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3   2 章  贈り物
更新日時:
07/02/17(土)
チャイムが鳴った。
普段なら、これがなれば、教室から勢いよく生徒が飛び出してきて、誰もがいち早く、この校舎から出たがるはず。
なのに今日は・・・誰も出てこない。
だから、俺は、とりあえず、中庭から移動して、自分のクラスに足を向けた。
そして、閉まっているドアを勢いよく開けた。
その音に、中で作業していた生徒が、全員一気に俺を見た。
俺を見て・・・すぐに視線をまた元に戻す。
俺は、「ふん。」と心の中で思いながらも、教室中をくまなく見た。
俺の存在に気付いた男が、俺の元へと歩いて来た。
 
「おい、梅澤!今、何時だと思ってるんだ?
もう、3時半だぞ。
とっくに6限目は終わってる。
今頃登校してきてどうするんだ。」
 
と言いつつも、
 
「まー、今は、文化祭の準備をしてるから、よしとしよう。
それより、お前も手伝え。」
 
といって、俺に作業をやらせようとする担任。
だけど、俺は、「悪いけど。」と口にすると、担任を見た。
 
「俺、朝から来てたよ。
だから、今から帰るわ。
一応、一言言っておこうと思ってね。
じゃ、失礼します。」
 
俺は一応礼儀正しく頭を下げた。
そして、スタスタと教室を出て行こうとした。
 
「おい、梅澤。ちょっと待てよ!!」
 
という担任の声が聞こえた。
その時だった。
 
「先生、もういいじゃないですか。」
 
という生徒の声。
その声を皮切りに、色んな声が教室中に響き渡った。
 
「どうせ、言っても梅澤くんは、帰るんだろうし。」
 
「そうだよな。金持ちはいいよなー。
こんな勝手しても、親は呼び出しかからねぇーし、先生もキツク怒れねぇーしな。」
 
「どうせ、学校に寄付とかしてんだろ?
金でものいわすなんて、親が親なら、子も子だよな。」
 
「けどよぉー、そんなに金があるなら、俺たちにもくれたらいいのによ。」
 
「そうだよね。うちの催し物、意外とお金がいって大変なんだよね。
お金があれば、わざわざ作らなくても、お店で買えるのに・・・。」
 
「けどよぉー。やっぱり、納得いかねぇーよな。
腕がいいのは親で、金持ってるのも親だろ?
なのに、息子が偉そうにさ。」
 
「だけどさ、その息子がこんなろくでもねぇーヤツだって、親も嘆いてんじゃねぇーか?」
 
「でもさー、こういう人でも、お金の力で、医者になるんでしょ?
それで、偉そうにされるかと思ったら・・・ちょっと、許せないよね。」
 
これは、ほんの一部。
これの数倍の量が、口々に言われてた。
俺は、足を止めて、ボーっとクラスの連中の言葉を聞いていた。
その俺の姿に、担任は焦る。
 
「おい、お前たち、なんてこと言ってるんだ。
そういう事を、言ってはいかん。」
 
と言いながら、俺の元へ来ると、
 
「梅澤も、気にしなくていいからな。
それより、一緒にしようじゃないか。」
 
と気を使ってくるが・・・それが、うざい。
俺は、たまらず、噴出し笑いをした。
俺の態度に、クラスの一人がこう言った。
 
「とうとう、頭もいかれたんじゃねぇーのか?」
 
って、その言葉に教室中が大笑い。
それを、担任が止めようとしたけど、俺の方が言葉を発したのが早かった。
 
「いかれてんのは、テメーだろ?」
 
俺の声に、笑いはピタっとやみ、シーンと静まり返った。
 
「梅・・・澤??」
 
担任も驚いた顔で見てた。
確かに、いつもの俺なら、こんな言葉無視して、教室をさっさと出てた。
だけど、今の俺は、生槻(ナツキ)のせいで、ムシャクシャしてんだよ。
売られた喧嘩を、無視するほど、大人じゃねぇーんだ。
俺は、カバンから、ある物を取って、それをそいつに向かって投げた。
そいつの顔スレスレを通り抜けたそれは、壁にぶつかって、床に落ちた。
 
「それは、オヤジがくれたものだ。
今ので、傷がついたにしても、100万には化けるだろ。
それを、このクラスのイベントの予算にあてろよ。
お前らのいう通り、それは、『オヤジ』の金だからさ。
遠慮せずに、使えよ。」
 
俺はそう言って、教室を出ようとしてドアに手をかけた。
かけて、「そうだ。」と思い出した事があって、また、クラス全員の方に顔を向けた。
 
「言っとくけど、俺があんたらと共に行動を起こさないのは、俺が気ままが好きだからじゃねぇーから。
あの程度しか俺に言えないような、軽い頭の連中と一緒にいたくねぇーだけだよ。
俺を責める暇があったら、もう少し個々のレベルを上げる努力をしろよ。
時間は、有効に使わねぇーとな。」
 
俺はそういいきると、教室を出た。
俺が扉を閉めた途端、
 
「なんなんだよ、アイツ!!」
 
と怒る男子生徒の声と、
 
「めちゃくちゃカッコよかったんだけどぉー!!」
 
というバカな女どものミーハーな甲高い声が聞こえてた。
 
「ホント、低レベルな連中だぜ・・・。」
 
俺はため息をつきながらそういいつつ、廊下を歩いた。
 
 
 
