3人の姿を見ていた私に、急に話しかけてきたのは七葉(ナナハ)ちゃん。
「よかったの?兄貴に言わなくて。
本当は、兄貴に側にいてほしかったんでしょ?
言えばいいじゃない。
不安だから側にいて!って。
兄貴は麗美(レミ)さん命なんだから、迷わず側にいてくれたよ。
アメリカなんて、行かなかったって!
あんな女の手術なんか、聖(アキラ)ちゃんにでもやらしておけばいいのよ。」
とツンツンして怒っている七葉(ナナハ)ちゃんだけど、私は笑いながら首を振った。
「冬真(トウマ)さんには、医者である自分を誇りにして生きてほしいの。
あの腕を手に入れる為に、彼はいろんなものを背負ってきたんだもの。
だから、その腕を、存分に使ってほしい。
私や天(タカシ)や翔空(ショウア)や、お腹にいるこの子の存在が、医者としての冬真(トウマ)さんの妨げになる事だけはしたくないの。
沙織さんと昔、何があったかわからない。
でも、沙織さんを救いたいと思ったのは、医者としての彼の思いもあるはず。
だから、医者である彼の思いを、私は踏みにじりたくないの。
彼が沙織さんを自分の手で救いたい。と思ったのなら、私も応援したい。
だから、今は、患者さんに冬真(トウマ)さんを譲らなきゃ。」
私の言い分に、呆れた顔の七葉(ナナハ)ちゃんは、タメ息をついた。
「ホント、兄貴は幸せ者だよ。
こんなに愛されてさ。」
と言ったあと、私に優しい笑顔をくれて、さらにこんな事を言った。
「ホント、麗美(レミ)さんは甘えベタだね。」
って。「へっ?」といった私に、七葉(ナナハ)ちゃんは、助言をする。
「麗美(レミ)さんは、相手の事を考え過ぎだよ。
もっと、自己中でいかなきゃ。
人の事を気にして、躊躇してたら、時には持っていかれちゃう物だってあるんだから。
時には欲張りになったり、貪欲にならなきゃいけない時だってあるんだよ。
そういうのを、たまには、兄貴に見せてやったら。
そしたら、兄貴も愛されてるって、実感するんじゃないかな?
恋人同士って、どうしても、体を求め合っちゃうでしょ。
キスして、愛し合ってって・・・。
だけど、それだけじゃないと思うんだ。
体だけで、お互いをどれだけ愛してるか、求めてるか、想ってるかが、わかるってもんじゃないと思うの。
確かに、体を交じり合わせた方が、わかりやすいかもしれない。
でも、それだけじゃ、満たされない時だってあると思う。
『言葉』や『態度』が、必要な時もあるんだよ。
ほら、よく言うじゃない?
『愛がなくてもセックスができる』って。
特に兄貴は、そういう体験してる人だからさ。
だから、体よりも、態度や言葉がほしくなったりするんじゃないかな?」
って言われたらもちろん、速攻いっちゃった。
「なんで?どうして、冬真(トウマ)さんが『そういう体験してた』って知ってるの??」
それって、前に冬真(トウマ)さんが言ってた、セラピーの事だよね?
どうして、そんな事、七葉(ナナハ)ちゃんが知ってるの??
すっごい不思議だったんだけど、七葉(ナナハ)ちゃんは、「だって。」というと普通に答えた。
「スクールでは伝説だよ。
あんなに患者の心を救った生徒はいないって。
父親が父親なら、息子も息子だ。
遺伝子ってのは、恐ろしいなー。ってアリシエがいつも言ってた。」
なるほどねー。伝説になってるなら、七葉(ナナハ)ちゃんも知ってて当たり前か。
でも、納得かも。
1日に20人抱いてたとか、冬真(トウマ)さん言ってたもんね。
そりゃ、伝説にもなるよ。
すごく納得している私の姿を見ながら、七葉(ナナハ)ちゃんは少し笑うと、さっきの話の続きをした。
「麗美(レミ)さんは、想いがうまく言葉や態度で、伝えられないタイプじゃない?
どうしても、交じり合うほうに行っちゃって、兄貴に体だけか?って思われがちなんじゃないの?
ダメだよ!時には、言葉で想いをぶつけなきゃ。
嫉妬も、駄々こねるのも、男にとっては、『わがまま』って映るんじゃなくて、『愛されてる』って言葉になるんだよ。
特に、兄貴の場合はね。
どうして、抱いてほしいのか。
なんで、そんなに求めちゃうのか。
言葉で伝えなきゃ・・・。
だから、麗美(レミ)さんも我慢ばっかしてないで、嫌なもんは嫌って、兄貴に言ってみたら?
そしたら、喧嘩も仲直りできるんじゃないの?」
そして、歩き出した七葉(ナナハ)ちゃん。
私は慌ててストップをかける。
「ちょ・・・ちょっと、待って!!」
焦りすぎて声がうわずっている私と違って、「ん?」と言いながらこっちに振り返った七葉(ナナハ)ちゃんの顔は、とてもヌケた顔をしてた。
だけど、私はそんなマヌケな顔でいられない。
七葉(ナナハ)ちゃんの元にかけよると、彼女につっかかる。
「なんで?どうして、喧嘩した事、知ってるの?」
誰にも言ってないのに。
まして、あの部屋での出来事は外には漏れないのに・・・。
なんで?
しかも、喧嘩ってことだけじゃなくて、内容までドンピシャなんだけど。
体全体で大焦りの私の姿に、マヌケ顔だった七葉(ナナハ)ちゃんの顔が、だんだん笑顔になっていく。
「その焦りよう・・・もしかして、あたっちゃったの?」
「あた・・・っちゃった??」
そう口にしたら、頭にのぼっていた熱い物が、すーっと引いていくようで、私は徐々に冷静さを取り戻していった。
とはいえ、今度は私がオマヌケ顔になっちゃって。
口をポカーンと開けて、七葉(ナナハ)ちゃんを見てしまった。
その顔が、よっぽどダラしなかったのか、
「麗美(レミ)さん、その顔、マジでうけるぅー。」
と言われちゃって。
それでも、私はまだ、しまりのない顔で七葉(ナナハ)ちゃんを見つめてた。
そんな私に、彼女は優しく微笑んだ。
「ヤマかけたんだよ。私って、すごいじゃん。」
なんていわれたから、「や・・・ま?」と聞き返しちゃう私。
すると彼女は、あっけらかんとした態度で、「うん。」と頷くと、私から少し離れた窓際に移動すると、オレンジ色になっている夕日を眺める。
「私が2人の間のトラブルなんて、知るはずないでしょ。
なんとなくそうかな?って、思ったんだー。」
夕日を見つめながらそう言った彼女は、私の方に向き直ると、ちょっと意地悪な笑いをする。
その笑顔を見たら、ある人を思い出しちゃって。
たまらず、こういっちゃった。
「冬真(トウマ)さんみたいな笑いしないでよ・・・。」
って。冬真(トウマ)さんがそういう笑いをした時って、だいたいが意地悪なエッチを考えてる時。
いっつもいっつも私は泣かされる。
とはいえ、七葉(ナナハ)ちゃんが私を襲うなんて事あるわけないけど、でも私をいじめる言葉を言おうとしているのは・・・なんとなく察知した。
かなりビビッている私の姿に、七葉(ナナハ)ちゃんは、「アハハ。」と嬉しそうに笑った。
「よっぽど、兄貴にいじめられてるんだねぇー。
兄貴のエッチって、そんなに激しいの?」
「・・・。」
言い返せません。
顔を真っ赤にして、両手で顔を覆った私。
ホント、梅澤家の人は、理解できない。
エッチとか、愛とか・・・。
そういう事を平気で言っちゃうんだよね。
雪先生も、春(シュン)さんも、海(カイ)先生も、普通にそういう話するのよ。
電話がなったりしても、冬真(トウマ)さんったら、
「ああ。今、最中だから、あとでかけなおす。」
とか、平気でいうからね。
でもそれは、男同士だからかと思っていたんだけど・・・ここにもいたよ。
しかも、私よりも年下の乙女が・・・。
産婦人科医だから、余計に平気なのかもしれないけど、でも・・・最強だー!!
だって、兄のエッチ話を、こうも普通に聞けるかな?
ホント、梅澤家は侮(アナド)れない・・・。
としじみ思っていた矢先・・・最強乙女はさらに、私に襲ってくる。
「まー、けど、兄貴の激しさは、さっきのでわかったかもー。」
そう言って私のお腹を指さす七葉(ナナハ)ちゃん。
「それ、どういう意味?」
と聞いた私に、彼女はまた、冬真(トウマ)さん似の笑顔をした。
「さっきの流産のなりかけのキッカケは、精神的ダメージ。
どうせ、あの女でしょ?
だけど、一番の衝撃を与えたのは、あの女じゃなくて、『激しい運動』。
機嫌を損ねた兄貴が、乱暴に犯したって事でしょ?
どう?そこも、当たってる??」
さすがにそれは・・・肯定できなかったよ。
「あはは・・・。」
と苦笑いをする私に、七葉(ナナハ)ちゃんは大笑い。
「兄貴も、聖(アキラ)ちゃんみたいに、硬派だったらよかったのにねぇー。
兄弟なのに、こうも違うなんて、あー、おもしろい!!」
と両手を叩きながら、彼女は廊下を歩いて行った。
私はそんな彼女を見て、参ったと思ったの。
こんなに冷静に全てを見れるなんて。
セックスに対しても、兄たちに対しても・・・。
「七葉(ナナハ)ちゃんも、雪先生の血が流れてるんだ・・・。
恐るべし、梅澤一族・・・。」
たまらず、そうつぶやいていた私。
そして、ちょっと、思ったの。
今お腹にいる子もそうだけど、何より、翔空(ショウア)も正当な梅澤家の者だよね。
あの子も、冬真(トウマ)さんや七葉(ナナハ)ちゃんみたいにならない??
