チャイムが鳴る。
眠くてたまらなかった授業もやっと、午前が終了する。
「起立!礼っ!」
学級委員の声と共に、私たちは立ち上がると、教卓に立っている先生に礼をする。
「はぁー。終わった終わった。」
とイスにドカっと腰をおろす。
そんな私の元に、親友の植田 由梨華(ウエダ ユリカ)が、猛ダッシュでくる。
でも、私に用事があってくるのではない。
私の横にある『窓』に用があってくるの!
それはね・・・。
窓際の私の席にくると、窓を見るなり、いきなり叫ぶ。
「きゃぁー!!陸(リク)先輩よぉー!!」
って。
由梨華(ユリカ)の声に、「うそっ!マジ?」と教室中の女どもが、ワラワラと窓際に集まる。
そして、校庭にくぎづけ!
私は、机に肘をついて、面倒くさそうに、窓に目を向ける。
校門から、堂々と大きなあくびをして、歩いてくる男。
今、何時だと思ってるわけ?
バカじゃないの?
と呆れる私の目に、さらにムカつく光景が!
校庭を歩く男の前に、女の子3人が近寄る。
何か、彼に包みを渡してる。
それを、彼は笑顔で受け取ると、手を振ってその場を去る。
受け取ってもらった女の子は、お喜びなんだけど・・・。
私は、胸がムカムカしてきた。
「なんなの、アイツ!!」
たまらずそういった私に、周りにいた女の子も、「そうよねぇー。」と私の言葉に同意する。
「えっ?みんなもそう思うの?」
意外だった。
だって、みんなアイツが好きだから、絶対に思ってないかと思ったんだけど・・・。
そうだよね、みんなだって、いくらなんでも許せないよね。
って思ったんだけど・・・。
由梨華(ユリカ)の次の言葉で、それは、崩れた。
「ホントっ!あの女許せないわ!
1年生でしょ?先輩をさしおいて、何考えてるのよ!!」
「ちょっと、由梨華(ユリカ)・・・何言ってるの?」
と彼女にいうけど、
「ホント、そうよ!許せないわ!」
と他の女子が言い出す。
すると・・・。
「あの子、知ってるわよ!
ウチの部活の後輩だから。
なんなら、しめとこうか?」
「そうね。しっかり言っとかないと!
私たち、2年生ですらも、恐れ多くて陸(リク)先輩には、誕生日プレゼントはもちろん、バレンタインもあげれないっていうのに・・・。
あのガキ、ふざけてるわよ!!」
それには、由梨華(ユリカ)も「そうよねぇー。」と言ってるし。
私は・・・。
恐っ!
と身震い。
あんな最低男に、そこまで熱くなってるみんなが、恐いよ。
アイツは、女と見たら、見境ない最低男だよ。
いっつもつれてる女は違うし、廊下でもキスしてたり、信じられない事をよくしてる。
それに、実は私、誰にも言ってない秘密がある。
それはさー。
その時、
「柚川(ユズカワ)っ!」
と廊下から呼ばれた。
担任の先生だった。
さっきまでは、英語の授業だったのに、社会の担任がなぜここにいる?
私は、先生の方に行きながら、「なんですか?」と聞いてみる。
「昨日、提出してもらったみんなのノート、そこの棚に置いたままなんだ。
悪いが、職員室の俺の席に置いといてくれ。
柚川(ユズカワ)は、社会の担当だっただろ?よろしくな。」
と言って教室から出て行く。
うちのクラスは、生徒全員が、なんらかの役割を持たされてる。
私は、クラブも何もしてないから、たくさんある教科のうち、何かを担当させられてる。
で、私はくじ運が悪く、なんと自分の担任の教科である、社会の世界史を担当させられた。
とはいえ・・・。
私は、ノートがある棚に行く。
すごい数なんですけど・・・。
これを、一人で持っていくのかよ!!
