サスナルの部屋

 
王道?からパラレルまで色々のサスナルの
甘々イチャLOVEの話を取り揃えております(^_^)v
 
 

 [15]   ケジメの付け方
 
冬コミ新刊、【世界で一番 君が好き】のエピソードストーリです。
怒りのサスケ、本誌の続きとなっております。
 
 
 
サスケは後ろ手でドアを閉めるとズルズルと足元から崩れ落ちるようにそのまま床に蹲った。
怨んでも憎んでも飽き足らない5年振りに会った兄のイタチ。
出来ることならば一生、顔も姿も声もその噂さえも聞きたくはなかった。
が、今ばかりは感謝せねばなるまい。
イタチがアノ場所に偶然でも何でも居合わせなければナルトは今頃どうなっていたか…。
イタチに言われた辛辣な言葉の数々。
それは総て己の迂闊さゆえ、配慮の無さゆえにナルトを失うところだった。
イタチに何をどう言われようともそれは事実。
戻って来たナルトの変わり果てた姿と明らかに殴られたと判る顔。
それを見た瞬間、全身の血が凍り付き、頭の中が真っ白になり、奈落の底に突落された思いがした。
〔失う〕恐怖を再び思い出し、その恐怖に我を忘れた。
そしてイタチの顔を見た瞬間、ナルトのことよりも己の感情を優先してしまった。
何よりも愛しくて大切なナルトのことよりも!
ナルトがどんな思いをしたのか。
どんな思いであいつらから逃げていたか。
理不尽な暴力を受け、犯されそうになった時、ナルトはどれ程の思いをしたのか……!
寒さだけではない震えた身体で縋り付くように声も無く泣いたナルト。
どれ程怖かったことだろうか…。
どれ程辛かったことだろうか…。
誰よりも何よりも辛く怖い思いをしたのはナルト自身だ。
恐怖に打ち震える氷のように冷たい冷え切った小さな身体を抱締めることしか出来なかった無能な己。
己はナルトと己自身に誓ったのではないか。
ナルトを倖せにすると。
ナルトを誰にも傷付けさせはしないと!
それなのに ――――― !!
悔やんでも悔やんでも悔やみきれない己の迂闊さ。
ナルトを失ってしまったかもしれない恐怖。
腕の中に戻って来た温もりを確かめるようにサスケは這うようにベッドに行くとようやく眠った愛しくて仕方が無いナルトを見詰めた。
「ゴメン……。」
殴られて無残に腫上がった顔。
まだ恐怖に打ち震えているのか、それとも痛みの為か、険しい顔付きで眠っていた。
「ゴメン………。」
壊れ物を扱うかのようにそっと布団ごと抱締めた。
もう二度と、こんな目には遭わせないから!
もう二度と、お前を苦しめることはさせないから!
もう二度と、傷付けるようなことはしないから!
「ナルト………。」
何があってお前を護る!
それが己が生きている意味。
「ナルト………。」
愛している!
出逢う為に生まれてきた魂の半身。
「ナルト………。」
愛し愛される唯一絶対の者。
己の居場所。
「ゴメン………。」
お前を護る為に己が出来ること。
今はそれをすることが己の使命。
群の者達に己達はれっきとした夫婦なのだともう一度はっきりと公言する。
この森に住む者達に認められた正式な〔夫婦〕だと声高らかに宣言してくる。
それが己に出来る唯一のこと。
それがナルトを護る事につながる。
例えそれが群の者達を敵に回すことになっても!
 