なったら私・・・って考えてこう言っちゃった。
「うまく、扱えないかも・・・。」
って。そんな事を考えて、私ったら余計、不安になっちゃったのよね・・・。
ナースステーションに立ち寄る。
用意されていたカルテを記載しなきゃならないけど、私はたまらず、両ひじをついて、カウンターに寄りかかる。
頭を下げて、「ハァー。」と深く重いタメ息をついた。
その姿に、私のサポートをよくしてくれる棗さんが、打ち込んでいたパソコンから立ち上がると私の元へとやってくる。
「麗美(レミ)先生、大丈夫ですか?」
そして、冷蔵庫から冷えた水を持ってきてくれる。
固くしまっているキャップを開けて、私の目の前にそのペットボトルを置いた。
「よかったら、飲んでください。」
「うん・・・ありがとう。」
と笑顔を送るけど、飲む元気もないや。
さっきから、気分悪いし、変な汗が出てくるし・・・。
ヤバイな。とっとと、部屋に戻ろう。
そう思った私は、開いていたカルテを閉じると、それを手に持つ。
「悪いけど、このカルテ、借りていくわ。」
そして、私は体をカウンターから離す。
少しふらついたけど、何とか踏みとどまった。
「部屋まで一緒に行きます。」
と棗さんは言いながら、こちらに回ってきてくれるけど、私は彼女の手をつかんで断った。
「今日は、ナースの手が足りないんでしょ。
気持ちだけで充分。
部屋はすぐそこだし、平気平気。
あっ、それと、お水ご馳走様。」
私は彼女に心配かけないように笑顔を作ってそういうと、早々にその場を去った。
冬真(トウマ)さんが、ニューヨークに行ってから、1週間が過ぎた。
すぐに戻ってきてくれると思っていたのに、意外と長期滞在してる。
沙織さんの事を調べているみたいだけど、色々問題があるのかな?
そして、彼が急にニューヨークに行っちゃったせいで、医師にもしわ寄せがきちゃって。
勤務医のドクターはさておき、梅澤一族で、自由に動けるのは、海(カイ)先生と聖(アキラ)くんの2人だけでしょ。
それじゃ、手が回らなくて。
それで、春(シュン)さんにも無理を言って、モデルの仕事を少し休んでもらったりして、こっちを頑張ってもらってるんだけど、モデルの方でも何かと忙しいみたいで、なかなか無理言えなくて。
そこで、海(カイ)さんが頼んでくれて、強力な助っ人が来てくれたんだけどね。
「俺は、引退したんだ!!
ったく、なんなんだよ!!」
と雪先生は怒り爆発だけど、患者の事になると、根っからの医者なだけに、全力投球でやってくれるんだけどね。
でも、雪先生にばっかり助けてもらうわけにもいかないから、私も協力をしようと思って。
「何考えてんのよ!
仕事なんてできないよ。
絶対安静なんだからね。自宅謹慎に決まってるでしょ!!」
と七葉(ナナハ)ちゃんに頭ごなしに怒られたんだけど、私はどうしても冬真(トウマ)さんの力になりたくて。
七葉(ナナハ)ちゃんの反対を押して、私は仕事をこなしてた。
夜勤とかはさすがに猛反対なんで、朝の8時から5時までの勤務。
それ以外は許さないと言われたし、オペも禁止と言われた。
長時間立つなんて、ありえないと怒鳴られちゃって・・・。
でも、ホント、七葉(ナナハ)ちゃんの言う通り、今みたいに、5時くらいになると、もう体がいう事を聞かなくなるの。
クタクタというか、倒れそうになっちゃって。
赤ちゃんは元気でいてくれるけど、たまにお腹が痛くなったりするから、不安はあるけど・・・。
でも、冬真(トウマ)さんのために何かをしたくて・・・。
いや、何かをして気をまぎらわせておかないと、恐くてたまらないから。
沙織さんに冬真(トウマ)さんを取られそうで、恐くて恐くてたまらないの。
戻って来た冬真(トウマ)さんに、別れを切り出されたらどうしようと・・・。
そういう、恐ろしい事しか考えられないから。
って・・・そんな事を考えながら、必死で自分の医局に向かって歩いていた私だったんだけど、目の前の景色がグラグラと揺れだした。
ヤバイ・・・倒れる。
私がそう思った時、私の体から力が抜けて、私はその場に崩れる。
その時、私の体を支えてくれた力強い腕。
意識がモウロウとしていてもわかる。
この腕は・・・私が求めていた腕じゃない。
悲しいけど、残念だけど、冬真(トウマ)さんじゃない。
でも、おかげで、お腹を打たなかったから、感謝しなきゃ。
ってことで、私は必死でお礼を言う。
「ありが・・・とう・・・。」
私の言葉に、「いいえ。」といったその人は、そのまま私をお姫さま抱っこすると、私の顔を見る。
私はおっことされないように、その人に抱きついた。
「こんな姿、未来(ミク)さんに見られたら、刺されちゃうよ。」
といった私に、その人は噴出し笑いをした。
「刺されるか・・・。それは、滑稽だな。」
その笑いは、余裕の笑いに見えた。
こんな些細な事で、二人の絆はびくともしないと・・・そう突きつけられた気がした。
うらやましい気持ちと、私と冬真(トウマ)さんには今消えかけている、こういった絆を見せられる事は、正直辛かった。
無性に胸が苦しくなった。
思わず彼にしがみつくと、顔を彼の胸に押し付けて、たまらず泣いちゃって。
「ごめん・・・なさい。」
と謝る私に、「いいよ。泣きたいだけ泣けばいい。」と、優しい声で言いながら、ユックリと歩き出した。
しばらく黙ったまま、春(シュン)さんは人気がなくなったフロアーを歩いていた。
春(シュン)さんの足音だけが、コツーンコツーンと鳴り響いた。
助けてもらって、さらに泣いちゃって・・・。
かっこ悪くて何も言えないって。
話すキッカケがうまくみつからなくて、ただ黙って抱かれている私。
どうしよぉー!!という焦りが頭を満たした頃、それを察知してたかのような絶妙のタイミングで、春(シュン)さんが口を開いてくれた。
「冬真(トウマ)の事を考えないようにガムシャラに働くのもいいけど、優先順位を間違えてない?」
その言葉に私は、彼の胸から顔を上げると、春(シュン)さんを見上げた。
私の視線を感じた春(シュン)さんは、正面に向けていた顔を、こちらに移動させて私を見下ろした。
何も言わず彼を見てる私に、春(シュン)さんは信じられない言葉を言った。
「その子、いらないのか?」
って。「えっ?」と聞き返した私に、春(シュン)さんは顔色一つ変えずに、次の言葉を続けた。
「だってそうだろ?
七葉(ナナハ)に、絶対安静と言われたんだろ?
仕事はするなと、言われたんだろ?
なのに、麗美(レミ)ちゃんは、いう事を聞かない。
それは、その子が危険にさらされてると言う事なんだよ。
いらないから、死んでもいいから、過酷な生活を送ってるんじゃないのか?」
「違う、そうじゃない!」
思わず大声を張り上げてしまった。
違う・・・この子を失いたいなんて思ってないよ。
冬真(トウマ)さんの子供だもん。
そんな事、思うはずないでしょ。
ブンブン首を振る私から、春(シュン)さんは目をそらすと、正面を向いたまま口を開いた。
「だけど、実際、はたから見てたら、麗美(レミ)ちゃんはそう思ってるとしか思えないよ。
特に俺や、未来(ミク)からしたら、麗美(レミ)ちゃんは贅沢だと思うけどな。」
「贅沢・・・?」
「ああ。」と言った春(シュン)さんは、顔はそのまま私からそらしていたけど、彼の瞳が少し悲しい色に変わったのを、私は見落とさなかった。
「だって、今なら、その命をとどめることも、守る事もできる。
まだ、間に合うんだからさ。
俺たちには、そんな猶予はなかった。
選択があるだけ、幸せな事だと思うよ。
自分が愛した人の子供の命が守れないほど、残酷で卑劣な事はないよ。
冬真(トウマ)と沙織の事から逃げる事を最優先にして、大事なものを失わないようにね。
麗美(レミ)ちゃんにとって、何が一番大事か・・・。
そして、冬真(トウマ)にとっても、何が一番大事か・・・。
それを、もう一度よく考えてほしい。
って・・・俺は思うけどね。」
最後は私の方に顔を向けて、優しく笑ってくれた春(シュン)さん。
冬真(トウマ)さんとは兄弟じゃないけど、双子みたいによく似ている春(シュン)さん。
でも、なぜかこれだけ顔が似ているのに、笑った笑顔は全然違うの。
だけど、今の笑顔は・・・冬真(トウマ)さんに似てる気がした。
だからかな?