でも、由梨華(ユリカ)は、放送部員だから、昼休みは教室にはいないのよね。
もうじき、お弁当を持って、放送室にいくはず。
仕方ない。一人で行くか。
「麗美(レミ)!途中まで、持って行ってあげるよ!」
と言ってくれる由梨華(ユリカ)だけど、昼休みはとっくに始まってるから、彼女も急がなきゃいけないのに・・・。
「大丈夫。1人で持っていけるから。」
と笑顔で答えて、彼女を放送室へと送り出す。
私は、お昼のお弁当が入った袋を腕にかけると、ノートを「よいしょっ!」と声をかけて持つと、教室を出た。
よしっ!あともうちょっとで、職員室のドアだ。
私はドアの前で立ち止まった。
そして、片足を上げて、膝にノートを乗せると、それを片手で支える。
バランスを崩さないように、そーっと腕を伸ばして、ドアを開けようとしたら・・・。
「ガラー!」
勢いよくドアが開いたものだから、私の伸ばしていた手は、空(クウ)を切る。
そして、もちろん、バランスを崩した私は、バサバサとノートを散らかしてしまった。
「あっちゃー。やっちゃったよ。」
と言いながら、私はノートを拾い集める。
それを、見たドアを開けた人も、「ごめん。」と謝って、しゃがみこむと、一緒にノートを拾い集めてくれた。
「すみません。」
と言って、その人を見ると・・・。
「あっ・・・。」
動いていた手を止めて、その人に見とれてしまう私。
その人は、気にしないで、全てを拾い集めてくれると、それを私に「はい。」と渡してくれる。
まだ、ボーっと見ている私に、「どうかした?」ととても優しく言ってくれる。
この人は、葛城 匠(カツラギ タクミ)さんといって、1年先輩の、3年生で、この学校の生徒会長なんだ。
成績優秀で、入学当初から、ずっとトップに君臨しているすごい人。
ガリベンかと思えば、全然。
すごく話易いって有名だし、あとすっごく優しくて、笑顔が素敵で、実は、ひそかに私は匠(タクミ)さんに憧れているの。
こんなに、近くで見れるなんて・・・担任に感謝しなきゃ!
うっとりしている私に、匠(タクミ)さんは、ノートを持つと、
「この先生の席を教えて。僕が持って行ってあげるよ。」
ととぉーっても優しい言葉をくれる。
私は、一緒に職員室に入って、担任の席を教える。
その時、担任が戻ってきた。
「あれ?葛城(カツラギ)じゃないか?
なんで、お前が?」
というけど、匠(タクミ)さんは、「お前が?じゃないですよ。」と少し先生に偉そうにいうと、
「女生徒に、これは、ひどいと思いますが・・・。」
すると、「悪い悪い。」と謝り、「今度から、注意するよ。」と言って担任は、笑う。
先生にそういわせる匠(タクミ)さんの信頼さというか、すごさを間近で感じて、私はさらに匠(タクミ)さんを素敵と思ってしまった。
一緒に、職員室を出た私たちは、「それじゃ。」と匠(タクミ)さんに言われて、私は何も言えないまま、ただ匠(タクミ)さんに手を振った。
お礼に、学食でもおごります。とか言えばよかったよ・・・。
と自分を責めながら、屋上へと向かう私。
由梨華(ユリカ)が、教室でご飯を食べないから、私はいつも、1人で屋上で食べてる。
友達がいない。ってわけじゃないのよ。
みんな、食べようよって言ってくれるんだけど、でも気を使っちゃうし、それに、話題は、あの男の事ばっかりなんだよ。
私の大っ嫌いなね。
だから、嫌なの。
あと、私は本を読むのが好きなんで、屋上は静かだし自分の世界に入れるから、好きなんだ。
そして、私は屋上の扉を開ける。
入ってすぐに、周りをキョロキョロと確認した。
そして・・・。
「よかったぁー。アイツ来てないや!」
と声を上げて、胸をなでおろしたんだけど・・・。
「アイツって、もしかして、俺の事?」
背後で声がして・・・私は、勢いよく振り返った。
そして、その人物を見て、クラクラする。
「なんで・・・アンタ、いるのよ!!」
でも、そいつは、それには答えずに、私の持っているお弁当をひったくる。
「ちょっ・・・何すんのよ!!」
すると、屋上の壁にもたれながら座り込むと、さっさと広げて食べだす。
「アンタねー。」
と怒り出す私に、彼は持っていたパンを私に向かって投げた。
「それ、食えよ。」
「はぁ?」
と呆れる私。
そして、そのパンを彼に向かって投げ返した。
「意味、わかんないんだけど!
なんで、私がアンタにお弁当食べられなきゃいけないの?
なんで、私が、アンタのパンを食べなきゃなんないのよ!