 
 
 
 
雪が降る………。
今年初めての雪が今にも降り出しそうな銀色の雲に覆われた空と足元から這い上がってくる冷気。吹付ける風は冬の到来を告げる冷たさだった。
 
5年振りに群に戻る。
あの日、群から背を向けて出て行った時、もう二度とここには来るまい!と心に誓った。
『うちは』の銘(な)も〈力〉も今までここで生きてきた時間すらも捨てた。
捨てることに何一つとして躊躇いは無かった。
未練など爪の垢ほども全く無かった。
『うちは』の族長の息子として生まれ、一族の一人として誇りを持って生きることを当り前として生きてきた。
だが、族長である父親が死に、その後を追うように母は亡くなり、跡目争いのお家騒動に嫌気をさして出奔してしまった兄のイタチ。
大切な者達を短期間に一気に失い、群に一人きりになってしまった己。
群にいる間、残された厄介者としての己自身を卑下するのではなく、ずっと考えていた。
【この森を守護するうちは一族の狼】。
それを矜持することで狼としての面子とプライドを保つだけを生き甲斐としている小心で狡猾な者達。
群を出てそれがよく解った。
兄イタチが何故群を見限って出て行ったのか、今ならばその気持ちが解る。
ナルトと言う伴侶を見付け、共に生きることを選び、生きている己にとって本当に何が大切で何が必要なのか。
それが解っているからこそナルトを傷付けた行為、決して許してはならぬものなのだ。
サスケは煮え滾る怒りを胸に、群の入口となっている門をくぐった。
 
 
群は一つの集落となっている。
集会などが開かれる大きな広場を中心に放射線状に家々が立ち並んでいる。
その集会場に面した所に大きな酒場がある。普段は夜しか営業していないのだがこの時期、発情期に関しては別で相手を求める者達の為に24時間営業で開かれていた。
一歩、店内に入るとムッとした熱気が立ち込めていた。
時間は昼に近いが既に店内の半分程の席が埋まり、個人でお目当ての相手を口説く者、グループで嬌声を上げながらムードを高めて行く者など、一種異様な独特な雰囲気が取巻いていた。
サスケはゆっくりとした足取りで確かめるように店内を歩いた。
サスケが群を出た時はまだ〈子供〉ではあったがここがどう言う所くらいは知っていた。
昨日、ナルトを襲った奴等はここにいる。
そう目安をつけてやってきたのだ。
「ねェ………。」
サスケが店内を歩いていると女達が取巻いてきた。
媚びるような視線。
舐めるような視線。
《女》であることを最大限にアピールしようと露骨なまでにシナを作る者。
見掛けぬ容姿端麗な若い男がやってきたので色めきたって誘いに来たのだ。
酷く人工的な胸糞が悪くなるような甘いだけ異臭にサスケは微かに眉を寄せた。
ナルトの蜜のような甘い匂いに慣れてしまっているサスケにとって《女》が付けている香水は悪臭に近いものである。更に発情期独特のフェロモンを垂流しているのでその臭いは相乗してきつくなる。
誘っても露骨な秋波を送っても完全に無視する若い男の態度に焦れた一人の女が腕を絡ませ、豊かな胸の感触を押し付けてきた。
「 ―――――― ッ!」
これが普通の男ならばこのまま本能のままに赴くのだろうが生憎とサスケがここに来た目的はそれとは違う。
煩わしげにそれを振り払い、それでも懲りずに何人もの女達が媚びて誘う。
そんなイラだしさに無表情に近かったサスケの表情が険しくなり一瞥しようとした時、〔目的〕なモノを見付けた。
10名近いの男達が4,5人の女達を取り囲むように口説いていた。
サスケは真直ぐにそこのグループの元へ向った。
「あら…。」
一人の女が目敏くこちらに真直ぐに向って来る見掛けぬ若い男を見付けた。
目の前で口説いている男達を通り越して熱い誘惑的な秋波を送っているとその者は己の目の前に立った。
女が声を掛けようとした瞬間、熱心に己を口説いていた男が横に吹飛んだ。
そして悲鳴を上げる間も無くすぐ傍にいた男の頭が力任せにテーブルに叩き付けられ、その派手な音を店内に響かせた。
その音に驚いて悲鳴を上げる女達と突然の出来事に浮き足立つ男達を他所にサスケは沈めた男達の襟首を無造作に掴み上げると店の外へと向った。
吐き気が込上げてくるような異臭の中で、ほんの微かにナルトの匂いを見つけた。
本来ならば己以外の者には決して移ることのないナルトの匂い。
それを残り香のように漂わせている者達が己が捜し求めていた者達だった。
サスケは両手で引き摺って来た男達を広場の真ん中に来ると手放した。
何が何だか分からずいた男達もようやく殴られたショックから少し立ち直り、痛む箇所を手で押さえながらも顔を上げた。
そこに見たものは、怒りの殺気を全身に纏い、射貫くが如く見据えている紅蓮の双眸だった。
「ヒッ!」
視線で人が殺せるものならば既に殺されている怒りに満ち満ちた鋭い紅蓮の双眸に二人は身動きすら出来ずに腰を抜かした。
昨日、発情期真っ只中の持余す熱を発散しようと手篭めにしようとしたもの珍しい二股の尻尾を持つ狐の〈女房〉が報復に来たのだ。
当然と言えば当然の報いに二人は恐怖に慄いた。
あのオスの狐から発せられるオスの狼の匂いに惑わされて思わず手を出してしまったが、アレの所有者はこの男のモノなのだ。
他人のモノに手を出してしまった場合、それはどういうことになるのはこの森の掟によって決まっている。
怒り狂うサスケを前に二人はなす術も無く怯え、震えるしかなかった。
コレがどうゆうことなのか、解ってはいるんだろうな?」
地獄の底に吹き荒む凍える冷気を鋭い爪と牙に託し、情け容赦無い殺意を叩き付ける。
後悔先に立たず……。
心底ソレを思い知った。
確かにサスケの二股尻尾の仔狐の執着は結婚する前より半端ではなかった。
物珍しさにかまっているだけだと思っていれば、狼としてのプライドも、ましてや『うちは』の銘を捨て狐に嫁いだのだ。
このような前代未聞なこと、今までかつて無かったことだ。
 