まるで、冬真(トウマ)さんに言われている気がしたの。
俺の子供を守ってほしいって・・・。
「鍵、出る?」
いつの間にか医局についていた私たちは、扉の前に立っていた。
「あ・・・はい。」
と言いながら、私は白衣のポケットから鍵を出して、春(シュン)さんに渡した。
その鍵で、春(シュン)さんは扉を開けると、私をソファーに寝かせた。
そして、側にあったブラケットをかけてくれる。
「少し休んでから帰るように。じゃーね。」
そして、部屋を早々に出て行こうとした春(シュン)さんを、私は呼び止める。
「待って・・・待って下さい・・・。」
私の声に、「ん?」と言いながら振り返った春(シュン)さんに、私はずっとずっと聞きたかった事を口にした。
「教えて下さい。」
って。「何を?」と言ってる春(シュン)さんの目。
本当はわかってる目だった。
だって、言ってる側から笑ってるんだもん。
でも、その辺は冬真(トウマ)さんと一緒で意地悪なんだよね。
言わなきゃわからないふりをして、行動を起こしてくれない。
人の気持ちをすごく大切にする人たちだから、そういう態度を取るんだろうけど・・・。
ってことで、私は正直に自分の気持ちを彼に伝えたの。
「冬真(トウマ)さんと、沙織さんとの事。
本当は、冬真(トウマ)さんに聞いたほうが、いいのかもしれないけど・・・。
でも、冬真(トウマ)さんは教えてくれないだろうし。
それを、改めて体感するのは、恐いの・・・。
二人の仲をドンドン疑ってしまって、自分を見失いそうになる。
今までの私みたいに・・・見失いそうになるから。」
私はそういいながら、お腹を押さえてた。
春(シュン)さんに言われて、私は間違っていたと反省してた。
春(シュン)さんと未来さんは、お互いの思いのすれ違いと、いろんな事が重なって、大切な一子を流産してる。
口では、悲しいね。とか言えるけど、本当の悲しみは、お互いにしかわからない。
そして、その悲しみを、春(シュン)さんは教えてくれたんだよね。
今まで、春(シュン)さんも未来さんも、悲しみをかたることはなかった。
「あー、見えて、二人は相当傷ついてるだろうにな。
ホント、強いよ。」
と冬真(トウマ)さんが、よく褒めてた。
きっと、2人は悲しみを2人だけで抱えてきたんだと思う。
誰にも悟られずに、2人だけで、分け合って支えあって。
でも、それを、春(シュン)さんは教えてくれた。
私に、自分たちみたいな傷を作らないようにって。
それは、私だけじゃなくて、冬真(トウマ)さんにもそんな想いをさせないでくれ。っていう春(シュン)さんの願いのような気がしたの。
だから、私は、自分のやってきた事の間違いに気づいた。
このままじゃいけないと思ったの。
春(シュン)さんに聞くのは反則だと思うけど、でも、冬真(トウマ)さんと沙織さんとのことに、きちんと向き合う為にも、私は2人の関係を知らなくちゃいけないって。
そう・・・思った。
「教えて・・・もらえますか?」
そう言った私に、「ああ、いいよ。」と笑顔で答えた春(シュン)さんは、開けていた扉を閉めると、私の目の前にある椅子に腰をかけた。
「何から聞きたい?」
聞きたいことは山ほどあった。
あったけど、改めてそういわれると・・・。
「うーんと・・・。」
言葉に詰まった。
何から切り出していいか、悩んじゃってうなる私に、春(シュン)さんは、「じゃ、俺から語るかな。」と助け舟を出してくれた。
「沙織はね、冬真(トウマ)のセラピーの患者だったんだ。」
「セラピーって・・・“あの”?」
伏せていた顔を上げて、春(シュン)さんを見た私はそう聞いた。
私の言葉に、
「やっぱ、麗美(レミ)ちゃんは知ってるんだ。
冬真(トウマ)が、セラピー・・・いや、ハッキリいうと・・・。
いろんな女を抱いてた事。」
私はうなずいた。
「冬真(トウマ)が言ったの?」
やけに聞いて来る春(シュン)さんを不思議に思いながら、「うん。」と頷いた私。
「よく、冬真(トウマ)がいったよな。
あの時の話・・・。」
それがちょっと、気になっちゃって、私は容赦なく聞く・・・。
「どうして?冬真(トウマ)さん、セラピーしていた事、触れられたくなかったとか?」
「こっちに戻ってきて、アイツには心から愛する人が出来た。
それは、親友の友達で、決して想いは実らない過酷な恋だった。
だけど、アイツはその人を諦める事ができなくて、影ながらずっと想い続けることを選んだ。
その時にアイツ言ってたんだ。
セラピーと称(ショウ)して、色んな女の心をもてあそび、愛のないセックスをしていたから、しっぺ返しがきたのかな?って。
俺には彼女は不釣合いだから、神様がそうしたのかな?って。
アイツの中で、セラピーの事は、後悔の何物でもなかったはずだ。
それより何より、一番知られたくなかったのは、麗美(レミ)ちゃんだったはずなのに。
なのに、アイツは君に話したんだよな?
それがちょっと、俺には理解できない・・・。」
セラピーが冬真(トウマ)さんにとって、そんなに大きな傷だったなんて。
全然知らなかった。
その傷に私は、救われたんだよね。
冬真(トウマ)さんは、あの時・・・。
私にセラピーをした時、どんな想いだったんだろう。
好きな私を、自分の親友の振りして抱いて・・・。
それを考えたら、私はなんて、ひどい事をさせていたんだろうと、胸が押しつぶされそうになった。
たまらず、胸を抑える私の様子に、春(シュン)さんは少しおかしさを感じたのかな?
「冬真(トウマ)と・・・昔何かあったの?」
別に春(シュン)さんに、話してもいいと思った。
現に雪先生は知ってるわけだし、それに、春(シュン)さんは冬真(トウマ)さんにとって、誰よりも大切な人だから。
きっと言わなかったのは、春(シュン)さんに余計な心配をかけたくなかった。
ただそれだけだと思うから・・・。
だから、私は、あの時の事を話すことにしたの。
「実はね・・・。」
そして、私は語った。
陸(リク)を失ってから、私と冬真(トウマ)さんとの間で続いた関係を。
最初、驚き顔だった春(シュン)さんの顔も、時間が経つにつれて、だんだん穏やかで優しい顔になっていった。
ひとしきり話した私に、春(シュン)さんはすぐにこう言ったの。
「だからか・・・。」
って。意外な言葉だった。
もっと、ビックリされるとか、呆れられるとか、軽蔑されるとか・・・。
そういう言葉を覚悟してただけに、『だからか・・・』って・・・何が??だよね?
ってことでもちろん、私は間髪を入れずに春(シュン)さんに聞いた。
「だからかって・・・何が?」
思わず、横に倒していた体を起こして、春(シュン)さんを見入っちゃった私。
「体は起こさなくていいから。そのまま、そのまま。」
と右手を私の方に向けて、ジェスチャーする春(シュン)さんのしぐさに、私は少し笑いながらまた体をソファーに倒した。
横になった私の姿に春(シュン)さんは、あからさまにホッとした顔をすると、自分はイスの背もたれに背中をつけて、足を組み楽なスタイルになる。
「冬真(トウマ)が、ニューヨークに行った次の日だったかな?
アイツから電話があってね。
それで、全部聞かされた。」
「全部って・・・何を?」
さっぱり意味がわからない私だけど、春(シュン)さんはありえないほどのニッコリスマイルで・・・。
それが、ちょっと嫌な予感がしたの。
「まさか、出発前の・・・事?」
恐々聞いた私に、「うん。」と言った春(シュン)さんは、さらにあっけらかんとして答えた。
「アイツ麗美(レミ)ちゃんを、無理やり犯したんだって?
かなり毒舌も吐いたんだろ?
ぶちこんでやるとか、俺の体しか愛してないとか・・・。」
私は何もいえなかった。
たまらず、顔を真っ赤にしてブラケットを口元に当てて、顔を半分隠す私。
そのしぐさを見ていた春(シュン)さんは、「アハハ。」と声をあげて笑い出す。
「笑い事じゃないよ・・・。
なんで、そんな事まで言うかな・・・。」
ホントに!!と心の中で冬真(トウマ)さんに、パンチをお見舞いしている私。
だけど、春(シュン)さんは、私のその言葉を聞きながら、ゆっくりと笑いをやめ、口を開く。
「アイツなりに、恐かったんだと思うよ。
麗美(レミ)ちゃんに、ひどい事してしまった事と、あとは自分の過去が明らかになることがね。」
過去が・・・明らか?
それって、セラピーって事??
そんなの前に聞いて、知ってるのに?
・・・ダメだ。
さっぱり意味がわからないや。
ということで、ここは春(シュン)さんに解説を頼もうと、私は早々に素直に春(シュン)さんにすがった。
「あの・・・わかりやすく教えてもらっていいですか?
どうして、今になって冬真(トウマ)さんが恐れるの?
別に私、沙織さんがセラピーの患者だったと聞いても、冬真(トウマ)さんを責めたりしないよ。
反対に今回みたいに、何も言ってくれない方が、気になってしかたないもん。
言ってくれた方が、よかった。」
だけど、春(シュン)さんは、ユックリと首を振る。
「えっ?」
と聞いた私に、「じゃー、聞くけど。」と春(シュン)さんはいうと、私にこんな問題を出してきた。
「もし、これが反対だったら?
麗美(レミ)ちゃんが、冬真(トウマ)と同じでセラピーとして、男と関係があって。
そいつが、患者として目の前に現れた。
冬真(トウマ)に、この人が昔のセラピーの患者だと、隠さずに言える?」
「それは・・・。」
黙ってしまった。
愛のないセックスをした人を、愛する冬真(トウマ)さんに逢わせる・・・。
それは、出来ないかもしれない。
そう思った時、思わず、「あっ・・・。」って私言っちゃったの。
なんで、声が出たかというと・・・。
春(シュン)さんにそう言われて、気付いちゃったから。
冬真(トウマ)さんが、どうして、あの時。
沙織さんが来ている事を右京さんの電話で聞いた時、あんなに態度が変わってしまったのか・・・。
きっと、不安になったんじゃないかな?