 
俺は、下駄箱とは逆方向を歩いてた。
それは、ある人物に逢う為。
 
「確かアイツ・・・Gだったよな。」
 
なんていいながら、俺はGクラスを目指した。
 
「ここだ、ここ。」
 
そして、教室をのぞこうとした時、後ろから腕をつかまれて、力強く引っ張られた。
 
「う・・・わっ!!」
 
といいながら、俺は数歩あとずさりするはめに。
 
「誰だよ!!」
 
と怒りながら振り返って、そいつを見て・・・ちょっと、顔をひきつらせる俺。
そんな俺に、そいつは、もちろん素早くこう言った。
 
「こんな所で、何やってるの?」
 
って。
 
「いや・・・別に・・・。」
 
と弱気な俺。
だけど、そいつは、さらに俺の腕をつかんで、俺に顔を近づけてきた。
 
「もしかして、生槻(ナツキ)に文句言いに来たんじゃないでしょうね。」
 
そう言った時だった。
 
「あれ、生徒会長の平松 羽雫(ハナ)じゃないのか?」
 
「でも、隣にいるのって・・・A組の梅澤だろ?
あの、問題児となんで生徒会長が一緒にいるんだ??」
 
「そういえば、あの二人、よく中庭で一緒にいるって、言ってたけど・・・。
もしかして、付き合ってるのかな?」
 
気付けば、周りに色んなクラスの連中がいて、そいつらは、口々に俺と羽雫(ハナ)の事を勘ぐった。
だけど、羽雫(ハナ)は全く気にしないで、
 
「ねぇー、聖(セイ)、どうなのよ!
なんで、ここにいるのよ!」
 
とさらに、俺の腕に抱きついて迫ってくるが・・・俺はそれどころじゃない。
俺は、別に羽雫(ハナ)と噂になろうが、どうでもいいんだ。
だけど、羽雫(ハナ)はまずいだろ。
生徒会長なんだからさ。
俺は、羽雫(ハナ)に、必死で訴えた。
 
「いいから、離れろ!」
 
って。でも、それでも、離れない羽雫(ハナ)に俺は、イラーっとしてしまった。
 
「お前、もう帰れるの?」
 
いきなりこんな事を言った俺だけど、羽雫(ハナ)は「うん。うちのクラスはもう終わったから。」とナイスな答え。
そうと決まれば・・・。
俺は、羽雫(ハナ)の腕をつかむと、その場から猛ダッシュした。
 
「ち・・・ちょっと、聖(セイ)、どうしたの?」
 
と叫ぶ羽雫(ハナ)に俺は、たまらずイライラをぶつけた。
 
「お前の鈍感さには、ほとほと呆れるよ。」
 
笑いながらそう言った俺に、羽雫(ハナ)は、「ん?」と首をかしげながらも、笑ってた。
俺と一緒にいれることが、まるでうれしいかのような笑いに思えたのは・・・俺の妄想・・・か・・・?
 
 
 
 
 
 
学校を出た後、私は聖(セイ)に連れられてここに来た。
ここは・・・聖(セイ)の家。
そして、地下室のスタジオ。
聖(セイ)が音楽にハマっているからと、父親の雪先生が、作ってくれたらしいんだけど・・・。
 
「いつ見ても、ここって・・・設備が整ってるよね。」
 
と呆れちゃう私。
そんな私を無視して、聖(セイ)はギターを保存している倉庫から、2本のギターを持ってきた。
 
「羽雫(ハナ)さ、これちょっと、弾いてみろよ。」
 
なんて言って、ギターケースを開け、ギターを取り出し、私にそれを差し出した。
 
「う・・・ん。」
 
と言いながら、私はギターを肩に掛けて、構えてみた。
そして、頭に入っている曲を簡単に演奏してみた。
 
「すごい!私のより、弾きやすい!!」
 
とテンションが上がる私だけど、「う・・ん。」と今度は聖(セイ)がうなる。
そして、立ち上がると、「ちょっと、待ってて。」と言ってスタジオから出て行った。
てっきり、もう一つ、この足元にあるギターを試させられるのかと思っていたけど、違ったみたい。
 
「どこいっちゃったのかな?」
 
と言いながら、私はそのギターで曲を口ずさんでた。
いつのまにか、鼻歌が、本気の声で歌ってた。
このスタジオは、音も声もいい感じで跳ね返ってくるから、気持ちよくなるのよね。
結局、一曲丸々歌ってしまった私。
 
