――― 「国土交通省『建設業法令遵守ガイドライン』」関連 ―――
海野和夫
◎ 「建設業法令遵守ガイドライン」に違反する書面によらない契約と施工
以下は、聞き取りに基づいて把握した最新の事例です。
すべて匿名にしました。
関連部分のみ載せました。
2006年11月半ば A社(社長)から「仕事があるから現場を見に来てくれ」とK社(社長)は言われた。
公共工事だった。
K社(社長)が現場を見に行くと、A社(社長)、D社(部長)、W社(2人)が来ていた。
W社がこの現場の元請、D社が1次下請、A社が2次下請という構造。
「解体と足場位ならできる」とK社(社長)は返事した。3次下請になるわけだ。
2006年12月 「とりあえず解体から始めてくれ」とA社(社長)からK社(社長)は言われた。
2006年12月11日〜 K社は解体を始めた。(ヘドロの掃除、現場の仮囲い、足場等々)
書面による契約ではなかった。
何も決まっていなかった。
A社は、書面による契約を交わすことなく、K社に仕事を行わせた。
「書面による契約ではなかった」、「何も決まっていなかった」、「書面による契約を交わすことなく、仕事を行わせた」これだけで既に三つ、建設業法に違反する。
元請のW社は、下請が建設業法を遵守するよう下請を的確に指導していなかった。これは、建設業法24条6項に違反する。
(下請負人に対する特定建設業者の指導等)
建設業法第24条の6 発注者から直接建設工事を請け負った特定建設業者は、当該建設工事の下請負人が、その下請負に係る建設工事の施工に関し、この法律の規定又は建設工事の施工若しくは建設工事に従事する労働者の使用に関する法令の規定で政令で定めるものに違反しないよう、当該下請負人の指導に努めるものとする。
2 前項の特定建設業者は、その請け負った建設工事の下請負人である建設業を営む者が同項に規定する規定に違反していると認めたときは、当該建設業を営む者に対し、当該違反している事実を指摘して、その是正を求めるように努めるものとする。
3 第1項の特定建設業者が前項の規定により是正を求めた場合において、当該建設業を営む者が当該違反している事実を是正しないときは、同項の特定建設業者は、当該建設業を営む者が建設業者であるときはその許可をした国土交通大臣若しくは都道府県知事又は営業としてその建設工事の行われる区域を管轄する都道府県知事に、その他の建設業を営む者であるときはその建設工事の現場を管轄する都道府県知事に、速やかに、その旨を通報しなければならない。
K社は本体の解体を2006年中に終了した。
(以下、省略します)
◎ ──── 建設業法令遵守ガイドラインについて(まとめ版) ────
(国土交通省が建設業法令遵守ガイドラインを出しました。率直に言って、なかみは、『建設業法解説』(大成出版社)等従来から明らかにされているものを超えるものではありませんが、不当に低い請負代金、指値発注、「やり直し工事」トラブル、赤伝処理、支払保留等々、元請による問題行為が横行し、建設業法違反があとを絶たない建設現場に建設業法を周知徹底させ、元請による問題行為を法的に規制し、下請保護につなげていくという趣旨では、一定の有効性があると考え、以下にその要点を紹介します──海野)
1 全国建設業協会の文書
建設業法令遵守ガイドラインについて
このたび、国土交通省総合政策局建設業課長より、元請・下請間における公正・透明な取引の実現を図ることを目的として、建設業法違反となる具体的な事例を示した標記ガイドラインが取りまとめられ、本会に対し周知方依頼がありました。
つきましては、貴協会傘下会員に対し、同ガイドラインの策定の趣旨をご理解いただき、元請・下請の関係における法令違反行為の防止のため特段のご指導をいただきますよう、よろしくお願い申し上げます。
また、同ガイドラインは、本年4月に各地方整備局に発足した建設業法令遵守推進本部の指針に位置付け、内容についても今後、充実を図ってゆくこととされておりますので、本ガイドラインについてご意見等があれば、国土交通省総合政策局建設業課 建設業法令遵守ガイドライン担当までお寄せくださいますよう申し添えます。
平成19年7月6日
社団法人全国建設業協会会長発
各都道府県建設業協会会長宛
2 国土交通省総合政策局建設業課長の文書
国総建第100号
平成19年6月29日
(社)全国建設業協会会長 殿
国土交通省総合政策局建設業課長
建設業法令遵守ガイドラインについて
建設業においては、従来から、適切な施工能力を有しない、いわゆるペーパーカンパニーなどの不良・不適格業者の存在を始め、一括下請負、技術者の不
専任、不適正な元請下請関係等の法令違反が問題となっており、このような状況下で、建設業に対する国民の信頼の回復、建設業の魅力の向上のため、建設業者が法令遵守を徹底することが求められております。
既に、一括下請負、技術者の不専任については「一括下請負の禁止について」及び「監理技術者制度運用マニュアルについて」が定められているところですが、不当に低い請負代金、指値発注、赤伝処理等の不適正な元請下請関係については、どのような行為が法令に違反するかを示した通達等が定められておらず、違法であるという認識のないまま法令違反行為が繰り返されている可能性があります。
「建設業法令遵守ガイドライン─元請負人と下請負人の関係に係る留意点─」は、元請負人と下請負人との関係に関して、どのような行為が建設業法に違反するかを具体的に示すことにより、法律の不知による法令違反行為を防ぎ、元請負人と下請負人との対等な関係の構築及び公正かつ透明な取引の実現を図ることを目的として策定したものです。
貴会におかれましては、本ガイドラインの策定の趣旨及び内容を了知の上、傘下の建設業者に対しこの旨の周知徹底方よろしくお願いするとともに、引き続き建設業者の法令遵守の推進が図られますよう指導方併せてお願いします。
なお、本ガイドラインについては、今後、内容の充実を図っていくこととしますので、本ガイドラインにご意見等がありましたら下記にご連絡下さいますようよろしくお願いします。
記
1.ガイドラインのホームページ掲載URL
http://www.mlit.go.jp/kisha/kisha07/01/010702_.html
2.ガイドラインに対するご意見等の送付先
電子メールアドレス:kengyo@mlit.go.jp
国土交通省総合政策局建設業課 建設業法令遵守ガイドライン担当 宛
※ 電子メールはテキスト形式でお願いします
3 建設業法令遵守ガイドラインの要点
1 見積条件の提示(建設業法第20条第3項)
【建設業法上違反となるおそれがある行為事例】
@ 元請負人が不明確な工事内容の提示等、曖昧な見積条件により下請負人に見積りを行わせた場合
A 元請負人が下請負人から工事内容等の見積条件に関する質問を受けた際、元請負人が、未回答あるいは曖昧な回答をした場合
【建設業法上違反となる行為事例】
B 元請負人が予定価格が700万円の下請契約を締結する際、見積期間を3日として下請負人に見積りを行わせた場合
○ 「工事内容」に関し、元請負人が最低限明示すべき事項としては、
@ 工事名称
A 施工場所
B 設計図書(数量等を含む)
C 下請工事の責任施工範囲
D 下請工事の工程及び下請工事を含む工事の全体工程
E 見積条件及び他工種との関係部位、特殊部分に関する事項
F 施工環境、施工制約に関する事項
G 材料費、産業廃棄物処理等に係る元請下請間の費用負担区分に関する事項
があげられ、元請負人は、具体的内容が確定していない事項についてはその旨を明確に示さなければならない。
施工条件が確定していないなどの正当な理由がないにもかかわらず、元請負人が、下請負人に対して、契約までの間に上記事項等に関し具体的な内容を提示しない場合には、建設業法第20条第3項に違反する。
○ 予定価格の額に応じて一定の見積期間を設けることが必要
建設業法第20条第3項により、元請負人は以下のとおり下請負人が見積りを行うために必要な一定の期間を設けなければならない。
ア 工事1件の予定価格が500万円に満たない工事については、1日以上
イ 工事1件の予定価格が500万円以上5000万円に満たない工事については、10日以上
ウ 工事1件の予定価格が5000万円以上の工事については、15日以上
上記期間は、下請負人に対する契約内容の提示から当該契約の締結までの間に設けなければならない期間である。
ただし、やむを得ない事情があるときは、イ及びウの期間は、5日以内に限り短縮することができる。
(建設工事の見積り等)
建設業法第20条 建設業者は、建設工事の請負契約を締結するに際して、工事内容に応じ、工事の種別ごとに材料費、労務費その他の経費の内訳を明らかにして、建設工事の見積りを行うよう努めなければならない。
2 建設業者は、建設工事の注文者から請求があったときは、請負契約が成立するまでの間に、建設工事の見積書を提示しなければならない。
3 建設工事の注文者は、請負契約の方法が随意契約による場合にあっては契約を締結する以前に、入札の方法により競争に付する場合にあっては入札を行う以前に、第19条第1項第1号及び第3号から第14号までに掲げる事項について、できる限り具体的な内容を提示し、かつ、当該提示から当該契約の締結又は入札までに、建設業者が当該建設工事の見積りをするために必要な政令で定める一定の期間を設けなければならない。
(たとえば、大林組の現場では、以前は一定の交渉を経て請負金額が決められていたのだが、いまは指値で決められている、と言われています。見積期間を設けていない指値は、一定の見積期間を設けなければならないと定めている上記の建設業法20条3項に違反しています――海野)
2 書面による契約締結
