第2コラム


 1   神様の事情
更新日時:
H20年3月10日(月)
クマムシって知ってますか?
体調1ミリ以下。
8本脚でこけの上をはい回っています。
環境が悪くなると(乾燥、低温、餌がない等)カプセルを作って冬眠します。
そのカプセルはなんと零下200度でも、反対に沸騰するお湯の中でも、あるいはヒトの致死量の100倍の放射線等々にも耐え、少なくとも200年は冬眠できるそうです。
そんな凄いやつが毎日クロちゃんが散歩しているような道ばたの半分ひからびたコケの中にうじゃうじゃいるのです。
やはりこの星の上にうじゃうじゃいて自分を踏んづけて歩き回っている人間のことなどは全く知らずに。何億年も。少なくとも昨日まで。
 それは、昨日のことである。西暦2008年3月
9日、一匹のクマムシが人間の存在に気づいたのである。そう、初めて。顕微鏡の下で彼は偉大な存在に気づいた。
「誰かが私を見ている。誰?」
接眼レンズを覗き込みながら、わたしはつぶやいていた。
「私は神だ。絶対にエライ。わかったか。」
そう言ってスライドグラスのはじっこを竹串で突っついた。
 
 
 

 2   だいじょうぶ?
更新日時:
H19年9月30日(日)
ある日のクロのお散歩。
買い物帰りのお母さんが駆け寄ってくる。
見覚えのある顔。
これ、まずいシチュエーション。
「先生、今日シャンプーしてだいじょうぶよね?」
「、、調子はどうですか?」
「すっかりよくなっちゃったのよ。だいじょうぶでしょ?」
「それはよかった。いつから?」
「二日で。あのお薬よく効いたわよ。トリミングいいでしょ?」
「、、薬、もうないかな?」
「次使おうと思って、半分とってあるの。冷蔵庫に入れとけばもつでしょ?」
「、、次の予約はいつでしたっけ?」
「あら、ごめんなさーい。明日だったっけ。でもトリミング予約しちゃったから。大丈夫よね?」
「、、多分。じゃあ、また変わりがあったら連絡下さい。でも残った薬使うときは一言かけてくださいね」
満足そうに軽い足取りでフェイドアウトしていくお母さん。
取り残された私とクロちゃん。
思い当たる症例が、、、ない。
 
 
 
 
 

 3   千の風だけじゃない
更新日時:
H19年7月15日(日)
たまたま知人の紹介である有名な霊能者のMさんに視てもらうことになりました。
Mさん「何かお悩みのことがありますか?」
  私「ありません」
Mさん「あなた、幸せな方ですよ。たくさんの守護霊様いらっしゃる。私にははっきり見えますよ。」
  私「もしかしてその中にイヌがいませんか」
私の肩越しに後ろの方を見るような目をして
Mさん「え?イヌ?どんなイヌ?」
  私「黒い中型のイヌです。半年前に死んだんですが。」
Mさん「動物の霊がつくこともあるのよ。でもあなたには、、、。何か思い当たることがおありなの?」
  私「今でもすぐそばにいるような気がするんです。それに最近性格が明るくなったってよく言われます。クロちゃんのおかげかななんて」
Mさん「いちばん新しい守護霊様ならこの方かしら。でも、動物関係のお仕事なさってたみたい。男の方。ごく最近よ。わかるでしょ?」
  私「全くわかりませんが。」
Mさん「おかしいわね。あなたの大切な方なのよ。赤い糸で結ばれているもの。赤い太い糸よ。片方は彼の手に結ばれていて、、もう片方は、、あら、あなたの首に。」
’はなんだか急に怖くなって、盛んに首をひねっているMさんをしりめにそそくさと退散しました。
 
よーし、ハンバーガーを食べにゆくぞ。オニオンリングもつけてさ。
クリームシチューもいいねえ。いやっほー。
人生ってなんておいしいんでしょう!
 
 
 
 
 
 

 4   それぞれの早春−その1
更新日時:
H19年7月3日(火)
 春一番 松の枯れ枝 ぶっとばす
「季語は?枯れ枝?松?当然春一番?季節は?などと考えていると、頭が混乱してきます。その混乱こそ作者の作戦なのです。その混乱を通して、読み手の脳内に、大気の乱れや、ひいては、異常気象のイメージが誘導されるのです。秀作です。」
ふむふむ。などと、考えながら散歩していると、クロはクロで熱心に仕事中です。おっと、、、。
 つめたいな とりちがえたよ 他犬のふん
「これは一見、超感覚派の作品であるが、他犬と書いてイヌと読ませるテクニックは他人と書いてヒトと読ませるテクニックを連想させる。作者は新叙情派の影響も受けているのかもしれない。次作が楽しみである。」
先ほどから、道の脇の藪の中でワオワオやっていたネコの叫び声がギャーと言う頂点に達したかと思うと、目の前に突然黒猫が跳びだして来た。
 

 5   アオバ
更新日時:
H18年12月1日(金)
5月、クロの散歩の途中、公園の片隅であいつに出会った。
家に連れて行こうとしたが、思い直して名前だけ付けた。
季節にちなんで、“アオバ”。
美しかった。
それからずっと、アオバはここにいる。
地鳴りのようなセミの声に包まれていた8月、
アオバも元気いっぱいだったなあ。
今でも、毎朝、クロと一緒にここに会いに来るが、最近、めっきり弱ってきている。
もうすぐ、12月である。
公園の奥のツバキの木をかき分けていくと
アオバはいた。
木枯らしにふるえながら。
脈管系の機能が著しく低下しているのが分かる。
体内に老廃物をたっぷりため込んでしまったようだ。
「おい、アオバ。まっきっきいだよ。これじゃあ黄疸だぞ。点滴しなくちゃ。」
アオバは黙って私を見ている。
気がつくと、脚の部分に大きな傷がバックリと口をあけている。
「縫合しなくちゃ」
やはり、黙って私を見ている。
その上、体表には、無数の赤い斑点。
私が何か言おうとした瞬間、アオバは
さえぎるようにキッパリ言った。
ような気がした。
「それは美しくない」
傷口の先を残してアオバはいつの間にかいなくなった。
アオバの兄弟達も次々に空から降ってくる。
アオバの足跡のところにあった硬そうな芽と、今度の冬のその先のことを考えながら、私とクロは積もった落ち葉を踏みしめて歩いていく。
そう、アオバは一枚のサクラの葉っぱである。
美しい枯葉の絨毯。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 



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