って・・・ちょっと、聞いてるの!!」
と怒鳴り散らすけど、知らん顔で彼は、私のお弁当を食べる。
「もうー!!」
と怒る私に、「これ、やるから怒るなって。」ときれいに包まれた箱を私に渡す。
これ・・・。
「さっき、女の子が渡したやつでしょ?
どういう、つもり?」
そうなんだよねぇー。
目の前にいる、この非常識かつ、わけわかんない男は、由梨華(ユリカ)も含め、教室の女たちが、騒いでた『陸(リク)先輩』こと、葛城 陸(カツラギ リク)。
彼の名前を聞いて、「ん?」って思った?
そう、さっきの優しくて紳士的な、私の憧れの匠(タクミ)先輩とは、二卵性双生児の双子の兄弟なの。
性格も全然違うけど、顔も全然違う。
匠(タクミ)先輩は、ちょっと童顔で、どちらかといえばかわいい系。
で、この目の前にいるムカツクやつは・・・悔しいけど、男前。
みんなが騒ぐだけのことはある。
こうやって、近くで見ていると、ホントにそう思う。
体からは、気持ちが安らぐような香水の香りもするし・・・。
って、コイツを褒めてどうする!!
私は、コイツが、ホントにホントに嫌いなの!
女にはだらしないし、さっきのも見たでしょ?
女の子がくれたプレゼントも、手紙やお弁当も、ぜーんぶ人にあげちゃったり、そのまま中身を見ないでゴミバコに捨てたり。
私は、この2年間、こういう最低なコイツを、ココでずっと見てきたんだから。
だからコイツの、最低ぶりは、誰よりもよく知ってる。
なら、なんで、その最低男と一緒に話しこんでるかって?
それは、ここ!屋上での事が、全ての始まり。
私は、入学して、しばらくしてこの場所を見つけた。
でも、その時は、すでに彼はここに居座っていて、私が横入りした感じになった。
もちろん、彼は一人でここにいたわけじゃない。
毎日違う女と、ここに来てた。
抱き合って、キスして、甘い言葉を囁きあって、その先も・・・してたのかもしれない。
3年生の女は、全て陸(リク)に食われてる・・・ってすごい噂が流れるくらい・・・女癖が悪いみたいだからね。
でも、ある日を境に、彼は女を連れてこなくなった。
それは・・・ある事がキッカケだった。
私にとって、ここは、特別な場所だったの。
私の両親は、母親の不倫が原因で、中学くらいから、家の中はゴタゴタしてた。
両親はいつも、喧嘩して、母親は家事は一切しないで、仕事と男に溺れてた。
家に帰れば、私は、家事と父親の食事に追われて、息つく暇というか、自分の時間がなかったから。
心休まるのは、ここでの時間だけだったの。
地上よりも少し高い所にいるせいか、空気も澄んでて気持ちいい。
音もそんなに聞こえなくて、静かで、唯一現実逃避できる時間だったから。
でも、そこは、アイツの領域内だと知って私は、他を探そうとしたの。
だけど、こんなにいい場所はなくて、仕方なく私は、彼と一緒でもいいや。って、我慢する事にしたの。
彼が女を連れ込んでランチをしてようが、いちゃつこうが、この広い屋上の、隅と隅にいたら、そんなの関係ないしって・・・。
でも、私・・・泣いちゃったんだよねー。
アイツが、女をここで、抱こうとした時。
女が、アイツの愛撫に感じて、声を出したのね。
それを聞いたら、思わず泣き出しちゃった。
母親と、かぶってしまって。
結局、私の父と母は、私が高校になってしばらくして、離婚した。
父は、家を出て行き、母はつきあっていた男と、半年たったら、結婚すると言い出した。
私は、母が自分の知らないところで、『女性』になってる事に、耐えられなかったの。
家庭を壊して、男の人を選んだ母が・・・。
きっと、母も、その恋人に抱かれる時、こういう声を出すのか・・・とか、考えたら、悲しくて辛くて涙が出てしまった。
もちろん、泣き出した私をみて、アイツの女は、私とアイツとの仲を疑った。
「何なの!この女!
