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 [4]   北岳草 by S,Hayasi
「北岳草」山の名前がそのまま花の名前になった花は他に無いのではないだろうか?昭和6年清水基夫によって発見され、同9年中井・原博士によって命名された花である。
この花は世界中で此処南アルプスの「北岳」その標高3000メートルに位置するお花畑にだけ分布し、6月20日から30日の約10日間がその短い花の時期である。
この花を見るために何人もの人が梅雨真っ只中の天気を窺い、林道工事の間隙を狙って、雪の大樺沢を登りつめて行くのである。
 
6月22日(土)4時起床、雨は音を立てて降りしきっていた。
昨日見た麓の芦安村のピンポイント予報は「午前中晴れ、午後曇り」であった。
「雨が降っていたら温泉に入って戻るから」と言い残して、エンジンをかけ、雨の中央高速を西に向かう。笹子トンネルを過ぎると路面が乾いていた。甲府盆地に入る頃朝日がミラーに反射し眩しかった。わくわくする胸を押さえながら、甲府昭和から県道20号線に入り芦安村を目指す。7時から開門するはずの夜叉神峠に車は1台もいない。ゲートはすでに開いている。微かな不安を覚えながら南アルプス林道を登山口のある広河原へ向かう。案の定駐車場は既にほぼ満車。ようやく見つけた路肩に車をとめる。聞けばあまりの車の多さに7時開門の予定を6時に変更したとの事。
 
7時45分身支度を整えて出発。これから登る大樺沢の雪渓上部の八本歯のコルバットレスも朝日を浴びて輝いていた。
沢も尾根も岸壁も「北岳草がきれいに咲いているよ、早く、早く」と言っている様だった。
大樺沢の左岸の潅木帯を登る。この辺りは「クリンソウ」「オドリコソウ」「サンカヨウ」「ミヤマハナシノブ」「エンレイソウ」など初夏の高山植物があちこちで迎えてくれる。
11時45分二股に到着。味噌汁を沸かしおにぎりと漬物で昼食をとる。今日はこれからが登り本番、「ビール」は我慢である。
 
アイゼンを付け、12時15分出発。これから登る大樺沢上部の雪渓の傾斜を見て、一瞬「草すべり」にコースを変更しようかと迷う。しかし歩き始めてみると、雪面はかなり緩んでおり踏み跡もしっかりしている。これなら上の傾斜のきつくなった所を注意していけばなんとか歩けそうである。これから約2時間雪と枯れ枝と石ころを見ながらの単調できついアルバイトが続く。夏道のハシゴと鎖が連続する辺りで雪渓と別れる。
ハシゴを一段登るとバットレスの巨大な岸壁が目の前に圧倒的な迫力でドーンと立ちはだかる。今日はハーケンを打つハンマーの「カーン、カーン」という音が聞こえない。
 
2時30分八本歯のコルに到着。白い砂礫の甲斐駒鳳凰三山がその姿を見せてくれた。
「感激!!」の一瞬である。さらに山頂と北岳山荘の分岐まで岩尾根を登る。
ここから山荘までのトラバース道周辺のお花畑が「北岳草」の群生地の筈である。しばらく行くと人だかりがあちこちに見える。カメラを構えている人が多い。「北岳草」が咲いているに違いない。無意識のうちに足の運びが速くなる。
 
「北岳草」の白い可憐な花がまだ乾ききらない岩陰や枯れ枝の其処此処に、見事にその美しい清楚な花を咲かせていた。「丸みを帯びた柔らかな凹凸のある白い五枚の花びらに黄色と緑の混ざった雌しべ雄しべ」2年越しで会いに来た「北岳草」である。夢中でシャッターを切った。今度の登山の「クライマックス」である。心の中で何回も「やったー」と叫んでしまった。
 
もうひとつ白い花があちこちに咲き乱れている。「ハクサンイチゲ」である。
中にひとつ緑色をした花があり珍しいと思いながら写真を撮っていると、そばの女性が「緑のイチゲはここにしかない変種ですよ」と教えてくれた。思わぬ収穫であった。
 
4時過ぎに今夜の宿北岳山荘に到着。かなり混んではいたが思ったほどの混雑ではなかった。ビールを買ってストーブの椅子に座る。千葉県から来たご夫婦と缶ビールの缶を並べあった。三回目の挑戦でようやく花に会えたと喜んでおられた。
翌日4時起床、4時半の日の出を撮ろうとカメラを持って外に出るが、一面の雲海の向こうに富士山が浮かんでいるだけであった。
 
7時半出発、所々に顔を見せる「北岳草」を見ながらゆっくり登る。9時前に北岳山頂(3192M)に到着。山頂は霧がかかったり日が射したりの天候で富士山以外はすべて雲海の下であった。昨日登った大樺沢も、すぐ後ろにある仙丈甲斐駒も何も見えなかった。
肩の小屋で一休みして草すべりを大樺沢へ下りる。勾配はかなりきつい。
夏は色とりどりの花で、華やかなお花畑のコースだがまだ花は少ない。
 
「サンリンソウ」「ツマトリソウ」「ミネ桜」「サンカヨウ」など白系の地味な花が多く時々「ショウジョウバカマ」「アツモリソウ」などが登山者の目を慰めてくれていた。
二股で昼食をとる。昨日登った大樺沢八本歯のコルも厚いガスの中に隠れていた。
天候に恵まれた事を感謝しつつ、登山口のある広河原へ坂道をどんどん下った。広河原山荘でビールを購入「北岳草に会えた」ことにカンパーイ!!!大休止。
芦安村の温泉に入りさっぱりした気分で帰路に着く。
こうして2年越しの「北岳草登山」も無事に終了した。
「さあ、今度はどこへ行こう???」
 
 
コル〜峰と峰とを結ぶ尾根の一番低い所
バットレス〜壁
トラバース〜山腹や雪渓を横断する事
ハーケン〜岩や岸壁を登る時に使うロープなどを止めるための鉄くぎ
 
北岳草と、緑イチゲの写真を(会員のページ2)に載せてありますので、興味のある方はご覧下さい。
 
 
update:
2003/03/17



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