入院して2日後の10月18日、午前10時50分。第1回目の薬物療法(抗ガン剤)の点滴を開始する。2日前に行った血液検査で、骨髄のほうの組織に少し異常があったとかで、この点を内科医数人で再度よく検討してから薬の量と種類を決めるということだったが、結局予定通りのものに落ち着いたようだ。いよいよ天下分け目の関ヶ原である。心して体内に「気」を送り込む。
最初に「吐き気止」め、そして「アドリアシン」 40ミリリットルを30分くらいで入れる。次に、「ブレオマイシン」と「ビンクリスティン」を静注。そして最後に、「ダカルバジン」を、2.5時間かけて点滴。入院前に、医学書やインターネットのHPで調べた、この薬による副作用の症状のひとつひとつが脳裏をよぎる。自分にもこれらの副作用の苦しみが必ずくるのだろうか?・・・そんないい知れぬ不安と緊張感が走っていた。途中でお昼になったので、起きあがって針をつけたまま食事を済ませた。
*昼食 (飯、焼き魚、大根、椎茸、ハム、しらたきの温野菜、みそ汁)
そうこうするうちに、比較的静かに、午後2時に、点滴はすべて終了した。所要時間、3時間10分である。その間、はじめてという緊張感と不慣れで、腕を動かすのも怖くて、ず〜っと時計だけを見ながら無心状態で過ごした。しかし、身体に別段これといった変調はない。このままあと数時間、いや、ずーっと何もなければいいのだが・・・
使った「抗ガン剤」と、予想される「副作用」は下記のとおりである。
前項の「入院」のところで、ステージの説明をしたが、私の場合は、複数の病変(第3ステージ)のため、薬物療法が行われた。なかでも「悪性リンパ腫・ホジキン病」に有効とされている「ABVD療法}が採用される。
★ 私の時は、「ダカルバジン」がまだ厚生労働省の認可がおりていなかったので、「治験」という形で使用された。現在は認可されて、保険が利くようになった。
* 抗ガン剤 *
A・・・ドキソルビシン(アドリアシン) 40r(点滴)
B・・・ブレオマイシン(ブレオR) 15r(静注)
V・・・ビンクリスチン(エクザールR) 10r(静注)
D・・・ダカルバジン(ダカルバジンR)600r(点滴)
* 副作用 *
A・・・(血球の減少、血小板減少、貧血、嘔吐、脱毛
B・・・灰毒症、悪心、嘔吐、発熱など・・
V・・・神経傷害、脱毛など
D・・・骨髄機能抑制、肺静脈血栓、吐き気、肝傷害
第1回目の薬物療法(抗ガン剤)を終わって、2,3時間たった5時頃に、教科書通りの副作用が出た。
身体が妙にだるくなり、熱っぽくなる。「おや、おかしいぞ?やっぱり副作用がでてきたのかな?」「ひとつ熱でも計ってみるか」と、体温計をとって腕に挟む。
37度2分。しかし身体はぽかぽかとま上がる気配を感じて「やれやれ・・・」とため息をつく。この分だと、熱は夜中になってもうすこし上がるかもしれない。それでも、嫌だった吐き気のほうはあまり起こらず助かったと思いながら、ゆっくりと夕食を摂っる。
* 夕食 (飯、手羽先、キャベツの千切り、わかめのおろし和え、温野菜、牛乳
夕食を済ませて落ち着いてからも、身体が多少熱っぽいのと、胃のあたりが少しもやもやする感じはするが、あまりハッキリした症状は出る気配のない副作用に、「う〜ん、これは毎日飲んでいる高濃度アガリクスの効用大ということなのかな?」という思いが走り、1人腹の中で「やった!やった!」と叫んでいた。今度妻が見舞いに来たときは、早速このことを話して喜ばしてやろうと、晴れ晴れとした気持ちだった。
<白血球と体調のこと>
あとは採血をして、白血球その他の増減から、薬物の効果及び、それに伴った治療の対処法など、今後の方針を決める事になる。細胞は、「癌細胞」「免疫細胞」ともに、抗ガン剤によって殺れる。そのために、いろいろ予測できない副作用が出てくる。吐き気や貧血による目眩、しつこい便秘、高熱などが、同時、或いは交互にやってくる。これは辛い。人によっては極度に体力を消耗する。採血結果による数値が自分の病原菌に対する抵抗力の範囲と免疫力(快復力)の強さを証明することになる。それで、皆が一応にこの数値に一喜一憂するのだろう。だから、採血の度に、それぞれがデーター表とニラメッコしているのでも判る。主だったものを、私個人のデーターであるが参考までに記しておく。・・・ほんの一例で申し訳ないのですが・・・
* 採決結果 *
10月20日 10月27日
KAST(肝機能) 26KU(5〜35) 21U
LDH(乳酸脱水素酵素) 202IU (250) 132
UN(腎機能) 41r(8〜20) 14
WBC(白血球) 4890(4000〜9000) 1510
RBC (赤血球) 486(400〜550) 440
HGB(血色素量) 14.7(15.2) 13.3
PLT(血小板数) 6.9(8.3) 14.2
(括弧内の数値は正常値)
10月19日(木)
胸のむかつきは消えたが、身体の熱っぽさは消えない。この状態は今日いっぱい続くかも知れない。
*朝食 (飯、みそ汁、さといも煮、小松菜お浸し、納豆)
朝食を食べ終わったと頃には、大分普通の気分が戻ったきた。テレビの気象情報では、この秋一番の冷え込みを告げていた。
担当医のY先生に、外泊許可の様々な条件や、注意事項を聞いた。外泊するには、リンパ球との兼ね合いもあるので、即、許可が下りることはない。血小板の多少にも関係してくるし、少ないと、もし外的ショックを受けて身体に傷をつけた場合、出血が止まらないことも起こりうるからだ。