2−1 当初契約(建設業法第18条、第19条第1項、第19条の3)
【建設業法上違反となる行為事例】
@下請工事に関し、書面による契約を行わなかった場合
A下請工事に関し、建設業法第19条第1項の必要記載事項を満たさない契約書面を交付した場合
B元請負人からの指示に従い下請負人が書面による請負契約の締結前に工事に着手し、工事の施工途中又は工事終了後に契約書面を相互に交付した場合
上記@からBのケースは、いずれも建設業法第19条第1項に違反する。
(1)契約は下請工事の着工前に書面により行うことが必要
(2)契約書面には建設業法で定める一定の事項を記載することが必要
契約書面に記載しなければならない事項は、以下の@〜Mの事項である。
@ 工事内容
A 請負代金の額
B 工事着手の時期及び工事完成の時期
C 請負代金の全部又は一部の前金払又は出来形部分に対する支払の定めをするときは、その支払の時期及び方法
D 当事者の一方から設計変更又は工事着手の延期若しくは工事の全部若しくは一部の中止の申出があった場合における工期の変更、請負代金の額の変更又は損害の負担及びそれらの額の算定方法に関する定め
E 天災その他不可抗力による工期の変更又は損害の負担及びその額の算定方法に関する定め
F 価格等の変動若しくは変更に基づく請負代金の額又は工事内容の変更
G 工事の施工により第三者が損害を受けた場合における賠償金の負担に関する定め
H 注文者が工事に使用する資材を提供し、又は建設機械その他の機械を貸与するときは、その内容及び方法に関する定め
I 注文者が工事の全部又は一部の完成を確認するための検査の時期及び方法並びに引渡しの時期
J 工事完成後における請負代金の支払の時期及び方法
K 工事の目的物の瑕疵を担保すべき責任又は当該責任の履行に関して講ずべき保証保険契約の締結その他の措置に関する定めをするときは、その内容
L 各当事者の履行の遅滞その他債務の不履行の場合における遅延利息、違約金その他の損害金
M 契約に関する紛争の解決方法
(3)電子契約によることも可能
書面契約に代えて、電子契約も認められる。
(4)建設工事標準下請契約約款又はこれに準拠した内容を持つ契約書による
契約が基本
建設業法第18条では、「建設工事の請負契約の当事者は、各々の対等な立場
における合意に基づいて公正な契約を締結し、信義に従って誠実にこれを履行しなければならない」と規定している。建設工事の下請契約の締結に当たっては、同条の趣旨を踏まえ、建設工事標準下請契約約款又はこれに準拠した内容を持つ契約書による契約を締結することが基本である。
2−2 追加・変更契約(建設業法第19条第2項、第19条の3)
【建設業法上違反となる行為事例】
@下請工事に関し追加工事又は変更工事(以下「追加工事等」という)が発生したが、元請負人が書面による変更契約を行わなかった場合
A下請工事に係る追加工事等について、工事に着手した後又は工事が終了した後に書面により契約変更を行った場合
B下請負人に対して追加工事等の施工を指示した元請負人が、発注者との契約変更手続が未了であることを理由として、下請契約の変更に応じなかった場合
上記@からBのケースは、いずれも建設業法第19条第2項に違反するほか、必要な増額を行わなかった場合には同法第19条の3に違反するおそれがある。
○ 元請負人が合理的な理由なく下請工事の契約変更を行わない場合は建設業法に違反
追加工事等が発生しているにもかかわらず、例えば、元請負人が発注者との間で追加・変更契約を締結していないことを理由として、下請負人からの追加・変更契約の申出に応じない行為等、元請負人が合理的な理由もなく一方的に変更契約を行わない行為については、建設業法第19条第2項に違反する。
○ 追加工事等の費用を下請負人に負担させることは、建設業法第19条の3に違反するおそれ
追加工事等を下請負人の負担により施工させたことにより、下請代金の額が当初契約工事及び追加工事等を施工するために「通常必要と認められる原価」に満たない金額となる場合には、当該元請下請間の取引依存度等の状況によっては、建設業法第19条の3の不当に低い請負代金の禁止に違反するおそれがある。(力関係等で元請が「原価を割るような金額」で「追加工事・変更工事を下請負人の負担により施工」させることは、下請負人に押し付けることは、建設業法違反となる、ということです──海野)
3 不当に低い請負代金(建設業法第19条の3)
【建設業法上違反となるおそれがある行為事例】
@元請負人が、自らの予算額のみを基準として、下請負人との協議を行うことなく、下請負人による見積額を大幅に下回る額で下請契約を締結した場合
A元請負人が、契約を締結しない場合には今後の取引において不利な取扱いをする可能性がある旨を示唆して、下請負人との従来の取引価格を大幅に下回る額で、下請契約を締結した場合
B元請負人が、下請代金の増額に応じることなく、下請負人に対し追加工事を施工させた場合
C元請負人が、契約後に、取り決めた代金を一方的に減額した場合
上記@からCのケースは、いずれも建設業法第19条の3に違反するおそれがある。(この@からCは、建設現場で多発し、あとを絶たない事例です──海野)
(1)「不当に低い請負代金の禁止」の定義
建設業法第19条の3の「不当に低い請負代金の禁止」とは「注文者が、自己の取引上の地位を不当に利用して、その注文した建設工事を施工するために通常必要と認められる原価に満たない金額を請負代金の額とする請負契約を請負人と締結すること」である。
(2)「自己の取引上の地位の不当利用」とは、取引上優越的な地位にある元請負人が、下請負人を経済的に不当に圧迫するような取引等を強いること
建設業法第19条の3の「自己の取引上の地位を不当に利用して」とは、取引上優越的な地位にある元請負人が、下請負人の指名権、選択権等を背景に、下請負人を経済的に不当に圧迫するような取引等を強いることをいう。
(3)「通常必要と認められる原価」とは、工事を施工するために一般的に必要と認められる価格
建設業法第19条の3の「通常必要と認められる原価」とは、当該工事の施工地域において当該工事を施工するために一般的に必要と認められる価格(直接工事費、共通仮設費及び現場管理費よりなる間接工事費、一般管理費(利潤相当額は含まない)の合計額)をいい、具体的には、下請負人の実行予算や下請負人による再下請先、資材業者等との取引状況、さらには当該地域の施工区域における同種工事の請負代金額の実例等により判断することとなる。
(4)建設業法第19条の3は契約変更にも適用
建設業法第19条の3により禁止される行為は、当初契約の締結に際して、不当に低い請負代金を強制することに限られず、契約締結後元請負人が原価の上昇を伴うような工事内容の変更をしたのに、それに見合った下請代金の増額を行わないことや、一方的に下請代金を減額することにより原価を下回ることも含まれる。
4 指値発注(建設業法第18条、第19条第1項、第19条の3、第20条第3項)
【建設業法上違反となるおそれがある行為事例】
@元請負人が自らの予算額のみを基準として、下請負人との協議を行うことなく、一方的に下請代金の額を決定し、その額で下請契約を締結した場合
A元請負人が合理的根拠がないのにもかかわらず、下請負人による見積額を著しく下回る額で下請代金の額を一方的に決定し、その額で下請契約を締結した場合
【建設業法上違反となる行為事例】
B元請下請間で請負代金の額に関する合意が得られていない段階で、下請負人に工事を着手させ、工事の施工途中又は工事終了後に元請負人が下請負人との協議に応じることなく下請代金の額を一方的に決定し、その額で下請契約を締結した場合
C元請負人が、下請負人が見積りを行うための期間を設けることなく、自らの予算額を下請負人に提示し、下請契約締結の判断をその場で行わせ、その額で下請契約を締結した場合
上記@からCのケースは、いずれも建設業法第19条の3に違反するおそれがあり、また、Bのケースは同法第19条第1項に違反し、Cのケースは同法第20条第3項に違反する。
元請負人が下請負人との請負契約を交わす際、下請負人と十分な協議をせず又は下請負人の協議に応じることなく、元請負人が一方的に決めた請負代金の額を下請負人に提示(指値)し、その額で下請負人に契約を締結させる、指値発注は、建設業法第18条の建設工事の請負契約の原則(各々の対等な立場における合意に基づいて公正な契約を締結する)を没却するものである。
○ 指値発注は建設業法に違反するおそれ
指値発注は、元請負人としての地位の不当利用に当たるものと考えられ、下請代金の額がその工事を施工するために「通常必要と認められる原価」に満たない金額となる場合には、当該元請下請間の取引依存度等の状況によっては、建設業法第19条の3の不当に低い請負代金の禁止に違反するおそれがある。
また、下請負人が元請負人が指値した額で下請契約を締結するか否かを判断する期間を与えることなく、回答を求める行為については、建設業法第20条第3項の見積りを行うための一定期間の確保に違反する。
(たとえば、ビッグゼネコンの大林組の現場では、以前は一定の交渉を経て請負金額を決めていたが、いまは指値で決めている、と言われています。事実とすれば、建設業法違反となり、同社のコンプライアンス(法令遵守)宣言からみてどうなのでしょうか――海野)
(以下のところでは、「やり直し工事」トラブル、一方的な赤伝処理、支払保留等、建設現場に横行する元請等による問題行為について、その違法性の法的根拠を明らかにしています──海野)
5 不当な使用材料等の購入強制(建設業法第19条の4)
【建設業法上違反となるおそれがある行為事例】
