――――――― 「労働者性」関連(4) ―――――――
海野和夫
◎ ――― 埼玉労働局の文書からの抜粋 労働者性関連 ―――
以下は、アスベスト関連での「労働者性」の認定及び判断での基準を示した埼玉労働局の2007年7月9日付けの文書からの抜粋です。
別紙
第7 事実の認定及び判断
1 判断の要件
労災保険法上、休業補償給付の対象となるか否かは、労働基準法第9条にいう労働者に当たるか否かにより決められるべきものである。
さらに、労災保険法上の補償を受けることができる者は、労働者として粉じん作業に従事した期間が事業主等として粉じん作業に従事した期間より明らかに長いと認められることが必要である。
(1)労働者と認められるための要件
ア 労働基準法第9条によれば「この法律で労働者とは、職業の種類を問わず、事業または事務所(以下「事業」という。)に使用されるもので、賃金を支払われる者をいう。」と定義されている。
イ 労働基準法第11条においては「この法律で賃金とは、賃金、給料、手当、賞与その他名称の如何を問わず、労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのものをいう。」と定義されている。
ウ 建設事業などにおいては、一人または数人単位の下請業者が特定企業と専属下請関係をもって実際上は、その従業員と同様の役割を演ずることがあり、その「労働者性」が問題となる。これについては、当該企業と下請業者との間の専属下請としての継続的支配が存在していても、当該業者に零細なりとはいえ自己の計算において事業を営む者としての要素(機械・器具・経費の負担、剰余金の取得、危険や責任の引受、他人の雇用など。このような場合は、報酬も相応の額や定め方となり、また納税上も事業所得としての自己申告がなされる)が、存在すれば、労働者とは認められないものである。
これに対して、そのような要素がほとんど存在せず、他に使用されて労働の対価を得ているにすぎないと認められれば、労働者といえることとなる。
(2)労働者性が認められない期間を含む場合の取扱い
「昭和61年2月3日付け基発第51号粉じんばく露歴に労働者性を認められない期間を含む者に発生したじん肺症等の取扱いについて」によれば、次のとおりである。
ア 対象者
本通達による取扱いの対象者は、じん肺症又は合併症にり患したと認められる者であって次の(ア)及び(イ)の期間をいずれも有するものとする。
(ア)労働基準法第9条に規定する労働者又は労災保険法第27条に規定する特別加入者(以下「労働者等」という。)として粉じん作業に従事した期間
(イ)上記(ア)の労働者等以外の者(以下「事業主等」という。)として粉じん作業に従事した期間
イ 業務起因性の判断
(ア)労働者等として従事した粉じん作業と事業主等として従事した粉じん作業とを比較検討し、次のAからCまでに掲げる事項のいずれにも該当する場合には、業務起因性があるものとして取扱う。
A 粉じんの種類に明らかな差異が認められないこと。
B 粉じんの濃度に明らかな差異が認められないこと。
C 労働者等としての粉じん作業従事期間が事業主等としての粉じん作業従事期間より明らかに長いと認められること。
(イ)労働者等としての粉じん作業従事期間が事業主等としての粉じん作業従事期間より明らかに長いと認められる場合とは、「昭和61年2月3日付け事務連絡第73号粉じんばく露歴に労働者性の認められない期間を含む者に発生したじん肺症等の取扱いに関する留意事項等について」によれば、3年以上の差を有する場合をいう。
◎ 『労働者概念を巡る日本法の沿革と立法課題』(古川景一弁護士)を読んで
季刊労働法219号(2007年冬季)掲載の『労働者概念を巡る日本法の沿革と立法課題』(古川景一弁護士)を読ませていただきました。
1 戦前の労働法制と現行の労働法制との比較
「1945年8月以前に施行されていた労働法制と現行の労働法制との異同を比較検討することは、労働法学上の検討手法の一つとして新たな分析視覚を提供するものである」(古川景一弁護士)として、古川景一弁護士はこの「検討手法」を、労働者概念を巡る問題の解明に適用します。
上記手法を駆使して古川弁護士は、一言で言うと、次の点を明らかにしました。
戦前の労働法制は、労働者概念の中に「指揮監督(命令)、使用従属関係、人的従属性」は含めておらず、経済的従属性を有する者を広く労働者として認めていた。戦後の労働法制が、労働者概念の中に、「指揮監督(命令)、使用従属関係、人的従属性」を導入した。
2 労働者概念での立法課題
戦前の労働法制と現行の労働法制との比較検討を通じて、それを踏まえて古川弁護士は、労働者概念での立法課題を次のように提起します。
労働基準法上の「労働者」については、(労働者概念から「指揮監督(命令)、使用従属関係、人的従属性」を排除し)「労務を提供しその対価としての報酬を受け取る者であって、独立事業主である者を除く」ことが明確にされるべきである。
労災保険法上の「労働者」については、(労働者概念から「指揮監督(命令)、使用従属関係、人的従属性」を排除し)「労務を提供しその対価としての報酬を受け取る者であって、独立事業主である者を除く」と解すべきであり、これを明文化すべきである。
労災保険について、雇用保険、厚生年金保険、健康保険と同様に、災害発生前に被保険者資格の有無を確認できる制度にする必要がある。その際、「労務を提供しその対価たる報酬を受け取る者であって独立事業主以外の全ての者」を被保険者とする。
3 検討
古川弁護士が提示する理論構造について、そのとおりだと思うのですが、2点、私の理解が及ばない点を以下に記述します。
@ 労働者概念として、「労務を提供しその対価としての報酬を受け取る者」にプラスして「独立事業主である者を除く」をあえて組み込む理由が、わかりません。独立事業主だとして「労働者」から排除される可能性をあえて残すものであり、独立事業主概念を巡る争いを発生させるような気がします。
A 労災保険に被保険者資格を導入することで、最初から適用対象が被保険者に限定され、「被保険者」以外の人たちを「救済」する道が、最初から閉ざされることになるのではないでしょうか?
◎ 労基研報告の労働者性「強める要素」「弱める要素」「その他」への分解
(1996年3月「労働基準法研究会労働契約等法制部会労働者性検討専門部会報告」(略称・労基研報告)について、「労働者性を強める要素」と「労働者性を弱める要素」に分解して、わかりやすくしてほしい、手間請就労者、一人親方等が自分は「労働者性を強める要素」と「労働者性を弱める要素」をどの程度、どのように持っているのか、すぐわかるようにしてほしい、との要望がありましたので、以下に1996年3月労基研報告を「考え方」、「労働者性を強める要素」、「労働者性を弱める要素」、「どちらとも言えない要素」の四つに分解して、示しておきました。多分単純明快になり過ぎて、労基研報告の構造を単純化し過ぎていると思いますが、だいたいの目安と考えていただければいいのかなと思います──海野)
(以下は、1996年3月労基研報告を「考え方」、「労働者性を強める要素」、「労働者性を弱める要素」、「どちらとも言えない要素」の四つに分解したものです)
1 「考え方」
○ 建設業での「手間請」について「工事の種類、坪単価、工事面積等により総労働量及び総報酬の予定額が決められ、労務提供者に対して、労務提供の対価として、労務提供の実績に応じた割合で報酬を支払うという、建設業での労務提供方式」と定義。
○ 手間賃(日当)による日給月給制の場合は、労働者性の問題が生じるところではなく、一般に労働者と解することができる。
○ 呼び名ではなく、実際の役割に留意する必要がある。
○ 指揮監督下の労働かどうかが問題。
○ 「拘束性の有無」が問題。
○ 「代替性の有無」が問題。
○ 「報酬の額」が問題。
○ 発注書、仕様書等の交付という事実だけから判断するのではなく、これらの書面の内容が事業者性を推認するに足りるものであるか否かを検討する必要がある。
○ ある者が手間請の他に事業主としての請負業務を他の日に行っていることは、手間請を行っている日の労働者性の判断に何ら影響を及ぼすものではないため、手間請を行っている日の労働者性の判断は、これとは独立に行うべきものである。
○ 諸条件、諸事情を実態に即して総合的に考慮、判断して、労働者性の有無を明らかにする。
2 「労働者性を強める要素」
○ (グループによる手間請の場合)グループの世話役が、労働者のグループの単なる代表者である。
○ 指揮監督下の労働。
○ 指示書等により作業の具体的内容・方法等が指示されており、業務の遂行が「使用者」の具体的な指揮命令を受けて行われている。
○ 「使用者」の命令、依頼等により通常予定されている業務以外の業務に従事することがある。
○ 勤務時間が指定され、管理されている。
○ 報酬が、時間給、日給、月給等時間を単位として計算されている。
○ 特定の企業の仕事のみを長期にわたって継続して請けている。
3 「労働者性を弱める要素」
○ (グループによる手間請の場合)グループの世話役が、グループの構成員を使用する者である。
