまた、ニッコリ笑いをする彼。
その笑いが・・・なんか、恐い。
彼の愛で満たされていた気持ちよさが、一気に冷めちゃうくらい・・・恐かったの。
 
「俺さ、女の子がほしいんだよ。
麗美(レミ)に似た、すっげぇー、かわいい女の子がさ。
だから、よろしく!!」
 
って言われた。
彼は言った後、スタスタと前を歩く。
しばらく放心状態の私。
なんだけど、少しして正気に戻って・・・。
 
「ちょっと、待ってよ!!そんなの無理に決まってるじゃない!!」
 
彼の側に走っていって、腕をつかんで必死で否定する。
 
「なんでだよ。」
 
「なんでだよじゃないでしょ。
限定はやめてよ。
そんなの無理に決まってるじゃない。
もし、男の子が生まれたらどうするのよ。」
 
「だったら、次頑張ればいいだろ?」
 
って、即答しないでよ。
そんなの・・・きりがないじゃない。
ていうかね・・・私は、女の子は無理な気がするの。
冬真(トウマ)さんが相手じゃ、とても無理なような気がして・・・。
力なくため息をつく私を冬真(トウマ)さんは、おかしそうに笑う。
 
「笑い事じゃないって。」
 
と文句をいう私に、冬真(トウマ)さんは、「だから言ってるじゃないか。」という。
彼を見上げる私に、彼が言った言葉は・・・。
 
「愛で奇跡を起こして!って。
女の子を産みたいって思いながら俺への愛で、子供を産んでくれよ。
きっと奇跡が起きて、女の子が生まれるって。」
 
冬真(トウマ)さんは、そう言って笑うと、
 
「心配すんな。俺が麗美(レミ)を愛して起こす奇跡で、女の子にしてやるからさ。