ポケットから携帯を出す。
そして、また、戻して・・・また出す。
これを、自分でも何回したかわからなくなるくらい繰り返して、とうとう俺は、携帯を側のアスファルトに置いた。
校庭で聞こえていた生徒の声も、小さくなっていった。
という事は、もう、昼休みも終わるって事。
俺は、壁に背中をもたれて座っていたけど、そのまま横にバタンと倒れて寝転んだ。
遠くに見える青空を見て俺は、綺麗とかじゃなくて、こう言った。
「なんで、来ねぇーんだよ!!」
って。
俺は、麗美(レミ)がくると信じてたんだ。
確かに麗美(レミ)は、俺を受け入れるような態度を取ったり、俺を拒絶したり、そして、何もかもを拒否してしまうような震えを起こしたりして、わけわかんねぇーことが多すぎる。
だけど、俺が思うに、それは、全て何か原因があると思うんだ。
麗美(レミ)が心のまま、突き進めない何かが・・・。
俺は、それが知りたい。
そして、麗美(レミ)を開放してやりたいんだ。
それを、親友の冬真(トウマ)に言ったら、アイツは俺にこういった。
「お前は、医者になる者として、彼女の闇を知り、救ってやりたいのか?
それとも、好きだから、彼女を救いたいのか?」
正直俺は、答えられなかった。
今だって、俺にはどっちかわからないんだ。
屋上でただ逢っていた時に、麗美(レミ)に対して思っていた事なんて、本当に何もなかった・・・ような気がする。
というか、俺が『何かを思う』事自体・・・おかしい事だったからさ。
俺は、女という生き物が大嫌いだから・・・。
『あの一件』以来、俺は女が嫌いになった。
っていうよりも、信じなくなったんだ。
好きだ。とか、愛してる。とか・・・何の保障にもならない。
何の力も持たない。
いざとなれば、人は何よりも自分が大事で、自分を守るものだと知った俺は、誰も信じなくなった。
特に、異性はな・・・。
だけど、そんな俺が、なぜか麗美(レミ)には興味があるというか・・・目が離せないんだ。
ほっとけないというか、いつも目の届くところにいてほしいというか・・・。
それが、一体何なのか、俺にもわからないんだ。
俺自身の事なのに・・・。
だから、今日、麗美(レミ)とちゃんと向き合って話したら、麗美(レミ)の気持ちもわかるけど、俺自身の想いもわかるんじゃないかと思ってた。
だけど・・・。
俺は、放置していた携帯に手を伸ばすと、改めて時刻を見た。
「もう時期、始まるか・・・。」
そう俺が、弱い声で言った時だった。
屋上の扉が、きしむ音を立てて開いた。
俺は、もちろん、体を起こして飛び起きた。
麗美(レミ)がそこに立っている事を、期待して・・・。
そんな俺の姿を、今入ってきたやつは、鋭い眼差しで見てた。
いつもは見せないような俺を敵視するような眼差しのアイツに、俺はもちろん、挑戦的な口調で声をかけた。
「俺に、何かようか?
こんな所に、わざわざ来なくても、言いたい事があるなら、家で話せばいいだろ?」
嫌味っぽく言ったのに、アイツは「フン。」と鼻で返事をすると、俺の側まで歩いてきて立ち止まった。
俺は、座っているわけだから、完璧俺はアイツを見上げて、アイツは俺を見下ろしていた。
その体勢自体が胸くそ悪くて、俺はさらに不機嫌になり、つい八つ当たりをしてしまった。
「麗美(レミ)に逢いにきたんなら、残念だったな。
アイツなら、来てねぇーよ。」
そういって笑う俺に、匠(タクミ)は、「見え透いた嘘をいうなよ。」とすぐに言い返してきた。
「嘘?」
と聞き返す俺に、アイツにしては珍しくかなりイライラしているようで、今まであまり見せないような、口調で言い返してきた。
「今朝、彼女と逢った時に、何を話した!
一体、彼女に、何をしたんだ!!」
「悪いけど・・・。」
俺は言いながら立ち上がった。
そして、匠(タクミ)の正面に立つと、匠(タクミ)を真剣な眼差しで見た。
「お前に、イチイチ言う必要ねぇーだろ?」
俺はそう言ったあと歩き出し、匠(タクミ)とすれ違う所で、匠(タクミ)の肩をポンと叩いた。
俺のしぐさに、匠(タクミ)も顔を俺の方に向けた。
お互いが挑戦的にみつめあった。
匠(タクミ)のムカつく瞳を見たら、俺は抑えていた想いがとまらなくなって、ついずっと思っていた事を言ってしまったんだ。
「お前、なんで、急に麗美(レミ)を見張るようになったんだ?」
って。
どう考えてもおかしいだろ?