○ 具体的な仕事の依頼、業務に従事すべき旨の指示等に対して諾否の自由がある。
○ 労務提供の量及び配分を自ら決定でき、契約に定められた量の労務を提供すれば、契約で予定された工期の終了前でも契約が履行されたことになり、他の仕事に従事できる。
○ 本人に代わって他の者が労務を提供することが認められている。
○ 本人が自らの判断によって補助者を使うことが認められている。
○ 報酬が、同種の業務に従事する正規従業員に比して著しく高額である。
○ 当該手間請従事者が、@材料の刻みミスによる損失、組立時の失敗などによる損害、A建物等目的物の不可抗力による滅失、毀損等に伴う損害、B施工の遅延による損害について責任を負う。
○ 手間請従事者が業務を行うについて第三者に損害を与えた場合に、当該手間請従事者が専ら責任を負う。
○ 発注書、仕様書等の交付により契約を行っている。
4 「どちらとも言えない要素」
○ 報酬が、1uを単位とするなど出来高で計算されている。
○ 報酬の支払に当たって手間請従事者から請求書を提出させている。
○ 電動の手持ち工具程度の器具を所有している。
○ 釘材等の軽微な材料費を負担している。
○ 月給等でみた報酬の額が高額である場合であっても、それが長時間労働している結果であり、単位時間当たりの報酬の額を見ると同種の業務に従事する正規従業員に比して著しく高額とはいえない。
○ 専属性がない。
○ 税務上有利であったり、会計上の処理の必要性等から発注書、仕様書等の交付を行っている。
◎ 「賃金の支払の確保等に関する法律」(賃金支払確保法)の効用と限界
1 はじめに
「賃金の支払の確保等に関する法律」(賃金支払確保法)について質問が寄せられました。
元請A社、1次B社、2次C社の重層下請構造の中で、B社が破産し、C社が工事代金の不払い被害を受けました。
当然C社は、元請のA社に対して、建設業法41条3項に基づく立替払でのC社救済を要請し、交渉中です。
C社の関係者から寄せられた質問は、B社が破産したために不払被害を受けたのだから、C社の労働者に賃金支払確保法は適用にならないのだろうか、というものです。以下に、お答えします。
2 「賃金の支払の確保等に関する法律」(賃金支払確保法)
まず以下に、「賃金の支払の確保等に関する法律」の抜粋を載せておきます。
賃金の支払の確保等に関する法律
(目的)
第1条 この法律は、景気の変動、産業構造の変化その他の事情により企業経営が安定を欠くに至った場合及び労働者が事業を退職する場合における賃金の支払等の適正化を図るため、貯蓄金の保全措置及び事業活動に著しい支障を生じたことにより賃金の支払を受けることが困難となった労働者に対する保護措置その他賃金の支払の確保に関する措置を講じ、もって労働者の生活の安定に資することを目的とする。
(定義)
第2条の1 この法律において「賃金」とは、労働基準法第11条に規定する賃金をいう。
第2条の2 この法律において「労働者」とは、労働基準法第9条に規定する労働者をいう。
(途中、省略)
(未払賃金の立替払)
第7条 政府は、労働者災害補償保険の適用事業に該当する事業の事業主が破産の宣告を受け、その他政令で定める事由に該当することとなった場合において、当該事業に従事する労働者で政令で定める期間内に当該事業を退職したものに係る未払賃金があるときは、民法474条第1項ただし書及び第2項の規定にかかわらず、当該労働者の請求に基づき、当該未払賃金に係る債務のうち政令で定める範囲内のものを当該事業主に代わって弁済するものとする。
(返還等)
第8条の1 偽りその他不正の行為により前条の規定による未払賃金に係る債務の弁済を受けた者がある場合には、政府は、その者に対し、弁済を受けた金額の全部又は一部を返還することを命ずることができ、また、当該偽りその他不正の行為により弁済を受けた金額に相当する額以下の金額を納付することを命ずることができる。
第8条の2 前項の場合において、事業主が偽りの報告又は証明をしたため当該未払賃金に係る債務が弁済されたものであるときは、政府は、その事業主に対し、当該未払賃金に係る債務の弁済を受けた者と連帯して、同項の規定による返還又は納付を命ぜられた金額の納付を命ずることができる。
(以下、省略)
3 賃金支払確保法の効用、限界、問題点
@ 賃金支払確保法が適用されるのは、企業が倒産した場合に限られます。倒産というのは、破産、民事再生、会社更生、事実上の倒産などです。倒産ではなく、倒産には至らないが経営不振等で賃金不払を起こしている場合などには、賃金支払確保法は適用されません。法整備を含めて改善が求められるところです。
A 適用になるのは中小企業の倒産に限られます。
B 適用になるのは、倒産した企業に直接働いていた労働者に限られます。前述の質問の「B社が破産したために不払被害を受けたのだから、C社の労働者に賃金支払確保法は適用にならないのだろうか」についてお答えすると、適用になるのはB社に直接働いていた労働者に限られ、B社の下請のC社の労働者には適用になりません。建設産業の重層下請構造等を考えると、法整備を含めて改善が求められるところです。
C 「労働者性」が問題になります。適用になるのは労働基準法上の労働者に限られ、労働者と認められなければ、適用を受けられず、泣き寝入りを余儀なくされます。建設労組は、労働者性の拡大、確立のたたかいに取り組み、労働者として認めさせる運動を繰り広げ、一定の成果をあげています。
建設現場で報酬を得るために働いていれば、みんな労働者だと、法整備を含めて賃金支払確保法による救済範囲を全面的に拡張、拡大することが求められています。
◎ 倒産事件での「労働者性」の到達 労働債権に準じた対応
1 「泣き寝入り」をしないために
建設現場の状況は、正規の社員、正規の労働者ではないが、実態として正規労働者と同様の形態、なかみで、少なくともそれに準ずる形態、なかみで労働に従事している従事者が多数、存在しています。
名目は、「施工員」、「一人親方」、「個人事業主」、「(法形式上は)法人事業主」など様々ですが、実態から見れば、正規労働者と同様の形態、なかみで、少なくともそれに準ずる形態、なかみで、労働に従事している従事者が多数、存在しています。
言い換えると、「正規労働者に準ずる労働者」と言うべき人たちです。
このような建設現場従事者には当然、労働者に準じて、労災保険の適用での保護、労働債権としての保護等の労働者保護法の適用での保護が与えられるべきです。
「泣き寝入り」を余儀なくされるような状況の発生を許してはなりません。
2 最近の事例
最近の事例で、私達の関心を惹く事例が生まれています。
ある倒産事件で、正規の社員、正規の労働者の賃金については、当然のことですが、労働債権として認めました。そして、それと同時に、正規労働者に準ずる形態、なかみで労働に従事している従事者について、その債権を、言い換えると名目上「工事代金」を、準労働債権として認め、労働債権に準ずる保護を行ないました。
準労働債権、言い換えると労働債権に準ずる債権の存在を認め、労働債権に準ずる保護を行なうという対応を示したわけです。
注目すべき構想です。
くわしくは、時機を見て、明らかにしたいと思います。
◎ ホステスの労働者性を認めた大阪地裁判決が存在していました
以下の八木裕之氏のサイトを参考にさせていただきました。
http://blog.goo.ne.jp/titmouse_1962/m/200602
1 背景
資本主義が成熟すればするほど、全産業の中に占める「サービス産業」の割合は増大していく、と言われています。従って、サービス産業に従事する労働者の比率も増大していきます。
事実、日本資本主義の現実を見ると、街を歩くと、多数の、無数のと言っていいくらいのサービス産業、企業、店が存在しています。絶えず大量の生産、廃業、再生産の流れの中にあります。
接客業で働いている人たちも当然、労働者として認めて、法の保護の下に置くべきです。
問題意識として浮かんできたのが、接客業の一つと思われるいわゆる「ホステス」の労働者性は? ということです。
八木裕之氏は書いています。「(高級クラブ等で)提供されているのは、『お酒』や『お色気』だけではなく、『社交の場としての空間』と『ホスピタリティ(歓待)』である」、「そこで働くとなると……社会や経済の情勢に通じていなければならず、並みのサラリーマン以上の勉強が必要だという」
八木裕之氏はまた、衣装や美容院代、お客さんへのプレゼントなどで多額の出費を強いられること、売上に比例して報酬を得られるシステムであることを指摘しています。
2 大阪地裁判決
「ホステスとクラブとの契約は、クラブでホステスとして接客サービスという労務を提供し、クラブ経営者が賃金を支払うという雇用契約であり、労働基準法の適用がある」(クラブ「イシカワ」入店契約事件 大阪地裁判決 2005年8月26日)
クラブホステスの労働者性を認め、クラブ側の「サービス業務委託契約」であるという主張をしりぞけた判決です。