@下請契約の締結後に、元請負人が下請負人に対して、下請工事に使用する資材又は機械器具等を指定、あるいはその購入先を指定した結果、下請負人は予定していた購入価格より高い価格で資材等を購入することとなった場合
A下請契約の締結後、元請負人が指定した資材等を購入させたことにより、下請負人が既に購入していた資材等を返却せざるを得なくなり金銭面及び信用面における損害を受け、その結果、従来から継続的取引関係にあった販売店との取引関係が悪化した場合
6 やり直し工事(建設業法第18条、第19条第2項、第19条の3)
【建設業法上違反となるおそれがある行為事例】
元請負人が、元請負人と下請負人の責任及び費用負担を明確にしないままやり直し工事を下請負人に行わせ、その費用を一方的に下請負人に負担させた場合
上記のケースは、建設業法第19条第2項、第19条の3に違反するおそれがあるほか、同法第28条第1項第2号に該当するおそれがある。
(1)やり直し工事を下請負人に依頼する場合は、やり直し工事が下請負人の
責めに帰すべき場合を除き、その費用は元請負人が負担することが必要
(2)下請負人の責めに帰さないやり直し工事を下請負人に依頼する場合は、
契約変更が必要
下請負人の責めに帰すべき理由がないのに、下請工事の施工後に、元請負人が下請負人に対して工事のやり直しを依頼する場合にあっては、元請負人は速やかに当該工事に必要となる費用について元請下請間で十分に協議した上で、契約変更を行う必要があり、元請負人が、このような契約変更を行わず、当該やり直し工事を下請負人に施工させた場合には、建設業法第19条第2項に違反する。
(3)下請負人の一方的な費用負担は建設業法に違反するおそれ
下請負人の責めに帰すべき理由がないのに、その費用を一方的に下請負人に負担させるやり直し工事によって、下請代金の額が、当初契約工事及びやり直し工事を施工するために「通常必要と認められる原価」に満たない金額となる場合には、元請下請間の取引依存度等によっては、建設業法第19条の3の不当に低い請負代金の禁止に違反するおそれがある。
また、上記建設業法第19条第2項及び第19条の3違反に該当しない場合であっても、やり直し工事により、元請負人が下請負人の利益を不当に害した場合には、その情状によっては、建設業法第28条第1項第2号の請負契約に関する不誠実な行為に該当するおそれがある。
(4)下請負人の責めに帰すべき理由がある場合とは、下請負人の施工が契約
書面に明示された内容と異なる場合又は下請負人の施工に瑕疵等がある場合
○ 次の場合には、元請負人が費用の全額を負担することなく、下請負人の施工が契約書面と異なること又は瑕疵等があることを理由としてやり直しを要請することは認められない。
ア 下請負人から施工内容等を明確にするよう求めがあったにもかかわらず、元請負人が正当な理由なく施工内容等を明確にせず、下請負人に継続して作業を行わせ、その後、下請工事の内容が契約内容と異なるとする場合
イ 施工内容について下請負人が確認を求め、元請負人が了承した内容に基づき下請負人が施工したにもかかわらず、下請工事の内容が契約内容と異なるとする場合
7 赤伝処理(建設業法第18条、第19条、第19条の3、第20条第3項)
【建設業法上違反となるおそれがある行為事例】
@元請負人が、下請負人と合意することなく、下請工事の施工に伴い副次的に発生した建設廃棄物の処理費用等を下請負人に負担させ、下請代金から差し引く場合
A元請負人が、建設廃棄物の発生がない下請工事の下請負人から、建設廃棄物の処理費用との名目で、一定額を下請代金から差し引く場合
B元請負人が元請負人の販売促進名目の協力費等差し引く根拠が不明確な費用を下請代金から差し引く場合
C元請負人が、工事のために自らが確保した駐車場、宿舎を下請負人に使用させる場合に、その使用料として実際にかかる費用より過大な金額を差し引く場合
D元請負人が、元請負人と下請負人の責任及び費用負担を明確にしないままやり直し工事を別の専門工事業者に行わせ、その費用を一方的に下請代金から減額することにより下請負人に負担させた場合
上記@からDのケースは、いずれも建設業法第19条の3に違反するおそれがあるほか、同法第28条第1項第2号に該当するおそれがある。
赤伝処理とは、元請負人が
@ 下請代金の支払に関して発生する諸費用(下請代金の振り込み手数料等)
A 下請工事の施工に伴い副次的に発生する建設廃棄物の処理費用
B 上記以外の諸費用(駐車場代、弁当ごみ等のごみ処理費用、安全協力会費等)を下請代金の支払時に差引く(相殺する)行為である。
(1)赤伝処理を行う場合は、元請負人と下請負人双方の協議・合意が必要
(2)赤伝処理を行う場合は、その内容を見積条件・契約書面に明示すること
が必要
(3)適正な手続に基づかない赤伝処理は建設業法に違反するおそれ
赤伝処理として、元請負人と下請負人双方の協議・合意がないまま元請負人が一方的に諸費用を下請代金から差引く行為や下請負人との合意はあるものの、差引く根拠が不明確な諸費用を下請代金から差引く行為又は実際に要した諸費用(実費)より過大な費用を下請代金から差引く行為等は、建設業法第18条の建設工事の請負契約の原則(各々の対等な立場における合意に基づいて公正な契約を締結する)を没却することとなるため、元請負人の一方的な赤伝処理については、その情状によっては、建設業法第28条第1項第2号の請負契約に関する不誠実な行為に該当するおそれがある。
8 支払保留(建設業法第24条の3、第24条の5)
【建設業法上違反となるおそれがある行為事例】
@下請契約に基づく工事目的物が完成し、元請負人の検査及び元請負人への引渡し終了後、元請負人が下請負人に対し、長期間にわたり保留金として下請代金の一部を支払わない場合
A建設工事の前工程である基礎工事、土工事、鉄筋工事等について、それぞれの工事が完成し、元請負人の検査及び引渡しを終了したが、元請負人が下請負人に対し、工事全体が終了(発注者への完成引渡しが終了)するまでの長期間にわたり保留金として下請代金の一部を支払わない場合
B工事全体が終了したにもかかわらず、元請負人が他の工事現場まで保留金を持ち越した場合
○ 正当な理由がない長期支払保留は建設業法に違反
工事が完成し、元請負人の検査及び引渡しが終了後、正当な理由がなく様々な名目(瑕疵担保や発注者からの工事代金の支払がない等)で長期間にわたり保留金として下請代金の一部を支払わないことは、建設業法第24条の3又は同法第24条の5に違反する。
9 帳簿の備付け及び保存(建設業法第40条の3)
【建設業法上違反となる行為事例】
@建設業を営む営業所に帳簿及び添付書類が備付けられていなかった場合
A帳簿及び添付書類は備付けられていたが、5年間保存されていなかった場合
上記@及びAのケースは、いずれも建設業法第40条の3に違反する。
(1)営業所ごとに、帳簿を備え、5年間保存することが必要
(2)帳簿には、営業所の代表者の氏名、請負契約・下請契約に関する事項な
どを記載することが必要
帳簿に記載する事項は以下のとおりである。
@ 営業所の代表者の氏名及びその者が営業所の代表者となった年月日
A 注文者と締結した建設工事の請負契約に関する事項
B 下請負人と締結した下請契約に関する事項
C 特定建設業者が注文者となって資本金4000万円未満の法人又は個人である一般建設業者と下請契約を締結したときは、上記の記載事項に加え、以下の事項
・支払った下請代金の額、支払年月日及び支払手段
・支払手形を交付したとき…その手形の金額、交付年月日、手形の満期
・代金の一部を支払ったとき…その後の下請代金の支払残高
(3)帳簿には契約書などを添付することが必要
帳簿には、契約書若しくはその写し又はその契約に関する電磁的記録を添付しなければならない。
また、以下の場合にはこれらの書類に加え、次のそれぞれの書類を添付する。
ア 特定建設業者が元請負人となって資本金4000万円未満の法人又は個人である一般建設業者と下請契約を締結した場合は、下請負人に支払った下請代金の額、支払年月日及び支払手段を証明する書類(領収書等)又はその写しを添付
イ 特定建設業者が元請工事について、3000万円(建築一式工事の場合4500万円。1次下請負人への下請代金の総額で判断。)以上の下請契約を締結した場合は、工事完成後に施工体制台帳のうち以下に掲げる事項が記載された部分を添付
・自社が実際に工事現場に置いた監理技術者の氏名及びその有する監理技術者資格
・自社が監理技術者以外に専門技術者を置いたときは、その者の氏名、その者が管理をつかさどる建設工事の内容及びその有する主任技術者資格
・下請負人の商号又は名称及び許可番号
・下請負人に請け負わせた建設工事の内容及び工期
・下請負人が実際に工事現場に置いた主任技術者の氏名及びその有する主任技術者資格
・下請負人が主任技術者以外に専門技術者を置いたときは、その者の氏名、その者が管理をつかさどる建設工事の内容及びその有する主任技術者資格
10 独占禁止法との関係について
建設業法第42条では、国土交通大臣又は都道府県知事は、その許可を受けた建設業者が第19条の3(不当に低い請負代金の禁止、第19条の4(不当な)使用資材等の購入強制の禁止、第24条の3(下請代金の支払)第1項、第24条の4(検査及び引渡し)又は第24条の5(特定建設業者の下請代金の支払期日等)第3項若しくは第4項の規定に違反している事実があり、その事実が私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(「独占禁止法」)第19条の規定に違反していると認めるときは、公正取引委員会に対して措置請求を行うことができると規定している。