「歌いながら、弾けんじゃん!!」
 
と言う声に、私は我に返った。
いつの間にか、ソファーに座って、両手を叩いている聖(セイ)。
 
「いつからそこに居たのよ。」
 
と怒る私に、
 
「1番のサビ当たりからかな?
声がよく出てたな。絶好調みたいで安心したよ。」
 
と笑うけど、私はちょっと不安な顔になる。
 
「だけどさ・・・どうして、生槻(ナツキ)は急に辞めるなんていいだしたんだと思う?
やっぱり、私に問題があったのかな?」
 
側に近付いてきた聖(セイ)は、手に持っているギターのチューニングをし始めた。
 
「さーな。それを、聞こうとしたら、羽雫(ハナ)が止めたんだろ?」
 
と少し私を責める彼。
 
「だけど、あれは、聞こうって感じじゃなかったでしょ!
明らかに、喧嘩しに行ってたじゃない!」
 
と反抗する私に聖(セイ)は、ただ笑ってた。
否定しないところを見ると・・・図星だったのね。と思う私。
 
「よし、これでOKだな。」
 
聖(セイ)はそういうと、手に持っていたギターを私に差し出した。
 
「今度は、これを使ってみて。」
 
でも、私はちょっと・・・触れないで躊躇した。
「ん?」と聞いてくる聖(セイ)に、私は「あのさ・・・。」と躊躇しながら言ったの。
 
「これ、この間雑誌でみたんだけど・・・。
特殊のギターで、しかも1千万はするような・・・すごいものじゃなかった?」
 
これ・・・特注のはずなんだよ。
なんでも、市販のギターに合わない人の為に、オーダーで作るギターでね。
だから、これが聖(セイ)が持ってたという事は、きっと聖(セイ)ように作られているんだと思うの。
そのギターを私が持っても、使いこなせるわけないじゃない。
だけど、聖(セイ)は、「いいから、弾いてみろって。」と強引に私の手から、さっきのギターを抜き取ると、その高価なギターを持たせた。
仕方なく、丁寧に扱いつつ、そのギターを構えた。
そして、さっきと同じ曲を弾いたんだけど・・・。
 
「えっ!!」
 
私は、すぐに止めてしまった。
キョトンとして、聖(セイ)を見たけど、聖(セイ)は、「いいから、続けろよ。」と笑ってる。
私は、言われるがまま、そのままギターを弾いて歌い始めた。
さっきと同じように、1曲丸々歌い終わった。
 
「どう?使った感想は?」
 
と聞く聖(セイ)にもちろん、こう言ったの。
 
「なんで?」
 
って。
だって、このギター、私にピッタリなんだもん。
手の位置とか、それから、指の当たる場所とか。
だから、コードを見なくても、勝手に手が動くというか、目を移動させなくても大丈夫なの。
こんなに、手にフィットしてるギターなんて、今まであったことないよ。
 
「聖(セイ)と私が・・・一緒って事?」
 
だけど、聖(セイ)は、「なわけねぇーだろ。」と冷たい言葉。
 
「じゃあ・・・どうして、こんなに私にフィットしてるの?」
 
と彼に聞くと、「そんなの当たり前だろ?」と笑いながら答えると、そのギターの裏を私に見せた。
 
「ここの文字、読んでみろよ。」
 
私は、ギターの裏に彫られてる文字を読んだ。
 
「HA・・・NA・・・。」
 
そう口にして・・・。
 
「えっ!!」
 
と勢いよく聖(セイ)を見た。
 
「これって・・・・。」
 
と言って焦る私に、聖(セイ)はそのギターのケースを私に渡してきた。
 
「これは、羽雫(ハナ)が高校を卒業して、プロの道へ進むのが決まったときに、祝いとしてやろうと思って、置いてたんだよ。
けどまー、どっちにしても、お前にやるものだったから、ちょっと早くなったけど、いいかな?って。」
 
だけど、「ちょ・・・ちょっと待ってよ!!」と私は聖(セイ)を止めた。
 
「これ、メチャクチャ高いじゃない。
こんなのもらえないよ。」
 
と訴えるけど、聖(セイ)は「高くねぇーよ。」と笑ってる。
 
「高いって。だって、これ1千万はするでしょ?」
 
「そんなに、してねぇーよ。
俺の稼ぎで買ったんだから・・・。
500万もしてねぇーよ。」
 
って・・・。
 
「500万でも、高いし・・・。
それに、聖(セイ)の稼ぎって・・・何?
聖(セイ)、働いてた?」
 
「俺、親父の知り合いの人のライブハウスで、バイトしてんだよ。
バーテンやったり、音楽したり、助っ人したり。
内容によっては、月に30万はもらったりする。
中1の時からやってるから、もう5年は経ったか。
その金はギター買う以外は使ってねぇーから、たまりにたまってさ。
それにあと、姉貴のガキを見たら、ベビーシッター代で金ももらうしね。
結構、俺金持ってるから・・・気にすんな。」
 
と笑う聖(セイ)。
 
「だけど・・・。」
 
とまだ素直に喜べない私に、聖(セイ)は私の頭をポンポンと優しく叩いた。
 
「少しは俺に甘えろよ。
俺が唯一自分を見せれるのは、お前なんだ。
だから、お前にとっても、俺がそういう存在でありたい。」
 
聖(セイ)の言葉は・・・とてもうれしかった。
 
「じゃ、これは・・・ローン組むよ。
私が有名になったら、そのお金で返していくから。」
 
と、細かい事をいう私だけど、聖(セイ)は、「わかった。」と優しく答えてくれた。
 
「ねぇー、でも、聖(セイ)。
ギターは聖(セイ)がしてくれるんでしょ?
だったら、私、ギター弾かなくていいよね?」
 
でも、聖(セイ)は、「それなんだけど・・・。」というと、私の喉を指さした。
 
「前から思ってたんだけど、羽雫(ハナ)って、歌ってる途中・・・・。
特にサビに入る手前だな。
音が、不安定になるんだよ。
外れるとかじゃなくて、ぼやけるというかな。
そこを、しっかり歌えたら、もっとサビでの感動がくるんじゃないかと、前々から思ってたんだよ。
で、その克服として、自分自身で音を刻めば、大丈夫じゃないのかと思ってさ。
案の定、さっきもその前も、聞いてたら、ぼやける癖治ってたよ。
だから、自分自身の音を刻む為に、ギターを弾きながら歌った方がいいと思うよ。」
 