労働者性を認める根拠としては、タイムカードによる管理がおこなわれ、拘束性があり、使用従属関係が認められること、クラブが負担する店舗等にかかる費用全般を考えると、ホステスの負担する衣装代が高額としても、なおホステスに事業者性を認めることはできないなどを指摘している、とのことです。
◎ バイシクルメッセンジャー及びバイクライダーの労働者性について(全文)
バイシクルメッセンジャー及びバイクライダーの労働者性について
(「バイシクルメッセンジャー及びバイクライダーの労働者性について」の東京労働局長と厚生労働省労働基準局長の見解の全文を入手しましたので、以下に紹介しておきます。建設労働運動での「労働者性」の確立、拡大にも好影響を与えるものです──海野)
(東京労働局長の見解)
東労基発第257号
平成19年9月6日
厚生労働省労働基準局長 殿
東京労働局長
(公印省略)
バイシクルメッセンジャー及びバイクライダーの労働者性について(りん伺)
当局管内においては、特定信書便事業又は貨物軽自動車運送事業(以下「特定信書便事業等」という。)を行なう事業場において、自転車又は自動二輪車を使用し、信書の送達又は貨物の輸送を行なっているが、当該事業場には自転車を使用して業務を行なういわゆるバイシクルメッセンジャー又は自動二輪車を使用して業務を行なういわゆるバイクライダー(以下「バイシクルメッセンジャー等」という。)が多数従事しているところである。
これらバイシクルメッセンジャー等は、特定信書便事業等の事業を行なう者(以下「バイク便事業者」という。)と「運送請負契約」と称する契約を締結し、業務に従事しているものであるが、当局において、これらバイシクルメッセンジャー等の就労の実態をあるバイク便事業者について調査した結果、下記1のとおりであることが判明したところである。
ついては、これらバイシクルメッセンジャー等の労働者性について、下記2のとおり解してよろしいか、お伺いする。
記
1 当局の調査結果
(1)契約関係
バイシクルメッセンジャー等は、バイク便事業者と「運送請負契約」と称する契約を締結し、契約上、業務請負として配送業務に従事している。
(2)使用従属性に関する事実関係
ア 仕事の依頼、業務従事の指示等に対する諾否の自由
仕事の依頼、業務従事の指示等に対する諾否の自由は、契約上認められているが、実態を見ると、仕事の依頼、業務従事の指示等を拒否している例はみられない。
イ 指揮命令等
(@)配送業務については、伝票の作成方法、運送方法、携帯電話の使用及び顧客の接遇等に関して手引が定められており、バイシクルメッセンジャー等は、営業所長の面接を受けて採用された後、この配送に関する手引に基づき行われる座学研修と営業所長に帯同した実地研修を数日間受講している。
なお、研修期間中は一定額(日額)の報酬が支払われている。
(A)採用後は、各営業所に配属され、日常、営業所長の指示の下、配送業務に従事している。
(B)日々の配送業務においては、出勤時、営業所長から交通安全、接遇マナー等についての諸注意を受けた後、各バイシクルメッセンジャー等は、各自の待機場所へ移動し、配送指示があるまで待機する。その後、配車センターからの配送指示に従い荷を配送し、次の配送指示があるまで、配送を終えた場所で待機し、以後、業務終了時まで配送・待機を繰り返す。
(C)日々の配送指示は、顧客から配送依頼のあった1件の配送品ごとに引取先、引取時刻、届出先及び配送時の注意事項等が指示されている。
(D)配送経路は、契約上、「最も合理的な順路で走行すること」とされており、研修時には、最短距離で到着するよう指示されている。
(E)バイシクルメッセンジャー等は、携帯電話の保持が義務付けられており、最初の配送指示があるまでの待機場所への到着時、配送指示メール受信後の移動開始時、荷の引取時、配送終了時(配送後の待機開始時)、休憩開始時及び休憩終了時において、携帯メールで配車センターに報告することが求められている。
(F)バイシクルメッセンジャーは、営業所長の指示があった場合には、内勤スタッフの業務を手伝うことがある。
以上のように、業務の遂行方法等に関する詳細な指示を受け、常時バイク便事業者から管理されているものであり、業務遂行上の指揮監督が行われているものと認められる。
ウ 拘束性
(@)各営業所では、配送体制を確保するため、営業所長が配送量を勘案し、日々の配送業務に必要な配送員数を定めるとともに、各人の具体的な出勤日・勤務時間についても、本人の希望、配送量等を勘案し、各人ごとに定めている。
(A)各バイシクルメッセンジャー等は、出勤日には始業時刻までの営業所への出所と業務終了後の営業所への帰所が義務付けられており、欠勤等がある場合は、営業所長への連絡が求められている。
(B)バイシクルメッセンジャー等の日々の出勤時刻等の出勤状況は、出勤簿により管理されている。
(C)配送業務については、1件当たりの配送処理時間が定められている。また、上記イのとおり、荷の配送後においては当該配送を終えた場所での待機が指示されているほか、休憩時間についても携帯メールで報告することが求められている。
以上のように、時間的・場所的な拘束性があるものと認められる。
エ 代替性
契約上、業務の再委託は禁止されているほか、実際にもバイシクルメッセンジャー等は、所定の研修を受けて承認された者に限定されていることから、配送業務を他の配送員に委託するなど労務提供の代替性は認められない。
オ 報酬の労務対償性
(@)報酬は、完全歩合制を採用しており、月末締切の翌15日支払(口座振込)となっている。
(A)歩合給は、月ごとの配送料金合計額の50%を基本歩合率とした上で計算されるが、平日にすべて出勤した場合、皆勤加算として基本歩合率に一定の歩合率が加算される一方、あらかじめ定められた出勤日に出勤しない場合には欠勤減算として、あらかじめ定められた出勤時刻に営業所に出所しない場合には遅刻減算として、それぞれ基本歩合率から一定の歩合率が減算される。
以上のように、出勤日・勤務時間に応じて加減算された報酬が定められており、報酬の労務対償性が認められる。
(3)事業者性に関する事実関係
ア 機械・器具等の負担関係
業務用無線(必要な場合に限る。)、配送員用バックは会社負担であるが、自転車や自動二輪車のほか、携帯電話は自己負担であり、この維持に要する燃料代・修理代・税金・車検代等についても、自己負担となっている。
イ 報酬の額
バイシクルメッセンジャー等の報酬の額は、日額に換算すると1万円から1万5千円程度となっている。
ウ 商号の使用
独自の商号の使用は認められておらず、バイク便事業者の企業名が表示されている配送員用バックや荷箱の使用が義務付けられている。
エ 専属性
他社の業務に従事することは契約上制約されていないが、出勤日・勤務時間があらかじめ指定され、その間は拘束されていることから、兼業を行うことは困難な状況にある。
2 当局の判断
上記1のとおり、当該事業場に対する調査の結果、バイシクルメッセンジャー等については、自転車等の装備品が自己負担であることなど事業者性を肯定する要素も一部認められるものの、使用従属関係を肯定する事実として、@業務の内容及び遂行方法に係る指揮監督が行われていること(指揮監督があること)、A勤務日及び勤務時間があらかじめ指定され、出勤簿で管理されていること(拘束性があること)、B他の者への配送業務の委託は認められていないこと(代替性がないこと)、C報酬の基本歩合率が欠勤等により加減されること(報酬の労務対償性があること)等が認められ、さらに、労働者性の判断を補強する事実として、D独自の商号の使用は認められず、事実上兼業を行うことは困難な状況にあること等が認められ、総合的に判断すると労働基準法第9条の労働者に該当するものと認められる。
(厚生労働省労働基準局長の回答)
基発第0927003号
平成19年9月27日
東京労働局長 殿
厚生労働省労働基準局長
(公印省略)
疑義照会に対する回答について
平成19年9月6日付け東労基発第257号「バイシクルメッセンジャー及びバイクライダーの労働者性について(りん伺)」により貴職から照会のあった事項につき、下記のとおり回答する。
記
貴局において調査した結果から総合的に判断すると、使用従属関係が認められるため、貴見のとおり解する。
◎ 法形式上「法人」の労働者性の可能性を明らかにした国会答弁から
2003年6月13日の衆議院法務委員会、2003年7月22日の参議院法務委員会での政府答弁「法人であっても、実態によっては労働者として認めることはあり得る」について、以下に、国会会議録そのものから抜粋しておきました。
1 2003年6月13日の衆議院法務委員会の会議録から
○ 保坂展人(社会民主党) なかなか力強くない答弁だったと思うんですね。保護を図っていくのかな、これは保護されないのかなって感じなんですね。
前回の局長の答弁で、契約の形式じゃなくて、実態として債務者に対して労務を提供して生活を営んでいる者であるかどうか、ここを見ていく、つまり形にこだわらないということであると思うんですね。そうすると、私の聞き方もちょっとまずかったかもしれないんですけれども、先ほど言ったグループ請だとか、あるいは家族数名、お父さんとお兄さんと自分とか、そういった家族工務店だとか、そういう形の、形態上はしかし外注費扱い、一応法人でもある、あるいは個人事業者として申告している、いろいろな形があると思うんですが、しかし、中身はこれは労務提供じゃないかと言える部分について、これは柔軟に見ていけるんでしょうか。そうだとすれば、保護されていくのかなというのが少し力強くなると思うんですが。