(なお、今回の「建設業法令遵守ガイドライン」には、現在建設現場で広がりを見せつつある違法派遣(建設業では禁止されている派遣)の横行、またあとを絶たない一括下請負(丸投げ)についての「ガイドライン」がなく、今後補強すべき課題になっています──海野)
◎ 国土交通省「建設業法令遵守ガイドライン」の問題点と改善の一方向
1 問題点
全建総連関東地協の第47回企業交渉の中では、清水建設の回答と言われている「産廃処理費については、合意の上で下請に負担いただいている。国土交通省『建設業法令遵守ガイドライン』に沿っている」に代表されるように、下請との協議・合意があれば、産廃処理費、駐車場代、赤伝処理、応援手間等々について下請に負担させることが合法であると受け取ることが可能な「建設業法令遵守ガイドライン」の問題点が急浮上し、建設労働運動の眼前に明らかになりました。
「建設業法令遵守ガイドライン」そのものに即して、明白になりつつある問題点を明らかにし、その上で改善の一方向を出したいと考えます。
ガイドラインには「元請負人が、下請負人と合意することなく、下請工事の施工に伴い副次的に発生した建設廃棄物の処理費用を下請負人に負担させ、下請代金から差し引く行為は、建設業法上違反となるおそれがある行為である」と述べられています。これを言い換えると、下請負人との合意があれば、建設廃棄物の処理費用を下請負人に負担させ、下請代金から差し引く行為は、建設業法上違反となるおそれがある行為ではない、ということになります。
また、ガイドラインには「元請負人が、工事のために自らが確保した駐車場を下請負人に使用させる場合に、その使用料として実際にかかる費用より過大な金額を差し引く行為は、建設業法上違反となるおそれがある行為である」という箇所もあります。これも言い換えると、駐車場の確保で実際にかかる費用を駐車場代として下請負人から差し引く行為は、建設業法上違反となるおそれがある行為ではない、ということになります。
ガイドラインも述べているように、赤伝処理とは、元請負人が、@下請代金の支払に関して発生する諸費用(下請代金の振り込み手数料等)、A下請工事の施工に伴い副次的に発生する建設廃棄物の処理費用、B上記(@、A)以外の諸費用(駐車場代、弁当ごみ等のごみ処理費用、安全協力会費等)を下請代金の支払時に差し引く(相殺する)行為です。
ガイドラインは、「赤伝処理を行うこと自体が直ちに建設業法上の問題となることはない」と赤伝処理を合法化しています。その上でガイドラインは「赤伝処理を行うためには、その内容や差し引く根拠等について元請負人と下請負人の協議・合意が必要である」とし、元請・下請の協議、合意があれば、赤伝処理は、建設業法上違反となるおそれがある行為ではない、と受け取ることが可能な説明になっています。
上記の@、Aについては、ガイドラインは、上記@、Aについて赤伝処理を行う場合には、元請負人は、その内容や差し引き額の算定根拠等について、見積条件や契約書面に明示する必要があり、そうでない場合は建設業法に違反する、と述べています。(建設廃棄物の処理費用等の)赤伝処理について違法性をなくすためには、協議、合意だけでなく、見積条件や契約書面への明示が必要だ、ということです。
上記B(駐車場代等)の赤伝処理については、協議、合意だけでOKというわけです。ただ、実際に要した諸費用(実費)より過大な費用を下請代金から差し引く行為は、建設業法上違反となるおそれがある行為である、ということになります。
2 改善の一方向
建設廃棄物の処理費用については、発注者から貰うべきものであり、下請に負担させることは、元請の二重取りになります。
ところが、上記のように、建設業法令遵守ガイドラインには、「下請との協議・合意」、「見積条件・契約書面への明示」があれば、建設廃棄物の処理費用を下請に負担させることは建設業法上違反とはならないかのように受け取ることが可能な説明が行われている箇所があります。
一つには、下請に負担させることは元請の二重取りになるという意味で、もう一つには、「協議・合意」と言っても元請の圧倒的力量という建設現場の力関係の下での「協議・合意」は「強制」、「泣き寝入り」が実態であり、建設廃棄物処理費用については元請負担を明確にすべきだと考えます。
少なくとも「協議、合意を装った押し付けは建設業法違反」とガイドラインに付け加えるべきです。
また、駐車場代の過大な負担が下請に押し付けられているのが、建設現場の実態です。
駐車場代についても、明確に元請負担として、下請保護を明確にすべきだと考えます。私たち全建総連関東地協との企業交渉の中でも、多くの住宅企業が「駐車場代は元請負担」と回答しています。またゼネコンの一部も、たとえば「駐車料金については、場内は下請に請求していないし、場外のときも、5人5台で金をくれと言われても無理だが、1台数人で来れば元請として負担している」と回答しています。
ガイドラインの「実際にかかる費用の全額を下請に負担させても問題ない」と受け取ることが可能な箇所は、上記回答に現れている元請責任での費用負担という正当な流れに逆行するものであり、建設業法が定める元請責任での下請保護に反するものです。
かかる費用については、当然、全額、元請負担とすべきです。
◎ 支払保留の実際事例と建設業法令遵守ガイドラインの関係
支払保留について、B社から相談を受けました。
元請はA社、下請がB社です。
下請B社は、「預託金」の名目で支払保留になっている70万円について、内容証明郵便で支払いを元請A社に求めました。
これに対して、A社の代理人弁護士から「A社と貴社が締結した工事請負基本契約第32条第1項の預託金は、工事目的物に瑕疵があった場合に(工事請負基本契約)第31条により貴社が負うべき瑕疵修補又は損害賠償の責任を担保する趣旨で預託されるものであり、(工事請負基本契約)第32条第2項により、工事請負基本契約が解除になった日から2年後に返還するものと定められています。従いまして、現時点では、預託金の返還義務は生じていません」という趣旨の文書がB社に届きました。
国土交通省「建設業法令遵守ガイドライン」は、支払保留について、以下のように説明しています。
【建設業法上違反となるおそれがある行為事例】
@下請契約に基づく工事目的物が完成し、元請負人の検査及び元請負人への引渡し終了後、元請負人が下請負人に対し、長期間にわたり保留金として下請代金の一部を支払わない場合
A建設工事の前工程である基礎工事、土工事、鉄筋工事等について、それぞれの工事が完成し、元請負人の検査及び引渡しを終了したが、元請負人が下請負人に対し、工事全体が終了(発注者への完成引渡しが終了)するまでの長期間にわたり保留金として下請代金の一部を支払わない場合
B工事全体が終了したにもかかわらず、元請負人が他の工事現場まで保留金を持ち越した場合
○ 正当な理由がない長期支払保留は建設業法に違反
工事が完成し、元請負人の検査及び引渡しが終了後、正当な理由がなく様々な名目(瑕疵担保や発注者からの工事代金の支払がない等)で長期間にわたり保留金として下請代金の一部を支払わないことは、建設業法第24条の3又は同法第24条の5に違反する。
国土交通省「建設業法令遵守ガイドライン」を読む限り、A社とB社の工事請負基本契約の規定は、建設業法違反と考えることができます。
なぜなら、瑕疵担保の名目で長期間にわたり保留金として下請代金の一部を支払わないことを定めている規定だからです。
◎ 国土交通省「建設業法令遵守ガイドライン」について(補強版)
国土交通省が出した「建設業法令遵守(じゅんしゅ)ガイドライン」について、建設現場の元下関係の改善に役立てるために、以下のように整理してみました。
「建設業法令遵守ガイドライン」は、元請がおこなう行為の事例を2種類にわけて、示しています。「建設業法上違反となるおそれがある行為事例」と「建設業法上違反となる行為事例」の2種類です。
ここでも、この2種類にわけて、のせておきます。
1 建設業法上違反となるおそれがある行為事例
○ 元請が不明確な工事内容の提示等、あいまいな見積条件により下請に見積りを行わせた場合(建設業法20条3項に違反するおそれ)
○ 元請が、下請との協議をおこなわないで、下請による見積額を大幅に下回る額で下請契約を締結した場合(建設業法19条の3に違反するおそれ)
○ 元請が、契約を締結しない場合には今後の取引で不利な取り扱いをする可能性がある旨を示唆(しさ)して、下請との従来の取引価格を大幅に下回る額で、下請契約を締結した場合(建設業法19条の3に違反するおそれ)
○ 元請が、下請代金の増額に応じないで、下請に追加工事を施工させた場合(建設業法19条の3に違反するおそれ)
○ 元請が、契約後に、とりきめた代金を一方的に減額した場合(建設業法19条の3に違反するおそれ)
建設業法19条の3 注文者は、自己の取引上の地位を不当に利用して、その注文した建設工事を施工するために通常必要と認められる原価に満たない金額を請負代金の額とする請負契約を締結してはならない。
○ 元請が、下請との協議をおこなわないで、一方的に下請代金の額を決定し、その額で下請契約を締結した場合(指値発注のことです)
○ 元請が、元請と下請の責任及び費用負担を明確にしないままやり直し工事を下請に行わせ、その費用を一方的に下請に負担させた場合
(やり直し工事を下請に施工させる場合は、やり直し工事が下請に責任がある場合を除き、その費用は元請が負担することが必要です)
○ (赤伝処理)元請が、下請と合意することなく、下請工事の施工にともない発生した建設廃棄物の処理費用を下請に負担させ、下請代金から差し引く場合
(建設廃棄物処理費の赤伝処理の場合には、見積条件と契約書への明示が必要です。それが行なわれていないと、建設業法違反となります)
○ (赤伝処理)元請が、工事のために自らが確保した駐車場、宿舎を下請に使用させる場合に、その使用料として実際にかかる費用より過大な金額を差し引く場合