「そう・・・なんだ。」
 
そう言われたら・・・ちょっと歌ってる時に、音が揺らぐ時があったような・・・。
そんなに聖(セイ)は、私の歌を聞いてないはずなのに、よく気付いたよね。
生槻(ナツキ)や他のメンバーにも、今まで指摘された事なかったのに・・・。
私の事を、聖(セイ)がすごく知っていてくれる気がして、私はうれしくて、ギターを置くと、彼に抱きついた。
 
「聖(セイ)って、すごぉーい!!」
 
それには、聖(セイ)は答えなかった。
ただ、私を抱きしめてくれただけ。
 
「けどさー、羽雫(ハナ)。」
 
しばらくして、聖(セイ)はそういうと、私の顔をのぞく。
 
「言っとくけど、羽雫(ハナ)がギター弾くのは、あくまでおまけだからな。
だから、うまく弾こうとか、気負いしなくていい。
練習も今まで以上にする必要はねぇーから。
1曲丸々弾かなくても、ポイントポイントに弾けばそれでいいから。」
 
「でも、そんな事したら、音がおかしくならない?
所々が、ツインギターになって・・・大丈夫なの?
私、スピーカーを通さないようにしておいた方がいいんじゃないの?」
 
って、提案してみたけど、「それじゃ意味ねぇーだろ。」と笑われた。
 
「スピーカー通さねぇーと、羽雫(ハナ)の耳に聞こえねぇーよ。
だったら、弾いてる意味がない・・・だろ?」
 
「そりゃ・・・そうだけど・・・。」
 
「心配すんな。
ギターを弾くのは俺だぞ。
羽雫(ハナ)のホローくらい、俺がしてやるさ。」
 
聖(セイ)はそう言って、「なっ!」と笑顔で答えてくれた。
聖(セイ)は、本当に優しい。
いつも私の事を考えてくれて、そして、私が好きなように出来るようにしてくれる。
でも、一番私が聖(セイ)の中で大好きなのが、この自信かな。
いつも、自分自身に、誇りと自信を持っているから、人にも自分にも力強い言葉が言えるの。
そんな事、なかなかできないじゃない。
だから、私は、そういう聖(セイ)に、本当に惹かれていた。
 
「ねぇー・・・聖(セイ)。」
 
私は、そういいながら、もっともっと近付きたくて、さらに聖(セイ)にくっついた。
 
「何?どうしたんだよ・・・。」
 
言葉はつっけんどんだけど、そういいながら、私の髪をなでてくれる聖(セイ)の手は、とても温かくて優しかった。
 
「さっきの・・・ホント?」
 
「何?さっきのって・・・。」
 
と少し悩みながら聖(セイ)は聞いてきた。
私はくっつけていた顔をあげると、聖(セイ)をみつめる。
もちろん聖(セイ)も私を見ていて、聖(セイ)との瞳が重なった。
 
「私の事・・・ずっと好きだったって・・・あれ。」
 
実は・・・心配だったの。
あれは、私が生槻(ナツキ)の事で落ち込んでいたから。
だから、それをなぐさめるために、そう言ってくれたんじゃないか?って。
私が、聖(セイ)を好きなのはたぶん、バレバレだったと思うの。
些細な事でも、口実にして、聖(セイ)の元に行ってたから。
でも、今まで、聖(セイ)が私を好きでいてくれたなんて・・・思ってみなかったから。
絶対に、手の届かない人だと思っていたし。
だって、そもそも育ちが違いすぎるもん。
こんな信じられないくらいの大きな豪邸に住んでて、さらには地下にスタジオまで作っちゃうようなお金持ちの息子。
容姿もありえないくらいかっこよくて素敵だし、頭だって信じられないくらいいいし、何より手先が本当に器用。
うらやましいと思うくらい、なんだってこなしてしまうくらい、聖(セイ)は最高の人だから。
そんな人が、私みたいな、どこでもいるような子を好きでいてくれるなんて・・・夢見たいで、やっぱり信じられないから。
本当は、すぐに、「本当だって。」って言われるのを待ってたの。
なのに、聖(セイ)ったら・・・。
 