○ 房村政府参考人 その点は、前にも申し上げましたように、法形式ではない、要するに、実態としての、いわゆる雇用関係に当たるのかどうかということを主眼として判断をするという形になっておりますので、それは指揮命令のあり方であるとか報酬の払い方であるとか、そういったものを総合して、実質的に雇用関係だ、こう認定できれば、おっしゃるような形態であっても、この先取特権の保護が及ぶということは十分あり得ると思っています。
2 2003年7月22日の参議院法務委員会の会議録から
(民主党)鈴木寛参院議員の質問「最近のいわゆるリストラクチャリングといいますか、経営革新の手法の一つといたしまして、例えば課長さんとか部長さんとかいった管理職、総務をやったり営業部長さんをやったり経理部長さんをやったりという方を、いったんこれ、社員ではなくて独立をさせまして、形式上、そして会社を作っていただいて、そして、その会社の経理部門を元の経理部長さんが新しく作った会社にアウトソーシングをするとか、あるいは元の営業部長さんが作った会社に営業委託をするとか、こういったことが、経営学ではこれ、アウトソーシングという言い方で割とポジティブに、もちろんポジティブな面もないわけではないわけでありますけれども、非常に盛んに行われ始めております。例えば、これは仕事の実態からいたしますと、正に経理部長に引き続き経理部長の仕事をしてもらう、経理課長に引き続き経理課長の仕事をしてもらう……ということで、仕事の内容あるいは指揮命令系統、もちろんリスクの負担とか若干違ってくるかもしれませんが、こういうケースがございます。例えばこういう場合は、新しく改正されるところのこの雇用関係に該当するのでしょうか」
(政府側の答弁)「御指摘のような場合ですと、形式的には契約の当事者は法人、新たに設立された会社ということになります。ただ、御指摘のような、実質的には、その会社の主体である人が、個人が労務提供している、指揮命令系統も従来と変わらない、いわゆる雇用関係と同じような指揮命令がなされている、あるいはその報酬の対価の定め方も労務提供の場合と基本的に変わらないと、そういうような事情があれば、これはあくまでも、法形式ではなくて、その実態に即して雇用関係にもとづく債権という設定がなされ得ると考えております」
(日本共産党)井上哲士参院議員の質問「たとえば、グループや家族などで法人格を取得して経営して、みんなで就労している工務店などよくあるわけですね。おとうさんが社長でおかあさんが専務とか、実際には家族みんなで現場に行っていると。こういう場合についての判断というのはいかがでしょうか」
(政府側の答弁)「実態が個人がそれぞれの労務を提供しているという場合と異ならないということであれば、その実質に着目をしてこの先取特権の保護が及ぶということだと思っております」
(社民党)福島瑞穂参院議員の質問「正規雇用労働者だけでなく、労働組合法上の労働者にまで労働債権の保護の範囲を広げ、請負的就労、派遣、委託労働、下請労働者等の非正規不安定雇用労働者の未払い賃金などの労働債権にも先取特権を与えるべきではないでしょうか」
(政府側の答弁)「ただいま御指摘のようないわゆる正規の社員でない者であっても、また契約形態が請負とか委任であってもその実質が雇用関係であれば今回の先取特権の保護の範囲に含まれるということになります」
◎ 労災保険事業主特別加入 通勤災害 家族労働者の「労働者性」
「労災保険事業主特別加入と通勤災害」、「家族労働者の労働者性」について質問を受けました。調べてみました。
1 労災保険事業主特別加入と通勤災害
『改訂新版 労災保険制度の詳解』(編者 厚生労働省労働基準局労災補償部労災管理課 発行 株式会社労務行政)に明確に「(事業主)特別加入者が業務災害を被った場合は、保険給付として療養補償給付、休業補償給付、傷害補償給付、遺族補償給付、葬祭料及び傷病補償年金を、また、通勤災害を被った場合は、療養給付、休業給付、障害給付、遺族給付、葬祭給付及び傷病年金を本来の労働者と全く同様に受けることができる」と書かれています。
2 労災保険一人親方特別加入と通勤災害
上記の『改訂新版 労災保険制度の詳解』に「(一人親方)特別加入者は、一般の労働者と同様に業務災害及び通勤災害に関する保険給付(通勤の実態のない特定の特別加入者は、業務災害に関する保険給付のみ)を受けることができる」と書かれています。
3 家族労働者の労働者性
上記の『改訂新版 労災保険制度の詳解』には、「家族労働者であっても、同居の親族ではなく、事業主と使用従属関係にあり賃金を受けている場合や、重役といっても名目だけで、重役報酬ではなく賃金を受けて労働している場合などは、労働基準法上の労働者と解釈される」と書かれています。
上記を読むと、「同居の親族」の場合は労働者性を弱める要素となるわけですが、労基研報告によれば、あくまでもいろいろな要素、状況、実態を総合的に判断して労働者かどうかを決めるということですから、あきらめないで頑張ることです。
たとえば労基研報告の中には、「ある者が手間請けの他に事業主としての請負業務を他の日に行っていることは、手間請けを行っている日の労働者性の判断に何ら影響を及ぼすものではないため、手間請けを行っている日の労働者性の判断は、これとは独立に行うべきものである」と述べている箇所があります。
この部分を素直に読むと、「同居の親族」であっても、労災事故にあった現場ではまさに「労働者」の実態にあった場合には、労働者と判断するということだと思います。泣き寝入りすることなく、たたかうことです。
◎ 再び法人の労働者性の可能性を明らかにした04/4/1参院法務委員会政府答弁
2003年6月6日の衆議院法務委員会、2003年6月13日の衆議院法務委員会、2003年7月22日の参議院法務委員会、2004年4月1日の参議院法務委員会の、各法務委員会での政府答弁「法人など形の上では業者であっても、実態によっては労働者として認めることはあり得る」のうち、当HPではまだ紹介していないと思われる2004年4月1日の参議院法務委員会での政府答弁を、以下に紹介しておきます。
各法務委員会での政府答弁は、事前に建設労組として各野党議員の先生に資料等を提供しながらお願いし、それらに基づいて各野党議員の先生が追及して、政府から引き出したものです。
「構造改革」の悪影響で、建設現場で多発し、増加傾向にある倒産・不払い事件。
不払い被害で泣き寝入りを余儀なくされないために、活用されることを、望みます。
(以下は、2004年4月1日参議院法務委員会の国会会議録からの抜粋です)
○ 井上哲士(日本共産党)
労働債権の保護が拡大をしていくわけですが、じゃ、どれが労働債権になるかという問題があります。
先ほども議論がありましたし、民法の一部改正のときにも随分細かく議論をいたしましたので繰り返す気はないんですが、民法で言う使用人と同じなんだという先ほどの御答弁もありました。いわゆる手間請労働などの中には、例えば屋号でやっているけれども実際には労務提供の場合、それから法人を名乗っているけれども実際にはもう家族みんなで労務提供をしているとか、こういう場合もこういう労働債権になり得るんだなということで前回もお聞きしたわけですが、そういうことで確認してよろしいわけですね。
○ 政府参考人(房村精一)
使用人、あるいは破産法で給与債権として保護されるかどうかという点でございますが、これは御指摘のように、法的な契約形態ではなくて実態に着目して判断をするということになりますので、実態がそうであれば入るということでございます。
◎ 「事業主」の労働者性とグループ手間請 「労基研報告」との関係で
1 形式上「事業主」の労働者性に関する質問
「A社に専属で15年、手間請として働いている。形式上、商号を持ち、『従業員』1人を使っているが、実態は、『事業主』の自分も『従業員』と同様に、工事現場での施工に従事してきた。アスベスト労災の関係で、形式上『事業主』の自分は労働者として認められないのか? 認められる可能性は?」という趣旨の質問を受けました。
衆参法務委員会の質疑の中では、「個人業者あるいは法人の場合であっても、実態によっては労働者として認められることは、十分あり得る」という趣旨の政府答弁が行なわれていますし、また、実例として、2例、朝日ハウス産業破産事件とT社民事再生事件のとき、「従業員」1〜2人の「事業主」について労働者として破産管財人の弁護士等に認めさせ、賃金支払確保法の適用を実現した事例を、建設労働運動は持っています。
手間請の労働者性の判断基準である「労基研報告」(1996年)に注目すると、この労基研報告には、次のように書かれています。
2 「労基研報告」との関係では