私は、冬真(トウマ)さんの体だけに反応する。
その行為が、愛がない状態で沙織さんを抱いていた行為と重なった。
まるで、体だけの関係。
セラピーの患者が、冬真(トウマ)さんの体を求め満足していたように、私も愛ではなくて、彼の体とセックスのうまさに、満足し執着してるって・・・。
疑いたくないけど、そう思ってしまう。
不安に思ってしまうって・・・。
だって、私たちは、最初、セラピーで始まったんだもんね。
冬真(トウマ)さんが、そういう不安を抱えてもしかたないよ。
「私がもっと、体だけじゃなくて、言葉もいえばよかったんだよね・・・。」
冬真(トウマ)さんを追い込んでいた、自分の最低振りに気付いた私は、春(シュン)さんにそう言ってた。
それに対して春(シュン)さんは、軽い笑いをした。
「冬真(トウマ)もね、ちゃんとわかってると思うよ。
麗美(レミ)ちゃんが、どうして必要以上に、冬真(トウマ)の体に・・・っていうか、交わっていたいと思うのか。
陸(リク)を失って、自然とお互いが触れ合っていないと安心できない感覚に、なってるって・・・。
アイツは、誰よりもわかってるはずだ。
だから、アイツが麗美(レミ)ちゃんに言ったように、体だけを愛してるとか、そんな事本心で思ってないよ。
でも、アイツもさ・・・。
あー、見えて、かなりデリケートというか、細かい事をグダグダ考えるタイプでね。
沙織が麗美(レミ)ちゃんと逢って、色々余計な事をいうのが恐かったんだと思う。
それに、沙織にも、麗美(レミ)ちゃんを逢わせたくなかったんじゃないかな?
だって、沙織も含めて、セラピーをした患者は、医者である冬真(トウマ)しか知らないから。
沙織も、冬真(トウマ)を愛してるといってはいるけど、医者であるオアシスの冬真(トウマ)しか知らないから。
そういうところしか見せてない沙織に、麗美(レミ)ちゃんの存在を知られたくなかったのかもしれないな。
アイツは、ホント、笑っちゃうくらい麗美(レミ)ちゃんに、惚れてるから。
俺に電話してきたのも、麗美(レミ)ちゃんの体の事が心配で、ならなかったみたいだよ。」
「そう・・・。」
「アイツには、まだその子の事、言ってないんだろ?
だけど、アイツ、何となく気付いてるみたいだった。
くれぐれも、麗美(レミ)ちゃんの体の事頼むって。
『たぶん、沙織と俺の事で、アイツは体を酷使するかもしれない。
考えたくなくて・・・。
だから、アイツを止めてほしいって。守ってくれ。』
って。
本当はアイツが、麗美(レミ)ちゃんを止めたかったと思うけど。
アイツは、麗美(レミ)ちゃんの夫であると同時に、医者だからな。
アイツにしか、彼女のオペはできない。
彼女の症状知ってる?」
首を振る私に、春(シュン)さんはいった。
「心臓にトラブルがあってね。
症状は、陸(リク)の母親と一緒なんだ。」
「陸(リク)の?」
「そう。アイツが、この世で救いたかった命の一つだった、陸(リク)の母親。
彼女と同じ病状は、完治が困難でね。
でも、アイツはそれを1つでも成功させて、1人でも多くの人を救いたいと・・・そう願って心臓外科医を選んだ。
アイツにとって、沙織の手術を成功させる事は、陸(リク)との夢の1つでもあるのかもしれないな。
だから、麗美(レミ)ちゃんと離れたくなかったけど、アイツは涙をのんで、旅立った。
アイツの気持ち・・・わかってやって。
麗美(レミ)ちゃんへの愛が薄れたわけでも、なくなったわけでもないから。
アイツは、あーいう不器用なやつだって・・・わかってやって。」
「ホント、春(シュン)さんって優しいね。」
「俺も、未来との時に、アイツにガツンと言われたり守られたりしたからね。
そもそも、アイツが院長を引き受けてくれなかったら、俺と未来(ミク)の未来も危うかった。
アイツがいたから、今の俺と未来の幸せがある。
だから、俺が出来ることなら何でもするよ。
それで、冬真(トウマ)と麗美(レミ)ちゃんの幸せが手に入るならね。
どんなおせっかいでもするさ。」
そう言って笑った春(シュン)さんの笑顔は、すごく頼もしく見えた。
「さてと・・・あとは、冬真(トウマ)が戻ってきたら、直接聞くといい。
おせっかいは、このくらいにしとかないとな。
あまり、しゃしゃりでると、未来に怒られるから。」
そんな冗談を言いながら春(シュン)さんは立ち上がると、
「俺、このあと、オペなんでこれで行くわ。」
というとドアを開けて出て行った。
「ありがとうございました。」
急いでお礼を言った私の言葉を背中で聞きながら、春(シュン)さんは手を上げて、私に答えると扉を閉めた。
春(シュン)さんの言う通り、冬真(トウマ)さんが戻ってきたら、ちゃんと気持ちぶつけあおう。
沙織さんの事も、ちゃんと冬真(トウマ)さんの口から聞けるように頑張んなきゃ。
そう思いなおした私は、ユックリと起き上がるとソファーに座った。
「そろそろ、帰るかな。」
とひとり言をいった時だった。
扉がノックされた。
こんな時間に誰?
看護師?いや、彼女たちは、ここには滅多に来ないし・・・。
誰??
半ばビビリながら、ドアに向かって声をかけた。
「はい。」
って。そしたら、聞き覚えのある声が返ってきた。
「沙織です。」
なんで?どうして彼女が??
って、思ったけど、逃げるわけにもいかないから、私は深呼吸をして、気持ちを落ち着かせると、立ち上がり扉へと向かった。
「今、あけます。」
といいながら、ユックリとドアを開けた私の視界に、彼女の姿が入ってきた。
「どうしたんですか?」
私の質問に、
「あなたとお話がしたくて。
少しいいですか?」
となぜか、とても謙虚。
「あ・・・はい。」
思わずアタフタしてしまった。
ソファーにおいてあったブラケットを横にどけると、ソファーに座るように彼女をうながした。
私は、さっきまで、春(シュン)さんが座っていた椅子に腰をかけた。
「眠ってる所をお邪魔しちゃった?」
少し申し訳なさそうに彼女が言うものだから、私は両手で否定する。
「ううん。ただ、横になってただけだから。
それより、どうしたんですか?」
てっきり、冬真(トウマ)さんを返してとか言われるかと思ったの。
最初に廊下で言われたみたいに。
だけど、なぜか、目の前にいる彼女は、あの時の強気な彼女じゃなかった。
とても、弱いというか・・・礼儀があるように見えた。
「あなたに、聞きたい事があって。」
「なんですか?」
「冬真(トウマ)さんを愛する事に、恐怖はなかったの?」
「えっ?」
「あなたの事は、アリシエから聞いてたの。
冬真(トウマ)さんの親友の彼女で、その人の子供まで授かっていた。
そして、あなたは、冬真(トウマ)さんと結婚した。
亡くなった恋人を、心から愛してたのよね?
なのに、簡単にどうして、他の人を愛せるの?
それも、恋人の親友って・・・。
それって、愛っていえるの?
そう思ってるだけじゃない?
私は、あなたに逢うまで、そう思ってた。
優しい冬真(トウマ)さんだから、同情であなたと一緒にいるんだって。
だけど、ここ数日、あなたという人を患者として、一人の女性として見てて、思ったの。
あなたは、強いって。
そんなあなたの強さを、冬真(トウマ)さんは、同情じゃなくて、愛してしまったのかな?って。
そう思ったら、あなたにどうしても聞きたくて・・・。」
「何を?」
「冬真(トウマ)さんを愛して、また、失うと思わなかったの?
失ったら、自分はどうなるだろう?とか・・・そんな風に思わなかった?」
「どうして?なぜ、そんな事を聞くの?」
不思議だった。
だって、そうでしょ?