「俺、そんな事、言ったっけ??」
 
ととぼけて、さらには、意地悪な笑いをしてる。
たまらず、聖(セイ)のお腹をパンチする。
 
「もう!意地悪しないでよ!!」
 
と怒るけど、聖(セイ)は笑って、言ってくれない。
 
「ねぇー、聖(セイ)、笑ってないで、答えてよ!!」
 
とおねだりしてみても・・・笑ってるし。
 
「もうっ!!」
 
と怒った私は、さらに聖(セイ)の胸を叩こうと腕を振り上げた。
その腕を、聖(セイ)が素早くつかんだ。
 
「俺の事より・・・羽雫(ハナ)はどうなの?」
 
さっきとは違う、すごく真剣な顔つきに、低くて胸を突き刺すような深くて味わいのある声を出す聖(セイ)。
実は、この声・・・私大好きなの。
聖(セイ)が歌った姿は、1度しか見たことがないんだけど、この声なの。
聖(セイ)は、私の声がすごくいいといってくれるけど、私は聖(セイ)の歌声の方が俄然好き。
人の心を動かす、すごい力を持ってるから。
だから、そんな声で言われたら・・・素直に言っちゃうよ。
私は、自分でも信じられないくらい、落ち着いた口調で言ってた・・・。
 
「好きだよ・・・聖(セイ)が、大好き・・・。」
 
言って・・・・我に返った。
今のって・・・告白だよね。
私は、一気に顔が真っ赤になった。
両手で顔を押さえて、さらには、聖(セイ)から少し離れた。
 
「告白して、逃げるか、普通・・・。」
 
と呆れられたって、しかたないでしょ。
 
「しょうがないじゃない。恥ずかしいんだもん!!」
 
とまだ顔が真っ赤の私。
そんな私の元に、聖(セイ)が近付いてきて、私の前にしゃがみこむ。
そして、私の顔に両手で、触れた。
 
「ちょっと・・・嫉妬してた。」
 
「し・・・っと??」
 
私はキョトンとした目で、彼にそう聞いた。
一瞬、聞き間違えたかと思ったくらい、彼には似合わない言葉だったから。
すると、聖(セイ)は、少しだけ笑った。
 
「俺、もしかしたら、羽雫(ハナ)は生槻(ナツキ)が好きなんじゃないかと思ってさ。」
 
「生槻(ナツキ)を?」
 
「そう。だから、生槻(ナツキ)が急に抜けると知って、あんなに悲しんだのかな?って。
色々考えたりしてた。」
 
聖(セイ)はそう言ったあと、自分の顔を私の顔にくっつけてきた。
聖(セイ)の吐息を、私の耳がキャッチした。
心臓が、ドキドキとこの上なく、騒がしく動き出した。
 
「だから、羽雫(ハナ)の気持ち聞けて、すっげぇーうれしいよ。」
 
そして、聖(セイ)は顔をおこすと、私をみつめる。
少しずつ聖(セイ)の顔が近付いてきた。
私は、ソッと目を閉じた。
その時、スタジオの奥にあった電話が、音を立てた。
演奏してても聞こえるように設定しているせいか、信じられないくらい大きな音だった。
今は何も鳴らしてないわけで、そりゃ驚くって!!
私は、飛び上がったの。
さすがの聖(セイ)も驚いたのか、私の触れている手が、ビクと動いてた。
 
「たく・・・・なんだよ。」
 
と文句を言いながら、聖(セイ)は私から手を離すと、奥にある電話の元へと行く。
 
「何?」
 
と受話器をとるなりそう言った彼。
 
「別にいられねぇーよ。」
 
と無愛想に答えるけど、「おい、待て!いらねぇーって!!」と叫んで・・・受話器を戻した。
 
「なんだったの?」
 
と聞くけど・・・顔が恐い。
完全に怒っている聖(セイ)。
 
「せ・・・い?」
 
と恐々聞いてみると・・・。
 
「上からの内線。
お茶の用意が出来たから、上がってこいってよ。
いらねぇーって言ったんだけど、姉貴がケーキを買ってきたから、一緒に喰おうってさ。」
 
聖(セイ)はそういうと、「ホント、余計な事を。」と文句をいいながらも、私に手をさしのべてくれて、私を起こしてくれた。
 
「ねぇー、聖(セイ)。さっきから、気になってたんだけど・・・。」
 
起き上がった私は、聖(セイ)に向かってそう切り出した。
聖(セイ)は綺麗好きなのか、出したものはすぐに直さないと、落ち着かないようで、最初に出してきたギターをケースにしまうと、倉庫に直しに行った。
 
「何?気になってた事って?」
 
戻って来た彼はそういうと、さらにスタジオの扉の前に行くと、扉を開けて私に外に出るようにうながした。
そこへ向かいながら言ったの。
 
「さっきも、『姉貴』って言ってたけど、聖(セイ)って上にはお兄さんしかいなかったよね?
誰なの?姉貴って・・・。」
 
そうなんだよ。
聖(セイ)には、1つ上の冬真(トウマ)さんというお兄さんがいて、あとは7歳離れている双子の七葉(ナナハ)ちゃんと、夕菜(ユウナ)ちゃんがいる、4人兄妹のはずなんだけど・・・。
すると、聖(セイ)は、「あー、それか。」と言うと、スタジオの明かりを消して、自分も廊下に出てきた。
 
「母さんの妹の事。
名前は、果帆っていうんだけど。
彼女とは幼い頃、事情があって、ずーっとここで一緒に暮らしていたから、おばさんっていうより、姉貴感覚でさ。
普段はニューヨークにいるんだけど、今はこっちでの仕事の準備で半年いるんだ。
ガキ付きでな。」
 