「手間請従事者の労働者性が認められる場合には、原則的には、手間請従事者又はそのグループと直接契約を締結した工務店、専門工事業者、一次業者等が使用者になるものと考えられるが、グループで仕事を請けている場合には、グループの世話役等が使用者になる場合も考えられる。したがって、グループによる手間請の場合においては、グループの世話役と構成員の間及び工務店、専門工事業者、一次業者等とグループの構成員の間の使用従属関係の有無等を検討し、グループの世話役が、労働者のグループの単なる代表者であるのか、グループの構成員を使用する者であるのかを、その実態に即して判断する必要がある」
今回の質問に即して言えば、形式上「事業主」を労働者として認めさせるためには、労基研報告の上記の部分(グループ手間請の箇所)の活用の方向が、一つ、あると思います。
専属の手間請で「事業主」1人、「従業員」1人ということですから、この状況をグループ(2人)手間請と捉え、この2人の関係に着目することです。2人の関係が真に事業主と労働者の関係なのか、そうではなく基本的に平等な労働者2人でのグループ形成であるのか、把握することです。もちろん労基研報告が言うように「グループの世話役と構成員の間及び工務店、専門工事業者、一次業者等とグループの構成員の間の使用従属関係の有無等の検討」が必要です。
◎ ――― 材料の購入・管理・使用と「労働者性」 ―――
1 はじめに
大手企業との交渉で材料持ちの一人親方を労働者として認めることを要求することは、法律に反する違法行為を企業に要求することになるのではないかとの疑問、質問が出されています。
その関係で、疑問、質問に答えたいと考えます。
2 『労基研報告』では
労働基準法上の労働者かどうかの判断基準(法律上根拠のある判断基準)を明らかにしている『労基研報告』(労働基準法研究会労働契約等法制部会労働者性検討専門部会報告 平成8年3月)には「電動の手持ち工具程度の器具を所有していることや、釘材等の軽微な材料費を負担していることは、労働者性を弱める要素とはならない」と記述されています。
要するに、「軽微な材料費を負担していることは、労働者性を弱める要素とはならない」ということです。材料費を負担しているからといって必ずしも労働者ではないということにはならないわけです。
3 新興産業破産事件での東京労働局の判断
東京労働局は、「(塗装施工に係る塗料を、新興産業が施工員に支給していなかったのは)新興産業は、塗料の相当の費用を要する管理責任を回避して経費を節減するために、塗料を塗装施工員に負担させていた事情によるものであった」として塗料を購入・管理・使用していた(新興産業)塗装施工員を労働者として認めました。
4 新興産業破産事件での立川労基署の判断
新興産業破産事件での、立川労基署(東京)による材料持ち施工員の賃金の認め方、査定の仕方は、(新興産業の材料持ち施工員を労働者として認めた上で)工賃の内訳を賃金80%、材料代20%と査定して、賃金の部分(工賃の80%)に賃金支払確保法を適用し、国の賃金立替払いを実施するというものでした。
5 朝日ハウス産業破産事件での破産管財人の判断
朝日ハウス産業破産事件では、破産管財人(弁護士)が「賃確法による『国の賃金立替払制度』は本来、従業員の賃金を対象としており、下請職人の請負代金は対象にしていない。しかし、破産会社の従業員と同視できるような職人については、手間賃の部分のみ、労働の対価であるとして立替払いが認められる可能性がある」ことを認め、(請負代金から材料代金等を引いた金額)を計算し、これを賃金として認め、賃確法適用手続きをおこなうに至りました。そして、賃確法が適用されました。
6 終りに
上記をまとめれば、大手企業との交渉で材料持ちの一人親方を労働者として認めることを要求することは、法律に反する違法行為を企業に要求することには全くならないことが、お分かりいただけると思います。
今後の方向としては、下級審判決の動向と言われている「元請・下請の関係というだけで言わば自動的に労働者性を認める」を、法律、ルールとする方向が一つあると思います。
もう一つは、工事代金の中の労務費については法律で労働債権として認めることが、追求の方向としてあると思います。
単純明快に、「建設現場で働いていれば、自動的に労働者として認める」、この方向の追求が決定的に大事だと思います。
◎ 「国による未払賃金の立替払制度」での労働者健康福祉機構の対応
1 労働者健康福祉機構の対応
民事再生事件で、いわゆる「業者」(形の上では「業者」だが実態は労働者)が不払い被害を受けました。形式は「業者」であっても実態は労働者だと、労働債権と認めて保護することを求めて運動。再生会社の代理人弁護士が、「労働債権に準ずる債権」として位置付け、賃金支払確保法適用(「国による未払賃金の立替払制度」適用)の申請を労働者健康福祉機構に行ないました。
弁護士が「準労働債権」として認めて、賃金支払確保法の適用を労働者健康福祉機構に申請したのは、一定の前進でした。
従来の事例(リモテックス破産事件)では「機構側がどうこうするということではなく、基本的に申請を尊重する」というのが、機構側の見解です。
従来どおり「申請の尊重」を通じての不払い被害者の「救済」が、課題です。
2 機構のHPによると
○ 立替払を受けることができる人(以下は、機構のHPからの抜粋です)
「立替払を受けることができる人」は、次に掲げる要件に該当する人です。
@ 労災保険の適用事業で1年以上にわたって事業活動を行ってきた企業(法人、個人を問いません)に、「労働者」として雇用されていたこと。
A 企業の倒産に伴い退職し、「未払賃金」があること。
「労働者」とは、倒産した企業に雇用され、労働の対償として賃金の支払を受けていた人をいいます。(外国人労働者、パートタイマー、アルバイトの方も対象となります)
本制度は、労働基準法にいう「労働者」を対象としていますので事業所の登記簿に「役員」として記載されている者は、原則として立替払を受けられません。ただし、名義上は「役員」とされていても、業務執行権がなく、業務の内容や報酬について一般の労働者と何ら変わらない実態にある者については「労働者」として認められる場合があります。
○ 立替払の支払い(以下は、機構のHPからの抜粋です)
労働者健康福祉機構は、提出された「未払賃金の立替払請求書」等の書類を審査し、請求の内容が法令の要件を満たしていることを確認したうえ、請求者が指定した金融機関を通じて立替払金を支払います。
○ 支払いまでどの位かかるか? (以下は、機構のHPからの抜粋です)
立替払金の支払については、請求書に記入漏れや記入誤りなどがなければ、 請求書を受け付けてから平均30日以内にお支払するように努めています。
立替払請求書を送付してから1か月半以上経過してもなお支払通知書が届かない場合には、お問い合わせください。
◎ ──────── 同居の親族の労働者性について ────────
1 同居の親族の労働者性の基準
同居の親族の労働者性を判断するばあいの、国の基準は、現在、次のようになっています。
同居の親族は、事業主と居住及び生計を一つにするものであり、原則として労働基準法上の労働者には該当しないが、同居の親族であっても、常時同居の親族以外の労働者を使用する事業で一般事務又は現場作業等に従事し、かつ、次の(1)及び(2)の条件を満たすものについては、一般に私生活面での相互協力関係とは別に独立した労働関係が成立しているとみられるので、労働基準法上の労働者として取り扱うものとする。
(1) 業務を行うにつき、事業主の指揮命令に従っていることが明確であること。
(2) 就労の実態がその事業場の他の労働者と同様であり、賃金もこれに応じて支払われていること。特に、@始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇等及びA賃金の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期等について、就業規則その他これに準ずるものに定めるところにより、その管理が他の労働者と同様になされていること。
2 別の接近
親子、夫婦のような場合を含めて、形は事業主であっても実態は労働者という方向から、「事業主」も同居の親族も両者とも労働者だという主張も、十分成立する可能性はあります。「法人の事業主であっても、実態によっては労働者と認められることは十分にあり得る」との国会答弁もおこなわれています。
◎ 「○○社」民事再生での「労働者性」の経過について
1 経過
○○月○○日、○○社が東京地裁に民事再生を申請。○○社のもとでユニットバスやキッチンの設置工事に従事していた形式上「業者」が不払い被害を受けました。
形式上「業者」について、実態は労働者であり、労働者として認め、賃金支払確保法(国による未払賃金の立替払)を適用することを求めて運動。
○○月○○日、○○社代理人弁護士が形式上「個人業者」の債権について「労働債権」に準ずる「準労働優先債権」として位置付け、労働者健康福祉機構に賃確法の適用を申請。
諸種の経過を経た後、○○月○○日、労働者健康福祉機構に申し入れを実施。
労働者健康福祉機構は、「賃金台帳に準ずる書類」、「○○社社長及び代理人弁護士連名の、賃確法適用申請を行なった従事者の『労働者性』を明らかにする文書」の2文書の提出を求めてきました。
