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4   3 章  和解
更新日時:
06/06/13(火)
“風に乗って 空に舞って 私の想いは どこへさまよう
あなたの元へ 届くと 祈るしかないの
辛い時も 涙の日も 私は笑顔を たやさない
あなたにいつ想いが届くか わからないから
私をみる あなたの瞳には 笑顔の私だけを 映したい
両手を広げて あなたを迎えたいの
私の最高の笑顔で あなたを抱きしめてあげる
あなたの 素敵な笑顔を みるために
愛すべき人の 特別な笑顔を 愛してる”
 
そして、間奏が入る。
今度は、このままいける??
と期待したけど・・・。
やっぱ、ダメだ・・・。
ギターが、止まっちゃった・・・。
それに気付いたドラムも、ベースもキーボードも、演奏を止めた。
 
「あのさ・・・、一体、何回、止めたら気が済むわけ?」
 
汗を拭きながら、そう言ったのは、ドラムの間宮 朝彦(マミヤ トモヒコ)。
通称、『トモ』が優しい言葉だけど、声は・・・ちょっと、お怒りモードみたいな声で、『彼』に文句を言う。
そして、ベースの大海 駈(オオウミ カケル)は、腹が立っているんだろうけど、感情を顔にも言葉にも表さない。
ただ、その場にペタンと座ると、ベースを肩からはずし、ウォーターを飲む。
そして、最後は、キーボードをしてる私の親友の佐伯 満楼(サエキ ミチル)。
彼女は、ハキハキしていて、ちょっと、恐キャラなんだよね。
だから、きっと、今までの2人のようには、いかないんじゃないかなぁー。と予想はしてたんだけど・・・案の定でした。
満楼(ミチル)は、キーボードから離れると、『彼』のすぐ側まで、すごい剣幕で近付いた。
 
「一体、なんなの?!
文化祭まで、あと5日しかないんだよ。
それなのに、同じ曲の、同じ場所で、何回止めたら気が済むのよ!
ステージでは、10曲歌うんだよ。
1曲で、こんな事してて、間に合うわけないでしょ!」
 
と叫ぶ満楼(ミチル)。
私は、慌てて満楼(ミチル)と、『彼』との間に入った。
 
「そんなに、言わないで。
ねっ、聖(セイ)も、何か理由があるんだろうから。」
 
私は、満楼(ミチル)をなだめると、今度は聖(セイ)を見た。
 
「そうでしょ、聖(セイ)。
何が原因なの?っていうか、私じゃない?
私、この曲、声が出にくくて、一番へたなんだよね・・・・。」
 
と言って笑う私を、聖(セイ)はため息を付きながら首を振った。
 
「聖(セイ)?」
 
と聞くと、聖(セイ)は何も言わないまま、全員の顔を見渡した。
 
「なんだよ。」
 
と言ったトモに、聖(セイ)は焦点を合わせた。
 
「あんたらさ、俺が昨日渡した楽譜、覚えてねぇーのかよ。」
 
「あー、あれか・・・。」
 
トモは、そういうと、横においてあるカバンをあけると、適当に折られた楽譜を、取り上げた。
そして、それを、聖(セイ)の体に向けて、おもいっきり投げた。
数十枚の紙が、聖(セイ)の体にぶち当たって、それが、バサバサと音をたってて、床へと散らばった。
 
「ちょっと、トモ!!」
 
あまりのトモの行動に、さすがの満楼(ミチル)も止めに入るけど、トモは何も言わないまま、鋭い眼差しで、聖(セイ)をにらんでた。
 
「何か、言いたそうな目だな。
言いたい事があるなら、いえば?」
 
聖(セイ)は、全く動じない強い眼差しで、トモを見る。
そして、冷静な態度で、その散らばった紙を拾い集めた。
 
「ねぇー、それ・・・なんなの?」
 
何なのか、全く知らなかった私は、聖(セイ)を手伝って、紙を拾い、それを見た。
 
「これ・・・。」
 
と口にして、聖(セイ)を見た。
聖(セイ)は、ただ笑ってた。
気になった私は、聖(セイ)の手ににぎられている紙も全てぶんどった。
そして、それをパラパラと見る。
 
「羽雫(ハナ)・・・どうしたの?」
 
と満楼(ミチル)が聞いてくる。
 
「これ・・・Flowerが演奏する10曲だよね。
しかも全部、みんなの演奏が変わってる?」
 
そう。演奏するキーとか、弾くパートが、前とガラっと変わってる。
今までは、ほとんどみんな一緒に仲良く平等に弾こう!って感じだったんだけど、これを見る限り・・・全然、メチャクチャなの。
例えば、キーボードをベースにした曲になってるバラードがあって、それなら、ドラムはほとんど出番なし。
かと思えば、かなりロック系の盛り上がる曲なのに、なぜかでだしは、ベースで、ドラムは途中からとか・・・。
 
「一体・・・これ、どういう事なの?」
 
私は、聖(セイ)の腕をつかんで聞いた。
だけど、聖(セイ)は何も答えなかった。
 
「ねぇー、聖(セイ)!」
 
すると、答えたのは、意外な人物。
 
「別に、理由なんてねぇーんだろ?」
 
背後で声がして、私たちは一気に後ろを振り返った。
そして、みんなが声を合わせてこう言った。
 
「生槻(ナツキ)っ!!」
 
文化祭の1週間前になって、突然『辞める』と宣言した生槻(ナツキ)が、そこにいた。
彼が、来たって事は、戻ってきてくれたんだと思った私は、生槻(ナツキ)の元に走りだそうとしたけど、その腕を聖(セイ)につかまれた。
 