そんな風な不安を抱くのは、きっと“そういう体験をした”からだと思うから。
私の中で、少しだけ、沙織さんの事に興味が出てきた瞬間だった・・・のかもしれない。
彼女を見つめてそう聞いた私に、彼女は少し私から目をそらすと、とても小さな声でこう言った。
「私は・・・恐怖だったから。
冬真(トウマ)さんを失うと、また今みたいに元に戻っちゃいそうで恐かったの。
毎日ビクビクしてた。
冬真(トウマ)さんから、離れることが・・・恐かった。」
って。
「それ・・・どういう意味?」
すると彼女は、話す覚悟ができたのか、しばらくすると、そらしていた私に視線を戻してきた。
「私はね、冬真(トウマ)さんのセラピーの患者だったの。」
私は、「ええ。」と答えると、
「さっき、春(シュン)さんに、教えてもらいました。
あなたと冬真(トウマ)さんの事が、気になって。」
そう言って笑った私に彼女は、「そうだったの。」と少し笑うと、話を続けた。
「でも、患者と言っても、私は、他の人とは違ったのよ。
私の体や、脳裏にある“記憶を再現してほしい”じゃなくて、私はそれを、冬真(トウマ)さんに塗り替えてもらってたの。」
「塗り替える?」
さっぱり意味がわからなかった。
少し驚きの声でそう言った私に、彼女はとても落ち着いた口調で、「そう。」と答えると、少し遠い目をした。
まるで、彼女の中にある昔の記憶を辿るように・・・。
そして、彼女の閉じていた口が、ゆっくりと彼女の中にある記憶を語った。
「私ね、幼い頃に、義理の父に無理やり犯されたの。
それも何度も。
恐くても逃げ出せなくて。
言いたくても、誰にも言えなくて。
家に帰るのが恐かった。
それで、私は夜の街を毎晩さまよってた。
家に帰れるのは、義理の父が仕事に行っている時だけ。
だけど、それも、長くは続かなくて。
朝に帰っても、彼いるのよ。
もう、彼から逃げられないと思った。
死にたいって・・・そう思ったの。」
彼女はそこまでいうと、少し唇を震わせた。
そして、両手を口元に当てて、気持ちを落ち着かせる。
そんな彼女を見ていると、ほっておけなくて、私は彼女の横に移動すると、彼女の肩をそっと抱いた。
彼女は少し驚いた顔で私を見ていたけど、やがて、
「ありがとう。」
消えるような声でそういうと、私の肩に頭を乗せてきた。
私は彼女の髪を、優しくなでてあげた。
少しずつ、気持ちが落ち着いてきた彼女は、1回大きく息を吐き出すと、また口を開く。
「居場所がなくなった私は、やけになって、ニューヨークの治安の悪いエリアへと足を運ばせた。
もう、どうなってもいいと思ったの。
好きでもない男に、無理やり犯されるのは、もう慣れたし。
もう、どうなってもいいって。そう思って・・・。
当たり前の事ながら、あっと言う間にたくさんの黒人に囲まれちゃって。
もう、コレで終わりだ!って諦めた。
その時、彼が現れたの。」
普通なら、「うん。」って、ただ聞いているのが、相場よね。
でも、私は、そういう性格じゃないでしょ。
ついつい、言っちゃったんだよね。
「あっと言う間に冬真(トウマ)さん、コテンパンにやっつけちゃったんじゃない?
それで、一目惚れしちゃった?」
そう言って笑う私の姿に、彼女も・・・。
「プッ。」
と噴出し笑い。
彼女が本当におかしそうに笑うものだから、私も「フフフ。」と、つられて笑っちゃった。
「ホント、あなたって、すごいわ。」
そう言った彼女は、倒していた頭を上げると私を見る。
「えっ?」と、聞く私に、彼女は優しく微笑んだ。
「どうして、そんなに優しいの?
私は、あなたの夫を奪おうとしてるのよ。
そもそも、こんな私のくだらない話を、黙って聞いてくれて。
さらに、話にまで乗ってくれて・・・。
あなた、優しすぎるわよ。」
だけど、私は、「フッ。」と軽く笑うと、彼女に向かって首を振った。
「優しくないわよ。
あなたと冬真(トウマ)さんの仲に、嫉妬して疑ったのも本当だし、大事なものを見失いそうになっていたのも事実。
だけど、私には、仲間がいるから。
冬真(トウマ)さんを支えてきた仲間が、私と彼との愛を支えてくれるから。
間違った私を、いつも冬真(トウマ)さんが、正してくれて導いてくれる。
でも、その冬真(トウマ)さんが居ないときは、彼の仲間が私を正してくれて、導いてくれる。
だから、私は、いつも、自分らしい私でいられるのよ。
私利私欲で凝り固まった私じゃなくて、気持ちのままに、現実を受け入れる私でいられる。
あなたの話を、素直に聞けるのもそうよ。
正直私は、あなたの身の上話を、聞きたいわけじゃないの。
ただ、知りたいだけ。」
「知りたいって・・・何を?」
「私が知らない冬真(トウマ)さんを。
あなたと冬真(トウマ)さんがどんな出会いをして、冬真(トウマ)さんがあなたにどんな治療を施したのか。
私は、冬真(トウマ)さんの現在も未来ももらった。
でも、過去は、過去の人たちの物でしょ。
それは、もう取り戻せないものだけど、やっぱり知りたいって思う。
冬真(トウマ)さんは、「欲張りだ」って言って、何も教えてくれないから。
だから、あなたが教えてくれるなら、聞きたいの。
心に傷を負ったあなたと、救った冬真(トウマ)さんの話を・・・。」
私はそう言ったあと、彼女に向かって、「ねっ!」と言って笑う。
「私も、相当我がままでしょ!
自分の事しか考えてなくて。
ちっとも優しくないでしょ。」
そう言ってさらに笑う私に、
「やっぱり、あなたは優しい人よ。」
と彼女は小声で言う。
「ん?何?」
小声過ぎで聞こえなかった私は、もう一度彼女に聞いてみるけど、
「ううん。なんでもない。」
と言って首を振って、ごまかされちゃった。
そして、彼女はというと、さっきの言葉を言わない代わりに、話してくれたんだ。
冬真(トウマ)さんとの事を・・・。
「男たちから救ってくれた冬真(トウマ)さんは、私を一目見て心に傷があるとわかったのか、病院に連れて行った。
私は、刑事みたいに、根掘り葉掘り聞かれるのかと思った。
もしくは、義理の父親みたいに、乱暴されるのかも。とも思ったわ。
私を救ったのも、どうせ体目当てかも!って疑ったし。
だけど、彼は何も言ってこなかったし、私に指一本触れてこなかった。
ただ、彼は黙って、一晩、私の側に居てくれたの。
それから、私はずーっとそこにいたわ。
彼も当時15歳で、学校に通っていたから、ずっと一緒ってわけにもいかなくて。
彼が居ない時は、お手伝いさんみたいな人が私の側につき、私を決して一人にはしなかった。
その心遣いが嬉しくて。
やがて、私は彼に心を開いて、全てを打ち明けた。
それを聞いた彼は、母親と交渉してくれて、彼の知り合いに頼んで、私にマンションを与えてくれた。
私は、そこから学校に通ったの。」
「待って!学校って・・・それ、いつ頃の話なの?」
「私が中学の時だから・・・13歳かな?」
「13さん・・・。」
それ以上はいえなかった。
13歳で、義理の父親に犯されたなんて・・・。
意気消沈する私の姿に彼女は、
「しょげないで。」
と明るい声で言うと、軽く笑いながら、話を続けた。
「でも、男の人を見るだけで、すくみあがってしまう私は、やがて学校にもいけなくなった。
男子が同じ教室に居る事も、耐えられなくなってね。
それで、冬真(トウマ)さんに頼んだの。
『私を、犯される前の私に戻してほしい』って。」
それを聞いたらわかったよ。
彼女の苦しみに答える為に、冬真(トウマ)さんが出した結論が・・・。
「それで、彼は、あなたを抱いた。
抱いて、あなたの中にある、忌まわしい記憶を塗り替えた。
そういう事?」
それに対して、彼女は少し口元を緩ませると、自分が受けた治療を語る。
「冬真(トウマ)さんは、私に聞いてきた。
どんな風に、義理の父に抱かれたのか。
何をされたのか。
私は泣きながら、彼に教えたの。
何度も震えて、泣き叫んで。
その度に彼は、私を優しく抱きしめてくれた。
義理の父とは違う接し方で、鎖に何重もくくられた私の心を何時間もかけて、解いてくれたの。
それから、毎日、冬真(トウマ)さんは私を抱いてくれた。
やがて、私の記憶から、乱暴な義理の父の記憶は消え、思い出すのは、優しくて温かい冬真(トウマ)さんの腕と体温だった。
冬真(トウマ)さんは、本当に優しく抱いてくれたのよ。
キスも、愛撫も、触れる手も、そして、中に入った動きも。
本当に優しくて、気持ちよさだけを与えてくれて・・・・。
私は、彼のおかげで、男の人が恐くなくなった。
学校にもいけるようになった。
彼のセラピーは、2年間受け続けた。
私の症状が落ち着いたのをきに、彼はセラピーをやめた。
それから、1年後に彼は、留学を終えて、日本に帰国してしまった。
私は本当に彼が好きだった。
でも、彼は私を患者としてしかみてなかったのは、わかっていたから。
だから、私は彼に想いを告げれなかったんだけど、最大の理由は、アリシエからの予言が原因だったのよね。」
「予言?」
「ええ。彼に言われたのよ。
『あれは、本当の冬真(トウマ)じゃない。
自分を見せきれてない冬真(トウマ)が、君を愛してるわけないだろ?
君と冬真(トウマ)は、あくまで、ドクターと患者。
それ以下でも、それ以上でもない。
アイツのことは、諦めろ。』
って。確かに、冬真(トウマ)さんが、私の事を何とも思っていないのはわかってた。
優しいのは、医者としてだと、ちゃんとわかってたし。
でも、あれが彼の本来の姿じゃないっていうのは、信じられなかったの。
冬真(トウマ)さんは、優しい人だって、そう思ってたから。」
彼女はそう言ったあと、立ち上がると、窓の方へ行き、外の景色を見つめる。
「冬真(トウマ)さんがニューヨークを去ってしばらくして、私は冬真(トウマ)さんの事は忘れ、自分に似合う恋を探した。
優しくて、冬真(トウマ)さんみたいな温かい腕を持つ人と、巡りあえた。
冬真(トウマ)さんの事を忘れようと、必死で思っていた矢先。
彼が、二度目の留学で、こっちに戻って来たのよ。
私が結婚する1ケ月前だった。」
彼女はそう言ったあと、私に向かって左手をヒラヒラとさせた。
その指には・・・アレがなかった。
「もしかして・・・。」
そう言った私に、彼女はアカ抜けた笑いをした。
「結婚したのよ。
だけど、冬真(トウマ)さんと同じ空気を吸ってると思うと、夫を愛す事ができなかった。
それにね、実際生活していてわかったんだ。
全然違うって。」
「違った?」
「そう。性格も、浮き沈みが激しくて、暴力的だったし、それにセックスも。
彼に抱かれるたびに、冬真(トウマ)さんが封印してくれた闇が、ポロポロとこぼれてくるようだった。
そんなある日よ。
彼に抱かれている時に、錯覚を起こしてしまったの。」
「錯覚って・・・。」
「そう。義理の父に抱かれているってね。
ちょうど、その時だったの。
持病だった心臓も悪くなって。
病気の事は夫には言ってなかったから、もちろん怒られちゃって。
『そんな欠陥品はいらない。』って、向こうから離婚届を突きつけられた。
もちろん、私も悪あがきはしなかった。
ある意味、願ったり叶ったりだったから。
それで、あっけなく離婚。
それから、私はすぐに入院した。
ちょうど、冬真(トウマ)さんが帰国してすぐだったかな?