コイツは、麗美(レミ)のこと、あまり知らなかったわけだし、例え一緒に暮らして、惹かれたにしても、四六時中一緒にいるなんて・・・ありえないからさ。
だけど、さすがは全国でも上位に君臨する頭脳の持ち主だけはあるよ。
「イチイチ言う必要ないと思うけど・・・。」
と返されてしまった!!
だけど、そこで、「あーそうかよ。」なんて、俺が思うわけないだろ!
俺は、そんな温和な男じゃねぇーんだよ!
と心で叫びながら、もちろん、温和じゃない俺は言葉にして、匠(タクミ)に喧嘩をふっかけた。
「お前、麗美(レミ)が高熱出した日、俺と麗美(レミ)が部屋でしてた事、みたんじゃないのか?」
俺のカマに、案の定、匠(タクミ)は反応を見せた。
眉をピクっと動かし、目が少し俺から離れた。
「やっぱりなー。そんなことだろうと思ったよ。」
俺はそう言って少し笑って、匠(タクミ)の側をすり抜けて、フェンスの方へと歩いた。
そこから、人気がなくなった校庭を見下ろしていた俺に、匠(タクミ)は何も言わなかった。
だから、俺から口を開いた。
「お前、麗美(レミ)を好きなんじゃなくて、俺みたいな最低な男に、麗美(レミ)が惹かれている事が、耐えられなかったんだろ!
完璧である自分をさしおいて、陸(リク)なんかに・・・。ってな。
だから、俺から麗美(レミ)を奪おうとした。」
俺はそこまでいうと、校庭から体を匠(タクミ)の方に、クルっと向けると、今度はフェンスにもたれて匠(タクミ)を見た。
「お前に一つ言っておく。」
俺の言葉に、匠(タクミ)は俺の方にユックリと顔を向け、目を合わせた。
匠(タクミ)と目が合ったことを確認した上で、俺は素直な自分の気持ちをアイツに言った。
「麗美(レミ)を、誰にもやるつもりはないから。」
そして、一旦口を閉じて、さらに俺はこう言った。
「匠(タクミ)。例え、相手がお前でもな。
麗美(レミ)がもし、匠(タクミ)を好きだと言っても、それでも俺は麗美(レミ)を渡さない・・・。」
そこまで言ったら、ちょっと、恥ずかしくなった俺は、すぐに匠(タクミ)から目を離して、また校庭に目をやった。
そのままで、俺は本題に入った。
「それで?麗美(レミ)をどこに隠した?」
てっきり、俺は、麗美(レミ)がここへ来なかったのは、匠(タクミ)の仕業かと思っていたんだ。
俺がここで、待っている事。もしくは、麗美(レミ)が屋上に行きたがっていた事を知って、麗美(レミ)をここへこさせないようにして、自分が乗り込んできたとばっかり。
だけど、匠(タクミ)は、「へっ?」と言って、
「陸(リク)が隠しているんじゃないのか?」
なんて、言ってきた。
「あのなぁー。冗談言ってる場合か?
もう、いいだろ?今ぐらい、俺と麗美(レミ)の間を邪魔するなよ!!」
と呆れていう俺だけど、「俺は、ホントに知らない!!」と匠(タクミ)は少し大きな声で言った。
どう見ても・・・嘘をついてるようには、見えない
って事は、麗美(レミ)がここに来なかったのは、匠(タクミ)のしわざじゃないって事?
じゃあ・・・麗美(レミ)の意志でここに来なかったって事か?
それを、理解した俺は、急に体の力が抜けてしまって、ヘナヘナとその場でしゃがみこんだ。
また、背中がフェンスによりかかったせいで、網がきしむ音が辺りに響いていた。
「り・・・く?」
俺の態度に心配になったのか、急に優しい顔で俺をみる匠(タクミ)。
でも、俺は答えられなかった。
ただ、頭の中は、同じ言葉だけが、飛び交ってた。
『麗美(レミ)・・・どうして、来てくれなかったんだ。』って・・・。
何も頭に入らなくなっていた俺のほんの隙間にだけど、かすかにベルの音が聞こえた。
授業の開始のチャイムだった。
放心状態の俺を心配しつつも、優等生の匠(タクミ)は、教室へ戻る事を選んだ。
「俺・・・戻るわ。」
匠(タクミ)はそう言って、屋上の扉に手をかけた時だった。
「うわっ!」
開けようとしたら、勢いよく扉が開いたもので、匠(タクミ)はかなり驚いたらしく、そんな声を上げていた。
「あっ!ごめんなさい。」
その人はそういいながら、匠(タクミ)に軽く頭を下げた。
自分が求めていた人物が彼じゃないと気付いた彼女は、匠(タクミ)と早々にすれ違うと、屋上の中をぐるっと見渡した。
そして、最後に俺が視界に入った。
俺を見た途端、「いたぁー!!」と言って俺の元へと、もうダッシュしてきた。
その早いこと・・・。
ハッキリ言って、逃げたくなるくらい恐かった。
「な・・・なに?」
戸惑いながら聞く俺に、目の前の彼女は、いきなりこう言った。
「麗美(レミ)は?」
って。
彼女の勢いにも圧倒されて言葉が出なかったのも事実。
でも、それよりも、彼女の言った言葉の方が、俺の心に冷たい風を送り、言葉を止めた。
「えっ?」
それしか言えなかった。
だけど、頭の中は回っていた。
所で、一体コイツは、誰なんだ?