「せ・・・い?」
 
と聞くけど、聖(セイ)は私を見ないで、生槻(ナツキ)を見てた。
 
「理由なら、あるさ。」
 
聖(セイ)は、生槻(ナツキ)にそういい捨てると、私をマイクのある場所まで、連れて行った。
 
「羽雫(ハナ)。今から、『MY Smile』歌え。」
 
「はぁ?」
 
とまぬけな私。
 
「何、言ってんのよ!
今は、それどころじゃないでしょ。
生槻(ナツキ)が戻ってきてくれたのに!!」
 
と聖(セイ)にからむ私の耳元で、聖(セイ)はこう言った。
 
「生槻(ナツキ)を戻したいんだろ?
だったら、俺のいう通りに、歌え!いいから!」
 
とすごい早口で言われた。
それも、すっごい小声で。
私が歌を歌ったら、生槻(ナツキ)が戻って来る?
っていうより、聖(セイ)は、生槻(ナツキ)を戻そうと考えてくれてたの?
でもそれは・・・ない気がするんだけど。
だって、生槻(ナツキ)に怒ってなかった?
なんて、思うけど、聖(セイ)は、私の返事を聞かずに、自分も演奏をする気満々。
だけど・・・。
 
「俺たちは、弾かねぇーぞ。」
 
とトモが言う。
それに対して、聖(セイ)は、当たり前のように、「お前らはいらねぇー。」と言うと、ユックリと、それぞれの顔を見る。
そして、一言、
 
「黙って、みてろ。」
 
と偉そうに言った。
それに対して、生槻(ナツキ)は、「ふん。」と鼻で笑うと、近くのイスを目の前にひっぱってきて、そこにドカと腰をおろした。
 
「ねぇー・・・大丈夫なの?」
 
と心配の私。
なんか、すーごく険悪モードになってるんだけど。
それに、こんな雰囲気で、しかもよりにもよって、『MY Smlie』って・・・。
ちょっと、無謀すぎない??
って思うけど、聖(セイ)に言っても却下されるだけと知っている私は、覚悟を決めた。
私は、聖(セイ)がくれたHANAのギターを、構え直して、準備ができたら、スタンドマイクに手を添える。
 
「いつでもOK。」
 
と答えた私に、聖(セイ)は、「1つだけ言っとく。」と言うと、私の側に来ると、「ちょい、手、のけて。」と言って私の手をスタンドマイクからどけた。
 
「少し、高さをあげてと。」
 
なんていって、スタンドマイクの高さを少し、高くした。
私の顔が、ほんの少し、上に向いた。
 
「こんな姿勢じゃ、声が余計でないよ。」
 
と文句をいうけど、「いいからいいから。」と言われた。
 
「で、さっきの言っとく事だけどな。
今から、俺のギターだけの演奏で歌うわけだから、ほとんど、アカペラ状態になると思う。
なぜなら、俺はギターのパートしか弾かねぇーから。」
 
「えぇー!!なんでよ!!
そんなの、無理だって!!
みんな演奏しないんだから、ちゃんとギター弾いてよ!!」
 
って言うけど、「じゃ、始めるか。」とやっぱり・・・無視された。
もう!どうなっても知らないからね!!
覚悟を決めた私は、大きく深呼吸をした。
 
「前奏は、トモ演奏してやれよ。」
 
生槻(ナツキ)の言葉に、「生槻(ナツキ)が言うなら・・・。」とトモも、渋々、参加をしてくれた。
それに対して、聖(セイ)が、「いらねぇーよ。」というのかと思ったけど、それは何も言わないで、知らん顔で、自分はギターを触ってた。
そして、すぐに、トモがいつものように、演奏を開始した。
私は心の中でカウントをする。
演奏が切れたら、2はく目で入るんだ。
ワン、ツー。
そして、さっきの曲。
『My Smlie』を歌った。
口にした途端・・・。
 
えっ?
 
て思った。
声が・・・なんで、こんなに出るの?
この曲、作詞は私なんだけど、作曲は生槻(ナツキ)なんだ。
生槻(ナツキ)の作る曲は、いつもテンポとか曲調が好きで、私は、生槻(ナツキ)の作曲の才能には、脱帽してる。
でも、生槻(ナツキ)の作る曲だけってわけじゃないんだろうけど、声が出にくいというか、無理をして出さないといけないところが何箇所かある。
普段の曲は、あまり気にはならないんだけど、この『My Smlie』は、ほとんどが出にくくて、苦しいんだよね。
でも、今までのライブで、詩も曲もいいと評判で、はずすわけにはいかなくて、練習したんだけど・・・。
克服できなかったんだよね。
だけど、今・・・信じられないくらい声が出てる。
なんで??
それに、ギターの聖(セイ)が、弾いている場所って、今まで生槻(ナツキ)が弾いていた場所と全然違う。
もしかして、それと、私の声が出てるのって、関係してるの??
私には、全然わかんないけど、とにかく・・・すっごい歌いやすい。
サビなんて、いつも辛くて、満楼(ミチル)にコーラスを頼んでるくらいなのに、今は、こんなにものびのびとした声が出る。
すっごく・・・気持ちいい!!
私は、気持ちよすぎて、気付けば、1曲全部歌ってた。
ラストは、聖(セイ)が最後まで丁寧に演奏をしてくれて、綺麗に曲が終わった。
私は、少し放心状態になりながら、マイクから手を離した。
その時、拍手が聞こえた。
 