2 「労働者性」の根拠
「労基研報告」には、「グループ手間請について、グループ内が平等であれば労働者として認めることはあり得る」という趣旨の記述があります。
衆参法務委員会での政府答弁が「法人といえども、実態によっては労働者として認められることは、十分にあり得る」としています。
新興産業(パットさいでりあ)倒産事件では、東京労働局の裁決が、材料持ちの一人親方を労働者として認めています。
朝日ハウス産業破産事件(本社 大阪)では、破産管財人が「従業員」2人までの「事業主」を、実態は労働者と同視できるとして、労働者として認めています。
○○社の従事者を「労基研報告」にもとづいて総合してとらえた場合、労働基準法第9条が言う労働者と判断すべきだと考えます。
@ ○○社従事者は、班として登録されていました。
A 「事業主」だけでなく、「従業員」も登録されていました。
B 従事者によっては、月に一度、班として集められて、会議に参加させられていました。
C 施工現場に入る時間については、ユニットバスやキッチンの現場への到着時間が決まっていて、それに間に合うよう義務付けられていました。
D 休日をとるときは、○○社の了解をとらなければなりませんでした。
E ○○社に毎日、完了報告書を出していました。
F ○○社の名前が入っている、またはメーカーの名前が入っているユニフォームの着用を指示されていました。また、メーカーの名前入りのヘルメットの着用を指示されていました。
G 工事を孫請けに請け負わせることは不可能でした。
H 工賃は従事者が任意に見積もった金額で請求したり、あるいは、従事者と○○社の交渉によって工事ごとに決まったりするのではなく、すべての工事について、メーカーと○○社の間で決められた1台(あたり)単価によって自動的に計算され、支給されていました。
I ○○社から材料を無償支給されていました。
J 従事者は○○社への専属または基本的に専属でした。
K 従事者は、○○社の取締役である「番頭」の指揮命令のもとで働いてきましたが、その「番頭」がいなくなったために、その「番頭」抜きで働くようになりました。
L ○○社からの具体的な仕事の依頼、業務に従事すべき旨の指示等に対して、従事者に諾否の自由はありませんでした。
M 施工マニュアルにより、作業の具体的内容が指示されていました。
N 工事を休む時、また、遅刻、早退のときは○○社へ事前に連絡することを義務づけられていました。
O 工事期間中の現場作業の休止や時間変更は不可能でした。
P 労働基準法第12条は、「出来高払い制その他の請負制によって定められた場合」の賃金を、労働基準法上の賃金として認めています。
◎ ─── 建設現場での法人の労働者性について ───
1 はじめに
建設業の場合、建設現場の実態として、法人になっていても、夫が社長で妻が専務で、実態は夫妻が一緒に労働者として働いている、労働者と同視できる、同様に法人になっていても、父子が一緒に労働者として現場施工に従事している、労働者と同視できる、というようなことが普通のこととして、存在しています。
以上のような実体を反映して、「法人」の労働者性の可能性を明らかにした国会答弁がおこなわれています。2003年6月13日の衆議院法務委員会、2003年7月22日の参議院法務委員会、そして2004年4月1日の参議院法務委員会での政府答弁がそれであり、民主党、共産党、社民党の野党議員の質問に答えて、「法人であっても、実体によっては労働者として認めることはあり得る」という趣旨の政府答弁が繰り返しおこなわれています。
2 例をあげると
たとえば、次のような例があります。
法人(有限会社)になっていて、夫のAさんが社長、妻のBさんが夫と一緒に現場施工に従事。
妻のBさんが、労災事故にあい、負傷。
建設現場は、
元請 ○○社
1次 △△社
その下にAさん、Bさんが施工に従事
という元請・下請構造であり、法人(有限会社)という形式になっていますが、実態は、AさんとBさんは、△△社の指揮監督下で作業に従事していた労働者です。
被災したBさんは、この現場の内装班の一員として、△△社の指揮監督下で作業に従事していました。同様に、夫のAさんもこの現場で、内装班の一員として、△△社の指揮監督下で作業に従事していました。
Aさん、Bさんの2人の、この現場での実態は、以下のような状況です。
○ 実態は、グループ(2人)による手間請であり、Aさんは、グループの単なる代表者です。
○ △△社の指揮監督下で、2人は労働していました。
○ 作業手順書により作業の具体的内容・方法等が指示されており、業務の遂行が△△社の具体的な指揮命令を受けて行われていました。
○ △△社の現場監督の「別の現場に行ってくれ」といった命令、依頼等により通常予定されている業務以外の業務に従事することがあり、その場合は「日給」でした。
○ 入場時に記名、刻時し、また退場時に記名、刻時していました。
○ △△社の専属の従事者です(約5年)。
○ 具体的な仕事の依頼、業務に従事すべき旨の指示等に対して諾否の自由はなく、△△社の現場監督の指示に従いました。
○ 本人が自らの判断によって補助者を使うことは認められておらず、△△社の現場監督の判断によりました。
○ 報酬は、同種の業務に従事する正規従業員と同じ位です。
○ AさんとBさんは、建物等目的物の不可抗力による滅失、毀損等に伴う損害や施工の遅延による損害について責任を負っていません。
形式上は法人(有限会社)であり、△△社から注文書が来て、Aさんが請書を出す、出来高(手間請)の契約という形式になっていますが、実態は、法人といっても、人を使っていないし、△△社の指揮監督下で、夫のAさんと妻のBさんの2人で労務提供している労働者です。
従って、労基研報告にもとづいて判断し、また国会での政府答弁を考慮すれば、Aさん、Bさんの2人は、労働基準法上の労働者と見るべきであり、元請労災の適用による補償が与えられるべきです。
前述のように、この問題での政府答弁でも「法人という法形式であっても、実体によっては労働者として認められることはあり得る」という趣旨の答弁がおこなわれています。
3 「法人」の労働者性の可能性を明らかにした国会答弁から
2003年6月13日の衆議院法務委員会、2003年7月22日の参議院法務委員会、そして2004年4月1日の参議院法務委員会での政府答弁「法人であっても、実態によっては労働者として認めることはあり得る」について、以下に、国会会議録そのものから抜粋しておきました。
(各法務委員会での政府答弁は、事前に全建総連として各野党議員の先生に資料等を提供しながらお願いし、それらに基づいて各野党議員の先生が追及して、政府から引き出したものです)
@ 2003年6月13日の衆議院法務委員会の会議録から
○ 保坂展人(社会民主党) なかなか力強くない答弁だったと思うんですね。保護を図っていくのかな、これは保護されないのかなって感じなんですね。
前回の局長の答弁で、契約の形式じゃなくて、実態として債務者に対して労務を提供して生活を営んでいる者であるかどうか、ここを見ていく、つまり形にこだわらないということであると思うんですね。そうすると、私の聞き方もちょっとまずかったかもしれないんですけれども、先ほど言ったグループ請だとか、あるいは家族数名、お父さんとお兄さんと自分とか、そういった家族工務店だとか、そういう形の、形態上はしかし外注費扱い、一応法人でもある、あるいは個人事業者として申告している、いろいろな形があると思うんですが、しかし、中身はこれは労務提供じゃないかと言える部分について、これは柔軟に見ていけるんでしょうか。そうだとすれば、保護されていくのかなというのが少し力強くなると思うんですが。
○ 房村政府参考人 その点は、前にも申し上げましたように、法形式ではない、要するに、実態としての、いわゆる雇用関係に当たるのかどうかということを主眼として判断をするという形になっておりますので、それは指揮命令のあり方であるとか報酬の払い方であるとか、そういったものを総合して、実質的に雇用関係だ、こう認定できれば、おっしゃるような形態であっても、この先取特権の保護が及ぶということは十分あり得ると思っています。
A 2003年7月22日の参議院法務委員会の会議録から
(民主党)鈴木寛参院議員の質問「最近のいわゆるリストラクチャリングといいますか、経営革新の手法の一つといたしまして、例えば課長さんとか部長さんとかいった管理職、総務をやったり営業部長さんをやったり経理部長さんをやったりという方を、いったんこれ、社員ではなくて独立をさせまして、形式上、そして会社を作っていただいて、そして、その会社の経理部門を元の経理部長さんが新しく作った会社にアウトソーシングをするとか、あるいは元の営業部長さんが作った会社に営業委託をするとか、こういったことが、経営学ではこれ、アウトソーシングという言い方で割とポジティブに、もちろんポジティブな面もないわけではないわけでありますけれども、非常に盛んに行われ始めております。例えば、これは仕事の実態からいたしますと、正に経理部長に引き続き経理部長の仕事をしてもらう、経理課長に引き続き経理課長の仕事をしてもらう……ということで、仕事の内容あるいは指揮命令系統、もちろんリスクの負担とか若干違ってくるかもしれませんが、こういうケースがございます。例えばこういう場合は、新しく改正されるところのこの雇用関係に該当するのでしょうか」