逆を言えばそうまでして手に入れたかった二股尻尾の仔狐。その仔狐を己の欲望のままに喰い散らかそうとしていたのだ。サスケが怒るのも無理は無い。
写輪眼全開、紅蓮の双眸で修羅の如く怒れるサスケの前に二人は腰が抜けて動けなかった。
命乞いする言葉も哀願する眼差しも無情な程に一切無視して断罪を下そうとした刹那、それを止める鋭い声が飛んできた。
「 ―――――― ?!」
振上げた腕を寸での所で止め、声の方へ視線だけを向けた。
「テメェ! 一体ナニをしやがる!!」
狼は群れを作って生活をする動物。
〈狼〉と言う一つの大きな群の中に幾つもの小さなグループがあり誰しもこのどこかのグループに属する。
サスケに声をかけてきたのは二人が属するグループのリーダーのようだった。
「それはこっちのセリフだが?」
射貫くような鋭い視線を互いにぶつけながらサスケは憮然として言い放った。
「 ――――― ?」
取り巻きを引連れたグループのリーダーとしてはまだ年若いその男は見慣れぬ若い男に怪訝げに眉を寄せた。
「人の亭主に手を上げておいて、ダマンマりが出来るほど俺はか弱い女房じゃなくてな。
 その礼はきっちりと取ってもらおうと思っただけだ。」
「 ―――――― ?」
訳が分らん、と首を傾げているとその取巻きの一人がそっと耳打ちした。
「ああ? サスケ? 先代の息子で群を出て行った薬師のか?」
そう聞かされてようやく納得したように改めてサスケを見た。
噂には聞いている。
群を出て行った〈恥さらし者〉が恥の上塗りをするように狐の《嫁》になった、と。
それがこいつか……、と思いもう一度マジマジとサスケを見詰めた。
不快なそれにサスケは更に不機嫌な表情を露にするとそれを鼻先でせせら笑った。
「こいつらがお前の亭主に手を出したって? 本当かよ ――――― ?」
「 ―――――― ッ!」
「二股の仔狐、確かナルト…とか言ったよな? あいつがこいつらを誘ったんじゃないのか?」
「なっ?!」
「尻尾はともかく顔は可愛い顔をしているからなぁ。食うに困った時は薄暗闇で袖の下でも引いてたんじゃねェか?」
「 ――――――― !」
「あの容姿(顔)だ。気が向けば情けをかけてやらないことは無い。お前だけじゃ喰い足り」
言葉を言い終わる前に骨が砕ける嫌な音が響いた。
地獄の底から噴出すような怒りのオーラを全身にまとったサスケがその男の顎を握り砕いた。
何一つとしてナルトのことを知らぬ者にナルトを辱められることは決して赦せるものではなかった。
何一つとしてナルトのことを知ろうともせぬ者にナルトを貶められることを決して赦してならぬことだ。
声にならない悲鳴を上げ、地面を転げまわる男を一瞥することすらなくサスケは何時の間にか周りに集まってきた者達に怒り狂った視線を向けた。
頭の芯が焼切れる程の怒りに紅蓮の双眸が鮮やかに浮び上る。
「これだけは言っておくぞォ!」
サスケは唸るように吠えた。
「俺達は、俺とナルトはこの森で正式に認められた夫婦だ!
 夫婦である以上、ナルトに手を出すことは絶対に赦さね ――――― ェ!