「な・・・つき?」
 
と私は口にする。
だけど、生槻(ナツキ)は、さっきとは違う。
すっごい優しい笑顔で、私を・・・いや、聖(セイ)を見てた。
 
「やっぱ、お前・・・すごいな。」
 
生槻(ナツキ)はそういうと、聖(セイ)に一歩一歩近付いてくる。
 
「羽雫(ハナ)がもっとも苦手としてた、高音をこんなにも、綺麗に出させるなんてな。
恐れいったよ。」
 
と生槻(ナツキ)の言葉に、聖(セイ)は少し笑った。
 
「お前らは、勘違いしてる。」
 
そういって、また聖(セイ)はみんなを見た。
 
「羽雫(ハナ)の歌が、うまく聞こえるような演奏をして周りを固める。
それが、自分たちのするべき事であり、仲間だと思ってんだろ?
でも、それは、違う。」
 
「それは・・・どういう事だ?」
 
さっきよりも、落ち着いた口調でトモは聖(セイ)に聞いた。
 
「それは、声で聞かせるんじゃなくて、曲や演奏で聞かせるタイプ。
でも、羽雫(ハナ)はそうじゃない。
羽雫(ハナ)の声は、人の心を動かす。
でも、今のお前たちの演奏だと、羽雫(ハナ)をガチガチに固めてしまってるんだ。
まるで、鉄の鳥かごに入れられた鳥って感じだな。
だから、出にくいキーの声も、お前たちが不得意だと思ってしまうから、自然と音がでかくなるというか、ホローに入ってしまう。
そうしたら、余計に羽雫(ハナ)の声が出にくくなる。
声帯が閉じてしまうんだ。
それの典型的な例が、マイクだよ。」
 
「マイク?」
 
満楼(ミチル)の言葉に、聖(セイ)はうなずいた。
 
「声を、しっかり出さなきゃ!って、気負いをしてしまうから、自分の口に一番マイクの面があたるように、身長ぴったりの水平の位置に、設置してしまうんだ。
それじゃダメだ。
声帯は、少し上を向いた方が開く。
下に向けば向くほど、閉めてしまうからね。」
 
「だけど、わからないなー。」
 
滅多に口を開かないベースの駈(カケル)が、聖(セイ)に話しかけた。
 
「羽雫(ハナ)の声が出たことと、あんたの演奏と、どう関係があるんだ?」
 
「それは、楽譜に、答えがあるんじゃないか?」
 
すぐ側まで、来ていた生槻(ナツキ)は、舞台に上がってくると、聖(セイ)の足元にあるトモの楽譜を取る。
 
「満楼(ミチル)も、駈(カケル)も。
コイツからもらった楽譜、見せて。」
 
言われるがまま、二人はカバンから楽譜を出した。
それを、聖(セイ)と私との間のフロアーに、しゃがんで生槻(ナツキ)は並べた。
みんなも、生槻(ナツキ)の周りにしゃがみ込んだ。
 
「まず、この1メロ見てみろよ。」
 
3つの楽譜をキョロキョロと見比べる。
見比べて、最初に気付いたのは、トモ。
 
「あっ!!」
 
と声をあげた。
私も含めた3人は、わかるようで、わからない。
首をかしげて、生槻(ナツキ)に降参。
生槻(ナツキ)は、少し笑うと、回答を始めた。
 
「この曲で、一番羽雫(ハナ)が苦手としていた場所が、ここだよな。」
 
と楽譜を指さす。
 
「で、この前後を見ると・・・。」
 
そこまで、言われて、私以外の二人は「あっ!」と気付いた。
 
「えぇー。わかんない。」
 
と半泣きになる私に、生槻(ナツキ)は頭にぽんと手を乗せた。
 
「まっ、楽器をしない、羽雫(ハナ)には、わかんねぇーだろうな。」
 
と笑うと、私にもわかるようにまた、楽譜を指さす。
 
「羽雫(ハナ)が、歌いにくくなるまえに、羽雫(ハナ)がすごく声が出てて、いえば絶好調の状態に持っていっておけば、その勢いで、苦手な所も乗り越えられるって、コイツは考えた。
だから、その直前は、羽雫(ハナ)が自分の声で、歌いやすい環境をもたせてやるために、音を消してる。
とはいえ、みんなも演奏は、してるが、羽雫(ハナ)の歌のさまたげになる音は一切ない。
いえば、曲を演奏してるって感じだな。
極端にいえば、ここで、例えば羽雫(ハナ)が低い声で歌ったとしても、そんなに変とは思わない。
ずれたとか、はずれたとか、感じない。
そういうふうに、いえばごまかせれる演奏になってる。
まっ、羽雫(ハナ)の声が、急に変わらないように、ちゃんとギターが主旋律というか、迷わないように弾いてるから、おかしくはならないように保険はかけてある。
だから、羽雫(ハナ)は、自分の声で歌えたんだ。
楽譜はこれだけしか、見てねぇーけど、たぶん、全曲、羽雫(ハナ)の声が出やすいように、コイツが振り分けてるはずだ。
それも、ちゃんと俺たちの力が、うまく出せれるように演奏の場所も、すごく考えてる。
正直、たった1日で、ここまで、出来たお前に、脱帽だな。」
 
