10年間に書いた作品傾向について。
初期は社会批判、権力批判を元気にやっていたのだが、三四郎頃から少しずつ、社会と個人の関わりというものに視点を置くようになる。自分はこう生きたいのに、親兄弟、社会が許さない。それとどう生きようとするか、その葛藤みたいなものを「それから」「門」くらいまで、そんな世界を描くのですが、その次は、だんだんシビアな人間心理を描き始めるのです。
こんなん書いてたら胃が持たないのでは、と思わせますが、まあ次から次に男女の三角関係で、腹のさぐり合い、みたいな世界を書きますね。たぶん精神衰弱のせいだろう。「こころ」は文体がまだ柔らかくて、ずきずき心理を分析するような文体でない
ので、救われてます。一人の女性を二人の男性で奪い合う、というよくある話ですが−−−。まあ、あの小説はまじめすぎますね。今後はベストワンにはならないような気もする。まじめすぎる。楽しくないのに、まあ、明治の人は、よく新聞で毎日読んだもんだわい。
私の好きだった「道草」全然楽しくない小説なのに何ではまっていたのか自分でもわらない。漱石唯一の自伝的小説。文章が初期の「坊っちゃん」と全く変わりましたね。漱石は、この作品で自分を精算した感じになったのか、次の作、絶筆となる「明暗」にとりかかる。未完成品です。これが最初、夫婦の腹のさぐり合いのような文章が延々とくどくどと続いたような気がする。疲れる。しかし、なんか、その前の作品に比べて、なんか、違う展開になりそうな雰囲気もしてくる。そこで死去。
作品の題名が「明暗」。この題名にふさわしい結末があったような気もするのだが−−残念。さぐり合いのような暗いところから、なにか光が射すような結末になっていたような気がする。
私が漱石にはまったのは、まずは社会批判、権力批判の漱石の姿勢が好きだった
こと。「それから」などのもがく若者の精神構造が、当時の自分もよく理解できたこと。人間の深層心理にあるものをえぐりだそうとしたこと。そして、精神衰弱、胃弱、妻、養子問題など、いろんな課題をかかえながら、シビアな世界を嫌と言うほど追求し続けたその精神的強さに惹かれたこと。など
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