と聖(セイ)は言うと、少し迷惑そうに笑った。
 
「子供さんいるんだ。女の子?男の子?」
 
「女が2人。
4歳と2歳だったかな?」
 
「二人姉妹なんだー。」
 
だけど、「いや・・・。」と聖(セイ)は首を振ると、階段を登る。
 
「夏杜(カズ)って男がいるんだけど・・・。
たしか、この8月で1歳になる。
でも、コイツは俺、一回しか逢ったことないなー。」
 
「なんで?」
 
気になったんだよねー。
女の子は、日本に連れて仕事をしてるのに、どうして男の子は連れてこないの?って。
だって、まだ小さいじゃない。
でも、聖(セイ)は、「ま・・・いろいろあってな。」と軽く言って、
 
「結婚した旦那が、普通の男じゃなくてね。
そいつの跡取りとして、夏杜(カズ)は完全な英才教育を受けさせられてる。
姉貴は、育てられないのはもちろん、一緒に寝る事も生活する事もできねぇーらしいよ。」
 
「それって・・・かわいそうだよね。」
 
聞いてて涙が出てきた。
だって、自分が産んだ子だよ。
それを、まるで、他人に取られたみたいな仕打ちで・・・。
すごく、かわいそうに思えてきたの。
 
「羽雫(ハナ)が泣く事じゃないだろ。」
 
と言いながら、「だから、お前には言いたくなかったんだよ。」と言われた。
 
「だったら、言わないでよ!」
 
と文句を言う私に、聖(セイ)は、「勝手なやつ。」というものの、私の頭を優しくなでてくれた。
 
「まー、けど、小学校に上がれば、一緒に住めるらしいから。
基礎をそれまでに教え込むために、それまでが規制されるだけらしいからさ。
大丈夫だって。」
 
と優しい言葉をくれた聖(セイ)。
それを聞いて安心した。
だって、一生このままって・・・辛すぎるもんね。
でも、思ったの。
こんなに、悲しい思いをしてる人なら、きっと、影を持ってて、少し暗めの人なんじゃないかって。
そう思っていたのに・・・。
 
 
「きゃー!!聖(アキラ)の彼女にしては、かわいいじゃない!!
っていうか・・・聖(アキラ)って、こういう子が趣味だったのぉー!!
綺麗系よりも、かわいい系だったのねぇー!!」
 
耳が・・・痛い・・・。
そして、信じられないくらいの・・・このテンションの高さ。
さっきの想像していた『影』は・・・どこ?どこなの??
 
「あ・・・の・・・。」
 
と戸惑う私に、姉貴さんはお構いなしに、色々言ってくる。
でも、ほとんど聞き取れない。
だって、早口なんだもん。
そんな彼女の腕を、ボーンと押したのは、聖(セイ)。
 
「果帆、お前、うるせぇーよ!!
少しは黙れっ!!」
 
聖(セイ)はそう言って、その人を鋭い目つきでにらんだ。
 
「きゃー、恐いわー!!」
 
と私の背中に隠れて、その人はそんな事を言ってた。
 
「おい、羽雫(ハナ)。
そんなバカはほっとけ。
さっさと喰って、下戻るぞ。
俺、お前のバンドの演奏曲、覚えなきゃなんねぇーんだからな。」
 
聖(セイ)はそういうと、スタスタとリビングへと進んでいった。
 
「あー、おっかない子だこと!!」
 
とその人はいうと、私の後ろから出てきた。
 
「初めまして。私は、梅澤果帆。よろしくね。」
 
出された手を、無意識に取ってしまって私は、握手をかわした。
でも・・・、心は「ん?」と思ったの。
だって、この人は、聖(セイ)のお母さんの妹さんって言ってなかった?
そして、彼女は結婚してるよね?子供3人もいるんだから。
でも、姓は、『梅澤』?
 
「あの・・・梅澤ってどういう事ですか?」
 
とたまらず聞くと、「そうよね、悩むわよね。」と彼女は笑った。
 
「簡単に言うと、聖(アキラ)の父親と私の夫が、兄弟なのよ。
だから、私も梅澤。」
 
「なるほどぉー!!」
 
と答えた私に、
 
「簡単も何もないじゃない。
そのままでしょ。」
 
という声がキッチンからした。
私と果帆さんの目が一気に、そっちに注がれた。
そこには、エプロン姿の、かわいらしい女性がお茶セットを持って立っていた。
 
「お逢いするのは、初めてよね?
いつも、すぐに下にいっちゃうから。」
 
その人はそういうと、私にニッコリ笑ってくれた。
 
「もしかして・・・・。」
 
と言った私に側にいた果帆さんが教えてくれた。
 
「聖(アキラ)の母親よ。若く見えて、結構年いってるから。」
 
と笑う果帆さんに、「余計な事は言わないでいいのよ。」と怒ってる。
 
「初めまして。いつも聖(セイ)くんには、お世話になってます。
勉強も見てもらって・・・。」
 
と頭を下げる私に、「そう。どんどん利用しちゃって頂戴。」とお母さんはニッコリ笑うと、リビングへと歩いていった。
 
「素敵なお母さん・・・。」
 
と呆然としていう私に、果帆さんは、「ねぇー、ねぇー。」と私の腕を軽く叩いた。
 
「は・・・い?」
 
と果帆さんに目を移して聞くと、
 
「ねぇー、さっきの『せい』って何?
アイツの名前は、『あきら』だよ。」
 
「あー、あだ名なんですよ。
っていうか、私が勝手に言ってるだけなんですけど。
私しか呼ばない彼の呼び方って・・・なんか、特別っぽくてよくないですか?
聖(セイ)は、私が間違って覚えたと思ってるんですけど、実はわざとなんですよ。
でも、今はもう、定着しちゃって、聖(アキラ)とは、はずかしくて呼べなくて・・・。」
 