陸(リク)とどういう関係よ!!」
って。
私につっかかってくる彼女を、アイツは「やめろ。」と止めた。
「だってー。」
という彼女に、アイツは私の頭を優しくなでた。
「悪かったな。もう、やらねぇーから。」
アイツはそう言って、彼女と共にここを出て行った。
それから、アイツとは、しばらく逢わなかった。
もう来ないのかと思ったのに・・・。
それから、1週間後、アイツは一人で来た。
あの時の事をいうわけでもなければ、会話もない。
ただ、いつもの位置に座って、パンを食べながら、バイクの雑誌を見てた。
そして、授業開始5分前のチャイムが鳴れば、私は屋上を出て行く。
でも、彼は、全く気にしないで、そのまま座ったまま雑誌を見てる。
お互い、声なんてかけなかった。
そんな時間が、続いて・・・気が付けば、2年生になってた。
最近になって、アイツは、少し私に話してくるようになったけど、私はアイツを知れば知るほど、どんどん嫌いになっていったの。
と同時に、私の胸もドンドン苦しくなっていった。
だって、彼と、屋上で逢ってることなんて、由梨華(ユリカ)には、言ってないもん!
きっと、由梨華(ユリカ)にいえば喜ぶだろうけど・・・言えない。
だって、コイツ・・・本当に最低なんだから。
由梨華(ユリカ)がこの事を知って、コイツと接点を持ってしまったら、絶対に・・・犯されるよ。
そんなの嫌なの!
由梨華(ユリカ)は、大事な大事な親友だから。
こんな最低男に、玩具(オモチャ)にされるなんて・・・。
だから、どうしても、由梨華(ユリカ)には言えなかったの。
でも、理由はどうあれ、これって、裏切ってることだよね・・・。
私は、たまらず、「はあー。」とため息を吐く。
それを、見ていたアイツは、お弁当を食べていた手を止めて、私を見る。
「どうした?何か悩み事か?
弁当もらったお礼に聞いてやるぞ!」
って・・・。
「誰も、やってないから!」
と突っ込みつつも、こうして彼と会話をしている事自体も、裏切りと思えてしまって、私は、今の自分がトコトン嫌になった。
ここから、出よう。
私は、彼に何も言わずに、屋上を出て行こうとした。
そんな私にもちろん彼は声をかける。
「もう、帰るのか?」
私は、何も言わずに歩く。
「おいっ!」
と声をかける彼に、私は振り返ると、
「弁当箱は、捨てていいから。
あなたのお得意でしょ?」
そういって、手に持っていたさっきの包みを彼に投げた。
「これと、一緒に捨てたら?じゃね。」
と歩き出す私に、「おい、待てよ!」と彼は私の方に向かってくるけど、私は一つ決めた事を彼に言おうと思って、振り返った。
「そうだ。私、もうここへは来ないから。」
「なんで?」
目の前に来た彼はそういう。
なんで?って、そんなの決まってるじゃない!と思いながら、私は口にした。
「あなたと、逢いたくないから。
私は、あなたが、大嫌いなの。
女性を遊ぶ対象にしか見ていないあなたがね。
だから、もうここへはこない。それだけ。」
私は、そういって振り返ると、扉に手をかけた。
その時、彼が私の腕を強くひっぱり、私は彼の方に強引に振り返された。
「な・・・なにする・・・・。」
本当は、『のよ』ってつけたかったけど・・・いえなかった。
だって、私の唇は彼に奪われたから。
「ん・・・・。」
と私は言いながら、思いっきり彼を押した。
重なっていた彼の唇が離れた。
すかさず、私は彼の頬に1発お見舞いする。
思いっきり叩いた頬を、彼は「いってぇー。」と言いながらなでる。
「最低よ。あんたなんて・・・史上最強に最低の男よ!」
でも、彼は頬をなでながら、「よく言うよ。」と意地悪な笑いを浮かべる。
「はぁ?」
と言いながらにらむ私に、彼は私の頬に触れてきた。
あからさまに、ビクっと飛び上がる私に、彼は「フッ。」と声を出して笑うと、
「俺のキスに、感じてただろ?」
なんていって、頬に触れていた手を私の唇に、優しく触れる。
思ったより柔らかな彼の指先。
私とは違う温度を指先から感じていると・・・気が変になりそうだった。
「もっと、気持ちよくさせてやろっか?」
そう囁いた彼の声は、さっきまでとは違う。
とても色っぽくて・・・うっとりしてしまうような声。
だんだんと彼の唇が近付いてくる。
何してんの?
早く抵抗しなきゃ!
両手で彼を、向こうへ押さなきゃ!