っていうより、もう授業始まってんだろ?
そんな事を考えたりしていた。
考えて・・・気付いた。
「アンタ・・・。確か、前に麗美(レミ)と一緒にいた友達だろ?
俺、握手したよな?」
彼女を指さしながらそう言った俺に彼女は、
「由梨華(ユリカ)です!」
と少し怒った口調で、さらには、すっごい早口で自分の名前を言ってのけた。
そして、すぐに、「それより・・・。」というと、今度はまた、小走りで俺の元へ近付いてくると、俺の腕をつかんだ。
「おいっ!!・・・なんだよ!!」
腕をつかまれ、俺は恐くて一歩後退して、かなり逃げ腰になる。
だけど、後ろはフェンス。
さらに、背中を網にこすりつけただけで、ガチャンという音と、窮屈感が俺を襲っただけだった。
「あのさ・・・。一体、なんなんだよ。」
と呆れながら口にする俺に、
「麗美(レミ)は?麗美(レミ)はどこにいるんですか?」
と彼女は俺に一気にそういった。
「どこって、見たらわかるだろ。
アイツはここには、来てねぇーよ。」
俺は、辺りを見渡す動作をしたあと、目の前の彼女に目を移した。
そして、「なっ?」と笑顔を送る。
俺が嘘を言ってない事を理解した彼女は、なぜか、さらに顔を曇らせる。
その彼女の顔が、俺の胸に何かを突き刺した。
ズキーンと感じるこの痛み・・・。
俺は、なぜか、気持ちが少しずつ落ち着かなくなるのを感じた。
「麗美(レミ)が・・・どうかしたのか?」
そう口にした自分の声に、俺自身驚いていた。
さっきまでの軽い気持ちや、何も考えていないような口調ではない自分。
無性に胸がザワザワと揺れて、切羽詰ったような声に、深刻な表情。
言葉の一つ一つが、重くてずっしりとする・・・。
そんな言葉を口にしていた俺に、彼女も深刻な表情のまま俺を見た。
「麗美(レミ)は、本当にここに来てないんですか?」
「ああ。」
俺は、すぐに答えた。
その答えに彼女は、今度はこちらに戻って来ようと、歩いてきている匠(タクミ)を見た。
「匠(タクミ)先輩も、麗美(レミ)を知りませんか?」
もちろん、彼女の真剣な質問に匠(タクミ)も正直に答えた。
「俺も、今日は逢っていないよ。
友達とご飯を食べるから。って言われたから。」
匠(タクミ)の答えに、「そうですか・・・。」と彼女は力のない返事をした。
そして、今度は俺へと視線を変える。
「麗美(レミ)は、本鈴が鳴っても戻ってこなくて・・・。
今、私のクラスは、さっきの授業の続きで、自習なんです。
だから、私も抜けてこれたんですけど・・・。」
彼女はそう言ったあと、「実は・・・。」と言ったものの、次の言葉を口にするのに躊躇した。
俺は、彼女のその態度がすごく気になって、つかまれている彼女の手を、今度は俺がつかんで彼女に迫る。
「実は・・・何?
何か、知ってるのか?」
俺の切羽詰った言い方に、声のでかさ。
驚いた彼女は、少し戸惑いの眼差しで俺を見る。
でも、俺の目が必死で彼女に問いかけていたからなのか、彼女は大きく深呼吸をすると、「実は。」と言って、後の言葉を口にした。
「クラスの子が、麗美(レミ)が、お昼休みに、校庭を歩いていたって。」
「校庭を?」
彼女は頷くと、「それが・・・。」と口にして、さらなる情報を言った。
「麗美(レミ)は、陸(リク)先輩に逢いに、ここに行くと言って、一緒に教室を出たんです。
でも、友達が、3年生の女子に麗美(レミ)が連れられていたのを見たっていうし、戻ってこないから、すごく気になって。
その3年生ってのが、いつも陸(リク)先輩と一緒にいる人だって、その子から聞いて、すごく嫌な予感がして。
もしかしたら、麗美(レミ)、何か嫌がらせされてるんじゃないかな?って・・・。」
彼女はそう言ったあと、俺の腕をまたつかんだ。
「その人に麗美(レミ)をどうしたか、陸(リク)先輩から聞いて下さい!
