ミケの子猫は、黒白をブブ、トースト色をチャチャと名付けられてスクスク育った。
ミケのまわりを離れ過ぎない程度に一人で歩き始め、
落ちている葉っぱや飛んできた羽虫や木の枝のスズメに興味津々で、
匂いを嗅いだり飛びつこうとしたりして遊ぶようになった。
ネコの人生の中で、たぶん一番活発で好奇心旺盛な時期に突入したわけ。
こんなちっさいカワイイ毛玉が庭をうろちょろしてるんだから、みんな夢中になるのは当然。
家族はもちろん、通りがかりの人まで。
大体の人は垣根ごしに声かけたり触ろうとする程度なんだけど、一組困ったカップルがいた。
それは、小学3年生くらいのカップルだった。
庭に無断で入ってくるのだ。
それも、家に誰もいない時を見計らって。
交代で門の外で見張りをし、交代で子猫と遊んでいたらしい。
私が学校から帰ってくると、「来た」と言ってふたりで逃げて行くのをよく見かけた。
ある日、家の前を気にしながら通るところを見つけたので、
「家の人がいない時に勝手に入って来ちゃダメでしょ?」
と言うと、
「いない時に入ったらダメなんですか?」
とかすっとぼけた事を言ってきた。
どうやら人がいる時はダメだけど、いなければいいと思ったらしい。
オイ、その考えは泥棒みたいだぞ・・・。
一応注意したし、大丈夫かと思ってあとはそのままにしておいた。
ある日、学校から帰ったら子猫がいなかった。
ミケも。
まだ子猫だけで庭から出るのは無理だ。
私はビックリして、あわてて家のまわりを捜した。
すると、どこからかミケも飛んで来て、わたしの足に何度も体をこすりつけた。
そしてじっと私の顔を見る。
これは、途方にくれている顔だ。
少し行ったところには以前ミケを抱っこして渡った大きな通りがある。
ミケのような大人のネコでさえ渡れない大きな道路だ。
私は胸がドキドキして、そこは絶対に渡っていないと信じた。
結局捜すしかないと思い、名前を呼びながら家のまわりを必死で歩いた。
ミケも私のあとについて歩いて、叫ぶような、いつもとは違う声で鳴いた。
時々私が立ち止まって名前を呼ぶと、ミケも止まってあたりを見回し、鳴いた。
結局、その日は見つからなかった。
この突然の出来事に、家族は皆ショックを受けた。
次の日、私が学校から帰るとミケの姿は庭にはなかった。
私もすぐに外へ飛び足し、また昨日と同じように捜し歩いた。
すると、途中からミケが合流してきた。
見ると、ミケは口にアジのひらきを丸々とくわえていた。
一体どこから盗んだのか、立派なアジのひらきだった。
狩りやゴミあさりが物凄く下手なネコなのに、
よくそんな大物を盗って来たと不謹慎にも感心してしまった。
ミケはそれをくわえながら何歩か歩くと、一旦足元に置き、鳴くのだ。
まるで、「ご馳走だよ!帰っておいで」と呼んでいるようだった。
ミケも、必死だったのだ。
そんなミケを見ると、もうかわいそうで仕方なかった。
結局その日も、子猫は見つからなかった。
もうダメじゃないかと言う気がした。
子猫だからご飯も探せないだろうし、車に轢かれているかもしれないし、
死んでいる可能性の方が考えやすかったのだ。
でも、捜さないではいられない。
その日も、学校から帰るとすぐに外へ出た。
「最近、子猫いないわね」
突然、お向かいのおばさんが声をかけてきた。
「・・・いなくなっちゃったんです」
私がそう答えると、おばさんは言った。
「あの、小学生たちじゃないの?」
どうやら、あの後も私たちがいない間、ずっと庭に遊びに来ていたようだった。
確かに、子猫がいなくなってからサッパリと姿を見せなくなった。
「あの子の名前覚えてるわ。名札の名前がうちと同じ苗字だったから」
天使の声だった。
私は名前を聞くと、すぐに104で電話番号を調べた。
小学校の学区内で該当する名前に片っ端からかけるつもりだった。
運のいいことに、3件目ほどでその子は見つかった。
私は、すぐに呼び出した。
その子は、いつも一緒の女の子を連れてきた。
絶対に何か知ってる、とその時確信した。
お向かいのおばさんもやってきて、
「あの日も来てたわよね?名前一緒だから間違えるはずないわ」
と念をおしてくれたので、「知らない」とは言わせなかった。
丁度兄上も学校から帰ってきたので、一緒に話を聞くことにした。
最初は誤魔化したりするかと思ったけど、おばさんの一言で知らん振りも出来ず、
意外にもスラスラ話し始めた。
話によると、小学校高学年のお兄さんたちが連れていったと言う。
「僕たちはやめなよって言ったんだよ」
「そう!何度も言ったの。でも連れてっちゃったの」
二人は声をそろえて言う。
兄上は、その高学年のお兄さんたちが歩いていったと言うルートを案内してもらった。
しばらくすると、首を傾げながら帰ってきた。
すごく細かく覚えていて、ここで襟首を捕まれたとか、こう言ったとか説明してくれたらしい。
そして、どうやら船着場からボートでどっかへ行ってしまったと言う。
・・・小学校高学年がボートで??