 ナルトを侮辱することは貶めることは絶対に赦さね ―――――― ェ!
 森の掟がある以上、誰であろうがそれに従ってもらう!
 それがこの森に生きる者すべての掟のはずだ ―――――― ァ !!」
サスケの良く通る声が辺り一体に響き渡る。
サスケの迫力に怖気づく者。
サスケの態度に反発する者。
サスケの言葉に賛同する者。
それぞれに受止めながらサスケの吠える言葉を聞いていた。
「このたわけがァッ!」
サスケの吠える言葉を遮るかの如く少ししわがれた声が響いた。
その場にいた一同は弾かれたようにその声の方向へと振り向いた。
「この一族の恥さらしめがァ!」
サスケの紅蓮の双眸、写輪眼が更に深く激しく燃え上がり、これ以上無いほどに眦を跳ね上げその者を睨み付けた。
「貴様といいイタチといいフクガといい、本当にお前達は揃って一族の恥さらしだァ!」
「 ―――――― ッ!」
積年の怨み辛みを吐き出すかのように憎悪を叩きつけ、サスケを指差し憚る事無く罵る初老の狼はサスケの大叔父にあたり、先代族長のフクガと一族の族長争いをして負けたラコウである。
己のことや兄イタチのことならいざ知らず、父、フクガのことを一度ならずも二度までも悪く言うラコウにサスケは牙を剥き低く唸った。
「このうちは一族の、写輪眼を受継ぐ狼である貴様が狐と夫婦だと?
 何を寝惚けたことをいっておる!
 何をふざけたことをいっておる!
 腑抜けるのも大概にせい!
 狐ごときの色香に狂いよって!
 貴様のような狼の風上にも置けぬ者と同族だと思うと情けのぉて涙も出んわァ!
 フクガもこの様な出来損ないのガキを残すとは、ほとほと愚鈍な奴だ!」
「うっせェッ!
 俺のことはともかく、父様のことを悪く言うんじゃねェ!!」
今にも飛び掛らんばかりに激昂するサスケは思い出したくも無い過去を思い出していた。
族長のフクガがこの森を護る為の戦で死んだ。
サスケにとって誰よりも尊敬し、敬愛していた偉大なる父親の死でもあった。
この森を守護する狼として、戦士として、誰憚る事無く立派な男であった。
しかしこのラコウは父の葬式の最中、それも墓標の前で己が族長ならばこの様なことは決して無かったはずだと言わんばかりにほんの些細なことを罵詈雑言の如く吐き散らかしたのだ。
明らかな悪意と憎悪。
狡猾で卑劣な手腕。
幼かったサスケはなす術も無く呆然とするばかりで、哀しみの涙が流れるばかりで一言も言い返せず、泣き崩れるだけだった。
イタチはそれに心底嫌悪し、《うちは一族》と言う銘(な)と血の矮小さに愛想を尽かし一族をこの森を後にした。
「父様は誰よりも立派な狼だった! 誰よりも立派な族長だった!
 テメェのような陰で悪口しか言えねェ、戦場にも行けねェ、群れることしか出来ねェクソ野郎と一緒にするんじゃねェ!!」
大好きだった父様。
優しかった父様。
厳しかった父様。
己が大切にするモノを汚す者は絶対に赦せなかった。
「その立派な父親の息子が狐のガキに篭絡されて今ではその様か!
 立派なものだなァ!」
「 ――――――― ッ!」
愛する父親とナルトの事を汚され、サスケの堪忍袋の尾が音を立てて切れた。
 