だから、私は冬真(トウマ)さんには逢わずじまいだったの。
でも、担当医のアリシエに、冬真(トウマ)さんの話を聞いているうちに、冬真(トウマ)さんへの思いが募っていった。
冬真(トウマ)さんとしか、私は幸せになれないってそう思ってね。
私の病気は助からないのよ。
名医であるアリシエですら、お手上げだったんだから。
だから、最後に、冬真(トウマ)さんに、想いをぶつけようと思ってここへ来たの。
短い命、冬真(トウマ)さんの側で死にたいって。
そう思って・・・。」
確かに、彼女の中でそういう思いはあったんだと思う。
でも、私は、そうでない答えを感じたから。
だから、それを彼女にぶつけたの。
「違うでしょ。」
って。私の言葉に、「えっ?」と言った彼女は私を驚いた瞳でみる。
私は、ゆっくりと立ち上がると、冷蔵庫から缶のお茶を取り出すと、彼女の元へ行き、それを彼女に差し出す。
そして、自分はフタを開けながらソファーに戻ると、それを一口口にして、テーブルに置いた。
「確かに、その想いもあったかもしれない。
でも、大半を占めた思いは、そうじゃないでしょ?
あなたは、もう一度冬真(トウマ)さんに、助けてもらいたかったんじゃないの?」
そう言った私の言葉に、彼女の瞳は大きく揺れた。
それを見たら、私の考えは間違っていないと確信した。
だから、私は、続けたの。
「冬真(トウマ)さんに、もう一度、記憶を塗り替えてもらいたかった。
誰かを愛せる自分に、再生してもらいたかったのよね?
それと、もう1つ。
消えそうな自分の命を、救ってほしかった。
誰かを愛して幸せに暮らす。
そんな生活は、きっとあなたにとって、夢に描いた幸せだったんじゃない?
それを手に入れないまま、死ぬなんて、悔しかったから。
だから、あなたは、消える命をとめてほしかった。
心臓外科医の名医である彼をたよって、はるばるここへ来たんでしょ?」
私の言葉に彼女は、何も答えなかった。
でも、少しして、答えをくれた彼女。
だけど、それは言葉でも、笑いでもなかった。
それは・・・。
「パチパチパチ。」
そう。拍手だった。
「えっ?」と驚く私に彼女は、初めて心から笑った素敵な笑顔を、私に見せてくれたの。
「本当にあなたは、すごいわ。
さすが、冬真(トウマ)さんが愛しただけの事はある。」
彼女はそういうと、さらに彼女の想いを言ってくれた。
「実はね、初めからアリシエに言われてた。
『今の冬真(トウマ)は、もうあの頃の冬真(トウマ)じゃない。
どれだけ頼んでも、セラピーなんてしないよ。
本当の冬真(トウマ)を見て来るといい。
アイツを手に入れる事も、アイツに抱かれる事も、きっと沙織にはできないだろう。
だけど、アイツなら、元気な体をくれるかもしれない。
日本に行ってみたらどうだ?』
ってね。」
そのあと、彼女は、「はぁー。」と大きなため息を付く。
まるで、肩の荷を降ろしたような、そんなため息。
ついたあとの彼女はとても、すがすがしい表情をしていた。
「ホント、日本に来て、よかった。
私、生まれ変われるかもしれないって・・・そう思えたから。」
それに対して私は、「大丈夫よ。」と笑うとシッカリと答えたの。
「きっと、冬真(トウマ)さんが治してくれるわよ。
あなたの病気も。
そして、心の病も。」
「えっ?」と言った彼女に、私は彼女を優しい瞳で見つめる。
「セラピーは、勘弁だけど・・・。
彼なら、もっと違う方法であなたの心を救えるわ。
だって、彼、この大病院の院長なんだから!」
そして、ブイサイン。
それには、彼女は、「アハッ!」と笑い出して・・・。
「そうね。期待するわ。」
ととても楽しそうに笑ってた。
彼女の笑顔を見ていたら、安心したの。
彼女が思っているほど、彼女の心は病んでないって。
ちゃんと、昔冬真(トウマ)さんがやった、セラピーはまだ有効だって。
少しのカウンセリングとケアーで、彼女の心はまた、潤いを取り戻す。
そう。確信した。
「安心して。」
私はそういうと、彼女の元に歩いて近付いた。
「あなた、昔に戻ってないわ。
だって、私から冬真(トウマ)さんを、無理に奪おうとしなかったでしょ?
こうして、私と向き合ってくれた。
あなたなら、大丈夫よ。」
私の言葉に彼女は、少し苦笑いをする。
その笑いが少し気になった私は、「えっ?何?」と聞く。
「その前に・・・教えて。」
突然彼女はそう言い出す。
気になりつつも、私は彼女をソファーに座らせ、私はまた机の椅子に座ると、彼女の話を聞く体勢を取る。
「何?」
彼女が私に聞きたかった事とは・・・。
「さっきの答え。
一度、心から愛した人を亡くしてるでしょ?
そして、冬真(トウマ)さんをまた、心から愛した。
躊躇しなかったの?彼を失ったらどうしよう。
また、私は誰かを愛す事ができるの?って・・・。
そんな不安、なかったの?」
私は素直に飾らずに、自然に答えてた。
「あったわよ。
冬真(トウマ)さんを失うかも?って思って、恐くなった時もあった。
だけど、彼を失ったあと、また誰かを愛せるのか?っていう不安はなかったわ。」
「どうして?」
「だって、彼を失ったら、私には、子供たちしかいないもの。
恋人だった人の子供と、冬真(トウマ)さんの子供。
3人の子供たちと生きていく。
私の未来は決まってるから、恐くないわ。」
「そうじゃなくて、誰かを愛すでしょ?
恋人をなくして、冬真(トウマ)さんを愛したように、また誰かを・・・。」
「それはないわ。」
すぐに答えた私に、「ないって・・・。」と彼女は戸惑うけど、私は、「ないのよ。」とさらにハッキリ答えると、想いを語った。
「私が冬真(トウマ)さんを愛したのは、恋人を失った悲しみを癒してくれるなら、誰でもよかったわけじゃないのよ。
冬真(トウマ)さんは、恋人よりも、何もかもが上だった。
私を抱きしめてくれる腕には、頼れる強さがあった。
私を愛してくれた大きさも、恋人よりも大きかった。
だから、私は冬真(トウマ)さんを愛したの。
彼以上に私を愛してくれる人も、私が愛す人も、もうこの世にいないわ。
私にとって、最初の男は亡くなった恋人。
そして、最後の男は、冬真(トウマ)さん。
それはもう、決まってるの。
だから、彼を失ったあとの未来も、決まってる。
私は、何も恐くないわ。
彼に捨てられる事意外は、何もね・・・。」
そう言って笑った私に、彼女は、「完敗ね。」というと、明るい笑いをする。
「正直、あなたが、こんなに素敵な人じゃなかったら、私は冬真(トウマ)さんを力ずくで奪ってた。
でも、かなわないわ。
あなたにも・・・。
そして、冬真(トウマ)さんにも・・・。」
その言葉に、「ん?」と思った私はすぐに聞く。
「冬真(トウマ)さんにもって・・・それ、どういう意味?」
すると、彼女は、「さっきの答え教えてあげる。」と笑うと、私をキラキラした瞳で見た。
「さっきも言ったように、私の心の中に、冬真(トウマ)さんを強引に奪ってやる!って思いは少しはあったのよ。
でも、そうしなかったのは、私が優しいわけじゃない。
『彼』がそうさせなかったのよ。」
「彼?」
首をかしげる私に彼女は、「そう。」とうなずくと、その正体を明かした。
「冬真(トウマ)さんに、ハッキリ言われちゃった。
『俺が愛されてるって思うのは、麗美(レミ)の中にいる時だけ。
俺が生きてるって思うのは、麗美(レミ)の前で、飾らないありのままの俺でいる時だけなんだ。
俺にとって麗美(レミ)は、俺が生きてる証だ。
アイツがいなければ、俺に生きる価値はない。』
そうハッキリ言われたの。
こんな荒削りな言葉、今まで言われた事なかったから、正直驚いちゃった。
でも・・・。」
彼女はそういうと、私の顔を覗いてくる。
「ん?」と言った私に彼女は、なんて言ったと思う?
「でも、あなたは、驚かないのね?