生槻(ナツキ)はそういうと、私を見た。
 
「羽雫(ハナ)・・・俺さ、ずっと考えてたんだ。」
 
「なに・・・・を?」
 
「俺たちがスタジオに練習に行ったりして、たまに聖(セイ)とあってさ。
羽雫(ハナ)、聖(セイ)のギターで歌を口ずさんだりしてただろ?
あの時、いっつも羽雫(ハナ)の声は、通ってた。
俺たちと歌ってる時の声とは、全然違っててさ。
だから、俺の腕は、羽雫(ハナ)にはいらないものなんじゃないかって。
羽雫(ハナ)に、迷惑かけてるだけなんじゃないかって思ってさ。
本当は、羽雫(ハナ)は、聖(セイ)のギターで歌いたいんじゃないか。
でも、俺がいるから、聖(セイ)を引き込めない。
だったら、俺が去ればいいじゃないかって思った。
でも、俺、心のどこかで、期待してたんだ。
羽雫(ハナ)が、俺を引き止めてくれる事。
でも、羽雫(ハナ)は何も言わずに納得した。
そして、俺の読み通り、聖(セイ)を仲間に入れた。」
 
「違う。そうじゃないよ。
これは、文化祭があるから、聖(セイ)が助けてくれて・・・。」
 
って急いで弁解するけど、生槻(ナツキ)は、「いいんだ。」と笑う。
 
「実際、これだけのものを見せられて、俺は納得したよ。
俺は、羽雫(ハナ)の側にいる人物じゃないって。
聖(セイ)こそが、羽雫(ハナ)の側にいるべき人物だって。
だから、Flowerを辞めてよかったんだと、今日、心から思えた。」
 
生槻(ナツキ)はそういうと、聖(セイ)の前に行った。
 
「文化祭、楽しみにしてるよ。」
 
だけど、聖(セイ)は、「ふざけんな。」というと、生槻(ナツキ)を見た。
 
「ここの連中は、俺の言う事を聞かねぇーんだ。
お前が、ずっと手なずけてきたんだろ?
だったら、最後まで、こいつらの面倒を見てやれよ。」
 
聖(セイ)は、そう言ったあと、ギターをフロアーに置くと、自分もフロアーに座った。
 
「あいにく、俺は、ギター以外の楽器は、できねぇーんだよ。
それに、こいつらの癖もしらない。
どの音を出すのが苦手とか、この音の次にこれを出させるのは、指が追いつかないとか・・・。
人の事を仕切る側として、知っておかないといけない最低限度の事を、俺は全く知らない。
楽器のアドバイスだって、俺にはできない。
でも、お前にならできるだろ?」
 
聖(セイ)はそういうと、生槻(ナツキ)を見た。
 
「おまえは、ここの連中の事を、なんでも知ってる。
そして、信じられない音楽センスもあるしな。」
 
「えっ?」
 
と驚いた生槻(ナツキ)に、聖(セイ)は少しだけ笑った。
 
「俺が、少しギターを弾いただけで、お前、俺の演奏する場所と言うか狙いがわかっただろ?
それから、ずっとラストまで、俺の動きと手の動き、全く一緒だったもんな。
さすがに、あそこまで、できるやつはいねぇーよ。」
 
「俺が、指動かしてたの・・・お前、演奏しながら気付いてたのかよ。」
 
「まぁーね。」
 
聖(セイ)は、そういうと、立ち上がった。
 
「じゃ、練習の邪魔してもわるいから、俺もう帰るわ。」
 
「おい、待てよ!」
 
と生槻(ナツキ)は、立ち上がる。
 
「お前・・・ホントにいいのか?」
 
「何が?」
 
「羽雫(ハナ)の本来の姿を、引き出したのは、お前だし、俺たちの演奏をいい方向に導いたのもお前だ。
羽雫(ハナ)と一緒にステージ立たなくていいのか?」
 
「俺は、羽雫(ハナ)の影でいいだ。」
 
「影?」
 
「そう。羽雫(ハナ)が、お前がいないとやっていけないと泣くから、お前を戻す為に、影から表の世界に出てきたってわけ。
でも、影はいずれ、後ろに戻らなきゃな。
俺は、羽雫(ハナ)の支えで充分だ。
羽雫(ハナ)の涙も、悲しみも、不安も、全部俺が、癒してやる。
でも、表でみせるアイツの笑顔は、お前が守れ。
お前になら、それが出来るだろ?」
 
「いいのか・・・俺で。」
 
「お前しかいない。」
 
「けど・・・。」
 
「今回だけだからな。
もし、今度、羽雫(ハナ)を泣かせてみろ。
絶対に許さねぇーからな。」
 
聖(セイ)はそういうと、生槻(ナツキ)に向けてこぶしをあげた。
それに、生槻(ナツキ)もあわすように、ゴンと触れた。
 
「ステージ・・・楽しみにしてるよ。」
 
そして、聖(セイ)は、私にも軽く手を振って、教室から出て行ってしまった。
 
 
 
 
「聖(セイ)っ!!待ってっ!!」
 
廊下をスタスタと歩く、聖(セイ)の後ろ姿に向かって私は、叫んだ。
私の声に、聖(セイ)は足を止めて、こちらに振り返ってくれた。
私が、自分の元まで、辿り着くまで、聖(セイ)は待っててくれた。
 