絶対に、その人が麗美(レミ)に何かしたんです!
お願いします。
これ以上麗美(レミ)を苦しめないで・・・。」
そこまで言った彼女はたまらず涙を流して、その場でしゃがんでしまった。
俺は、彼女に何も出来なかった。
優しい言葉をかける事も、彼女を支えてやる事も。
なぜなら、今の俺の思考回路は、停止していたから・・・。
だって、そうだろ?
来ると思っていた麗美(レミ)が来なかった。
匠(タクミ)が邪魔をしていたのかと思えば、そうじゃなかった。
それじゃあ、来なかったのは麗美(レミ)の意思だったんだと思っていたのに。
今度は、麗美(レミ)が、誰かに何かをされてるだって?
そんなの、頭がついていくわけがない。
もちろんの事ながら、冷静に犯人捜しなんて、俺の頭ではできなかった。
彼女だけじゃない。
俺だって、頭を抱えてしゃがみこみたいぐらいだったんだから。
何も考えられなくて、何も言えない俺とは違って、コイツは冷静に動いた。
まずは、しゃがみこんで泣いている彼女の元へと向かい、彼女の側で座った。
そして、彼女の肩をポンポンと優しく叩いて、彼女に安心を与えた。
彼女の顔を優しい瞳で見つめながら、これまた優しい口調で彼女に語りかける。
「大丈夫?」
匠(タクミ)の言葉に、彼女はただ1回首を縦に振った。
それを見た匠(タクミ)は、今度は彼女の頭を優しくなでながら、言葉を続けた。
「陸(リク)って、来る者拒まずだから、『いつも一緒にいる3年の女子』だけじゃ、誰かわからないよ。
何かもっと、特長になる物とかないかな?
例えば、髪が長いとか、陸(リク)が彼女を呼んでいた呼び名とか・・・。」
なんて、アドバイスをする匠(タクミ)に、「え・・・っと・・・。」と彼女は口にしながら、涙を拭う。
そして、少し考えてたかと思えば急に、何かを思い出したのか、「あっ!」と声を上げた。
「トリマキが2人いて、いつも3人でつるんでいる人。
陸(リク)先輩に握手してもらった時に、陸(リク)先輩にキスしてた人です!」
彼女の言葉に、しゃがんでいた匠(タクミ)が俺を見上げた。
ただボーっとした目で彼女を見ていた俺と匠(タクミ)の目が、重なった。
「誰か、わかったか?」
匠(タクミ)の言葉に俺は、「ああ。」と答えると、フェンスにもたれていた体を起こした。
そんな俺の前に、匠(タクミ)も体を起こして、立ち上がる。
「3人って、もしかして・・・。」
と言った匠(タクミ)に俺は即答した。
「たぶん、陽子だろう。」
ってな。
陽子は、俺にしつこくかまってくる女なんだ。
初めは俺と一緒にいる事を望み、次はキスをねだり、さらには俺に抱かれる事を自らけしかけてきた。
そして、最後は俺の女になる事を求めてきた女。
もちろん、最後は断った。
俺は彼女や恋人に興味はないし、そういうのはもううんざりなんだ。
あんな想いは、二度としたくないからな。
だから、陽子とは、俺の女になる手前で止めてたんだけど、なんでかな?
麗美(レミ)とキスを交わしたあの時から、俺の中で他の女はいらなくなった。
というより、必要なくなったんだ。
キスもその先も、何も感じなくなった。
どんなに激しく抱き合っても、熱い愛撫をしても、麗美(レミ)とのあの屋上でのキスに勝る物はなかった。
あのキスをして、しばらくしてから、俺は全ての女と手を切った。
あれから、陽子も何も言ってこなかったから、気にもしてなかったんだけど、まさか麗美(レミ)に逆恨みをするとは・・・。
「さてと・・・。」
俺はそういうと、扉に向かって数歩歩き出した。
俺の姿に、「おい、待てよ!」と匠(タクミ)は声をかけると、俺の腕をつかんだ。
「ん?」と軽く答えて振り返る俺に、匠(タクミ)は、
「一人で行くのか?」
と言ってきた。
当たり前の事を聞くものだから、たまらず鼻で笑う俺。
「陸(リク)っ!!」
俺のふざけた態度に本気で怒る匠(タクミ)に俺は素直に、「わりぃー。」と笑いながらだけど謝った。
まだ、笑っている俺に、「俺も行くよ。」と匠(タクミ)は言った。
「えっ?」
と聞き返した俺に、真剣な眼差しで匠(タクミ)は俺を見ながら言った。
「主犯が彼女なら、きっと黒川もからんでるだろ?