って頭では思ってるの。
でも・・・体が動かない。
彼の唇がドンドン近付いてきた。
彼との距離が数センチになった時、彼の吐息を感じた。
彼の香水の香りも、いつになく近くに感じた。
その時、私は、2年前に彼がここで、女の人を抱こうとしてた時の事を思い出した。
あの人の声。
そして、母も・・・。
そう思ったら、こういうキスを母もしていたんだと知る。
母を心から最低だと思っているのに、自分もその人と同じ事をしようとしてる?
私は、たまらなくなって、彼を思いっきり突き放した。
そして・・・その場にしゃがむ。
「おい・・・。」
彼は、それ以上何も言わなかった。
そりゃそうでしょ。
だって、私、小さくうずくまって、物凄く震えてるんだもん。
ガタガタと震える私に彼は、戸惑う。
「どうしたんだよ・・・お前。」
そして、私の肩に触れようとした彼の手を、「もう・・・やめて!」という私の泣き叫ぶ声が止める。
私は、涙で濡れた瞳で彼を見る。
「これ以上、自分を嫌いになりたくないの・・・。
だから・・・もう、やめて。」
「それ・・・どういう意味だよ。」
彼の戸惑いは、瞳にも現れてた。
こんなに動揺している彼の瞳をみたのは、初めてだった気がする。
いつも、どんな女といる時も、彼は余裕の瞳だったから。
でも、これは私を心配してるわけじゃない。
自分を初めて拒絶した私に、戸惑ってるだけ。
自分になびかなかった私が、珍しいだけなんだ。
そんな彼に・・・私の気持ちなんていいたくない。
私は、震える足に力を入れて、立ち上がる。
「さようなら。」
私は彼にそういうと、扉に向かって走り出した。
「待てよ!」
と彼が私の腕をつかむけど、私はそれを強引に振り払って、屋上から出た。
「麗美(レミ)っ!帰ろ!」
今日の授業は全て終わって、今は下校の時間。
部活動をしていない私も、昼休み以外は活動をしない放送部の由梨華(ユリカ)も、ここからは自由の時間。
私は、「う・・・ん。」と言って、帰る支度をした。
何もいわずに廊下を歩く私に、由梨華(ユリカ)は心配そうに私を見る。
「麗美(レミ)・・・何かあったの?」
「えっ?」と聞く私に、「昼休みあけてから、変だよ。」と由梨華(ユリカ)はいう。
「うん・・・ちょっと、体調悪くて。」
とごまかした私。
だって、あれから、私の気持ちはモヤモヤしてる。
嫌いな彼に、無理やりキスをされて、怒ってもいいはず。
そして、嫌いなアイツと、さよならできて、喜んでいいはず。
でも、そうじゃないの。
心はチクチクと痛い。
彼が、どうして、私にキスをしたのか知りたい。
最後に私に見せたあの戸惑いの瞳は、私の事を心配してくれたわけじゃないって思ってるけど・・・本当にそうだったの?とか・・・。
そういう考えが、胸をしめつける。
でも、その一方で私は思うの。
そんな事考えて、私は何を期待しているの?って。
彼が、私を好きであってほしい。って・・・そう思ってるのか?って。
そんな事、あるはずないし、私だって彼の事大嫌いなのに。
どうでもいい事じゃない!って・・・そう頭では思うけど。
でも・・・一つだけ思うこと。
私は、左手首を右手でそっと触れた。
最後に彼に、つかまれた場所。
ここには、まだ彼の手のぬくもりが、ハッキリと残ってる。
私は、あの時思ったの。
離さないで。このまま・・・私をその腕で力強く抱きしめてほしいって。
なんで、そう思ったのかわからない。
でも、心が壊れそうだった私の支えに、なってほしいって・・・その時は、本気でそう思った。
ううん。彼になら、支えになってくれるくらいの大きさがあると・・・思ったのかもしれない。
「あー!!陸(リク)先輩だー!!」
校庭に出た私たちの前に、歩くアイツを見つけた由梨華(ユリカ)。
いつもは女に囲まれている彼だけど、珍しく今日は1人。
そんな絶好のチャンスを、由梨華(ユリカ)が、見逃すわけがない。
「麗美(レミ)。行くよ!!」
私の腕をつかんで、由梨華(ユリカ)はアイツの元へと猛ダッシュする。
「ちょ・・・ちょっと、待って。
私はここにいるから・・・。」
って言ってみるけど、「いいから、いいから。」と強引に由梨華(ユリカ)は私ごと、彼の元へと向かう。
「陸(リク)せんぱーい!!」
由梨華(ユリカ)の声に、アイツは振り返った。
何気なく振り返ったアイツの顔が、私の姿を視界に入れた途端・・・こわばった。
そんな、顔しないでよ。
私だって・・・気まずいんだから。
私とアイツとの間に、ただならぬ空気が流れた。
でも、由梨華(ユリカ)は全く気にしないでドンドン続ける。
「陸(リク)先輩。
私、先輩にずっと憧れていたんです。
握手、してもらえますか?」
由梨華(ユリカ)の言葉に、彼は、私に目を向ける。
その目は、「どういう事だ?」と言っているようだった。
私は、たまらず目をそらす。
その時、私たちの来た校舎の方から、3年生がワラワラとこちらに来た。
「あら?陸(リク)、年下に告白されてるの?」
その人は、私の横を通り過ぎて行った。
彼女の香りをかいで、私はその女性を見る。
今の香り・・・アイツと一緒!