「・・・なんで?」
 
聖(セイ)の元に全速力で走ってきた私は、息を切らしながらそう言った。
「ん?」と聞く聖(セイ)に私は、大きく息を吸い込んで呼吸を整えてから想いをぶつけた。
 
「なんで、辞めちゃうの?
俺がホローしてやるから安心しろって、言ってくれたじゃない!
本当の私を引き出してくれて、私の大切にしてる物も守ってくれて・・・。
それは、感謝してるけど、それが終わったら、さっさと行っちゃうの?
どうして、簡単に聖(セイ)は私から離れていっちゃうのよ!
なんで・・・。」
 
私はそう言いながら、泣いてしまった。
生槻(ナツキ)が戻ってきてくれた事は、本当にうれしい。
でも、不安なの。
聖(セイ)がいなくなって、私はさっきみたいな声が出せるの?
聖(セイ)が居てくれる安心を知ってしまった私が、聖(セイ)なしでステージに上がれるの?
聖(セイ)の側を離れる事が、こんなに恐いと思った事は、今までなかった気がする。
足元がすっごい不安定で、何かにしがみついてないと、下に落っこちてしまいそうな・・・。
それくらい、私は不安だったの。
なのに、私の気持ちをかき乱すだけかき乱して、聖(セイ)はどっかへ行っちゃうの?
両手で顔を押さえて、泣きじゃくる私に、聖(セイ)は近付いてくると、何も言わないまま、私の頭を自分の右肩に向けて倒すと、私を抱きしめてくれた。
そして、頭を優しくなでてくれる。
それが、本当に安心できて、私はさらに声をあげて、泣いてしまった。
 
「最初・・・。」
 
聖(セイ)はそう口にすると、私の顔にさらに自分の顔をくっつけてきた。
 
「本当は、生槻(ナツキ)を戻すつもりなんてなかった。
理由はどうであれ、羽雫(ハナ)をあんなに泣かせたアイツを、俺はどうしても許せなかったから。」
 
そう言ったあと、「でも・・・。」と口にした彼の声のトーンが少し変わった。
 
「羽雫(ハナ)に、10曲演奏したテープをもらっただろ?
それを聞いた時、俺じゃダメだと思ったんだ。」
 
その言葉に私は、くっつけていた顔を上げて、聖(セイ)を見た。
涙でグショグショだった私の顔を見て、聖(セイ)はちょっとだけ笑うと、手で私の涙をぬぐいながら口を開いた。
 
「ギターはさ、その人の音色が出てくる楽器でさ。
羽雫(ハナ)の声には、俺の音色じゃなくて、生槻(ナツキ)の音色がすごくあう。
それを、テープを聞いていて、わかったんだ。」
 
だけど、私は、「そんな事ないよ。」と即否定したけど、聖(セイ)は首を振った。
 
「その事は、生槻(ナツキ)が一番よくわかったはずだ。
だから、さっきの演奏を、俺と羽雫(ハナ)だけにしたんだ。
羽雫(ハナ)の声に合うのは、生槻(ナツキ)のギターしかない。って事を自覚してもらうためにね。」
 
聖(セイ)はそういって、少しだけ笑うと、私を自分の体から離した。
 
「さっきみたいな歌声は、俺がいなくてもちゃんと出る。
俺が考えたように、生槻(ナツキ)の指示で、みんなが演奏してくれるから、お前は何も心配しなくていい。」
 
「でも・・・。」
 
と悲しい声を出す私の頭を聖(セイ)は、優しくなでてくれる。
 
「自分の音を確認するためにギターを弾くのも、そのまま弾いて大丈夫だ。
羽雫(ハナ)が弾く部分はだいたい予想がついてるから、その辺付近のギターの演奏を変えてある。
その通り、生槻(ナツキ)が弾けば問題はないけど、それがなくても生槻(ナツキ)は、うまくホローしてくれるよ。
現に、さっき、羽雫(ハナ)がどうして、所々アトランダムにギターを弾いているのか、生槻(ナツキ)には意味がわかったみたいだからね。
2フレーズからは、お前が弾く所に、あわせて指が動いてた。
アイツは、俺以上に、羽雫(ハナ)の事を理解してる。
だから、安心して、アイツの腕に頼ればいい。」
 
聖(セイ)はそこまでいうと、私の体を今来た方にくるっと向けた。
 
「ほらっ!みんなが、待ってるだろ?
早く、行けよ。」
 
そう言って、私の背中をポンと押した。
一歩足が前に、進んだ。
だけど、私は、それ以上は、前には進まなかった。
後ろに振り返って、また聖(セイ)に向かって飛び込んだ。
 
「おい。方向が違うって!」
 
なんて言って呆れながらも、聖(セイ)は私をちゃんと両腕で受け止めてくれた。
 
「聖(セイ)は、何でも冷静に判断できてすごいよ。
でも、それが、不安になるの。」
 
「ふ・・あん?」
 
私は、聖(セイ)にこれ以上くっつけないくらい、くっついて彼にしがみついた。
 
「生槻(ナツキ)に頼れって言ったのは、音楽だけだよね。」
 
「どういう・・・意味?」
 
聖(セイ)は私の体を離すと、私の顔を真剣に見る。
だから、私も、聖(セイ)への思いを言ったの。
 
「私は、聖(セイ)が好きなの。
聖(セイ)以外の人に、守られても、助けられても、満たされない。
私は、聖(セイ)がいいの。
聖(セイ)の強さと自信に満ち溢れた、その中にある優しさに触れてると、本当に安心するから。
幸せだと思うから・・・。
だから聖(セイ)・・・。私を捨てないで・・・。」
 
