湖を渡る風が日差しの暑さと反比例して涼しさを演出していたデュナン湖の畔に、聞きようによっては絶叫と取れる声が響き渡っていた。
それは、声の主を含める一行がもう直ぐ根城としている城へと帰る途中、そこかしこに生息するムササビに耐え、ターゲットレディやカズラーに耐えに耐えた後の事。
「嘘だーッ!絶対信じらねぇッッ!」
ご自慢の金髪を短くしている声の主・シーナは、それでもその短い髪を振り乱す様に未だ叫ぶ。
「…何が?」
「―――…」
そんなシーナに突っ込む事も飽きた様に答えるのは、今回、戦闘要員の中では唯一の女の子ナナミだ。そのナナミの義弟で、彼等の所属するアルカディア軍の軍主カイは、既に声を出す事さえ諦めているらしく、視線だけでウザイとシーナを見返していた。
「だってッ!このふらふらしているオッサンに嫁さんが居るって事だけでも詐欺なのにッッ!!その嫁さんが…嫁さんが…こんな可愛いって…こんな美少女って…俺は絶対に信じないッッ!」
叫びながら眼に涙を溜めて、シーナがビッっと指差す先にはこげ茶色のマントにその逞しい体躯をすっぽりと覆われている一人の男と、その後ろをついて来る一人の女性。
それは、シーナの祖国、トラン共和国…元は赤月帝国と言ったが…を、始めに世界各地でその二つ名を知らないとまで言われる『二太刀いらず』とまで呼ばれた男・ゲオルグ・プライムその人と、月の光の化身の儚さを具現化したかの様な元ファレナの王族の姫君ファルシールの二人だ。
「…おいおい…だから説明しただろう?こいつはちゃんと俺の嫁だって…何回説明すれば解ってくれるんだ?坊主」
流石に何度目か数えるのも呆れる程、同じ事を言われ続けたゲオルグが左手で額を押さえたまま眉間に皺を寄せて疲れた様に答えた。
そのゲオルグの何度目か解らない答えに、同行している一同も無言で頷く。
「だいたいねぇ…お腹がこれだけ大きい妊婦さんを前に煩いわよシーナは…ほら、ファルさんも困ってるじゃない」
「ったく…ゲオルグに嫁さんが居たって別に驚く程の事じゃないだろう?
それならお前がトラン共和国の大統領の息子って事の方がよっぽど真実味がねぇぞ、シーナ」
ナナミと、パーティの一員ビクトールに呆れられてシーナは思わず口を噤む。が、それでも余程その事実が納得出来ないのか、彼は未だ『信じられない、悪夢だ!』と繰り返している。事、女絡みの場合、何故か変な部分で拘るこの性格をもう少し他に持っていけば…と、此処にいる誰もが考えた事はこの際、伏せておく事にする。
「まぁ…坊主の言いたい事も解らんでは無いんだが…」
「って言うか…アンタまで其処でそう言うなって…」
思わず漏れたゲオルグの呟きに、青雷と呼ばれる雷使いで青い服大好きの剣士・フリックが脱力した様に突っ込んだ。
確かにシーナの言い分は、バナーの村でゲオルグにファルシールを妻だと紹介された時に誰もが考えた事ではある。それでも、バナーの村からの船の中と、ラダトの町から此処まで歩いて来た過程で、皆が言葉を無くす程のラブラブっぷりを見せ付けられれば嫌でも信じない訳にはいかない…取り敢えずは、『妻』とか『夫婦』とか言う話が本当かどうかは別にしても。
『詐欺って言いたくなる気持ちも解らなくはないんだけど、それより…ゲオルグさんって…ロリコンだったんだな』
パーティメンバーが、喧々諤々と騒いでいる最中にそんな事を考えていたカイだった。
彼等の目指す本拠地は、後、もう少し。そんな場所での事だった。
――――――――――――――――――――
書き直す気力も無く、日記掲載の小話をそのまま移行。
幻水でもダメダメ君っぷりをモロ発揮…orz
|