刹那、サスケの姿が消えた。
「ブギャッ!」
次の瞬間、声の様な何か湿った物が潰れる様な妙な擬音がした。
「 ―――――――― ッ?!」
サスケはラコウの顔面を地面にのめり込まさん勢いで後頭部を鷲掴みにして地面に平伏せさせていた。
「テ、テメェッ!」
ラコウの取巻き達がその様子に血の気を失い、そして次の瞬間、怒り狂ったが如くにサスケに襲い掛かってきた。
狼達はこの時期、発情期の時期は非常に好戦的になる。
発情期を迎えても総ての者達にパートナーが出来るものではない。当然、パートナーが出来ない者達も出てくる。そういった者達は溢れる欲情を鬱積させ、その発散させん場所を常に求めているのだ。
そんな時、群れから抜けた異端児のサスケが数年振りに姿を見せた。
その用件など関係無い。
この燻る感情と欲情を発散出来れば何でもいいといわんばかりの大乱闘が始まった。
 
 
 
〔うちは〕一族。
狼の中でも特殊な地位と能力(ちから)を持つ。
《血系限界》の証、普段は漆黒の双眸だが感情の高まりと共に現れる紅蓮の双眸〔写輪眼〕を持つ者の称号である。
その称号を持つ者達は群れの中でもほんの一握り。
親や親族が〔うちは〕の銘(な)を持っていてもその血や能力を受け継ぐとは限らない。
だが、サスケの場合は〈血〉が濃い。
父親は先代の族長であり、母方の祖父は先々代の族長である。
サスケがその気にさえなれば時期族長にすらなれる血統と力量は持って生まれてきたのだ。
 
〈血〉の力を解放して戦うサスケの姿は正しく鬼神の如く、我先にと襲い掛かってくる者達を容赦無く片端から叩きのめしてゆく。
しかし〔うちは〕の銘を持たぬ者とて百戦錬磨の者達だ。
場数を踏んだ数ならば薬師であるサスケを上回る者達ばかり。
足りない経験値を能力でカバーしてもそれも限界はある。
多勢に無勢の情勢は確実にサスケからスタミナと体力と集中力を奪ってゆく。
 