聖(セイ)は、「何言ってんだよ。」と、ひとりごとを言った。
聞き取れなかった私は、「えっ?」と彼に聞くけど、聖(セイ)はそれには答えずに、私の唇に彼の体温をくれた。
今まで聖(セイ)にもらった言葉でも、態度からでもない。
彼からの強さと自信に満ち溢れた中にある優しい『体温』だった。
 
「生槻(ナツキ)に、羽雫(ハナ)を託すのは、音楽だけに決まってるだろ。
それ以外、生槻(ナツキ)には何も渡さないさ。
羽雫(ハナ)の体はもちろん、羽雫(ハナ)の心も、生槻(ナツキ)にも、他の男にも渡さない。」
 
「聖(セイ)・・・。」
 
やっぱり、気持ちいいと思った。
聖(セイ)のこの自信に満ちた強い言葉は、何よりも私に安心とそれから、幸せをくれる。
私は、背伸びをして聖(セイ)の首に両腕をからませると、彼に抱きついた。
 
「でも・・・聖(セイ)?」
 
彼の耳元でそう言った私に、聖(セイ)の頭が少し私の方に、傾いた気がした。
それを、感じたうえで、私は聖(セイ)に言った。
 
「そんなに私の声と、聖(セイ)のギターって・・・合わないの?」
 
あれだけ言われても、やっぱり納得が行かなかった。
だって、たぶん技術のうまさからいったら、絶対に聖(セイ)の方がうまいと思うから。
だったら、聖(セイ)の方が、私に合わせるのもうまいでしょ?って思って。
だから、どうしても・・・納得がいかなかったの。
すると、聖(セイ)は、私の腰に両手を合わせると、私を少し持ち上げて、自分から離すと地面へと着地させた。
 
「聖(セイ)?」
 
と不思議そうに聞く私に聖(セイ)は、目を私の少し後ろに向けた。
 
「その答えは、アイツに聞くか。」
 
そう言って目で、「後ろを見ろ」と訴えた。
私は、聖(セイ)の見ている方に、振り返ると・・・。
 
「生槻(ナツキ)!」
 
そこには、生槻(ナツキ)が立ってた。
 
「羽雫(ハナ)が戻って来るのが、遅いからさ。
みんなが、帰ったんじゃないか?って心配してて、見に来た。」
 
生槻(ナツキ)は、笑いながらそういうと、こちらに歩いてきた。
 
「羽雫(ハナ)。」
 
聖(セイ)はそういうと、私の真横に進んできた。
 
「生槻(ナツキ)に、聞いてみろよ。」
 
聖(セイ)に言われて、私は、「う・・・ん。」とちょっと気が乗らない返事をする。
私たちの会話を聞いていた生槻(ナツキ)は、私たちの目の前に辿り着くや否や、
 
「何?俺に聞けって?」
 
と優しい笑顔で言ってきた。
なので・・・聞いて見ることに。
 
「聖(セイ)が、私の声には、生槻(ナツキ)のギターが合うって。
聖(セイ)のギターは合わないっていうの。
でも、私にはその・・・聖(セイ)のギターが合わないっていうのが、どうしても納得いかなくて。
そしたら、聖(セイ)が生槻(ナツキ)に聞けって。
生槻(ナツキ)は・・・どう思う?」
 
すると、生槻(ナツキ)は、「コイツのいう通りだと思うよ。」とサラっと答える。
 
「えっ?」
 
と聞く私に、生槻(ナツキ)は、私じゃなくて、聖(セイ)を見た。
 
「コイツのギターには、迷いがある。」
 
「ま・・・よい?」
 
と首をかしげる私だけど、聖(セイ)は、「プッ。」と噴出し笑いをして、窓際まで逃げた。
そして、窓を背にしてこちらを向くと、「それで?」なんていいながら、とっても楽しそうな顔で、生槻(ナツキ)を見てた。
 
「俺も羽雫(ハナ)も、音楽命だろ?
俺も羽雫(ハナ)も、この世界で生きて生きたい。って思ってるから、俺の弾くギターにも、自分が作る曲にも自信があるし、迷いもない。
それは、羽雫(ハナ)も一緒。
自分の歌う歌に、誇りを持ってるし、それなりに自信やプライドも持ってる。だろ?」
 