○ (赤伝処理)元請が、元請と下請の責任及び費用負担を明確にしないままやり直し工事を別の専門工事業者に行わせ、その費用を一方的に下請代金から減額することにより下請に負担させた場合
○ 下請契約にもとづく工事目的物が完成し、元請の検査及び元請への引き渡し終了後、元請が下請に対し、長期間にわたり保留金として下請代金の一部を支払わない場合
(工事が完成し、元請の検査及び引き渡しが終了後、正当な理由がなくさまざまな名目(瑕疵担保や発注者からの工事代金の支払がない等)で長期間にわたり保留金として下請代金の一部を支払わないことは、建設業法第24条の3または建設業法第24条の5に違反します)
○ 特定建設業者である元請が、手形期間が120日を超える手形により下請代金の支払を行った場合
2 建設業法上違反となる行為事例
○ 下請工事で、書面による契約を行わなかった場合
建設業法18条 建設工事の請負契約の当事者は、各々の対等な立場における合意に基いて公正な契約を締結し、信義に従って誠実にこれを履行しなければならない。
○ 元請からの指示に従い下請が書面による請負契約の締結前に工事に着手し、工事の施工途中又は工事終了後に(元請が下請に)契約書を交付した場合
(契約書の交付は、下請工事の着工前に行わなければなりません)
○ 下請工事に関し追加工事または変更工事が発生したが、元請が書面による変更契約を行わなかった場合
○ 下請に対して追加工事または変更工事の施工を指示した元請が、発注者との契約変更手続が未了であることを理由として、下請契約の変更に応じなかった場合
(元請が合理的な理由なく下請工事の契約変更を行わない場合は建設業法に違反します。追加工事または変更工事が発生しているにもかかわらず、たとえば、元請が発注者との間で追加・変更契約を締結していないことを理由として、下請からの追加・変更契約の申出に応じない行為等、元請が合理的な理由もなく一方的に変更契約を行わない行為については、建設業法第19条第2項に違反します)
ガイドラインは、前回(第47回目)の全建総連関東地協企業交渉の要望の根拠となり、生かされました。
(以下は、全建総連関東地協企業交渉の要望項目の一部です)
元請・下請取引の適正化、とりわけ公表された「ガイドライン」を踏まえ、お答えください。
○ 公共・民間問わず、元請の低価格受注を下請へしわ寄せするのはやめてください。元請が契約額を提示する場合には、提示額の積算根拠を明らかにしてください。また請負代金の額の合意が得られず契約書面の取り交わしが行われていないのに、下請に工事の施工を求め、その後指値で一方的に決定する行為は違反です。ただちにやめてください。
○ (建設廃棄物処理費を)下請から徴収することは「二重取り」になります。やめてください。
○ 道路交通法改定により、違法駐車の取締りが強化されています。元請の負担で、駐車場を確保してください。また、現場内の駐車料金を徴収しないでください。
○ 元請の「工程管理の悪さ」、「施工図面の不具合」、「監督の指示ミス」などにより「手戻り」が生じた時は、元請負担とし、常用手間として下請に支払ってください。
○ 見積もり依頼時に「施工条件・範囲リスト」を添付して下さい。「施工条件・範囲リスト」の提示がなくトラブルが発生したときは元請責任としてください。また下請にも同様な指導を徹底してください。
(「施工条件・範囲リスト」は、元請・下請間での見積条件を明確化するためにつくられたものです。元請は下請に、施工条件・施工範囲を提示しなければなりません。この施工条件・施工範囲を一覧表にしたものが、「施工条件・範囲リスト」です。「施工条件・範囲リスト」の標準モデルを、建設生産システム合理化推進協議会がつくっています。建設生産システム合理化推進協議会は、ゼネコンと専門工事業者からなる自主的協議機関だとのことです)
○ 適切な契約手続きにもとづかず、元請下請双方の協議がないまま、下請代金から一方的に赤伝等で差し引く(建設廃棄物処理費や安全協力費、敷地内での駐車場費、休憩室使用費など)行為は違法です。ただちにやめてください
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
(参考資料)
「建設業法令遵守ガイドライン」は、建設業法と独占禁止法(私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律)との関係について次のように記述しています。
国土交通大臣または都道府県知事は、建設業者が第19条の3(不当に低い請負代金の禁止)、第19条の4(不当な使用資材等の購入強制の禁止)、第24条の3(下請代金の支払)第1項、第24条の4(検査及び引き渡し)または第24条の5(特定建設業者の下請代金の支払期日等)第3項もしくは第4項の規定に違反している事実があり、その事実が独占禁止法第19条の規定に違反していると認めるときは、公正取引委員会に対して措置請求を行うことができると、建設業法第42条はさだめている。
(「公正取引委員会に対する措置請求」というのは、「独占禁止法に違反する行為をおこなっている者に対して、独占禁止法を守らせる措置をとるよう、公正取引委員会に請求すること」です)
「独占禁止法第19条」 事業者は、不公正な取引方法を用いてはならない。
「建設業法第19条の3」 注文者は、自己の取引上の地位を不当に利用して、その注文した建設工事を施工するために通常必要と認められる原価に満たない金額を請負代金の額とする請負契約を締結してはならない。
「建設業法第19条の4」 注文者は、請負契約の締結後、自己の取引上の地位を不当に利用して、その注文した建設工事に使用する資材若しくは機械器具又はこれらの購入先を指定し、これらを請負人に購入させて、その利益を害してはならない。
「建設業法第24条の3第1項」 元請負人は、請負代金の出来形部分に対する支払又は工事完成後における支払を受けたときは、当該支払の対象となった建設工事を施工した下請負人に対して、当該元請負人が支払を受けた金額の出来形に対する割合及び当該下請負人が施工した出来形部分に相応する下請代金を、当該支払を受けた日から1月以内で、かつ、できる限り短い期間内に支払わなければならない。
「建設業法第24条の4第1項」 元請負人は、下請負人からその請け負った建設工事が完成した旨の通知を受けたときは、当該通知を受けた日から20日以内で、かつ、できる限り短い期間内に、その完成を確認するための検査を完了しなければならない。
「建設業法第24条の4第2項」 元請負人は、前項の検査によって建設工事の完成を確認した後、下請負人が申し出たときは、直ちに、当該建設工事の目的物の引渡しを受けなければならない。ただし、下請契約において定められた工事完成の時期から20日を経過した日以前の一定の日に引渡しを受ける旨の特約がされている場合には、この限りでない。
「建設業法第24条の5第3項」 特定建設業者は、当該特定建設業者が注文者となった下請契約に係る下請代金の支払につき、当該下請代金の支払期日までに一般の金融機関(預金又は貯金の受入れ及び資金の融通を業とする者をいう。)による割引を受けることが困難であると認められる手形を交付してはならない。
「建設業法第24条の5第4項」 特定建設業者は、当該特定建設業者が注文者となった下請契約に係る下請代金を第1項の規定により定められた支払期日又は第2項の支払期日までに支払わなければならない。当該特定建設業者がその支払をしなかったときは、当該特定建設業者は、下請負人に対して、前条第2項の申出の日から起算して50日を経過した日から当該下請代金の支払をする日までの期間について、その日数に応じ、当該未払金額に国土交通省令で定める率を乗じて得た金額を遅延利息として支払わなければならない。
◎ 「建設業法令遵守ガイドライン」、「建設業法解説」と支払保留(補強版)
支払保留(留保金)の問題、違法性の有無について質問を受けましたので、国土交通省「建設業法令遵守ガイドライン」、「建設業法解説」(大成出版社)にもとづいて、支払保留(留保金)の問題点また違法性を明らかにできればと思います。
「建設業法令遵守ガイドライン」には、以下のように記述されています。
「支払保留(建設業法第24条の3、第24条の5)」
(建設業法上違反となるおそれがある行為事例)
@ 下請契約に基づく工事目的物が完成し、元請負人の検査及び元請負人への引渡し終了後、元請負人が下請負人に対し、長期間にわたり保留金として下請代金の一部を支払わない場合
A 建設工事の前工程である基礎工事、土工事、鉄筋工事等について、それぞれの工事が完成し、元請負人の検査及び引渡しを終了したが、元請負人が下請負人に対し、工事全体が終了(発注者への完成引渡しが終了)するまでの長期間にわたり保留金として下請代金の一部を支払わない場合
B 工事全体が終了したにもかかわらず、元請負人が他の工事現場まで保留金を持ち越した場合
○ 正当な理由がない長期支払保留は建設業法に違反
工事が完成し、元請負人の検査及び引渡しが終了後、正当な理由がなく様々な名目(瑕疵担保や発注者からの工事代金の支払がない等)で長期間にわたり保留金として下請代金の一部を支払わないことは、建設業法第24条の3又は同法第24条の5に違反する。
―――――――――――――――――――――――――――――――
上記のガイドラインを一言で言うと、「正当な理由がない長期支払保留は建設業法に違反」ということになります。
逆に言うと、支払保留(留保金)に正当な理由があれば、建設業法に違反しないということになります。「正当な理由」についての争いが、攻防が、発生します。