「チッ!」
集団で戦う狼達のコンビネーションは確実に死角から襲ってくる。
左右から同時に襲って来た者達を気配で察し、反射的に交わしたがその一瞬に出来た隙を狙われて足を払われた。
バランスを崩したサスケの態勢を整えさせる時間など与えはしない。
好機とばかりにサスケに襲い掛かり、暴れる身体を力で捻じ伏せ、地面に押さえつけた。
「クソッ!」
両手を後ろ手に捻り上げられ、肩を地面に押さえ付けられている為に身動きが取れない。
それでもサスケは肩や腕が傷付くこともかまわず強引に押さえ付けている者達を振り払おうとした時、辺り一帯にこの騒ぎを一掃する声が轟いた。
「一体何の騒ぎだ ――――― ァ!」
突然の声に一同は弾かれた様にその場に凍り付いた。
「何事だ、一体!」
騒がしさに気が付き駆けつけた族長のヤマキが周りを見渡しながら吠えた。
今の時期の群れには常に小さなケンカやいざこざが絶えない。
だが、これは明らかに普段のそれとは違うことが雰囲気や規模で分った。
一体何なのだと睨み付けるスマキの視線の先に思いもかけぬ者の姿を捉えた。
「サスケ……?」
地面に捻じ伏せられ、数人がかりで捕らえられているサスケの姿に訝しげに眉を寄せた。
サスケは族長のスマキの突然の登場に驚いて僅かに力が緩んだ己を捕らえている腕を強引に振り払った。
「 ―――――― ッ!」
サスケは痺れる腕を摩りながら戦闘体制を決して崩さずに射抜くが如くの鋭い紅蓮の眼光でスマキを見据えた。
「一体、何があった?」
スマキは族長としてこの騒ぎの本人であろうサスケに訊ねた。
サスケは口元に付いた土と共に血の混じった唾を吐き捨てた。
「サスケ。」
答えを促すように静かにその名前を呼んだ。
スマキにとってサスケは甥に当たる。サスケの母親ミコトはスマキの一番上の姉である。
サスケは煮え繰り返る怒りを宥め賺しながら重い口を開いた。
「落とし前を付けにきた。」
「落とし前?」
「ああ。こいつらは…、ナルトを傷付けようとした!」
「なっ?」
「ナルトと俺は森の者達に認められたれっきとした夫婦だ。
 それなのに、だ!
 その落とし前を付けにきて何が悪い!」
牙を剥くサスケのもっともな言い分と理由にスマキは小さな溜息を吐いた。
狼と言えどもこの木ノ葉の森に生きる者達の一つだ。森の規律を破ることは決して赦されるものではない。
狼だから、この発情期の時期だからこそなおのことだ。
「すまなかった。」
スマキは素直に頭を下げた。
「狼の族長として部下のやった非礼と無礼は心から詫びる。
 本当に申し訳なかった。」
群れの者達は一様に驚き、どよめいた。
族長が群れを抜けた抜け者に頭を下げるなど前代未聞。
それはサスケに狼一同が額づいたことと同じになるのだ。
プライドの高い狼達はありえないそれに、あってはならないそれに憤怒の表情を露にした。
「まだ解らないのかァ!」
狼達の憤慨止まぬ様子にスマキは一喝した。
「森の掟を破ると言うことはこうゆうことだァ!
 たとえ狼であろうとも、狼だからこそ俺たちは決して掟を破ることは許されない!
 サスケは群れを抜けた狼と言えどもこの森の住人! そしてその番もこの森の住人!
 この森が認めた夫婦は絶対なものだ。それを傷付け、引き裂くことは絶対にあってはならなんだ!
 お前達はそれを解っているのかァ!」
「 ―――――― …。」
スマキの言葉に一同は言葉を失ったように押し黙った。
しかしそれでも言い訳をしようと口を開きかけた者をスマキは鋭い眼光で黙らせた。
族長である己に露程の反抗も抵抗も許さないと紛れも無い鮮やかな紅蓮の双眸に怒りを滾らせた。
「もう二度とお前達夫婦には手出しをしないと誓う。それで許してはくれないか?」
サスケは腹の底から込上げるモノを奥歯で噛殺し、それを再び腹の中へと押し込んだ。
サスケとてこの群れて生まれ育った狼だ。この群れを纏め上げる族長が他の者へ頭を下げると言うことはどうゆうことなのかは十二分に知っている。
それは狼にとって最大級の謝罪の仕方なのである。
ここまでされては怒りの拳を収めるしかない。
サスケは飲み込んだ怒りの代わりに大きな息を吐いた。そしてクルリと背中を向けた。
それはサスケが謝罪を受け容れたことを意味した。
「サスケ…。」
何も言わずにその場を立ち去ろうとするサスケの後姿にスマキは思わず声を掛けた。
「…………。」
だがサスケは一瞬だけ足を止め、一瞥しただけで群れから去っていった。
スマキは遠ざかるサスケの後姿にもう一人の数年前のサスケの後姿をダブらせていた。
 