だったら、お前一人には、荷が重過ぎる。」
匠(タクミ)の言葉に俺は、素直な感想を言った。
「さすがは生徒会長だな。
ちゃんと、学校の事を理解してんじゃん!
黒川が、構内一の陰湿な悪だって事もわかってんだな。」
俺は、匠(タクミ)を褒めたつもりだったんだ。
先生に言われた事だけをしている名ばかりの生徒会長じゃなくて、ちゃんと生徒の良し悪しも見ているやつだったんだってな。
だけど、俺がふざけてるとでも思ったのか、
「冗談を言ってる場合じゃないだろ!」
と怒鳴られてしまった。
だけど、俺は、余裕の笑顔を匠(タクミ)に送った。
「平気だよ。俺一人で。」
そう言って俺は、俺の腕をつかんでいる匠(タクミ)の手を離して、さらに匠(タクミ)を見た。
「麗美(レミ)は俺のせいで嫌な思いをしてる。
なら、俺が助けてやらなきゃ。
俺が、一番にアイツを抱きしめてやらないとダメだから。」
俺はそういったあと、「じゃ、彼女の事は頼んだぞ!」と言いながら、匠(タクミ)の肩をポンと叩いた。
そして、その場を離れた。
屋上の扉のノブをつかもうとした時、「あのー。」という彼女の声が聞こえて俺は、ノブに手をかけようと伸ばしていた手を下に下ろしながら後ろを振り返った。
そこには、匠(タクミ)に体を支えられながら、立ち上がってこちらを見ている彼女の姿があった。
「何?」
と叫んだ俺に、彼女は側にいた匠(タクミ)に何かを渡した。
そして、それを受け取った匠(タクミ)は俺の方に、右腕を上げて、「受け取れ!」と声をあげると、右手から何かを開放した。
あまりに突然の事で、驚いた俺は、「えっ?」と口にしながらも、俺に向かって飛んでくる物体を必死でつかんだ。
手を広げてそれを見て俺はもちろん、驚き顔で彼女を見た。
彼女の変わりに答えたのは、匠(タクミ)。
「麗美(レミ)ちゃんは、昼休みには、マナーモードは解除してるらしい。
電話を鳴らせば、彼女の居場所が特定できるはずだ。」
匠(タクミ)の言葉に何も言えない俺は、ただ手の中にある、彼女の携帯を見た。
「黒川がたむろっている場所といえば、限られてくるが、それでも、それがあった方がいいだろ?」
俺はその携帯を強く握った。
そして、顔をあげて彼女を見た。
「ああ。助かる。サンキューな。」
俺の言葉に彼女は少し笑った・・・のかな?
遠くてそこまでは見えなかったけど、そんな気がした。
「番号は、『レミ』で登録してあるからな!」
匠(タクミ)のつけたしに、俺は左手を上げて答えると、屋上から飛び出した。
「いやぁー!!離してぇー!!」
体は抑えられているから、動かす事も逃げることも出来なかった。
でも、私は必死で大声を上げて、助けを求めた。
「おいっ!口をふさげよ!」
主犯の男は、そういうけど、「無理だって!」と他の男は首を振る。
「なんで?」と聞いた彼に、一人の男が言った。
「すっげぇー、暴れるから、抑えるのに手がいっぱいで、離せるわけねぇーだろ!」
それを聞いた主犯の男は、「なら、しかたないな。」と答えると、私の顎を右手でつかんで、強引に私の顔を自分の方に向けた。
「陽子にさっさと、ヤレって言われたから、やっちまおうと思ったけど、あまり声を上げられると困るんで、少し寄り道するか・・・。」
主犯の男はそういうと、私の唇に乱暴に触れて来た。
陸(リク)と違う温度。
陸(リク)とは違う感触。
私は、思いっきり首を振って抵抗した。
でも、離れてもまた彼は私の顔を抑えると、それを繰り返した。
強引に舌を入れて、からんでくるキスをする彼に私は、必死で嫌がるけど・・・何も出来ないまま彼の舌が、容赦なく暴れた。
自然と涙が流れた。
目の前にいる人たちが恐かった。
でも、何よりも、こんな事をされているのに、何も出来ない自分が恐かった。
普通なら無力な自分に嘆くのかもしれない。
だけど、私は、何も出来ない事を違う風に捕らえてしまったの。
こうやって、抵抗しないのは、『男が好き』だから・・・。
母親が、陸(リク)や匠(タクミ)さんの父親である誠(マコト)さんを、結婚している身で愛したように、私は陸(リク)を好きだと言いながら、他の男にこんな事されても平気・・・いや、されたいとどこかで思っている?