ガイドラインによれば、「瑕疵担保」や「発注者からの工事代金の支払がないこと」は、正当な理由になりません。
また、国土交通省「建設業法解説」(大成出版社)は、支払遅延(支払保留)での「正当な理由」について、次のように解説しています。「『正当な理由』があると認められるのは、たとえば、天災等不測の事態が発生したため、支払が遅滞することが真にやむを得ないと明らかに認められる理由がある場合等と解されている」
ガイドラインによれば、短期の支払保留であれば、建設業法に違反しないということになります。短期と長期の境界をめぐる争い、攻防が、発生します。
建設業法第24条の4の1項は、元請は、下請からその請け負った建設工事が完成した旨の通知を受けたときは、通知を受けた日から20日以内に、その完成を確認するための検査を完了しなければならないことをさだめています。
建設業法第24条の4の2項は、 元請は、前項の検査によって建設工事の完成を確認した後、下請が申し出たときは、直ちに、当該建設工事の目的物の引渡しを受けなければならないことをさだめています。
国土交通省「建設業法解説」(大成出版社)は、特定建設業者が注文者となった下請契約での下請代金を、前述の建設業法第24条の4の2項が言う申出(建設工事の目的物の引渡しの申出)の日から起算して50日以内に支払わないことは、長期の支払遅延(支払留保)になることを、明らかにしています。これが、長期、短期の境界になるということです。
そして、ガイドラインの趣旨を貫くとすれば、「一方的な支払保留」なのか「下請との協議・合意にもとづく支払保留」なのかも、違法性の有無を左右する要素になるのではないかと思います。
◎ 不当な工期設定 建設業法19条3項違反のおそれ ガイドラインの拡充必要
倒産・不払いが増大傾向にある中、発注者がJR都市機構のケースで未払いトラブルが発生。着工の大幅な遅れが、トラブル発生のもとになっています。工事の開始が大幅に遅れ、本来2ヶ月だった工期が1ヶ月になってしまった責任について、元請は「工事開始の遅れの原因については、元請の責任の可能性が強いのは認める」と言明していますが、元請が認めるのはそこまでで、未払いトラブルについては元請に責任はないと主張しています。
2008/2/15の『建設通信新聞』が「不当な工期設定」問題について注目すべき記事を載せています。
記事によると、国土交通省総合政策局の吉田光市建設業課長が次のように述べています。
○ 工期の不当な設定は、建設業法19条3項が定める不当に低い請負代金の禁止に該当するおそれがある。
○ そういった事例を建設業法令遵守ガイドラインに盛り込みたい。
○ 当初から無理のある短工期、前工程の遅れによる短工期は、集中的に技能者を投入し、残業や休日出勤などのコスト増を招く。工期とコストは密接不可分な関係にある。
○ 物理的に明らかに不当な場合には、毅然とした態度で臨むべきである。
「建設業法19条の3項」 注文者は、自己の取引上の地位を不当に利用して、その注文した建設工事を施工するために通常必要と認められる原価に満たない金額を請負代金の額とする請負契約を締結してはならない。
(建設業法が言う「注文者」というのは、発注者と元請の関係では発注者が注文者であり、元請と1次下請との関係では元請が注文者であり、また1次下請と2次下請との関係では1次下請が注文者、以下、2次と3次、3次と4次、等々、同様です)
上記の、吉田光市建設業課長の言明は、一言で言うと、「工期とコストは密接不可分な関係にある」ことをあらためて明らかにしたものであり、JR都市機構のケースのように、工期については責任を認めるがコストについては責任を認めない元請の対応は不当、不合理であり、「毅然とした態度で臨むべき」、そういう構造のケースであることを、行政の立場から明言したものだととらえることができます。
重層下請構造下での倒産・不払いなどのトラブル発生の際に、下請保護に活用することが求められる「行政の見解」の一つだと思います。
◎ ── 建設業法が定める「指示」、「営業の停止」、「許可の取消し」 ──
元請のゼネコンによっては、「国土交通省建設業法令遵守ガイドライン違反ということであれば、違反は違反として受け止め、今後是正していく。それだけのことだ」と開き直るゼネコンもいます。
開き直りを許さないために、国土交通省建設業法令遵守ガイドライン違反、言い換えると建設業法違反を犯したばあい、どのような罰則があるのか? 建設業法がさだめる「指示」、「営業の停止」、「許可の取消し」について、おおざっぱですが、以下にまとめてみました。
1 指示
国土交通大臣または都道府県知事が指示をすることができる場合は、以下のとおりです。
@ 建設業者が建設業法に違反した場合。
A 元請の特定建設業者が建設業法41条2項または3項にもとづく(立替払の)勧告に従わない場合で必要があると認めるとき。
B 建設業者が建設工事を適切に施工しなかったために公衆に危害を及ぼしたとき、または危害を及ぼすおそれが大であるとき。
C 建設業者が請負契約にかんし不誠実な行為をしたとき。
D 建設業者またはその使用人がその業務にかんし他の法令に違反し、建設業者として不適当であると認められるとき。
E 建設業法26条1項または2項にさだめられている主任技術者または監理技術者が工事の施工の管理について著しく不適当であり、かつ、その変更が公益上必要であると認められるとき。
2 営業の停止
国土交通大臣または都道府県知事が営業の停止を命ずることができるばあいは、以下のとおりです。
@ 建設業者が(国土交通大臣または都道府県知事の)「指示」に従わない場合。
A 建設業者が建設工事を適切に施工しなかったために公衆に危害を及ぼしたとき、または危害を及ぼすおそれが大であるとき。
B 建設業者が請負契約にかんし不誠実な行為をしたとき。
C 建設業者またはその使用人がその業務にかんし他の法令に違反し、建設業者として不適当であると認められるとき。
D 建設業者が建設業法22条(丸投げの禁止)に違反したとき。
E 建設業法26条1項または2項にさだめられている主任技術者または監理技術者が工事の施工の管理について著しく不適当であり、かつ、その変更が公益上必要であると認められるとき。
F 建設業者が、建設業法3条1項に違反して、許可を受けないで建設業を営む者と下請契約を締結したとき。
G 建設業者が、特定建設業者以外の建設業を営む者と下請代金の額が建設業法3条の1項の2号の政令で定める金額以上となる下請契約を締結したとき。
H 建設業者が、営業の停止を命ぜられている者または営業を禁止されている者とその停止され、または禁止されている営業の範囲にかかわる下請契約を締結したとき。
3 許可の取消し
国土交通大臣または都道府県知事が許可を取り消さなければならない場合は、以下のとおりです。
@ 建設業者が許可の基準を満たさなくなった場合。
A 建設業法8条の1号または7号から11号までのどれかにあてはまることになった場合。(一言でいうと、犯罪または暴力団に関係することです)
B 許可を受けてから1年以内に営業を開始せず、または引き続いて1年以上営業を休止した場合。
C 不正の手段により建設業の許可を受けた場合。
D 「営業の停止」にあてはまる場合で、情状特に重い場合。
E 営業の停止の処分に違反した場合。
◎ 下請への工期しわ寄せ排除 「建設業法令遵守ガイドライン」改定へ
建設現場の重層下請構造下で倒産・不払いが発生したとき、はっきりわかるのですが、工期の遅れの責任が元請にあるのに、下請業者にしわ寄せして、元請は責任を負わない、というような事態が、現実に存在しています。
全建総連関東地協の第48回大手企業交渉では、多くのゼネコンが「適正な工期で受注している」、「下請に工期のしわ寄せをするようなことはない」、「工期の遅れについては、元請が負担する」と回答していますが、実態は必ずしもそうなっていないのは、前記の通りです。
2008/4/28の『日刊建設工業新聞』に「国土交通省は建設業法令遵守ガイドラインを(2008年)6月にも改定する。下請への工期面のしわ寄せについて、法令違反行為を明確化して、建設業法令遵守ガイドラインに盛り込む考え」という趣旨の記事が載りました。
現在、重層下請構造下で増加傾向にある倒産・不払いを抑止する上でも、建設業法令遵守ガイドラインに明記することで、工期での下請への不当なしわ寄せを防止することは、大事なことだと感じます。
建設現場の実態はまさにその通りなのですが、上記の日刊建設工業新聞も、「当初の工期が厳しい上に、工程に遅れが生じると、下請に無理を強いることになりかねない」、「元請の責任での工程の遅れによるコスト増を、下請に負担させている事例も」、「国土交通省は、工期で無理を強要することも、建設業法で禁じる『優越的地位の乱用』にあたる可能性があるとみている」と指摘しています。
◎ 建設業法令遵守ガイドラインは不払い解決や建設廃棄物処理費問題で有効
国土交通省「建設業法令遵守ガイドライン」は、不払い解決や建設廃棄物処理費問題の解決など、現場改善に生かされています。
1 不払い解決
重層下請構造の建設現場で倒産・不払いがおこると、はっきりわかるのですが、「契約書があるのは元請─1次の間だけで、1次─2次、まして2次─3次、3次─4次、4次─5次……の間には契約書がない」、「違法な無許可業者が存在する」、「施工体系図に2次までしか載っていない」、「労務費まで手形払い」、「手形サイトが120日を超えている」、「協議・合意がないままの一方的な引き去り、相殺」などの建設業法違反、建設業法令遵守ガイドライン違反が、重層下請構造の現場には、普通のことのように存在しています。
たとえば、元請〜6次の重層下請構造の現場でおこった倒産・不払いについて、「契約書がない」、「協議・合意のない一方的な相殺」などについて建設業法令遵守ガイドライン違反であることを追及し、不払い解決に結び付けることができました。