 
「この群れを抜けて俺一人だけで生きて行く。」
姉のミコトによく似た顔立ち。
どんなことがあっても挫けることの無かった強い精神。
そう真っ直ぐな双眸で己を見据えて告げた別離の言葉。
 
両親を亡くし、兄イタチはこの群れと森を出て行った。
一人きりになったサスケは群れの薬師であるカグラに引取られ、そこで薬師としての知識を身につけた。
わずか数年で薬師の知識を習得するのは難しい。だが、サスケは寝る暇惜しんで薬草など薬師が必要とする知識や実績を積み、一人前の薬師と認められた。
一人前の薬師と認めたれた途端、サスケは群れを離れると族長であるスマキに言ってきた。
群れを抜けると言うことは一人きりで生きて行くと言うこと。
いくら薬師の知識があるからといって、まだ子供のサスケ一人きりで生きて行くには難しい。
狼は群れで暮らし、そして生きる動物だ。
他の動物達に比べて単体で生きることは想像以上に難しく、辛いことなのだ。
それでもサスケは固い決意と意志を持ってこの群れを抜けると言う。
ほんの僅かな身の回りの品物だけを持ってサスケはそう族長である己に告げると踵を返し、決して振り向く事無くこの群れを出て行った。
サスケを止めることは、出来なかった。
多分、サスケはこの群れに残るように説得しても必ず抜けるだろうし最悪、命を己の手で、仲間達の過剰な意識の為に落としてしまう可能性があった。
それだけはどんなことをしてでも避けたかったスマキはサスケの行動を黙認した。
それが己に出来る精一杯のことだった。
この森を護る為に死んだ先代の族長であるフクガ。そして大好きだった姉であるミコトへの何も出来なかった己のせめてもの謝罪と手向けだった。
だが、一人で群れを抜けたサスケのことが心配でなかったわけではない。
狼の族長でありながら、否、族長だからこそ何も出来ない己の非力さに歯噛みしたことは幾度もあったがサスケは一人で〔この森の薬師〕と言う位置を確保した。
そしてナルトと言う二股の尻尾を持つ狐の伴侶を得た。
遠めながら何度か二人の姿を見掛けたことがある。
倖せそうに寄り添う二人。
居場所を…、見付けたのか ―――――― …。
そう思った。
この群れの中では決して見付けることの出来なかった己の居場所をあの狐の傍に見付けたのだ。あの狐の傍にいることを選んだのだと思った。
それはもう二度と、群れに戻ることは出来ないこと表していた。
それでも、いいか………、と思った。
あの仔が倖せならば、あの仔自身が選び求めたのならば己がとやかく口出しする権利など何も無いのだ。
あの仔が選び求めた狐への想いは本物だ。揺ぎ無いモノだ。
生涯の伴侶として相応しい者だろう。
そう思っていた。
それが皮肉な原因ではあるがサスケ自身の口から、サスケの言葉で確かなるモノだと聞いた。
唯一絶対の真実を ―――――― …。
 
 
 
遠ざかるサスケの姿を瞼に焼き付けるように見送ると思いを断ち切るが如く一つ息を吐き、改めて群れの者達へと向き直った。
生きて行く場所はそれぞれ違う。
手を携える仲間達はそれぞれ違う。
だが、己が愛した者と共にいると言うことは変らない。
己はこの群れの中に……。
サスケは狐の隣に……。
そこが〔己〕の【居場所】!
「今後一切、何があろうがこの様な事は決して許さない! 
 万に一つ、この様な事があったならばこの俺が容赦無く断罪する!
 解ったな ―――――― ッ!」
凛とした族長スマキの吼える声がどこまでも響いた。
 
 
 