と思ったけど、その日はもう暗くなったので家に帰した。
親にその話をすると、激怒した。
口裏を合わせた嘘に決まってると。
兄上も「そう思う」と言った。
母親は、すぐにその子の家へ電話をした。
次の日また呼び出された小学生は、ようやく白状した。
やっぱり二人が子猫を連れて行ったと言う。
でも途中で子猫が暴れ、手を放してしまったのだ。
手を放してしまったと言うところを案内してもらうと、眩暈がした。
大通りの横にある駐車場だったのだ。
駐車場から出ていたら死んでる。
でも、念のため通りの向こうへ行って呼んでみた。
すると、突然ある親子が話しかけてきた。
「なにかお探しですか?」
「猫を探してるんです」
すると、その親子は答えた。
「最近よく見る子猫がいるんです。危ないから、うちで保護しようと私たちも捜してたんですよ」
と。
一気に希望の光が見えた。
その親子だけでなく、その周囲の家で餌を外に置いてあげていたという家もあった。
もしその子猫がブブかチャチャなら、そのご飯を食べて生きているかもしれない。
生きてると信じつつ、あるマンションの前で子猫名前を呼んだ。
すると、奥のコンクリートの下から何かがヒョコッと顔を出したのだ。
そして、すぐにもう一度ひっこんだ。
あれ?と思い、もう一度呼ぶと、もう一度何かが顔を出した。
そして、顔を出すと同時に飛び出てきた。
走って走って走って、私の腕の中へガシッと何かが飛びついてきた。
見ると、ブブだった。
「ブブだ!!」
もう、どんなに嬉しかったか!
ブブは、体をブルブル震わせて私にしがみついてきた。
見ると、首には先のちぎれたタコ糸が結び付けられていた。
タコ糸を引きちぎって逃げたのだろうか。
母親がそれを丁寧にほどくと、ブブを連れてさっきの親子のところへ報告し行った。
その親子はとても喜んでくれ、「そうそう、この子」と言った。
親子の家には既に猫がいて、お皿に用意したミルクを出してくれた。
ブブは震えながらも私の腕の中から首をのばし、ピチャピチャと少し飲むと、
「オワアオワア」と鳴きながらまたしがみついてきた。
私たちはお礼を言うと、家へ向かった。
ミケの待っている家へ。
その後も、小学生の告白通り別の場所でチャチャが見つかった。
そこは、工事の廃材置き場だった。
私は頭にきていたが、二匹無事だったので本当に安心した。
たぶんこれで死んでたなら、絶対に許すことは出来なかっただろう。
久しぶりに親子三匹そろった。
その夜、小学生とその親がお詫びに来た。
その親子に、いつもは大人しい兄上が言い放った。
「もう二度と家に来ないでください」
私はビックリした。
その時、子猫がいなくなって一番心配していたのは兄上だったんじゃないかと思った。
いつもは静かに子猫を見ているだけだけど、
本当は誰よりも怒り、心配していたのは兄上だったのかもしれない。
ミケはただ黙って、何度もブブとチャチャの体を舐めてやっていた。
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