冬真(トウマ)さんが言ったこの言葉を聞いても、何も思わないの?」
「いや・・・それは・・・。」
と言葉を濁す私に彼女は、「クス。」と笑う。
「これが、アリシエが言っていた、“本当の冬真(トウマ)さん”なんでしょ?」
って言われたら、答えないわけにはいかなくて。
でも、ハイと言っちゃうと、幻滅させそうで・・・。
って考えたら、こう答えちゃった。
「ごめんね。」
それには、彼女は大笑い。
「やだー。謝らないでよ。
うけるぅー!!」
ひどい!そんなに、笑わなくても・・・。
でも、ホントにおかしそうに笑うから、つい私も愚痴っちゃう。
「謝るよ。だって、優しい王子さまが、あんなただの乱暴エロ王子だったなんて・・・。
そりゃ、ショックでしょ。」
だけど、彼女はなぜ・・・さらに大ウケ。
涙まで流してるし。
「沙織さん、笑い過ぎ。」
と少し怒り口調で言った私に彼女は、「ごめんなさい。」と言いながら、笑いを必死でとめて、涙を指で拭く。
「私ね、ずっと冬真(トウマ)さんみたいな人に、出会いたいと思ってたの。
でも、あなたに出会って、変わったわ。」
「えっ?」
すると、彼女は、ニッコリと笑う。
「私も、あなたみたいになりたい。
愛する人が、心を許して側にいてくれる。
そんな素敵な自分になりたい・・・。
冬真(トウマ)さんに、あんなふうに想われてるあなたが、すごく素敵に思えたの。
私も、愛する人にとって、そういう存在になりたいわ。
って・・・もう、遅いけどね。」
そう言って苦笑いした彼女に私は、背中をバシと叩いて渇を入れる。
「何、弱気な事言ってるのよ!
これからでしょ!
冬真(トウマ)さんに治してもらって、また良い恋愛しなきゃ。
そしたら、沙織さんの子供とこの子、いい親友になれるかもしれないわよ!」
そして、私はお腹を優しくさすった。
私のしぐさに、彼女は驚いた瞳で見る。
「この子って・・・えっ?
あなた、妊娠してるの?」
私は、普通に、「うん。」と答えた。
この驚きよう・・・。
うんって言ってから、思った。
もしかして、あーは言っても、まだ、冬真(トウマ)さんの事、吹っ切れてない??
って事は、やばかった?
私って・・・無神経かも・・・。
とか色々考えて、すっごいブルーになったんだけど、彼女の驚きはそういう意味ではなかったようで・・・。
「妊娠してて、今まで普通に勤務してたの?
何考えてんのよ!
流産でもしたら、どうするの!!」
そっちを、心配してくれたのか・・・。
正直、安心した。
だって、彼女、すっごい優しい人だから。
これなら、充分、やり直せるよ。
その安心から、私は笑いながら彼女に答えてた。
「平気よ。冬真(トウマ)さんの子供だし、強情だと思うから。
シッカリ居てくれるわよ。
あっ、でも、女の子だから、強情は困るかな・・・。」
そう言って、ケタケタと笑う私に、「ちょっと待って!」と急に彼女が待ったをかけてくる。
「えっ?」
キョトンとした顔で言った私に、彼女は相変わらず焦り口調で言ってきた。
「まだ、小さいでしょ?
なんで、女の子ってわかるの?」
なーんだ、そういう事?
って事で、即答の私。
「だって、冬真(トウマ)さんが、女の子がほしいって言って作った子だから。」
さらっと答えた私に、
「本気で言ってるの?」
「うん。」
普通に、それも自信満々に答えた私に、彼女は呆れた顔と声でこう言った。
「ホント、あなたたちには、参った・・・。」
って。「ん?」とサッパリわからない私は、彼女に聞いちゃったりしたんだけど、彼女は、
「アホらし。」
となぜか、脱力しちゃって・・・答えてくれなかったの。
「あっ!そうだ。」
オマヌケ顔だった彼女が、急にそう叫ぶと、元の顔で私を見る。
「きっと、時期、彼も、ここへ来ると思うから。
逢いに行く。って、言ってたから。
そろそろ私は失礼するわ。」
って・・・何?って思うよね。
「ん?」といった私は、考え込んだ。
時期来る?逢いに行く?
誰が?いつ??
わけわかんなくて、首をかしげながら言っちゃった。
「誰の事、言ってるの?」
って。それには、「えっ?知らなかったの?」とすっごい驚き顔で言われちゃって。
「何が?」
こっちも、負けじと驚き顔で答える。
その顔に、沙織さんは、「うそー。」というと、とんだサプライズを教えてくれた。
「冬真(トウマ)さん、さっき戻ってきたのよ。」
「ホントに!!」
思わず、彼女に食いついちゃう私に、「うん。」と答えた沙織さん。
ちょっとちょっと!!
春(シュン)さん、さっき、何も言わなかったじゃない!!
知らなかったのかな?
そんなはずないよね。
さては、黙ってた??
もう!いじわるなんだからー!!
でも、冬真(トウマ)さんは、私に逢いに行くといって、沙織さんの病室を出たんだよね?
だけど、ここには来なくて、沙織さんの方が先に来ちゃったわけで・・・。
それって、どういう事?
じゃ、冬真(トウマ)さんはどこへいったの?
私に逢いに行くって言ったのは・・・嘘?
本当は、私に逢いたくないの??
また、そんなネガティブの私が出現してきた。
だけど、私は、自分に言い聞かせる。
ダメダメ。そう悪いほうに思っちゃいけないって!!
冬真(トウマ)さんを信じるんでしょ!!
なら、信じるのよ!!
そう自分をなだめて、私は別の事に頭を切り換えた。
逢うと言って、でも、ここには来てないとすると、冬真(トウマ)さんはどこで私に逢うつもりかって事よね?
そこに、冬真(トウマ)さんは居る可能性があるって事?
私と冬真(トウマ)さんが、ユックリ2人きりで逢える場所って・・・。
「あっ!!」
ハッとした私の表情に、「どこにいるか、わかったみたいね。」と言った沙織さんは、ソファーから立ち上がる。
「ほらっ!行って。」
彼女はそういうと、私の肩をポンと叩いて、扉へと向かう。
そして、ドアノブを握ると、こちらに振り返った。
「あなたと話せて本当によかったわ。
お腹に居るお嬢ちゃんと、親友になれる子を、早く産めること祈っておいて。」
そう言って、笑った彼女は最後に、
「冬真(トウマ)先生とお幸せに。」
という言葉を残して、この部屋を去っていった。
彼女が言った、『冬真(トウマ)先生』。
『先生』・・・。
それは、彼女の恋が、本当に終わりを告げた事を、物語っていた。
少し悲しい思いになったけど、大半は、正直ホッとしてた。
だって、旦那さまを愛する人が、一人減ったんだもん。
ホッとしない方が、嘘でしょ。
安心したら・・・そうだっ!
思い出したよ!すっごい事を!!
冬真(トウマ)さん、冬真(トウマ)さん!!
って事で、私は部屋から飛び出すと、彼が向かった『場所』へと、猛ダッシュしたの。
私は、目的の場所につくと、迷わず、持っていた鍵で扉を開けた。
きっと彼がいる。
そう信じて扉を開けた。
窓から夕日が入り込み、その光が私の視界を惑わした。
でも、わかる。
夕日が映し出したシルエットで。
黒い影。
ここに入れるのは、彼しか居ないのはわかっているけど、でもね。
わかるよ。
このシルエットで。
私は、そのまま、その影に近付くと、彼の背中に向かって抱きついた。
彼の大きくて頼れる背中に、頬をくっつける。
両手を彼のお腹辺りに回して組む。
彼は何も言わないまま、ただ私の手に自分の両手を乗せてきた。
ここへ向かう道中。
私はいろんな事を考えていたの。
彼に逢ったら、何を一番に言おうかな?って。
赤ちゃんの事を言わなきゃ。
いや、その前に、謝んなきゃ。
とか色々。
頭をフル回転にして考えたんだよ。
でも、答えはみつからなかった。
どうしようという焦りもあった。
だけど、『案ずるより、産むが易い』って、ことわざがあるように、飛び込んじゃえば、事前の答えなんていらなかった。
っていうより、出番なしだと知った。
だって、私の心と本能が、勝手に一人歩きしちゃったから。
勝手にくっついて、そして勝手に口走ってた。
「おかえりなさい。」
って。そうなの。
もっと言わなきゃいけない言葉があるのに、私はゴク普通の言葉を彼に言っていた。
だけどね、それがよかったのかもしれない。
ゴク普通の飾らない言葉が、彼の心をこじ開けたみたいで。
彼は、「フッ。」と息を吐くと、私の手を強く握って、こう答えた。
「ただいま。」
って。そして、私の手を自分の体から離すと、ゆっくりと私の方に振り返り、私をすごく穏やかな瞳で見つめる。
「な・・・に?」
ちょっと恐かった。
何を言われるんだろうって・・・ビビっちゃった私。
だって、考えがまとまってないからさ。
ちゃんと返せるの?とか考えちゃって、また私の頭の中はグルグルと運動会みたいにいろんな言葉がかけっこ始めちゃった。
アタフタし始めた私の姿に彼は察知したのか、両手を私の頬に優しく添えてきた。
彼の懐かしい手に、私の体と心は正直に反応する。
頭の中で繰り広げられていた、大運動会も動きを止めて一旦停止する。
泳いでいた私の瞳が、彼の瞳の前で止まった。
そんな私の目を見た彼は、「落ち着けよ。」とボソと言ったかと思ったら、自分のオデコを私のオデコにゆっくりと重ねてきた。
「一人になって、色々考えた。」
彼はそういうと、オデコを離し、今度は私を自分の方に抱き寄せると、私の肩に顎を乗せる。
耳元で彼の囁くような声が、聞こえて来た。
「出発前、麗美(レミ)にひどい事したのは、謝る。
けど、あの時の思いは、嘘じゃない。
確かに、沙織が来て、取り乱したのは事実。
沙織とは、体だけのつながりって考えたら、俺と麗美(レミ)もそれと何も変わらないんじゃないかって思った。
何かあれば、交じり合う俺たち。
愛し合う事でしかお互いを感じ合っていないのなら、体だけの関係と何も変わらないって・・・。
だけどさ、春(シュン)に言われて・・・・。
そして、気付いた。」
「何を・・・言われたの?」
少し彼の方に向いていった私に、彼は自分の頬を私の頬に強引にくっつけてきた。
私の温度をまるで、恋しく思ったようなしぐさ。
少しかわいく見えた。
「『麗美(レミ)ちゃんがお前の体だけを求めてるっていうなら、お前も同じだろ?