サスケは振り向く事無く真っ直ぐに家路に向った。
もう二度と群れへは戻らない ―――――― !
そう固く心に誓い、群れを出たあの時と同じ思いで…。
兄イタチのようにこの森を出てしまおうかと思った。だが、それを思い留まったのは己がこの森を出てしまったら父である先代族長フクガの功績を無にされてしまう恐れがあった。
何であれ、フクガの子の己が森に留まる限りそれらを闇に葬られることは無い。
小さい頃から己を可愛がってくれた族長のスマキならばその様なことはしないと解っているが、ラコウの様な大馬鹿者がいるのは確か。
その為にも己はこの森に留まった。
そして自力で、誰の力も借りずに己一人でこの森の〔薬師〕と言う地位を確保し、生活が出来るようになった。
それから数年、独りが淋しいとは思わない日々を送っている最中、一人の仔狐に出逢い、運命的な恋に落ちた………。
《子供》故に手出しが出来ず、月日が流れ行くのをただ待つしかなった日々はもう過去のこと。
今では生涯の伴侶となり、互いに手を取り合い生きている……。
ナルトと二人で、この森で生きて行こうと誓った…。
何があっても、どんなことがあっても、二人ならば生きて行ける。
何があっても、どんなことがあっても、二人で生きて行く。
己の迂闊さでもう二度とナルトを傷付けさせやしない。
ナルトは《オス》の【狐】。
それは解っている。
《オス》のプライド。【狐】のプライド。
それは狼のそれと何ら変わりない。
それを十二分に承知した上で不用意なことで傷付けることは絶対にさせない!
今回のようなことはもう二度と絶対に ――――――― !
己の心と想いと魂に刻み付け、己の生涯の伴侶と決めたナルトの待つ家へ向うのだった。
 
 
 
 
 
見慣れた我が家が見えてくると自然と足が速まった。
時間はもうそろそろ昼になろうとしている。
ナルトも目覚めて起きているだろう…。
あのバカ兄貴と二人きりにするのは非常に不本意だがあの状態のナルト一人で残しておくわけにもゆかない。
気休めでもバカ兄貴はナルトに手を出さないと約束してくれた。それを信じるしかない自分自身が不甲斐無いと思うがこの場合は致し方ない。
ナルトの怪我の具合も心配だが何よりもメンタルなことが心配である。
昨日の今日では発情期の狼達に乱暴されかけた恐怖は忘れようとしても忘れられるものではない。
狼達への群れの者達へのケジメは付けてきた。
これでもう二度とナルトへ手を出そうとはしないだろうしそんなことは己が二度とさせはしない!
ナルトは己が守る!
ナルトの笑顔を。ナルトの未来を。
己の命を懸けて。己の生涯をかけて。
ナルトの総てを ―――――― !
サスケはドアの前に来ると大きく深呼吸した。
ここは己とナルトの愛の棲家。
ナルトと共に愛を育んでゆく場所。
ナルトと共に生涯を生きてゆく場所。
己とナルトがいるべき場所。
「ナルト、大丈夫か?」
ドアを開け、部屋に入って行くとナルトが駆け寄ってきた。
愛らしい顔立ちの左半分は無残に腫上がり、それを隠すようにガーゼに覆われ、右側も口元の辺りが少し赤紫に腫れているが想像以上に元気な様子に安堵した。
抱締めたい想いを泥だらけの己の姿を思い出し、グッと我慢した。
ナルトの《嫁》として筋は通してきた。
そして己にはもう一つ、やるべきことが残っているのだ。
それはバカ兄、イタチをここから追い出すこと!
ここは己とナルトの愛を育み、営む場所なのだから!
 
 
 
 
ナルトがココもイタチの《居場所》だと示したことによって、イタチが二人の愛の棲家に頻繁に出入りするのはまた別の話 ――――――― …、である。
 
 
 
 
 
 
お粗末さまでした(T_T)
 
 
 
 
 
 
ゴメンナサイ!
半年以上かけてこの体たらく(>_<)
時間を掛け過ぎ、話の趣旨がズレまくり、散々な話になってしまいました!
気長に付き合って頂いた皆様、本当に申し訳ありません!
もう一度、修業しなおしてきます!
本当に、御免なさい(ToT)
 
 



おたまのナルト 【気まぐれから始まる恋もある】 Strawberry kiss 初デートの攻防戦
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