自分も、母親と同じ?
私の中で、大好きだった母親が、ドンドン最低になっていった。
それと同時に、自分もドンドン最低になってくる。
そして、それが、また私を追い詰めた。
「どう?陸(リク)より気持ちいいだろ?
ちょっとは、おとなしくなったか?」
唇を離してそう言った主犯の男だったけど、その直後の私の態度を見て、体を硬直させた。
もちろん、驚いたのは彼だけじゃなかった。
私の体をつかんでいた男達も、同時に手を離して、その場に尻もちをついて、あっけ。
その中で、一人の男がやっとの思いでこう言った。
「これ・・・ヤバくないか?」
って。
それに対して、主犯の男も何も答えなかった。
その時、急に私のお弁当袋から、着信音が鳴った。
普通なら、その音を消そうとするだろうけど、今はそれどころじゃなかった。
だって、自分を追い詰めた私は、『あの時』と同じように震えだしてしまったから。
呼吸を乱して、開放された体を丸めながら、私はガタガタと震えた。
「けど、やらなきゃ、陽子に一生ののしられる・・・。
いいから、体を抑えろ!!」
主犯の男はそう言って命令する。
仕方なく4人は彼の指示に従い、私の体に強引に触れようとしたけど、1人の男は立ち上がった。
「おいっ!」と言った主犯の男に彼は、「俺・・・抜けるわ。」と口にすると、返事も聞かずに体育倉庫から出ようとして、扉を開けた。
「ブッ!!」
誰かとぶつかった彼は、そう声を上げたあと、「いってぇーな。」といいながら、その人物を見た。
「陸(リク)っ!!」
その声に、主犯の男も含めて全員が彼を一斉に見た。
私は、自分の心も体もグチャグチャで、陸(リク)が来た事なんて、もちろん全く気付いていなかった。
たぶん体育倉庫だろうとめぼしをつけて、俺はそこにもうダッシュした。
そして、近付きかけた時、彼女に借りた携帯電話で、麗美(レミ)に電話をした。
案の定、体育倉庫から、着信音が流れた。
って事は、麗美(レミ)はこん中にいるって事だな。
俺は、気合いを入れて、ドアを開けようとした。
そしたら、中からザコが一匹、丁度逃げようとしている時だったようで、俺とぶつかった。
「いってぇーな!」と偉そうに叫んだザコは、俺の顔を見るなり、今度は、「陸(リク)っ!!」と叫んだ。
その声に、黒川と他ザコ4匹が俺の方に、一斉に顔を向けた。
「陸(リク)・・・。」
黒川がそう言って、麗美(レミ)から手を離し、体ごと完全に俺の方を向いた。
俺は、目の前にいた逃げそびれたザコの腕をつかむと、
「今からいいところだっていうのに、逃げてどうすんだよ!」
と言うと、そのザコを黒川の方に向かって思いっきり投げた。
そいつは、黒川につかまれて、壁への激突をうまく避けた。
俺は、一歩一歩黒川に近付く。
「授業サボって、なんかおもしろそうな事やってんじゃねぇーか!
なんなら、俺もまぜてくれよ!!」
そういい終わったと同時くらいに、俺は黒川の目の前に立ち止まった。
あくまで余裕の俺の姿に、ムカついた黒川は、いきなり俺にコブシを振り上げてきた。
もちろん、俺はひるむことなく、右腕でアイツのコブシを受け止め、思いっきり流した。
そして、黒川が体勢を崩した隙に俺は、黒川の首を右手でつかんだ。
「今度麗美(レミ)に何かしてみろ。
この首、へしおってやるからな。」
俺はそういいながらも、知らないうちに右手に力を込めてしまっていたようで、黒川は息ができなくなったんだろうな。
俺の右腕を何度も何度も叩いた。
それでも俺は、なぜか・・・緩めることができなかった。
「おい!冗談だろ?マジで、殺す気かよ!」
と他のザコが俺を止めによってくるが、俺はそれぞれの腹部に蹴りを入れて、邪魔を排除した。
もう、よせ・・・。
脳をつかさどる『俺』は、そう言ってた。
でも、体をつかさどる『俺』は・・・いう事を聞かなかった。
というより、力を緩める方法すら忘れてしまったような・・・そんな感覚になっていた。
この手をもう、誰も止められないと、俺自身もそう思った時だった。
黒川に対して完全にキレていた俺の耳に、麗美(レミ)の消えそうな声が聞こえた。
「・・・り・・・・く・・・。たす・・・・・け・・・・。」
「麗美(レミ)?」
その声が聞こえた瞬間、パッと俺の手は黒川の首から離れた。
「ゴホゴホゴホ!!」
倒れこんだ黒川は、苦しそうにそう咳き込んだ。
「大丈夫ですか、黒川さん!!」
ザコたちが、黒川の元へと駆け寄った。
「黒川さん。相手が悪いですよ。
もう、よしましょう。」
だけど、その忠告を黒川は聞かない。
「ふざけるな!やらなきゃ、陽子に・・・。」
そう言った黒川に、新たな人物から、こんな言葉がかけられた。
「例え幼なじみの頼みだからと言って、ここまでするのは犯罪じゃないのか?