(政府側の答弁)「御指摘のような場合ですと、形式的には契約の当事者は法人、新たに設立された会社ということになります。ただ、御指摘のような、実質的には、その会社の主体である人が、個人が労務提供している、指揮命令系統も従来と変わらない、いわゆる雇用関係と同じような指揮命令がなされている、あるいはその報酬の対価の定め方も労務提供の場合と基本的に変わらないと、そういうような事情があれば、これはあくまでも、法形式ではなくて、その実態に即して雇用関係にもとづく債権という設定がなされ得ると考えております」
(日本共産党)井上哲士参院議員の質問「たとえば、グループや家族などで法人格を取得して経営して、みんなで就労している工務店などよくあるわけですね。おとうさんが社長でおかあさんが専務とか、実際には家族みんなで現場に行っていると。こういう場合についての判断というのはいかがでしょうか」
(政府側の答弁)「実態が個人がそれぞれの労務を提供しているという場合と異ならないということであれば、その実質に着目をしてこの先取特権の保護が及ぶということだと思っております」
(社民党)福島瑞穂参院議員の質問「正規雇用労働者だけでなく、労働組合法上の労働者にまで労働債権の保護の範囲を広げ、請負的就労、派遣、委託労働、下請労働者等の非正規不安定雇用労働者の未払い賃金などの労働債権にも先取特権を与えるべきではないでしょうか」
(政府側の答弁)「ただいま御指摘のようないわゆる正規の社員でない者であっても、また契約形態が請負とか委任であってもその実質が雇用関係であれば今回の先取特権の保護の範囲に含まれるということになります」
B 2004年4月1日の参議院法務委員会の会議録から
○ 井上哲士(日本共産党)
労働債権の保護が拡大をしていくわけですが、じゃ、どれが労働債権になるかという問題があります。
先ほども議論がありましたし、民法の一部改正のときにも随分細かく議論をいたしましたので繰り返す気はないんですが、民法で言う使用人と同じなんだという先ほどの御答弁もありました。いわゆる手間請労働などの中には、例えば屋号でやっているけれども実際には労務提供の場合、それから法人を名乗っているけれども実際にはもう家族みんなで労務提供をしているとか、こういう場合もこういう労働債権になり得るんだなということで前回もお聞きしたわけですが、そういうことで確認してよろしいわけですね。
○ 政府参考人(房村精一)
使用人、あるいは破産法で給与債権として保護されるかどうかという点でございますが、これは御指摘のように、法的な契約形態ではなくて実態に着目して判断をするということになりますので、実態がそうであれば入るということでございます。
4 労基研報告から
1996年3月「労働基準法研究会労働契約等法制部会労働者性検討専門部会報告」(略称・労基研報告)は、建設業での労働者かどうかの基準の「考え方」として、以下の諸点を示しています。
○ 建設業での「手間請」について「工事の種類、坪単価、工事面積等により総労働量及び総報酬の予定額が決められ、労務提供者に対して、労務提供の対価として、労務提供の実績に応じた割合で報酬を支払うという、建設業での労務提供方式」と定義。
○ 手間賃(日当)による日給月給制の場合は、労働者性の問題が生じるところではなく、一般に労働者と解することができる。
○ 呼び名ではなく、実際の役割に留意する必要がある。
○ 指揮監督下の労働かどうかが問題。
○ 「拘束性の有無」が問題。
○ 「代替性の有無」が問題。
○ 「報酬の額」が問題。
○ 発注書、仕様書等の交付という事実だけから判断するのではなく、これらの書面の内容が事業者性を推認するに足りるものであるか否かを検討する必要がある。
○ ある者が手間請の他に事業主としての請負業務を他の日に行っていることは、手間請を行っている日の労働者性の判断に何ら影響を及ぼすものではないため、手間請を行っている日の労働者性の判断は、これとは独立に行うべきものである。
○ 諸条件、諸事情を実態に即して総合的に考慮、判断して、労働者性の有無を明らかにする。
◎ 「一人親方の労働者性」とマスメディア ── 「善意」を信じて
2008年8月1日の『朝日新聞』に「一人親方、建設不況に泣く」の記事が載りました。その中に、「厚生労働省によると、一人親方でも、建設現場での事故なら、原則、工事を受注した企業の労災が適用になるという」と書かれています。ところが、記事のこの箇所に対して厚生労働省から朝日に訂正の申し入れがあったと言われており、朝日が訂正記事を載せました。
2008年8月8日の『朝日新聞』の訂正記事では、表現が「厚生労働省によると、一人親方は一般的に労働者とは認められず、工事を受注した企業の労災が適用にならないという」に逆転しています。
一人親方の労働者性については、厚生労働省自身の『労基研報告』が「全体的な諸事情を考慮して、実体によって判断する」としているし、また新興産業倒産事件の際、東京労働局は一人親方を労働者として認めているし、さらに衆参法務委員会での政府答弁が「実体によって判断する」としています。
今回の厚生労働省の見解とされる「一人親方は一般的に労働者と認められない」は、上述のような従来の見解、経過、ルールを踏みにじるものです。
建設労組では、いま、元請が住宅企業の現場で、ベニヤ板の下敷きになって重症を負った「一人親方」について、法形式上は法人(有限会社)の事業主だが、従業員はいない・決算書を作っていないなど法人としての実体はなく、本質的には、住宅企業の指揮監督下で住宅企業の社員と同様に働いていた労働者だと、労基署に認めてもらう運動をおこなっています。元請の住宅企業と交渉して、元請労災を使って労災適用を申請するところまで進むことができました。
労基署が、労働者性の実体を調査、把握して、労災適用を認める地点まで進むことが、求められています。そのために、本人、家族を含めて、たたかっています。建設現場で働いている人たちの労働災害や倒産・不払い被害について、労働者と認めて保護することで、泣き寝入りを余儀なくされる人たちを出さないことが、いま、本当に必要です。
なお、マスメディアが「一人親方の労働者性」に関心を示して、取材に来ました。2008/10/7放映予定とのことでしたが、延期となっています。
2008/10/7放映予定、延期→2008/10/16放映予定(マスメディアのHPに「特集・ひとり親方」2008/10/16放映予定、と載りました)、延期→2008/10/17放映予定、延期→? という経過になっていて、まさに「狐につままれた」感じです。
しかし、マスメディアに抗議するとか、放映を要求するとか、筋の悪いことはしないで、取材に来た人の善意を信じ、「延期になりましたが、必ず放映します」という約束を信じたい、そう思っています。
(追記)なお、その後、2008/10/27に放映することに決定した、との連絡が来ています。
(再追記)2008/10/27放映されました。感謝します。
◎ 厚生労働省からの作用で「一人親方の労働者性」関連記事訂正(補正版)
1 記事の訂正
2008/8/1『朝日新聞』に「一人親方、建設不況に泣く」の記事が載っています。
その中に、「厚生労働省によると、一人親方でも、建設現場での事故なら、原則、工事を受注した企業の労災が適用になるという」との記述が存在します。これは、建設現場の実体を反映した正しい考え方です。
伝えられてきた情報によると、この箇所に対して厚生労働省から朝日に訂正の申し入れがあり、朝日が訂正記事を載せた、と言われています。
図書館で『朝日新聞』を調べてみました。
ありました。2008/8/8『朝日新聞』に訂正記事が、載っていました。訂正のなかみは、「厚生労働省によると、一人親方でも、建設現場での事故なら、原則、工事を受注した企業の労災が適用になるという」から「厚生労働省によると、一人親方は一般的に労働者とは認められず、工事を受注した企業の労災が適用にならないという」への反動的改変です。
2 反動的改変
二つの意味で、極度に道理も理屈もない反動的改変です。
一つには、このような改変を申し入れた厚生労働省の対応の反動性です。
一人親方の労働者性については、厚生労働省自身の『労基研報告』が「全体的な諸事情を考慮して、実体によって判断する」としているし、また新興産業倒産事件の際、東京労働局は一人親方を労働者として認めているし、さらに衆参法務委員会での政府答弁が「実体によって判断する」としています。
今回の厚生労働省の見解とされる「一人親方は一般的に労働者と認められない」は、上述のような従来の見解、経過、ルールを踏みにじるものです。
もう一つは、朝日の対応です。
厚生労働省からの申し入れがあったからといって、上述のような一人親方の労働者性をめぐる諸議論、諸問題を考慮することなく、無批判に受け入れるのは、自主性の欠如、権力への迎合といわざるを得ません。