とたまらず赤面しちゃって、下を向く私を、果帆さんは抱きしめた。
 
「いやぁーん!初々しくてかわいいわぁー!!
いいわよねー、恋愛。
いいわよねー、恋!!
素敵だわー。どんどん、応援しちゃうからね!
将来は、聖(アキラ)と結婚しちゃって、私の妹になってねぇー!!」
 
とまで言われた。
妹って・・・。
やっぱり、果帆さんも、聖(セイ)は自分の弟のように思っているんだと、思った。
 
「はーな。早く来いよ!!」
 
しびれをきらした聖(セイ)が迎えに来た。
 
「おい!お前・・・羽雫(ハナ)を襲うなよ。」
 
抱きついている果帆さんを、冷たい目で見た聖(セイ)に、身震いをしてみせた果帆さん。
 
「あー、恐い。」
 
とか言いながら、聖(セイ)の横をすりぬけた時だった。
 
「あっ、果帆さん!!」
 
私は、果帆さんを呼び止めた。
実は、さっきから、何かひっかかってて・・・。
 
「果帆さんって・・・どこかで、前に逢ったことありません?」
 
って。なんかね・・・見たことがあるんだよ。
どこだったかな・・・。
 
首をかしげる私に、果帆さんは、「ふふふ。」と笑うと歩いて行っちゃった。
 
「えぇー、今の笑いは何?」
 
とたまらず聖(セイ)に聞くと、
 
「羽雫(ハナ)さ、確か部屋にポスター貼ってるとか言ってなかったか?」
 
なんて突然言われた。
 
「ポスター?」
 
そう言われて、考えた。
私の部屋には、1枚ポスターが確かにはってあるよ。
でもそれは、アイドルでもタレントでもない。
それは、今世界でもっとも有名で、トップデザイナーとも言われている女性のポスター。
私の将来の夢は、この人にステージ衣装をデザインしてもらいたい。って思ってる。
その人ってのが・・・。
 
「ん??」
 
私は、動きを止めた。
その人の名前を、考えたら・・・動きが止まったの。
 
「デザイナーが・・・KAHOでしょ。
で、さっきの人が・・・果帆さん。
か・・・ほ・・・。」
 
そう言ったあと、パズルがうまくはまって・・・。
私は、聖(セイ)を見た。
 
「うそぉー!!あの人が、KAHOブランドのデザイナーの橋山 果帆(ハシヤマ カホ)なのぉー!!」
 
と絶叫!!
うそ、うそ、うっそぉー!!
もう、感激だよぉー!!
大興奮の私を、聖(セイ)は面白そうに見てた。
その時だった。
玄関が開く音がした。
私も、聖(セイ)も自然と玄関に注目した。
そこには、聖(セイ)とは全然タイプの違う人が立っていた。
綺麗な顔立ちに、パッチリの目。
鼻もすっごい高くて、口は上品な小さめで、すごく綺麗な顔の人だった。
聖(セイ)はどっちかといえば、かっこいい系なんだけど、この人は綺麗系だった。
 
「あら?冬真(トウマ)、どうしたの?
あなたが、こっちに帰ってくるなんて珍しいわね。」
 
とお母さんは、キッチンに戻ってきて早々、そう言った。
 
「とうま・・・さん?」
 
と口にしながら、聖(セイ)に聞くと・・・。
 
「あの人が、俺の1コ上の兄貴で、冬真(トウマ)。」
 
だけど、聖(セイ)は・・・あまり嬉しくないみたい。
ニコリともしないで、どちらかといえば、ツンケン状態。
冬真(トウマ)さんはというと、私たちの方に近付いてきた。
 
「どうしても、調べたい事があってね。
親父の書斎借りるよ。」
 
彼はそう言って、2階に上がろうと階段を登りかけた。
その時、丁度、リビングから、
 
「桜ちゃーん。紅葉(モミジ)がスプーン落としちゃった!
もう一個持ってきてぇー!!」
 
と言う声が。
どうやら、桜ちゃんというのは、聖(セイ)のお母さんの事みたいで、「はいはい。」と言いながらキッチンからスプーンを持って出てきた。
でも、冬真(トウマ)さんの事も気になるようで、
 