これ以上続けるというのなら、君たち全員の名前を、理事長に報告するよ。
君たちも、もちろんけしかけた君の幼なじみも、退学は免れないだろうけどね。」
匠(タクミ)のその言葉に、ザコどもは、完全にビビる。
そりゃそうだろ。
生徒会長が、言ってるんだからな。
「黒川さん!!」
ザコどもに迫られた黒川は、しぶしぶヤツラに連れられて、体育倉庫をあとにした。
だけど、俺は、もう黒川やザコの事なんて、どうでもよかったんだ。
だって、俺が目にした麗美(レミ)は、『あの時』の麗美(レミ)だったから。
俺は、震えて取り乱している麗美(レミ)の体に手を触れた。
ほんの少し触れただけなのに、麗美(レミ)は過剰反応を示した。
「いやぁー!!触らないでぇー!!いやぁー!!」
泣き叫んで暴れる麗美(レミ)を俺は、強引に抱きしめた。
俺の腕の中で、それでも暴れて嫌がる麗美(レミ)に、俺は耳元で何度も何度もつぶやいた。
「俺だ麗美(レミ)。陸(リク)だ!!」
って。
何回俺はそう言っただろう。
しばらくして、麗美(レミ)の暴れる行為はおさまった。
でも、相変わらず過呼吸みたいに呼吸は乱れ、震えていた。
「麗美(レミ)??」
俺は麗美(レミ)を注意深くみて、ある事に気付いた。
それに気付いた俺は、たまらず彼女の名前を必死になって、叫んだ。
「おい、麗美(レミ)っ!麗美(レミ)っ!!」
大声で取り乱して叫ぶ俺に、匠(タクミ)も一緒に来ていた由梨華(ユリカ)って子も驚いた。
「どうか・・・したのか?」
近付いてきた匠(タクミ)に俺は答えない変わりに、麗美(レミ)に言った。
「麗美(レミ)!息をしろ!麗美(レミ)!!」
そう・・・。麗美(レミ)は、過呼吸を起こしたせいで、二酸化炭素をうまく吐けなくなっていた。
だから、麗美(レミ)の体は吸う酸素ばっかりが、支配してしまって、息苦しくなり、さらには、うまく息ができなくなっていた。
「りく・・・助けて・・・。」
俺に必死で、助けを求めてくる麗美(レミ)に俺はもちろん、麗美(レミ)を助ける手段に出た。
麗美(レミ)の口を開いて、俺の体の中にある二酸化炭素を、麗美(レミ)の体に送り込んだ。
そうする事で、麗美(レミ)の体の中にある酸素と二酸化炭素のバランスを取る。
俺が酸素を吸う為、麗美(レミ)から離れ、その間にまた麗美(レミ)は、呼吸がしずらいせいで、無意識のうちに必要以上の酸素を吸い込んでしまう。
そして、また体の中でバランスを崩して、苦しむ。
それを、また俺の二酸化炭素がバランスの助けをする。
何度かそれを繰り返したら、麗美(レミ)も少しずつだけど、落ち着きだし、呼吸もゆっくりできるようになった。
脈を測りながら、麗美(レミ)の体を気づかっていた俺に麗美(レミ)は、目を開けて俺を見る。
「陸(リク)・・・・。」
そして、俺の顔に反対の手をさし出してきて、俺に触れた。
やっと逢えた麗美(レミ)を見て俺はわかったんだ。
俺は、麗美(レミ)が好きだって。
コイツが何よりも大事だって・・・。
俺はそのまま、麗美(レミ)の頬に自分の頬を合わした。
「ごめんな。恐い思いさせて・・・。」
そう言った俺に、ただ麗美(レミ)は涙を流した。
その涙が気になった俺はすぐに、麗美(レミ)から顔を離すと彼女を見た。
「麗美(レミ)?」
だけど、今度はとても悲痛な泣き顔で涙を流す麗美(レミ)。
「やだー、麗美(レミ)。安心して泣いちゃってるの?」
と彼女はいうけど、「いや・・・そうじゃないだろ。」と匠(タクミ)が否定した。
匠(タクミ)の言葉に俺は匠(タクミ)を見た。