朝日は、訂正をただちに撤回して、その存在意義を示すべきです。
3 『朝日』読者も心配
2008/9/8『朝日新聞』掲載の「池上彰の新聞ななめ読み」の中に、池上彰氏が紹介していますが、上記の訂正記事の件で「記者が萎縮したり、表現が不明瞭になったりしなければいいなあと思いました」という読者からの心配のハガキが届いた、とのことです。
建設現場での労災事故への労災適用を狭める方向への、記事の反動的改変は、事故や不払い等で泣き寝入りを余儀なくされる現場従事者を増やす方向への改変であり、心配であると同時に許すべきではないと考えます。
◎ ──── 「一人親方」の労働者性 埼玉労働局の見解 ────
2008/11/6 「一人親方や一人親方的『事業主』を労働者として認め労災適用して下さい」という要望に対する埼玉労働局の見解を聞くことができました。
以下の通りです。
埼玉労働局「法人の事業主や一人親方であっても、最初から労働者ではないとしてはねつけるのではなく、労基研報告を基準として、あくまでも実体によって判断する」
◎ 第15回全国建設研究交流集会に参加 「労働者性」での前進のために
@ 一人親方や一人親方的事業主層の「労働者性」
建設現場では、重層化が進み、一人親方が増えています。労働災害や倒産・不払いの際、一人親方や一人親方的事業主を労働者として認めさせ、保護することが、ますます大事な課題になっています。
労働者性の判断基準としての厚生労働省「労基研報告」の存在とその使用、活用の活発化、法人事業主が実体によっては労働者であり得ることを示した「衆参法務委員会での政府答弁」「埼玉労働局見解」、また新興産業倒産事件の際、一人親方を労働者として認めた東京労働局見解、そして一人親方はもちろん従業員1人〜2人というような一人親方的事業主を労働者として認める事例の増加、最近のNHKテレビの「一人親方を労働者として認めて保護を」という趣旨の放映、等々、前進面が大きく存在し、拡大しています。
その反面、労災裁判での全建総連の最高裁判決での敗訴、東栄住宅裁判でのパワービルダーの元請責任を免罪し、一人親方層に労災保険料負担を転嫁しかねないような地裁判決など、後退の流れ、逆流も存在します。
しかし、この後退面をそれほど誇張する必要はないでしょう。
最高裁判決も、労基研報告を労働者性の判断基準と認めた上で、○○さんについては労働者ではないと判断したもので、○○さんに限定されるものであり、その一般化をはかるような風潮とは、たたかい、阻止することです。東栄住宅裁判もそうであり、東栄住宅のその範囲に限定されるものであり、通達によって一般化をはかるような誤謬を厚生労働省に犯させないたたかいが、必要です。
発注者は発注者であり、元請ではない、というような言い逃れ、「形式論理」の横行を許すことなく、発注者の場合、設計管理にとどまっていれば発注者だが、施工管理をおこなっていれば元請になるという、実体によって発注者か元請かを判断する立場を堅持していくことです。
A 重層下請構造の解消
韓国「建設業法」のように改正して、重層下請構造を解消することが、日本の建設産業にも必要だとする見解が広まっているようです。確かにプラス面が有力に存在します。
問題は、小規模な業者層、商人層を絶えず大量に生み出す「日本資本主義の構造」との整合性を、どのように導出するのか、ということにある、と感じています。
◎ 「一人親方の労働者性」についての研究者による「新しい方向付け」?
1 研究者による「新しい方向付け」?
研究者から、「一人親方の労働者性」についての「新しい方向付け」の話を聞きました。
その話の要旨は、以下のようなものです。
一人親方が増えている。外注化したほうが採算が取れるしリスク回避になる、そういう事業主側の判断がある。
一人親方の増加と重層化の深まりは、連動している。
建売業者としての東栄住宅を、東京地裁判決は、元請ではないとした。建売業者としてのパワービルダーは、建売住宅が完成するまでは(施工管理者がいるし指揮している)施工業者であり、完成後は建売住宅を売る不動産業者となる。それにもかかわらず、元請ではないとした判決が出た。
(一人親方的労働者を労働者ではないとした)佐藤労災最高裁判決が存在する。
一人親方は、請負と雇用の中間にある。
一人親方の位置付けについて、一人親方を労働者とみなすという韓国建設業法改正がおこなわれた。
一人親方の労働者性については、現行の法律、裁判では解決できない。新しい方向付けが必要だ。
(研究者による上記のような話に対して、「新しい概念で『一人親方の労働者性』問題を解決したい」とするものだとの評価も出されています──海野)
2 多少の心配
私見として、少し危うさを感じたのは、「一人親方の労働者性については、現行の法律、裁判では解決できない。新しい方向付けが必要だ」と断定している点です。
東栄住宅東京地裁判決、佐藤労災最高裁判決の二つの判決などを、その根拠にしているようですが、否定的状況だけを見て、「商号使用者48人を含めて約300人の一人親方的施工員を労働者として認めたリモテックス破産事件、材料持ちの一人親方を含めて一人親方的施工員約500人を労働者として認めた新興産業倒産事件、小規模な事業主層を労働者として認めた朝日ハウス産業破産事件、一人親方や個人事業主にとどまらず法人事業主の労働者性の可能性を明らかにした国会答弁、その国会答弁と同趣旨の埼玉労働局の回答、等々、一人親方の労働者性を認める方向での肯定的到達、建設労働運動の到達を、把握していないような危うさを感じます。ちょうちん持ちをするのではなく、建設労働運動からの、研究者への勇気を出しての助言が必要だと思います。
◎ 「工事代金」「一人親方を労働者として認める」 マスメディア 企業の対応
2008年10月27日、NHKのゆうどきネットが「一人親方の労働者性」問題を、またテレビ朝日のJチャン(小宮悦子さん)が井上工業破産事件の関連で全建総連の動き、考えを報道しました。
詳細は省きますが、NHKの番組は、建設労組の組合員の労災事故の関係で、「一人親方を労働者として認めて労災適用すべきだ」(同番組中での私の発言)という趣旨の放送をおこないました。
また、テレビ朝日の番組は、不払い被害が広がっている井上工業破産事件など多発する倒産・不払い事件との関連で「工事代金を賃金と認めて保護するよう法改正すべき」(同番組中での私の発言)との全建総連の主張を放送しました。
100年に一度と言われるような恐慌的状況下、マスメディアの目が建設労組の活動、考えに一定、向いてきているのでしょうか。
上記との関連で、第49回全建総連関東地協企業交渉での「一人親方の労働者性」、「元請責任での不払い解決」への企業の回答に注目してみました。
「一人親方であっても、元請労災で労基署に申請する。最終判断は労基署」という趣旨の回答をおこなった企業、また「不払い解決について二重払いであっても対応」という趣旨の回答を行った企業については、コンプライアンス、CSRの点で一定評価できると思います。
○ 「一人親方であっても、元請労災で労基署に申請する。最終判断は労基署」という趣旨、またはそれに近い趣旨の回答をおこなった企業
大林組、竹中工務店、長谷工コーポレーション、西松建設、五洋建設、奥村組、ピーエス三菱、鉄建建設、安藤建設、きんでん、大和ハウス工業、積水ハウス、積水化学工業、大東建託、ミサワホーム、パナホーム、三井ホーム
○ 「不払い解決について二重払いであっても対応」という趣旨の回答を行った企業
大林組、前田建設工業、西松建設、ピーエス三菱、鉄建建設、大和ハウス工業、ミサワホーム
追記:2008/11/13におこなわれた「企業交渉」で安藤建設は「最近の事例だが、現場で一人親方が被災した際、家族とも相談して、被災者が困らないように、一人親方の労働者性を考慮して、元請労災の適用を労基署に申請し、労働者として認められて、元請労災が適用された」と回答しています。
◎ ─── 出演契約の舞台俳優を労働者と認め労災を適用 ───
(「毎日新聞」「赤旗」「ZAKZAK」「産経ニュース」を参考にし、要点を以下に記述しました──海野)
○ 演劇の元マッスルミュージカル団員で映演労連フリーユニオンの女性組合員(舞台俳優)が、「テレビ番組収録中に左ひざのじん帯を断裂したのは労働災害」として労災申請していた問題で、東京都の中央労働基準監督署が労災と認定していたことが、2009/2/24わかった。
○ ショーの運営会社「デジタルナイン」とケガをした女性(舞台俳優)の契約は出演契約で、雇用契約ではなかった。「出演契約では(労働者ではなく)個人事業主と判断されることが多い」とのことです。
○ ケガをした女性(舞台俳優)は、(労働者性の判断基準を示している)労基研報告に基づき、実体は労働契約だと主張。
○ 労基署がケガをした女性(舞台俳優)を労働者と認めた理由は、
年間2000時間近い拘束時間。会社(事業主)の指揮命令がなければ舞台が成立しない。会社(事業主)の指揮監督下にある。実体は労働者。
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