10月20日(金)
副作用のせいか便秘がおこる。排便したい気はあるのだが出ないのだ。なにかすっきりしないでいらいらする。気分転換の外泊は、したいと思っているので、また話すつもりでいる。7時過ぎに朝食を摂る。
*朝食 (ジャム付きパン、牛乳)
午前10時頃、内科のS先生の回診があった。その後の容態を聞かれたので「副作用もあまりりでないし、外泊をしたい旨を話したが、詳しいことは治療担当のY先生と相談してくれということであった。昼になったが、あまり食欲がない。便秘のせいだと思う。
*昼食 (飯、焼き肉、いんげん、卵のスープ、温野菜、きゅうりの朝漬け)
午後、Y先生に外泊したいことを話し、血小板の関係で、以下の制限で許可が出る。
21日(土)午後4時〜22日(日)午後7時まで。・・・この後8時にちょっぴり排便があった。
10月21日(土)
*朝食 (飯、みそ汁、卵焼き、味噌ピー)
少し胃の当たりがもやもやしていたが、食べたら幾らか落ち着いた。これはやはり副作用のせいなのだろう。10時頃担当医に「外泊願書」を提出する。
*昼食 (飯、すきやき、マカロニ和え)
血小板の6.90は少ないが、気をつければ大丈夫だろう。ごご4時。妻が車で迎えにきてくれた。別段歩いてもなんともない。
10月22日(日)
久しぶりの我が家での1日は最高の気分だ。夕べはよく眠れたし、なおさらである。家族とのコミュニケーションをはかり、今後のことや、世間話をしてストレスを解消し、気分がすっきりした。やはり我が家の居心地はよく、あっ!という間に外泊は終了。夕食は寿司を摂り午後7時に病院へ返る。また明日から闘病生活が始まるので頑張らねばならない。
「抗ガン剤」の点滴をして、2,3日は平常とあまり変わりはない。確かに40度ちかくまで熱が出て、氷枕と解熱剤をもらったことも3,4回あったし、そのたびに肺炎予防の「抗生物質」の注射も打った。しかし、現在までの闘病生活でもっとも悩んだのは、吐き気のつぎには、なんと頑固な「便秘」であったのは以外であった。これにはほとほと参った。便通がまったく無いのである。30分ほど便座に座って頑張ってはみるものの駄目である。そのうちに、下腹はパンパンに張ってくる。したがって、空腹感はあっても、ついつい遠慮をして食べないでいるのは、本人の意志に反しているので大変悔しい。4日も便秘が続くと、体調管理のこともあり、限界に近くなる。細胞破壊は、腸の活動(蠕動)にも言及してくるのだろう。そこで、仕方なく担当医に直訴にあがる。「お願いですが便秘薬を処方してください」・・・と。
座薬が好き(飲み薬より良く効くからだが・・・)な私は、それを夜中に装着し、朝になって便通があるのを期待した。・・・すると、翌朝には案ずるより産むが易しで、案外すっきりと解消するのだ。「う〜ん、助かった。今日はしっつかり食事も摂れるぞ!栄養をつけなきゃあ・・・」 と、嬉しくなり周りに盛んに愛嬌をふりまいて歩く。人間やっぱり食べなければ元気は出ない。癌を患っている者は尚更だ。
ところで、血液検査の結果であるが・・・
1週間もすると、前述の数値でも判るように、白血球がぐ〜んと減ってくる。
これは抗ガン剤が効いている証拠なのだが、貧血気味になってフラフラしてくるのもこの頃だ。寝た状態から起きあがったときに、フワーッとしてくらくらとくる。歩いてもふわついている。まるで酔っぱらいである。かなりの数の細胞が死んだからだろう。そう、大切な善玉(キラー細胞)も。だから、いま風邪を引いたり、熱を出して肺炎でもおこしたら、命取りになりかねない。すぐに病原菌に感染する抵抗力のない身体だからだ。
マスクをし、手を洗い、うがいをする。これを頻繁にやる。あまり外気にもあたれない。人混みの中、たとえば、検査で外来患者の大勢みえている待合室やロビー、そして売店等に行くことも怖々の状態となる。これは、病棟の患者が皆そうなのだ。廊下を白マスクをして歩いている患者は、何らかで具合が悪いか、極端な潔癖症か、神経質な人である。・・・というわけで、患者としての私は「採血結果」に一喜一憂する。・・・というより、これより他に手っ取り早く身体の状態を判断する術がないのだ。次回はどうだろう?・・・と。自分の身の心配をすぐはじめてしまう。悲しいことだ。まさに「抗ガン剤」と自分の精神とが葛藤して交錯し、火花を散らすとでも云うのだろうか。
*白血球数は多くても少なくてもいけない*
<白血球が多い場合>
(イ) 身体のなかに害になる細菌が入ってきたとき
(ロ)白血球などの癌で骨髄が異常増殖をおこしたとき
白血球が20000個以上と多い場合は、白血病や敗血症の可能性がある。慢性白血病では10万個以上になることもある。この場合はとりあえず、再検査で測定して、3000〜10000個でほかの検査でも異常がなければ心配ない。
<白血球が少ない場合>
3000個以下になると、身体の防御反応が低下して病原体に感染しやすくなる。1000個以下だと、すぐ無菌室などの部屋へ入らないと、敗血症になってしまう。そして、骨髄検査をおこなって原因となる病気の診断をしてもらわねばならない。
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