生槻(ナツキ)の言葉に、私はうなずいた。
すると、生槻(ナツキ)は、今度は聖(セイ)を見た。
 
「だけど、コイツの音色には、その自信がないんだよ。
迷ってる音しか感じない。
そんなどっち付かずの曖昧な音で、羽雫(ハナ)の歌声に太刀打ちできるわけない。」
 
生槻(ナツキ)の言葉に、聖(セイ)は何も言わなかった。
ただ、黙って生槻(ナツキ)を見て、口元を緩ましてた。
 
「ねぇー、迷いってなんなの?
聖(セイ)だって、音楽への道を、目指してるのよね?」
 
と聖(セイ)に向かって聞くけど、聖(セイ)は何も答えない。
 
「自分でも、わからない・・・って事だろ?」
 
「えっ?」
 
今度は生槻(ナツキ)を見る私。
自分でもわからないって・・・。
話が見えてこない私は、完全にパニック。
 
「ねぇー、私にもわかるように、話してよ!!」
 
と生槻(ナツキ)にせまる私。
 
「わかった、わかった。」
 
と笑った生槻(ナツキ)は、聖(セイ)とは反対側の窓際に行くと、そこにもたれた。
 
「聖(セイ)の家の事情っていうのを、あんま詳しく知んないけど。
学校の連中の噂を聞く限り、すっげぇー、金持ちでしかも、すっげぇー、有名な医者の息子なんだろ?」
 
「うん・・・そうみたい。」
 
と返事をする私に、生槻(ナツキ)は少し笑った。
 
「聖(セイ)さー、医者になろうか、迷ってねぇーか?」
 
いきなり、核心をついた生槻(ナツキ)の言葉。
驚いた私は、聖(セイ)を見るけど、聖(セイ)は・・・ただクククと笑ってるだけ。
それが、余計に私を不安にさせた。
だって、聖(セイ)はこの間、冬真(トウマ)さんに医者にはならない。とハッキリ言ったじゃない。
だったら、生槻(ナツキ)に言われても、否定するはずでしょ?
だけど、彼は、笑って否定しなかった。
ってことは・・・。
 
「聖(セイ)!医者になるの?」
 
たまらず、聖(セイ)の元にかけよって、彼の腕をつかんで聞いた私だけど、聖(セイ)は首をひねりながら私を見るだけ。
 
「それがわかんねぇーから、苦しんでる。
違うか?」
 
生槻(ナツキ)はそういうと、窓の外の景色を見る。
 
「俺が思うに・・・。
普通、そういう有名な医者の息子なら、生まれた時から、生きる道っていうのかな?
こうしろ!っていうレールみたいなもんが引かれてるもんだろ?
でも、お前を見る限り、お前の家は、そういうのはなさそうだな。
自分の好きなようにしろ。っていう親か?」
 
すると、聖(セイ)は、「そうだな・・・。」と口にすると、少し笑った。
 
「『医者になれ』とか、冗談でも言われた事がない。
オヤジは、ただの一度も、俺や他の兄妹にも言った事がない。」
 
「けど、噂で聞く限りは、兄貴も妹もみんな医者だったり、目指したりしてんだろ?」
 
「ああ。」
 
と答えた聖(セイ)は、ちょっと苦笑いをした。
それをみた生槻(ナツキ)は・・・。
 
「それが、余計にお前を苦しめてるって事か・・・。
親は何も言わない。
兄妹で、自分だけが違う道を行く。
本当にそれでいいのか?
自分は、本当に、医者になりたい気持ちはないのか?
今、お前はいろんな思いに、がんじがらめになってるんだな・・・。」
 
生槻(ナツキ)は、そういうと今度は、急に明るい口調になる。
 
「けどさ、俺たちはまだ、18だ。
人生を決めようと、あせんなくていいんじゃねぇーかな?
答えはいつかは、出る。
それが、明日かもわかんねぇーし、10年後かもしれねぇー。
わかんねぇーけど、それまで、自分のやりたいように楽しくやってたら、いいんじゃねぇーかと俺は思うけどね。」
 
すると、聖(セイ)は、声を出して笑った。
その笑い声は、何かをふっきったような、そんな笑い声に聞こえた。
 
「まさか、お前に人生相談、聞いてもらえるなんて思ってもみなかったよ。」
 
と明るい声で話す聖(セイ)に、
 
「いつでも、相談に乗るぞ!!」
 
とこれまた、楽しそうに答える生槻(ナツキ)。
聖(セイ)は、私以外には、自分を見せられないと言っていた。
だけど、思ったの。
ここに、いたじゃない!って。
そして、それは、生槻(ナツキ)にとっても、そうじゃないかな?って思ったの。
確かに生槻(ナツキ)は、聖(セイ)と違って、仲間が多い。
人柄も明るいし、リーダー的存在だから、学年一って言っていいほど、人気があって、仲間も多いんじゃないかな?
でも、バンド内のトモや駈(カケル)に対してすら、今の聖(セイ)に接してるみたいな態度なんて、した事ないんじゃないかな?
心を見せ合ってるみたいな接し方・・・見たことない気がするから。
だから、思ったの。
生槻(ナツキ)にとっても、聖(セイ)は、特別な存在になってるんじゃないかって。
なんか、それが、すごくうれしくて、私は二人を見比べながら、ニタニタ笑っちゃった。
 
「何、笑ってんの?気持ち悪い。」
 
と生槻(ナツキ)には、変な眼差しで見られた。
そして、愛しの聖(セイ)には、
 
「ブサイクな顔して笑うな!」
 
と冷たい一言。
それが、さっきまで、甘い告白をしてくれてた人の言葉??
って思うけど・・・それが、聖(セイ)らしくて、「まー、いっかー。」って思っちゃった。
 
「よし、じゃ、羽雫(ハナ)。
もう、そろそろ、あっちに戻ろうぜ。
っていうか・・・今何時だ?」
 
なんて、生槻(ナツキ)に聞かれるけど、私は何も持ってないから、そんなのわかんない。
だから、聖(セイ)に聞いたの。
 
「ねぇー、聖(セイ)、今何時?」
 
って。
そしたら、聖(セイ)は、ポケットから、携帯を取り出した。
 
「うわー、もう6時回ってるぞ!!」
 
「えっ?マジかよ!」
 
と声をあげる生槻(ナツキ)だけど、私はそれどころじゃなかった。
聖(セイ)の行動が、気になったの。
 
「ねぇー、聖(セイ)。時計は?」
 
聖(セイ)は、ギターをする時に邪魔だと、普段は腕時計をはずしてる。
でも、いつもカバンの内ポケットに入れていて、時間を見る時は、いつもそれを見てた。
些細な事かもしれない。
でも、すごく気になったの。
だけど、聖(セイ)は、「なくした。」と軽く口にしたの。
 