お前も、すぐに麗美(レミ)ちゃんと交じりたがるのは、彼女の体を求めてるって事だろ?
そうじゃないっていうなら、これからお前は彼女を抱くな。
お前にそれができるなら、お前が被害者だと俺が証人になってやる。
それができないのなら・・・お前は、彼女を責める資格はない。』
って。
そう言われて考えて、わかった。
俺もお前の体を求めてたって。
麗美(レミ)の事好きだから、お前と愛し合いたい。
愛してるから、麗美(レミ)の体がほしくてたまらなくなる。
交じり合いたくなるんだって・・・。
あの時、麗美(レミ)が俺に必死で訴えた言葉の意味が、わかった気がした。」
そういいきった彼は、私の肩から顔をあげると、私をまたみつめる。
「弱い俺で・・・ごめん。」
そんなガラにもない事、言わないでよ。
でも・・・ちょっと、嬉しいかな?
だって、また知らなかった冬真(トウマ)さんの一面を、見れた気がしたから。
だから、余計かもしれないけど・・・私も素直になれたの。
彼の首に腕をからませて、彼に抱きつく。
「私も、これからは、もっとわがままになる。
嫌なものは嫌。って気持ち言うから。
それに、体だけじゃなくて、言葉でも、もっと伝えるから。
冬真(トウマ)さんが、誰よりも大事で、大好きだって。」
私の言葉に彼はただ、うれしそうに笑いながら「うん。」とだけ答えた。
そして、私の唇に自分の顔を近づけながら、
「麗美(レミ)・・・愛してる。」
と甘い声で囁いた後、私の唇に温かい体温を与えてくれた。
心が、すーっと晴れてくるようだった。
不安だった気持ちが、浄化されていく・・・・。
そんな感覚だった。
彼の愛を感じたら、急に安心しちゃって。
私は唇を離した瞬間、今度は彼の胸に顔をうずめて抱きつくと、両腕を彼の腰にからめる。
そして、この上なく、ギューと抱きついて、彼にしがみついた。
「麗美(レミ)・・・どうかしたか?」
私の髪を優しくなでながら、そう聞いてきた彼に私は余計に心が緩んで、泣いちゃって。
「ん?」
そんな優しい声出されたら、もっと泣けちゃって、余計いいにくいよ。
と思いつつ、私は頑張って口にした。
「恐かったの・・・。」
「なんだよ。俺が沙織に乗り換えるとでも思ってたのか?
もっと俺を信じろよ。」
そう言って軽く笑う彼に、私は「違う。」と言いながら首を振った。
「じゃ・・・何が恐かった?」
そう言いながら、私のオデコに優しいキスをしながら、私の顔を覗いてくる彼に私は、泣き過ぎてシャックリを出しながら言った。
「赤ちゃん・・・。」
って。それに対して、「ん?」と彼はさらに顔を近づけて聞いてきたものだから、私は彼の顔に自分の顔をくっつけながら、訴えたの。
「赤ちゃんが、死んじゃいそうだったの。
本当は恐くて恐くて、たまらなかった。
冬真(トウマ)さんに助けてほしくて・・・。
側にいてほしかったの。」
一気にそういうと、顔を彼から離し、私はまた彼の胸にしがみついた。
そんな私を彼は、ゆっくりとそして、優しく両腕で包み込むように抱きしめてくれた。
そして、この上なく優しく安心する声で、耳元で囁いた。
「大丈夫。俺が守ってやるよ。」
そして、右手を私の背中から離すと、スッと私のお腹に当てた。
「麗美(レミ)の体も、ここにいる命も、俺にまかせろ。
麗美(レミ)が、産みたいって言うなら、ちゃんとこの世に誕生させてやる。
産みたいんだよな?」
そんなの決まってるじゃない!
って事で、私は顔を彼の胸からすごい勢いで起き上がらせると、彼を見つめ必死で訴えてた。
「産みたいよ!当たり前でしょ!
冬真(トウマ)さんの赤ちゃんだよ。
この手に・・・抱きたいよ・・・。」
そう言いながらまた泣いてる私に、「わかったから、泣くなよ。」と苦笑いをしながら、私の涙をお得意の舌でペロペロと拭い取ってくれた。
「心配するな。ちゃんと、叶えてやるから。」
自信満々の表情でそう言った彼は、そのあと、少し申し訳なさそうな顔をして私を見た。
「ごめんな・・・おまえに、こんな恐い思いさせて。
ホントに・・・ごめん。」
「冬真(トウマ)さん・・・。」
彼の名前を呼んで、少し「フフ。」と笑う私に彼も、いつもの調子に戻る。
「こいつもきっと、俺をうらんでるだろうな。
『苦しかったんだからね。』って、怒られそう。」
そして、触れている右手を優しく動かした。
彼が触れている場所が、とても暖かくて、そこから安心が溢れてきてるみたいだった。
スッカリ穏やかな気持ちになった私は、彼の冗談にも答えられるくらいのゆとりが出てきた。
「ホント、せっかくの姫なのに、嫌われちゃうかもね。」
私の答えに、「だな。」と当たり前のように返してきた彼。
それを聞いて思ったんだ。
彼も、姫だと思ってるんだねって・・・。
さすが!と思っちゃった。
「早く、お前を抱きたいけど・・・これ以上、こいつに嫌われると困るから、もう少し辛抱するか。」
そういって、「チェッ。」と舌打ちした彼に、私も正直に答えた。
「ホント、残念だよ。」
って。だけど、その何気ない言葉が、なぜか彼には、挑戦的な言葉に聞こえたようで・・・。
なぜか、ファイトモードになっちゃたのよ!!
「その言葉、覚えとけよ。
安定期になれば、ヘドが出るくらい抱きまくってやる。」
てね・・・なんで、そうなるわけ?
さっきの私の言葉から、どうしてそうエロい方へと進むんだ?
冬真(トウマ)さんの頭の中、解剖してやりたい!
私は、情けない声で、彼に力なく言ったよ。
「ホント・・・エロいんだから。」
って。なのに、彼ったら、いつもの事ながら・・・開き直りやがってさ!!
「当然!エロいに決まってんだろ!
っていうか、愛してるから、抱きたいんだ!
麗美(レミ)の名言だろ?」
しかも、笑いながら。
そんな意地悪な顔をみたら、つい言っちゃうよ。
「なんか、逆手にとってない?」
って。だけど、彼は平然として言ってくる。
「んなこと、ねぇーよ。」
どこがよ!思いっきり逆手に取ってんじゃんか!
ホント、強情というか、ズル賢いんだから・・・。
呆れて物が言えないよ。
って事で、何も言わずに、シラーとした目で顔を見ていると・・・。
「んだよ。いいたいことあるなら、言えよ!
ちゃんと、思い言うんだろ?」
これまた、意地悪だよ。
ホント、さっきまでの優しさはいずこ??
この人が、『ドクターオアシス』と呼ばれているなんて、思えないよ。
たまらず首を振る私に、「さっさと言えよ。」と少し怒り口調で言われちゃって。
なら、言わせてもらいます!って事で、私は思ってる事を言ったんだ。
「ねぇー、エロさ加減がパワーアップしてる気がするんだけど・・・。」
だけど、彼は、「気のせい、気のせい。」と即答。
でもさ、1ついい?
その笑いながらのコメントは何?
ある意味、認めてない?
それにさ、大体、絶対、気のせいじゃないでしょ。
正直、安定期になったら、私はどうなるの?
なんか、昔みたいに50時間・・・いや、60時間は犯されそう。
そんな不安を感じたら・・・ブルと身震いをしちゃった私。
こうして私と冬真(トウマ)さんの初めての喧嘩は、無事解決した。
でもそれは、夫婦の危機っていうより、夫婦のエッチの密度が濃くなったような・・・。
そんなとんでもない結末になったんだけど・・・。
あとで思うと、これって、冬真(トウマ)さんの策略か?とも・・・思ってしまう。
だって、冬真(トウマ)さんにとって、有利な状況で終わった気がしない?
『愛してるから抱きあいたい』って定義・・・。
裏を返せば、『愛してるなら拒否んな!』って事だよね・・・。
冬真(トウマ)さんからの攻めを拒否れなくなったら、私は・・・間違いなく死ぬよ。
これから、私たち夫婦のエッチは、どこまで加速するの?
すごく、不安になってきた・・・。
だけど、それは、この上なく、幸せな事で、贅沢な悩みだよね?
だって、愛する人とその人の体に抱かれるのはこの上なく幸せな事で、それはこの上ない『愛の奇跡』だと思うから。
ねぇー、そう思うでしょ?
私のお腹に居る姫ちゃん?
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