って事は・・・。
そして、彼女は、アイツの首に両腕をからませて、彼に抱きつく。
「陸(リク)・・・これから、さっきの続きしようよ。ねっ!」
そう言って、彼女は色っぽい眼差しで彼を見る。
そんな彼女に、「そうだな。」と彼は答えると、私たちの見てる前で、その人とキスをした。
舌のからむ音が聞こえて来た。
完全に放心状態の、由梨華(ユリカ)を見て、私はたまらず、持っていたカバンを、アイツの足に向かって投げた。
その振動に驚いた彼女は、彼から唇を離す。
「な・・・なんなの!」
とにらんでくるけど、「こっちのセリフよ!」と私は叫ぶと、落ちたカバンを拾った。
「見せびらかして、そんなに楽しいの?
そんな事、彼と二人の時にやればいいじゃない。
それとも、人前でやらなきゃ、彼に相手にしてもらえないの?」
そういった私に、彼女の取り巻きが、「何なのコイツ!」と私にからんできた。
でも、そんなの気にしない。
今度は・・・。
私は、彼を見る。
いつになく、冷徹な瞳で私を見ている彼。
何も感じないような・・・そんな冷たい瞳で私を見てた。
でも、そんなんで、ひるんでなんか、いられない。
親友を傷付けられたんだから!
私は、右手にこぶしを作ると、気合いを入れた。
「こんな事しないで、断るなら、自分の口で断りなさいよ!
人を傷つけていいと思ってるわけ?
だから、あなたは、最低なのよ!!」
だけど、彼は・・・、「ククク。」と笑うと、今度は「あははは。」と豪快に笑った。
「なっ!何で笑うのよ!」
と怒る私に、彼は私を見る。
口元は笑っているけど、瞳はさっきと変わらず冷たい目だった。
「どっちが、最低だよ。
親友ヅラして、影で裏切ってたお前の方が、最低じゃねぇーかよ。」
彼はそういうと、由梨華(ユリカ)の手を取ると握手をした。
「これで、いいかな?」
彼はそういうと、由梨華(ユリカ)から手を離し、私を見た。
そして、今までにないくらい低く冷たい声でこう言った。
「俺も、お前が世界一嫌いだよ。
気があったな。」
そういったあと、私の頬にまた触れた。
そして、私をジッと見つめ、こう言った。
「さようなら。」
って。
彼の言葉に、由梨華(ユリカ)は私を見る。
「今の・・・どういう意味?」
そして、私の顔を見て、さらに叫ぶ。
「ちょ・・・ちょっと、麗美(レミ)!どうしたの!」
「えっ?」
私はそう言って、自分の頬に触れた手を見る。
濡れてる??
「私なんで・・・。」
そう口にした途端、ドンドン涙が溢れてきた。
どうして、こんなに涙か溢れるのかわからなかった。
嫌いな彼と、さよならできて、喜んでいいはずなのに・・・。
だけど、何でかわからないけど、心にポッカリと穴が開いた感じ。
そこに、スースーと風が吹き抜けて、私は一人では抱えきれないくらいの、寂しさを感じた。
自分がどうしていいかわからなくなった。
そんな私が、心で叫んでいたのは、たった一言だけ。
陸(リク)の・・・バカやろー!
って・・・。
ただそれだけだった。
☆☆☆1章 END☆☆☆
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