「ねぇー、冬真(トウマ)、夕食は食べていく?」
 
と聞いてる。
でも、果帆さんも、急ぎみたいで、「早くぅー!!」と叫んでるし。
 
「あのー。私が持って行きましょうか?」
 
お母さんにそう言って、私はスプーンを受け取ろうと、手を出した。
 
「そう?じゃ、お願いしようかしら。」
 
お母さんはいいながら、私の手にスプーンを乗せた。
それを、私は強く握ったの。
握ったのに・・・。
 
「カラン・・・・。」
 
と甲高い音を立てて、スプーンは床に落ちた。
 
「ごめんなさい・・・。」
 
と謝って慌てて、スプーンをつかもうとしたけど、また落としてしまった。
 
「あ・・・れ?」
 
という私の元に、聖(セイ)が来る。
 
「大丈夫かよ。」
 
と言いながら、彼がスプーンを取って、それを洗いに行ってくれて、そのまま果帆さんの元へと運んでくれた。
 
「本当に・・・すみません。」
 
とお母さんに謝って、私も聖(セイ)の元へ行こうとした時だった。
 
「ちょっと、待って!」
 
冬真(トウマ)さんに呼び止められた私は、歩きかけた足を止めて、振り返った。
さっきまで、階段を上っていたはずの冬真(トウマ)さんだったのに、今は廊下へと降りてきてた。
 
「君・・・名前、何ていうの?」
 
「平松 羽雫(ハナ)です・・・。」
 
と答えた私に、「羽雫(ハナ)ちゃんか・・・。」と言うと、急に私の右手をつかんできた。
 
「さっきまで、指先使ってた?」
 
そういいながら、私の指先を触る彼。
 
「えっと・・・。」
 
と戸惑う私に、側にいたお母さんは、「大丈夫よ。」と優しく笑ってくれる。
 
「こう見えて、内科医だから。
診断を受けてると思って、答えてみて。」
 
と言ってくれた。
さっき、私がスプーンを落としたから、気にしてくれたんだと思った私は、さっきよりもリラックスして答えれた。
 
「ギターを触ってました。」
 
「ギターか・・・。どれくらい?」
 
「2曲分ですけど・・・。」
 
「たったそれだけ?」
 
私は頷いた。
そして、今度は指から手を離すと、肘辺りから指先にかけて、何箇所か触りだした。
 
「これは、感じる?これは?」
 
何回か、何も感じない時はあった。
でも、それが、いいのか、悪いのか、私にはわからなかった。
 
「冬真(トウマ)・・・。お前、何やってんの?」
 
戻って来た聖(セイ)は、そういうと、いきなり私の腕に触れている冬真(トウマ)さんの腕を払った。
 
「ち・・・違うのよ、聖(セイ)。
私が、さっきスプーンを落としちゃったから、心配してくれて、診断してくれてただけなの。
そんなに、怒んないでよ!!」
 
って、なだめるけど、聖(セイ)は、冬真(トウマ)さんをにらんだまま。
 
「だから、医者は嫌いなんだよ。」
 
そういい捨てた聖(セイ)に、「どういう意味だ?」とこれまた冬真(トウマ)さんも、さっきとは違う口調で、聖(セイ)に言い寄る。
 
「ちょっとの些細な事でも、すぐに病気にしたがる。
あんなの誰だってよくある事だろ。
大げさなんだよ!
だから、俺は、医者にはなりたくねぇーんだ。」
 
聖(セイ)のその言葉に、冬真(トウマ)さんは何も答えなかった。
答えない代わりに、ツカツカと聖(セイ)に近付くと、思いっきり聖(セイ)のお腹に蹴りを入れた。
聖(セイ)の背中が、壁にぶち当たった。
 
「ちょっと、冬真(トウマ)、やめなさい!!」
 
とお母さんも止めるけど、冬真(トウマ)さんは、何も言わずに、しりもちをついて腹部を押さえて苦しんでいる聖(セイ)の元へと行くと、しゃがみこんだ。
 
「急所ははずしてやった。
痛みも時期におさまるだろうから。」
 
冬真(トウマ)さんはそう言ったあと、聖(セイ)のむなぐらをつかんだ。
 
「言っとくけどな。
些細な事を、疑うのが医者なんだよ。
お前は、医者にはなりたくないと言ってるがな。
俺から言わせれば、お前みたいな人間は、医者になる資格はない。
お前みたいなヤツが、医者になるのは、迷惑だ!!
一生、お前は、音楽の道にいればいい。
こっちの世界には、くるんじゃねぇー。」
 
そして、彼は、つかんでいた手を離した。
しゃがんでいた腰も上げて、立ち上がると、今度は私の前に来た。
 
「羽雫(ハナ)ちゃんと言ったよね?
近いうちに、病院においで。
あまり無理していじめてると、手によくないからね。
いい薬出してあげるから。」
 
冬真(トウマ)さんはニッコリ笑うと、階段を登って行った。
 
「あのやろ・・・絶対に許さねぇー。」
 
聖(セイ)は、咳き込みながら苦しそうな口調でそう言った。
私は、聖(セイ)の為にも、病院には行かないでおこうと思った。
これ以上、冬真(トウマ)さんに関わったら、聖(セイ)が嫌な思いをする。
どうして、兄弟で、こんなに仲が悪いのかはわからないけど、でも、私は聖(セイ)が好きだから。
好きな人が、怒ってる姿なんてみたくないから。
だから、絶対に、病院にはいかない。って心に決めてた。
まさか、冬真(トウマ)さんが、私の体の中に芽生えはじめてた、小さな小さな『芽』に気付いていたとは知らずに・・・。
 
 
☆☆☆2章 END☆☆☆
 


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