それまで、俺も彼女と一緒で、麗美(レミ)が流す涙は、安心の涙とばかり思っていた。
だけど、匠(タクミ)の目を見て俺は気付いた。
そして、麗美(レミ)に目を移して・・・・。
「お前、黒川に何かされたのか?」
俺の言葉に麗美(レミ)の体は、ビクっと反応した。
そして、また、ガタガタと震えだし、震える手で俺に必死にしがみついてきた。
そんな麗美(レミ)を俺は強く抱きしめながら、
「麗美(レミ)・・・恐がらなくていいから。」
俺はまるであやすように彼女にそういいきかすと、彼女の髪を何度もなでて彼女の気持ちを落ち着かせた。
「言ってみろ。アイツに何された?ん?」
麗美(レミ)の瞳を真っ直ぐに見つめてそう言った俺に、麗美(レミ)も涙が流れる瞳を、俺の瞳に合わした。
「キス・・・・。」
麗美(レミ)はそう言って、たまらなくなったのか、俺から目をそらした。
そんな麗美(レミ)の頬に俺は手を沿わした。
今、異常なほどに敏感になっている麗美(レミ)の体は、俺の手にも過剰に反応した。
体をビクつかせ、俺から少し後ろに体をそらした。
それでも、俺は、「大丈夫。」と麗美(レミ)に笑顔で言い聞かせ、麗美(レミ)が俺の元へ戻ってくるのを待った。
しばらくして、麗美(レミ)も、気持ちが落ち着いたのか、元の位置まで体を元に戻した。
それを見届けた俺は、麗美(レミ)にユックリと近付いた。
「俺を感じれば、そんなのすぐに忘れられるよ・・・。」
俺の言葉に麗美(レミ)は瞳を閉じた。
最初は軽く唇に触れた。
一瞬だったのを、次は数秒。
次は、少し強く触れてみる。
そうやって、何度も触れて、離してを繰り返して、段階を踏むキスをした。
最後は、今朝したような、お互いの想いが交じり合って溶け合うような、キスをした。
唇を離した俺に麗美(レミ)はすぐにせがむ。
「陸(リク)・・・もっと。もっと、陸(リク)を感じさせて・・・。」
たぶん、『俺』を感じていれば、麗美(レミ)は安心するんだと思う。
今まで、何度かそうだったから。
俺は、麗美(レミ)に言われるがまま、麗美(レミ)に熱いキスを贈った。
俺も、麗美(レミ)を感じたかったから。
それに、夢中になりすぎて、俺は忘れていたんだ。
お互いが求め合ってしまうと、麗美(レミ)がまた、発作を起こしてしまうって事を!!
麗美(レミ)をまた、苦しめてしまうという事を・・・。
案の定、しばらくして、麗美(レミ)の様子がまた、おかしくなった。
「ちょっと・・・麗美(レミ)!大丈夫??」
麗美(レミ)の親友の彼女が心配して麗美(レミ)の側に駆け寄る。
だけど、麗美(レミ)はまた、いつもの発作を起こした。
さっきの黒川の時と違って、俺が原因で起きた発作だ。
「とりあえず、保健室に運ぼう。」
と言った匠(タクミ)に、「いや。」と俺は言うと、匠(タクミ)を見た。
そして、自分のポケットから携帯を抜き取ると、それを匠(タクミ)に投げた。
「おわっ!!」
と叫びながらも、チャッチした匠(タクミ)。
「なんだよ・・・。」
という匠(タクミ)の声にかぶせるように俺は言った。
「今すぐ、冬真(トウマ)に連絡してくれ!」
「冬真(トウマ)さんに?」
匠(タクミ)の確認に俺は、「ああ。」と答えると、
「麗美(レミ)が発作を起こした。といえばわかる。
いいから、さっさとしてくれ!!」
俺はたまらず叫んだ。
俺の声に匠(タクミ)も少しビックリしたのか、急いで冬真(トウマ)に連絡をしてくれた。
俺は、その間、俺の腕の中で何かにおびえている麗美(レミ)を、みつめながら自分を責めてた。
何も出来ない、無力な俺自身に・・・。
☆☆☆4章 END☆☆☆
|