「なくしたって!!
あれ、お父さんの雪先生が、誕生日にくれたんでしょ?
すごく大切にしてたのに。
ねぇー、どこで、なくしたの?
一緒に探すから!!」
 
って言うけど、「いいんだって。」と聖(セイ)は笑うと、私を強引に生槻(ナツキ)の方に押した。
 
「じゃ、練習頑張って!
わかってると思うけど、ちゃんと、羽雫(ハナ)を送ってくれよ。」
 
聖(セイ)の言葉に、「お前に言われなくても、ちゃんと送るよ。」と生槻(ナツキ)も答えた。
 
「ちょっと、聖(セイ)待ってよ!!」
 
納得がいかない私は、聖(セイ)を追いかけようとしたけど、生槻(ナツキ)に腕をつかまれた。
 
「離して!!」
 
って、生槻(ナツキ)の腕を払おうとしたけど、生槻(ナツキ)は「いいから。」といって、放してくれない。
 
「納得がいかないのよ!」
 
私はそう叫ぶと、力いっぱい腕を振って、生槻(ナツキ)の腕を振り払った。
 
「あの腕時計・・・。
本当に、大切にしてたの!
聖(セイ)は、『ギターを弾くのに、邪魔だから』って言ってつけてなかったけど、腕につけてて傷が付いたり汚れるのが嫌だったんだと思う。
だから、いつも大切に、カバンの中に入れてた。
現に、あのカバンを乱暴に扱う所を、見たことがないの。
カバンが落ちそうな不安定な場所には絶対に置かないし、カバンを投げたりした所だって見たことない。
大切に・・・大切にしてたのに。
無くすわけないよ。
絶対に、何かあったの。
私は、いつも聖(セイ)に助けられてる。
今回だって、聖(セイ)がいたから、生槻(ナツキ)の大切さがよくわかったし、生槻(ナツキ)だって戻ってきてくれた。
私も、聖(セイ)の為に何かしたいよ・・・。」
 
そう言って、涙目になる私の肩を、生槻(ナツキ)はポンと叩く。
 
「俺が、羽雫(ハナ)に辞めるって言った日。
アイツ、クラスの連中とやりあったらしいよ。」
 
生槻(ナツキ)の言葉に私は、伏せていた顔を勢いよく上げた。
顔を上げたせいで、涙が頬を伝った。
でも、私は気にしないで言ったの。
 
「どういうこと?」
 
って。
すると、生槻(ナツキ)は、ポケットからハンカチを取ると、私の手に握らせた。
私は、それで、涙をぬぐいながら、生槻(ナツキ)を見た。
 
「A組にいる俺のダチがさ、言ってた。
アイツがキレて、すっげぇー暴言吐いてたって。
その時に、アイツ、腕時計を投げてさ、それを売れって言ったらしいよ。
100万には、化けるだろうからって。
羽雫(ハナ)が言ってる腕時計って、それなんじゃねぇーの?」
 
私は、二つ返事で答えた。
 
「それだよ、それ!!」
 
って。
 
「だけど・・・。」
 
と口にした私に、生槻(ナツキ)は、「ん?」と聞いてくる。
 
「聖(セイ)が、その腕時計を投げるなんて・・・。
なんで、そんな事・・・・。」
 
「よっぽど、腹が立ったんじゃねぇーか?
自分の親の事を悪く言われて、怒らねぇー子供はいねぇーだろ。」
 
と笑った生槻(ナツキ)は、私の腕をつかむと、みんなのいる方へと強引に歩かせた。
 
「腕時計の事は、心配するな。
A組の先生が預かってるらしい。
明日にでも、俺が話つけて、もらってくるよ。
そしたら、羽雫(ハナ)が、返してやれ。」
 
生槻(ナツキ)の言葉に私は、素直な気持ちで言っちゃった。
 
「生槻(ナツキ)って、そんなに優しかったっけ?」
 
すると、笑いながら生槻(ナツキ)はこう言ったの。
 
「聖(セイ)のおせっかいが、移っちまったのかもな。」
 
って。
それには、二人して大笑いしちゃった。
確かに、聖(セイ)は・・・おせっかいかな?
でも、本当に感謝してる。
聖(セイ)のおかげで元通りになったFlower。
いや・・・違うか。
前よりも、さらにバージョンアップしたFlower。
ステージまであと、5日!!
死に物狂いで頑張るぞ!!
 
「おぉー!!」
 
とこぶしを振り上げた私に、
 
「いきなり、やる気出すなよ。」
 
とビビリながら呆れる生槻(ナツキ)の腕を、私はつかむ。
 
「ホラ、生槻(ナツキ)も一緒に!!」
 
そして、薄暗くなった廊下を歩きながら、二人で叫びまくってた。
 
 
☆☆☆3章 END☆☆☆
 
 


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