上記のように、重層下請構造の現場で倒産・不払いがおこったとき、建設業法41条2、3項がさだめる元請責任での不払い解決と、重層下請構造下に当り前のように発生している建設業法令遵守ガイドライン違反行為の追及を結び付けて、元請責任を追及することで、不払い解決での元請責任を果たさせることが、大事です。
2 企業交渉で追及して
建設業法令遵守ガイドラインは、建設廃棄物処理費の下請からの徴収については、元請・下請との協議、合意だけでなく、見積条件と契約書への明示が必要と、さだめています。全建総連関東地協企業交渉のとき、この点を指摘すると、清水建設は「基本要綱に明示してあるので、問題ない」と回答。
「国土交通省で確認するので、その基本要綱のコピーをください」とさらに言うと、「いま調べたら、ガイドラインでは見積条件と契約書への明示が必要となっているのが、わかった」と清水建設は認めました。
同様のことが、淺沼組との交渉でも実現し、「建設廃棄物処理費の下請からの徴収については、元請・下請との協議、合意だけでなく、見積条件と契約書への明示が必要」であることを、淺沼組に説明し、「わかりました、調べて確認します」と淺沼組は約束。
建設廃棄物処理費について、下請との協議・合意の名の下に元請による一方的な引き去り、相殺が行なわれているのが、建設現場の実態であり、「建設廃棄物処理費の下請からの徴収については、元請・下請との協議、合意だけでなく、見積条件と契約書への明示が必要」とさだめている建設業法令遵守ガイドラインは、元請による一方的な引き去り、相殺を規制する上で、有効です。
◎ ──── 「建設業法令遵守ガイドライン」関連のポイント ────
1 建設業法令遵守ガイドラインのポイント
国土交通省「建設業法令遵守ガイドライン」は、建設業法違反のおそれがある行為と建設業法違反の行為を、次のように明らかにしています。
(1)建設業法違反のおそれがある行為
○ 元請が工事内容などをはっきりさせないで、下請に見積りをおこなわせること。
○ 元請が、工事代金を増額しないで、下請に追加工事をおこなわせること。
○ 元請が、契約後に、とりきめた代金を一方的に減額すること。
○ 指値発注すること。
○ 元請が、やり直し工事を別の専門工事業者におこなわせ、その費用を一方的に下請代金から減額すること。
○ 元請と下請の協議・合意がないまま、元請が一方的に諸費用を下請代金から差し引くこと。
○ 差し引く根拠が不明確な諸費用を下請代金から差し引くこと。
○ 実費より大きい金額を下請代金から差し引くこと。
(2)建設業法違反の行為
○ やり直し工事を下請におこなわせ、そのやり直し工事の責任が下請にないのに、その費用を下請に負担させること。
○ 契約書に書いていないのに、建設廃棄物処理費を下請代金から差し引くこと。
○ 工事完成後、正当な理由がなくさまざまな名目(瑕疵担保、発注者から工事代金をもらっていない、など)で長期間にわたり保留金として下請代金の一部を支払わないこと。
○ 契約書がないこと。
○ 下請工事の着工後に、契約書を交付すること。
○ 追加工事、変更工事で、契約書がないこと。
○ 追加工事、変更工事が発生しているのに、元請が合理的な理由もなく一方的に追加・変更契約をおこなわないこと。
2 元請責任と結び付けて
倒産・不払いのような事例が発生すると、はっきりわかるのですが、重層下請構造の建設現場では、契約書一つをとっても、元請と1次との間には契約書があっても、1次と2次、まして2次と3次、3次と4次、4次と5次……の間には契約書がないなど、普通のことのように、建設業法令遵守ガイドライン違反、建設業法違反が、存在します。
口約束で契約書がない、違法な無許可業者、工事代金を払わない「不良不適格業者」、労務費まで手形払い、120日を超える手形、丸投げ、労災隠し、建設廃棄物処理費の一方的な差し引き、根拠のない保留金、等々、重層下請構造の現場には、さまざまな問題が発生し、存在します。
たとえば契約書について言うと、元請によっては、「うちは1次とちゃんと契約書を交わしている、下請間のことは関係ない」と開き直る、建設業法の主旨を理解していない元請も存在します。
建設業法24条の7がさだめる「元請責任での下請の実態の把握」、そして下請の実態の把握にもとづく、建設業法24条の6がさだめる「元請責任での下請の的確な指導」があります。建設業法の中でも、とても大事な部分です。
元請には、下請の実態を最終下請に至るまできちんと把握し、それにもとづき、下請が法律やルールを守るよう下請を的確に指導すべき責務があることを、建設業法はさだめているのです。
「下請の間に契約書がないのは、下請の問題だ」ではすまないのであり、下請を的確に指導して下請間に契約書を結ばせる責務が、元請にはあるのです。
下請間に契約書がないということは、下請指導が的確におこなわれていなかった、ということです。
国土交通省の解説書は「下請指導を的確におこなっていない場合は、指示処分の対象となると考えるべきである」と断言しています。
元請に、建設業法がさだめる元請責任をよく理解してもらう必要があります。
3 公正取引委員会と独占禁止法
「建設業法令遵守ガイドライン」は、建設業法と独占禁止法(私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律)との関係について次のように記述しています。
国土交通大臣または都道府県知事は、建設業者が第19条の3(不当に低い請負代金の禁止)、第19条の4(不当な使用資材等の購入強制の禁止)、第24条の3(下請代金の支払)第1項、第24条の4(検査及び引き渡し)または第24条の5(特定建設業者の下請代金の支払期日等)第3項もしくは第4項の規定に違反している事実があり、その事実が独占禁止法第19条の規定に違反していると認めるときは、公正取引委員会に対して措置請求を行うことができると、建設業法第42条はさだめている。
(「公正取引委員会に対する措置請求」というのは、「独占禁止法に違反する行為をおこなっている者に対して、独占禁止法を守らせる措置をとるよう、公正取引委員会に請求すること」です。独占禁止法違反ということになると、懲役刑、罰金といった罰則があります──海野)
4 建設業法が定める「指示」、「営業の停止」、「許可の取消し」
元請のゼネコンなどによっては、「国土交通省建設業法令遵守ガイドライン違反ということであれば、違反は違反として受け止め、今後是正していく。それだけのことだ」と開き直るゼネコンなどもいます。
開き直りを許さないために、国土交通省建設業法令遵守ガイドライン違反、言い換えると建設業法違反を犯したばあい、どのような罰則があるのか? 建設業法がさだめる「指示」、「営業の停止」、「許可の取消し」について、おおざっぱですが、以下にまとめてみました。
(1) 指示
国土交通大臣または都道府県知事が指示をすることができる場合は、以下のとおりです。
@ 建設業者が建設業法に違反した場合。
A 元請の特定建設業者が建設業法41条2項または3項にもとづく(立替払の)勧告に従わない場合で必要があると認めるとき。
B 建設業者が建設工事を適切に施工しなかったために公衆に危害を及ぼしたとき、または危害を及ぼすおそれが大であるとき。
C 建設業者が請負契約にかんし不誠実な行為をしたとき。
D 建設業者またはその使用人がその業務にかんし他の法令に違反し、建設業者として不適当であると認められるとき。
E 建設業法26条1項または2項にさだめられている主任技術者または監理技術者が工事の施工の管理について著しく不適当であり、かつ、その変更が公益上必要であると認められるとき。
(2) 営業の停止
国土交通大臣または都道府県知事が営業の停止を命ずることができるばあいは、以下のとおりです。
@ 建設業者が(国土交通大臣または都道府県知事の)「指示」に従わない場合。
A 建設業者が建設工事を適切に施工しなかったために公衆に危害を及ぼしたとき、または危害を及ぼすおそれが大であるとき。
B 建設業者が請負契約にかんし不誠実な行為をしたとき。
C 建設業者またはその使用人がその業務にかんし他の法令に違反し、建設業者として不適当であると認められるとき。
D 建設業者が建設業法22条(丸投げの禁止)に違反したとき。
E 建設業法26条1項または2項にさだめられている主任技術者または監理技術者が工事の施工の管理について著しく不適当であり、かつ、その変更が公益上必要であると認められるとき。
F 建設業者が、建設業法3条1項に違反して、許可を受けないで建設業を営む者と下請契約を締結したとき。
G 建設業者が、特定建設業者以外の建設業を営む者と下請代金の額が建設業法3条の1項の2号の政令で定める金額以上となる下請契約を締結したとき。
H 建設業者が、営業の停止を命ぜられている者または営業を禁止されている者とその停止され、または禁止されている営業の範囲にかかわる下請契約を締結したとき。
(3) 許可の取消し
国土交通大臣または都道府県知事が許可を取り消さなければならない場合は、以下のとおりです。
@ 建設業者が許可の基準を満たさなくなった場合。
A 建設業法8条の1号または7号から11号までのどれかにあてはまることになった場合。(一言でいうと、犯罪または暴力団に関係することです)
B 許可を受けてから1年以内に営業を開始せず、または引き続いて1年以上営業を休止した場合。
C 不正の手段により建設業の許可を受けた場合。
D 「営業の停止」にあてはまる場合で、情状特に重い場合。
E 営業の停止の処分に違反した場合。
◎ 国土交通省「建設産業政策2007」を叩くだけでいいのか?
「建設産業政策2007〜大転換期の構造改革〜」(略称「建設産業政策2007」)は、建設産業政策研究会(国土交通省総合政策局長の私的諮問機関)が、2007年6月29日付けでとりまとめたものです。その中には、建設労働運動から見て注目しておいたほうがいいと思われる部分が、存在します。建設産業政策研究会の委員として、佐藤正明全国建設労働組合総連合書記長(当時)が入っています。
「建設産業政策2007」は、「法令違反行為を明確化するための『建設業法令遵守ガイドライン』の策定」を打ち出し、それにもとづいて国土交通省「建設業法令遵守ガイドライン」がつくられました。
重層下請構造下の倒産・不払い事件で建設業法令遵守ガイドラインにもとづいて元請責任を追及し、元請責任での不払い解決に結実するなど、現実に建設現場の改善に、建設業法令遵守ガイドラインは一定の役割を果たしています。
2008年春の全建総連関東地協第48回大手企業交渉では、建設業法令遵守ガイドラインにもとづく現場改善を大手ゼネコン・住宅企業・サブコンに要求し、元請・下請関係の適正化をめざします。
また、(国土交通省総合政策局長の私的諮問機関の)建設産業政策研究会に委員として全建総連書記長(当時)が参加して「建設産業政策2007」をつくったこと自体が、国土交通省や大手企業などに全建総連の各県連・組合を「正当な存在」として認めさせ、倒産・不払いを含めて元請責任での問題解決に向かって、企業、労働組合、行政の三者が力を合わせる上で有効に作用しています。
(株)ヴィタリテ(店舗の設計、内装施工)倒産での、元請責任での不払い解決に向かっての元請ゼネコンの前向きの変化にも、それは現れていると、感じています。
一部に見られるように、「建設産業政策2007」を叩くだけでいいのか?
疑問を感じます。
以下は、「建設産業政策2007」からの抜粋です。
○ 人口減少社会を迎え、若年労働者の確保が経済・産業全体で大きな課題となっている。その中で、建設産業は、厳しい経営環境の下で賃金が低下傾向にあるなど労働条件等の悪化が進み、相対的に魅力の少ない産業となっている。建設業就業者の高齢化も進展しており、団塊の世代が退職期を迎える中、技術・技能の承継が大きな課題となっている。建設産業は、その根底が今大きく揺らいでいる。
○ 近年の厳しい経営環境下で極端な低価格による受注や一方的な下請・労働者へのしわ寄せ等により、元請下請関係や労働条件等が悪化してきている。
○ 不良債権処理が大きな課題となっていたが、現在ではほぼ解消した。
○ 民間の建設投資は回復傾向にあり、資材価格の高騰や、特に大都市部での建築分野の技能者等の人手不足の顕在化等が見られる。
○ 中小企業や労働者は必ずしも景気回復の恩恵を享受していないのではないかということが懸念されている。特に、労働市場に関しては、いわゆるワーキングプアの存在や偽装請負等不正な雇用形態の存在が指摘されている。また、地方では、地域経済の地盤沈下が深刻化しており、企業間、労働者間、地域間等の格差の固定化が懸念されている。
○ 建設投資は、ピーク時の1992年度に84兆円に達していたものが、2007度は約52兆円と見込まれており、ピーク時の約6割にまで急激に減少している。特に、公共投資については、ピーク時の1995年度の約35兆円から2007年度には約17兆円と、ピーク時の半分以下の水準にまで落ち込むと見込まれている。
○ 建設業の許可業者数は、2006年度末には2005年度末から約2万減少しており、ピーク時である1999年度末の約60万業者から約8万減の約52万業者となっている。就業者数は、ピーク時の1997年の約685万人から2006年には559万人と100万人以上減少している。
○ 建設産業に対する将来の不安等から若年労働者の入職者の減少が進んでおり、50歳以上の就業者が4割以上を占めるなど、急速に高齢化が進展している。
また、団塊の世代の大量退職期を迎え、賃金等労働条件が劣る建設産業は、他産業との人材確保競争で厳しい状況に置かれるおそれがあり、労働条件の改善等により若年労働者を確保することが急務となっている。
○ 建設業の企業倒産は、件数・負債総額とも依然として高水準で推移しており、最近は倒産件数が前年度を上回るなど増加傾向にある。全産業に占める建設業の倒産件数を地域別に見ると、大都市部に比べ地方部が相対的に高い割合を示しており、地方部での建設業の経営環境は非常に厳しい状況にある。
○ 近年の競争激化の影響により、現場労働者の賃金は低下傾向にあり、他産
業に比べ低い水準で推移している。現場の労働時間についても、他産業と比べて長くなっている。
○ 専門工事業では、社会保険・労働保険に未加入のケースが見られるとともに、従業員の社会保険・労働保険等の負担を軽減するため、労務外注するケースが増えるなど、労働条件等が悪化している。
○ 技能者の需給動向をみると、2005年頃から、民間投資、建築投資が回復傾向にあることを背景として、特に大都市圏を中心として建築関係の職種の技能者の不足が顕著になってきている。また、これに関連して土木関係の職種でも大都市圏の鉄筋工の不足が見られるなど、職種・地域により技能者の需給動向は異なっている。
○ 建設生産は屋外・単品・受注生産であり、また、各プロジェクトの内容に対応して数多くの専門的な担い手の参画が必要になる。近年の建設生産の内容の高度化、複雑化等により、設計・施工のそれぞれの局面で専門化・分業化・重層化が進行してきている。さらに、厳しい経営環境下で、労務外注やいわゆる一人親方が増加していると見られ、このことも重層下請構造の進行の要因となっている。
○ 建設産業では、従来から、適切な施工能力を有しないいわゆるペーパーカンパニー等の不良不適格業者の存在をはじめ、一括下請負、技術者の不専任、書面によらない契約、指値発注・赤伝処理等の不当な減額による不当に低い代金での下請契約、社会保険・労働保険の未加入等の法令違反行為が一部に見られる。
○ 元請下請間で、見積条件の不明確さ、書面による契約前の工事着手や片務的な契約の締結の要求、指値発注・赤伝処理等による一方的な代金の差し引き、下請業者の負担による追加工事等、依然として片務性が存在すると指摘されている。
○ 元請下請関係で、あいまいな役割・責任分担が片務性を助長してきたと考えられるが、下請企業が体力を限界近くまで消耗している中で、設計変更に伴う手直し等を下請企業が負担することは困難になってきている。元請下請間の片務性を是正し、両者が対等な関係を築いていくために、協議による役割・責任分担の明確化、書面による契約の締結、設計変更等に伴う契約変更の適切な実施が必要である。
○ 不当に低い代金での下請契約の締結、社会保険、労働保険への未加入等の法令違反行為に対しては、行政の厳格な対応が求められる。
○ 女性の建設産業への進出の促進や、日本人と同等の処遇の確保を前提として、外国からの技能実習生の積極的な受入れに取り組むことも選択肢として考えられる。
○ 一括下請負、極端な低価格による受注に伴う下請・労働者へのしわ寄せの防止の徹底等により、まじめに努力する者が損をすることのない公正な競争環境を整備することが何よりも重要である。
○ 法令遵守推進体制の強化のための「建設業法令遵守推進本部」の設置、「駆け込みホットライン」の開設。
○ 法令違反行為を明確化するための「建設業法令遵守ガイドライン」の策定。
○ 下請・労働者へのしわ寄せの防止、適正な施工の確保のための建設業許可部局による緊急立入調査の強化。
○ 事業者団体を通じた建設労働者の一時的な送出・受入を可能にするための改定建設労働者雇用改善法の活用の促進。
|